第14話「崩壊」
大型戦艦ギャラルホルンが強奪され、搭載されたダインスレイヴによるテロ事件が各地で発生する。
事態収束のため、ジュリエッタ・ジュリスはテイワズに協力を要請する。
∀ガンダム決戦の地であり、黒歴史時代の核弾頭が眠る禁断の地であるロストマウンテン。
月光蝶システムを持つ2機のモビルスーツがぶつかり合ったこの地で、勇太たちは対峙する。
「待たせたね…ウィリアム」
「ああ…待っていたよ。沢村勇太」
「リベンジマッチね…ミサ」
「今回も、絶対に勝つからね。サクラさん」
お互いに因縁のある相手、その相手に勝つためにここまで勝ち進んできた。
それはロボ太も同様だ。
彼の脳裏に、あの時ウィルによって勇太とミサが倒されたにもかかわらず、何もできなかった苦い記憶が浮かぶ。
「ウィリアム・スターク。もう二度と…あの時の私に戻りはせんぞ!」
「へえ…ちょっとだけ変わったみたいだね、そこのSDガンダムも…。さあ、始めようか。ついてくるんだ」
ミサとサクラの対決の邪魔をすることがないよう、ウィルはスラスターを吹かせて移動を始める。
勇太も同じ考えで、ウィルを追いかける。
「勇太君、絶対に勝ってね!」
「ミサちゃんもね…行こう、ロボ太」
「ああ…主殿!」
勇太とロボ太が行き、残ったミサはメインカメラをサクラのスローネダブルシザースに向ける。
今のアザレアの姿はこれまでのものとは大きくかけ離れたものとなっている。
ドムのような大きな熱核ホバー付きの脚部パーツになっていて、全身が赤黒い装甲とABCマント、クリアパーツのつぎはぎ状態な上に、両腕にはそれぞれガトリングガンとビームキャノンと二連装マシンガンの複合兵器を装着したうえで、頭部は二本角で左目にのみゴーグルを装着したものへと変貌していた。
アザレアの強化装備として勇太が作ってくれていたこのヴォルケーノアーマーはその容姿からあまり好みではなかったが、サクラを相手にする以上はそんなことを言っている場合ではなく、この装備こそがサクラを相手するのに最善のものだ。
「さあ…始めるわよ!」
さっそくダブルシザースに内蔵されたビームキャノンがアザレアを襲う。
回避すべく操縦桿を動かした瞬間、ミサの体を強い衝撃が襲う。
同時に、アザレアは左側面へいきなりトップスピードで滑るように移動した。
「早い…!!」
「くうう…すごい加速…!遠慮なしのセッティングじゃん…勇太君…!!」
まともに試運転しておらず、そのことを勇太から警告されていたために覚悟はしていたが、それでもこの衝撃はミサにとって想定外だ。
だが、これだけピーキーなセッティングを使いこなして挑まなければ、サクラには勝てない。
ロストマウンテンの中にある、巨大クレーター。
核ミサイルの爆発によって生まれたそのクレーターの中で、ゲーティアとセレネスが刃をぶつけては距離を置くを繰り返す。
大太刀と太刀がぶつかり合う中、ウィルは目の前の相手ににやりと笑う。
「大太刀でスピードが対等…やるね、沢村勇太!」
「お前との決着を、ここでつける!!」
(あのライフル…まだ使う様子がないな)
勇太が使う左文字も麒麟も、当然ここまで使ってこなかった武器であり、ウィルのデータにもない。
勇太が使うライフルの中で一番思い浮かぶのは破砕砲。
あの兵装は両手を使わなければ扱えず、機体への負荷があまりにも大きいがその破壊力はわかっている。
麒麟もおそらくは破壊力重視のライフルとみていいだろうが、破砕砲と比較するとかろうじて片手で扱えるくらいの大きさ。
破壊力は破砕砲レベルとはいかないだろうが、それでも警戒するに値する。
「それにしても、左文字なんてね…」
つばぜり合いを繰り返し、勇太の大太刀に刻まれた銘には苦笑してしまう。
左文字、持ち主の変遷故に三好左文字、宗三左文字とも呼ばれるその太刀は元々は戦国時代に京都で力を持っていた武将、三好政長が所持していたもので、それが武田信玄の父である武田信虎へと譲られ、やがて信虎の娘が今川義元に嫁ぐ際に婿引出物として譲られた。
やがて、桶狭間の戦いで織田信長が義元を討ち取った際にそれを手に入れて愛刀とし、やがて本能寺の変で信長が没したのちは豊臣秀吉が、大坂夏の陣で豊臣家が滅亡した後は徳川家康が手にした。
天下人、そして天下人に最も近い人間が手にしたことから天下取りの刀とも呼ばれている。
やがて明治維新が起こり、明治天皇が信長をまつる神社である武勲神社が立てられると、左文字は寄進されることになり、現在は同神社が所有し、京都国立博物館で保管されている。
なお、信長が所有することになった際、元々80センチ近くあった刀身は67センチ程度に短く磨り上げたうえに、茎の表裏には『織田尾張守信長』『永禄三年五月十九日義元討捕刻彼所持刀』と刻まれたとされているが、当時の信長は上総介を名乗っていたために史実かどうかは疑わしい節がある。
ゲーティアが手にしている左文字はおそらく、義元が所持していた時代のものをモチーフとしているのだろうが、この銘は明らかに自分がガンプラバトルの頂点に立つと宣言しているようなもの。
遠回しにウィルを倒すとも言っているようで、勇太にはらしからぬ大口といえる。
「けど…これだけじゃあラチはあかないか!!」
一度刀を鞘に納め、後ろ腰につけている2つの鞘に入っている片手鎌を出し、それをゲーティアに向けて投擲する。
回転しながら飛ぶそれらを見た勇太の脳裏にソードストライクのビームブーメランが浮かぶ。
「回避しても、虚を突かれるくらいなら…!」
叩き切るだけだと左文字をふるうが、その瞬間鎌が左文字の刃から逃れるかのように突如として軌道を変化させる。
「まさか…誘導兵器!?推進剤もなしで…」
「君のために用意してやったんだ…。せいぜい楽しんでくれよ!!!」
ユニコーンやフェネクスが使っていたシールドファンネルと同じものかと考える勇太だが、2本の鎌によるファンネルに気を取られている間にセレネスが距離を詰めて刃をふるう。
左文字では対応できず、左腕に装着したシールドで受け止めた勇太だが、2本の鎌が左文字を握る右手を襲う。
ナノラミネートアーマーで守られたゲーティアでも鎌による衝撃は装甲を傷つけ、マニピュレーターの力が緩んだことで左文字を落としてしまう。
「くそ…!」
「左文字を落としたんだ…!これで、君の勝利はないな!!」
「そんなこと!!」
「主殿!!」
ゲーティアを襲う鎌に向けてバーサル騎士ガンダムがライフルで攻撃し、それを避けるために鎌がゲーティアから離れていく。
「主殿はウィリアム殿を攻撃せよ!私はあの鎌を抑える!」
「頼んだよ、ロボ太!」
「ならば…これを!!」
己以上の長さを誇る左文字を両手で手にしたバーサル騎士ガンダムがそれをゲーティアに向けて投げつける。
シールドをふるってセレネスを遠ざけたゲーティアは左文字を再び手にし、今度はこちらからセレネスに迫る。
「主殿…ご武運を!」
セレネスともども離れていくゲーティアを見送るロボ太はこちらに牙を向ける鎌に目を向ける。
「離れたとしても、動きを止めぬか…。主殿の邪魔はさせん!!」
「あったれーーーーー!!」
ホバー移動をつづけながら左腕のビームキャノンをダブルシザースに向けて連射するアザレア。
威力は抑えられているが、次々と襲うビームの中にはダブルシザースの装甲をかすめるものもあり、そのたびに機体が揺らぐ。
「まずは動きを封じるわ…ファング!!」
スカートアーマーから射出されたファングがいったんダブルシザースの周辺で動きを止めてからアザレアを襲う。
縦横無尽に飛び回るファングによる突撃とビームに対して、ミサが左腕の複合兵器に搭載されているマシンガンをばらまいて対応する。
「トランザムミラージュ!!」
サクラの声に呼応するかのようにダブルシザースが赤く光り、同時に桜吹雪のようにGN粒子があふれ出していく。
さっそくその影響がアザレアに現れていて、モニターからファングとダブルシザースの姿が消えてしまう。
「来た…トランザムミラージュ!!」
バイアスとの戦いで既にそれを使う姿を見たミサはこのような状態になっても驚きはするが慌てはしない。
(ミサ、これの対策をしてきているんでしょう…?)
相手がトランザムミラージュを対策していて、そのためにこのような不格好な装備をしていることはわかっている。
だが、それでもトランザムミラージュはダブルシザース最大の切り札。
そして、勝負を決めるのはこのハサミ。
加減する必要がない以上、ファングによるGN粒子の調整も必要ない。
「くうう…GNファングまで来てる!!」
さすがにビームまでは消せないのか、赤い光が次々と襲い、それが増加装甲やABCマントに当たる。
(まだ…まだここで使うわけにはいかない…!)
ダメージが増加装甲に蓄積されていっているのはわかっている。
だが、ここでこの兵装を使ってはサクラには勝てない。
視覚センサーが使い物にならない以上、頼ることができるのは音響センサーと熱源センサー。
近づいてくる大きな熱。
「そこおおおおおおお!!!トランザム!!」
アザレアが赤く光り始め、同時にクリアパーツにGN粒子がたまっていく。
そして、クリアパーツから繰り出される稲妻のようなビームが周囲を飛ぶファングを撃ち落とし、ダブルシザースはハサミをシールド代わりにして身を守る。
「これは…全方位レーザー!?」
フォトンバッテリーの大容量のエネルギーを持つG-セルフが使ったそれは機体各部のフォトン装甲をビーム砲に転用することで放っていた。
だが、普通のモビルスーツが同じことをしてしまうと、一気にエネルギーを使い果たすことになる。
それをトランザムが生み出す膨大なGN粒子を利用し、なおかつグラビカルアンテナを活用することで使用できるようにしたのだろう。
「そこぉ!!」
ビームがおかしな動きを見せた場所を特定したミサは即座にそこに向けてガトリングガンを発射する。
どうにかその場を離れたダブルシザースだが、何発か被弾してしまい、装甲に傷がつく。
「けれど…トランザムがどこまで持つかね…!」
お互いにトランザムを使った状態での勝負となったが、通常の太陽炉や疑似太陽炉を使用しているというなら、限界稼働時間はダブルシザースとそれほど変わらないだろう。
そして、仮にトランザムが限界を迎えたとしても、サクラには覚醒という切り札もある。
(最も、ミサも使える可能性があるかもしれないけれど…)
「どうしたんだい…?その銃は飾りかな?」
これが何合目なのか分からないくらいぶつけ合うが、あのオールレンジで動く鎌を除くと、お互いにそれ以外の武器を使う様子はない。
勇太もウィルも、このまま刀をぶつけあうだけでは勝利はないことはわかっている。
ウィルもあの見えない攻撃を使ってくるそぶりがない。
ついにセレネスがゲーティアに向けて蹴りを入れてその勢いをつけて距離をとる。
そして、左腕のガントレットを展開し、それにビームトーチガンを取り付けた。
「さあ、僕の一撃を受けてもらうよ!」
引き金を引き、それと同時にゲーティアの装甲に大きな衝撃が走る。
「来た…!見えない一撃が!!」
ほぼ発射と同時に着弾する一撃はナノラミネートアーマーに大きなひびが入り、衝撃で吹き飛ばされたゲーティアは地上に転落する。
続けて第2射、第3射撃が行われ、それを避けるべくゴロゴロと地面を転げまわる。
(この一撃…覚醒のバリアで防げるのか…?)
見えない一撃から身を守ることをイメージするなど困難な話で、弾速など想像することすらできない。
しかも障害物のないクレーター内では隠れることもできない。
「どうした!?君の力はその程度か!」
そんな力でミスターガンプラを倒せたというなら、彼も落ちぶれたものだ。
このままとどめを刺してやろうと、引き金を引き、見えない一撃がゲーティアを襲う。
「くっ…こうなったら!!」
どうにか起き上がることのできたゲーティアに背中に背負っているライフル、麒麟を握らせた勇太は動きを止めることなくまずは呼吸を整えていく。
完全に覚醒を発動させた状態を前提とした麒麟。
赤いオーラに包まれたゲーティアの手で発射された弾丸が一直線にセレネスへと飛ぶ。
「くうう…やっぱり、破壊力重視か…!」
誘導性のないその弾丸を避けたウィルだが、避けた位置に続けてもう1発が発射されていた。
その一発をやむなく見えない一撃で破壊しようと引き金を引く。
だが、その瞬間にそれを受けた弾丸が大爆発を引き起こした。
「この爆発…まさか…擲弾!?」
「HEIAP弾だ…!」
徹甲弾、榴弾、焼夷弾の三つの機能を持った弾頭であるHEIAP弾。
着弾時に先端部が焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させるまでは通常の榴弾と変わらないが、第2の焼夷弾薬であるジルコニウム粉にも火をつけることでさらに燃え続けることになる。
そこにダメ押しと言わんばかりに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させる。
今回は見えない一撃を受けたことで装甲に命中させることはできなかったが、それでもこの爆発はウィルに隙を作らせるだけのものがある。
その間に飛翔したゲーティアは麒麟の銃口に向けて左文字を差し込む形で合体させる。
これによって太い幅を持つソードメイスというべき兵装と化したそれを持った状態で高温の炎を突っ切り、セレネスに肉薄する。
「くっ…!」
「うおおおおお!!」
大剣となったことで、若干大振りにしなければならなくなったが、それでも左文字と比較するとその攻撃力は大きい。
やむなく防御のために差し出したセレネスの左腕を容易に切り裂いて見せた。
「くそ…!」
「これでさっきの一撃は使えないよね…!」
「まったく、やってくれるね…!」
握っていたビームトーチガンを手放し、地上へ降りたセレネスは残った右手で刀を抜く。
飛び道具を失ったものの、それでもウィルはその程度で敗北するとは思っていない。
さらに本気を見せることがこれからできるのだから。
それがうれしい。
「これが本気じゃないんでしょう!?ウィリアム・スターク!」
「当り前さ…見せてあげるよ、君の上を行く本気を!!」
見えない一撃によって消耗はしているが、それでもこれを使うことへの影響はない。
ディスプレイにNT-Dが表示され、金色の光を放つ。
そして、バックパックとなっているアームズアーマーXCが展開したその時、コックピット内を警告音が響きわたる。
「何!?」
「これは…!!」
セレネスが起こす異常は対峙する勇太にも見えた。
アームズアーマーXCからあふれ出る赤紫色のキューブがあふれ出る。
それは一向に収まる気配がない。
「ウィリアム!!」
「これは…まさか!?沢村勇太!バックパックを斬れ!!」
「う、うん!!」
今溢れているキューブはかつて、ミサとともにインフォちゃんの中に入った時に見たウイルスの塊。
それを放出しているアームズアーマーXCを野放しにするわけにはいかない。
彼の要望を聞き、勇太は一度左文字と麒麟の合体を解除すると、左文字でアームズアーマーXCを切り裂いた。
ウイルスの大本となったそれが破壊されたことで放出は収まったが、放出してしまったウイルスはフィールドを覆い、月夜と大地を赤黒く染めていく。
「勇太君!」
「ウィリアム!!」
「主殿!!」
フィールドに起こった異常を目にしたミサたちも急遽バトルを中断し、勇太たちのもとに駆け付ける。
(フフフ…ウィリアム・スターク。君がこの声を聴いているということは、どうやら私のウイルスが機能したようだね)
「その声…バイラス!?」
セレネスの通信機能もウイルスでジャックされ、それによって開かれた回線で録音されたバイラスの声が響き渡る。
(人類初の宇宙旅行、行先は知らないが、せいぜい楽しんでくれたまえよ。ハハハハハハ!!)
「宇宙旅行…まさか、このウイルスは!!」
(おい、みんな!!聞こえるか!!)
「カドマツさん!!」
(決勝は中止だ!すぐに戻ってこい!やばいことになっているぞ!!)
焦りが隠せないカドマツの顔がモニターに映る。
これから何が起こるのかわからないまま、勇太たちは赤黒いロストマウンテンからログアウトした。
武器名:左文字
ウィルとの決戦のために用意したゲーティアの新たな大太刀。
これまで使用していた太刀と比較すると大型化しており、両手でも片手でも扱えるバランスに調整されている。
最大の変更点はもう1つの兵装であるライフル『麒麟』との合体機能で、これによって大剣モードへと移行することができる。
その状態で右手を介して送られるエイハブ粒子を圧縮し、γラミネート反応を発生させることが可能となっており、理論上ではフェイズシフト装甲だろうがナノラミネートアーマーだろうが叩き切れるようになっている。