もしも、アクア様がちょっとだけ感傷的になったら。
もしも、アクア様がちょっとだけ感傷的になったら。
UA6000突破…こんな駄文を読んで下さりありがとうございます。
このすばにシリアスは必要ない。激しく同意な方はブラウザバックをお願いします。
この作品は妄想で出来ております。
「今日は何も面白い事ないなあ……。めぼしいクエストも無し。事件も無し。なべてこの世は事も無し」
ようやくこの町での生活にも慣れてきた。
そりゃあカズマに無理やり連れてこられた時はこのクソヒキニートに鉄槌を!とか思ったけど。
めぐみんがいて、ダクネスがいて、カズマがいて。
こんな生活も、この世界で生きるのも悪くないと思ってしまう。
「あ、野良アンデッド発見!この女神アクア様が、貴方を即身仏にさせてあげるわ!!」
女神としての仕事に、死者の浄化というものがある。
死者はこの世にあってはならない。それが摂理だ。それが道理だ。
「駄目じゃないの!死んだ奴が出てきちゃぁ!!死んでなきゃあああ!!!」
それが私の使命だ。
「ふーッ!いい仕事したわ!…………、」
今日、カズマ達には黙って家を出た。
「…何か、興がのらないわね」
『―――おいアクア~。今日俺達パーティーはオフだオフ。たまには自由時間も必要だろ~?』
『では私は魔道具屋を覗いてきます。
フフフ!この私の眼鏡に適う物があるかどうか!鑑定してあげましょうとも!!』
『私は町の子供達に算術を教えようと思う。これが中々腕が鳴るものでな』
『ガキ共から聞いたぞ?ダクネス。
お前、答え間違ってるってガキ共にダメだし食らった時に変な表情するんだってな』
『まだ子供ながら、皆中々イイモノを持っていてなッ!年下の子に罵倒されるのも、悪くはないッ!!!
―――いやむしろイイッ!!!』
『いい加減黙ってろこのドMクルセイダーベラベラしゃべりやがってッ!』
『この私が、ドM、だと?』
『そうともよ変態だよそれがどうした? 何だ本当の事だろ?』
『興奮するじゃないかッッッ! もっと!もっとだッ!!』
『俺は、お前に、近づかない―――』
冷めた顔で、興奮し赤らめた顔で、笑顔で。この素晴らしい日常に、祝福を。
いつもの軽口の応酬。ここが私の生きる世界。
『―――アクア?』
『え?何?』
つまらない。
『いや・・・別に。所で、お前は今日どうするんだ?』
『……さあね』
『まあどうでもいいが駄女神。今度余計な借金増やしやがったら口を縫い合わすぞ』
◇
「天界での女神仕事は楽しかったわね~。やる仕事は毎日変わらないけど、やり甲斐はあった。
やっぱ仕事に捧げた時間の長さより中身の濃さなのよね~。
それなりに報酬もあったし、借金なんてそれこそ欠片も無かった」
この仕事は私の天職。女神だけにね。
「……一生。
一生この世界にいる事になるのかしら。カズマ達とずっと、ずっと…?」
私には寿命なんてものは無い。元の所でも、この世界でも。
「カズマは?」
そりゃあいつかはこの世から去るだろう。人間だもの。
「ダクネスは?めぐみんは?」
私は運命を司ってはいない。それは何十年後か、一年後か。
今すぐか。
「―――お、何よ。散策のつもりがこんな遠くまで来ちゃったわ」
俗世に長居しすぎたみたいね。
これが感傷、センチメンタルっていうのかしら?
「非業で、不幸で死んだらエリスをぶん殴ってでも連れ戻してくれば良い。
私は水の女神・アクア。出来ない事は無いわ」
一度死してなお恐ろしいあのクソヒキニート。アイツが三、四度死んだくらいで簡単に成仏するはずが無い。
やりたい事がもっとあるはず。欲望が、願望がもっともっとあるはず。
「私をこんな所に連れて来た責任。取って貰わなくちゃね、佐藤和真さん?」
その人生全てでね。
そして人生を生ききったら。
「………」
大往生したら。
「―――」
このアンデッド達のように、生き汚くなかったら。
「安らかに、この世から去ったら…?」
カズマがいなくなったら?
「………あ、これは良い景色ね。黄昏時とかいう奴だわ。
フフーン!絶景スポット発見!あとでアイツに自慢してあげましょう!!」
考えるな。
「今日は何だか帰りたくないわね~。ここで野宿でもしようかしら?」
女神とはえてして、考えるから不幸になる。
「こんな事もあろうかとお酒も持ってきたし~!今宵は月と太陽と星を肴に、風流な一杯!
それッ!花鳥風月~~」
花の花弁と鳥の声と風の囁きと月の満ち欠け。
それだけでも呑む酒は美味いらしい。
酒の肴は、最後の一滴と共に終わる。
「か~~ッ!一人で飲む酒もイイ!もっと持ってくればよかったわね!」
これは非常に良い酒だ。
だって全く酔わないのだから。
空になった酒瓶は、無機質に私を映す。
「あはは、面黒い顔。女神様みたい」
死人みたい。
『―――じゃ、あんた』
「ねえカズマ。 私は今まで、アンタみたいなヒキニートには信じられない物をたくさん見てきたわ」
『―――異世界に、持っていける、モノだろ?』
「全知全能の力が欲しい。最高の伴侶が欲しい。最強の武器が欲しい金が欲しい……」
『―――あんたは俺が持っていけるモノに指定されたんだ』
「何百年、何千年。みんなみんな叶えて、そいつ達の人生の終始も見た」
『―――女神ならその神パワーとかで!せいぜい俺を楽させてくれよォ!ああッ女神様ああああ!!!』
「そんな思い出、時が来れば忘れるものよ。私のように、雨の中の涙のように」
永遠に生きる女神の一生の中の、何の変哲も無い出会いのように。
「……一人でここから旅立てば、こんなセンチな気分にならないですむかしら?」
何も知らない風を装って生きる。何も大事なモノなんて作らずに生きる。
何もかも忘れて。何もかもを持たないで。
死んだように永遠を生きる。
「そんな素晴らしい我が人生に祝福を。どうか貴方達の魂に安らぎあれ」
これからの前途には一体何が待つのか。一人でも、私は生きていけるのか。
踏み込む足は、次第に速くなる。そして力強く。けして後ろは振り向くな。
「………でもアイツ、」
『―――1つだけ。俺が突き飛ばした、あの子・・・』
「自分には正直に、生きてたわね―――」
『・・・・よかったぁ・・・!』
あの時も、この時も。
奔る足が、疾駆に変わった。
◇
「ダクネス先生~!さようなら~!!」
「ああさようなら。お前達、帰り道には気を付けるんだぞ」
日が傾くにつれて、気持ちが逸る。
今日の終わり。それはつまり、楽しみの時間。
「今日の晩御飯は何だろうか」
さあ家に帰ろう。アクア達が待っている。
◇
「今日は爆裂魔法を撃てませんでしたッ……」
一日一回爆裂魔法を撃たないと私は死ぬ。
自身の誓い。自身の宣言。己の矜持。
「やっぱり四人で居た方がいいですね。ええ、そうですとも!」
まだ終わりではない。今日は、まだ終わっていない。
それはつまり、楽しみの時間。
「家に帰ったら、誰かを誘って爆裂魔法を撃ってきましょう。レッツ爆裂。ばっくれっつばっくれっつ♪」
さあ家に帰ろう。アクア達が待っている。
◇
我が家はただここに有り、俺達を待っている。
時に佇み、時に歓迎し、時に住人達を抱擁して。
黄昏も今宵も全て飲み込んで。
「おかえり、二人とも」
「ただいま、カズマ」
「ただいまです、カズマ」
「・・・・アクアを見たか?」
「そういえば見てませんね」
「私もだ」
もう夕飯の時間だというのに、あの駄女神は帰ってこない。
せっかく腕によりをかけて料理を作ったというのに。
探しに行こうかな。
「・・・でもまあ、あいつの事だ。腹が減ってくればフラフラっと帰ってくるだろ」
「アクアは犬か何かですか?」
「なんて自然な罵倒だッ…!素晴らしいぞカズマッッ!!」
「はいはいカズマですカズマです」
走るように、奔るように。
この心臓の鼓動とともに、もう日が沈む。
俺達パーティーは四人。ここには三人。
『―――佐藤和真さん。ようこそ、死後の世界へ』
『―――あたし、長くやってきたけど、こんな珍しい死に方したのはあなたが初めてよ』
『―――おっかしいから!?女神を連れて行くなんて反則だからぁ!!!!』
誰か一人でも欠けちゃ、パーティーじゃあない。
そうさ、そうだとも。例えあんな駄女神でもさ。
「あいつがいないと、何か物足りないな・・・。う~ん」
「あ、カズマ!あれを!!」
一番星どころか二番星三番星が見えてきた頃。
「はあッ、はぁあッ!」
我らが駄女神は帰還した。
「おかえり、アクア。
夕飯だっていうのに、他の皆より後に帰宅とは殊勝だなあ。お前?」
「……ただいま、カズマ」
おや?何だろう。
いつものこいつなら減らず口の一つや二つ言ってくるもんだが。
道端で変な物でも食ったか? それはそれでこいつらしいが。
「―――ねえ、カズマ」
「何だよ?」
人間らしからぬ速度で。スッと。
俺の顔の横に移動するアクアの目は、相も変わらず綺麗だった。
「あたし、多分アンタより長生きするわ」
「いくら駄目でも女神だからな。それがどうした?」
「カズマが死んだら、あたし、どんな手を探してでもアンタを生き返らせるわ」
「またエリス様を脅迫してか?そりゃ難しいだろ勘弁してくれよ・・・」
そう何度も何度も生き返るのか俺は。
ザオラル系の魔法万歳だなこの世界は。
今度教えろよ。
「………でね? 例えば。
例えばの話だけど、あたしが先にアンタの前から消えたら探してくれる?」
「お前も俺を探してくれるなら、時間は半分だな」
夕焼け小焼けの赤とんぼ。
「・・・・えっと。これ、答えになってるか?」
「…………うん」
まだ夕陽は、沈んでなかったみたいだ。
「―――って何言っちゃってるのよこのヒキニートはゴッドブロゥゥオオオオ!!!!」
太陽みたいに綺麗で可愛い拳と笑顔がこの顔に。
ほらな?
作った晩ごはんの、良いにおい。
ああ忘れてた。 干しっ放しの洗濯物、早く取り込まなくちゃな。