「はあ…まさか、同じクラスだなんてなぁ…」
昼休みになり、1人で教室を出た勇太は朝に出会ったミサのことを考えながら廊下を歩いていた。
右手には先生から渡された入部届を握っている。
「この高校の部活に入るなら、来週末までに提出しろって、言われたけどなぁ…」
勇太は中学、そして前の高校で部活に入ったことがない。
野球やサッカーやカードゲームといった、同年代に流行の物を多少なりともやっては見たものの、どれも熱を入れたくなるほどのものと感じることができず、何を目標にすればいいのかわからない根無し草。
それが今の勇太だ。
「うん…?」
「まったく、また勝手にポスターを貼って…」
そんな中、ため息をつきながら1人の教師が掲示板に勝手に貼られているポスターをはがしていた。
「あの、そのポスターは…?」
「ん?ああ、なんでも彩渡商店街ガンプラチームのメンバーを募集しているようだ。勝手に校内の掲示板に貼るな、と言ったのに、また…」
「彩渡商店街ガンプラチーム…?」
「ああ。なんでも、彩渡商店街を復興するために、ガンプラチームを作って宣伝をしたいらしい。気持ちは分かるが、決まりは守ってもらわないとな…」
そういいながら、教師はポスターをもってそのままその場を後にした。
「…はぁ、またガンプラ…。もうガンプラバトルはしないのに…」
ポスターがあった場所を見つめながら、勇太はため息をつく。
初めてお台場でガンプラバトルが行われてからすでに30年が経過し、世界各地でガンプラバトルが流行の最先端を突き進んでいる。
ガンプラバトルに興味がなくても、何らかの形でその名前やバトルシミュレーターを目のすることがある。
だが、もうガンプラバトルをしないと決めた勇太にとってはそれが苦痛になっていた。
「うわーーー!!まーた剥がされてるーー!!」
「うん…?」
後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには頬を膨らませて怒るミサの姿があった。
ポスターを回収するためだろうか、背中にはリュックサックを背負っている。
「うがーーちょっとぐらいいいじゃん!!また作らないとなぁ…」
「…まさか、商店街のガンプラチームのこと…?」
「え…?勇太君、見てくれたの!!?」
目をキラキラさせながら、思いっきり勇太に詰め寄る。
あまりにも急で至近距離まで迫ったこともあり、エビぞりになりながら翔太は首を縦に振る。
「じゃあさじゃあさ、私のチームに入って、ガンプラバトルに復帰しない!?」
「…はぁ!?」
「だってさー、もったいないよー。あんなにすごい腕前なのに…」
「腕前は関係ない!!」
急に大声を出されたことで、ミサは驚いて後ろに下がる。
ついかっとなってしまったことを自覚した勇太は視線をミサからそらす。
「ごめん…。でも、それが問題じゃないんだ…」
そういってから、勇太はその場を後にしようとする。
「…もしかして、お兄さんのこと…?」
「…何?」
話したこともないのに、兄のことを知っているかのような口ぶりのミサに驚いた翔太は振り返る。
「なんでそれを…」
「えっと、昨日君が名前を教えてくれたじゃん。それで、10年前に事故で亡くなった勇武さんと同じ苗字だから、もしかしたらって思って…。私ね、勇武さんの試合をテレビで見て、ガンプラバトルをやりたいって思ったの!」
『青い閃光』の異名をとるほどの腕前を誇り、マスコミに紹介され、人気を得た勇武ならこういうファンがいても当然だろうと勇太は思っていた。
だが、こうして目の前でそういう人と出会ったのは初めてだった。
「それに…商店街を歩いたなら、見たでしょ?すっかりさびれちゃってるけど…昔はすごく繁盛していて、いっぱい人がいたんだよ。お父さんがよく、そのころの彩渡商店街のことを話してくれた。…だから、私はもう1度そのころの彩渡商店街を見たい!だから…だから…私と一緒に、ガンプラバトルをしてください!!」
目に涙をため、必死に訴えたミサは思いっきり頭を下げて勇太に懇願する。
「井川さん…」
間違いない、彼女は本気だということは勇太に十分伝わっている。
だが、どうしても勇武のことが頭から離れない。
あの時、たった1人で死んでいった兄のことを思い出してしまう。
「ごめん…。僕にはできない。別の人を誘ってくれ…」
彼女の姿を見ないように、目をそらしながらそういった勇太は彼女からすれ違うようにその場を離れようとする。
「待って!」
急に勇太の腕をミサがつかむ。
あきらめきれず、しぶとく誘うだけだろうと予想した勇太は彼女を見る。
「ならせめて…これだけは返させて!!」
そういって、ミサは背負っているカバンを降し、その中にあるガンプラの箱を勇太に渡す。
「これは…」
「昨日、君が使ってたバルバトス。ちゃんと、完成させてるから…。自分で作ったガンプラは最後まで自分で面倒を見なさい!」
ビシッと指をさして叱るように言ったミサはカバンを握ってその場を走り去った。
1人残された勇太は箱を開け、中に入っているバルバトスを見る。
「太刀と滑腔砲…色塗りまで…」
箱の中に眠る、完成したバルバトスを手にした勇太はじっとミサが走り去った廊下を見た。
「…はぁ、なんでまた僕はここに来ているんだ…!」
放課後になり、やることが思いつかない勇太は勝手に彩渡商店街に来ていた。
宿題を学校で済ませたうえで帰宅しており、まだ部活に参加している生徒が下校する時刻ではないものの、商店街は相変わらず人があまりいない。
ふと、勇太は公園の近くにある掲示板を見る。
そこには学校で剥がされたばかりのミサのポスターが貼られている。
ため息をついた勇太はそのポスターを見ないように歩いていく。
「あぁ…よかった!!この前のお兄ちゃんだ!」
「え…?君は…」
大声を出し、目の前から走り寄ってきた、前に勇太が助けた少年が勇太の手をつかむ。
「お兄ちゃん、お願い!!ついてきて!!」
「ついてきてって…これじゃあ連行するの間違いじゃ…」
力が勇太のほうが上のため、やろうと思えば振り払える。
だが、さすがにそんなことをしたらかわいそうだと思ってしまい、それができなかった勇太はやむなくこのまま連れていかれることにした。
当然、その場所はゲームセンター。
そこのバトルシミュレーターの状況を示すテレビの前で手を離した。
「これは…」
それを見た勇太はなぜ彼がここまで連れてきたのかが一瞬で分かった。
テレビに映っているのは月面の光景で、昨日勇太が倒したタイガーのガーベラ・テトラ、そしてグレイズのバズーカを装備したマクギリス・ファリド専用のシュヴァルベ・グレイズとランスユニットを装備したガエリオ・ボードウィン専用シュヴァルベ・グレイズが白とピンクを基調としたアカツキベースのガンプラを追い詰めていた。
ピンクのガンプラの近くには装備していたザクマシンガンの残骸と弾切れでパージした片方のバズーカがあり、右足は関節部分から完全にもげている。
なお、バトルシミュレーターはこの店には3機あるが、今、プレイヤーがいて、動いているのは1機のみ。
おそらく、タイガーとその仲間は別の店のバトルシミュレーターを使っているのだろう。
「タイガーのやつがまた初心者狩りをしていたんだ!それで、ミサ姉ちゃんが止めに来たんだけど、そしたらあいつ、仲間を呼んで…!」
「ミサ…井川さんのことか。けど、さすがに3対1じゃあきつい…」
「こんのぉぉぉぉ!!まだ負けてない、私も…私のアザレアも!!」
カガリ・ユラ・アスハのデスティニー時代のノーマルスーツをオレンジ色の部分がピンクに変更されただけのものを着たミサが白とピンクのガンプラ、アザレアのコックピット内で叫ぶ。
そして、装備しているケンプファーのバックパックのバズーカを手にし、スラスターを使って宙を舞い、バズーカを発射する。
しかし、弾速が遅いことから余裕で回避され、更にシュヴァルベ・グレイズがランス・ユニットを前面に押し立てたまま突っ込み、そのバズーカを貫き、破壊してしまった。
「ああ、バズーカが!!」
(これで俺の勝ちだ!よくも今まで俺をコケにしてくれたよなぁ…クソ女ぁ!!)
背後を取ったタイガーがザクマシンガンを連射する。
「きゃあああ!!」
バックパックが小規模な爆発を起こし、スラスター出力が低下したアザレアがそのまま落下する。
左右には2機のシュヴァルベ・グレイズ、そして背後のはガーベラ・テトラ。
「だめだな…。これは、彼女の負けだ…」
そういって、勇太はその場を後にしようとする。
「待ってよ!ミサお姉ちゃんを助けてくれないの!?」
「たかがガンプラバトルだ。それに、彼女とは何も関係は…」
「あきらめない…!まだ終わってない!!」
地面に落下したアザレアが両腕を使って起き上がろうとしている。
しかし、ここまでの戦闘でその腕にもダメージを追っているらしく、何度も腕が曲がって倒れてしまう。
「あきらめろ!てめぇなんかに…俺たちに勝つことも、商店街を救うこともできねえんだからよぉ!!」
「あきらめない!私は…全国大会に優勝して、もう1度商店街を…!!」
「…あきらめない…」
ミサの言葉を勇太は反復するように小さな声で口にする。
「あっちゃー、悪い勇太。負けちまった」
これは勇武がまだ生きていたころのこと。
初めて全国大会に出場した勇武だったが、完成したばかりのダブル・フィン・ファンネルの制御がうまくいかなかったこともあり、1回戦で負けてしまった。
運営が用意したホテルの一室で、勇太にそのことを詫びる勇武だが、悲壮感が一切見られない。
なお、両親はホテルで夕飯を食べれるよう弁当を買いに行っている。
「それにしては、あんまり悲しそうにないね…。どうして?兄ちゃん…」
なんで負けたことを笑っているのかわからない勇太は勇武に尋ねる。
普通、負けたなら本気で悔しいと思うだろうし、悲しくて泣いてしまうのではないかとばかり思っていた分、勇武が異常に思えたためだ。
「あきらめてねえから、だよ」
「あきらめてない…?」
「ああ。今回の負けで、今後の課題が見えてきた。だから、来年の全国大会に出るために準備をする。今回の負けはそのためのステップだって思えばいいさ。それに、あきらめないでこうして戦い続ける限り、全国大会優勝のチャンスは何度だって巡ってくる」
「チャンス…」
「ま、簡単にあきらめたらそのチャンスさえめぐってこないってことさ、勇太!」
「…」
勇武のことを思い出しながら、勇太はカバンを開け、ミサが完成させたバルバトスを取り出す。
「カバン…見ていて」
「え…?お兄ちゃん!?」
勇太は急いでもう1つのバトルシミュレーターに入る。
自分が使用するガンプラをセットし、バトルシミュレーターのドアを閉める。
「機体セットアップ完了。アバター入力…終了」
設定パネルへの入力完了と同時に、勇太の衣類が昨日の耐圧服に変わっていく。
腹部あたりにある酸素ボンベとつながっているチューブをヘルメットの口元に装着し、額にある赤いレンズのゴーグルを下げる。
すると、同時に網膜投影が開始されて、バルバトスの視界と自らの視界がリンクする。
視界にはコックピットの中ではなく、カタパルトと格納庫の中の光景、そしてハッチが開いたことで広がる月面の光景が見える。
「いうつもりはなかったけれど…。沢村勇太、バルバトス、出るよ」
カタパルトが起動し、勇太が乗るバルバトスが戦艦を飛び出していく。
そして、すぐに背中のバックパックのサブアームを起動させて左側のウェポンラックについている滑腔砲を左手で握りながら、即座に足を止めているガエリオ専用のシュヴァルベ・グレイズに照準を合わせる。
「井川さんに注意を向けすぎている今なら…!」
照準セットが終わると同時に滑腔砲が発射された。
「なんだ…?」
新しいガンプラの反応にいち早く気づいたガエリオ専用のシュヴァルベ・グレイズに乗る不良がその方向に目を向けようとする。
しかし、それと同時に胸部が針状の弾芯に貫かれ、撃墜認定されて爆発し、消滅する。
ナノラミネートアーマーであれども、コックピット部分の装甲は薄く、そこへ自分からあたりに行く格好となった。
「飯田!?クソッ!!奇襲かよ!?」
「あのバルバトスって…まさか、勇太君!?」
バルバトスの姿を確認したミサはなぜ勇太がここにいるのかわからなかった。
ガンプラバトルをしないと決めた彼がどうして。
月の重力に引かれ、落下するバルバトスはそのまま滑腔砲をタイガーのもう1機のシュヴァルベ・グレイズの周囲に向けて何度も発射し、巻き上がる土で視界を奪っていく。
相手に当たらないように、あえて周囲に着弾するように発射していたこと、そして滑腔砲の威力を感じたこともあり、2機は動かずにマシンガンを撃ちながらやり過ごした。
十分に相手の視界をふさいだうえで着地したバルバトスは左手の滑腔砲を投げ捨て、両手でメイスを握って思い切り横に振り回す。
上空にばかり気を取られ、横っ腹にメイスが直撃したシュヴァルベ・グレイズは吹き飛んで岩に激突、そのまま爆発した。
「渋木まで!?くっそぉ、またてめぇかよ!?」
メイスを振った勢いで舞い上がった土が吹き飛び、バルバトスを見たタイガーは怒りながら叫ぶ。
「勇太君…なんで…?」
ミサを守るように、前に立った勇太のバルバトスの背中を見ながらミサはつぶやく。
「…僕にも、分からない。…いいや、違うか。放っておけなかっただけか…」
「放っておけなかったってぇ?はぁ!?ヒーロー気取りかよ、てめえ!!」
日頃の恨みを晴らす絶好のチャンスを台無しにされたことに怒ったタイガーはグランドスラムを手に突っ込んでいく。
勇太はそれをメイスで正面から受け止める。
「この前も邪魔をして…なんなんだよてめえは!!」
「…名乗るつもりはなかったけど、あえていうよ…僕は!!」
そう叫ぶと同時に出力が上がったのか、徐々にガーベラ・テトラを押していく。
「な、お、俺が…力負けしてる!?」
「僕は沢村勇太、この前あんたが言っていた沢村勇武の弟だ!」
「な、にぃ!!?」
力押しでは無理だと思い、わずかに後ろに下がったタイガーはそのままグランドスラムでメイスの持ち手を斬る。
メイスは攻撃する部分が頑丈で分厚く仕上がっているものの、持ち手部分は細く、実際にアニメでもグレイズのバトルアックスで容易に切られている。
「くたばれぇ!!」
これでメイスは使えないと思い込んだタイガーがそのまま盾に両断しようと思い切りグランドスラムを持ち上げる。
だが、次の瞬間、コックピットに強い衝撃が走る。
「なっ…!?」
ガーベラ・テトラのメインカメラを下に向けると、コックピットにはメイスの上部分が突き立てられていた。
「終わりだ…!」
その言葉と同時に、メイスについているパイルバンカーが起動し、杭がコックピットに深々と突き刺さった。
「ち…ちっくしょおおおおお!!」
タイガーの叫びと共に、ガーベラ・テトラが爆発した。
「あ、ありがとう…」
ゲームセンターの外で、ミサが勇太にお礼を言う。
「別に大したことはしてないよ。バルバトスを完成させてくれたお礼をしたかっただけだよ」
「そ、そっか…。じゃあ…」
きっと、チームに入ることを応じてくれるはずがない。
そう思ったミサはそのまま立ち去ろうとした。
「目指すのは全国大会優勝。それぐらいやらないと、商店街の名前は全国に広がらないよ」
「え…?」
予想外の言葉に耳を疑ったミサはじっと勇太を見る。
「…1シーズンだけだ。1シーズンだけ、君のチームに入る」
「勇太君…」
「だから…本気でそれを目指そう。井川さん」
「…ミサ、でいいよ。ありがとう、勇太君!!」
満面の笑みを浮かべ、ぎゅーっと勇太に抱き着く。
「ちょ、ちょっとミサさん!?」
母親以外に威勢の女性に抱きしめられたことのない勇太は戸惑い、顔を赤くしながらミサを見る。
「さん付けは他人行儀な感じでヤダ!どうせなら、ミサちゃんって呼んでよー!」
「うう…わかったよ、ミサちゃん…」
「ほぉぉ、ようやくゲーセン通いの寂しい女子高生にも春がきたもんだ」
昨日、ゲームセンターでミサを出迎えた老婆、鈴森衣良人がニヤニヤ笑いながら勇太とミサを入り口前からインフォと一緒に見ていた。
この後、ミサが顔を真っ赤にしてイラトとインフォ、およびゲームセンターの客に弁解していたのは言うまでもない。
機体名:バルバトス(第2形態)
形式番号:ASGT-00B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:滑腔砲
格闘武器:メイス
頭部:ガンダムバルバトス
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ガンダムバルバトス(射撃武器の滑腔砲及び太刀をマウント)
腕:ガンダムバルバトス(第4形態)
足:ガンダムバルバトス
盾:対ビームコーティングマント
勇太がミサに押し付ける形で譲ったバルバトスをミサが完成させたもの。色塗りが施され、最低限にとどまっていたシールも貼られている。また、太刀と滑腔砲も完成したことにより、遠距離での戦闘もある程度可能となっている。なお、メイスを使用する都合上、盾が邪魔になることから、その代替措置としてタイガー戦後に対ビームコーティングマントが装備されることとなった。
ちなみに、形式番号であるASGTは「Ayato Shopping street Gunpra Team」の略で、Bはバルバトスを表しており、また番号が00なのはあくまで1シーズンだけの助っ人だというのが勇太曰く。