第2話「追いかける過去」
曉が起動させた失われたガンダム・フレーム、ゲーティア。
それは家を破壊しようとした海賊を撃退した。
しかし、いつまでもこの状況を維持できるわけではない。
家族を守るため、クーデリアはある人物にコンタクトを取る。
それはかつて、火星独立の際に世話になった木星の王だった。
「ふうう…これ、大丈夫かな?」
座席に座り、何度も深呼吸する勇太はそれでも落ち着かない胸の鼓動を感じながら、周りをきょろきょろ見回していた。
「本日、リバコーナ航空をご利用いただき、ありがとうございます。当便は台湾経由ホノルル行です。なお、台湾へは…」
機長の低い声による放送が流れる中、勇太の視線が座席左側の窓を見る。
窓から見えるのは滑走路と荷物を運ぶ小型の車両だ。
勇太はこれから、この飛行機に乗って台湾へ行く。
そこで行われる小規模な大会に参加し、修行する。
世界大会に出場し、ウィルに勝つための力をつけるために。
そのために必要なことだということは分かっているが、勇太はソワソワせずにいられない。
勇太が飛行機に乗ったのは今回が初めてなうえに、初めて海外へ行くことになるのだ。
「ったく、カドマツの奴めぇ…」
隣から聞こえるカドマツへの恨み節が聞こえてくるが、今の勇太にはそれに声をかける余裕がなかった。
ガンプラバトルでは何度も空を飛んだりすることはあったうえに、宇宙にも出たこともある。
しかし、あくまでもそれはバーチャルな世界での話。
現実に飛行機に乗って空へ行くというのとは全く違う。
「ミサちゃんには見せられないな…今の姿」
「トイボットの方で手いっぱいだからって、なんで私がコイツのサポートをしなきゃならんのだ…!!」
隣に座るのはいつもならミサかカドマツだが、今は三十路の小柄な少女…いや、女性が座っている。
そして、その隣に座るのはその彼女のリージョンカップでの相棒と言えるファイターだが、彼女の場合はそんなことを気にすることなく、アイマスクと耳栓をつけてぐっすりと眠っていた。
海外に出たことがなく、高校生である勇太一人で海外へ旅に出るのはまずいということで、大人の同行が必要だが、カドマツはロボ太のパワーアップで手いっぱいなうえ、保護者である両親は仕事が忙しいため、同伴は当然不可能。
そこで白羽の矢が立ったのがカドマツの知人といえるモチヅキとウルチの2人だ。
佐成メカニクスでのAI研究が最近うまく進んでいたいことで、気分転換の必要性を感じていたモチヅキだが、さすがにライバルな上にリージョンカップ脱落の原因を作ったカドマツの頼み事は正直聞きたくない。
しかし、宿代や交通費は出すと言ったことで、タダで台湾に行けるということから引き受けてしまった。
「飛行機は子供料金でチケット取ってあるし、挙句搭乗手続きで何も言われねーし!!」
そこで手続きを行う職員からウルチが母親でモチヅキが娘、そして勇太がモチヅキの従兄みたいに見られていた。
訂正して、不足分をモチヅキが支払、パスポートを見せることでようやく納得してもらえたが、それでも何度も子供と間違われる。
子供っぽいことは分かっているが、それでもここまでひどく間違われると腹が立つ。
「おい!!そこのガンプラバカ!!負けたら、二度と祖国の土を踏めないと思え!!」
大人げないことに、子供である勇太に八つ当たりまで始める始末。
だが、勇太は初めての飛行機への緊張から、耳にも入らなかった。
飛行機が離陸し、台湾への空路を飛ぶ。
台湾までは7時間程度かかるため、座っている誰もが外の景色を見たり、サービスで出される夕食を口にしたり、座席についているAV機器でテレビや音楽を楽しみ始めていた。
ずっと緊張していた勇太だが、少しずつその緊張もほぐれて来て、隣であれほどいらだっていたモチヅキも日ごろの仕事の疲れのためか、既に唾を垂らして眠っている。
ウルチも相変わらず眠っており、放す相手もいない勇太はイヤホンをつけて、座席についているテレビモニターの電源を入れる。
インターネットチャンネルに入り、そこで放送されているという『機動戦士ガンダム サンダーボルト December Sky』を見ようとするが、その前にCMが流れる。
「ガンプラバトル世界大会がもうすぐ始まります!決勝戦では世界初となる宇宙エレベーターでのガンプラバトルとなっています!世界で初めて宇宙に立つファイターは誰か、そしてそこで栄光を勝ち取るのは誰か!?」
「宇宙エレベーターか…」
太平洋にあるメガフロートから静止軌道ステーション、先端のカウンターウェイトへとテザーと呼ばれる糸でつなげられている。
30年かけて作られた人類の英知の結晶と言えるそれは人が簡単に宇宙に出られるようになっただけでなく、宇宙で高効率で集められた太陽光発電の電気が地球へと送られる。
ガンダム00で見た、宇宙への時代が一歩ずつ進んでいる証拠と言える。
さすがに化石燃料の枯渇とエネルギー問題による戦乱の時代にはならないだろうが。
世界大会はメガフロートにある特設会場で行われ、決勝戦のみが宇宙軌道ステーション
の中で行われることになる。
もうすぐ稼働する軌道エレベーターのデモンストレーションという意味合いでも、特に経済界ではこの世界大会の意義は非常に大きい。
「その大会にウィルが…ガンダムセレネスが…」
自分の先に立つウィルとガンダムセレネスの背中が目に浮かんでくる。
完成したゲーティアで勝てるかどうかは不透明だ。
勝つ力を本物にするためにも、このアジアツアーは大きな収穫になると信じている。
CMが終わると、ようやくイヤホンに独特なジャズが流れるとともに、雷鳴とどろくデブリ帯の光景がモニターに出てきた。
「さーーーーあ、台湾のアジアツアーに集まったガンプラを愛する者たちよ!!まずは遠いところからよく来てくれた、感謝の言葉を伝えるぜぃ!!」
台湾の首都、台北の陸上競技場に世界中から集まったファイターや観客たちがスピーカーから流れる若い男の軽快なトークを耳にする。
クワトロ時代のシャアがかけていたサングラス姿で金髪をした緑のタンクトップ姿の男性が放送席でアジアツアーを盛り上げる。
彼はガンプラ関係の専用チャンネルを持つMyTuberのエドワウで、海外を中心にガンプラとガンプラバトルのすばらしさを動画を通じて伝えている。
今回、彼がアジアツアーのMCを務めているのはそのことが理由だ。
「さあ、まずは予選が始まるぞ。まずは一騎当千!群がるモビルスーツ達を制限時間内にどれだけ撃破できるかだ!上位48名のみが本選への進出が許される!そして、本選はチーム戦!本選出場が決まったメンバーで好きなチームを組んで、勝ち進んでいく!!さあ、君たちは生き延びることができるか!?」
「本選ではチームを作る…か。できるかなぁ?」
外に設置されているシミュレーターの中に入り、既にどこかの地下空間で待機する勇太は古ぼけたスピーカーから聞こえるエドワウの声を聞きながら、膝をついて座る形で待機しているゲーティアに目を向ける。
初めて、ゲーティアをこうしてシミュレーターの中から見ることができた。
悪魔のようにも、騎士のようにも見えるように作ったそのガンプラはバルバトスの面影を感じながらも、野性をその高貴な騎士の姿で隠しているように見えた。
マクギリスと戦うために修羅の道を選んだガエリオが主となったキマリスがキマリスヴィダールとなったように。
勇太の姿も、いつもの耐圧服姿ではあるが、ヘルメットは装着しておらず、耳には通信用のイヤホンがついていて、そこからモチヅキの声が響く。
「おい、勇太!お前のその新しいガンプラ、本当に大丈夫なのかよ!?射撃武装無しって!!」
シミュレーター近くでノートパソコンを接続して、ゲーティアのステータスを見るモチヅキが今の装備を見て、不安を感じずにはいられなかった。
オプション装備はないうえに持っているのは刀と盾だけ。
これから行われるバトルは大量のモビルスーツと戦うことになる中で、一対複数で戦える武器がないその装備では明らかに不利としか言いようがない。
ジャパンカップに優勝できるだけの実力を持つ勇太だが、それでも世界にはそれを超えるファイターがゴロゴロいる。
そのことを感じているモチヅキだから、今のゲーティアの装備が不安だった。
「心配いりません。これから強くなりますから。僕も…ゲーティアも」
「はぁ…?」
「それに、阿頼耶識があれば乱戦に強いですから、見ていてください」
開けっ放しになっているコックピットに入り、そこに置かれているケーブルで機体と接続された状態のヘルメットをかぶる。
シートにはガンダム・フレームでは当たり前のように搭載、または後付けされた阿頼耶識システムはない。
モニターもないため、操縦桿を握り、ヘルメットをかぶった状態でコックピットが閉じると、一気に勇太の周りは真っ暗になった。
「ふうう…網膜投影…開始」
その言葉と共にヘルメットを媒介とした網膜投影が開始され、勇太の視界がゲーティアのメインカメラが映し出す景色と一体となる。
「網膜投影問題なし。阿頼耶識システム。空間認識領域形成、確認」
ヘルメットを介した、視神経経由で行われる阿頼耶識システム。
若干の頭痛を覚えながらも同調していき、機体の左右に置かれている太刀と盾を手にする。
そして、真上に広がる天井の一部の、土で覆われているだけの部分に目が行く。
「さあ、第1話の始まりだよ。ゲーティア」
「発進準備はOK…みたいだな。ああ、本当に負けたら二度と日本へ帰さないからなぁ!!」
「さあ、とにかく生き残って、一機でも多くのモビルスーツを撃墜するんだ!アジアツアー予選…開始だぁ!!」
「沢村勇太、ゲーティア、出るよ」
フッドペダルを踏むとともにスラスターに火が入り、ゲーティアが真上の土の部分から天井を突き破り、地下から外の赤い世界へと飛び出していく。
開始宣言早々、トウモロコシ畑が広がるその大地に向けて、スピナ・ロディやガルム・ロディが出現し始める。
「夜明けの地平線団仕様のガルム・ロディが混じってるか…けど!!」
刀を握り、ゲーティアが直近のスピナ・ロディに向けて突っ込んでいく。
ゲーティアに気付いたそのスピナ・ロディがマシンガンを連射するが、わずかに機体をずらしながらも高速で飛ぶゲーティアに当てることができない。
肉薄されると同時に太刀で両断され、地面に上半身部分が落ちた。
更にはその機体が握っていたマシンガンを左手で持ち、周囲にいるガンプラを牽制する。
反応速度、太刀の切れ味、出力共に問題はない。
「あとは、この制限時間の間にどれだけ倒せるか、だ…!」
「へぇー。刀と奪った武器だけでも結構やれるんスねー」
モチヅキのノートパソコンから、勇太とゲーティアの戦いぶりを見るウルチはリージョンカップからさらに強くなった勇太に感心していた。
出来栄えもそうだが、彼自身のファイターとしての技量にも磨きがかかっている。
ジャパンカップに優勝し、ミスターガンプラとの1対1の決闘も勝利したのだから当然と言えばそこまでだが。
「ウルチ、お前は参加しなくて良かったのかよ?」
「ええ…?」
「アジアツアーに出場基準はない。お前だってやろうと思えば参加できたじゃないか」
「いいっスよ。今回は。まだガンプラも満足できてないから…」
先日の敗北から、ウルチは来年の大会に備えてモチヅキと共にガンプラを作っている。
モチヅキが理想とする大火力をさらに磨きをかけたそれはまだ未完成で、正直に言うと今の勇太に勝てるかどうかすら怪しい。
それに、今作っているものを出して、手の内をばらすようなことをしたくなかった。
「ま…来年はあっと言わせてやろーぜ?ウルチ!私たちのガンプラで」
「言うまでもないっスよ、姐さん」
「さあさあ、どんどん撃墜スコアが増えていくぞー?だが、油断しちゃあだめだ。ライバルもまた、撃墜スコアを伸ばしてる。1機でも多く倒せ!今そばにいるライバルの上をただただ登っていけーーー!!」
「こいつ…!人前なら、帽子を脱ぎやがれぇぇぇ!!」
サイド7内部で、アルジ・ミラージを彷彿とさせる髪形をした黒いジャケット姿の少年が赤く塗装されたガンダム・アスタロトベースのガンプラに装備されているバスタードチョッパーでトリアイナの頭部を叩き潰し、衛星軌道上ではIWSP装備のストライクがレールガンでジンを吹き飛ばす。
シミュレーションの中で、それぞれのファイターが思い思いのガンプラで次々と現れる敵機を撃破していく。
しかし、最初はそれでも良いのかもしれないが、問題はそれが長時間続く場合だ。
この予選での戦闘時間は20分。
わらわらと現れる敵機を撃破する中で、ガンプラは消耗し、ファイターにも疲労の色が出てくる。
その色が徐々に現れ始めるのが後半に差し掛かってからだ。
「はあ、はあ…まだまだ、俺もこいつも戦える…!」
ジェリド・メサによく似た服装と顔つきをした青年は周囲に散乱しているネモやジムⅡの残骸を見渡しつつ、敵機がいないことから愛機であるガブスレイの状態をチェックする。
後半に差し掛かるまでに30機近くの敵機と交戦した影響がもうすでに出ており、肩のメガ粒子砲の砲身が焼き付いてしまっている。
フェダーインライフルも既に失われ、今握っているのは撃墜したネモから奪ったビームライフルだ。
装甲も被弾した箇所があり、ビームの余波で焼けている部分も目立つ。
幸い、推進剤についてはあと10分戦い続けられるだけの量は残っているのが救いだ。
「まだ戦える…武器は残って!?敵機!!」
アラーム音と共に背後の敵機の姿がモニターに映る。
肩部メガ粒子砲がまだ使えれば、振り返ることなく攻撃できたものの、今は振り返ってライフルを撃たなければならない。
そのわずかな時間が命取りとなる。
振り返り切った直前に背後に出現したメビウスからミサイルが発射される。
メビウスを撃墜しようとはなったビームライフルがミサイルを貫通し、メビウスを撃ち抜く。
そこまでは良かったが、問題はそのメビウスが発射したミサイルだった、
撃ち抜かれたミサイルを中心に巨大な爆発が起こり、モニターを真っ白に染めていく。
「しまった…核ミサイル!?」
危険を察知して、スラスター全開で後ろに下がったために爆発に巻き込まれることはなかったが、それでも激しい余波が振動と共に遅い、照準補正もままならない。
目を失っている間に下から今度はDSSDカスタムのシビリアンアストレイが複数機現れる。
「こんな時に…クソォ!!」
不測の事態に悪態をつきながら、下に向けてビームライフルを連射するが、照準もままならない、やみくもな射撃となっており、当たる気配がない。
ようやくモニターが回復したときには、既にシビリアンアストレイに包囲された状態で、銃口はガブスレイに向けられていた。
どうにかそのうちの1機をライフルで撃破するが、そこが限界だった。
次々と矢継ぎ早に飛んでくるビームがガブスレイを撃ち抜いていき、限界を迎えたガブスレイが炎の華へと変わっていった。
「とうとう脱落者…。相変わらずエグい予選じゃなあ」
緑であふれるジャブローの岩場の上で、グレーの翼をつけたガンプラが羽根をたたんだ状態で待機している。
グリプス戦役でティターンズが行った核爆発によって基地としての機能を失ったそこは半世紀以上放置され、自然が戻って来たばかりだ。
しかし、その戻ったばかりの自然もまた、ザンスカール戦争の陰で発生していたエンジェル・コール事件により、旧型の水爆が放たれることになり、再び生物がすめなくなる土地へと変化する運命にある。
両翼中央にはドクロが刻まれていて、翼に隠れたその機体は一つ目をした灰色の騎士といえる姿で、その周りに広がる湖にはその機体が撃破したと思われる金色のゾロやゾリディア、ゲドラフの姿があった。
上空にはアインラッドに乗ったゲドラフがビームキャノンを撃ってくるが、灰色の翼に接触すると同時にそのビームは拡散し、消滅する。
「おっと…少し休み過ぎたみたいじゃなあ。被弾するとは…」
モニターに映る獲物にパイロットであるタケルの瞳がギラリと光り、口元を緩める。
同時に翼を羽ばたかせ、灰色の騎士が飛翔する。
ビームキャノンとミサイルランチャー、手持ちのビームライフルをフル稼働させて撃ち落とそうとするが、ビームは翼が受け止めて消滅させ、ミサイルも回避できないものは左腕に装着されているヒートランスに内蔵されたヘビーマシンガンで撃ち落とされていく。
そして、アインラッドの弱点と言える右側面に機体を持っていて、ヒートランスでゲドラフを串刺しにした。
爆発すら許されず沈黙したゲドラフが湖に落ちていき、灰色の騎士を新たな主として迎え入れる。
「さて、休憩は終わりじゃ。トールギス・スカルウィングの力…しっかり味わってもらうぞ!!」
まだまだいる獲物たちを乱獲すべく、右手に外付けられているメガキャノンを発射した。
「本当に…数が多い…な!!」
新たに出現したレギンレイズのコックピットを太刀で串刺しにし、側面から飛んでくる弾丸を撃破したばかりのその機体を盾替わりにして防御する。
そして、銃撃が収まると同時に抜いたばかりの太刀を手放し、右手でレギンレイズを握ると、ハンマー投げの要領で力任せに投げつける。
質量のあるレギンレイズとまともに激突したスピナ・ロディとグレイズがナノラミネートアーマーで強固となっているはずの装甲を大きくゆがませ、地面に倒れる。
そして、再び太刀を手にしたゲーティアが起き上がろうとするグレイズのコックピットを一突きし、スピナ・ロディを左腕の盾で殴りつける。
残り5分になり、出現する敵機のペースも上がってきたことで、徐々に被弾する数も増えていた。
「そろそろ、こいつのテストも始めないとな…」
奪った武器を極力使ったこともあってか、太刀はまだまだ耐えられるだけの耐久値がある。
盾も何度か攻撃を受けたことでへこみや傷があるが、まだ使うことができる。
あとは最大の武器を使い、撃墜数を稼ぐだけ。
この戦闘の中で勇太が特に感じたのは背中に感じる寒さだ。
当たり前のようにあった阿頼耶識を背中から接続していないからではない。
それ以上に当たり前の物が今の彼にはいない。
(不思議だな…前まではそんな感じはなかったのに?)
弱くなったのかな、そんな直感を覚える。
ウィルに負けたから、余計にそう思っているだけなのか。
彼に負けたことで、心の中にあった、そしてミスターガンプラを倒したことでできたかもしれない驕りがなくなったからなのか。
その答えを出すのは今ではない。
「行くよ…ゲーティア!!」
深呼吸をし、目を見開くと同時にゲーティアの緑に光っていたはずのツインアイが赤く光り始める。
そして、バックパックと両肩の装甲が展開され、そこから青を帯びた光が漏れ始める。
青いオーラがゲーティアを包み込み、覚醒が完了する。
「はああああ!!」
勇太の叫びと共に飛翔するゲーティアがガルム・ロディに突っ込んでいく。
敵機の危険性を感じ取ったガルム・ロディが後ろに下がっていき、その後ろにはダインスレイヴ装備型のフレック・グレイズの集団の姿があった。
ゲーティア1機を落とすためだけに、ガルム・ロディに当たることもいとわずに次々とダインスレイヴが発射される。
重力下であるとはいえ、それでもダインスレイヴの威力と速度は健在であり、容赦なくゲーティアに迫る。
「そんなものでぇ!!」
しかし、当たる直前にフレック・グレイズのモニター上でゲーティアが姿を消し、ダインスレイヴは命中することなく、むなしく後方の岩に突き刺さる。
フレック・グレイズのモニター上ではゲーティアが姿を消したり、姿を現したりしながら高速で接近しており、その不可解な動きに翻弄され、ダインスレイヴ発射の手が止まってしまう。
「沈めぇぇ!!」
接近を許したフレック・グレイズが太刀で切り裂かれ、それだけでは斬り足りないのか、再び瞬間移動するかのような動きでほかのフレック・グレイズの前に出て、ダインスレイヴ諸共切り裂かれてしまった。
ダインスレイヴもまた、モビルスーツと同じ超硬度レアアロイでできている。
それすら斬ることもできる太刀で斬れるのは道理だ。
フレームよりも細い作りになっているため、正直に言うと勇太にとってはフレームの関節を斬るよりもたやすかった。
「ふうう…初めてゲーティアで覚醒をしたけど、感覚はいいな」
予選が終わり、休憩所でウルチが買ってきたドリンクを飲みつつ、勇太は先ほどの戦闘での覚醒の感覚を思い出す。
バルバトス以上に覚醒を使うことを前提にして、装甲をすべてガンダム・グレモリーで使われているナノラミネートコートへと変更し、フレームも木星メタルをシングルナンバーの百錬以上の純度のものを使っている。
それを再現するために、シングルナンバーの百錬やガンダム・グレモリーのパーツでスクラッチビルドを繰り返してきた。
失敗も多かったが、それでも今回の試合では満足できる内容になってくれた。
「こんな装備で予選8位通過…。もっと火力がありゃあ、1位も狙えたんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね。次の形態では飛び道具もつけますよ」
「次の形態って…ゲーティアもバルバトスみてーに徐々にパワーアップするって形かよ」
(とはいっても、プロトタイプの阿頼耶識にはまだまだ課題はあるけど、それをどう解決するかな…?)
初めての試みと言えるその阿頼耶識は確かにバルバトスと三日月に近いレベルでの動きや反応を見せてくれた。
しかし、勇太にとっては不満足で、到達ポイントがあるとするなら、バエルレベルのものだ。
キマリスヴィダールを阿頼耶識システムType-Eに極限まで負荷を加え、搭載しているアインの脳が焼き切れてシステムそのものが使い物にならなくなるくらいのレベルまで追い込んだだけのものを勇太は欲している。
それだけのものにすることで、ようやくウィルと同じ土俵に立つことができると今の彼は考えていた。
(となると、どうするかな…?コックピットそのものにも手を加えるべきかな?フィギュアが入るようにして、フィギュアのヘルメットをもっと…)
ゲーティアのコックピットを撫でる勇太はゲーティアの強化に思いをはせようとしていた。
「やっぱり、お前もこの大会に来ていたんだな。勇太!」
「勇太君、久しぶり!」
「その声は…ツキミ君、ミソラさん。2人も来ていたんだ…!」
世界は広いようで狭いということなのだろうか。
会うことはないと思っていた2人と会えたことに驚いたものの、同時に嬉しさも感じられた。
台湾は日本人の観光客も多いとはいえ、それでも外国ということで知人や同じ国の人と会う機会が少ないため、どうしかも不安になる。
「そういえば、ミサちゃんは一緒じゃないの?」
「ロボのエンジニアのおっさんもいなくて…いるのは背の高い姐さんとちっちゃい女の子。お前、まさか何股かしてるのか?」
「そんなわけないでしょ?この人達はカドマツさんの知り合いで、今回僕をサポートしてくれているんだ」
やんわりと違うことを伝える勇太だが、ツキミの何股のような浮気男めいた言葉には懸念を抱いた。
まだミサとはそういう関係ではなく、あくまでチームメイト。
それに、百歩というよりも何万歩も譲ってそういう関係に見えたとしても、モチヅキともウルチとも年齢に差があり、勇太にそのような趣味はない。
「そうなのか。で、その女の子は…お前の妹か?」
「かわいーー!ねえ、お名前は年はいくつ?」
「ええっと…紹介するよ、望月小夜子さんと宇留地環奈さん。で…モチヅキさんの年齢はカドマツさんと同じくらい」
さすがにダイレクトに三十路過ぎなんて言うと怒ると思ったのか、やんわりと年齢まで説明する。
カドマツと会ったことのある2人はその説明にびっくりし、モチヅキを二度見する。
「じょ…冗談、だよな?こんな姿でそれって…どんなマジックだよ!?昔のアニメにあった、不老不死の体ってやつか!?」
ツキミの脳裏に浮かんだのは、レトロアニメマニアである友人が見せてくれた火星を中心とした太陽系での賞金稼ぎの旅を描いたアニメで、そこでは不老不死となった少年との対決のシーンがある。
その少年は長い時間をその姿で生きていて、主人公との対決でようやく不老不死が解除され、求めていた死を手にすることができた。
もしかして、モチヅキはそういう体になってしまっているのかと冗談半分に思ってしまう。
「んなわけあるか!!」
「そういえば、ミサちゃん達はどうしてるの?」
「ミサちゃんは強くなるために飛び出していったよ。あのエキシビションマッチのことがあってね…」
「ああ…俺たちも見たよ。すごかったよ。ミスターガンプラとあれだけ戦えるなんてな」
あの戦いを見て、ツキミ達は自分たちがどんな相手と戦っていたのか、嫌というほど思い知ることになった。
だから、次の大会で勝つために強くなろうとミソラと一緒にアジアツアーに来た。
まさかここでその相手となる勇太と会うことになるとは思わなかったが。
そして、手負いだったとはいえ、その勇太を倒したウィルとガンダムセレネスもあの映像で見ている。
「うん。ロボ太はカドマツさんの元でガンプラ共々パワーアップ中なんだ。今いる場所はこの通りバラバラだけど、目的地は同じだから大丈夫…といったところかな?」
「それで、勇太君もここへきたのね。しかも…すごいガンプラまで作って」
「うん。まだまだ未完成といったところだけどね」
「だったら本選でチームを組みましょうよ!アジアツアーのルールだと、本選は好きなファイター3人でチームを組んで闘うことになるんだし!」
「えー、3人もサポートするのかよ!?」
「大丈夫っすよ。俺たち、沖縄宇宙飛行士訓練学校の生徒ですから」
「ハードもソフトも、必要な技術は持ってます」
宇宙飛行士になるための授業の中には機械工学もあり、ツキミもミソラもその授業で得た知識でアセンブルシステムの改造を行った。
プロの技術者レベルではないが、それでも実戦に支障をきたさないくらいのことはできる自信はある。
その実績は既にジャパンカップで証明済みだ。
「なら、サポートはこいつに集中できるな!」
「おう、覚悟しとけよ。組んでいる間にしっかりとお前の技を盗んでやるからな!」
「盗めるのなら、だけどね?」
「言ったなぁ?よぉし、沖縄宇宙飛行士訓練商店街チーム結成だ!」
「宇宙服でも売ってんのか?その商店街」