ガンダムブレイカー3 彩渡商店街物語   作:ナタタク

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機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3期(勇太のノートより)
第17話「怒り」

ギャラルホルンとの協力の条件、それは鉄華団がかつて保有していたすべてのガンダムフレームの返還、そして彼らの名誉回復であった。
ジュリエッタが持てる権限すべてを使い、テイワズにもたらされた3機のガンダムフレームの残骸。
アトラとクーデリアはそれを見ながら、愛する者たちの在りし日を思い出し、そして彼岸花を名乗る彼らの怒りを理解する。


第61話 決着

(馬鹿な…馬鹿な…?)

ウイルスには、今自分が置かれている状況を理解しきれずにいる。

サイコシャードを失ったとはいえ、それでも最強のガンプラをネオ・ジオングのコアユニットとして迎え入れたことで性能は大幅にアップしているはず。

サイコシャード発動前と比較すると、これで自分がさらに有利になったはず。

なのに、ファンネルビットでジャックしたモビルスーツや戦艦たちは次々と破壊される一方で、今度は手傷を負わせることができない。

それに、相手の攻撃が何度も当たっていて、Iフィールドによる守りと再生能力がなければ、既に戦闘不能に追い込まれている。

「いける…いけるぞ、主殿!!」

バーサルソードを襲い掛かるアームユニットに突き刺し、からめとろうと襲い掛かるファンネルビットを電磁ランスから発生させる竜巻で吹き飛ばすロボ太の目には勝ち筋が見えた。

あのウイルスにはなぜ追い込まれているか理解できていない。

普通のAIにはない、ガンプラバトルへの愛情とそれを汚そうとする存在への怒り。

そして、地球で待っている人たちへの想い。

それが今の勇太たちを突き動かしている。

「終わらせろ、沢村勇太、井川美沙!!」

「さっさと終わらせて、帰るわよ!地球へ!!」

アームユニットを切り捨てたウィルに守られたサクラはトランザムミラージュを発動する。

GNファングを全機喪失した状態での調整となり、近くにいるウィルが巻き込まれることになるものの、それでもこれでネオ・ジオングのセンサーは力を失い、ファンネルビットも使用不能になる。

「勇太君!」

「ミサちゃん!!」

ブラスターモードへと変形したアザレアがゲーティアの右腕と一体化する。

トランザムが起動し、高濃度圧縮粒子が銃口へと集中する。

「私が…私こそが最強のガンプラだ!!」

これから発射されるビームをまともに受けたら、敗北するという計算結果が出たウイルスは少しでもそれを抑えるべく、最大火力であるハイメガ粒子砲を発射する。

「いっけええええええ!!」

「うおおおおおおお!!!」

ほぼ同時に発射されたアザレアブラスターのビームとハイメガ粒子砲がぶつかり合い、お互いに限界まで出力を引き上げていく。

「絶対に帰るんだ、みんなで!!力を貸して、ゲーティア!!力を貸して、僕の…ガンプラ!!」

勇太の声にこたえるかのようにゲーティアのツインアイが光る。

炎のようなオーラがゲーティアとアザレアを包み込み、それによってアザレアブラスターの出力がさらに引き上げられる。

ハイメガ粒子砲を上回る出力のビームと化したそれは一直線にネオ・ジオングを貫いていく。

灼熱のビームの中で徐々に溶けていくネオ・ジオング。

やがてビームが収まると、そこには黒く焼けたネオ・ジオングとかろうじて分離したゲーティアのコピーが浮かび、やがてスパークした後で爆散した。

 

「よし…こいつで…どうだああああああ!!!」

ウイルスの本体が動きを止め、大きなチャンスを得たカドマツによってウイルス除去プログラムが打ち込まれる。

制御AIに侵入していたウイルスが消えていき、正常稼働へと戻っていく。

「やったぜ…お前ら…」

「現状分析の結果、緊急離脱プログラムが作動していますが、原因と思われる事故などの報告はありません。私は、誤作動を起こしたのでしょうか?」

「お前が悪いんじゃない、コンピュータウイルスに汚染されていたんだ。だが、もう大丈夫だ」

シミュレーターから出てきた勇太たちの姿を見たカドマツは笑みを浮かべる。

地上で心ある人たちからの助けもあったが、何よりも地球へ戻るために奮闘した勇太たち。

彼らがいたから、この人類の夢たる軌道エレベーターを守ることができた。

「申し訳ございませんでした。ウイルスに汚染されたとはいえ、皆さまを巻き込んで軌道を離脱するようなことなどあってはならないことです。私はどうすればよいのでしょうか?」

「軌道修正プロセスを実行するんだ。静止軌道まで戻れば、あとはテザーを接続して解決だ」

「了解しました。軌道修正プロセス実行。カウンターウェイトパージ…カウンターウェイト係留デバイスが見つかりません」

「何!?」

「カウンターウェイト係留デバイスが見つかりません」

二度伝えられるさらに最悪な通達にカドマツはノートパソコンで軌道エレベーターのインターフェースを確認する。

ウイルスを除去することにばかり気を取られていた自分に腹を立てる。

そして、脳裏に一瞬よぎった最悪の事態が現実であることがわかってしまった。

「くっそ!どれだけ周到なんだよ!!カウンターウェイトへのインターフェースが丸ごと消されている!どんだけ周到なんだよ!!」

バンと両拳を机にたたきつけるカドマツ。

そんな彼の様子に勝利で高揚していた勇太たちの心が凍り付いた。

「ね、ねえ…聞きたくないけど…どういうこと…?」

「カウンターウェイトを切り離さない限り、今のステーションのスラスター出力じゃあ元の軌道へ戻れない…。つまり…」

「僕たちは…帰れない…」

「そんなあ!!」

せっかくウイルスを除去できたのに、ようやく見えた蜘蛛の糸が切れたことにハルはその場に座り込む。

「おい、何か手段はほかにないのか!?」

「ありません」

「物理的にテザーを切断できないのか!?」

「備え付けの工具にテザーを切断できるものはありません。また、皆様の中にEVA(船外活動::Extravehicular Activity)経験者はいらっしゃいません」

「ここまで…かよ…」

すべての望みが絶たれ、沈黙が流れる。

きっと、すべてのザクⅡを倒したと思ったとある対モビルスーツ特技兵小隊長も隠れていたもう1機のザクⅡが現れたとき、同じ絶望を味わっただろう。

彼の場合はせめてもの抵抗として拳銃を乱射していたが、今の勇太たちにはそのようなことのできる気力は残っていない。

「私、お茶を用意いたします」

「ドロシー…」

「今度のお茶菓子はどのようなものがよろしいでしょうか?何をお出しすれば、この状況を打開できる閃きが得られますか?」

この状況に役立つ知識や知恵を持ち合わせていないドロシーにできるのはそうしたことだけ。

あのアップルパイとは違うお菓子やお茶があればいいのか。

どうすれば助けになるのか、それを求めるドロシーに彼らは何も答えられなかった。

「そう…ですか。そうですね。それでも、皆さま。せめてこの星空を見ながらお茶を…」

絶望に落ち続けるよりも、ほんのささやかであったとしても安らぎをもたらすこと。

それしかできないとわかったドロシーは星空を眺める。

地球から見るのとは全く異なるこの宇宙の景色。

それをこんなに恨めしい気持ちで眺めることになるとは思いもしなかった。

「あら…?私、このような事態においていささか動揺しているようです」

「どうしたんだ…?」

「窓の外に…RX-78が飛んでいるのが見えます」

「RX-78…?」

「ガンダムが…冗談だよな、ドロシー…」

さすがのドロシーもこんな状況で混乱するのはわかる。

だが、こんな状況でヒーローのようにガンダムが現れて助けてくれるなんて妄想してしまうとはとあきれてしまう。

だが、ドロシーにつられるように窓を見ると、星ではない何かが近づいてくるのが見えた。

徐々に近づいてくるそれはドロシーの言う通り、ガンダムそのものだった。

「な、なんじゃこりゃあああああ!?!?」

まるで宇宙世紀にタイムスリップしたかと思わせるその状況にミサは頭の整理が追いつかない。

そんな中で、カドマツのノートパソコンに通信がつながる。

「おーう…そろそろ、ランデブーポイントだと思うぞぉ…」

「モチヅキ…!?」

画面に映る目にクマのできたモチヅキ。

もう今はこうして話すのがやっとなのか、フラフラと体を揺らしていた。

「姐さん…私、もうダメ…。寝る」

画面外からバタリと倒れる音が聞こえてくる。

モチヅキの背後で作業員と思われる帽子をかぶった男性が彼女の元へと走っていくのが見えた。

「この前の罰ゲームで散々手伝わされたそれを仕上げて…飛ばしたんだ…。私ももう何日寝ていないかわからん…。限界だ…通信、代わる…」

バタリと倒れたと同時にモニターの映像が変化し、今度は勇太たちがよく知る3人の姿が映る。

「どうも、鹿児島ロケットです。この度は弊社のロケットをご用命ありがとうございます。なんつって」

「ロクトさん、それに…」

「ツキミ君、ミソラちゃん!」

「よくこんなに早く飛ばせたな。宇宙ロケットだぞ?」

いくら鹿児島にいるとしても、あれを飛ばすためのロケットを準備するだけでも長い時間がかかる。

それに、今は簡略化されたとはいえ、発射許可をもらうだけでもいくつもの手続きが必要だ。

それにもかかわらず、それができたことにカドマツは驚きを隠せない。

「ああ…あなたの演説を聞いた社長の命令ですよ。よそに回すロケット…話をつけて使っちゃいました。それに、最近雇ったバイトも頑張ってくれましたから」

「お前ら、生きてるよな!?俺たちもどうにか助けられないかなんとか考えるからよ!やれることがあるなら、なんでも言ってくれ!!」

「ロケットだって、何台でも飛ばしてあげるから!!」

「ありがとう…みんなで必ず帰るよ!!」

「いや…十分だ!勇太、ガンダムに乗れ!!操縦はシミュレーターと一緒だ!!ガンダムの収容、急いでくれよな!!」

「了解しました」

 

「ミサ…勇太君、カドマツさん…」

「ユウイチ…」

家にはマチオ達が集まり、祈るようにテレビを見るユウイチのそばにいる。

今の自分たちにもうできることがあるとしたら、こうして祈ることだけ。

それが何かに通じて、助けになるならと。

「ステーションはいまだに静止軌道に戻ることができずにいます。現在、取り残された人々を救出するための準備が…いえ、少々お待ちください!静止軌道ステーションから通信が入りました!これは…!!」

「待てよ、これは!!」

「ガン…ダム?」

ステーションのシャトル受け入れ用のハッチが開く映像が流れ、そこに映るのは皆が知るあのガンダムの姿だった。

ビームライフルもシールドもない丸腰だが、それでもその姿はあのガンダムそのものだ。

「すごいすごい、動いた!!」

「ったく、なんで嬢ちゃんまで乗ってるんだよ?」

「いいじゃん!!こんなの、乗らないわけないでしょ!」

「ったく、勇太。今送った座標のテザーを切るんだ、いいな!それと、リアルなんだからシミュレーターの時のような派手な動きはすんなよ!ミサも乗ってるんだからな!!」

「はい…じゃあ、沢村勇太…ガンダム、出ます」

「ええー--!?勇太君、そこは行きまーす!でしょー!!」

「ミサ!!勇太君!!」

ミサたちの声がテレビから伝わると同時にガンダムが発進する。

想像のつかない光景が繰り広げられる中で、ハルの声が入る。

「皆さま、ご覧になられていますか?今、私たちの前でガンダムが飛び立ちました!!宇宙時代への扉を、その手で開くために!!」

テレビに映る今のガンダムのスピードはアニメで見たあのガンダムと比べるとはるかに遅い。

だが、小さいころから夢見ていたあの時代に大きく近づいたのを、その一歩をミサたちが踏み出していることにユウイチは感動を隠せずにいた。

 

 

「ガンダム…」

窓から飛び立つガンダムの後姿を見つめるウィルの口から思わずこぼれる。

大昔は実物大を作ることができてもわずかに動かせる程度で宇宙に飛ばし、実際に動かすなど考えもしなかっただろう。

それに、たとえ今そんなものを作ったとしても採算が取れない。

きっとウィルもそんな企画が用意されたとしても却下して実現させなかっただろう。

そんなものが今、宇宙で飛んでいる。

ライバルたちを乗せて。

だが、いくら経営者となって現実を見てきたとしても、やはりこうしてみると心のざわつきを感じずにはいられない。

「坊ちゃま、よろしかったのですか?」

「何が…?」

「ものすごく、乗りたそうだったじゃないですか」

「僕はそんなに子供じゃない」

「ふふ…お茶、入れてきますね」

ちょっと感情のこもった声に笑いを隠しながらドロシーはその場をあとにする。

そして、入れ替わるようにカドマツがやってきて、自慢げにガンダムを眺めていた。

「どうだ?すげえだろ」

「あれ…ずいぶん昔に作られた奴だろう?よく残っていたね」

かつて、日本のお台場で披露された史上初の実物大モビルスーツの展示物。

ガンダムが皮切りとなり、シャア専用ザクⅡやユニコーンガンダムなども現れ、多くの話題を呼んだという。

ウィルも小さいころに父親からそれを聞いたことがあるが、それらが展示が終わってからどうなったのかは全く分からずじまいだった。

「ああ…実際、解体後はパーツとして残ってはいたが…待っているのは廃棄処分だけだったからな。それをハイムロボティクスが引き取って、俺たちが業務が終わった後で暇作って、作り直したのさ。今度は動けるガンダムを作ってやろうってな」

その活動が始まったのはカドマツが入社する数年ほど前で、この活動には定年退職した元社員も参加している。

最近になってようやく完成のめどが立ち、モチヅキらの協力を得てようやく動かせるところまで来た。

「物好きだな」

業務時間の活動で、一日二日でできるようなものでもなく、いくら頑張ったとしても利益にもならないというのに。

ただ、面白そうだからというだけで団結し、実際にここまで仕上げだ。

これにはウィルも脱帽してしまう。

「あれは…あの商店街と同じだよ。時代の流れの中で忘れられようとしていた奴だ。でも…忘れない奴もいるし、残したいと思うやつもいる」

「…」

「そうしたら、運よくこんな日が来ることもある」

もっとも、こんな事態になって、よもや救世主となるところまでは想定していなかった。

これは大きな自慢話にできるが、それは地球へ戻ってからだ。

カドマツの話の中で、不意にウィルの脳裏に浮かんだのはミスターガンプラとのあのバトル。

確かに燃え上がり、楽しかったあの時間。

「僕も…取り戻せるだろうか?」

もうあの時のような子供ではなく、背負わなければならない責務もある。

同じようにとはいかなくても、無垢に楽しめたあの頃をほんのわずかでも今できたら。

「…簡単さ、無くしたものを思い出せばいい。ただ、それだけさ」

 

各作品のガンダムのパイロットが身にまとっていたノーマルスーツとは違う、ブカブカで重量のある宇宙服だが、それでもモニターに映る宇宙と地球の光景、そして握る操縦桿の感触に勇太は心奪われる。

コックピットはケーブルまみれで通信も緊急事態用の備え付けのトランシーバーが備え付けられ、モニターはパソコン用のものを取り付けたようなもので、アニメのものとは程遠いが、それでも今は十分だ。

まさか、シミュレーターではない本当のガンダムに乗る日が来るとは思わなかった。

こうしてガンダムを動かせた時が来たなら、もしかしたらモビルスーツが実用化される時代も来るかもしれない。

その時はきっと、年を取っているかもしれないし、それができたときにはもうこの世にいないかもしれない。

だが、こうしてその先駆けの当事者になることができたことに幸せで胸がいっぱいになった。

「もうすぐ指定されたポイントだよ」

座席のそばにしがみつく宇宙服姿のミサの言葉を受け、ようやく正気に戻った勇太は改めてモニターを見る。

指定された場所でガンダムを止め、そこで青い地球を見つめる。

「うわあ…地球だぁ。私たち…人類初のモビルスーツパイロットだよね…」

「うん…」

「ガンダムに乗って、宇宙に来て…すごい未来に来ちゃったよ…。勇太君…」

身を乗り出したミサがモニターと勇太の間に入り、正面から勇太を見つめる。

狭いコックピットの中で、お互いの宇宙服が密着していて、ほんの少し前へ動いたらバイザーがぶつかり合うほどだ。

「勇太君、あの時…君と会えてよかった。あの時、ゲーセンであえて、こうしてチームになれて…本当に良かった。私を…ここまで連れてきてくれて、ありがとう」

ミサの脳裏に浮かぶ勇太と出会ってから今日までの日々。

喜びと挫折をいくつも味わいながら、果たせないと思っていた夢をこうして実現することができた。

こうして運命がまわっていったのは、勇太と出会えたから。

「…お礼を言うのは、僕の方だ。…ミサちゃん」

「え…?」

「兄さんが死んで、ガンプラバトルをやる甲斐をなくした僕はずっと、何にも打ち込めなかった。兄さんの死を引っ張って、逃げ回っているだけの臆病者だった。でも…君と出会って、もう一度ガンプラバトルを始めようという気持ちになって、今ここにいる…。僕を連れて行ってくれたのは…君だよ、ミサちゃん」

操縦桿のそばにあるボタンを押し、空気が入ってくる音が響く。

コックピット内に空気が充満し、意を決したかのように勇太はミサを見つめる。

操縦桿から離れた腕がミサを包む。

急な出来事に驚くミサの顔が真っ赤に染まり、わなわなと両手足が動き、コックピットにぶつかる。

「君と会えてよかった、ミサちゃん…。大好きだ」

「勇太…君…」

耳元で確かに聞こえた勇太の言葉。

緊張でいっぱいだった心に甘酸っぱいものが広がっていく。

徐々に目にたまっていくもの気づき、それがやがて水玉となってヘルメットの中で浮かぶ。

「あ、あれ…?すっごくうれしい…うれしすぎて…涙が出てきちゃった…」

「ミサ…」

ネオ・ジオングとの戦いの中で無意識に呼び捨てにしたのを今度は自分の意志で呼ぶ。

それに対してミサは決して嫌がっていない。

「私も…私も、勇太君が大好き。だから…これからも…ずっと一緒にいようね」

「うん…」

お互いにヘルメットのバイザーを開き、ミサの涙が空気とともに流れ、ダクトへと消えていく。

涙の代わりに目いっぱいの笑顔を見せるミサと勇太の顔が近づいていき、互いの唇が重なる。

旅館でのアクシデントの時とは違う、ちゃんとした恋人同士のキス。

しばらく唇が重なり、名残惜しそうにゆっくりと離す。

「あげちゃった…私のファーストキス…」

「ぼ、僕も…」

「あー--。お前ら、二人だけの世界を作ってないで、さっさと始めてくれねえか?」

「え…あ、カドマツさん!?」

「本当にそうね、ヤけてきちゃうわ」

「サ、サクラさん!?」

「さっさとやれ、夫婦の共同作業だ」

「ふ、夫婦って!!もう、からかわないでよカドマツぅ!!あ、これだよ!ビームサーベルのボタン!!」

二人仲良く顔を赤く染め、ミサがボタンを押すとバックパックのビームサーベルの持ち手が展開される。

ミサが横に戻り、改めて操縦桿を握る勇太がそれを抜く。

手にしたそれは確かにビームサーベルの持ち手。

だが、出てきたのはビームの刃ではなく、電動ノコギリの刀身だ。

しかも長さもピクシーのビームダガーと同じくらいと言えた。

「ビームサーベルじゃないの?!」

「あるわけねえだろ、そんなもん」

「そっか…まだまだ未来はこれからだね」

操縦桿を握る手にミサの手が重なる。

隣にいるミサの笑顔につられ、勇太も笑う。

モビルスーツと名乗るには外回りだけで、内側はまだまだ完成には程遠い。

だが、それでも可能性があるならそれで充分。

その可能性を実現するのが未来のある自分たちの役目だから。

「うん…僕たちが作る未来だ」

 

 

そして、僕たちはステーションを静止軌道に戻すことができた。

それからNASAのロケットによって救出されるまでには数日かかり、それまではこのステーションで過ごした。

無事に救出され、地球へ戻って待っていたには数週間の入院生活だ。

訓練をまともに受けておらず、このような事故に巻き込まれたことで心身にダメージがあった場合にということで行われ、無事に退院して帰国できた時にはもう夏休みはほぼ終わりかけていた。

帰ってきたとき、ユウイチさんはさっそくミサを抱きしめて無事を喜び、そして僕にびっくりするような提案をされた。

しかもその話はもう僕の両親にも伝わっていて、了解までもらっている始末だったのが…。

「勇太君、そろそろだよー!」

「うん、今行くよ、ミサ」

ペンを動かす手を止め、カバンを手にした勇太が部屋を出る。

正面にあるのはミサの自室で、そのそばにある階段を下り、外にいるミサの元へ急ぐ。

「勇太君、どう…?準備はばっちり?」

「大丈夫。今の僕の全部を出し切ったんだ、それに…ミサやみんなも手伝ってくれたから」

「当り前じゃん!今日のためだもん!」

ひょこっと前に出たミサが勇太の顔を見ながら笑う。

カバンの中で待っている今のゲーティアはあの決戦の後で今日のために改修をしてきたもの。

このガンプラと勇太であれば、必ずウィルに勝てるという確信がミサにはある。

「そ、それに…リーダーとして、チームメイトの勝利は信じてるし…その、この…こ、恋人、なんだし…」

「ミサ…」

顔を赤くするミサにつられるように勇太の顔も赤く染まる。

思わず立ち止まってしまい、そこから沈黙が流れる。

赤くなった顔を隠すため、勇太の手を握ったミサは引っ張るように彼をゲームセンターへと連れていく。

中には既にツキミやミソラ、サクラにタケルなど、勇太たちを知る面々が集結していた。

当然、ウィルとドロシーの姿もあった。

「待っていたよ…勇太。今日という日をね」

「うん…僕もだよ。決着をつけよう…ウィル。僕たちの戦いに」

「ああ…。これが世界選手権の本当の決勝戦だ」

「さあ、お集りの皆さま!今日まで中断していた世界選手権の決勝戦がこれより始まります!今回は両者の要望として、1対1のバトルとなっております。さあ、ステーションの危機に立ち向かった2人の勇者が今、ここで最強の名を懸けてぶつかり合います!!」

ハルの開始宣言に集まった面々が歓声を上がる。

「優勝者への特典を、ドロシー」

「はい、来月からのタイムズユニバース百貨店と綾渡商店街のコラボキャンペーンで先に名前を書くことができます」

「なんだよ、それ!!つまんねーよ!!」

「何を言うんだ?そもそもウチと肩を並べるだけでも、商店街的には破格の条件だろう」

このコラボの企画の調整のために、どれだけ重役への説得に苦労をしたのだろうか。

ガンプラバトル2強ともいえる存在のコラボは大きな宣伝効果となり、結果としてタイムズユニバースにとっても利益になる。

今まで進出しなかったガンプラバトル業界に食い込む大きな機会になるというのが彼らへの言い分だ。

もっとも、その理由は経営者としてのもので、ウィル個人としてはかつての自分を取り戻すための第一歩を与えてくれた勇太たちへのお礼だ。

そんなことは口にするつもりはないし、伝える必要もないだろう。

「んだとー!つぶしてやんぞ!あの駅前ビルをよぉー!!」

「では…私からも用意しよう。優勝者へのトロフィーを!!」

「これって…」

ミスターガンプラがアタッシュケースを開き、披露したトロフィーにウィルの目が大きく開く。

8年前、ウィルが確かに勝ち取り、大人たちの汚い心に踊らされたことで捨ててしまった優勝トロフィー。

どんな形で捨ててしまったのかは思い出せないが、ミスターガンプラの手にあったそれは修復された痕跡があり、乗っているガンダムの像は最終回で見せたラストシューティングの様子そのものと言えた。

「捨てられなくてね」

苦い思い出だったかもしれない。

だが、ミスターガンプラにとっては勝利以外のガンプラの道を与えてくれた思い出であり、今はこうして再びウィルとのつながりを取り戻すことができた。

そんな大事な思い出の印を捨てることなどできない。

「さあ、お前ら。シミュレーターに入れ。いいバトルを見せてくれよ」

 

イサリビを模した格納庫の中に入った勇太の目に映る新たなゲーティア。

テイルブレードが搭載されたバックパックにルプスレクスの両腕と片刃包丁の形状をした、超大型メイスと同じ長さの大剣。

ゲーティアの姿をとどめつつも、かつて勇太が乗っていたバルバトスの意匠を受け継いだ、今の勇太の到達点。

そのコックピットに乗り込み、ヘルメットを装着した勇太は網膜投影を開始し、阿頼耶識システムで一体化する。

「沢村勇太、ガンダムバルバトスゲーティア…出るよ」

射出されたゲーティアが大剣を握りしめ、エイハブウィングで上空を舞う。

本当の王者を決めるために。

 

 

「ええ…必要なものの用意はできました。しかし…チャンスは一度です。そう…その通り。絶対に失敗は許されません。私もあなたも…。あのウイルスがまさか駆除されるとは想定外でしたが…。それでは、指定された日時に実行に映ります。ご安心ください。うまくいきますよ。では、幸運を祈っていてください。必要であれば、また連絡させていただきますよ…では」




機体名:ガンダム・バルバトスゲーティア
形式番号:ASW-MS-00/B
使用プレイヤー:沢村勇太
使用パーツ
射撃武器:麒麟
格闘武器:バスターソードメイス(左文字内蔵)
シールド:オリジナルシールド(裸の女性のレリーフが刻まれたカイトシールド)
頭部:オリジナル(ユニコーンをベースとし、顔部分はバルバトスに近い)
胴体:ガンダムバルバトス
バックパック:ナラティブガンダム(テイルブレード、エイハブウィング搭載)
腕:ガンダムバルバトスルプスレクス(強制冷却機能追加)
足:ガンダムバルバトスルプスレクス

ネオ・ジオングとのバトルで損傷したゲーティアを改修したもの。
かつてのバルバトスに搭載されていたテイルブレードを再度装備し、近接武器としては新たにバスターソードメイスを追加した。
ソードメイスを超大型メイスレベルに大型化したとともに、左文字の鞘としての機能も兼ねたもので、左文字と麒麟の合体機能も健在で、アザレアブラスターに対応するために両腕については強制冷却機構を追加している。
バスターソードメイスとテイルブレード、ルプスレクスの両腕の希少金属によるクローは近接戦闘において圧倒的な強さを与え、かつての鉄華団の悪魔の再来を想定させながらも、騎士のような顔立ちと女性のレリーフのある盾により騎士としての側面も見える、悪魔騎士と呼べるものといえる。
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