第3話「ヘイブン」
2人の母と共に歳星へと向かった暁。
アトラとクーデリアの保護の条件として、彼はとあるメモリーチップをドルトコロニーにいる組織に自らの手で渡すことを依頼される。
受け取り主はかつて、マクギリス・ファリド事件の前に起こったとある事件で壊滅した組織と同じ名前を持つ組織だった。
「はあはあはあ…」
デブリ帯の中、ゲーティアのコックピットで勇太が荒い息を整えながら、ゲーティアと阿頼耶識が見せる景色を見続ける。
今のゲーティアはむき出しとなっていたフレームをガルム・ロディの装甲で覆った状態となっている。
映っているのはイサリビやブルワーズ艦と同型艦ではあるが、迷彩として黒く塗装された戦艦とエンハンスドデファンス、ガンティライユの姿だった。
ゲーティアはガンティライユに接触し、回線を開く。
「ミソラちゃん、気配がまるでないよ。どこにいるか、分からない?」
「ごめん…まったくセンサーに反応がないの。ここまでデブリが多いし、エイハブリアクターもあるみたいで、熱源反応がいっぱい…」
「少しでも動いているものがあったら、きっとそれが敵モビルスーツだ。大丈夫だよ」
3機の中でも、ガンティライユが一番索敵範囲が広い。
ただ、相手がストライクダガーやジェガンならともかく、ラブルスやグレイズといったエイハブリアクター搭載型のモビルスーツとなるとデブリの中に放置されている数多くのエイハブリアクターと同じ熱源反応となってしまうため、見つけづらい。
撃墜スコアでは残りのモビルスーツが3機となっており、これまで3人で倒した機体数は21となっている。
「護衛対象のダメージと経過時間を考えると、そろそろ終わらせないとまずいぞ!どうする、勇太!!」
「何か、手段があれば…」
もうすでにミッションを終了し、初戦突破を決定しているチームも存在する。
次々と枠が埋まっていく中で、焦りも生まれてくる。
「これまで行った範囲で、ミサイルによる攻撃を行うとしたら、予測ポイントは出せる?」
「やってみるわ!!」
コンソールを出したミソラは護衛対象を軸として対艦ミサイルをハンマーヘッドやハーフビークが使っていたナパーム弾と仮定したうえで予測ポイントの検索を開始する。
デブリ帯とエイハブリアクターの存在から、誘導兵器を使ってくる可能性は考えにくい。
使ってくるとしたら、ダインスレイヴかナパーム弾。
だが、ダインスレイヴでは一発しか攻撃できないために後が続かない。
考えられるとしたら、装備を分離して近接攻撃に入ることのできるナパーム弾。
検索終了と同時にゲーティアとエンハンスドデファンスに特定されたポイントが送信される。
「予測ポイントは3か所…残り、2機…!!高熱源…ナパーム!!」
飛んでくるナパーム弾の予測コースが表示される。
ナノラミネートアーマーの弱点を突かれ、大きなダメージを受けてしまう。
「だけど…!!」
ゲーティアのシールドの裏側に装着された並列4連装型滑腔砲を発射する。
ビームや通常の弾丸と比較すると動きの襲いナパーム弾で、なおかつ発射可能位置を絞り込んだおかげで容易に対策でき、撃ち抜かれたナパーム弾は爆散する。
同時に、勇太は発射してきたポイントに隠れていたハクリ・ロディを見つけ出す。
「デブリの中に隠れられる前に仕留める!!」
周波数の特定を行いながら、ゲーティアがハクリ・ロディを追いかける。
見つかったハクリ・ロディがマシンガンで牽制しながら後退しようとするが、ツインリアクターが生み出す出力によるスピードと阿頼耶識の反応速度の高さにより、かわされるうえにむしろ距離を縮められていく。
「はああああ!!」
再び連装砲を連射し、マシンガンによる攻撃をあきらめて後ろを向いたハクリ・ロディのスラスターに命中させる。
スラスターに命中すると同時に動きに乱れが生じると、刀を抜いてまずはマシンガンを持っている右腕をフレーム事切り裂いた。
そして、いったんハクリ・ロディの正面まで移動した後で、刀でコックピットを一刺しして沈黙させた。
「よし…2人は!!」
「もう1機見つけたわ!心配しないで、私とツキミでできるから!」
「…そのようだね」
護衛対象のところまで戻った勇太は2機を見て、あまり心配することも手助けすることもなく、敵モビルスーツが撃破されるのを見守る。
アグニによって、頭部カメラを焼き尽くられて目がつぶされたランドマン・ロディにはもはや目標を見つけることができず、あたりかまわずマシンガンを連射することしかできなくなっていた。
流れ弾に気を付けながらエンハンスドデファンスが接近し、対艦刀で真っ二つに切り裂いた。
同時にミッション終了となり、経過時間と護衛対象のダメージに基づいたポイント数が計算されていく。
5秒で計算が終わり、数値は初戦通過には十分な数値だった。
「やった。これで初戦通過ね」
「だな!やったな、勇太」
「うん、そうだね…ふうう…」
シートにもたれながら、勇太はログアウトのためにコンソールを操作する。
どうにか勝利したのはいいが、まだまだ勇太にとっては足りない部分も多い。
(まだ、ゲーティアを使いこなせていない。ガンプラの改良もそうだけど、あとは僕個人の問題か…)
予選で覚醒を使い、今回は初めて射撃武器も実装して戦った。
破砕砲のような破壊力は得られないものの、取り回しがよくなっており、接近戦では助けになるという実感は感じることができた。
だが、まだウィルに勝てるような実力を得たとは思えない。
何かが足りない、足りないと心が訴えかけてくる。
「よ!おつか…って、なんだよ?うれしくなさそーな顔しやがって」
シミュレーターから出てきた勇太を迎えようとしたモチヅキだが、彼の顔を見た瞬間、頬を膨らませて不快感をあらわにする。
どうして怒っているのか分からない勇太だが、ひとまず申し訳なさそうに軽く会釈をすると、そのまま1人で会場を後にする。
「あれ…勇太、どうしたんスかねー。なーんか機嫌が悪いっつーか、…ってより、焦ってるっつーか…」
「んなの知るか!ウルチ、さっさとシミュレーターのプログラム修正をすっぞ!!」
「うーっす」
気の抜けた返事をしたウルチは去っていく勇太の後姿を見送ると、モチヅキと共にノートパソコンを操作し始める。
覚醒以外にも、おそらくガンダム・フレーム特有のリミッター解除もあり得るゲーティアがどのような動きに変化するかは分かったものではない。
カドマツから受け取ったデータはあくまでもバルバトスの場合のもので、ゲーティアのものとなるとそれは参考程度にしかならない。
彼からはこのツアーで集まるデータをもとにゲーティア専用のシステム構築を頼まれている。
「大変っすねー、モチヅキさん。こんな難しいプログラムを設計するなんて」
後ろからモチヅキとウルチのノートパソコンの画面を見たツキミが複雑なコードの組み合わせに驚きを覚える。
自分たちでもアセンブルシステムを作ったから、その大変さがよくわかる。
授業や自習で覚えたプログラミング言語を元に改造したが、やはり専門家のものはもっと複雑で、しかもバトルの度に修正を繰り返している痕跡がある。
ここまで徹底することはできておらず、改めて彼女たちのようなサポーターの存在の大きさを感じずにはいられない。
「オラー、突っ立ってるだけなら、お前らも手伝え!」
「ええーー??だって、俺らは自分たちの…」
「んなの知るか!!」
「ああ、姐さんこうなると聞く耳持たないから、あきらめろ」
「はあああ…」
スタジアムの外にあるドリンクスタンドで購入したでウーロン茶を購入した勇太は今さらになって気付いたのどの渇きの潤いを感じる。
ミサからタピオカが入った飲み物がおいしいとおすすめされたのを思い出す。
一度だけ飲んだことはあるが、ゴムのような感触が正直に言うと好きになれなかった。
それが好みな人もいるから、おそらくは流行っているのだろうか。
「なんじゃ、そんな陰気な空気で飲んで。観光客の迷惑じゃろ」
「タケルさん…」
「これ以上暗い顔していたら、スルーするところじゃ」
やってきたタケルの手にはタピオカミルクティーがあり、それをストローで飲みながら勇太の隣に立つ。
飲みながらも、彼の視線は勇太が握っているゲーティアに向けられていた。
「ゲーティア…設定ではすべてのガンダム・フレームのプロトタイプ。ええ出来じゃないか。けれど、問題はお前じゃな」
直接闘ったというわけではないが、それでもバルバトス以上に強いことはタケルも認めている。
装備を改良して1回戦で戦っていたのは分かるが、どこか予選と違って動きに迷いがあるように感じられた。
一気に飲み終え、容器をゴミ箱に捨て、勇太の空になった容器を見たタケルは無理やり勇太の腕をつかむ。
「タケルさん、いったい何を…??」
「特訓じゃ、今のお前の根性、叩きなおしてやる!!」
「勇太君…ゲーティア、かぁ…」
ヤシの木が大きく壁に描かれてホテルの一室で、備え付けのテレビに映るゲーティアを見たミサは改めて彼の強さを感じていた。
ミサもハワイで行われているアメリカツアーに参加しており、昨日予選を通過してこれから本選に向かうことになる。
アジアツアーとの違いは完全に個人戦となっていることで、最初から最後までミサ一人で戦うことになる。
それに合わせて、アザレアも改良を施している。
「勇太君も…頑張ってる。だから、私も頑張らないと…!!」
「ここは…」
タケルに連行される形でバスに乗せられ、連れていかれた勇太は1分の1スケールで作られたアルトロンガンダム(EW版)が飾られた大きな店舗で降ろされた。
そこは台湾のガンダムベースで、ガンプラバトルが世界中に展開されてから始まった世界中へのガンダムシリーズの展開計画であるグローバルガンダムプロジェクトの第一弾として作られた海外第一号のガンダムベースだ。
他にもアメリカやインド、イタリアにフランス、ブラジルなどにも作られており、イギリスのガンダムベースがあと1年で完成する予定とのことだ。
なお、ブラジルの1分の1スケールのガンダムはもちろん、ゴッドガンダムだ。
「おお、タケル。久々じゃないか」
タケルと共にガンダムベースに入ると、さっそく出迎えたのはハロのイラストが中心に書かれたエプロンとは不釣り合いな、2メートル近い巨躯なうえに筋肉質な体つき、おまけにスキンヘッドをしている色黒の男性がジロリと細い目でタケルを見る。
「ろ…老師O…!?」
「アンドレイ・オウ。ここのガンダムベースの店長でガンプラマイスター。ついでに老師Oのファンでこの姿もあれを…」
「やめてくれタケル」
あんまりな紹介に困った顔を見せるオウ。
昔はミスターガンプラと同様、プロのファイターとして戦ってきた男で、現在は作る側でガンプラを広げるため、ガンプラマイスターとなってガンダムベース店長となった。
彼がプロとして共に戦ったガンプラ、シェンロンガンダムレッドファイアはカウンターに飾られている。
「悪い。ああ、オウさん。ここのシミュレーター、使わせてもらうぜ」
「話は聞いてる。空けておいてやったから、好きに使え」
「恩に着るぜ。あとはメシも」
「分かった分かった。用意しといてやるから、さっさと行け」
「待ってください、話がまだ…」
勇太の言葉を無視して、タケルに引っ張られてシミュレーターへ入れられる。
無理やり座らされると扉が閉じる。
「あの、タケルさん。僕、モチヅキさん達には何も…」
「俺から知らせといてやる。さっさとログインしろ。シミュレーターに入って、ログインしないファイターがいるか」
立ち上がって出ようとするが、外から操作されているのか出ることができない。
やむなく持っているゲーティアをセットし、ログインする。
ノーマルスーツ姿になった勇太は格納庫に置かれるゲーティアを見つめる。
1回戦での戦いで損傷した部分は当然治っておらず、へこみや傷が視認できる。
ゲーティアに乗り込み、専用ヘルメットをかぶって網膜投影と阿頼耶識システム接続を完了する。
「勇太、お前がやることは飽きれるほどシンプルじゃ。本気を出せば、おそらくはすぐに終わって帰ることができる」
「どういう…?」
「出撃すればわかる」
何を特訓するのか納得できないままハッチが開き、ダインスレイヴやグレイズシルトの残骸、地面に突き刺さった超大型メイスが放置されたままの火星郊外のフィールドが見えてくる。
「鉄華団最後の戦場…」
自然の操縦桿を握る手に力が入る。
同時にカタパルトから射出され、赤い大地に降り立つ。
しかし、そこには戦うべき相手の姿がない。
「これからお前が戦う相手は1体。そいつに勝てば、この特訓は終わりじゃ。まぁ、今のお前じゃあ勝てないとは思うがな」
「それは…うわ!!」
急に真上から飛んできたビームが特殊塗料が剥離した箇所に命中し、衝撃と共にゲーティアが地面に倒れる。
上を向くと、そこには青いフィンファンネルが飛び回っており、その中央には勇太にとっては印象深いガンプラの姿があった。
「ブル-…フレーム…」
「ブルーフレーム・ハデス。勇武のガンプラをコピーして、改造したものじゃ。ま、出来栄えはあれ以上じゃがな。それに…こいつはCPUじゃが、戦闘データは…あいつのもの」
「兄さんの戦闘データを…けれど」
たとえ強力なパイロットの戦闘データを取り込んだとしても、プログラム通りにしか動くことのできない、読まれればただの人形となってしまう。
それはヒイロのデータを取り込んだメリクリウスと、トロワのデータを取り込んだヴァイエイトをデュオのデスサイズヘルがまとめて倒したことからも証明されている。
だが、その程度のことは今回のバトルのセッティングをしたタケル自身も承知している。
「そんな油断が命取りだぜ?それに、こいつは冥界から蘇ったハデスってことを忘れるなよ?」
「それは…うわっ!!」
再び剥離した箇所へのフィンファンネルの攻撃が飛んでくる。
迎撃のために4連装砲を発射するが、既にいずれのフィンファンネルも戻っていた。
「回収と最充電機能、Hi-νガンダムのフィンファンネルシステム!?それでも!!」
本体を狙うべく、4連装砲を撃ちながらゲーティアを上昇させる。
長時間の飛行ができないとしても、ツインリアクターの出力を最大まで引き上げれば、ジャンプすることくらいはできる。
確実に剥離個所を狙ってくることは分かっているため、弾切れになると同時に盾で守りを固めつつ、刀を抜く。
それに応じるかのようにブルーフレームもビームサーベルを抜き、互いに上空で鍔迫り合いを演じる。
「無駄だ。今の貧弱なゲーティアでは、強化されたブルーフレームにも、勇武の幻影にも勝てない」
「くっ…!!」
今は互角の鍔迫り合いができているが、消耗する推進剤を考えると、長時間この状態を続けるわけにはいかない。
バルバトスであればテイルブレードを使って無理やりここを抜け出すこともできるが、今のゲーティアにそんな武装はない。
「だったら、覚醒で…あれ!?」
「どうした?覚醒…しないのか??」
いつもなら、集中すればできるはずだった覚醒がなぜかできない。
1回戦の時は使っていなかったため気に留めることはなかった。
だが、どうしていつもできることが今できないのか、今の勇太には分からなかった。
(分からない…どうして、どうして??)
「迷っているな…見損なったぞ!!」
「うわあ!!」
腹部を思い切り蹴られ、ゲーティアが地面に落ちる。
再び飛んでくるフィンファンネルを4連装砲で攻撃し、ようやく1基を撃墜することができたが、残りのフィンファンネルのビームが超硬度レアアロイ製フレームを焼く。
ナノラミネートアーマーに守られていない箇所のフレームや装甲には実弾だろうとビームだろうと容赦なくダメージが発生する。
正確無比なファンネル制御、それはまさしく勇武の得意としていた技だ。
CPU相手であるにもかかわらず、一方的に押されている格好だ。
「勇太、迷いの原因はあの敗北か?それとも何だ?兄貴と一緒に行こうとしたところにたどり着いてしまった燃えつきか!?」
「そんなことは…!」
「口と動きがかみ合っていないんじゃ!」
ブルーフレームの両腰に外付けされたフリーダムのレールガンが発射される。
起き上がったゲーティアが辛くも走って逃げる形で高速で飛ぶ弾丸を避けた。
もう残弾のない4連装砲を強制排除し、残された武器である太刀を再び構える。
そして、もう1度呼吸を整えるがやはり覚醒できない状態が続く。
「勇武がいたころと変わらない。お前は意思も、主体性もない!何かにひっついて行ってばかりだ!なまじ実力があって、成長するから、ここまで戦い抜くことができた分、そいつは…始末が悪いんじゃ!!」
上空から降りてきたブルーフレームが放置されていた超大型メイスをつかみ、力任せにゲーティアに振るう。
両足で踏ん張り、太刀を両手で握って受け止める。
太刀の強度はバルバトスに使っていたもの以上のものにしているものの、それでも超大型メイスを凌げるのはわずかな時間。
我慢して受け止め続けたら、粉々に砕けるだけ。
「ひっついて…ばかり…?」
「ガンプラバトルを始めたのも、勇武と一緒にいたいから。捨てたのは勇武が死んだから!そして…もう1度始めたのはあのミサって女の子に乞われたから…。お前自身で目標を定めて、動くことをしていない!だから、あのウィルって小僧に負けた!!」
タケルも映像で2人の戦いを見ていた。
確かにその時のバルバトスには激しい損傷があったかもしれない。
しかし、百歩譲って全力で戦える状態であったとしても、おそらく勇太はウィルに勝つことはできない。
「言い返せないようじゃな?確かに、戦えるとなったらワクワクするだろう?だが、その火はか弱く、小さい。それを燃え上がらせることができていない」
「それは…うわあ!!」
高機動戦闘を開始するブルーフレームのすれ違い際のキックを右腕で受けてしまい、太刀を手放してしまう。
確かに、ウィルと戦い、彼の宣戦布告を受け、彼と戦いたいという感情は芽生えた。
しかし、それはミサと一緒にジャパンカップで優勝を目標として戦ってきた時とは違う。
その時の熱と比較すると、どこか冷めているものを自分の中で感じていた。
「もう1度考えるんじゃ!お前が戦う理由を!お前があの嬢ちゃんと一緒に戦う理由を!!」
再び戻って来たブルーフレームの蹴りを盾で受け止めるが、同時にいつの間にか展開していたフィンファンネルが左腕関節をビームで攻撃する。
関節が焼き尽くされ、肘から先の反応がなくなる。
「僕が…僕が、ミサちゃんと一緒に戦う理由…」
思えば、ジャパンカップで優勝した時点で彼女と共に戦う理由はなくなったはずだ。
ウィルのことはあるが、そのことだけを考えれば、チームを抜けても問題はなかったはずだ。
サクラやタケルの手を借りて、世界大会に出ることも選択肢となる。
しかし、勇太の脳裏に浮かぶバトルフィールドで共にいるのはミサであり、サクラとタケルではない。
「だが、その理由もここで倒されれば終わり!勇武の幻影が引導を渡すんじゃ!!」
動きを止めたゲーティアに向けて、地面に深々と刺さったダインスレイヴを抜いたブルーフレームが投擲する。
マニピュレーターで投げただけにもかかわらず、まるでレールガンを使って発射されたかのようなスピードでゲーティアに向けて飛んでいく。
一直線に飛んでくる無慈悲な敗北の弾丸が勇太の視界に入る。
(まずい…これ、大会でもないのに、人と戦っているわけでもないのに、こんなのって…)
シミュレーターに設置されているゲーティアは既にボロボロで、太刀にも数多くの刃こぼれが生じている。
目の前に迫るダインスレイヴはたとえナノラミネートコートでも守り切れない。
敗北した瞬間、勇太はファイターとしてもプライドを打ち砕かれることになる。
(でも、どうして?どうして僕は春からずっと…ミサちゃんと…)
最初はただ、見ていられなかっただけだ。
3人の不良と不利を承知でバトルして、それでもあきらめない彼女とその状況が見ていられず、割り込んだ。
もう復帰するつもりも、帰るつもりもないガンプラバトルに。
戻ってからは灰色で、何をなすにも熱を感じられなかった毎日に少しずつぬくもりが戻ってきたように思えた。
それは勇武と一緒にバトルをしていた時とは違う、言葉では表せない優しいぬくもりだ。
(勇太君…!!)
なぜかミサのいつもの自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
(そうだ…そうだ、僕は!!!!)
ガシリと飛んできたダインスレイヴを右手でつかむ。
螺旋を描かずに飛ぶダインスレイヴであるにもかかわらず、その運動エネルギー故につかんだとしてもなおも貫こうと勢いを止めず、マニピュレーターが発熱する。
「驚かせてくれるが、この程度では…」
「はああ…うわあああああああ!!!!」
収まり切れない衝動を叫びに変えると同時に、ゲーティアの装甲を青いオーラが包む。
だが、そのオーラは徐々に色を変えていき、炎のような赤へと変質し、ゲーティアは炎を纏う悪魔へと変貌を遂げていく。
「これは…」
「覚醒が進化した、という奴だな」
「オウさん」
シミュレータールームに入って来たオウがタケルが見ているノートパソコンの映像を見て、勇太の新たな覚醒に興味を抱く。
勇武やミスターガンプラの覚醒は見たことがあり、勇太が勇武と同じ覚醒を発動することはタケルから聞いていた。
「どうやら、素直になったみたいだな。彼自身が…これが、誰のものでもない。沢村勇太の覚醒、というものか」
「うおおおおおお!!!」
覚醒エネルギーが高熱を発しているのか、握っているダインスレイヴが溶け始め、ゲーティアはそれを力任せに握りつぶす。
そして、ブルーフレームめがけて猛スピードで突っ込んでいく。
燃え上がるゲーティアの爆発的に上昇したスピードからは逃げられないと判断したようで、迎撃のためにライフルとフィンファンネルを連射する。
「が、うあああ、うおおおおお!!!」
おそらく破損個所めがけて飛んでくるビームの雨を急激な横への軌道変更の繰り返しでかわし、同時に激しいGが勇太自身を襲う。
シミュレーターによって再現度が制限されているにもかかわらず、その急激な動きは許容範囲を超えていた。
それでも変わらず、加速を緩めることなく続け、肉薄したゲーティアの燃える拳がブルーフレームの右腕を殴り、肩ごと吹き飛ばしていく。
一気に後ろに下がったブルーフレームだが、なおもフィンファンネルによる攻撃を辞めない。
急激な加速や旋回の繰り返しに体が耐えられなくなり、まっすぐにしか移動できなくなるだろうと思ったのだろう。
実際、そのことは勇太自身も分かっており、今度は一直線に飛んでいるだけだ。
ビームは着弾し、スラスターや左足、胴体にも命中し、アラームが鳴り響く。
本来なら覚醒エネルギーがバリアとなって守ってくれているはずの装甲だが、今は守る気配がない。
「あああああああああ!!!!」
頭部カメラもビームによって焼かれ、視界が真っ暗になる。
だが、もうゲーティアは再びブルーフレームに肉薄しており、あとは右拳を叩き込むだけだった。
ブルーフレームは左腕のシールドで受け止めようとするが、紅蓮の炎を纏うゲーティアの拳はシールドごとブルーフレームの腹部を貫いていた。
腹部を貫通すると同時に撃ち込まれたエネルギーでブルーフレームが粉々に吹き飛んでいく。
そして、残されたゲーティアを纏っていた炎は消え、機体全体から煙が出ていた。
「はあ、はあ、はあ…」
「まったく、これだけの力を隠してるなら、もっと早く出せ…あのバカ」
「その…ごめんなさい。ブルーフレームを、その…粉々に…」
「まったくだ。コピーとはいえ、作るのに苦労したんじゃぞ?」
ベランダの飲食スペースで、オウが出してくれた台湾料理を口にしつつ、タケルは粉々になったブルーフレームの残骸に目を向ける。
生き残っているパーツを見ても、フレームには数えきれない傷ができており、関節部はもはや全部交換した方がいいくらいだ。
これについては、勇太が覚醒を本当の意味で自分のものにしたからいい。
問題はゲーティアで、それについては早急に修理を行わなければ、明日の大会に支障が出る。
おまけにバトル終了後、覚醒の影響が出たせいなのか、ガンプラそのものが熱くなっており、しばらく外すことさえできなかった。
覚醒によってある程度発熱することは分かっている現象だが、勇太の覚醒のそれはまさに炎のような熱を発しており、それがガンプラにも影響を与えていた。
「そういえば、一つ気になったんじゃが…」
「何ですか?」
「お前が急に覚醒して、燃え上がったじゃろ?それに、ゲーティアにつけている盾の女…。まさかとは思うんじゃが…」
あくまでそれはタケル本人の予想でしかないが、念のために周囲を見渡す。
もう晩ご飯時で、ここにもご飯に来た客が多くいて、オウが接客をしている。
勇太はジャパンカップ優勝者で、言いふらすようなことをするといろいろと面倒なことになる。
タケルは勇太の隣に立つと、こっそりと耳打ちする。
それを聞いた瞬間、勇太の顔が一気に真っ赤に染まる。
「そそそ、まだそういうわけじゃ…」
「まだ…?」
「ああ、そうだ!!モチヅキさん達を心配させたら行けないから…その、そろそろ失礼します!!ありがとうございます!!!」
机に額がぶつかるほど頭を下げた勇太はゲーティアをもって、大急ぎで店を後にする。
走り去る勇太の後姿を見たタケルはヘヘッと笑ってしまう。
「こりゃあ…あれのモデルはまさに…」
「まったく、あいつはどうした!?ずっと連絡なしだと思ったら、閉じこもりやがって!!」
何度ノックしても一向に返事のない勇太の部屋の前で、プリプリ起こりながらモチヅキは売店で購入した3本目の缶ビールに手を伸ばす。
何も言わずにいなくなり、戻ってきたらこの様子。
少しでも心配した自分が馬鹿だった。
こうなったら、今度もう1度いなくなったとしたら、たとえ誘拐されたとして探しに行ってやらない。
そう心に誓いつつ、一気に飲み干していく。
「にしても、どうしてんだ?勇太の奴、あのゲーティアを更にボロボロにして…」
「誰かとバトルをしたのかな?何も教えてくれないからよくわからないけど…」
ツキミもミソラも首を傾げ、閉じたままのドアを見つめる。
そのドアの向こうで、勇太はノートに書き終えたばかりのアイデアとテキストを元にミキシングビルドで組み立てていく。
作っていく中で、勇太は机の上に置いてあるスマートフォンを動かす。
ホーム画面にはリージョンカップ優勝後に4人で撮った写真が写っている。
彼の視線はその中にあるミサに向けられ、表情を和らげる。
テーブルには2丁のハンドガンと2枚の折り畳み式のブレードが左右に取り付けられたバックパックなどが置かれていた。
(やるんだ…勝つんだ。ミサちゃんと、一緒に歩き続けるためにも…)
武装名:4連装砲
ゲーティアの左腕のシールドの裏側に取り付ける形で装備された射撃兵装。
ミサイルと実弾などの撃ち分けが可能となっていることから汎用性があり、マガジンごと交換する形となっているため、リロードの動作や構造はシンプルなものとなっているため、作り直しやすい。
設定上はテイワズが開発した、接近戦用モビルスーツの兵装の一つをゲーティアに追加装備したという設定となっており、ナノラミネートアーマーの存在からあくまでも近接戦闘時の補助としての使用にとどまっている。
こちらの兵装が装備されたゲーティアについては勇太のノートでは1.5形態とされておいる。
そこからデブリ帯での正体不明の宇宙海賊との戦闘を繰り広げる中で、彼らが所有するガンダムフレームであるガンダムレライエに敗北し、パイロットの暁もろとも鹵獲され、彼らの手でゲーティアは第2形態へと変わることとなる。