第13話「ギャラルホルンの落日」
謎のガンダムフレームの正体、それはマクギリス・ファリド事件から消息を絶っていたフラウロスのものだった。
敵援軍の妨害を受け、フラウロスを取り逃がす曉。
そして、月面では新たな事件が勃発する。
「はああああ!!」
ゲーティアの刀がPGのグリーンフレームの右腕を突き刺し、握っているビームライフルが離れていく。
そのダメージが電子回路にも到達したせいか、マニピュレーターが誤作動を起こしてブルブルと震え始める。
「くそ!!どういう切れ味なんだよその刀は!!」
発砲金属を採用しているため、SEEDの世界観では装甲の耐久力が低い傾向にあり、フレームも一部むき出しになっている箇所のあるアストレイシリーズだが、それでもPGで運用することで装甲とフレームが強靭化しているのは確かだ。
そんな装甲とフレームにダメージを与え、かつ電子回路にも達するほどに突き刺したその刀には驚愕するしかない。
そして、勇太に注意が向いている間に、アザレアに対して大きな隙を与える結果になってしまった。
「いっけえ!!!!!」
トランザムで放出される大量のGN粒子を圧縮し、大出力のビームがアザレアから発射される。
ゲーティアをどかそうと左腕を伸ばしていたことで、それが盾替わりとなっていたものの、最大出力で発射されたそのビームはそんなものをものともせず、左腕から胸部を貫いていく。
ビームが収まると、左腕と胸部を失ったグリーンフレームがそこにあり、撃墜判定によって消滅した。
「綾渡商店街ガンプラチーム!敵PG機体を撃破!!これにより、決勝進出の切符を手にしました!」
「やった…これで」
勝負がついたことで一息ついた勇太はグリーンフレームを攻撃した刀を見る。
整備を何度も続けてきたそれだが、限界を迎えたようで根本から大きなひび割れを起こしていた。
その刀を鞘に納め、走ってくるアザレアとバーサル騎士ガンダムに体を向ける。
「やったね!これで決勝進出だね!」
「うん…いよいよだ」
この試合の前に、ウィルは既に決勝進出を決めている。
次の試合は軌道エレベーターから宇宙へ向かい、人工衛星で決勝戦を行う。
「いよいよか…」
今倒した対戦相手には悪いが、今の勇太には決勝戦で立ちはだかるウィルのことしか見えていない。
確実なものではないが、勝ち筋はある。
綾渡商店街のこともあるが、それ以上にウィルに勝ちたい。
そのためにここまで来た。
「んん…ふうぅ」
控室でついさっき自動販売機で購入したコーラを一息に飲み干す。
冷たい刺激が喉に伝わり、いまだに高まっている神経を冷ましていく。
机の上には、先ほどの戦闘での損傷がまだそのままになっているゲーティアとボロボロの刀が収まった鞘、そして火縄銃を模したかのような形状で、側面には『麒麟』と刻まれたライフルとバスタードソードに近い長さを誇り、『左文字』と銘が刻まれた大太刀が置かれていた。
「これが新しいゲーティアの刀と銃か」
「ええ。今の僕の全部を出して作ったものです。これなら…」
「にしても、問題はあいつの武器だな。あの左腕についていた弓矢みてえな…」
あの試合の後、勇太とカドマツ、ロボ太で試合映像をもとにあの見えない攻撃のことを調べた。
解析によってわかったことは、発射前にビームトーチガンから送られたエネルギーは通常のビームで、レールガンを経由することで別の『何か』に変換されていること。
そして、少なくともそれがミラージュコロイドではないということ。
その正体がわからない以上、ナノラミネートアーマーの強靭な守りをあてにするわけにはいかないだろう。
それから、サクラのトランザムミラージュについては特にミサにとって不利な状況を生み出す。
不安要素もあるが、おそらくそれはウィル達も同じことだろう。
考える勇太の隣に座るミサが彼の顔を覗き込む。
「ねえ、勇太君」
「ん…?」
「勇太君、ガンプラの修理が終わったら…その、私と2人でちょっとだけ出かけない?」
ちょっとだけ顔を赤く染めたミサからの誘いに勇太も誘われるように顔を赤く染める。
もうお邪魔だろうと思ったカドマツとロボ太はそろって控室をあとにする。
「えっと…カドマツさんと、ロボ太は…いいの?」
「いいの。その…勇太君と2人で行きたいから…」
モジモジとして、ほんのりと赤い顔を向けるミサにますます顔を赤く染める勇太にもはや断るという選択肢は存在しなかった。
ホテルにある自室で、風呂から出たばかりのウィルはバスローブ姿で窓から外の景色を見る。
そばにある机の上にはセレネスが置かれ、既に決戦への支度は整っているといわんばかりに武器を手にしている。
「坊ちゃま。お食事の時間です」
部屋に入ってきたドロシーが食事を乗せたカートを押してベッドの近くにある机まで来て、そこに食事を置いていく。
既に食事の時間で、普段ならばここからすぐに席について食事をとるはずのウィルだが、今日のウィルは外の景色を見るばかりで席に着こうとしない。
「坊ちゃま、料理が冷めますよ。坊ちゃま…」
何度も声をかけるが、一向に反応を見せないウィルにため息をついたドロシーは一緒に持ってきた調味料の中からタバスコを手に取る。
それをスープの中に注ぎ込もうとした。
「待て、ドロシー。わかったからそれはやめてくれ」
ドロシーの手が止まり、ようやく観念したウィルは席に着くと出された料理を食べ始める。
「坊ちゃま、いよいよ明日でございますね」
「ああ…。イレギュラーはあったけど、まぁおおむね予定通りだ。沢村勇太を倒す…」
漫画のように決勝で、ということまでは望んでいなかったが、やはり現実というものは小説よりも奇怪なもの。
望み以上の状況が明日生まれ、そこで勇太と雌雄を決するときがくる。
「坊ちゃま、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「坊ちゃまがあれほどまで沢村勇太に執着されるのは…」
「執着なんかしてないよ」
スープを飲み干したウィルはばっさりと否定する発言を見せるが、ドロシーにはそんなことが嘘だということなんてすぐにわかる。
ジャパンカップでの一件、そしてわざわざ綾渡商店街に赴いてまで行った彼らしからぬ宣戦布告。
そして、空いた時間を見つけては何度も勇太のバトルを見続けてきた。
そんな様子をずっと見てきたのに苦しい否定をする彼はやはり素直ではない。
「…沢村勇太。沢村勇武の弟、か」
理由は異なるとはいえ、お互いにガンプラバトルから一時は身を引いていた人間同士。
勇太は目標であった兄を失ったことによる喪失感、ウィルは汚い大人たちによってバトルを汚され、ミスターガンプラが豹変したことへの憎しみ。
だが、勇太はそのブランクをはねのけてジャパンカップ優勝を果たし、そしてミスターガンプラに勝利した。
あのバトルから、しいて言えばプロファイターを引退してから一切バトルをしてこなかった彼が挑んだ男。
どうしてあの時、相手を自分ではなく彼を選んだのか。
どうして自分を選んでくれなかったのか。
もちろん、今更目の前に現れて、もう1度バトルをしてくれと言われても素直に応じたとは言えない。
だが、それでも踏ん切りをつけることができたはずだ。
どんな理由があったにしても、彼自身にそんな意図がなかったとしても、ミスターガンプラをたきつけ、彼と戦った沢村勇太が許せない。
彼を倒すことで、ようやくあの忌まわしい記憶を消し去ることができる。
「沢村勇太…必ずお前を倒す」
「うーーん、おいしいー…」
フードコートで大きなパフェを口にし、頬を左手で撫でながら幸せそうに咀嚼する。
正面の席に座る勇太はちょっとだけ薄くなったポケットの中身のものを気にしながらも、目の前で幸せな表情を見せるミサに思わず表情が和らいでいく。
「ねえ、勇太君も食べなよー。おいしいよー?」
「う、うん…でも、いいの?」
「だってこんなに大きなパフェ、1人じゃ食べきれないから」
ミサのいう通り、今回注文したパフェはバナナやチョコソース、大きめのバニラアイスが5つにスライスされたイチゴの山、ポッキーなどデザートのオンパレードで、3人前くらいの量はある。
そんなものをたとえ甘いものが好きでも一人で食べきれる保証はない。
だが、どうしても食べようとすると目の前のミサのことを意識してしまう。
ミサ以外にも、同年代の少女は何人か見てきたつもりだが、こんな感情を抱いたのはミサが初めてだ。
スプーンを手に取り、ミサのスプーンと当たらないように気を付けながらアイスをすくい、口に運んでいく。
チョコとバニラの甘味が口全体に広がっていく。
「あの、さ…ミサちゃん。もしかして、このためだけに僕を…?」
「そうだよ。だって、こうじゃないと、食べられないもん」
「そ、そりゃあ…このパフェって2人分だけどさ…」
別にこのパフェは2人いないと注文できないものではなかったはず。
メニューを見ても、2人以上で食べることが推奨されているだけで、制限までされているわけではない。
思い浮かぶとしたら、会計の時にミサが出したクーポン券だ。
(えへへ…勇太君と2人っきりで食べたいって願い、叶っちゃった…)
あの時ミサが出したクーポンは男女1組でこのパフェを注文すると30%引きになるというもの。
クーポンに描かれたイラストから、明らかにそれはカップルのものだ。
「ねえ、勇太君…」
「何?」
「勇太君に、お願いがあるの…。チームに入った時の約束って、覚えてる?1シーズンだけ、入ってくれるって」
勇太が入るとき、最初彼はそれを条件として出した。
それを承諾したことで、勇太はチームに入ってくれた。
だが、この世界選手権が終われば、シーズンは終わる。
そうなれば、勇太はこのチームにいる理由がなくなる。
「だから…もし、勇太君がいいっていうなら、これからも…私と一緒に…」
「いいよ」
「へ…?」
「わかってる…。いや…むしろ、僕からお願いしないといけないこと…かな」
勇太も、最初はこのシーズンが終われば完全にガンプラバトルから身を引くつもりでいた。
だが、何度もミサとともに戦い、激戦を潜り抜けていく中で、彼の中にミサをはじめとしたチームに明らかなつながりができていった。
それは勇武とのつながりとは違うけれども、確かに強いもの。
それが根付いていることは感じている。
「正直に言うと、最初はただ放っておけなかっただけだったんだ。それに…なんであきらめないんだろうって…」
たった1人でタイガーとその取り巻きと戦っていた時もそう。
初心者狩り自体は言っては悪いが、当たり前のように起こっているもの。
戦っているミサの当時の技量を考えると、無茶なことだった。
「きっと、僕がいなくてもやろうとしていた。それで、放っておけなくて。結局、僕が中途半端だったってことなんだよ」
最初は入らないと言っておきながら、ミサの涙ながらの懇願を断ったというのに。
そんなかつての自分を思わず自嘲してしまう。
「でも、君と一緒に戦う中で思ったんだ。もっと、一緒に戦いたいって。それで、いつの間にか…君と一緒に戦うことが僕にとって、当たり前なことになって…」
「勇太君…」
「これからも、君と一緒にガンプラがやりたい。だから…」
「うん、ありがとう…。そのためにも、絶対に勝とうね」
「うん…君と一緒なら、必ず勝てるよ」
「勇太君…」
勇太に確かに信頼されている。
そのことを感じたミサは恥ずかしくて顔を赤く染めながらも、うれしさに思わず表情が緩んでしまう。
勇太も自分が先ほど何を言ったのかを振り返り、つられるように顔を赤く染めてしまう。
言い出しっぺは自分なのに何をしているのか。
しばらく沈黙が流れ、次に口を開いたのはミサだ。
「あの、さ…勇太君。大会が終わったら…さ。私、勇太君に伝えたいことがあるの…。私たちのことで」
「僕たちの…こと?」
「うん。そのこと、覚えておいて…」
「…わかったよ、ミサちゃん」
翌朝、太陽が輝く中でギガフロートから伸びる柱を2台のリニアトレインが地表から離れていく。
大気圏を超え、その先にある人工衛星で決戦が行われることになる。
「ねえ、見てよ勇太君!ロボ太!!地球が見えるよー!!」
窓から見える景色はすでに地球の表面が見え、それを見ることで自分たちが宇宙へ出たのだということを実感する。
かつては虫歯があると宇宙飛行士になれないという話があるほど、宇宙へ行くことには多くのハードルが存在していたが、今はこの軌道エレベーターの登場によって将来的にはロケット以上に効率よく地球と宇宙を行き来できるようになる。
「気を引き締めておけよ、お前ら。人工衛星に到着したら、そこからは決戦なんだからな」
「わかってる!絶対に負けないもん。ね、勇太君!」
「うん。絶対に勝つよ」
リニアトレインが到着し、そこにある特設のシミュレーターからガンプラバトルが行われる。
さすがに観客まで人工衛星に連れていくことは難しいことから、観客にはギガフロートの会場でライブ中継される形になる。
また、世界中のテレビ局や動画サイトでも今回の世界選手権の番組が組まれており、当然勇太達と縁のある人たちもこれからのバトルを見ることになる。
勇太は懐から2つのガンプラを手に取る。
ゲーティア、そしてジャパンカップでの激闘の果てにボロボロになってしまったバルバトス。
「僕は勝つ…勝ってみせるよ」