艦CORE 黒い鳥は海を舞う   作:紅月黒羽

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第7話 自分の想い

「昔話……ですか?」

 

 山城は首をかしげながら不思議そうな顔で俺のほうを見つめてくる。

 俺はそれを頷きで返し、話を続ける。

 

「あぁ。と言ってもよくあるようなメルヘンチックなもんじゃない。誰が作ったか分からない、酷い話さ」

 

 この話を山城に言ったところで何になる、と訊かれれば明確な回答はできないだろう。そもそもこの話は俺が傭兵のときの記憶で、伝えたところで理解できるかどうかも怪しい。それに、俺は完全にあの世界で死んだ。最期まで戦い続け自分の望み通りに死んだ。だから俺はもうあの世界とは関係のない人間だ。

 だが俺は今の山城と、あるヤツを重ねて見てしまっていた。類い稀な才能を持っていながらも姉御肌のロザリィにいつも従っていたアイツと。

 

 

 

 

 

 

 酷く荒れ果てた世界があった。弱者は強者に狩られ、強さだけが存在する世界。そんな世界に、抗う者たち(レジスタンス)がいた。とても小さく、息をひそめて生きていけばいいのに、それを良しとしなかった愚かな集団。

 その中に一つの部隊があった。

 リーダーとしては若すぎる歳でありながらも、指導者として自分がどうすればいいか考え抜いた少女。そんな彼女を最後まで支えた壮年の男。自分勝手な所はあるが、仕事に関しては報酬さえ見合えばきっちり働き、どこか憎めないユーモアを持ち合わせている商人の女性。いつも自分に自信が持てずオドオドしながら商人の陰にいた青年。そして何の因果か、一度は別の依頼で敵対したが今度はレジスタンスに雇われた傭兵。

 彼らはずっと待っていた。いつかきっと自分たちが強者に反撃をする機会が来ると。暗い巣穴の中でじっと堪えながら。

 

 そしてそれはついに来た。この先これ以上のチャンスがあるか分からないほどの機会が。

 彼らは持てる全てをもって作戦に臨んだ。僅かな戦力しかない自分たちでも勝てるという希望を抱きながら。しかし、力という絶望はそこまで甘くなかった。

 一度は惜しいところまで追いつめた彼らだったが、予想外の事態により一転。一気に窮地に立たされた。傭兵を輸送中だった青年は連絡が取れなくなり、他の部隊を引き連れ敵地に突入した壮年の男は敵の攻撃に巻き込まれて死んでしまった。

 混乱が収まらない中するべきことは分かっていた。生き延びること。それだけはレジスタンスの誰もが理解していることだった。

 追手の追撃は激しく逃げ切るのは困難だった。仲間が逃げる時間を稼ぎながら次々へと移動しなくてはならなく傭兵には相当な負担がかかっていたはずである。しかし傭兵はそれを苦でもないように全てを焼き尽くしていく。それは仲間たちから見ても恐怖を覚えるほどだったが今はそれが唯一の生命線だった。何とか地下に逃げ込み外へ逃げようとした彼らを待ち受けていたのは予想外の人物だった。

 

 いつも商人の傍でせっせと働いていた青年が傭兵の目の前に立ちはだかっていた。それはもう別人のようで商人の声は届いていなかった。あるのは生き残るために傭兵を殺すという歪んだ決意。いやこの世界ならばそれこそが正しいのかもしれない。それほどまでにこの世界には秩序というものがなかった。

 青年が傭兵に牙をむくが傭兵はひどく落ち着いた様子で青年の捌いていく。やがて青年は撤退するが去り際に意味深な言葉を残して地下道の暗闇へと消えていった。商人は混乱していたが今はその時間さえ惜しい。脱出のため傭兵たちは少年の後を追うように地下道を進んでいった。

 

 傭兵たちは一番追手が激しかった市街地から何とか脱出することができた。この作戦が失敗した以上今後の行き先を考えなくてはならなかったが最後の最後で青年は傭兵たちの前に立ちふさがった。決着をつけるべく二人は激しくぶつかりあった。前回よりも凶暴性を増した青年だったがそれでも傭兵には届かず逆に追いつめられていく。そのまま事態が変わることなく青年は傭兵に敗れて死んでいった。死ぬ間際の青年の本来の気弱な声で嘆いていた言葉はとても悲痛に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

「そしてその部隊は無事に脱出することができ、めでたしめでたしっと」

 

 まぁ実際はこの後にもひと悶着あったが別に言う必要もないし黙っておくことにした。いくらか省略した部分はあったがすべて話すとしたら辺りが暗くなるくらいはかかるし、何より俺の精神が持つか微妙な所だ。それに山城に伝えたいのは俺の過去なんかじゃなくてもっと別なことだからだ。

 

「あの、提督何で唐突に昔話なんてしたんですか?」

「あぁ、もちろん理由はあるんだけどな俺ってさ人に何かを伝えるのがあんまり得意じゃなくてな。それで俺が喋りやすいようにやってたんだが、要するにお前を励ましたかったんだよ山城」

「え、今の話からですか?」

「……あぁ」

 

 やっぱり伝わりずらかったか……。いや、分かりずらいだろうなとは思っていたが山城の反応を見るに多分、俺が何を言いたかったかほとんど分かってないだろう。自分のコミュ力の低さに悲しくなってくるがとりあえずこの話の趣旨を伝えなければ。

 

「話の中にあった青年がな、山城と似てると思ったんだよ。お前は自分のことを卑下にしすぎてるんだよ。自分の過去を振り返ることを悪いとは言わない。過去から何も学ばなきゃ進歩はないからな。ただ、それで今の自分を決めつけたら何の意味もないことになるんだ」

 

 山城良いところでもあり悪いところでもあるのが考えすぎることだ。考えること自体はいいが山城はそれをマイナスの方向へと持って行ってしまう。それでは考えた意味がない。できるだけプラスに持っていくことが考えることの意味だというのに山城は卑屈になってしまっている。

 

青年(アイツ)はただ怖かったんだ。『死』という人として絶対に()けれないものが」

 

 いつしか懐かしむように俺は山城に話していた。傭兵(オレ)に立ち向かってきた青年を思い浮かべながら。

 

青年(アイツ)がなんでそこまで生きることに執着していたのかは分からない。下手なことをしないでとりあえず生きていければ良かったのかもしれないし、何か心に決めていたことがあったのかもしれない。でもレジスタンスなんかに加担している時点でまともな道には進めない。これから先色んな困難が押し寄せてくることは青年にも分かったんだろう。だから青年は決めたんだろう、仲間を裏切って生き延びるという道に」

 

 今でも鮮明に思い出せる。アイツの言葉には確かな決意がこもっていた。それがアイツにあそこまでの力を与えたのだろう。

 

「人っていうのは本当に心に決めてしまえば大きな力を出せる。それがいい方向であれ悪い方向であれ。山城、お前はまだ決心がついていないんじゃないか?自分が本当はどうしたいかは分かっているのにあと一歩が踏み出せない。先が真っ暗で見えないから立ち止まってしまうそんな感じだろう」

 

 青年が実際に山城と同じような状態だったのかは分からない。でもその胸に抱えているモノの本質は同じだと俺は考えていた。

 

「自分の艦歴に自信が持てないならこれから頑張っていけばいいし、不安があるなら誰かに相談でもしてみればいい。俺たちは仲間だ。仲間だから助け合っていくのは当たり前のことだろ?今更他人の振りなんかする必要なんてないんだ」

「仲間……」

「おう。他の奴らだって山城と一緒に戦ってきた仲間だろ?気遣いなんかしないでお前からどんどん向かって行けって。お前には自分と向き合うだけの力がある。それは俺が保証してやる」

「提督……」

 

 らしくないことをやっているとは思うが、意外と何とかできるもんだなと自分で勝手に感心してしまった。でもこれだけでは山城が向き合う要因にはならない。あとは山城がどう整理をつけるかだ。

 

「お前はどうしたい?山城」

「私は……私は……」

 

 多少まだ整理が追い付いていないようだが少しずつ山城の意思が見えてきた。

 やがて山城は喉元までこみ上げていた感情の奔流を吐き出した。

 

「私は戦いたいです。扶桑型としての誇りを守るために。人類を守れるようにそして、仲間(みんな)を守れるように!」

「……それがお前の答えなんだな、山城」

「はい。過去に囚われてうじうじしている自分はもうやめます。私は私のために戦います」

 

 山城の表情に生気が戻ったように見えた。先ほどまでの暗い雰囲気が嘘のように山城の表情(かお)は生き生きとしていた。

 

「分かった。お前がそう言うならもう大丈夫だろう」

「はい。ご心配をおかけしました」

「気にするな。俺は作戦のためにお前を説得に来ただけだ。謝られるようなことはしていないよ」

 

 本題はそこだったのだが途中から私情が混じってしまったから、中々話がまとまならかったけど何とか説得ができて良かった。あとは山城自身でどう進んでいくかだ。

 

「その話ですけど私にやらせてもらえますか?」

「いいのか?そんなにすぐに決めて?」

 

 数日おいてから聞こうと思っていたがまさか山城から来るとは思っていなかった。これも山城の心境の変化だろうか。しかしそれが根拠のない自信なら任せることはできない。自分の力を過信しすぎたヤツを俺はよく知っている。

 

「はい。提督の期待にも応えたいのもありますけど、この一歩が私にとって大きな分岐点になると思うんです」

「うーん……」

 

 いいのだろうかこのまま流れるように山城に頼んで……。自分から言い始めたことだが正直心配なところもあるにはある。しかし山城の意見も無下にはできない。

 

「分かった。お前に旗艦を任せよう。高雄たちには俺が言っておくからお前は作戦に向けて集中しといてくれ」

「はい。ありがとうございます!」

 

 押し切られたようになってしまったがまぁ、大丈夫だろう。もしもの時は八咫烏(コイツ)があるし主任も何か手はあるだろう。

結局不確定なことばかりだがそれもアリだろう。生きてくならそれくらいのことならいくらでもある。毎回毎回分かりきっていることのほうが少ないんだ。今からそれに慣れておくのも悪くはない。

 

「それじゃ頼んだぞ」

 

 そう言い残し俺は山城の部屋を後にした。

 今はまず山城が前向きになったことを喜ぼう。そう思い高雄たちのところへ向かう途中俺は盗み聞きをしていたヤツに声をかける。

 

「盗み聞きとはあまり趣味が良いとはいえないな、主任」

「あららバレてたのね。ほんと君ってそういうところは鋭いんだから」

 

 

 

 

 

 

「いつから聞いていた?」

「ん?もちろん最初からだよぉ~。逆に聞くけどオレが盗み聞きしてるっていつから気づいてたの?」

「俺が昔話を始めた頃だったかな。アンタにとっても懐かしい話だから無意識のうちに注意が薄くなったんじゃないか?」

「んーそういうもんなのかねぇ。ほら今さオレって人間だけど本当はAC(ハングドマン)の方が慣れてるからさぁ、感情の起伏が人間寄りになっているのかもよ」

 

 いやらしい笑い顔を作りながら主任と俺は廊下を歩き続ける。主任の言っていることはあながち間違いではないのだろうがこの男に限ってそれはないだろう。コイツは人間よりも人間らしい機械だ。元々機械には感情なんてものは存在しないのが当たり前だろう。だがどうしてか昔もそして今もその言動には人間らしさを感じる。

 

「よく言うよ。アンタは人間なんて柄じゃないだろうに」

「アハハハッ!いやーそれを言われたら何とも返せないんだけどねー。でもね長い間人間の中に混ざってくると色々と影響を受けたりするんだよ」

「長い間ってどれくらいだよ?」

「ざっと三~四十年はこんな風に暮らしてきてたよ。君との決着に負けてからね」

 

 あの昔話の最後は特に関係はないから割愛したが、あの後俺と主任は戦った。人間の可能性を証明するために。主任の傍らにいた秘書、主任と同じような存在であるキャロル・ドーリーの言葉を否定するため。あの時主任が口にした言葉は数少ない主任の本心だろう。あの時ほどこの男に恐怖を感じたことはないだろう。それほどまでの執念だったのだ。

 

「で、こっちに来てからは人類を守りながら俺が育つのを待ってたと」

「そそ、前に言った通りさ。俺たちは人類を守るために生み出された存在なんだから、俺らと似ている艦娘たちとは協力していかないとね~」

「アンタが協力とは笑わせるな」

「そう言われると返す言葉もないね。でもそれを言ったら君も前とは結構変わってきたんじゃないの?」

「それは……あるかもしれないな」

 

 確かに俺はこちらの世界に来てから興味のなかった多くのものに手を出した。一つ上げるとするなら料理だ。

 昔の俺なら最低限腹を満たせればそれでいいと思っていたが、世界にこんなに旨いものがあると知ってからは御覧のありさまだ。主任に言われるのも無理はない。

 

「ね、君も昔とどんどん変わってきている。オレは確かに機械だけど自我がある。だから俺は今君の前でこんな風にふるまえる。時間と環境ってのはそういうものだよ」

「……そうか。ならアンタは人間の可能性をもう探さないのか?」

「いやいや、それとこれとは別だよ~。オレはずっと人間の可能性を探しつつけるよ?そのためだったらどんなことでもやり遂げる覚悟でね。君だってなくしたわけじゃないだろ?自分の本能をさ。だから君はオレの提案に乗ってあの力(八咫烏)を手に入れたんだろ?」

「そうだな。結局どこまでいっても俺は傭兵(おれ)だ。それだけは変わらないだろうさ」

 

 結局俺も主任も何も変わりはしない。ただ好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰にも指図されず自分が望むように生きられたら俺はきっと満足して死ねるだろう。

 事実、あの世界での最期は充実した気持ちだった。殺しすぎたかもしれないが別段気にすることでもなかったし、誰もそれを咎めることはなかった。それに最期まで戦えたことが嬉しかった。

 歳をとって死んでいくなんてまっぴらごめんだったから、俺の最期はあれできっと良かったのだろう。

 

「ま、君が前線に出ることなんてそうそうないと思うけどね。この世界での主役は彼女たちだからしっかり花を持たせないと」

「分かってる。俺はあくまで提督だ。緊急時以外は使う気なんてない」

「ホントに~?君って後ろにいるタイプじゃないから、絶対に暴走すると思うんだけどな~アハハハッ!」

「……善処はする」

 

 どうにも主任の手のひらで踊らされているような気がして釈然としない。この男はこういうヤツだと割り切らないといけないが、もう少し主任に慣れるには時間が掛かりそうだ。

 見た目は細身のさえない中年男性だというのにその中身がそこが知れない。

 

「そろそろ高雄たちの部屋だな。今度は盗み聞きするなよ?」

「了解、了解。それに聞いても特に面白くないだろうからオレはこの辺でおさらばするよ」

「あぁ。そうしてくれ」

  

 話の途中で邪魔されたらたまったもんじゃないからな。主任が素直に下がってくれてよかった。

 

「さっきはああ言ったがやっぱり、戦いたいよな……どうしても」

 

 しかし俺はあくまで提督なのだからあまり前線にはでないだろうな。頭では理解していてもどうしても体がうずいてしまう。まぁ、俺が出るような状況にならないのが一番なんだが。

 

「……安心しなよ。すぐに君の望み通りになるさ」

 

 

 

 




 お久しぶりです。もはや覚えてる方のほうが少ない気がしてきましたが黒羽です。
 忙しい時期をなんとかやり過ごしたのでモチベが上がった時に一気に進めていきたいと思います。(まぁ手をつけるまでが長いんですけど)

 初めて読んでいただいた方、今まで読んでくださった方、趣味で書いてる拙い小説ですがこれからもよろしくお願いします。
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