ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語   作:ナタタク

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第35話 赤い一撃

「ふうう…どうにか、勝てた…」

覚醒による疲労で勇太の息が荒くなる。

覚醒も解除され、強制冷却が始まる中、カウンター攻撃に使った右腕にひびが入る。

(やっぱりか…無理もない。このカウンター攻撃は…)

これはハロの中に会った勇武の戦闘データの中にあったものをぶっつけ本番で試したものだ。

あの攻撃を行うということは機体そのものにも大きな負荷がかかる。

ひびは装甲だけでなく、内部フレームにもできており、警告音と共にバルバトスの右腕が赤く光る映像が流れる。

ソロモンへの核攻撃実行の余波によって、左腕が動かなくなったサイサリスと同じように、バルバトスの右腕は勇太の操縦に答えない。

ブランと下に垂れているだけだ。

右腕だけでなく、関節部やほかの部位のフレームそのものにもダメージがあり、このままでは全力で戦うことができないことが分かる。

「破砕砲…今のバルバトスでは使えないけど…」

だが、今はミサ達と合流し、残りの2体と戦わなければならない。

破砕砲を左手だけでつかみ、バックパックのサブアームを使ってウェポンラックに取り付ける。

まだジャミングが発生しているせいで、まだミサとロボ太の居場所は分からないが、動かなければ見つけることすらできないため、スラスターは使用せず、地上を走りながら探し始めた。

 

「く…もう、盾が持たない!!」

ザンバスターの一撃でついに限界に達した盾が砕け、次に飛んでくるビームがフルアーマー騎士ガンダムの鎧に命中する。

霞の鎧には若干の対ビームコーティングがほどこされているため、命中したビームを弾いてくれたが、あと何発耐えられるかわからない。

「アザレアの後ろに隠れて!!…ああ、もう!!ミサイルは弾切れなの!?」

フルアーマー騎士ガンダムがアザレアの背後に隠れ、展開するGNフィールドの中に入る。

GN粒子を可能な限りGNフィールドに回すためにミサイルとシュツルムファウストを使い続けるが、ついに弾切れになり、空になったミサイルポッドをやむなく強制排除する。

ミサイルだけでなく、粒子残量もそろそろまずい状態になっており、このままでは動けるだけで、GNフィールドもビームも使えなくなる。

実際、GNフィールドの出力が弱まり始めており、フィールドの層が薄くなっているのが肉眼で見えるくらいだ。

「…!ホウスケの反応が消えた!?」

ケストレルの反応がロストしたことで、ワタルは動揺する。

あの彼が1対1で勇太に倒されるとは思わなかった。

だが、このバトルはあくまでチーム戦。

チームが勝てば、たとえ誰かが負けたとしても問題はない。

「これだけ出力が弱まれば…!!」

アンヘル・ディオナが再び光の翼を巨大なビームサーベルへと変化させる。

この一撃なら、GNフィールドを突き破ってアザレアを両断できる。

正面から光の翼を広げて突っ込んでくるのがミサとロボ太にも見える。

「こうなったら…ロボ太!ここから逃げて!」

「しかし、ミサはどうする!?」

粒子残量が少なく、後方支援向きの装備のアザレアではアンヘル・ディオナの攻撃を回避することができない。

それに、フルアーマー騎士ガンダムの残っている武器はナイトソードのみ。

たとえ自分が生き延びたとしても、あの2機を倒すことができない。

「大丈夫だから!だから、早く!」

「ミサ…」

モニターに映るミサは笑顔だ。

それも悲壮感のない、自信に満ちたものだ。

その自信がどこから来るのか、今のロボ太にはわからない。

だが、それを信じてみたいという思いが生まれる。

「…了解だ!!」

フルアーマー騎士ガンダムがアザレアから離れていく。

同時に、少しでもアザレアにGNフィールドを使わせるために新しいザンバスターを装備したレコードブレイカーが攻撃を仕掛け続ける。

(まだ…まだまだ!!)

GNフィールドの展開可能時間がレッドゾーンに入り、警告音がけたたましくミサの耳に届く。

このままでは持たないことは分かっている。

だが、まだここで使うわけにはいかない。

(もう少し…もう少しだけもって!!)

「これで…終わりよ!!」

ケイコの叫びと共にアンヘル・ディオナが突っ込んでくる。

アザレアがいた場所で爆発が起こり、煙が周囲を包み込む。

「ミサちゃん、ロボ太!!」

2人が戦っている場所にたどり着いた勇太はアザレアがいると思われる場所にバルバトスのツインアイを向ける。

だが、グレネードが飛んできたため、ジャンプしてその場を離れる。

「このジャミング…あのレコードブレイカー!?」

「残念やったな…!ホウスケを倒すとはびっくりしたで。せやけど…!」

今のバルバトスはボロボロで、プランと垂れている右腕からもどれだけホウスケとの戦いでダメージを負ったのかが分かる。

「く…!まだ使うわけには…!」

ビームショットガンでビームをばらまきながら、勇太は背中のバックパックの破砕砲に意識を向ける。

移動中にダメージチェックをして、破砕砲を撃てることは分かった。

だが、左手だけで撃たなければならない以上はバレルを強制排除した状態で撃たなければならず、おまけに撃てるのは一発だけ。

撃ったら間違えなく左腕が吹き飛ぶ。

だが、ビームショットガンの弾数はわずかで、テイルブレードも超大型メイスもない。

「まだか…ミサちゃん!」

「高濃度圧縮粒子、充填完了!!」

煙が晴れると、赤く染まったアザレアが両肩のGNキャノンを背中を向けるアンヘル・ディオナに向けていた。

「この反応…嘘!?」

反応を察知したアンヘル・ディオナのHADESシステムがケイコの操縦に割り込み、強引にアンヘル・ディオナの高度を上げる。

同時に、発射された大出力のGNバズーカのビームがわずかに装甲をかすめた。

「キャアアア、どうして…!?」

急激な操縦によって意識を持っていかれかけたケイコだが、その疑問は赤く光るアザレアが答えてくれた。

「はあはあ…トランザム、だよ!」

ガンダムヴァーチェのバックパックを搭載し、太陽炉を手にしたことで初めて可能になったアザレアの新しい力。

できればこの段階で発動したくはなかったが、相手が悪かった。

尽きかけていたGN粒子が一気に回復していく。

「く…!ヴァーチェのパーツをつけていたから、警戒しておけば…」

「ケイコぉ!!」

「な…!?」

アンヘル・ディオナの胴体を後ろから飛んできたナイトソードで貫かれる。

ビルの屋上にはロボ太の姿があり、2人がミサに気を取られている間にそこへ移動して、たった一発だけの攻撃の機会を待っていた。

軽量化されたアンヘル・ディオナにはその刃に耐えるだけの耐久力を持ち合わせていなかった。

アンヘル・ディオナは上空で爆散する。

「くっそぉ!んなアホな!?うわあ!!」

撃墜されたケイコのことに気を取られ、勇太のことをすっかり見落としてしまったワタルの体が衝撃で大きく揺れ、全周囲モニターの一部が一時的に消えてしまう。

「はあ、はあ…やっと、いい一撃を浴びせられた…」

バルバトスの左手には自身の右腕が武器代わりに握られていた。

シローがEz8でノリスのグフ・カスタムと交戦した際も、攻撃手段として動かなくなった右腕を無理やり引きちぎって攻撃に使った。

頑丈な高硬度レアアロイ製のフレームでは難しい行いだが、今はダメージがあったことが幸いした。

単純だが有効な攻撃のようで、レコードブレイカーの頭部パーツにはひびが入っている。

「くそ…!じゃが、ホウスケとの戦いで消耗しとるな?せやったら!!」

ここで高機動の一撃離脱戦闘で仕留めるだけ。

光の翼を展開させ、再び上空を舞う。

トランザムは長時間は発動できず、解除されるとしばらくは使えない。

トランザム前の粒子残量を考えたら、もうビームを撃つことすらできないだろう。

バイオコンピュータを最大稼働させ、強制冷却を行う。

上空から次々と発射されるビームがバルバトスを襲う。

右腕を盾替わりにするが、エイハブ粒子が届いていないため、ナノラミネートアーマーが機能せず、装甲もフレームも焼けていく。

もはや盾としても武器としても役割を果たせなくなった右腕を投げつけるが、高い機動力を持つレコードブレイカーには意味をなさない。

「もう武器はあらへんな!このまま…!?何?武器があらへんやと!?」

ワタルは目を離す前のバルバトスを思い出す。

その時は確か、ビームショットガンを使っており、バックパックには破砕砲をマウントしていた。

巨大な武器であるため、正面から見てもマウントされているか否かはわかる。

今のバルバトスのバックパックには破砕砲がなかった。

「まさ…」

「遅い!!」

うるさいほどの銃声と共に飛んできた徹甲弾でレコードブレイカーが撃ち抜か、四肢がバラバラに吹き飛んでいく。

徹甲弾の機動を逆探知すると、そこには破砕砲を握ったアザレアの姿があった。

しかし、やはり反動が激しいせいか右腕が吹き飛んでおり、おまけに機体そのものは背後のビルに激突していた。

「はあ、はあ…もう、破砕砲がこんなに反動あるなんてー…せっかくのアザレアの右腕が壊れちゃったじゃない!」

「ごめん…今のバルバトスが撃つよりも、アザレアで撃ってくれたら勝算があると思って…。でも、うれしかったよ」

ワタルからの攻撃を受ける中で、勇太はビームショットガンを弾切れになるまで撃ちまくった。

それは防御と目くらましを兼ねたもので、彼の目を盗む形でマウントしていた破砕砲を外していた。

ちょうど、アザレアの近くあたりまで。

そして、アザレアがそれを手にして、照準を合わせるまでの間にこちらはケイコに気を取られたワタルに攻撃し、ひきつけた。

打ち合わせ無しのギリギリの作戦だったが、うまくいったことで勇太は安心した。

「ま、まぁ…今年ずっと一緒に戦ってるし、それに、リーダーとしてちゃんと勇太君と息を合わせたいし…」

勇太の言葉がうれしかったミサはほんのり顔を赤く染め、バイザーをわずかに開いて人差し指で頬をかく。

「試合終了!!勝者は東京代表、彩渡商店街ガンプラチームだぁぁぁ!!!」

勝者が決まったことで、客席が歓声に包まれていく。

歓声はシミュレーターの中にも届いており、勇太はセットしていたバルバトスを見る。

やはり、ダメージは反映されており、右腕がちぎれているうえに各部に生じているダメージが肉眼でもわかるくらいだ。

早くて明日が2回戦であるため、早急に修理が必要になる。

あのガンプラはまだ完成していない以上はこちらで戦い続けるだけだ。

シミュレーターを出ると、既に出ていたミサが嬉しそうに勇太の隣に立つ。

「やったね!初戦突破だよ!!」

「ミサちゃん…これでまた一歩、優勝に近づけたね」

「うん!あ…でも、ちゃんと修理しないと…」

勝ったのはうれしいが、やはりミサは自分のガンプラが本当にダメージを受けているため、複雑そうだ。

予選以上にダメージを受けたうえに片腕が吹き飛んでしまったのでは余計にショックが大きいだろう。

「一緒に、直そう。修理用のパーツは持ってきてるよね?」

「…うん」

「ったく、やってくれたのぉ、彩渡商店街ガンプラチーム!」

ホウスケ達が勝者である勇太たちの元へ近づいてくる。

ケイコは敗北が悔しくて涙を流しており、ワタルが彼女を慰めている。

ホウスケは勇太をじっと睨みつけた後で、腹部に大穴が開いたケストレルを見せる。

「じゃが…次に勝つのは俺や!!ケストレルを復活させて、必ずお前に勝ったる!そんで、日本一の座を奪い取ったるわ!」

「ホ、ホウスケ君…それって…」

「ほなな!」

ヒラヒラと大雑把に手を振った後でホウスケは2人と一緒に控え室へと去っていく。

ホウスケの言葉はまるで勇太たちが日本一になると思っているように思えて、彼からの激励がうれしかったミサは口元を緩ませる。

「勝たなきゃいけない理由…またできちゃったな」

「いいじゃん!結局は日本一になることに変わりないし!それじゃ、お昼食べに行こ!デンドロビウム丼、今なら食べれるかも!」

「いや、さすがにそれは無理じゃないかな…?」

勇太は近くのフードコートで見つけたその丼を思い出し、顔を引きつらせる。

宇宙世紀0083での化け物といえるデンドロビウムの名前が入ったその丼はご飯がお茶碗3杯分入っていて、そのうえにモヤシ半袋に千切りキャベツの山が乗る。

そして、とんかつが100グラムにヒレかつが100グラム、大きなエビフライが2本に唐揚げが6個。

ローストビーフが塊で2つ入り、追い打ちと言わんばかりにハンバーグまで入っている。

そんな重量のあるものをこれだけのバトルをした後でも食べる気にはなれなかった。

 

「おまたせ致しました。こちら、ヴァル・ヴァロバーガーです。出来立てですので、火傷にはご注意くださいませ」

「やったー、いっただっきまーす!」

目の前に置かれた巨大バーガーに勇太は顔を引きつらせる。

自分の顔ぐらいの大きさのバンズにパティ3枚にチーム2枚、目玉焼き1つにシュレッドレタスが両手掴みくらいの量、そしてとどめに分厚い衣のチキンが2つの大きな鋏付きで挟まっている。

デンドロビウム丼はさすがに食べれない可能性が高いと勇太からの説得を受け、彼女が譲歩した結果がそれだ。

すごいボリュームには変わらず、女の子がそれを食べていいものなのかと疑問を感じてしまう。

「ったく、そんなモン注文しやがって。安くねえんだぞ…?」

「ごめんなさい、カドマツさん…」

「いや、お前の場合はもうちょっと食え。ポテトLくらい付けてもいいんだぞ?」

勇太のトレーの上にあるのは一番安い普通のハンバーガー1つと水が入ったコップだけだ。

おごりで食べさせてもらうということで、遠慮しているのかもしれないが、セットを頼んでくれてもよかったのにと思えてしまう。

そんなカドマツの思いを気にすることなく、勇太はハンバーガーを口へ運ぶ。

勇太がそれだけにしたのは遠慮以外にも、早く部屋に戻ってガンプラを直したいと思っていることも大きい。

フレームがガタガタになった以上は一回ばらして直さなければならず、更なる補強まで必要になる。

勇太の脳裏にはアミダ専用の百錬が浮かんでいる。

アミダ専用の百錬は一般のそれとは異なり、木星メタルがエイハブ・リアクターやフレームに使われているため、強度や反応速度などの性能が高くなっている。

それを組み込むことができれば、もう少しバルバトスをパワーアップできるかもしれない。

そして、今作っているあれにも参考にできるかもしれなかった。

「しょうがねえなあ…すみません。こいつにポテトLを追加で」

「え…?カドマツさん…」

「いいから食っとけ。しっかり食わねえと体が持たねえぞ」

「そうだよ、勇太君!しっかり食べて、英気を養って…もぐもぐ」

「おめーは少しは遠慮しろ」

「はは…ありがとうございます」

2人の気遣いに感謝しつつ、勇太は腕時計で時間を調べる。

そろそろサクラのいるチームの試合が始まる時間帯で、フードコートのモニターにも試合映像が流れ始める。

舞台はドルトコロニーで、コロニー内の重力下地域と周辺の宙域が戦場となる、宇宙と地上の両方の環境が存在する珍しい環境だ。

宇宙にはグレイズやスピナ・ロディの残骸があふれている。

「まったく、この状況はまずいわね…」

デブリに隠れるサクラの頬を一筋の汗が流れる。

仲間2機の反応がまだ残っており、損傷軽微のようで、今は全員コロニー内か宇宙のデブリに隠れている状態だ。

戦闘に入ってから、サクラ達は一度も相手のガンプラを見ていない。

それにもかかわらず、攻撃を受けており、先ほども隠れているデブリの1つがビームで破壊されてしまった。

このメンバーの中で一番センサーの性能の高いザクⅠで調べても、敵の反応を拾うことができない。

「こんなことは初めて…!?」

警告音が響くとともに後方からミサイルが飛んでくる。

数は4つで、急いでビームライフルを撃つが、2発しか落とすことができず、残りがまっすぐこちらへ飛んでくる。

上へ飛んで回避するサクラはミサイルの機動を逆探知するが、その位置に敵の姿はない。

「一体…どうなっているの…?」

 

「角度調整、よし。いつでもいけるぞ」

「3番と6番の角度を上へ2度調整。これで、コロニー内の奴を狙える」

ザムザザーのものと似たコックピット内で、ジオンの一般兵のノーマルスーツを着た2人の男がコンソールを操作する。

メインパイロットシートである一番上の席には真っ黒なノーマルスーツ姿で、顔をルイン・リーのマスクが隠している男性がうっすらと笑みを浮かべる。

「鉄の貴公子は言っていました…。気づいた時にやられている恐怖は大きいと…」

彼はモニターに映る3機のガンプラをじっと見つけていた。

彼らにはこちらは見えていないが、こちらには見えている。

それだけでどれだけの差がつくかを彼は知っている。

そうした戦いのおかげで、予選はほぼ無傷で通過することができた。

「さあ、狩りを楽しみましょうか…」


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