マクギリス・ファリド事件と鉄華団壊滅から16年。
地球圏を包んでいたはずの安息が1発の銃弾によって打ち砕かれた。
6年前にギャラルホルン代表選挙中にラスタル・エリオンが殺害された。
犯人は捕まらず、正体も不明ということで、多くの憶測を生んでいった。
それをきっかけにラスタルによって一度は作られたはずの戦後秩序が崩壊し、発言力を低下させていた経済圏が再び独立の機運を高めていった。
そして、各地で独立運動及び独立戦争が起こるようになり、地球圏の治安が悪化の一途をたどることとなった。
宇宙では宇宙海賊をはじめとしたモビルスーツ、モビルワーカー、更にはヒューマン・デブリを使った反社会勢力の出現で、安寧の日々がゆっくりと奪われつつあった。
第1話 ロストナンバー
クリュセ郊外のトウモロコシ畑で、暁・オーガスは政治から既に身を引いたクーデリアと生みの親であるアトラの2人の母親、そしてクッキー、クラッカという2人の姉と共に生活していた。
しかし、クリュセに宇宙海賊が襲撃され、混乱が起こる。
暁は家族を守るため、トウモロコシ畑の地下深くに隠された失われたガンダム・フレームに乗り込む。
かつて、バルバトスに乗り込んだ父、三日月のように。
「もう、8年も前になる…。当時の私は多くの国際大会で優勝し、まさにノリにノっていた」
史上初のプロファイターとして認定され、多くの功績を重ねた彼はまさにファイターの理想形として多くのメディアにもてはやされていた。
多くのスポンサーがつき、収入もあって、順風満帆の日々。
特に8年前がまさにその最高潮であり、ミスターガンプラと呼ばれ始めたのもちょうどその時期だ。
「あるとき、私はアメリカで行われた大会に参加し、そこでウィルという少年と出会った」
8年前、初めて彼と会った時のことは今でも記憶に焼き付いている。
純粋にミスターガンプラのことを憧れ、彼みたいになりたいという思いで、ガンプラを始めたと聞いた時はうれしかった。
「私のファンだと言ってくれたその少年は、決勝で私に挑戦すると笑った。私はその子に約束した。力を尽くした素晴らしいバトルをしよう…と。口ではそういったが、まさか本当にその子が決勝に残るなんて思っていなかった。だが…ウィル少年は決勝の舞台で、私の前に立った」
その時は本当に驚いたと同時に、うれしいとも思っていた。
彼が自分と交わした約束を守るために、ここまで勝ち残ってくれていたことに。
そして、その決勝戦で感じた高揚感は今でも忘れられない。
「彼とのバトルは…私が久しく忘れていた、互角の相手と戦う高揚感を思い出させてくれた。年の差なんて関係ない。新たなライバルとの出会いを心から喜んだ。お互いがお互いを高めあい、戦っている間にもさらなる成長を遂げていく。そして、その素晴らしい時間は瞬く間に過ぎ…彼は私に勝った。私はとても晴れやかだった。もちろん、決して悔しくなかったわけじゃない。それ以上に素晴らしい満足感が私を満たしていた」
優勝トロフィーを手に入れ、ミスターガンプラに勝ったことは、その時のウィルにとっては人生最高の時間だっただろう。
もちろん、新たなライバルと出会えたミスターガンプラにとっても。
「しかし、私のスポンサーはそれを許してくれなかった。私がそれに気づいたのは翌朝のニュースサイトを見た時だ」
スポンサーが用意してくれたホテルの一室でくつろぎ、来週からの移動を踏まえてこれからの予定を考えるため、まずは朝のシャワーを浴びてからニュースを見る。
プロとなってからの当たり前のような行動の中で、本当にそれは衝撃的だった。
そして、これまでは自分にお金をはじめとしたものを提供してくれるスポンサーをありがたい存在としか馬鹿正直に考えていなかった自分があまりにも世間というものを知らなかったのだと思い知らされた。
「ミスターガンプラ、少年に夢を与える…確か、そんなタイトルだったか。努力の末に勝ち残った11歳の少年にを勝たせるために、私が勝利を譲った。私は全力で戦ったわけではない…そういうことになっていた」
そのニュースを流したのはアメリカのネットを中心とした大手新聞社であるANS社だ。
記者本人がどのような思いでその記事を書いたのかは分からないが、おそらくこれは会社の指示だったのだろう。
そして、ANS社はスポンサーの1社であり、当時はネット広告にも自分を使っていた。
「私はホテルを飛び出して、彼の元へ向かった…。しかし、我に返ったとき、私はホテルの前に戻っていた。手には傷付き、折れ曲がった、あの大会のトロフィーが握られていた。もう二度と、あの時のようなバトルには出会えないと思った。ならば、私のバトルはもはや、日銭を稼ぐだけの物だ。私はその日、ファイターであることを辞めた。あのバトルは心無い大人の思惑で嘘にされてしまった。だから、せめてあのニュースの見出しだけでも本物にしよう。奇抜なファッションに身を包み、道化を演じてでもステージで皆に夢を与えよう。私はミスターガンプラなのだから…」
過去の話を終えたミスターガンプラはミヤコから出されたビールを口にする。
アフロを外し、付け髭のない彼は8年前と変わりのない、若々しい整った顔立ちの青年に戻っていた。
今の苦悩に満ちた表情からはミスターガンプラの、道化の面影はない。
「リージョンカップ決勝戦で勇太君のバトルを見たとき、現役時代を思い出した。あろうことか立場を利用して、エキシビションマッチを予定に組み込んでしまったよ。結局、それが君たちの優勝に水を差すことになるとは…。こんな私がバトルをするべきではなかった。そうであれば、彼もあんなことは…」
「ミスターは悪くないよ。勇太君と全力で戦ってたの、分かってるから」
それはガンプラから見続けてきたミサだから言える。
互いにもう修復不能なまでのダメージを受け、それでもなお動き続け、拳をぶつけ合わせた2人の戦いに魅了されたのだから。
「ねえ、ミスター。その子はどうして突然姿を見せたんだい?」
「私がバトルをするのが、許せなかったからでしょう」
わざと負けて、夢を与えることで約束を破った彼を許すことができない。
あれからウィルとは一度も会っていないミスターガンプラの脳裏に残っているのは、彼の自分を憎む姿だけだ。
「そうかな…そうなのかな?それだけなのかな?」
「しかし、それ以外に理由は…」
「さ、辛気臭い話はそこまで。早く食べないとご飯が冷めちゃうわ」
「おう!そうだそうだ!やなことは飲んで食べて忘れちまえ!!」
「うん…うん、そうだね。私たち日本一になったんだよ!商店街の名前が日本中にとどろいたんだよ!」
「そういえば、クリーニングの荒井さんから電話あったよ。もうすぐ出稼ぎから戻ってくるって」
「うちにも、電気屋の和登から連絡あったぞ!商店街復活も夢じゃなくなってきたな!」
ユウイチたちはすっかりこれから復活し、戻ってくる商店街への活気の話でもちきりになった。
ミサも、その流れの中で、とにかく優勝したという事実を胸に刻みつけようと、食事に手を伸ばした。
「そういえば、勇太君はどうした?どうして、かれはここにいないんだ…?」
「うん。今はバルバトスの修理をしたいからいいって…」
「バルバトス…」
暗い部屋の中で、すっかり片腕とフレームが露出した、すっかりボロボロのバルバトスを勇太はじっと見つめる。
誘われたときは修理を理由に断って戻ってきたが、今も勇太はバルバトスに手を付けていない。
「…違う。ミスターガンプラは本気で戦ってくれたんだ。それにしても、あのガンプラは…」
勇太の頭に浮かんだのはガンダムセレネスとウィルという少年だ。
大きく傷ついていたとはいえ、バルバトスを真っ二つに切り裂いてきた。
仮に万全の状態で戦ったとしても、その超硬度レアアロイでできたフレームを切り裂くだけの力を持つあのガンプラとファイターに勝てるかどうかは不透明だ。
「ガンダムセレネス、ウィル…次に戦うときは、僕が必ず勝つ…!そのためには」
彼と戦う機会が来るかどうかは分からない。
彼と戦うだけの技量があるかはわからないが、少なくとも、彼と戦うためのガンプラは既にある。
勇太は大会中、ずっと作り続けていたガンプラを手に取る。
ダークグレーの装甲に身を包み、一本角のようなブレードアンテナを額から後方に下がるようにつけたガンダム・フレーム。
腕部、大腿部、コクピット周辺の装甲が無く、むき出しとなったフレームが見え、バックパックもバルバトスのものに近い貧弱そのものと言える。
そばにはそのガンプラの装備と思われる日本刀と裸の女性のレリーフが刻まれた楯が置かれている。
だが、これこそがずっと作ってきた勇太のガンプラだ。
「バルバトス・レーヴァテイン…。ありがとう。君の魂は新しいガンプラが引き継ぐよ。…ゲーティアが」
「聞いて聞いて!!」
「いきなり、どうしたの?ミサちゃん」
数日後、ゲーティアを見せようと店にやってきた勇太にさっそくミサが底抜けな笑顔を見せる。
その様子は帰っている間に見せたふてくされたものではなかった。
本当なら、翌日に祝賀会蹴って木のお詫びもかねて行くつもりだったが、どうしても優勝と敗北の混ざった気持から抜け出せずに、すっかり比伸びしてしまった。
元の調子に戻ってくれたことに安心しながら、勇太はミサの話を聞く。
「どうしたの?朝から元気に…ふああ」
「勇太君が元気なさすぎなの!見てよこれ!!」
ミサがポケットの中から白い横長の封筒を出し、それを勇太に見せる。
受け取った勇太は宛名と住所を見ると、すべて英語で書かれていた。
「ええっと、これは…」
「世界大会の招待状だよ。ほれ」
奥から出てきたカドマツが勇太に紙を渡す。
それはすべて日本語で書かれており、おそらくは彼が日本語に訳してくれたのだろう。
「ええっと、8月20日から25日の5日間の世界大会。会場は宇宙エレベーターで、決勝戦は静止軌道ステーション…えええ!?」
「当然、参加だろう!」
「当然でしょ!勇太君も、そうだよね!!」
「え、う、うん…。世界、大会か…」
急に話でついていけていない勇太だが、少なくともさらなる戦いが待っていることに喜びを感じた。
おそらく、ゲーティアが思いっきり戦える場所だろう。
「当然だよね?君が参加してくれなきゃ面白くない」
「…!」
急に入口から聞き覚えのある、しかも今現在で最も強烈に記憶に残る声が聞こえ、勇太たちがそちらに目を向ける。
そこにはウィルとドロシーの姿があり、表にはリムジンが止まっていた。
そして、ウィルの左手にはアタッシュケースが握られている。
カドマツはジャパンカップ中にみたリムジンを頭に浮かべる。
「えっと…どちら様?」
「やれやれ。商売敵なのに顔も知らないの?」
「商売敵…タイムズユニバースのこと?」
「で、そのCEOだな」
「ええ…!?なんでこんなところに!?」
CEOが少なくとも社長レベルの偉い人間だということだけは分かっているミサは話で軽く聞いていたとはいえ、自分と年齢のあまり変わらない少年がその役目を負っていることに驚くと同時に、その謎に疑問を浮かべる。
タイムズユニバースレベルの大企業が日本の都内にあるとはいえ、小さなさびれた商店街に来る理由が分からない。
「こっちに作った百貨店が振るわないから、視察にね。で、彼女は僕の秘書みたいなものだ」
「お初にお目にかかります。ドロシーと申します。ウィル坊ちゃまが尊大な態度できわめて不愉快でしょうが、なにとぞご容赦くださいませ。わたくしの顔に免じて、何卒」
「ドロシー…?」
まるでウィルの保護者のような口ぶりと彼女のウィルをけなすような発言にウィルは毎度のことながら顔を引きつらせる。
勇太の眼にはドロシーがウィルの保護者のように見えて仕方がなかった。
「は…わたくし、初めての日本に少々浮かれているようです」
そのことは日本に到着してからわかっていることだ。
リムジンの荷台を含めた中の約半分がドロシーが購入した日本土産であふれている。
おまけに泉岳寺やスカイツリー、東京タワーに目を輝かせる彼女は仕事中であるにもかかわらず、仕事をやったうえではっちゃけていた。
「さて、お嬢さん。一つ勝負をしようか」
「勝負?」
「奇遇にも、僕も世界大会の招待状を持っている」
「なんで…?タイムズユニバースにはガンプラチームなんてないでしょ!?」
「うちの一部門が宇宙事業をやっていてね。宇宙エレベーターにも出資している。そのツテでちょっとお願いしたのさ。それで…僕が勝ったら、この商店街立ち退いてもらいたいんだけど」
「え…えええ!?そんな勝負、受けるわけないでしょう!?」
これまでの戦いは確かに商店街を宣伝するという意味合いがあったが、負けたからといって商店街をつぶすことにはならなかった。
だが、この戦いは明らかに負ければ終わりのデスマッチといえるもので、そんなものを受ける理由はミサにはなかった。
ウィルは当然、そんなことに彼女が応じるわけがないとは分かっている。
彼の視線はミサから勇太に向けられる。
「お嬢さんは別に出なくても構わないよ。僕が戦いたいのは…君だからね。沢村勇太君」
「…やっぱり、君があのゴールドフレームの」
「うれしいな、もう覚えてくれたいたのか。あれはガンダムセレネス。この間のエキシビションマッチでは、やってくれたね」
ウィルはアタッシュケースを開け、その中にあるガンダムセレネスを勇太に見せる。
それを見た瞬間、ミサもミスターガンプラと勇太の戦いに水を差された記憶がよみがえる。
「あれ…このガンプラ、ひびが入ってない?」
「消耗していながら、まさか知らないうちにこんなダメージを与えてくれてたなんてね…。君のことを甘く見ていたよ」
もし遊ぶように戦って、時間が伸びていたら損傷部分の爆発でコックピットがやられていた可能性がある。
機密情報を手に入れ、アルビオンへ凱旋しようとするさなかに損傷個所の爆発で最期を遂げたバニングのようになっていたかもしれない。
「これを僕の全力だと思われたくないし、君もあれは全力ではなかったって言い訳してほしくないからね。今度こそ…もう1度バラバラにしてあげるよ。その…君の持っている新しいガンプラをね」
セレネスをケースに戻し、ドロシーに渡した後で、勇太が持つゲーティアに指をさし、不敵な笑みを浮かべる。
たとえガンプラが代わったとしても、勇太をあの戦いのように再び倒せるという確固たる自信を持っていた。
「受けてくれるよね?まあ、駄目ならこの辺一帯を即金で買い上げるけど」
「そんなくだらないことをせずに、素直に戦ってほしいって言えないの?」
「…!」
勇太のにらむような視線と怒りをこらえた低い声に笑みを浮かべていたウィルも表情を硬くする。
「勝負なら、受ける。けれどこの戦いに彩渡商店街を巻き込むな」
「いや…巻き込ませてもらうよ。そうじゃないと、絶対に本気の君を見せてくれないだろうから」
「君は…ファイターを名乗る資格はない」
「君に…ファイターの資格とかなんとかいってもらいたくないよ。お兄さんの死を言い訳に逃げた君にだけはね」
2人のにらみ合い、殺気を宿した眼光のやり取りにミサは戦慄する。
特に穏やかで弱気な勇太がここまで本気に怒るところを見たのは初めてだった。
「その発言…後悔させてあげるよ。じゃあね、宇宙ステーションで会おう。ドロシー、帰るよ」
「では、皆さま。ごきげんよう」
ウィルの後に続くように、ドロシーが一度お辞儀してから店を出る。
リムジンが発車し、エンジン音が聞こえなくなったところで、ミサは今の状況を頭で整理をする。
「ええっと、これって…勝負に応じちゃったってことだよね。しかも、負けたら…」
「どうすんだよ?あいつは勇太と戦えればそれでいいって感じだがよ。けどよ、リーダーはミサ、お前だろ?お前、どうなんだよ」
この会話の中で、ミサはすっかりのけ者にされていた。
ウィルのターゲットは最初から勇太で、ミサは眼中になかった。
おまけに勇太は怒っていたこともあるだろうが、真向からウィルにぶつかっていた。
それがチームメンバーとして心強かったが、同時に悔しくもあった。
「でも…私、エキシビションで勇太君を助けること、できなかったし…」
それに、勇太の場合はウィルに手傷を与えている。
それだけでも実力の差は歴然だ。
「それは勇太も同じだろ?傷を与えただけで、そんなんじゃあ意味がない。バラバラにされた時点であいつの負け。でも、逃げずにぶつかってたよな。あんな強い相手だってのに」
「相手がどうとか関係ないですよ。ただ…僕は許せなかっただけです」
「理由は何でもいいが、頼もしいじゃねえか。闘志を感じる。むしろ、楽しくなってきたんじゃないか?強い相手がまだいるってことによ」
「…カドマツさん?」
徐々にあおるように口調になっていくことに勇太が違和感を覚える。
ミサは我慢するように唇をかみしめ、涙を浮かべている。
「今度やっても、今度は全力でぶつかる。それでも負けるかもしれねえけど、そんなことどうでもいいよな?商店街なんて、ぶっちゃけどうでもいいよな!!」
「なんで、なんでそんなこというの!!」
綾渡商店街ガンプラチームとして、一緒に彩渡商店街のために戦った仲間とは思えないような言動に起こるミサだが、カドマツはどこ吹く風。
更に追い詰めるような言葉を口にする。
「勘違いしているかもしれないから、言っておく。商店街をどうにかしたいのは俺たちじゃない。嬢ちゃんだ。本気でここを守りたいなら、嬢ちゃんが突っ張らねーでどうするんだよ」
「…!!」
カドマツの言葉にミサははっとする。
ガンプラチームを作ったのは自分であり、目的である彩渡商店街の宣伝を決めたのも自分。
勇太をチームメンバーとして選んだのも自分。
すべての始まりは商店街を守りたいと思っていたミサ自身。
彼女が主役であるはずなのに、すっかり勇太頼みとなってしまっていた。
エンジニアについてもカドマツ頼みで、リーダーであるはずのミサの立場がない。
そして、最後の最後に頼りにしなければならないのは、というよりも頼りにならなければならないのは勇太ではなく、ミサでなければならない。
ミサは腕で涙をぬぐい、赤いままの目でじっと2人を見る。
「私、しばらくここを留守にする!!」
そう叫んだミサは大急ぎで部屋へ戻っていく。
その様子を見たカドマツはふぅとため息をつく。
「まったくよぉ、エンジニアの仕事じゃねえってのにな」
「でも…ありがとうございます。ミサちゃんに火がついてましたよ」
「ロボ太のほうは俺に任せろ。しっかりパワーアップさせてやる。あとは…お前だな。お前はどうする?」
「…本当はミサちゃんにこれを試してほしかったですけど、これじゃあ…当分無理ですからね」
さきほどの口調から察すると、ミサはこれから修行に出るだろう。
世界大会までの2週間、強くならなければならない。
勇太も修行が必要だが、問題はその相手をどうするかだ。
もう商店街や生半可の実力のファイターと戦っても意味がない。
「そのガンプラもお前も、もっとパワーアップが必要だろ?そういえば、近々小規模だが国際大会のツアーがある。そこで腕試しするのはどうだ?」
「国際大会…?」
「お前なぁ…そのガンプラづくりに夢中になってたのはいいが、ちっとは情報に敏感になれよ」
呆れたカドマツはスマホでその公式ホームページを開き、それを勇太に見せる。
台湾の首都である台北で行われるツアーで、参加資格はなし。
予選は個人で行い、予選突破したファイター3人で一組のチームを作って決勝まで戦っていくというユニークなやり方であり、その最大の目的はガンプラを使った見知らぬファイター同士の交流というところにある。
だが、世界大会が近々行われることからその意味は少し変わってくる。
腕試しと世界大会でぶつかるかもしれない相手の偵察。
このような国際大会はもはや世界大会の前哨戦だ。
つまり、そこでこけていてはあのウィルとの戦いは遠いものとなる。
「飛行機代とかは俺がどうにかしてやる。お前は帰って準備をしておけ」
「は、はい…じゃあ…」
ゲーティアを手に握ったまま、勇太は店の外へ出る。
まだまだ朝で、少しずつだが人通りもでき始めている。
(強くならなきゃいけない…か)
勇太は手にしているゲーティアに目を向ける。
未完成こそ完成であるゲーティアは今の自分と同じだ。
ここから一緒にパワーアップしていき、一緒に強くなっていく。
それが彩渡商店街ガンプラチームの『第2章』になる。
「ミサちゃんと一緒に戦えないのは、寂しいけど…」
だが、きっと再会したときには強くなったミサと会うことができる。
その楽しみを胸に秘め、勇太はアパートへ戻っていった。
機体名:ゲーティア
形式番号:ASW-MS-00
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:なし
格闘武器:太刀
シールド:オリジナルシールド(裸の女性のレリーフが刻まれたカイトシールドで、ベースはセイバー)
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ナラティブガンダム
腕:ガンダムバエル
足:ガンダムアスタロト
ジャパンカップ中、勇太がバルバトス・レーヴァテインを上回るガンプラと戦うことになるときの保険として作り続けていたガンプラであり、ガンダム・フレームのプロトタイプという位置づけとなっている。
ジャパンカップ中は完成せず、完成(あくまでも第1話設定の状態で)したのはエキシビションマッチ終了直後となった。
バルバトスと比較すると第1形態のようにフレームがむき出しとなっている部分が多く、頼りなさが目立つデザインとなっている。
これはあくまでも勇太がこれから成長と共に強化していくためにわざとそうしており、それによって拡張性の高さを実現している。
武装はこれまで使っていたメイスではなく、太刀をメインとしたものに変更され、鉄血のオルフェンズの世界ではめったにないシールドも用意されている。
なお、シールドのレリーフの女性のモデルは勇太曰く、『モデルはいない』らしい。
コックピットについてはウィングゼロのようにモニターのなく、ヘルメットはコクピットから出ているケーブルを接続した専用のものを使用する形となっているが、これは阿頼耶識システムのプロトタイプのもので、脳波に干渉することで空間認識能力を高めることができ、網膜投影も可能。
ピアスの施術を受ける必要がないものの、それを可能にするには一定のレベル以上の脳波が求められるうえに、鹵獲運用の危険性を回避するためにその脳波を認証キー替わりにするシステムが負荷されていることから、設定上は暁以外に搭乗不可能なモビルスーツとなっている。
封印されていた理由はパイロットとなるはずだったアグニカ・カイエルの脳波がその基準に合わなかったこと、そしてガンダム・バエルという彼専用のガンダム・フレームが完成したことも大きい。
このガンプラを作る際、世界観の設定まで作りこむために鉄血のオルフェンズ第3期を自分で作っている。