別の小説になってるぞ、っていう突込みがあれば…ごめんなさい。
「…ねー、あとどれくらい?」
「ええっと、カーナビだとあと30分くらいかな?」
「これで何度目だよ?さっきも聞いてたぞ」
高速道路を走る車内で、ミサと勇太のやり取りを見たカドマツがぼやく。
1回目は高速道路に入り、会場である愛知県へ向かうところで聞いており、2回目は早めの昼ご飯兼トイレで寄ったサービスエリアで、そのやり取りを聞いている。
効いてくるミサもそうだが、それにまるで機械のように文句なく答える勇太もどこかおかしく感じられた。
ちなみに、昼ご飯のメニューはとろとろ卵丼で、子供の特権ということでカドマツのおごりとなった。
なお、ジャパンカップでは遠隔地からの出場者に考慮し、宿泊費と交通費については領収書を出せば補助してもらえる。
食事代もユウイチから受け取ったお金で支払っているため、カドマツの懐は痛まなかった。
「ねー、勇太君でもカドマツでもいいからさー、何か面白い話をしてー?」
「お前それ、話のフリとしては最低だからな」
「話題か…カドマツさん、テレビのチャンネル変えていいですか?」
「んー?いいぜ」
勇太はリモコンを使い、カーナビのチャンネルを何度か切り替える。
ミサが興味を示しそうな番組を探すが、夏休みが始めった7月下旬とはいえ平日だからか、ニュース番組とテレビショッピング紹介番組、再放送のドラマくらいしか流れていない。
「(科捜研の男は…ミサちゃん、見ないからなぁ…)ん?」
番組表を見て、なければネットから拾ったアニメ『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』を流そうかと考えていると、あるニュースが3人の耳に飛び込んでくる。
「先日、アメリカに本社を構える外資企業タイムズ・ユニバースCEO、ウィリアム・スターク氏がニューヨークで会見を開きました。その中で、スターク氏は買収した企業の1つであるセーフティ・セキュリティ・ソフトウェア、通称3S社社長バイラス・ブリンクス氏が不正プログラムを作成したことを告発すると同時に、ブリンクス氏の社長解任及び警察に通報したこと、そして3S社の解体を明らかにしました。その不正プログラムは先日、日本でも多くの自立型ロボットに被害を与えたウイルスです。3S社社員によりますと、ブリンクス容疑者は先日から会社に姿を見せておらず、行方が分からないとのことです」
「この間のウイルスのことか…」
勇太はゲームセンターの修理をしていたときのイラトの言葉を思い出す。
店がめちゃくちゃにされたこと、そしてインフォをあんな目に遭わせたことでかなり怒っており、犯人が見つかったら賠償金を分捕ってやるとまで言っていた。
その相手であるバイラスは行方不明だが、きっと今頃は近くに彼が逃げていないか探していることだろう。
「でも、その3S社はどうしてそんなウイルスを作ったんでしょうか?」
「元々、3S社はセキュリティソフトを開発している会社だ。だから、当然そのソフトの隙を知っている。んで、自分たちでその隙をつけるウイルスを作って危険を煽り、それを克服した新しいセキュリティソフトを作って大儲けって腹だったんだろうな」
都市伝説として、そのような話はカドマツも昔聞いたことがある。
しかし、そんなことを実際にやる人間がいるとは思いもよらなかった。
その犯人である3S社はここ数年でシェアを拡大させてきた企業で、ハイムロボティクスや佐成メカニクスでもその企業が開発したセキュリティソフトを一部使っている。
技術者は生み出した技術を人々、そして明るい未来のために使うべきだと考えるカドマツにとって、このバイラスは技術者の風上にも置けない卑劣な男だ。
おまけに逃走し、罪を償うつもりもないことを考えると救いようがない。
「でも、バレちゃったね。悪いことなんてできないよねー」
「だがよ、ばれたのはタイムズユニバースのCEOのウィリアムって男が告発したからだぞ。ちなみに、お前んとこの商店街が閑古鳥になっているのも、タイムズユニバースが百貨店を開いたせいだったよな」
「こんなところでそんな名前を聞くなんて…」
タイムズユニバースが多角経営を行っているということは、ニュース番組やネットで聞いたことがある物の、まさかセキュリティソフト業界関連のニュースでも聞くとは思わなかった。
そして、話を聞いているともう1つの疑問が浮かんでくる。
「じゃあ、どうして親会社のタイムズユニバースが子会社の悪事を暴いてるの?」
「知らん」
「なんだよ、もう!」
予想を言うことなく、話を続ける気のないカドマツの答えにミサは頬を膨らませ、サービスエリアで買ったポテトチップスの袋を開ける。
「おまけに3Sを解体してる…。3Sの技術が目的なのか、それとももっと別の…」
「別のって言えば、何があんだよ?」
「そこまでは僕も…」
テレビにはタイムズユニバース本社玄関前で行われた会見の映像が流れており、スーツ姿のウィルが数多くの記者に囲まれている中で質問に答える姿が映っている。
(彼が…ウィリアム・スターク…)
若い男がCEOを務めている、という話は聞いていたが、まさかここまで、自分より少し年齢が上の、日本で言えば大学生くらいの年齢の少年だとは思いもよらなかった。
仮に自分がこの役目を果たせと言われたら、きっとプレッシャーに耐えられないだろう。
アメリカを中心に海外で多角経営を行うタイムズユニバースには数多くの従業員の生活が懸かっているから。
(そういえば、あの百貨店には…)
これは今から2週間ほど前のことだ。
「むむむむ…」
家族連れやお年寄り、学生など幅広い層の数多くの人々が集まる、広い3階建ての建物の屋内で、ベンチに座ったミサが黒いオーラを放ちながら周囲を見渡している。
フードコートには日本各地の名物を売る店があり、靴やカバン、財布などの専門店が数多く営業を行う。
「こんなに…こんなにお客さんを奪うなんて…タイムズユニバース、コノヤロー…」
「ミサちゃん、帰ろう。敵情視察は優勝してからでも…」
「うるさい!!」
「ひぃ!」
「まだ足りない…。なんでこの百貨店が繁盛するのか、もっと調べないと!!」
立ち上がったミサはロボ太と共にフードコートを出て、3階フロアを見て回る。
ミサに恐怖を抱き、尻餅をついてしまった勇太は起き上がり、彼女の後姿を見た後で、ベンチのそばにあるゴミ箱に目を向ける。
(よっぽど、ショックだったんだな…)
ゴミ箱にはフードコートで買ったたこ焼きや明石焼き、ハンバーガーにコーラといったものの空ゴミがこれでもかというぐらい叩き込まれており、ごみ収集に来たアルバイトがその量を見てぎょっとしていた。
これはすべて1階と2階を見てきたミサが食べたものだ。
実を言うと、ミサが実際にタイムズユニバース百貨店に来たのは今回が初めてで、これまでは商店街のお客さんを奪った宿敵として行く気になれなかったようだ。
しかし、ガンプラバトルでジャパンカップ行の切符を手にし、徐々にお客さんが戻ってくるのを見て、何らかの心境の変化があったのだろう。
メンバーである勇太を巻き込んで、タイムズユニバースの敵情視察に行くことになった。
ちなみにユウイチは店が忙しく、カドマツは仕事があるため不在だ。
「ゲーセン…やっぱり、出てるゲームが多い…」
フードコートのすぐ近くにあるゲームセンターに足を踏み入れると、そこにはカーレース、1VS1のバトル、1度プレイするたびに1枚カードがもらえる、じゃんけんと同じルールで戦う自動販売機名義のゲームなど、最新なうえにオンラインで世界中のプレイヤーと遊ぶことができるゲームであふれていた。
イラトのゲームセンターでそのようなことができるゲームは1つしかない。
そのためか、勇太とミサにはある物の有無がより強く感じられた。
「シミュレーターがない…」
「そうだね。こういうゲーセンなら、今じゃおいてて当たり前なのにね」
2人の言う通り、ここのゲームセンターにはガンプラバトルシミュレーターがない。
イラトのゲームセンターにタイムズユニバース百貨店ができた今でもたくさんの子供が来ている理由はそこにはないガンプラバトルシミュレーターで遊ぶためでもある。
その代わりというべきか、ロボットを自分で操作できるシミュレーターゲームが置かれていた。
「スーパーロボット大戦VSか…」
「知ってるの?」
「うん。自分で作ったガンプラが使えるわけじゃないけど、いろんなメディアで登場したリアルロボットやスーパーロボットを実際に動かして戦うことができるゲームなんだ。といっても、できたのは最近だけどね」
「ふーーん…」
なんだかおもしろく無さげにそのゲームを見る。
自分で作ったガンプラで戦うから面白いと考えるミサなら、そういう気持ちになっても別に不思議ではない。
「そうだ、一回遊んでみるよ。もしかしたら、違うインスピレーションが見つかるかもしれないし」
そういうと、勇太はシミュレーターに入り、100円玉を入れる。
同時に自分が着用するパイロットスーツを設定を始める。
「へえ…耐圧服だけじゃなくて、プラグスーツとかEX-ギア、いろいろあるな…。けど…」
ノーマルスーツの画像を見た限り、やはりというべきか、ガンダムシリーズのものは一つも入っていない。
あくまでガンプラバトルシミュレーターと差別化したいのかと考え、勇太は比較的ガンダムシリーズのものに近いものの、ヘルメットではなくヘッドギアになっているうえに重量のある黒いスーツを選択する。
その後で、今回のゲームで選択できるロボットが表示される。
「うーん…ガンダムに近いリアルロボットだと。うん…?」
ふと、勇太はマクロスシリーズに登場する搭乗型戦闘用ロボット・可変戦闘機バルキリーのYF-29デュランダルに目が留まる。
「マクロス…見たことないけど、こんな機体なんだ…」
架空の金属であるフォールドクォーツにはトランザムバーストやクアンタムバーストと同じように、自分の思いを確実に相手に届けることができる能力があり、デュランダルにはその金属でできたバーツが4か所に搭載されている。
また、デュランダルという名前がSEED DESTINYでラスボス及び黒幕の役割を果たしたキャラの姓と同じだということも、目が留まった理由の1つだ。
「可変機はあまり使ったことがないけどな…」
しかし、群馬で可変機であるレイダーと戦ったことから、これから可変機と戦うことがあるかもしれない。
そう考えた勇太はデュランダルを選択した。
「外から中継が見れるのも、ガンプラバトルシミュレーターとおんなじなんだ…」
勇太がシミュレーターに行ってしまい、ロボ太と2人っきりになったミサはゲームセンターを回る中で見つけたベンチに座り、ロボットたちのバトルが流れる大型モニターを見る。
ステージが真ゲッターロボ世界最後の日の部隊の1つである木星宙域になっており、敵役であるインベーダーが数億出現している。
その中をラウンドムーバー装備のスコープドッグとチェインバーが高機動戦闘を披露し、スペースヨーコWタンクのビームをなぜか宇宙にいるビッグオーが両腕のシールドのようなパーツで防御する。
様々な作品のロボットたちが入り乱れる空間の中に、戦闘機形態のデュランダルが飛び出してくるのが見えた。
「戦闘機…デルタプラスみたい…」
「くうう…こんなに機動性が違うなんて…!」
デュランダルの加速が生み出すGに耐えながら、勇太は邪魔になるインベーダーたちをマイクロミサイルで撃ち落としていく。
側面から接近し、食いつこうとするメタルビーストに対応するため、一度人型形態に変形し、シールドに内蔵されているアサルトナイフを相手の頭部に突き立て、撃破する。
戦闘機と人型の両方を使い分ける中で、勇太は可変モビルスーツのすごさを感じた。
モビルスーツの汎用性や格闘戦能力とモビルアーマーの大火力と高速機動性という長所を併せ持ち、一撃離脱攻撃を得意とする可変モビルスーツは、特に宇宙世紀のガンダムシリーズでは戦局に大きな影響を与えている。
ただ、可変モビルスーツは当然通常のそれより機構が複雑になってしまうため、整備に膨大な時間と労力がかかるというデメリットがある。
それはガンプラでも当然出ており、可変モビルスーツのガンプラはほとんどの場合、そうした変形機構が再現されておらず、自分でそれができるように作り直さないといけない。
更にモビルアーマー形態も使いこなせるように練習しなければならないというもう1つのハードルの存在から、現在でもファイターの中で可変モビルスーツのガンプラを可変機能まで再現したうえで使用している人は少ない。
しかし、そこまですることがもしできたのであれば、どこへ行ってもエースとして通用するかもしれない。
今の勇太にとって、戦闘機形態のデュランダルはバルバトスを上回るじゃじゃ馬だ。
これでも、パイロットの全身の骨を砕くうえに内蔵を破裂させるトールギスよりもマシだというから驚きだ。
戦闘機形態の加速にある程度慣れてきたところで、後方から飛んできた赤いビームが片翼をかすめ、機体が大きく揺れる。
「後ろから敵機??これは…!!」
急旋回し、ビームの軌道を逆探知して攻撃してきた犯人を捜す。
攻撃予測地点をモニターで確認すると、そこには30メートルを超える大きさのスーパーロボット、轟龍の姿があった。
轟龍は再び持っているビームライフルをデュランダルに向けて発射する。
「やっぱり、僕を狙ってる!!く…!ピンポイントバリアを!!」
高火力のビームを発射するデュランダルに接近戦を挑むため、デュランダルを一気に加速させつつ、ピンポイントバリアを起動させる。
戦闘機形態でのみ使用できる、一部分だけを防御するシステムにすることで燃費を抑えているピンポイントバリアを両翼とコックピットに設定し、轟龍に向けて発射したミサイルをビームを撃って爆発させることでフラッシュバン代わりにする。
爆発の光が轟龍のカメラに映り、パイロットの眼がくらんだのか、一瞬動きが止まる。
「もらったぁ!!」
一気に高度を上げ、轟龍の真上を取ったデュランダルが回転しながらビーム砲を連射する。
30メートルを超える大型機だけあり、強固な装甲は何度もそのビームを受け止めるが、一点集中の射撃が功を奏したのか、装甲を突破することに成功する。
「ぐううう…とどめは、これだあ!!」
急旋回と同時に人型に変形することで発生する強いGに耐えながら、とどめの 重量子ビームガンポッド・バーストモードを叩き込む。
撃ち抜かれた轟龍は大爆発を起こすとともに消滅した。
「はあ、はあ…疲れた…」
「んもう、熱中するんならガンプラバトルシミュレーターでしなよー」
1階フロアでジュースを買ってきたミサが不満を漏らしながら、ゲームセンター近くのベンチで休む勇太にそれを渡す。
結局勇太は2時間近く戦闘を続け、デュランダルの性能を存分に満喫した。
「ごめんごめん。そういえば、おもちゃ屋さんは見てくれた?」
「うん。やっぱり勇太君の言う通り、ガンプラ置いてなかったよ。どうしてなんだろう?まぁ、その方が商店街は助かるけど!」
勇太が飲み終えたのを確かめたミサは背伸びをし、近くにある階段まで走っていき、勇太に手を振る。
「早くいこーよー!もうすぐで5時になっちゃうからー!」
「分かった!すぐ行くよ!」
(タイムズユニバース…ガンプラに全く手を出していない…)
百貨店でのことを思い出し終えた勇太はスマートフォンを出し、ガンプラバトル世界大会の協賛企業及び出場企業の名前を調べ始める。
その中には、大手企業から聞いたことのない中小企業まで、数多く存在するのだが、やはりタイムズユニバースの名前が出ていない。
(どうしてなんだろう…?今ではガンプラは世界共通になってるのに…)
「勇太、ミサ、見えてきたぞ」
「うわあーーーー!!勇太君、見てよあれ!!」
後ろから座席をバンバン叩く音が聞こえ、考えを止めた勇太はミサの言う通り、左側の景色を見る。
「あれは…」
「ジャパンカップ会場、名古屋ガンプラドームだ」
1分の1スケールのガンダム、ユニコーンガンダム、エクストリームガンダム、ガンダム・バルバトスを四方に置き、地元のナゴヤドームの倍近い大きさのドームが見え、ミサは興奮する。
(兄さん…)
一方、勇太は少し悲しげな表情を見せる。
本当なら、10年前に兄と一緒にジャパンカップに出るはずだった。
しかし、あの事故のせいでそれが幻となり、今ここには勇武がいない。
「勇太君!」
「何?ミサちゃん」
座席の上に手を置き、グイッと頭を上げたミサが上から勇太を見下ろし、ニコリと笑う。
「絶対優勝しようね!!」
「うん…」
ミサの笑顔に釣られるように、勇太の表情が明るくなった。