第10話「厄祭」
モビルアーマー騒動から2カ月が経過した。
意識が回復した曉は休む間もなく新たな戦いに駆り出される。
それはテロリストが強奪したモビルアーマーの奪還だった。
太陽の光によって輝く月を汚すように戦艦や機動兵器のデブリが漂う。
優しい大地を穿ち、その重力に引っ張られるように斜めに倒れている十字架のような衛星が立っており、それはまるでこの宙域で命を散らした兵士たちを弔っているかのようだった。
この十字架に見える衛星はこの宙域での大規模な戦闘の原因となった機動要塞メサイアで、この中にはデュランダルの夢の象徴であった遺伝子情報研究施設もある。
SEEDの世界での月面は幾度にわたり激しい戦闘が行われていて、その設定が反映されているかのように月面各地には数多くのデブリが漂っている。
最近の作品では、月面付近で激しい戦闘が繰り広げられることが多く、これがもし地球で行われていたらと思うとぞっとすることになる。
「はあ、本当邪魔なデブリだぜ…」
黒く塗装されたガンダム・ヘッドが手ぶらになっている右側のサブアームを利用してカメラ近くを漂う車のデブリをどかす。
レクイエムで使うゲシュマイディッヒ・パンツァーの残骸の影に隠れているその機体は右腕にGバードを装着し、こちらに気付いていないだろう敵機をそれで蒸発させる。
周囲にはハロを有線式で漂わせて、敵機の位置や種類をそれから送られる情報で把握する。
「本当…幽霊なんてものがいたら、ここらへんに化けて出てきそうだなぁ」
あくまでもその光景を再現した仮想現実に過ぎないが、ここまで精密な映像となるとそう思っても仕方ない。
そんなことを考えているとピピピとハロから敵機接近を伝える通信音が伝わり、モニターには探知した敵機の姿が映る。
「紫のモビルスーツ…鬼の角付きのレジェンドか?あいつ、気づいていないのか?」
こちらのチームの戦術では味方機2機が居場所をつかみ、足止めをしてこちらがGバードを撃ちこむ。
仮にその2機が居場所をつかめず、敵機の接近を許した場合でも2機のハロで居場所を探す形になる。
ミラージュコロイドや見えざる傘のようなステルス機能を使っている機体には見えず、それに気づかないのかと口には出さないが不満を抱える。
だが、近づかれてドラグーンシステムなんて使われたら、機動力のないガンダム・ヘッドでは勝てない。
幸い、射程に入っていて、気づいている様子は見られない。
Gバードの照準を紫のレジェンドに向け、必要最低限まで低めた核融合炉の出力を高めていく。
「よし…いけぇ!!」
射線上に味方機がいないため、迷うことなくGバードの引き金を引く。
ヴァスバーをはるかに上回る出力のビームが射線上のデブリを焼き尽くしていき、紫のレジェンドを焼き尽くそうとする。
やった、と撃墜を確信したと同時にコックピットを激しい揺れが襲う。
その瞬間、コックピットに穴が開き、ガンダム・ヘッドの機能は停止した。
背後には下手人と思われる紫のガフランの姿があり、動かなくなったガンダム・ヘッドを蹴り飛ばす。
撃墜されたガンダム・ヘッドは宙域を漂い、やがてその姿を消した。
「PG機体のパワーを…舐めるなぁ!!」
「うわわわ!!」
PGのドズル専用ザクⅡが振り下ろす大型ヒートホークを辛くも横に避けたアザレアだが、そこから発せられる高温が月の大地を焼く。
世界大会ということで、カマセ以上のPG機体の登場についても覚悟はしていたものの、やはりその性能もプレッシャーも今まで戦ったPG機体やモビルアーマーを上回る。
「やっぱり、破砕砲がないとだめか…!」
これからのバトルに備えて、ゲーティアにも破砕砲を装備することは考えていたが、ウィルとのバトルに意識が向きすぎて、エイハブウィングづくりを優先してしまったうかつさをかみしめる。
太刀ではその機体の装甲を貫くことができず、仮に貫くことができるとしても、おそらくはジェネレーターやコックピットを直接狙うやり方を取らなければ撃破できないだろう。
「ほらほらどうしたぁ!?こんなんじゃあ、俺は倒せねえぞぉ!!」
距離を取ったとしても、PGに合わせて大口径となったザクマシンガンの弾幕にさらされる。
「こうなったら、覚醒で…」
「待って!勇太君…ちょっとやってみたいことがあるの!ロボ太、囮をお願い!」
「了解だ、ミサ!!」
ミサがこれから何をしようというのかはわからないが、何かをしてくれると信じたロボ太は敵PG機体の射線上を飛び、左手の電磁ランス内蔵にレールガンを発射する。
PG機体相手では衝撃を与える程度のダメージしか与えることができないが、それでも手首を狙えば武器を落とさせることができるかもしれない。
「ちょこまかと動き回って!ぶっ壊されたいのかよぉ!」
ドドドドとザクマシンガンを撃ちまくるザクⅡ。
着弾と同時に小規模のクレーターがいくつもでき、土が舞い上がる。
一旦レールガンによる攻撃を止め、回避に専念するバーサル騎士ガンダムだが、弾丸が近くを通るだけでロボ太にブルブルと強い振動が襲う。
「これは…たとえナノラミネートアーマーで身を守ったとしても…!!」
ダインスレイヴを受けるほどではないとしても、おそらくはバルバトスにメイスをぶちのめされる程度の惨事に見舞われていただろう。
ロボ太に敵機の視線が向けられている間にクレーターの影に隠れ、ミサはコンソールを操作する。
「これ、初めてやるからできるかどうかわかんない。でも…火力がないとPGには勝てないから…!」
「ミサちゃん、僕がおとりになってもよかったんじゃ…」
「勇太君と一緒じゃなきゃダメなの!この機能を使うためには、モビルスーツじゃないと…!」
「わ、分かった…」
「うん…システムはこの感じで、関節部への負荷計算も…OK!!これなら、耐えられるし、戦闘も継続できる!!」
関節固定機能も問題ないと判断したミサはさっそく、フルフォースとなったアザレアの新たな力を発動する。
「さあ…行くよ!アザレアシステムチェンジ!コード・ブラスター!!」
コード入力完了と同時にアザレアのバックパックが外れる。
それと同時に変形していき、両足が連結した状態となり、足底が展開して2つの銃口となる。
やがてアザレアそのものがGバードをほうふつとさせる巨大なビームライフルへと変形し、ゲーティアの右腕と合体するような形で装着される。
「これは…」
「アザレアブラスター!彩渡商店街ガンプラチームの必殺武器の1つだよ!いっけえ、勇太君!!」
「分かったよ!うおおおお!!」
クレーターから飛び出したゲーティアはふらつきながら飛行し、勇太は機体姿勢制御の調整を行っていく。
右腕がモビルスーツ1機分重量が増していて、稼働している太陽炉の重力低減機能を活用したとしてもやはり姿勢が大きく崩れるほど重たい。
元々、モビルスーツと同じ重量の武器を片手で使うことなど想定されておらず、そのプログラムへの自動変更プログラムも入れているはずがない。
それでも、どうにか即席で修正していき、少なくとも月面の低い重力下で動かしても問題ない程度にはしていった。
仮に地球やコロニー内部のような重力下では、今の状態では運用などできないだろう。
「こそこそ隠れていた奴が今更…!!」
右腕におかしな大砲をつけたゲーティアに違和感を抱いたものの、そんなもの恐れる必要はないと言わんばかりにゲーティアめがけてザクマシンガンを撃つ。
直撃を避けるべく動き回るが、激しい振動が機体全体を襲い、右腕をかばいながら飛ぶ中で装甲と弾丸がかすめ、体が大きく揺れるほどの衝撃が襲う。
「くぅ…近くを通るだけでもこれか!これだと足を止められない!」
「うおおおおおお!!」
勇太とミサを援護すべく、ロボ太が注意が2人に向いた隙にザクマシンガンを握っている右手に取りつく。
そして、グリップに向けて炎の剣を突き立てる。
確かにPG機体は大型化したことで圧倒的なパワーを獲得するに至ったが、同時にそれに合わせて武装も大型化する必要が出てきた。
その分、装備でどうしても弱い部分…例えば銃を撃つための引き金といったところも大型化して、やろうと思えばそれを狙うこともできる。
「しまった!ええい、離れろぉ!!」
ロボ太の動きに驚き、ザクが右腕を大きく振ってロボ太を地面にたたきつける。
そのわずかな間に照準合わせを終わらせることに成功する。
「ミサちゃん!!」
「了解、トランザム・ブラスター!!」
アザレアに内蔵されている太陽炉が起動し、ブラスターモードと化したアザレアが赤い光に包まれる。
ブラスターモードとなったことでトランザムによって生まれる高濃度圧縮粒子はある一点にのみ使うことができる。
「よし…」
「「いっけぇぇぇぇぇ!!!」」
2人の叫びと共にアザレアから大出力のビームがザクに向けて発射される。
フェイスバーストモードとなったセラヴィーが放つクアッドキャノン以上ともいえる大出力のビームはザクの胸部を貫いていき、その衝撃でザクの四肢を吹き飛ばしていく。
ビームが収まると、合体していたアザレアがトランザムを解除し、分離すると同時に元のモビルスーツ形態へと戻る。
「すごい…てこずっていたPG機体を一撃で…。そうだ、ロボ太!」
月面にたたきつけられた彼は大丈夫かと倒れているバーサル騎士ガンダムに駆け寄り、接触回線を開く。
「大丈夫!?ロボ太!」
「ああ…主殿、心配ない。ここが地球やコロニーの中であったら、即死だった」
損傷も思っていたよりは軽く、戦闘継続には問題ない。
ロボ太をゲーティアが起こしている間に、アザレアはバックパックを装着しなおした状態で戻ってくる。
「それにしても、ミサ…。まさかアザレアが主殿の武器になるとは…」
「もっとアザレアの火力を引き上げることができないかって考えたときに思いついて…勇太君の助けがなかったらできないのが弱点だけど…」
「ウィリアムとの戦いで使えるかはわからないけれど、いろいろと使い道はあるよ。頼りにさせてもらうよ、ミサちゃん」
「…うん!あとは…サクラさん達を見つけないとね!決勝じゃないけど、戦えるなら、戦いたいし!」
「それよりもまずは補給だよ。今の戦いで消耗しているし…」
もし戦うとなっても、消耗していた状態ではいい勝負なんてできない。
まずは記録した補給地点の座標データから、一番近い場所を割り出していった。
「右腕のフレームへのダメージは軽微…。急ごう!ミサちゃん!」
吹き飛んだザクのパーツが消えていく中、3機は補給地点に向けて飛んでいった。
「ミサの奴、すっかり成長しやがったな」
ノートパソコンで勇太たちのバトルを見守るカドマツはミサの成長に感心するしかなかった。
初めて会ったころは正直に言って頼りなく、あくまでもどこにでもいる普通のファイター程度としか思っていなかった。
実際、手伝ったのは勇太への興味が大きい。
だが、勇太と共に戦い、激戦を潜り抜ける中でミサは一気に成長していった。
ジャパンカップの時点ではまだ火種程度だったかもしれないが、アメリカ大会でロクトと互角に戦い、世界選手権に出場したことで爆発した。
3機が補給地点で銃弾や推進剤の補給を受けているのを見る中、カドマツは軽く見続けていたことを心の中でわびた。
彼らの補給に協力しているのはビグ・ラングで、今はバーサル騎士ガンダムがクレーンアームによってコンテナに運び込まれ、推進剤と弾薬を補充されている。
「すごいな…モビルスーツの連携プレーかよ」
「さっすがジャパンカップ優勝チームだ、目の付け所が違うぜ…!」
観客たちはさっそく、2機のPG機体を撃破した彩渡商店街ガンプラチームのことを話題にする。
すっかり注目の的になっていることを嬉しく思うカドマツだが、妙な映像を見たことでその表情が消える。
「こいつは…妙だな。嫌な動きをしてやがる…」
「くそ!くそ!くそぉ!当たったはずだろ!?ダメージを与えているはずなのに、どうしてぇ!?」
青いEx-Sガンダムに乗っているファイターは目の前の機体の異常の性能に戦慄する。
目の前にいる角付きのレジェンドに対して、彼は何度もビームスマートガンで攻撃を加えている。
先ほどリフレクターインコムを利用して死角から一撃を加えたはずなのに、あの目の前のモビルスーツは無傷だ。
ハイメガキャノンを上回る火力を誇る一撃を何度も受けてもそれでは、おかしいと思って当然だ。
ふと、彼の脳裏に似たような状況のシーンが頭に浮かぶ。
機動戦士ガンダムカタナでの最終決戦の場であるサイド7に到着する前に、フルアーマーストライカーカスタムとシン・フェデラル仕様のサイサリスが交戦した際、サイサリスは動いている様子を見せていないにもかかわらず、ストライカーカスタムのフカサクによる連撃をすべて回避して見せていた。
実際のところは天地鳴動一心という2機のモビルスーツのパイロットが身に着けているツルギ流の動きを再現したもので、サイサリスは必要最小限の動きでストライカーカスタムの攻撃をかわしていた。
他にも、サイサリスのパイロットは距離を取った状態でビームサーベルの剣先を相手に向け、左手を刃に添える構えを披露し、その状態で距離を縮めていないにもかかわらず、あたかも見えないビームライフルを撃ったかのようにストライカーカスタムにダメージを与えるなど、オカルトに近い動きを見せていた。
それを同じことを相手パイロットがしているのか、それともただチートを使っているのか。
「いい機体だ…。ちょうど、もっと味方がいてもいいかなって思っていたんだよ」
角つきのレジェンドのコックピットの中で、ザフトの白服用のノーマルスーツ姿をしたバイラスが舌なめずりをするかのように混乱する敵モビルスーツを見る。
そして、バックパックに搭載されているドラグーンを射出する。
「さあ、私に力を貸してもらおうか!!」
「ドラグーン!?くっそぉ!だけどなぁ!!」
どこかのタイミングでドラグーンを使ってくることは分かっており、機体に搭載されているIフィールドを展開する。
Ex-Sガンダムはモビルスーツとしては初めてIフィールドを搭載した機体で、本来は胸部のみを防御できる設計であったが、彼の場合はジェネレーター出力を強化したことによって、全身を守ることも常時展開することも可能にしている。
最も、Iフィールドそのものがエネルギー消費が多大で、状況によっては石潰しになりかねないものであることから、めったに使おうとは思わないが。
射出された4基のドラグーンのうちの3基がビームを発射するが、こうした小型のオールレンジ攻撃用の兵器共通の弱点である火力不足がIフィールドを前に浮き彫りとなっており、機体に命中することなくかき消される。
「こんなのを相手にしてられるか!さっさと逃げるに限るんだよ!!」
残ったチームが規定数になった時点で本選に出られる以上、無理に戦う必要もない。
Gクルーザーに変形し、そのまま逃げ去ってやろうともくろんだが、変形が終わった瞬間、ガンと何かがぶつかった衝撃が襲うとともに、コックピットを警告音と赤いランプの光が包んでいく。
そして、Gクルーザーが動きを止めてしまった。
「おい、おいおいおいおい!!どうなってんだよ!?く…!!」
ガチャガチャと操縦桿を動かすがうんともすんとも反応しない。
「おい、大丈夫かよ!今助ける!!」
彼の仲間である赤いジェガンがやってきて、右手のフェザーインライフルのギロチンバーストでドラグーンの1基を撃ち落とす。
もう1基の仲間であるギラ・ズールも懐から取り出した煙幕弾を投げて視界を封じ、逃げる時間を稼ぐ。
「今のうちに逃げるぞ!この煙でビームも無力化できる!あのレジェンドにはそれで…」
安心させようと仲間に語り掛けたジェガンだが、次の瞬間モビルスーツに戻ったEx-Sガンダムがコックピットにビームスマートガンを突き立てる。
そして、何の躊躇もなくゼロ距離からビームを発射し、仲間のはずのジェガンを無惨にもデブリへと還した。
「おい!?何やってんだ!気でも狂ったのかよ!?」
「違う!違うんだ!俺がやったんじゃない!俺が…!!」
赤く染まったコックピットの中で、彼は奥歯をかみしめながら操縦桿を動かす。
愛機はそれに従う気配はなく、今度はビームキャノンでギラ・ズールを攻撃し始める。
「どうなってんだよこれ!?まさか…ネオ・ジオングの…!?」
頭に浮かぶのはネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングが行った敵機へのジャックだ。
有線式大型ファンネルに内蔵されている三本爪のワイヤーアンカーで敵機を捕まえ、意のままに操る。
仮にそれを可能にするのであれば、ファンネルの出来栄えもそうだが、ジャックしている機体を遠隔操縦するだけの技術が求められる。
そもそも、ファンネルはシンプルにビームを撃つこと、動くことだけを命令するものが多く、それを複数機操るだけでもパイロットに負担がかかる。
フル・フロンタルやゾルタン・アッカネンができたのは、はっきり言って人の領域から逸脱していたからだろう。
その仮説が正しいならば、今のEx-Sガンダムは角付きに操られている。
だとしたら、その機体を倒すしかない。
ビームスマートガンが効かないその機体をどう倒すべきかはわからないが、仲間をこのまま放っておくわけにもいかない。
「お前ぇぇぇぇ!!!」
「あーあー、無様だなぁ。こんな直進をするなんてねえ。スマートじゃない」
ビームマシンガンを連射しながら突っ込んでくるギラ・ズールにバイラスはため息をつく。
どんなに撃ち込んだとしても、この機体には傷一つつかないのに、無駄なことを。
「邪魔だから、消えてくれたまえ」
シッシと手を振ると同時にレジェンドが左手に握っているビームサーベルでギラ・ズールのコックピットに穴をあける。
穴が開いたギラ・ズールはコントロールを失う中、レジェンドは回り込むように動いて回避し、出力を絞ったビームライフルを何度も発射する。
「そんな…俺たちは、世界大会に出るために戦って…勝ってきて…」
こんなわけのわからない結末に納得できない彼はログアウトされ、同時に核融合炉に被弾したことでギラ・ズールは大爆発を引き起こした。
「なんだこいつ!?相手の機体を操ってるぞ!?」
「どうやってるんだろう…?おまけに滅茶苦茶硬いじゃないか!?」
「チートでも使ってるのか!?」
観客席のモニターにも先ほどの顛末が流れ、この理不尽極まりない動きを見せるレジェンドに騒然とする。
レジェンドを中心とした紫のモビルスーツがジャックしたEx-Sガンダムに触れると、その機体の色がレジェンドと同じ紫へと変化していく。
そして、バックパックに突き刺さっていたドラグーンが外れ、レジェンドのバックパックに戻った。
「あれは…全部とはいわんが、何機も同時に操っているのか?これは…チートの匂いがするぜ」
自らの機体を動かしながらも、ジャックした複数の機体も一緒に動かすなど一人の人間にできる芸当ではない。
だが、問題はそれをシミュレーターが見逃していること。
アセンブルシステムの改造については、一定のルールが課せられており、仮にそのルールから外れた改造をした場合はそもそもシミュレーターが使えなくなる。
シミュレーターに入った状態でシステムを入れ替えた場合でも、その時点で操縦にロックがかかり、強制ログアウトとなる。
そうした壁を突破して、公然とチート機体を入れてきたとなると、相手はかなりのハッカーになる。
「あいつらに伝えねえと…おい、勇太、ミサ、ロボ太!聞こえるか!?紫のモビルスーツ軍団とは遭遇してないよな!?」
「ど、どうしたんですかカドマツさん。いきなり…」
「よく聞け!紫の軍団が来たらすぐに逃げろ!おそらくは…お前らでは勝てない!!とんでもねえチートを使っているぞ!!」
「チート!?世界大会に、それに…このフィールドにぃ!?」
「今から映像を送る。これでわかるだろうよ。そいつの異常っぷりが!」
「これは…」
いつ敵チームが来てもおかしくないことから、カドマツから送られた映像を倍速で見た勇太は紫のレジェンドが行った所業に操縦桿を握りしめる。
同時に、全機体に向けて緊急アナウンスも入る。
「やっぱり、チート機体で…ええ!?強制ログアウトも機体停止もできないぃ!?」
「倒すことができない…。救済措置として、その機体に撃墜されたことで脱落したチームには敗者復活戦でチャンスは与えられるようだが…。何が目的でこのようなチートを!?」
「都市に入って、隠れよう。それでやり過ごすしか…」
チートプレイヤーは許せないが、正面切って戦うわけにもいかず、やむなく勇太は見つけた隠れ場所へ向かった。
「さあ、どんどん仲間が増えていくなぁ」
レジェンドのドラグーンを受けた敵チームが次々とバイラスのコントロール下に入り、自らの軍団ができたことにご満悦な様子だ。
だが、この軍団を作った目的は一つ。
そして、ターゲットは緊急アナウンスで注意喚起されているにも関わらず、まっすぐにこちらへやってきている。
「来たか…ウィリアム・スターク!!」
「ふざけたことをしてくれるね…バイラス」
正面から僚機と共にやってくるガンダムセレネス。
彼こそが順風満帆になるはずの人生を滅茶苦茶にした男。
この男さえいなければ…。
胸の中でブクブクと膨らむ怒りを抑え込みながら、バイラスは叫ぶ。
「これで貴様を破滅させてやる!この…ヴェノムレジェンドでぇ!!」
機体名:ヴェノムレジェンド
形式番号:ZGMF-X666SV
使用プレイヤー:バイラス・ブリンクス
使用パーツ
射撃武器:高エネルギービームライフル
格闘武器:デファイアント改ビームジャベリン
シールド:ビームシールド
頭部:レジェンドガンダム(鬼の角をオプションパーツで装備)
胴体:レジェンドガンダム
バックパック:レジェンドガンダム
腕:レジェンドガンダム
足:レジェンドガンダム
ウィルへの復讐のため、身分を偽装して世界大会に参加したバイラスが持ち込んだガンプラ。
紫をベースとしたカラーリングに変更されていること以外に、外見上はベース機体との変化はない。
最大の特徴は彼の細工が施された堅牢な装甲とドラグーンであり、ビームスマートガンを受けても無傷な姿を見せ、ドラグーンについては敵機に一度突き出す必要があるが、内蔵されているウイルスを侵食させることでジャックすることができ、ジャックした機体はたとえドラグーンが外れてもバイラスの支配下となる。
なお、どちらについても規定に反したチート行為となるため、本来なら即失格となり、強制ログアウトされるはずだが、それについても対策しているようで、現状はこの予選が終わるか、彼を撃破しない限りは止めることはできないだろう。
なお、機体そのものはバイラスが作ったわけではなく、プロファイター登場と共に裏世界に現れたとされるガンプラマフィアに外注したものと思われる。