第20話「怨念」
かつて、鉄華団と名乗る少年兵の集団がいた。
今、ここにある華はその亡霊であり、彼らを弔う花々。
仇であるギャラルホルンを滅ぼすべく、忌むべき兵器を起動させる。
「うお…!今度は、そうくるのか!!」
ジャブロー内部のステージの中で、勇太たちを襲うのは幾重にも分身したスクランブルガンダムの姿だ。
以前見たそれと違いがあるとすれば、両腕に装備されているのがビームガンではなく、シュピーゲルブレードであることで、おまけにそれはふるうと同時にビームのような剣閃が飛ぶ仕組みとなっていた。
そのせいか、スクランブルガンダムの動きはガンダムシュピーゲルに近いものとなり、分身や隠れ身などの忍術のような技を使ってくる。
だが、分身でいくら数を増やそうとも、隠れ身で姿を消そうとも倒すべき本体は1機であることには変わりない。
そして、それを見つける役目があるのは勇太ではない。
「勇太君!これから攻撃してくるスクランブルが本体だよ!」
「よし!!」
背後からシュピーゲルブレードで切りかかろうとするスクランブルの位置を読んだ勇太がバルバトスゲーティアの左文字で振り返りざまに縦一文字に切る。
攻撃が当たるギリギリのところでの一撃となったことものの、やはり強敵の機体というべきか、それでも撃墜判定にならず、大きく傷ついた機体表面とコックピットがバルバトスゲーティアのメインカメラに映った。
そして、とどめの一撃が振るわれる前にスクランブルガンダムは煙のように姿を消した。
「また、姿を消した…」
「ミッションはクリアだけど…だけど、すっごい消化不良!!」
ヘルメットを脱ぎ捨て、再び逃亡したスクランブルガンダムに対して不満をあらわにする。
アドオンによって追加されたステージで、勇太たちは何度もスクランブルガンダムと交戦した。
だが、いつも撃破するギリギリのところで逃亡されてしまう。
そして、新しい装備や戦法を手に再びやってくる。
それを繰り返していると、たとえミッションをクリアできたとしても、嫌な消化不良が残り続ける。
それはミサだけでなく、このシミュレーターで遊ぶ他のファイターたちも同様だ。
「なあ、あのスクランブルガンダム、倒せたか?」
「倒せねーよ!あいつ、めちゃくちゃ強いし、おまけに逃げるし、何なんだよあれ!!」
「勇太さんたちでも倒せてねーんだってよ、ああー…どうしよう、もっと小遣いがねーと…」
ファイターとして、スクランブルガンダムを倒した時に何が起こるのかを見たいという思いは強い。
だが、どんなに願ってもそれを阻むのが次々の小遣いの限度だ。
ガンプラチームとして活躍している勇太たちはともかく、それ以外の子供たちはなけなしの小遣いでガンプラとシミュレーターで遊んでいる。
時には誕生日プレゼントやお年玉をすべてそれに使う猛者もいたりはする。
そんな彼らを刺激し、ささやかなお金をブラックホールのように吸い込んでいるのがこのアドオンだ。
「ひっひっひっ、狙い通りだ!笑いが止まらないねえ!!」
アドオンが入ってからの収支を見たイラトは過去最高の利益と、スクランブルガンダム撃破を狙って小遣いをつぎ込む子供たちの姿に高笑いする。
以前のインフォ暴走による店の修繕費による損失をカバーするにはまだ足りないが、これが続けばその分の回収ができる。
それを実現してくれたのがこの無料で入れてくれたアドオンであり、それを提供してくれたナジールにはもう足を向けて寝ることができないとさえ思えてくる。
「マスター、現在の難易度では勇太さんたちならともかく、カジュアルプレイヤーでは対応できません。少し、調整すべきではないでしょうか?」
実際、アドオンの追加ステージにおけるカジュアルプレイヤーのクリア率(あくまでも、スクランブルガンダム撃破については度外視したうえでの数字)はこれまでのステージと比較するとかなり低い。
スクランブルガンダムの性能もそうだが、NPC機体も強めの調整が入っているのも大きいだろう。
このままではカジュアルプレイヤー達がクリアできないことによってモチベーションが下がってしまい、シミュレーターから遠ざかってしまう可能性がある。
「インフォや、それではいけない」
「しかし、それでは長期的に見ては客離れの原因に…」
「難しいゲームがここにあり、財布には小遣いという挑戦券がある。そして、ガキ共には何よりも何度でも困難に立ち向かえる若さがある。昔のゲームってのは、みんな難しかったが、それでも何度もゲームオーバーを繰り返して、ようやくクリアできたものさ」
ゲーム黎明期におけるコンピューターゲームは難易度が高いのは当然の話であり、それを当然と思うプレイヤーもいたが、中には何度もゲームオーバーになることにストレスを感じてコントローラーを投げたプレイヤーもいる。
ゲームが発展し、ストーリーやプレイヤーのゲームへの没入感が追及されていくようになると、ゲームオーバーに対するストレスの増大につながったことから、難易度の低い死なないゲームへの追及が始まっていった。
今ではゲーム容量が増えたことにより、難易度設定も導入されたことでその問題はある程度解決したといえるだろう。
だが、それ故にクリアが容易になり、それと引き換えにクリア後の要素を盛り込むことになるという、ある意味では本末転倒な有様になりつつあった。
それに一石を投じたといえるのが高難易度ゲームの登場で、実際にそれがぬるいゲームを嫌うコアなゲーマー達に刺さり、大ヒットを記録した。
イラトもかつての難しかったゲーム達を思い出していた。
「だから、あたしゃ心を鬼にして言うよ。この困難を乗り越えて、ゲームの本当の面白さを、ガンプラバトルの面白さを知れ、そして強い大人になれと。そのキラキラ光るなけなしの小銭を人生というレースで、自分に賭け続けるのだと。今ここで小銭を渋って、この先起こるもっと大きな選択の時に自分に賭けられるのかと。…わかるね?」
「わかりません」
「うーん、困った…」
結局その日もスクランブルガンダム撃破に至らず、家に帰ることになった勇太はユウイチが用意してくれたご飯を食べ、風呂に入って今日まで戦った様々なバージョンのスクランブルガンダムのことを考える。
まるで、F90のミッションパックのような引き出しの多さで、それ故にその場その場での攻略が必要になる。
仮にサポートメカシステムがなければ、換装による対応ができなかっただろう。
そんなことを考えながら浴槽につかる勇太の耳に風呂のドアの開く音が聞こえる。
「え…ユウイチさん、もう先に入っ…ええ!?」
自分が入っていることを知ったうえで入ってくる、この家の人間はユウイチぐらいだろうと思って視線を向ける勇太の目に飛び込んだのはタオルで体を隠し、顔を赤く染めるミサの姿だった。
慌てて後ろを向いた勇太だが、脳裏には既に今のミサの姿が焼き付いている。
「な、なんでミサが入って…」
「い、い、い…いいじゃん!!恋人同士なんだし、これくらいしたっていいじゃん!!それより、もしかして…考えてたでしょ?スクランブルガンダムのこと」
「あ、ああ…うん。どうやったら倒れるのかなって…やっぱり一撃必殺で仕留めるくらいじゃなきゃダメなのかなって…」
シャワーとタオルと肌のこすれる音が聞こえ、見たいという気持ちを抑えながら勇太は先ほどまで考えていたことを口にする。
だが、一撃必殺についてはそれに相当する行為を既に初戦で行っている。
そして、そこで結果が出ていたならば、もうすでにスクランブルガンダムとのいたちごっこは終わっている。
「でも、早く倒さないと、どんどんあれでお小遣いがなくなっていく子たちが出てくるよ。みんな、イラト御婆ちゃんの財布の中に…」
「うん、けど…そんなこと言ったら戦っている相手がスクランブルガンダムじゃなくて、イラト御婆さんに…って、ミサ!!」
体と頭を洗い終え、再びタオルを巻いたミサが浴槽に入ってくる。
正面から入ってきて、その様子にゆでだこになったかと思わせるほど赤面となっていく。
サクラとは違い、ミサのスタイルは良いというわけではないが、それでも勇太にとっては今のミサの姿は刺激的だった。
「ああああ、もう出るから…あとはミサ、ごゆっくりー!!」
慌ててタオルで下半身を隠し、大急ぎで風呂場を脱出する勇太。
そんな彼を見送ったミサは脳裏に浮かぶ慌てふためく勇太の姿に思わずクスリと笑うとともに、逃げ出した彼に不満を感じていた。
「あああー…明日、ちゃんとミサと顔を合わせられるかなー…」
部屋に戻り、パジャマ姿でうつぶせにベッドに倒れた勇太は先ほどのミサの姿が頭から離れず、両手両足をばたつかせる。
先ほど逃げたことで、少なくとも勇太はプラトニックを保つことができただろう。
だが、逃げずに進むことでミサとの刺激的な思い出とより一層進んだ関係を得ることができたかもしれない。
そんな水星の魔女の母親の祝福とも呪いともとれる言葉をこんなとんでもないタイミングで考えてしまう勇太はまだ平常心でないことを実感する。
どうにか気持ちを落ち着かせようと、パソコンを開いた勇太は某動画配信サイトの歴代ガンダム作品のタイトルを見ていく。
スクランブルガンダム撃破につながるヒントになりそうなものを探すも、似たようなシチュエーションなどあるはずもない。
姿を消した後、そのステージで再び姿を見せることがない以上、姿を消される前に捕まえることも考える必要がある。
「ダメ元で、作ってみるかな…」
明日もおそらく、ゲーセンでスクランブルガンダムと戦うことになる。
ミサもそうだが、勇太自身も逃げられっぱなしなのには納得は行かないし、このまま指をくわえているつもりもなかった。
「う、ううん…ああ、寝ちゃってたか…」
差し込む日の光を感じ、机に顔を突っ伏した状態だった勇太の体がモゾモゾと動き、顔を上げる。
時計を見るとまだ午前7時で、休日であることから時間はそれほど気にしなくていい。
それよりも気にすべきは机の上にあるであろう装備の状態で、途中からの記憶がない勇太はそれに目を向ける。
記憶がなくなっている時間帯もあり、きっちりできているかの不安はあるが、見た限りでは問題のない出来栄えだ。
「あとは実際に効くかどうかを確かめたいところだけどな…」
ガンダムSEEDで、サイクロプスによる惨劇が引き起こされた後のアラスカ基地。
巨大な湖だけが遺されたその基地には遺体を残すことなく消えてしまった人々の怨念が宿っているであろう。
アドオンで追加された、湖と周囲に広がる森だけのシンプルなステージにやってきた勇太たち。
だが、ステージに降り立ってからは敵機の存在が確認できず、静寂のみが続いている。
「おっかしーなー…前のステージまでNPCの機体がいっぱい出てきたのに、つまんないなー」
「不具合であろうか…もう3分も経過しているのに何もいないとは…」
アザレアのレーダーでも敵機の存在を確認できず、この異様な静けさの中で勇太はこのステージに入る直前にゲーティアに搭載させた新装備に目を向ける。
腰にマウントさせたそれはアスタロトオリジンが使用しているショットガンそのものの形状ではあるが、これを使用する目的はあくまでもスクランブルガンダムを倒すための物。
「…勇太君、敵機が来る!!スクランブルガンダムだよ!」
「来た…!!」
ウェイブライダー形態で一気にステージに突入してくるスクランブルガンダムの姿をアザレアのレーダーがつかむ。
ゲーティアとアザレア、バーサル騎士ガンダムを見つけると、モビルスーツ形態へと移り変わる。
やはりというべきか、装備は以前のものと全く違うものになっていた。
見た限りでは、両腕の固定装備が取り払われて、代わりに2種類のアームド・アーマーになっているうえにバックパックについているシールドもおそらくはアームド・アーマーDE。
「今度はアームド・アーマーのてんこ盛りか…!」
地表にいるゲーティアに向けて、アームド・アーマーBSが放たれ、湾曲するビームが地表を薙ぐ。
ジェネレーター直結型となっているために、その出力はビームライフル以上だ。
「けど、ビームなら…ゲーティアのナノラミネートアーマーを突破できない!!」
バスターソードメイスを手にしたゲーティアが上空へ向けて飛び立ち、鉄塊のようなメイスを振るう。
超大型メイスに匹敵する質量の攻撃だが、左腕のアームド・アーマーVNの展開された腕がそれを受け止める。
これだけの質量の攻撃を受け止めたとなっては、たとえ頑丈なサイコフレームは大丈夫だとしても、それ以外の部位に大きな影響が出る。
左腕の関節に大きな負担がかかり、外れるなんてことも起こるはず。
だが、そんな一撃を受けたにもかかわらず、スクランブルガンダムの左腕には目立ったダメージが一切発生していない。
「嘘…!!」
ダメージがないとなると、このままではと思い、とっさにバスターソードメイスから左文字を引き抜く。
同時にアームド・アーマーVNの超高振動の爪が高硬度レアアロイの鞘を砕く。
サイコフレームの強度と超高振動の合わせ技だからこそのできる技といえる。
「バスターソードメイスを受け止めて、壊しちゃった…」
「前と同じではない…そういうことだな!!」
勇太が下がったと同時にミサがスクランブルガンダムに向けてビームマシンガンを連射し、ロボ太も上空へ飛行するとともに超電磁スピアに内蔵されているレールガンを放つ。
だが、スクランブルガンダムのバックパックに追加されたサブアームが背中に装備されているシールドを左腕部分に移動させ、レールガンとビームをそれで受け止める。
レールガンの弾丸は直接受ける形となったが、ビームマシンガンのビームはシールドに接触する直前で消滅した。
「アームド・アーマーDE!?」
「もう生半可の火力ではだめか!!」
麒麟を発射するも、0から100に一気に加速したスクランブルガンダムには当たらず、そのまま機体各部に装備されているクリアパーツから青いビームの雨がゲーティアに向けて放たれる。
1発1発のダメージは大したことはないが、それでも関節部に命中した際の影響が無視できず、上空で回避行動をとり続ける。
やがてスクランブルガンダムが接近し、ビームサーベルと左文字による鍔迫り合いに発展する。
「今度こそ…今度こそ逃がさないよ…スクランブルガンダム!!」
相手がNPCのため、そんなことを言っても無駄だということはわかっている。
だが、こう何度も逃がし続けてきてしまった以上、何らかの形で宣戦布告をしたいという気持ちが強かった。
問題なのは、どうやってスクランブルガンダムに一撃を浴びせるかだ。
今回のスクランブルガンダムはミラージュコロイドのように姿を消すそぶりは見せず、装備しているアームド・アーマーで攻撃を仕掛けてきている。
以前と比べると攻撃のチャンスは増えた装備だと言ってもいい。
それを当てることができたら、という話ではあるが。
至近距離まで近づいてくれたスクランブルガンダムに向けて、バックパックのテイルブレードが襲う。
側面からの突然の一撃に吹き飛ぶスクランブルガンダムだが、ただそれだけで目立ったダメージには至っていない。
だが、この距離がちょうどよかった。
「今だ!!」
マウントしていたショットガンを手にし、スクランブルガンダムに向けて放つ。
バラバラと放たれる黄土色の弾丸がスクランブルガンダムを襲うが、それも先ほどのテイルブレードやバスターソードメイスと同じく目立ったダメージに至らない。
一発撃っただけでショットガンを手放し、テイルブレードで攻撃を継続しつつ麒麟を手にする。
(よし…これでいい。ショットガンの役目はこれで終わり。あとは…)
「はあああ!!」
麒麟から放たれる高い破壊力を誇る弾丸に目を向けるスクランブルガンダムにバーサル騎士ガンダムがバーサルソードで切りかかり、さらにアザレアが飛行しつつ、ビームマシンガンとレールガンで追い打ちをかける。
3機による立て続けの攻撃を前に、さすがのスクランブルガンダムも回避することに集中するほかなく、ウェイブライダー形態となってその場から逃れようとする。
しかし、変形しようとしたところでギチギチと関節部を中心に変な音が響き始める。
スラスターにも機能不全が起こり、地上へ落ちるスクランブルガンダム。
転落したその機体はなおも動こうと腕を伸ばすものの、その動きもぎこちない。
「うまくいった…一発勝負だったけど…」
先ほどショットガンから放った弾丸はスクランブルガンダムを倒すためだけに用意したもの。
装甲の隙間に入り込んだ弾丸の中に入っているゲル状の物質が放出・膨張・硬質化することで機体の動きを阻害する。
アトラスガンダムに採用されたメデューサの矢で、これによって3機のズゴックを同時に撃破することに成功している。
だが、やはりこれまで多くのプレイヤーを阻んできたスクランブルガンダムだけのことがあって、なおも抵抗すべくクリアパーツからのビームがゲーティア達を襲う。
その抵抗も、これから放たれる一撃で終わりだ。
ほぼゼロ距離まで近づき、麒麟の銃口を向ける。
「爆ぜろ!!」
発射された弾丸が胴体にめり込むと同時に四肢を吹き飛ばす。
コックピットが完全に破壊される形となり、判定としても撃墜として認められる。
そして、勇太たちの目の前でスクランブルガンダムは爆散した。
「やった!!やった!!スクランブルガンダムを倒した!!」
「確かに…けど、今回の装備で出てくれていなかったら、危ないところだったけれど…」
この弾丸は午前中も作業をしても、1発分しか用意することができなかった。
今後こういう相手が出てくることはあまりないかもしれないが、そんな綱渡りな状況にならないように準備することも課題として思い浮かんだ。
「だが…これで終わりだろう?今回出てきたのはスクランブルガンダム1機のみだが」
「けど…またクリア判定が出ない…」
「すっげー!姉ちゃんたちがスクランブルガンダムを倒したー!!」
「やっぱ強えよ、彩渡商店街チーム!!」
モニターで勇太たちの戦いを見ていた子供たちが歓声を上げる。
こうして倒した様子を見ることができただけでも、彼らにとっては十分すぎるくらいの喜びだ。
「なーんだい、もう撃破しちまったのか。このゲーセン泣かせめ、大概にしな!!」
勇太たちがプレイしているため、もしかしたらこうなるかもとはイラトも思っていた。
だが、思っていたよりも早くスクランブルガンダム撃破をしてみせたことは誤算だ。
「自分じゃあ、勝てなかったけど…こうして倒したのを見るだけでも満足だよな!」
「だな!ちょっと使いすぎちゃったし、しばらく節約を…」
「ガキ共、しみったれたことを言うんじゃあないよ!目の前の困難を他人任せにしても、前には進めないんだよ!!これから訪れるいろんな出来事を全部だれかが代わりにやってくれると思ってるのかい?お前たちがあいつを倒すことができなかったのはクリアに値する胆力を…小遣いを持っていないからだよ!!」
「結局金じゃねーか!!」
「毎月の小遣いのやりくり、大変なんだぞー!!」
「黙りな!悔しかったら家の手伝いでもして、小遣いを増やすんだよ!!」
イラトと子供たちによる小遣いをかけた口撃が始まり、その様子はシミュレーター内の勇太たちも見ている。
「あ、あははは…イラト婆さんらしい」
「それより、もうクリアでしょー?早くリザルト画面出てよー!!」
いつまでもこのままの状態が続き、ミサは思わずモニターを叩いてしまう。
それと同時にモニターに砂嵐が発生する。
「え、ええ!?どうなってるの?もしかして、私が叩いたせいで!?」
「いや、違うぞミサ!これは…主殿!!」
「ステージが…」
アラスカ基地が徐々に砂嵐の画面に侵食されていき、それが空をも覆い隠していく。
砂嵐に覆われる中でメッセージボックスが勝手に開き、モニターにその内容が表示される。
『スクランブルガンダム撃破、おめでとう。だが、これで終わりではない。ファイターよ、真の戦いはこれから始まる。君に挑戦する勇気はあるか?』
メッセージボックスが消えると同時に、ステージ画面が戻ってきて、同時に新しいステージが追加される。
そこに映っているのは、物干し竿のような砲台を背負い、左肩部分にレドームが搭載され、さらには機体後方のプロペラントタンクと大型ブースターが装備されたスクランブルガンダム。
その様相はペーパープランに終わったSガンダムの強化プランの1つ、ディープストライカーをほうふつとさせるものだった。
「これって…」
「嘘、だろう…??」
新たなステージ、そしてスクランブルガンダムの強化体。
それに子供たちの希望に満ちた笑顔が凍り付いていき、中にはひざを折る子供もいる。
そんな中、高笑いするのはイラトのみ。
「ヒャー、ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
「マスター、救急車呼びましょうか?」
「あたしゃ正気だよ!!あの兄ちゃんやってくれるじゃないか、こんな仕掛けがあるとはねえ。ガキ共!さあ、どうすんだい!尻尾を巻いて逃げ出すかい?」
「まだ…先があるのかよ…」
「こんなの…今のありさまで、この先の人生…もうハードモードじゃねえかよぉ…」
ゲームでさえこれほどの状態だというのに、この先の人生のことを考えるともう嫌になってくる。
それは生きる意志を奪うのに十分な破壊力と言えた。
「これが絶望…機械の私にもわかります。このお客様方の瞳から輝きが失われていくのが…」
「さあ、ガキ共!財布を開けな!小遣いを入れな!!奈落より深く底の見えないコイン投入口にねえ!!!」
怪しい光がイラトの目に宿り、吊り上がった口角と相まって、もはや人間ではなく悪魔へと変貌していくように感じられた。