(ダメだ…こんなんじゃ、ダメだ…)
本選が続き、スタジアムの中に人々が集まっている中、ミサは1人、だれもいなくなった広場のベンチに腰掛け、じっとアザレア・カスタムを見る。
これを見ていると、嫌でも昨夜のサクラとのバトルを思い出してしまう。
彼女のガンプラ、ブリッツ・ヘルシザースの性能と彼女自身の技量は自分のはるか上を行っていた。
覚醒も、勇太以上に使いこなしていて、そんな彼女の存在が自分の日本一になった姿をぼやけさせる。
そう考えると、これまでの戦いも勇太に頼りっぱなしであったように思えてしまう。
タイガーが仲間と共に自分に攻撃を仕掛けてきたときも、彼の助けがなければ何もできなかったし、カマセとの戦いでも勇太が偶然とはいえ、覚醒を発動してくれたからだ。
(私なんかと一緒にいたら、勇太君は…)
「ミサちゃん」
急に聞こえた声にびっくりしたミサは視線をスタジアム側に向ける。
そこには両ひざに手を当てて、ハアハアと息を整える勇太の姿があった。
「勇太…君…?どうして…?」
「係りの人に聞いたんだ。そしたら、君に似た女の子がここへ走っていったって、教えてくれた」
本当はどうしてこんな自分を追いかけてきたのかを聞きたかったミサだが、今の彼女にそんなことを問う余裕がなかった。
アザレア・カスタムを握ったまま立ち上がったミサが勇太に抱き着き、顔を彼に胸に押し付ける。
「ミ、ミサちゃん!?」
「駄目だよ…勇太君、私なんかと…私なんかと一緒にいちゃ…」
最初は顔を赤くし、彼女を振り払おうとした勇太だが、ミサの言葉に困惑し、動きを止める。
「その…どうして、君と一緒にいたらだめなの…?」
「だって…グスン、だって、私なんかじゃ…勇太君の足、グスン、引っ張っちゃうから…」
泣きながら、彼女の本音を耳にした勇太はおそるおそる彼女の頭を撫でて、そのままミサの言葉を何も言わずに、すべて出し尽くすまで聞くことにした。
「そっか…。サクラさんと、会ったんだ…」
「うん。何にもできなかった…」
しばらくして、ようやく泣き止んだミサと一緒にベンチに座った勇太は昨夜のことを聞く。
彼女の話を聞いたことで、なぜサクラが自分を勧誘しに直接訪ねたのかわかった気がした。
「…僕なんかと違って、サクラさんはガンプラバトルを捨てなかった…。もしかしたら、僕よりもはるかに強いかもね」
「うん…。だから、勇太君。もし…もし、ね?もっとガンプラバトルで上を行きたいと思うなら、移籍を…」
「ミサちゃん」
言い終わらぬうちに立ち上がった勇太はゆっくりとミサの前に立つ。
そして、彼女の腕をつかんでそのままスタジアムへと歩いていく。
「ちょ、勇太君!?離してよ…まだ話は終わってな…」
「…」
必死に振りほどこうとするが、今の勇太のつかむ手の力が強くて、どうやっても引きはがすことができない。
ミサはそのまま彼についていくことしかできなかった。
「よし…ここなら使える」
受付で練習用のバトルシミュレーターの無料レンタルの許可をもらった勇太はミサの腕をつかんだまま、練習室に入る。
練習室には観戦用のテレビとチームで練習できるようにシミュレーターが3つ置かれている。
勇太はミサのアザレア・カスタムを取り上げて、彼女に自身のバルバトスを渡す。
「え…?」
「ミサちゃん、僕とバトルをしよう。ただし、僕が使うのはアザレア・カスタム。そして君が使うのは…バルバトスだ」
「ええっ!?けど…」
「…いいから!」
強引にミサをシミュレーターに座らせ、バルバトスをセットさせて起動させると、勇太は別にシミュレーターに乗り込む。
起動してしまった以上は、バトルが終わるか棄権するまで出ることができない。
「あ…」
起動した瞬間、ミサはアザレア・カスタムに乗っていた時とは違う感覚を実感した。
バルバトスに搭載されている阿頼耶識システムにより、網膜投影が開始したことで、視界が機体とリンクしている。
バルバトスが見えるものを直接肉眼で見ているような感覚で、アザレア・カスタムよりもよりダイレクトに視界の状況を知ることができる。
カタパルトに乗り、発進準備を終える。
「…井川美沙、アザ…じゃなくて、バルバトス…いきます」
元気も抑揚もない声と共にバルバトスが発進する。
外へと飛び出したバルバトスは月面に着地する。
そこには、既に出撃していたアザレア・カスタムも立っていた。
「じゃあ…始めようか。ミサちゃん」
「なんで?なんでこういうことをするの?意味わからないよ…?」
「わからなくてもやるんだ!」
アサルトライフル2丁を手にしたアザレア・カスタムがバルバトスに向けて発砲する。
慌ててミサはソードメイスを盾に受け止めるが、それでもすべての弾丸を受け止めることができず、数発がナノラミネートアーマー製の装甲に当たり、衝撃がコックピットに伝わる。
「キャア!?」
「まだ終わりじゃない!」
右手のアサルトライフルをしまい、レールガンを手にし、バルバトスに向けて発砲する。
「キャアアア!!」
レールガンの弾丸がソードメイスに直撃し、アサルトライフルを受けたとき以上の激しい衝撃が襲い掛かる。
激しく体が揺れ動き、気を抜くと嘔吐してしまいそうなレベルだ。
それだけのダメージのためか、ソードメイスはレールガンの弾丸を受け止めること自体には成功したものの、大きなひびが入り、ポキリと折れてしまう。
「ソードメイスが…!」
「いい武器じゃないか!」
スラスターを全開にし、バルバトスの脚部から発射されるビームガトリングガンを後ろに飛んで回避しつつ、レールガンに弾頭を装填する。
そして、一気に真上へ上昇しながら照準を合わせ、再びレールガンを発射する。
折れたソードメイスを投げ捨てたミサもそれに合わせて上昇し、レールガンを回避する。
「これで楯はなくなった!」
左手のアサルトライフルを連射させつつ、一気に距離を詰めると、右手のレールガンを投げ捨ててビームサーベルを手にする。
太刀を手にする時間のないミサはやむなく、左手でアザレア・カスタムの右腕をつかんで動きを封じる。
「ミサちゃん…。君と初めて一緒に戦ってきて、ずっと思っていたことがあるんだ」
「何…を??」
「君には…ガンプラバトルの才能がない。昔の僕と同じように…」
「え…??」
勇太が言う昔の自分というのは、おそらく勇武にバトルを学んでいたときのことだろう。
自分に才能がないのはともかく、そのころの自分に才能がないと言い切った勇太の言動にミサは違和感を覚える。
勇武の死後、長い間バトルから身を引いていたのに、しかも今使っているのは今まで使ったことがなく、まったく別のタイプのアザレア・カスタムなのにここまで戦えるのに。
覚醒まで使えるのに。
それは自分に才能があるからではないのか。
そう考えているミサがいるコックピットの後ろから衝撃が襲う。
勇太が左手のアサルトライフルをバックパックにある破砕砲のカートリッジに向けて至近距離で発射したのだ。
これにより、ミサは立て続けにバルバトスの主力武器を失うことになってしまった。
動揺するミサに追い討ちをかけるように、勇太はそのまま空中でバルバトスを背負い投げして月面に落とす。
(…アザレア・カスタムはサブレッグ以外の構造はいたってシンプルだ。システムも含めて…。そのおかげで搭載されている核融合炉とサブレッグにパワーがそのままダイレクトに手足と武器に伝えることができる)
「うう…ガトリングは弾切れ。武器は太刀と爪しか…!」
「気づくんだ、ミサちゃん!!」
そう叫びながら、ビームサーベル二刀流となって下にいるバルバトスに襲い掛かる。
「教えてよ、勇太君は才能がないっていうのに、どうしてそんなに強いの!?」
「気づけぇぇぇ!!」
アザレア・カスタムは勢いを緩めることなく、なおも接近していく。
必死に彼女に願いながら。
「うわあああああ!!」
振り下ろさんとするアザレア・カスタムの右腕に向けてバルバトスが右拳を叩き込む。
左手のビームサーベルがバルバトスの右肩をかすめ、拳が右腕の関節部分に命中する。
「何!?」
関節が損傷したことで、右手の動きがおかしくなり、ビームサーベルがポトリと落ちる。
「まだまだぁぁ!!」
(そうだ…ミサちゃん、それでいいんだ…)
思わぬ反撃に驚いた勇太だが、ミサの底力を感じて安心したように笑みを浮かべる。
だが、自分もファイターとしてもプライドがある以上、このまま負けるつもりはない。
頭部バルカンを発射し、バルバトスのメインカメラを破壊する。
網膜投影をしていたこともあり、ミサの視界がブラックアウトするが、彼女が止まる気配はみじんもない。
「負・け・る・かぁーーーー!!」
右手のクローでアザレア・カスタムのコックピットを貫こうと、右手の指を伸ばす。
目が見えなくなっているため、詳しい場所は分からないが、それはもう勘に頼るだけ。
ミサは迷うことなく手刀を叩き込んだ。
手ごたえがあり、装甲を確かに貫いている感触はある。
だが、なぜか肝心の右腕が動かない。
「はあはあ…ギリギリセーフか…」
勇太のコックピットの右側に突き刺さったバルバトスのクローを見ながら、勇太は肝を冷やす。
動かないように左手で抑えているものの、コックピットへのダメージのせいでアザレア・カスタムの右半身が使えなくなっている。
阿頼耶識システムがあれば、それに全コントロールをゆだねることで全身を動かすことができるが、それがないアザレア・カスタムでは無理な相談だ。
おまけに核融合炉にダメージを負ったことで、パワーダウンを起こしている。
「これは…僕の負けか」
コンソールを操作するが、パワーダウンを抑えることができず、左手のパワーが低くなっていく。
左足と左腕だけではどうにもならず、このままコックピットにクローがゆっくりと向かうのを待つだけ。
バルバトスのメインカメラが壊れているため、このままクローを左に動かして復帰できる可能性があるが、それだと機能停止を待つことになる。
「…」
勇太はコンソールを操作し、降伏信号を接触回線でミサに送る。
すると、バトルシミュレーターが終了し、勇太たちの姿が元に戻った。
「勝っちゃった…」
シミュレーターから出たミサはポケーッとしながら、バルバトスを握る。
お互いに機体を交換してでの変則バトルであり、本気の物ではなかったかもしれないが、それでも勇太に勝ったことが現実に思えなかった。
「土壇場の底力と負けん気、それが君の強さだよ」
「勇太君…」
ミサの前に立ち、彼女にアザレア・カスタムを返した勇太は笑みを浮かべながら言う。
彼女もバルバトスを彼に返した。
「それに、何が何でも勝たなきゃいけない理由がある。そんな君と一緒なら、失った熱意を取り戻せるかもしれない。兄さんたち解いた時よりも上へ行くことができる」
「そんなことを思っててくれたなんて…。でも、いいの?サクラさんと違って、私…」
「…いや、むしろ君の見捨てられないかってビクビクしてるの、僕なんだよ?」
「…え??」
「だって、僕ってシャイで中々友達作れないし、ガンプラバトル誘うのもへたくそで、しかも唯一相手してるかもしれないサクラさんからチームに入る誘いを断っちゃって、多分すごく怒ってるから…!」
急に焦りだした勇太がマシンガンのようにミサと一緒に戦わないといけない理由を次々と口にする。
シャイだということはミサも分かっていることだが、サクラからの誘いを勇太が断った、つまりは自分を選んでくれたということを聞けてとてもうれしく思えた。
嬉しく思ったのだが、まるで家を飛び出そうとする奥さんを必死に引き留めようとする旦那のように見えた勇太があまりにもおかしく思えて、思わず笑ってしまう。
「ミ、ミサちゃん…!??」
「ア…アハハハ!!ご、ごめん…!勇太君の話聞いてたら、なんだかさっきまでウジウジ考えてたのがばかみたいに思えちゃった…」
笑いを抑えつつ、指で涙をふき取り、ミサは勇太に笑顔を向ける。
「さっきはごめんね…。もう、私なんか…なんて言わない。だから…」
「言わなくていいよ、一緒に頑張ろう」
いつもの調子に戻ったミサに安心した勇太は笑みを浮かべる中、ミサはふとあの言葉を思い出す。
「そういえば、昔の勇太君は才能がないって言ってたでしょ?もしかして…今の自分には才能あるー、って思ってない??」
「んん…!?」
急にジト目になったミサを見て、焦りを見せながら勇太はその時の言葉を思い出す。
「ああ、いや!?今も才能ないって!ただ、がむしゃらにやってるだけで…」
「本当にー?」
「本当だってぇ!!」
「おい、お前ら、何やってんだ!?もうすぐ次の試合だぞ!?」
いつまでも戻ってこず、心配したカドマツが練習室のドアを開け、2人に声をかける。
「あ、カドマツ」
「急げよ!!遅刻で不戦勝したって上に聞かれちゃあ、お前らのチームに出向している俺の立場がねーよ!!もうロボ太はスタンバイしてる!」
「ああ、すみません!いこう、ミサちゃん!」
「うん!」
勇太とミサが練習室を飛び出していく。
2人の後姿を見ながら、カドマツはミサがいつも通りの彼女に戻ったのを知り、安心した。