型に囚われず、自由な心でガンプラを作るという考えは共通しています。
「ああ、もう!上からどんどん撃ってきてぇ!」
アンヘル・ディオナとレコードブレイカーの2機の上空からの攻撃に地上でGNフィールドを展開しながら耐えるミサは勇太を助けに行けない自分に歯がゆさを覚える。
レコードブレイカーのジャミングのせいでいまだに勇太と通信を繋ぐことができず、レーダーも反応しない。
GNフィールドの中に入っているフルアーマー騎士ガンダムがアザレアに触れ、接触回線を開く。
「ミサ!レコードブレイカーとは違い、あのアンヘル・ディオナの機動力が低い。あの機体が武器コンテナを背負い、補給しているということは、あの機体を落とせば、あのチームの攻撃力を低下させることができる」
「そっか!じゃあ…!」
ビームと実弾の嵐が収まると同時に、GNフィールドを解除したアザレアはGNキャノンにビームを収束させていく。
「ビーム!させないわ!!」
ケイコはコンソールを操作し、武器コンテナの両サイドに搭載されている小型の筒状の武装からビーム攪乱幕を放出する。
上空にオレンジ色のきらきらと光る粒子が両者を遮るように展開される。
どんなに出力の高いビームでも、ビーム攪乱幕の前には手も足も出ない。
しかし、ミサはためらいなく引き金を引き、GNキャノンを発射する。
ビームはビーム攪乱幕を前にむなしく霧散していく。
「ビームへの守りは基本です!!」
「でも、これで注意はこっちに向いた。ロボ太!」
「うおおおお!!」
ビルの屋上からジャンプをしたフルアーマー騎士ガンダムが電磁スピアの穂先をアンヘル・ディオナに向ける。
スラスターを使わず、純粋に両足だけでジャンプしていたことと前方のビームに気を取られていた恵子はまさかの警告音に目を大きく開く。
「遅い!!」
電磁スピアが武装コンテナを貫くと同時に、高圧電流を流し込む。
とっさにアンヘル・ディオナは武装コンテナを強制排除したため、本体に電流が流れ込むことはなかった。
だが、電流を受けたコンテナ内部の武装は使用不能となり、これで3機の武装の補給は不可能となった。
「これで攻撃手段は封じた!ならば、引導を渡す!」
武装コンテナのないアンヘル・ディオナはそれほど怖い相手ではないはずだった。
「ごめん…みんな!!」
本選1回戦、できれば使いたくないものを使わなければならなくなったことを仲間に詫びながら、彼女はシステムを起動する。
槍で貫かれるはずだったアンヘル・ディオナの本体が姿を消し、驚いたロボ太は周囲を見渡そうとしたとき、背後から何者かに蹴られ、前のめりに倒れてしまう。
「な、何!?これは…!!」
蹴り飛ばされたロボ太は地面に背を向ける形に体の向きを変える。
目の前にはバックパックはV2ガンダムのような形に変形し、光の翼を発生させているうえにツインアイが赤く光ったアンヘル・ディオナの姿があった。
「驚いたで…これをケイコに使わせるなんてなぁ」
ワタルは本選前の模擬戦であのアンヘル・ディオナと戦った時のことを思い出す。
最初はこれまでずっと後方支援をしてきた恵子にそれが使えるかどうかは不安だったが、その模擬戦で不安が吹き飛び、今ではブルッと震えてしまうほどだ。
「ツインアイが赤く光った。EXAMシステム!?」
「EXAMではない…これは、モビルスーツの性能を100%引き出し、教育型コンピュータにより最適解をパイロットに強制的に伝える…HADESシステムか!」
アンヘル・ディオナの顔にひびが入り、仮面のように割れて地面に落ちる。
そして、その奥に隠されていたペイルライダーの顔が露となった。
「まずい…来るぞ、ミサ!!」
通信がつながらないことは分かっているが、それでも危機を知らせるために叫ぶ。
アンヘル・ディオナとレコードブレイカーが光の翼を展開し、猛スピードでアザレアに接近する。
「しまっ…!キャアアア!!」
いつの間に正面にやってきたレコードブレイカーに至近距離からコックピットに向けてザンバスターを撃ちこまれたアザレアは大きく吹き飛ぶとともにコックピット内にも前後に体が大きく揺れるほどの衝撃が走る。
「確かにゼロ距離から撃ったはずやが…」
ワタルはなぜ先ほどのビームでコックピットを貫くことができなかったのかに疑問を抱く。
今握っているザンバスターの出力には問題がなく、手加減した覚えもない。
あおむけに倒れたアザレアのコックピットにカメラを向ける。
そこにはビームで黒く焦げ、剥がれた塗料が見えた。
(なるほど、誰の入れ知恵かは知らんが、ビームコーティングをコックピットにしとったというわけか)
ワタルはブルーフレームセカンドLに採用されたコックピット周辺のみフェイズシフト装甲のことを思い出す。
あの機体についてはストライクルージュ用のフェイズシフト装甲の予備を使った二重装甲という形で、外部装甲の圧力センサーの反応によってON・OFFを切り替えるという形のものだ。
至近距離から発射したおかげで、もうコーティングの機能を果たせなくなっており、次に同じ攻撃をして無事に済む保証はもはやアザレアにはない。
「ううう、勇太君が行ったとおり、分厚くコーティングしといてよかった…」
機体を起こしたミサは機体出力と残弾の確認をする。
GNキャノンは粒子の最充填が必要で、まだチャージが完了していない。
持っていたビームマシンガンは先ほどの攻撃の衝撃で手放してしまった。
使える武器はビームサーベルとミサイルのみ。
「まだ生きてるなら、もう一撃!」
上空を飛ぶアンヘル・ディオナの光の翼がY字の巨大なビームサーベルのような形となり、アザレアに向けて飛んでくる。
Vガンダム本編で登場していないザンスカールの試作モビルスーツ、ザンスパインの光の翼を転用しており、そちらは最初から武器としての使用が想定されているため、V2ガンダムの光の翼よりもビームサーベルへの展開のタイムラグが短くなっている。
ビルや道路をかすめた個所が砕け、放置された車がビームサーベルの熱でドロドロに溶けていく。
直線的だが、その分スピードがある上に巨大なビームサーベルが迫ってくる恐怖から、ミサは機体を動かすことができなかった。
「ミサーーーー!!」
アザレアを救出すべく、フルアーマー騎士ガンダムが走ろうとするが、上空からビームが振ってきて、マントにも命中する。
更に、ビームの弾幕の中に隠れたグレネードランチャーが電磁スピアに命中し、爆発と共にそれが破損してしまった。
「くうう…!」
「これで一機や、恵子!!」
「ええーーーーい!!」
「ミサーーーーー!!」
アンヘル・ディオナの光の翼の中にアザレアの姿が隠されていく。
その場所に爆発が発生し、光の翼を元のミノフスキー・ドライブとしての機能に戻したアンヘル・ディオナが上空で制止する。
「はあ、はあ、はあ…」
光の翼の圧倒的な加速Gを受けたケイコは疲れ果て、痛みを感じながら息を整える。
光の翼のGはトールギスレベルで、HADESによってその加速性能を押し上げているため、より肉体にも影響が出る。
あくまでガンプラバトルのため、内蔵や肉体に影響はないものの、痛みは軽減された状態で再現されるため、体中に痛みがある。
もし現実にHADESと光の翼を組み合わせたとしたら、あまりのGで戦う前にパイロットが命を落としてしまうだろう。
たとえ、Gに耐性のあるコーディネイターや強化人間が乗ったとしてもだ。
自分がどれだけ無茶苦茶なことをしたのかをケイコは改めて感じていた。
(でも、いい…。私も、前に出たいから…)
大阪ガンプラ同盟は元々、ケイコが作ったもので、そこにクラスメートであるワタル、そして彼が誘う形でホウスケも加わった。
元は2人だけのチームで、昨年度まではリージョンカップに出れるか出れないかという状態だった。
しかし、ホウスケが加わったことで一気にジャパンカップ本選出場の切符を手に入れることができた。
(さすがや…ホウスケ。ガンプラ心形流を学んどるだけある)
「はあ、はあ、はあ…」
「どうしたんや…息する声がこっちにも聞こえてきとるで?」
「ちょっと休憩しただけだよ…。早く君を倒して、ミサちゃんとロボ太を助けに行く…」
戦闘を続けたことで、何度か被弾したバルバトスの装甲の各所に溶けている部分があり、両手の希少金属製の爪にも刃こぼれが生じている。
ケストレルも左足や右腕にビームサーベルの出力が若干安定しておらず、ツインアイの左目が傷つき、赤いライトが露出している。
その影響がコックピットの全周囲モニターにも影響しており、一部の映像がブラックアウトしている。
どちらも飛び道具を使わず、ビームサーベルと太刀だけで戦い続けており、戦闘スタイルも対照的だ。
出力を利用して一撃離脱を繰り返すケストレルに対して、バルバトスは動きを最小限にとどめて、太刀で受け止める受け身の形だ。
ただ、勇太はこうした形のスタイルを始めてやるためか、要領をつかみ切れていない部分があるようで、実際先ほどの突撃は反応が遅れて太刀で受け止めることができず、やむなく左腕全体でそれを受ける形となった。
実際、装甲にひびが入り、左二の腕のフレームが若干肉眼でも見えるくらいだ。
(バルバトスはバランスが取れた機体…だからその分、一部の性能が過剰に高い…キマリスみたいなモビルスーツへの対応が難しい…。なんでもできるようで、何もできない…か)
父親がよく読んでいたどこかの竜の騎士の物語で、主人公の相棒役の大魔導士が言っていた言葉をなぜか思い出してしまう。
勇者とはどういう存在かを端的の表現したもので、実際今のバルバトスと重なってしまう。
(こうして、戦っていると思いだすで…。初めて、ガンプラ心形流に触れたときのことを…)
小学生の頃、引っ越したばかりのホウスケは内気な性格のために学校になじむことができず、時折学校をさぼることがあった。
そのサボリの中、通学路にある小さな家電屋のショーウィンドウに飾られていたテレビで、彼はガンプラバトルの一派といえるガンプラ心形流の創始者である老庵のバトルを見た。
10機近いガンプラを相手に彼は改造したクーロンガンダム1機で攻撃を受けることなく勝利を収めていた。
元々、ミサの影響でガンプラやガンプラバトルに興味を持っていた彼は両親を説き伏せ、休日に老庵がいる京都のガンプラ心形流道場の門をたたいた。
そして、ちょうど自分の誕生日の日に初めて老庵と修業をする日が来た。
「ふぅーーーむ…」
真っ白で長い口ひげを生やし、作務衣姿をした老人、老庵がじーっとホウスケの顔を見る。
当時は引っ込み思案な一面の強いホウスケは怖がりながらも足を動かすことができず、じっと彼の視線に耐えることしかできなかった。
「な、なんですか?僕は…」
「うーん、そうじゃな。よし、まずはそばでも食いに行くか!」
「そ…そばぁ?」
これがホウスケの修行の第一弾となった。
京都にある立ち食いそば屋に連れていかれ、大勢の昼食中のサラリーマン達がいる中でそばを食べることになった。
大勢の知らない人に囲まれたホウスケが縮こまる中、老庵はズルズルと音を立てながらそばを食べ、更にお変わりまで要求していた。
「ほれ、ワシのおごりなんやから早く食え。のびるぞ」
「そ、そんなこと言われても…」
周囲は大人ばかりで、自分のような子供はいない。
とても場違いな空間に感じられて、萎縮してしまう。
「なぁーに、そんなこと誰も気にせん。みーんな、次の取引先で何の話をするか、家に帰って浮気疑惑をどう釈明しようか、夜の店でどこへ行くかを考えておる。周りを気にする暇なんてないんじゃ」
「浮気疑惑って…」
「周りに気を使うのはいいことじゃが、度を超すと自分を見失う。周りに誰がいても、バクバクそばを食うぐらいの自由くらいあってええんじゃないか?」
周りに気を使う、ホウスケにとっては思い当たる言葉だった。
周囲になじむよう、周囲と軋轢を起こさないように…。
当時のホウスケはいつも周りのことを考えていた。
そのため、教師などの大人からの評判はいいが、幼馴染のミサを除いて、転校前の友人はあまりいなかった。
趣味のガンプラも、ミサ以外の友人には教えていないし、大阪ではガンプラの話に入ることも、その話を切り出すこともできずにいた。
場違いなことを言って、嫌われるのが嫌だったから。
「ん…?もしかして、かけそばじゃあ不満か。おーい!」
「へい!」
「この子のそばにトッピングのエビフライとかまぼこ、それから…わかめを追加。それから、天かすをたっぷりとなぁ」
「かしこまりましたー!」
「え、ええ!?」
少し時間が経つと、老庵のおかわりのそばと共に彼が注文した追加トッピングがホウスケのそばに入れられていく。
富士山のように積まれた天かすに息をのみ、もはやメインがそばなのか天かすなのかわからなくなってしまう。
「さあ、これを食ったら、今度は川釣りじゃ。しっかり食って、バテんようにするんじゃ」
ズズズとおかわりのそばを口にする老庵を見たホウスケのおなかが鳴る。
速く食べないと、またわけのわからないトッピングをされるかもしれないと思い、ホウスケはズズズと一気にそばを飲み込んでいく。
だが、いきなりのどに詰まったように、バンバンと胸を叩きつつ、氷がほとんど溶けた水を飲んだ。
「ホッホッホ。若者はこれくらいの食べっぷりでないとのぉ」
「ううー、暑いー…」
そばを食べ終え、今度は川に連れていかれたホウスケは麦わら帽子で日よけをしつつ、自分の浮きの動きを見ていた。
隣には老庵が座った状態で釣りをしており、座ったまま姿勢を崩していない。
「釣れないなー…。でも、これガンプラの役に立つのかなぁー…」
釣りを始めて2時間が経過するが、ホウスケのバケツにはまだ1匹も魚が入っていない。
老庵のバケツには既に3匹の魚が入っている。
ホウスケはなぜ自分がこんなことをしているのか、まだわからなかった。
今日はそばを食べるのと釣りをしているだけで、まだガンプラに関することを何一つしていない。
こんなことで何かプラスになるのかと疑問を抱く。
もしかして、彼は教える気なんてこれっぽっちもないのではと疑う中、ウキが動き始める。
「やった、かかった!!あ、老庵師匠!かかって…」
同時に老庵のウキも動いたため、急いで伝えるが、なぜか老庵はウキに視線を向けたままなにもしようとしない。
不動を貫いていて、ホウスケの声にも何も反応を見せない。
(も、もしかして…常に平常心を保つための修行!?これって…!)
ネット上で、老庵とガンプラ心形流は有名で、そんな彼が無駄なことをするはずがない。
テレビで見たようなあのすさまじいバトルを見せる彼だから、他では思いつかないようなこんな修行をしているのではないか。
(じゃ、じゃあ…僕も!)
老庵を真似して隣で座り、どんなに浮きが動いてもそのままの姿勢を崩さないようにし始める。
水と風の音だけが聞こえ、だんだん心が落ち着いてくるように思えた。
(きれいな音…気持ちいい…)
まるで、カミーユがガンダムMk-Ⅱに乗って初めて宇宙に出たとき、帰ってきたかのような心地よさを抱いたような感じだ。
「もしかして師匠!精神統一のた…?」
「…」
老庵を見たホウスケの開いた口が塞がらない。
彼は猫背になり、鼻提灯を作りながらぐっすり眠っているだけだった。
おまけに、ホウスケの竿にかかった魚は既に逃げ出していた。
「ああ、もう!なんて自由な人なんだよ!!」
(周りに気を使うのはいいことじゃが、度を超すと自分を見失う。周りに誰がいても、バクバクそばを食うぐらいの自由くらいあってええんじゃないか?)
急に、そば屋で言われた言葉を思い出す。
老庵は周りなんて気にせず、食べたいものを食べ、寝たいときに寝ている。
こんな図太さは自分にはない。
呆れてしまうものの、どこかあこがれてしまう。
(そうや…ガンプラ心形流で、ガンプラバトルで、俺は自分を変えることができたんや)
修行はガンプラづくりとバトル練習をすることがあれば。山登りや食べに行くときもあるなど、とにかく自由で、それに振り回されることがあった。
だが、それによって本当の自分を徐々に解き放つことができるようになっていった。
髪を金色に染め、ジャズ音楽を流すようになったのはそのためだ。
好きなものは好きなのだから仕方がない。
それを我慢することを辞め、さらけ出すことで、友達もでき、毎日に彩が生まれていくように感じた。
(俺が大会に出るのは、楽しみたいからだけやない。自分のバトルが、自分のガンプラが最強で、自由なんやってことを証明するためや!!)
とても単純だが、これこそがファイターにとっての至上の目的。
だが、この根っこがあるからこそ自分は戦える、楽しめる。
ケストレルはさらに速度を上げ、全身のビームサーベルを展開させたまま再びバルバトスに突っ込んでいく。
さらなるスピードで何度も突撃してくるケストレルを再び太刀で受け止めるが、さすがに限界に近付いているのか、ヒビが入り始めている。
このまま防戦一方では、太刀が折れて終わりだ。
だが、勇太も目的がある以上、あきらめるつもりはない。
(兄さんと果たすことができなかったジャパンカップ優勝を目指す。ミサちゃんと一緒に…そのためにも、負けるわけにはいかないんだ!)
志半ばで死んでしまった勇武、綾渡商店街をもう1度にぎわせるために戦うミサ。
この2人が今の勇太の道標。
あの2人だけではなく、カドマツやロボ太、サクラにタケルといった仲間と先輩。
彼らのおかげで、再び戻ってきたガンプラバトルの世界で戦い続けることができた。
今の自分の力は彼らがくれたもの、
それが最強であることを証明したい。
「君はどうだ…バルバトス!!」
勇太の言葉に応えるように、バルバトスのツインアイの光がほんの一瞬強くなる。
そして、覚醒が発動し、バルバトスが青いオーラに包まれる。
「ここで覚醒!?そうや…それを待っておったんや!!」
覚醒した以上、おそらくパワーはケストレルを上回る。
だが、お預けになった全力バトルをこれですることができる。
そうでなければ、ジャパンカップ本選で戦う意味がない。
スラスターを最大にしたまま方向を切り替え、一気に距離を離す。
「これなら見せることができる。ガンプラ心形流で見つけた、俺の自由の力!!リミッター解除や!」
ホウスケの声と同時にケストレルの全身のビームサーベルの出力が上がっていく。
それらのビームサーベルが次第に鎧のようにケストレルを纏い始める。
「ビームサーベルが鎧に!?」
「これが…!これこそが、俺のケストレルの…本当の力やぁ!!」
まるでケストレルがビームサーベルそのものになったような姿だ。
そのケストレルが突っ込んできて、今度は右の拳をバルバトスに叩き込もうとする。
例のごとく、太刀で受け止めるバルバトスだが、その一撃で太刀が粉々に砕け、バルバトスの胴体に拳が命中する。
「うわあああああ!!」
激しい衝撃と共に、ナノラミネートアーマーで強化されたはずの装甲に大きなへこみができる。
吹き飛ばされ、広報のビルにぶつかったバルバトスにはもはや爪とテイルブレード以外の武装がない。
覚醒でさらに強化されたはずの装甲にすらここまでのダメージを与えるケストレルの隠し玉に勇太は驚きを覚えた。
だが、これだけのパワーを生み出しているケストレルも無事であるはずがない。
ケストレルのコックピットは高温になっていて、おまけに装甲にもひびが入り始めている。
(そうや…ビームサーベルそのものになったこいつは長い時間闘うことができへん。こいつは本気の本気を見せるためのものや。こいつになら、それをやることができる!)
(なんだろう…ホウスケ君がこんなに全力を見せてくれている。もし…ここで逃げてしまったら、また僕は逃げていたころの自分に戻ってしまう)
バルバトスは両足を地面につけ、テイルブレードを発射することなく拳を構える。
瞬間的なパワーが覚醒状態のバルバトスを上回る相手に、これから拳で戦おうとしている。
(素手やとぉ!?自殺行為を!!)
いかにナノラミネートアーマーを採用したガンダム・フレームでも、今のケストレルの一撃を受けて無事で済むはずがない。
ひび割れた装甲が肉眼でも見える上に、後一撃加えたら確実にコックピットに甚大なダメージが発生し、撃墜判定が出る。
バルバトスがテイルブレードを放ち、ケストレルを切り裂こうとする。
「そんなもんで、止まらんでぇぇ!!」
左の拳一撃だけでテイルブレードを粉々に砕き、勢いを止めることなくバルバトスに肉薄する。
そして、右拳をバルバトスに向けて伸ばした。
(やった…!!)
これで自分の勝利を確信するホウスケだが、急に正面から激しい衝撃が襲う。
同時に、ケストレルの装甲が内部のフレームもろともミシミシと音を立てながら砕けていく。
「ん、んなアホな!?」
「はあ、はあ…届いたのは、バルバトスの拳だ…!」
接触回線で勇太の声が聞こえてくる。
ケストレルの拳はわずかにバルバトスに届いておらず、バルバトスの青く光る拳がケストレルの胸部を貫いていた。
「なん…でや…」
「君の攻撃がそれだけパワーのある者だった…そういうことだよ」
ケストレルの拳が届くギリギリのところで攻撃し、相手の攻撃力を拳に上乗せする。
正直に言うと、勇太にこれができるかどうか自信がなかったが、満身創痍の状態でケストレルを正面から撃破するにはその手しか残っていなかった。
覚醒エネルギーの拳とおそらくケストレルの最大パワーの攻撃を同時に受ける格好となり、全身をビームサーベルで包んだことによって装甲に大きな負担がかかった以上、無事で済むはずがなかった。
「すまんな…ケイコ、ワタル。完敗や…」