第6話「三日月・オーガス」
テイワズに救われ、無事に歳星へと帰還した曉。
海賊組織、モンターク夫人、そして未確認のガンダムフレームとそのパイロットが名乗った三日月・オーガス。
敵の正体が見えないままだが、つかの間の休息を家族と共に過ごし、その中で曉は自らの父のこと、鉄華団のことをアトラの口から語られる。
そして、地球のエドモントンにはモンターク夫人が姿を見せていた。
プラモショップにある作業スペース、机の上には無骨な外装パーツとゲーティア、新たな装備のアザレアが置かれていた。
「これを…アザレアの強化外装で装備する、というのは…?」
「えー。重たいし、かわいく見えないよー。それなら、前にバルバトスにやったようにゲーティアにつけたら?」
アザレアに作ってくれた気持ちはありがたいが、ミサにはその装備をどうしても使う気にはなれなかった。
茶色をベースとしていて、鬼のような2本角はアザレアのデザインとは真逆のものだ。
どうせなら、SEEDや00をベースとしたデザインにしてほしかったのにと思ってしまう。
「そうしたいけど、もうアザレアにつけるの前提でパーツとか調整しちゃったからなぁ…」
せっかく作ったにはミサに使ってほしいと思ったが、断られた以上はゲーティアに会わせて再調整しないといけない。
どう再調整するか、というよりもそのその装備がゲーティアのスタイルを大幅に崩してしまうかもしれないため、そこをどう折り合いをつけるべきか。
「それで、これがアメリカの大会での装備か…」
シンプルな装備に終始していた、これまでのアザレアしか見たことのない勇太には今回のその装備はその真逆へと進化していた。
フルシールドによって重量の増した両腕に右手に握られている大型ビームマシンガン。
オプションパーツとして、両肩にはシュツルムファウストにバックパックには2門のガトリングガン、胸部にはフラッシュバンなどが装備されている。
また、出力系統はキュリオスの太陽炉に変わっている。
「かなりシステムも変わっているし、これならトランザムが使える?」
「もっちろん!スピードは少し落ちたけど、トランザムを使えば、前のアザレア以上になるよ!あとは…」
「勇太君、ミサ」
作業スペース入口から女性の声が聞こえ、2人が振り返るとそこにはサクラの姿があった。
「サクラさん」
「久しぶりね、勇太君。ミサ。見送りに来たわ。今日でしょ?アメリカへ行くの」
「はい、ハワイへ行って、そこからは船で…」
ギガフロートはハワイ南西の公海に置かれているもので、国連が十数年前に発動した軌道エレベータープロジェクトを元に作られたものだ。
太陽光発電の新しい方法、天気に左右されることのない宇宙で発電し、それを地球へ供給するという、理論上のみの存在で実現ができないと長い間されていた方法。
軌道エレベーターを作るための高純度・軽量カーボンナノチューブが発明されたことから始めったプロジェクトは国連で臨時機関である国際連合軌道エレベーター開発機関が設置され、日本やアメリカ、イギリス、そしてNASAから出向した技術者たちを集めて、何十年にもわたる技術研究と建設事業の末にようやく完成の目途が立った。
安定した多量のクリーンな電力、一般の人々がようやく宇宙へ行くことのできる入口が今回の世界大会でお披露目となる。
現状はテロ対策も兼ねてハワイが唯一の窓口となっている。
「私は用事があって、すぐにはいけないけど、決勝戦までには追いつくようにするわ」
「そっか…。じゃあ、なおらさ決勝に行かないと!多分、決勝であいつと戦うことになるかもしれないし」
ミサの脳裏に浮かぶのはウィルとガンダムセレネスの姿。
あの時、煮え湯を飲まされた彼と、この彩渡商店街の未来をかけて戦うことになる。
彼と決勝で戦うことになるかどうかは分からないが、サクラも応援に来てくれることはとてもうれしい。
「よ、ミサ!勇太!元気にしとるか」
「ホウスケ君も…!」
「優勝のお祝いと、これから世界大会に出るライバルの顔を見たいと思ってなぁ!」
「ライバルからの激励か…こういう決戦前にはよくある話だよなぁ」
「カドマツ、遅い!!」
「悪い悪い、でも…バッチリ調整したぜ、ロボ太を」
カドマツの後ろにいたロボ太がトコトコと勇太たちの目の前まで歩いてきて、勇太に右拳を向ける。
「うん、おかえり、ロボ太」
「また頑張ろう!ロボ太!」
勇太が笑みを見せて彼の拳に自分の拳を当て、ミサは嬉しそうに抱き着く。
ようやく、いつもの景色が戻ってきたことを嬉しく思うと同時に、勇太はゲーティアをつかむ。
「さあ…行こうか、みんな!」
成田空港へ向かう高速道路を、カドマツが運転する車が走る。
夏休みになり、旅行シーズン真っ只中ということもあり、台湾へ行くときもそうだったが、やはり高速道路は渋滞していた。
モチヅキとウルチとは空港で合流することになっていたため、その時はバスで行っていたが、今回は4人で一緒の車で移動するため、渋滞になってはいるが話し相手がいるだけでもマシだ。
「うーん、ナビを見たら渋滞のせいで遅いが、まぁ出発には間に合うぜ」
「早く到着してほしいけど…あ、勇太君。ポッキー食べる?」
「ありがとう、ミサちゃん。そうだ、何か番組をやっていないかな?」
ミサから受け取ったポッキーを口に加え、ネットとつなげて番組を調べる。
世界大会がもうすぐ始まるということもあり、ガンプラ関係の放送局では既に世界大会に出場するチーム一覧の掲載がされていたり、大胆にも優勝チームの予想まで行われていた。
「今回のダークホースは彩渡商店街ガンプラチーム!!沢村勇太選手と井川美沙選手、そして…ええっとトイボットの試作機ロボ太君の3人がファイターとして編成されています!では、カイさん。彼らのチームをどのように分析しますか?」
「うーん、そうですねぇ。2人とも、ジャパンカップ終了後の世界ツアーでは個人で出場しており、その際にも優秀な成績を収めています。覚醒を使い、あのミスターガンプラに勝利した沢村選手もそうですが、メキメキと井川選手の動きにも期待すべきでしょう…って感じで、いいですかね?」
「んもう!ネットだからってそういうことを言わないで!」
「おっと、これは失礼」
2人の会話の後で、ミサのガンプラの映像が流れ、彼女の戦闘映像が流される。
「注目されてっぞ、ミサ」
「強くなってる、本当にすごいよ、ミサちゃんは」
「そ、そう…?そりゃあ、リーダーは私だし、それに…ちゃんと勇太君の隣で歩きたいから…」
「ミサちゃん…」
ほんのりと顔を赤く染め、チラリと隣に座る勇太を見る彼女に思わず勇太の心臓が高鳴る。
思えば、これまでずっと一緒に戦ってきて、ジャパンカップの後は一時的に離れ離れになる中で彼女のことをどれだけ自分も頼っていたのかを感じることになった。
ミサが一緒にいることはアジアツアーでツキミとミソラと一緒に戦った時以上の安心感になっていた。
「はぁー、甘いなぁ、お前ら夫婦は。おかげでせっかくもってきたブラックコーヒーが甘くなっちまったぞ」
「「ふ、夫婦!?」」
「お、ぴったり」
やっぱり夫婦じゃないかとこれ以上いじめてやりたいと思ったカドマツだが、ニューステロップを見ると同時に若干表情が固まる。
「六星アニメーション会社の盗作疑惑の証拠が発表、それを指示していた経営陣がすべて解任の上で会社そのものも解体…」
韓国で最近になって急速に勢いを伸ばしてきた会社で、その会社もタイムズユニバースが買収したものだということは休みの日にネットニュースを見ていたときに知ったことだ。
株価も上昇していたが、ネットでは盗作疑惑がささやかれており、特にその火付け役となったアニメが実は日本のとあるアニメをまねたものでしかないという疑惑まであったという。
最近、そういうタイムズユニバース関係のニュースが多くなったのを感じる。
以前のコンピュータウイルス騒動を起こしたスリーエス社もタイムズユニバースに買収された後に、その悪事が暴露された上に解体の憂き目にあった。
このアニメ会社もやり口は同じ。
自分が買収した会社の膿を取り除いていて、健全化していることをアピールしていると高評価する声は大きいが、どこか腑に落ちないところもある。
「ウィリアム・スターク…か」
そんな彼が今度は彩渡商店街を手に入れようとしている。
ミサに発破をかけるために、彼が帰った後は商店街のことはどうでもいいということを言ったとはいえ、どこか気になるところはある。
確かに同じ地域にタイムズユニバース百貨店を作っている中で、少しずつ昔の勢いを取り戻そうとしている彩渡商店街は商売相手になるだろうが、だからといって買収したとしてもそんなにメリットはない。
ショッピングモールが地元の商店街を買収しないのと同じようなものだ。
それにそもそも、スリーエスや六星のような不祥事なんてやっているわけがないのだ。
(ま…ごちゃごちゃ考えてもしょうがない。後はあいつらがやるだけだからな…勝てよ、お前ら)
ハワイにあるとあるホテルの一室。
スイートルームの机に修理を終えたガンダムセレネスとそれの装備品が並べられる。
「坊ちゃま、ガンプラの調整は終わられましたか?」
「もうちょっとだ、もう少し…。できれば、あれの試運転もしておきたかったけれどな」
装備品は勇太との戦いに使った太刀とその時は装備していなかったビームライフル、そして二振りの片手鎌が置かれていた。
ビームライフルそのものはゴールドフレームが使用するものとはあまり大差ないものの、鎌についてはわざわざスクラッチビルドしたものだ。
「よろしいのですか?会場到着後はテストをする時間はありません。でしたら、ハワイにもシミュレーターが…」
「いや、あんまり見せびらかしたくない。あいつと戦うまではね…」
「沢村勇太様、ですね…。あの沢村勇武様の弟君…」
「そんなことはどうでもいい。それよりも…」
忘れられないのはあのセレネスの腹部につけられた傷。
あれのお返しをするためだけに、セレネスを修理するだけでなく、新装備も用意した。
元々、セレネスはあそこでおそらくは勝利するであろうミスターガンプラと決闘するために作ったものだが、この装備はドロシーが見ても、明らかに勇太との戦いを想定したものだ。
「あいつを完膚なきまでに叩きのめす。そうでないと…そうでないとミスターガンプラに勝ったことにはならない…」
「坊ちゃま…」
買収し、叩きのめした悪徳企業に対する態度とは明らかに違う。
路頭に迷い、恨まれようとも歯牙にもかけなかった彼が、今は一人の少年に執着している。
ミスターガンプラに勝利したということもあるだろうが、それ以上に何か理由があるように思えた。
「ムニャムニャ…絶対、勝ぁつ…グウグウ…」
「まったく、もう勝負している夢を見てるのかよ」
ハワイ行の飛行機が飛ぶ中、すっかり眠ってしまったミサにカドマツはニヤニヤと笑みを見せる。
彼女の頭は隣に座る勇太の肩に乗っかっていて、幸せそうに笑っている。
ロボ太のガンプラの調整をしたいと思っていた勇太だが、この状態ではそのようなことはできない。
「まったく、エースさんよ。うちのリーダーをどうにかしてくれよ」
「これくらいがちょうどいいんですよ、カドマツさん。僕たちは」
「まったく、甘いねえ。よっぽどゾッコンってわけだ」
「ぞ、ゾッコンって…」
飛行機の中で、他にも寝ている人のことを考えると声を上げることができず、顔を真っ赤にしてしまう。
車の時のように、また甘い空気を漂わせる2人をどうにかからかいたいと思ったカドマツだが、これ以上は勇太がかわいそうだと思い、ロボ太のガンプラを出す。
「お前らが旅立っている間に、こっちで調整はしておいた。バーサル騎士ガンダムだ」
二つに割れてしまった力の盾が左右に装備され、右手にはバーサルソード、左手には片手用に再調整されたリニアライフル内蔵型の電磁ランス、霞の鎧も若干白がかったものへと変更されている。
「パワーアップはしているが、当のロボ太はまだまだ不満足だとさ。こいつの強化装備を頼めるか?」
「それはいいですけど、ミサちゃんのために作ったあの装備を断られて、ちょっと自信が…」
「それはお前が勝手に作ったのも悪いだろ。ま、あの坊主との戦いまでに間に合わせてくれればいい。頼んだぜ、それから…ありがとうな、勇太」
「なんですか、急に…お礼を言われるようなことをしましたっけ?」
「なんだよ、自覚ねえのか?俺を世界へ連れて行ってくれたじゃねえか。ハイムロボティクスは確かにジャパンカップ出場経験はあるが、優勝したことなんて一度もねーんだぞ。おまけに、世界大会へ出るんだぜ?ウチで最初にそれを成し遂げたメカニックってことで、俺もかなり注目されてんだぞ」
ジャパンカップ優勝の時は会社に多大な貢献をしたということで金一封が送られ、しかも同僚たちにお祝いまでされてしまった。
おまけに、世界大会出場が決まり、勇太たちにこれまで以上のバックアップをしたいということで世界大会へ行っている間は有休をとることを決めていた。
しかし、会社からはハワイでハイムロボティクスの宣伝をすること、そして優勝することを条件にその間も稼働日扱いにしてもらうことになった。
カドマツにとって、ガンプラバトルで世界に出ることはあまりにも高すぎで現実にならないと思っていたにもかかわらず、今はこうして現実として舞い降りている。
そのきっかけをくれたのが勇太とミサだ。
「カドマツさんやみんなが助けてくれたからですよ。僕一人だったら、それ以前に挑戦すらせずに、兄さんの影に隠れていましたから」
「もう、お前はとっくに沢村勇武を超えているさ。あいつの弟じゃなくて、沢村勇太としての戦いを見せてやれ」
「はい…そのためにも、彼を…ウィリアム・スタークを倒す」
昔のことがあったとはいえ、ミスターガンプラと自分の真剣勝負を汚したうえに、圧倒的な力を見せつけてきた彼への対抗心が静かに燃える。
アジアツアーに出ている間、彼のことを調べていたが、やはり彼はあの一件から一切、ガンプラバトルをしておらず、大会に出場した記録もない。
となると、ウィルは8年にもわたってガンプラから手を引いていたことになる。
その過去を考えると、タイムズユニバースでガンプラチームがないこと、そしてガンプラバトルのコーナーが一切ないことも説明がつく。
そんな大幅なブランクがあるはずの彼が、ガンダムセレネスを作り、圧倒的な力を見せた。
(それにしても、問題はあのパワーだ…。ミサちゃんが言っていた通りなら、ある程度重量があるはずのアザレアを片手で持ち上げ、たたきつけることができた。あのパワーをどうやって…」
詳しく機体全体を見たわけではないため、判別はつかないがゴールドフレームベースだとしたら機体の素材そのものは発砲金属という設定のはずで、強度はそこそこあって機体そのものは軽量のはず。
動力源は覚醒なしであのパワーを発揮することを考えるとバッテリーではなく、もしかしたら戦艦クラスの出力の核融合炉。
だが、そのようなものをモビルスーツ1機に乗せることができるかどうかは不透明で、そのようなことを借りにした場合、バックパックがかなり大きなものになってしまう。
「単純なパワー勝負を考えたら、おそらくは今のゲーティアと互角…。どうしたら…」
考えている間に、次第にうとうとしはじめてしまう。
目を閉じようとする勇太を見たカドマツはフゥ、とため息をつくと毛布を彼の腰に掛けた。