「へっ、出るわ出るわ。けっこうなことや」
ガンダムサンダーボルト地上編で登場した東南アジアの森の中で、金色の逆立った髪をしていて、棒付きキャンディーを咥えた白い連邦軍ノーマルスーツ姿の少年がジャズ音楽を流しながら周囲の警戒をしている。
レーダーでは既に6機近くのガンプラの熱源を探知しており、彼らはたった1機のガンプラを探している。
「あの野郎、1人で好き放題しやがって…!」
「この前は俺のチームメイトを叩き潰しやがった!許さねえ!!」
彼を探しているファイターはみんな、彼に対して多かれ少なかれ恨みを持っている。
彼が流しているジャズ音楽はわざとなのか、コックピットの外にも聞こえるようにしており、そのため彼らはこの森の中をピンポイントで捜索することができている。
そんな中、急に森の中からティターンズ仕様のガンダムMk-Ⅱに近い色彩をしたガンダムケストレルベースのガンプラが飛び出し、上空から専用ビームライフルを発射する。
長い銃身のライフルから放たれる高出力のビームを受けた2機のガンプラの上半身が消滅し、下半身が爆散する。
「くっそぉ!いきなり2機も!!」
仲間がやられた4機がそのガンプラに向けてミサイルやガトリング、ビームで襲う。
しかし、バックパックとして装備されているトールギスのスーパーバーニアによって、殺人的な加速を見せながらその攻撃を回避し続けている。
「まったく、なんでワシが自分らのような雑魚とやりあわなあかんのや?」
「雑魚だと!!?お前のその口が気に食わないんだよぉ!!」
「雑魚を雑魚と言うて、何が悪いんや?小さいやつらや」
ビームや銃のわずかな隙間を利用して接近したケストレルが四肢の各部に搭載されているビームブレイドを展開し、射撃攻撃のために身動きを止めていた3機を一瞬でバラバラに切り裂いていく。
そして、残りの1機がビームジャベリンをもって接近してきたが、その穂先もビームブレイドで切り裂き、使用不能に追い込む。
「まったく、もうちょい骨の折れる相手ならよかったんやけどなぁ?」
「う、うわああああ!!!!」
最後に残ったイオク専用レギンレイズがレールガンを至近距離から発射するが、その瞬間ケレストルは背後に回り込む。
「終わりや…」
ドスン、と膝蹴りと同時にビームブレイドがバックパックとコックピットを貫く。
ナノラミネートアーマーで高い防御力を持っていたはずのレギンレイズはたった一撃で力尽きてしまった。
「どうしたの、ミサ?その程度なの??」
「まだまだぁ!!」
イラトゲームセンターのシミュレーターをプレイするミサとサクラはサイド3宙域で、アザレアパワードとブリッツヘルシザースに乗って互いにぶつかり合う。
最初のバトルではほとんど手も足も出なかったミサだが、今回はつばぜり合いを演じたり、ビームマシンガンで何度か被弾させることに成功するなど、成長を見せている。
少し前には、サクラの意表を突く形でGNキャノンでの攻撃に成功し、ギガンティックシザースの破壊に成功している。
(見誤っていた…ミサって子を…)
鍔迫り合いをしつつ、サクラは最初の頃のミサへの評価を撤回する。
ミサとサクラの指には短期間にかなりの回数のガンプラバトルをし、ガンプラづくりをしていたために包帯がまかれている。
「(少なくとも、努力と気迫については、もしかしたら勇太以上かもしれない…けど!!)ハアアア!!」
ブリッツヘルシザースの出力を最大にし、更にスラスターも全開にして、一気に力押しでアザレアパワードを追い詰めていく。
もう、手加減して戦う必要もなく、全力でぶつかり合うだけでよいと思ったからだ。
「なんとぉぉぉぉ!!」
しかし、ガンダムヴァーチェの太陽炉を搭載したアザレアパワードもパワーでは負けていない。
こちらもスラスターを全開にし、再びパワーでは互角の状態を生み出す。
「まだやってる…」
シミュレーター近くの休憩用のテーブルの前にあるソファーに腰掛けた誠は2人のバトルの様子をテレビで見ている。
机の上には個々の自動販売機で買ったコーラのペットボトルが置かれていて、ロボ太は自分の手でフルアーマー騎士ガンダムの調整を行っている。
「ロボ太、何か足りないパーツはある?」
シミュレーターのスピーカーがないため、しゃべれないことは分かっているが、一応勇太はロボ太に質問し、彼にペンと紙を渡す。
ロボ太はうなずくと、紙にパーツの絵を描き始めた。
まだ文字を手で書くことはできないようだが、絵を描くことで、スピーカーがなくてもコミュニケーションできるようになったらしい。
それは勇太とミサ、ファイターたちとバトルなどで交流したことで、プログラムが成長したからだろうとカドマツは分析している。
実際、カドマツが調べた結果、今のロボ太のプログラムは最初に設定されたものとは大きく変化しているとのこと。
「うん…?」
コーラを飲み終えた勇太がロボ太の絵を見ようとしたその時、ジャズ音楽が聞こえてくる。
音がしている方向はゲームセンターの出入り口で、そこには紺色のジャケットと白いTシャツ、そして薄緑色のワイドパンツを履いた金髪の、勇太たちとは同年代の少年で、腰には古い携帯音楽端末がぶら下がっており、その音楽が流れている。
「よぉ、相変わらずしみったれた商店街としみったれたゲーセンやなぁ」
関西弁の少年が両替機の点検を行っているインフォにヘッと笑いながら声をかける。
「いらっしゃいませ、ケンジさん。毎度注意してますが、ゲームセンター内では音楽プレイヤーにはイヤホンをつけて…」
「イヤホンつけてると音が悪くなんねん」
「ですが、周りのお客様のご迷惑に…」
「どうせそんなに客いないから、ええやろうが」
インフォの注意を聞かず、音楽を流しながら少年は空いているシミュレーターに入る。
「ねえ、インフォちゃん。あの人…前からきてる人?」
彩渡商店街ガンプラチームに加わってから1カ月以上経過しているが、こんな堂々とジャズを流しながら遊ぶ同年代の人がここに来るのは初めてだ。
にもかかわらず、新規の客の場合は登録を行いインフォがそれを行わなかった。
「ええ、あの人は…」
「フウウ…」
鍔迫り合いを終えた2機が少しだけ距離を置き、ビームサーベルを構えなおす。
「さあ…このままやってみせる!」
太陽炉は時間さえ確保すればエネルギーを回復させることができるが、バッテリーで稼働するブリッツ・ヘルシザースはエネルギーが一定値を下回るとフェイズシフト装甲がダウンし、おまけにトリケロスに搭載されているビーム兵器も使用不能となる。
長期戦となって、困ることになるのはサクラの方だ。
「私も、このまま終わるつもりは…!?」
「敵機!?」
2機のセンサーが新たなガンプラの反応をキャッチする。
同時にジャズが流れ始めて、コックピット内の2人の耳にも届く。
「ジャズ!?」
「このジャズソング…ということは!避けなさい、ミサ!!」
「ふぇ!?」
誰が入ってきたのかに気付いたサクラは一気に後ろへとび、彼女の声を聞いたミサも慌ててその場を離れる。
それと同時に、2機がいた場所を大出力のビームが焼き尽くしていく。
ネオガンダムに搭載されているG-バードに匹敵するほどのビームを見たミサの額に冷や汗が出る。
「今のって…」
「よぉ、ヘボいバトルをしとるみたいやから、飛び入り参加させてもらうで」
右手にメガビームランチャーを装備したガンダムケストレルベースのガンプラの中で、例の少年はバイザーを開き、棒付きキャンディーを咥える。
咥えたままニヤリと笑うと、再びメガビームランチャーを発射する。
あれほど高火力のビームをわずかな冷却時間で再度発射したことに驚くミサはわずかに回避が遅れてしまい、片足を焼き尽くされてしまう。
「うわわわ!?!?何よ、私とサクラの特訓を邪魔して!!」
いきなり邪魔をしてきた相手に腹を立てながら、ミサイルを発射する。
「駄目、ミサ!!」
「その程度のミサイルでびびるかぁーーー!」
四肢の各パーツに装着されているビームブレイドを展開させ、ミサイルのど真ん中を突っ込んでいく。
ビームブレイドで自機に近いミサイルを切り裂いていき、難なくアザレアに肉薄する。
「キャアアア!?」
いきなり接近を許してしまい、ビームサーベルを手にする時間もないミサはバルカンを発射するが、左ひじに装備されているビームマドゥでビームシールドを形成し、難なく受け止める。
(な、なに…このジャズを流している人…すごく、強い…!)
「こいつで…おっと!!」
ビームシールドを3本のビームの刃に変形させ、コックピットをつぶそうとしたそのガンプラは側面から飛んでくるインパクトダガーに気付き、アザレアをこの場で倒すことをすぐにあきらめて上昇して回避する。
ダガーが近くにあった木々に刺さった直後で、アザレアのメインカメラがブリッツ・ヘルシザースを映し出す。
「サクラ…!」
「気を付けて、あのガンプラ…ケストレル・フィルインは手ごわいわよ…」
サクラはミサに警告しつつ、自機の弾薬と推進剤、エネルギーの残量を確認する。
先ほどの特訓のせいでいずれもかなり消耗しており、おまけにギガンティックシザースも今は使えない。
エネルギーのことを考慮して、彼女が使える武器としたらバルカンとダガー3本。
そのダガーもミラージュコロイドと覚醒を利用した攻撃のための武器であるため、耐久性に難があるため、接近戦は避ける必要がある。
ケストレル・フィルインとインファイターな側面の有る彼を相手にする場合は、なおさらそうだ。
「ミサ、まだ使える武器はある?」
「ビームマシンガンはEパックを交換したら、まだ使えるよ。GNバズーカはもう少し粒子をチャージしてからで、マイクロミサイルランチャーとフラッシュバンはまだ残ってる」
「だったら、2人で倒すわよ…。協力してね」
「…うん!」
「ハッ、協力ねえ…。ええで、でもそんなんで勝てるとは思わんようにな」
音楽プレイヤーを操作し、アルバムを『フリー・ジャズ』にする。
オーネット・コールマンのサクソフォーンの音が響き渡る。
「いくで…ケストレル・フィルイン…!!」
「…ということは、彼って…」
インフォから彼について話を聞いた勇太は驚きを隠せなかった。
まさかこの商店街の関係者に当たる人物がライバルとして登場するとは予想していなかったからだ。
一緒に彼のバトルを見ながら、インフォは彼について教え始める。
「あの人は鈴森法介。大阪で暮らしている、マスターのお孫さんです」
「大阪…」
携帯を出した勇太は大阪のリージョンカップの情報を調べ始める。
優勝チームのメンバーの中には確かに彼の名前が存在する。
そして、ケストレル・フィルインという名前も。
「公式大会では異例ともいえる、音楽プレイヤーをシミュレーターに持ち込んでいるうえに、大音量で流していることからフィールドでも敵味方関係なく聞こえてしまう…。変わった人だな…」
ガンプラバトルでは本来、ファイターの集中力の維持や敵味方とのコミュニケーションの邪魔になりかねないことから、イヤホンをつけたとしても、音楽プレイヤーを持ち込むファイターはほとんどいないと言ってもいい。
確かに、試合開始前に自分を落ち着かせるために音楽を聴くプレイヤーがいることは確かだが。
しかし、彼の場合はイヤホンをつけることなく、外に漏れるぐらいの大音量で流している。
現にサクラはその音楽が聞こえたからホウスケの位置を知ることができ、ミサ共々最初の攻撃から逃れることができた。
「はい、ホウスケさんのお父さん、つまりマスターの息子さんは大阪で商社の営業を務めています。そのため、将来は彼が私のマスターになるかもしれません」
「大阪か…ここにあまり来ないわけだ。でも、なんで今ここに…?」
「おっと、まぁいらんわ。この長い獲物は」
ビームマシンガンでメガビームランチャーを破壊されたホウスケは迷うことなくそれを投げ捨て、四肢のビームブレイドを展開する。
上空に飛翔したケストレル・フィルインはそのビームブレイドを大きく展開し、それからビームライフルと同じ出力のビームを連続して地表に向けて発射していく。
ビームマシンガンと同じ連射速度かつ、ビームライフルと同じ出力。
その雨が密林に降り注ぎ、ミサ達を襲う。
「キャア!パーツが取れたぁ!!」
「けど、最初から全開でやっている。核融合炉搭載だとしても、長くはもたないはずよ」
同じような短期決戦型の戦闘を得意としているサクラだからこそ、その戦術の弱点がわかっている。
この攻撃は確かにきついものの、耐えきれないものではない。
何とか耐え忍び、攻撃が弱くなるタイミングにけりをつける。
ビームの雨の中をかいくぐり、その中でわずかに出力が低下したことをサクラは見逃さなかった。
「ハアアア!!」
推進剤の残量を気にせず、全力で飛行し、ケストレルに肉薄する。
左手にインパクトダガーを装備し、それを突き刺そうとする。
「そういうのはお見通しだ!!」
サクラがそのような動きをすることが分かっていたのか、右ひじのビームブレイドでインパクトダガーを持つブリッツの左腕を切断する。
そして、左ひざのビームブレイドで彼女にとどめを刺そうとした。
「…かかったわね!!」
「なに!?」
ビームブレイドが刺さると同時に、ブリッツがケストレルを右腕で抱き着くように抑え込む。
そして、サクラはコンソールを操作して右腕の関節を固定した。
「てめえ…まさか!!」
「ミサ!!」
「うおりゃあああああ!!!」
ブリッツにつかまれたケストレルの攻撃の手が止まり、GNキャノンのチャージが始まる。
GN粒子残量の問題があり、最大出力での発射には時間がかかるが、今は6割程度のチャージで十分だ。
左右のGNキャノンが火を噴き、ビームがブリッツもろともケストレルを飲み込んでいく。
「うおおおおお!!!」
ビームに2機のガンプラが飲み込まれていく。
数秒の照射ののち、ビームが消えていき、そこに残っていたのは右腕と左足を損傷し、頭部の右半分が黒焦げになったケストレルだけとなった。
ホウスケのコックピットに映る映像も右半分がブラックアウトしており、左半分にもノイズが発生しているせいで映像がゆがんでいる。
「…ハハ…アハハハハハ!!こいつはすげえ!!ケストレルをこんなにボロボロにするなんて、あんたらすげえ!!」
コックピット内で突然、ホウスケが大笑いしはじめ、地上にいるアザレアに目を向ける。
「よぉ、あんたが彩渡商店街ガンプラチームのリーダーか?さっきのブリッツともども、なかなかええバトルやった。んで…名前は?」
「…井川…美沙…」
突然乱入してきた相手の突然の笑い声に困惑したミサだが、名前を尋ねられたため、ここは素直に自分の名前を名乗る。
「それで、あんたはだれよ!?」
「ハハッ、俺がわからんか。ま、しゃあないのぉ。最後にあったのは小学1年生くらいやからなぁ」
通信機能が生きているのを確認すると、ホウスケはコックピット内の映像をアザレアに送信し、ヘルメットを外す。
バイザーによって隠れた素顔を見たミサは目を丸くする。
「ま、ままま…まさか、ホウスケ君!?」
「久しぶりやなぁ、ミサ!」
機体名:ケストレル・フィルイン
形式番号:MSW-004Fi
使用プレイヤー:鈴森法介
使用パーツ
射撃武器:メガビームランチャー
格闘武器:なし
頭部:ガンダムケストレル
胴体:ガンダムケストレル
バックパック:ガンダムケストレル
腕:ガンダムケストレル
足:ガンダムケストレル
盾:なし
大阪のリージョンカップ優勝者である鈴森法介が使用するガンプラ。
ベースとなったケストレルのカラーリングをティターンズ仕様のガンダムMk-Ⅱの物に合わせたものとなっており、外部武装がメガビームランチャー1丁のみとなっている。
しかし、このガンプラ最大の武器は火力ではなく高出力ジェネレーターから引き出される高い加速スピードと準サイコミュシステム「シャーマン・システム」による反応速度だ。
更に機体各部に装備されたビームブレイドはビームライフル及びビームシールドへの代替が可能で、ミサイルの弾幕の中を破壊しながら突き進むといった芸当が可能。
ただし、加速スピードがトールギスに匹敵する『殺人的加速』であるため、それがシミュレーターでもある程度軽減されているが再現されており、乗りこなすにはGに耐えられるように訓練する必要がある。