第8話「モビルアーマーの悪夢」
三日月・オーガスを名乗った男、ライドとの接触から数日。
歳星へと戻るはずだった曉とタービンズの元へクリュセから情報が届く。
放棄されていたハーフメタル採掘場に再びモビルアーマーが出現し、起動したと…。
それはかつて、三日月が倒したはずのハシュマルと同型のものだった。
「思わぬサプライズだ…サクラさんがよりによってウィリアムと組んでいるなんて」
「おまけに現状では1位通過、2位に大差をつけて、か…」
ウィルと戦うことについては覚悟はできたいた勇太だが、サクラも参戦することは想定外で、状況によっては2人同時に戦わなければならなくなることに頭を抱える。
今のゲーティアの完成度であれば、ウィルとサクラ1人ずつであれば対抗できるだろうが、2機同時では勝負にならない。
ただ、サクラが参戦したことで考えられるのはミサへのリベンジだ。
2人の戦いについてはミサから聞いていて、録画映像もしっかり見ている。
特に勇太が気になったのはミサが勝利した最大の要因である1秒だけの覚醒だ。
「ミサちゃん、結局アメリカでのバトルでは覚醒は1度も使えなかったの?」
「うーん、もっとピンチの状態になればできるかなって思って、ロクトさんとのバトルの時は期待してたけど、結局使えなかったの」
「それでも、ロクトさんをあと一歩まで追い込んだんだから、覚醒に頼らなくても、ミサちゃんは強いよ」
「ありがとう、勇太君にそう言ってもらえるのはうれしいけど…」
「だべるのはいいが、そろそろ準備をしろよ。久々のバトルで息が合わなかった、なんてオチはやめろよ」
「私たちがそんなヘマするわけないじゃん!行こ、勇太君!」
「うわっ!?ミサちゃん、ちょっと…」
ミサに手をつかまれ、引っ張られるように連れていかれる勇太とその後に続くロボ太。
2人と1機の様子を見たカドマツはニヤニヤと笑い始める。
「こりゃあ、ミサの奴、勇太と一緒に戦えるのが本当にうれしいようだな。それにしても、あいつらが世界へ…とはなぁ」
そう考えると、今年は本当にファイターの人選を間違えてしまったと思えた。
万年予選落ちチームであり、無名のファイターであるミサについては勇太の存在が起爆剤となり、勇太と肩を並べて戦うことができるだけの力を手に入れた。
それを証明したのがサクラとのバトル、アメリカでのロクトとの一騎打ちだ。
勇太も勇太で、勇武を乗り越えて、本気で勝ちたいという相手であるウィルと出会い、アジアツアーで活躍してみせた。
そうなると、ふと自分はどうなのかとカドマツは考えてしまう。
ロボ太のパワーアップやアセンブルシステムのサポートなど、大人としてできることはやっているつもりだが、それで自分が成長しているのかはわからない。
きっと、自分でバトルをしてそれを感じるという手段もあるだろうが、生憎それができていればそもそもメンバー探しなどしていない。
2人が日本を離れている間、なんだか2人に置いて行かれているような感覚がした。
(なぁ、俺は…お前らのメカニックだって、胸を張って言えるぐらいになれているか…?)
シミュレーターに乗り込み、仮想空間にダイブした勇太は格納庫へと向かい、そこでゲーティアの隣に立つアザレアを見つめる。
「どう?勇太君、私のアザレア…フルフォースは!」
遅れてやってきたミサは胸を張って自分のガンプラを紹介する。
デュナメスのフルシールドによって防御力を向上させ、裏側のウェポンラックには大型ビームマシンガンを取り付けることができるように調整されている。
また、両足にはミサイルポッド、バックパックにはガトリングガンを2門装着し、両肩にはシュツルムファウストを外付けされている格好だ。
なお、フルシールドの弱点である大出力のビームやビームサーベルへの対策のためなのか、左腕には追加でペイルライダー用のスパイクシールドまで装備されている。
あくまでも汎用性のある武装だけを選択し、ビームと実弾をうまく使い分けることのできるような設計に舌を巻く。
だからこそ、余計に勇太は自分が作った追加アーマーをミサに使ってほしかったと思える。
それがあれば、もっと選択肢を広げることができたのだが。
「バックパックはデュエルアサルトシュラウドのものか…うん、ちょっと待って?少し、形が違う…?」
「やっぱり、勇太君にはお見通しだね。ちょっとした仕掛けをつけてて…。勇太君もゲーティアをちゃんとパワーアップさせてるじゃん。これが第4形態になるんだっけ?」
「うん。重力下での対モビルアーマー戦を想定したものだよ」
そのことを示すかのように、ゲーティアのバックパックには新たにソードメイスらしき武装が追加されており、それに合わせてバックパック側面にそれを搭載するためのウェポンラックまである。
ブレードブースターについては小型化され、切り離し機能を廃止したシンプルなものに戻っている。
追加武装のせいか、構造が若干バルバトスに近づいているようにも見える。
「ねえ…勇太君」
「どうしたの、ミサちゃん」
「その…ありがとうね。勇太君にはずっとお世話になりっぱなしだから。勇太君がいなかったら、私…きっと商店街のこと、あきらめてたかもしれない。だから…」
万年予選敗退でタウンカップから出ることすらできず、それがずっと続いていたらさすがのミサもチームを解散させていたかもしれない。
だが、勇太と出会い、共に戦うことですべてが変わった。
弱小チームであるはずの自分たちが今、日本を飛び出して世界に向かっている。
少し前の自分では考えられない場所まで、今は来ている。
そのことで、勇太には感謝の気持ちでいっぱいだ。
「…お礼を言うのは、僕の方だよ。君と出会わなかったら、僕はガンプラを辞めていた。兄さんのことを乗り越えることができずに、ずっと後悔しながら生きていたかもしれない」
「勇太君…」
「でも、これで終わりじゃない。そこからまた始められるってことを教えてくれた。だから…」
「ゆ、勇太君!?」
いきなり正面から抱きしめられたミサは驚きと同時に顔を真っ赤にする。
ノーマルスーツ越しで、仮想空間の中とはいえ、異性に、勇太に抱きしめられていることに恥ずかしさを覚え、アスランに抱きしめられたカガリのようにじたばたしてしまう。
格納庫で、まだ映像に出ているわけではないが、それでもここは世界の舞台の一つ。
そのことで余計に恥ずかしさが増していく。
「ご、ごめん…今は、これだけ…。…じゃあ、行こうか」
ミサから離れた勇太は背中を向け、ゲーティアのコックピットに向けて走っていく。
そして、大急ぎでハッチを閉めると専用のケーブル付きヘルメットを装着し、阿頼耶識システムとのリンクを完了させる。
ボーッとその様子を眺めるミサの頬はほんのりと赤くなっていて、その場に立ち尽くすだけになっていた。
そんな中、遅れてやってきたロボ太の声が聞こえたことで、ようやく正気に戻ったミサは真っ赤になった顔のまま両手をじたばたさせてごまかしていた。
「網膜投影完了、ブレードブースターOS確認終了…全システムオールグリーン。ゲーティア、発進準備」
重量と機動力の問題から最初にアザレアが発進し、続けてロボ太のバーサル騎士ガンダムも発進していく。
その後でカタパルトに接続されたゲーティアに発進タイミングが譲渡される。
「よし…沢村勇太、ゲーティア、出るよ」
勇太の淡々とした言葉と同時にカタパルトから射出されたゲーティアは新型のブレードブースターを展開して飛行する。
地表にはすでに防衛対象であるビッグトレーが作戦エリア内に入っていた。
「勇太君、地形データと狙撃予測ポイント、送るね!」
ミサの通信に前後してデータが転送され、狙撃予測ポイントが次々と表示される。
自分たちが戦闘を行うことになるフィールドはタクラマカン砂漠で、フィールドそのものは高低差は大したことがないが、砂煙に隠れて狙撃される可能性も否定できない。
(ミサちゃんのアザレアはともかく、ゲーティアで砂漠戦にどこまで対応できるか…)
「勇太君、熱源反応!!」
「まずいな…もう来ているのか!!」
真下から飛んでくるミサイルをハンドガンで撃ち落としつつ、地上に向けて降りていく。
地表には対空ミサイルランチャーを装備したザク・デザートタイプの姿があり、こちらに命中するミサイルがないことが分かるとすぐにハンドガンの照準をザク・デザートタイプに向けて連射する。
その中に混ざっている炸裂弾が着弾し、機体内部で爆発したことで爆散したのを見届けたゲーティアが指でアザレアに合図を送り、アザレアがビッグトレーの真上に着艦する。
「ドダイに乗ったモビルスーツの姿もある!砂で視界が悪いけど、狙える?」
「任せて!」
砂嵐が吹き荒れ、見えづらいがそれでもうっすらと影は見える。
ホログラム型のガンカメラが機動し、うっすらとわずかに浮かぶ敵影からデータ照合が行われ、搭載モビルスーツを含めて特定していく。
「このビームマシンガンなら狙撃もできる…よしいっけぇ!!」
収束したビームが大型ビームマシンガンから発射され、それが乗っていたディザート・ザクを撃ち抜く。
後ろに吹っ飛び、落ちていきながら爆発した搭載モビルスーツに制御を依存していたドダイ改はそのまま落ちていくはずだったが、その前にブレードブースターをたたんだゲーティアが乗り込み、その制御を掌握する。
そして、乗り込んだまま飛行しつつ、ドダイ改に内蔵されているミサイルを空中にいるモビルスーツに向けて発射する。
火力はモビルスーツのライフル程ではなく、センサーも阿頼耶識システムの特性上感覚で直していくことになるため、照準も不安定だが、それでも落とすだけでもビッグトレーの安全を向上させることはできる。
そんな勇太の予測通り、ミサイルが命中したザクⅠ・スナイパータイプはドダイ改から地表へと転落する。
転落したザクⅠ・スナイパータイプがビームを撃とうとするが、その前にドダイ改から飛び降りたゲーティアの太刀で縦一閃に両断された。
そして、その場でジャンプして再びドダイ改へと戻ることはできたものの、やはり砂漠ということもあり、どうしても足場は液体状に近い。
おかげでふんばりがうまくいかないところがあり、今回はうまくジャンプできたが、これは阿頼耶識システムのおかげというところが大きかった。
キラのようにOSをその場で書き換えて、砂漠に適応するなんて動きができるわけがない。
「ドダイの推進剤は…OK、まだ大丈夫。ロボ太、砂漠戦だけど、バーサルは問題ない?」
「問題ない。既にセッティングは完了済みだ。む…岩陰からミサイル!!」
ヒュウウウと3発のミサイルがビッグトレーの右側に向けて飛んでくる。
砂嵐とミノフスキー粒子のおかげか、2発は外れたものの、1発が直撃コースを飛んでおり、それをアザレアがガトリングで撃ち落とす。
そんな中で、ひときわ大きな警告音が響き、これまでの敵機と比較すると大きな熱反応を感知する。
「モビルアーマー!?」
「形状から見ると…これは、ライノサラスだ!!」
砂漠とマッチする黄土色の装甲をした、木馬のような形の戦車にザクⅡの頭がついたというべき、戦艦クラスの巨大モビルアーマーが進路上に立ちはだかる。
おまけに バストライナー付のB型で、最大出力のビームを受けたら、さすがのビッグトレーでも轟沈してしまう。
ルール上は今回、沈むようなことはないが大幅なマイナスとなり、予選敗退は明白だ。
この機体を撃破しなければ、ビッグトレーは離脱することはできない。
更に追い打ちをかけるような事態が起こる。
「ええー!?反応が増えた!!ライノサラス…3機!?」
「これは厄介だ…」
ライノサラスの背後に隠れるように配置されていたもう2機のライノサラスが左右にずれるように動く。
ケーブル接続して牽引していて、おまけに先ほどまで核融合炉を停止させていたこと、そして砂漠の特性からミサも気づけなかった。
「まずいぞ!先頭のライノサラスが既にエネルギーチャージをしている!!ちぃぃ!!」
目の前のライノサラスの登場を皮切りに、左右から一気に部隊が突入してくる。
突入するドム・トローベンの数機はシュツルムファウストを装備している。
「右はどうにかする!ミサは左を!」
「う、うん!そうする!!」
ビッグトレーから飛び降りたバーサル騎士ガンダムはザクマシンガンで牽制しながら接近するドム・トローベンを左手の電磁スピアに内蔵されているリニアライフルを発射する。
バチバチと放電と共に拘束で発射された青い弾丸がドム・トローベンの分厚い装甲を貫き、爆散させた。
だが、破壊力があるとはいえ内蔵式リニアライフルの弾数には限りがある。
右手のバーサルソードもGNソードのようにビームライフルにすることはできるが、それではドム・トローベンを1発では倒し切れない。
「ならば、まとめて吹き飛ばす!!」
弾幕をかいくぐり、敵部隊のほぼど真ん中まで入り込む。
そして、バーサルソードの剣先を空に掲げると、刀身が青く光り輝き、バーサル騎士ガンダムを中心に竜巻が発生する。
竜巻は徐々に勢いを増すとともに、電気を纏う。
激しい竜巻が周囲のモビルスーツを巻き込んでいく。
「必殺トルネードスパーク!!」
バーサル騎士ガンダムの必殺奥義が炸裂し、電気と真空の刃が竜巻に閉じ込められたモビルスーツを切り裂いていった。
その大技は機体に負担をかけるために連発できない。
だが、それでもビッグトレーの守りを固めつつ、周囲を薙ぎ払うには十分だ。
「いいよいいよ、ロボ太!!私だって…いくよ、トランザム!!」
アザレア内部の太陽炉が作り出していた高濃度圧縮粒子が解放され、機体が赤く包まれていく。
そして、大型ビームマシンガンの銃口をビッグトレー左側の敵モビルスーツ部隊に向けるとともに、両肩のGNフルシールドもそれに追随するように動く。
大型ビームマシンガンの銃口のGN粒子が集中していき、戦艦の主砲を彷彿とさせる大出力のビームが発射される。
ビームの奔流に飲み込まれたモビルスーツは砂と共に消し飛び、その周りにいたモビルスーツにも装甲を焼き、センサーを狂わせる。
「よし…!うまくいってる!!あとは…」
あとは勇太が道を切り開くのを期待するだけ。
ライノサラスに向けて接近するゲーティアが乗っているドダイ改から離脱し、ドダイ改だけがライノサラスに向けて特攻する。
ライノサラスは巨大な分、装甲も分厚いものの、あくまで急造品。
冷却システムに問題があり、その分ほんのわずかなダメージでパストライナーが使えなくなる可能性もある。
それを避けるために、即座にわずかに砲身を動かし、ドダイ改を巻き込むように発射する。
「今だ…いけぇ!!」
ドダイ改の真後ろの離れたところにいた勇太は覚醒し、左手のシールドで胴体をカバーしつつ、パストライナーに備える。
大出力のビームはドダイ改を消し飛ばし、覚醒したゲーティアを襲う。
覚醒によって生み出したバリアを壁のように展開し、パストライナーのビームを受け止め続ける。
(2機のライノサラスもB型、融合炉が起動して間がない分、パストライナー発射まで時間がある。今撃っている奴の冷却時間を考えたら…やれる!!)
ビームが収まるとともにゲーティアがシールドを投げ捨て、ハンドガン2丁を連射しながら中央のライノサラスに迫る。
頭部への集中連射によって、ザクⅡのメインカメラは損傷し、やがて頭部パーツが吹き飛ぶ。
そして、ライノサラスに取りつくとそれによって開いた穴にめがけてもう1発だけ撃ち込み、すぐに離脱する。
コックピットへの直撃弾となったようで、コントロールを失ったライノサラスは機能停止する。
そのことを確認した勇太は弾切れになったハンドガンを投げ捨て、バックパックに背負うソードメイスを手にする。
それでまずは右側にいるライノサラスの、いちばん脅威となるパストライナーを叩き切る。
そして、両足をライノサラスの両肩に当たる部分に置き、覚醒エネルギーが宿ったままの刀身で今度は胴体部分に突き刺す。
ここに来て、肉薄しているゲーティアが脅威と判断したのか、最後の生き残りのライノサラスが回頭して、もはや死んだも同然な2機のライノサラスを巻き込むことを承知でチャージを終えたばかりのパストライナーを発射する。
突き刺したソードメイスに見切りをつけ、大きく跳躍したゲーティアは上空で両腰に差している2本の太刀を引き抜く。
二刀流となったゲーティアが重力と全開となったスラスターで一気にライノサラスに向けて落下していく。
近づかれる前に仕留めるべく、ミサイルポッドとマシンガンで弾幕を作り出す。
放射線を描くように落ちるゲーティアはライノサラスの背後にとりつき、そこから始まるのは解体ショー。
まずはミサイルポッドが斬られ、続けてパストライナーも根元から切り落とされる。
前面に火器が集中しているライノサラスの側面と背後を守ることができるのは後ろ脚部分にある砲台のみで、それも既に太刀で刺され、破壊されている。
各部から炎が上がり、もはや生きている兵装はマシンガンのみで、もはやそれでは取りついたゲーティアを止めることはできない。
最後に真正面にやってきたゲーティアは2本の太刀を交差するように斬り、その瞬間ライノサラスのノイズが走っているカメラ映像がブラックアウトした。
「んんんん…ああーーー!!おいしい!やっぱり買った後っておいしいよね!!」
「おいおい、酒かよ」
試合が終わり、自販機で買った缶ジュースをおいしそうに一気飲みするミサはカドマツは呆れた様子を見せつつ、一緒に買った缶コーヒーを口にする。
サクラとウィルのチームにはわずかに差があるものの、それでも上位での通過は確実なものになり、ほんの少しだけ気持ちに余裕ができた。
「それにしても、驚いたな…フルシールドにクラビカルアンテナを仕込んでいたなんて」
「トランザムしたときしか使えないのが課題なんだけど、うまくいってよかったぁ。欲を言えば、GNフィールドを展開する機能もつけたかったけどなぁ」
「いろいろ機能をつけすぎると故障率が上がるし、アルヴァアロンの場合はライフルとサーベルだけを装備していたから、GNフィールドにエネルギーを回す余裕ができたのかも…」
そう考えると、エクシアに一方的にやられる形になったアルヴァアロンは完成度の高いモビルスーツといえたかもしれない。
ヴァーチェの場合は太陽炉を搭載していたものの、GNコンデンサーを機体各部に搭載しなければ、GNフィールドを機体全体を包むような形で作り出すことができなかったのに対して、アルヴァアロンは疑似太陽炉1つでそれを可能にしている。
おまけに、戦艦の主砲レベルのビームを発射可能なのも大きく、仮にエクシア以外で戦った場合に勝てたのかは勇太も疑問を抱いている。
「まぁ、これ以外にも仕掛けはあるけど、それは追々、本選で戦う中でのお楽しみに!ってことで」
「そうするよ。それに、ゲーティアもバーサル騎士ガンダムにもまだまだ強化の余地はある。できることをやって、明日の本選に…」
「勇太、ミサ。いいバトルしていたわね」
「その声…サクラさん」
2人の視線が声が聞こえた方向に向き、そこには水筒を持っているサクラの姿があった。
ハワイで日本以上に暑い場所なのにもかかわらず、相変わらず上着を着ていて、そのくせ暑そうな感じを少しも見せない。
勇太もミサも、熱中症を避けるために薄着になっていて、ミサに関しては上半身はシャツ1枚になっている。
露出度が上がり、男もよってくるのかと思ったものの、やはり何も入ったないつつましさが災いしているのか、現状反応を見せる男性陣は勇太を除くと一人もいない。
「悪かったわね、私も出場しているってことを黙っていて」
「やっぱり…出場するのはミサちゃんへのリベンジ、ですか?」
「ええ、そうよ。負けっぱなしは性に合わないから」
だからこそ、2人が海外へ出ている間、サクラはリベンジのためのガンプラの製作を行っていた。
その結果として完成したのがこのガンダムスローネダブルシザースだ。
「相変わらず、鋏をつけているんですね。ピンク色のモビルスーツには似合わないように見えますけど…」
「結構便利よ、鋏って」
ここまで鋏にこだわるか、というほどサクラのガンプラには鋏を装備したモビルスーツが多い。
初めて作ったガンプラがその鋏を持ったモビルスーツ、ガンダムアシュタロンだったことも大きいだろう。
勇武とチームを組んでいたときはその鋏の破壊力を利用したパワープレーを得意としていた。
「あら…そろそろ戻らないとウィリアムに怒られるわね、行かないと。勇太君、必ず勝ちなさいよ。それからミサ、首を洗って待っていなさい」
ミサに対しては指をさしてリベンジを宣言し、サクラは去っていく。
こんなに間近でしっかりと宣言されたということは、サクラはミサをライバルとして意識しているのだろう。
「そんなの…分かってる。けど、勝つのは私!!カドマツさん、ステーキ!!」
「なぁ…!?なんだよ急に…」
「しっかり食べて、バトルして勝つ!!それにハワイはステーキのメッカ!!勇太君も、いいよね!?」
「う、うん…」
「おいおい、いったいいくらするんだよ…昼飯だけで」
世界選手権ということで、会場には特設のフードコートが設けられており、すしにラーメン、ステーキにケバブなど世界中の料理が集まっている。
どうか安い値段であってくれと願いながら、カドマツは勇太とミサの後に続いた。