第21話「鎮魂歌」
彼岸花が起動させたモビルアーマー、サタナエルによって蹂躙されるギャラルホルン艦隊。
サタナエルを止めるべく、ジュリエッタと暁が挑む。
月面都市のひとつ、エアーズ市。
地球連邦政府から自治権が認められているその都市には月面の裏側に初めて建設された観測基地が存在し、その隊員を祖とする住民が大多数となっている。
それ故か、地球至上主義者が多く、グリプス戦役ではティターンズに協力し、ペズンの反乱ではニューディサイズを受け入れたことで戦場となった。
強化装備が施されたスクランブルガンダムがその上空を舞い、地上には撃破されたガンプラの残骸が転がる。
本来であれば、撃破されたガンプラは消滅する。
だが、今回のステージは特殊で、この強敵に敗れたガンプラの残骸はフィールドに残り続ける仕組みとなっている。
「ウヒャヒャヒャヒャ!!笑いが止まらないねえ!圧倒的だねえ!!」
シミュレーターから出てきた子供たちがその圧倒的な存在に涙を流すことさえできず、抜け殻のようにベンチに座り込む。
「どうすりゃ、勝てるんだよ…これ…」
「レイドしても無理なのかよ…」
シミュレーターのイベントとして、ネオ・ジオングやデストロイガンダム、ガデラーザなどの巨大ボスとの戦いの際には4人チームではなく、オンライン上でマッチングしたファイターを含めた合計8人チームでのバトルになるステージが出てくることがある。
今回の強化型スクランブルガンダム、ディープスクランブルは選択式で8人チームとなることが認められているが、そのチームですら今回、このディープスクランブルに手傷を負わせることさえできなかった。
そして、その分だけこのエアーズ市には敗れたファイターたちの亡骸が転がることになる。
このステージが現れて1週間。
多くの子供たち、そして彼らの仇を討つべく挑む大人たちもこの強敵の前に砕け散り、その度にこのベンチにうずくまるようになった。
「なんということでしょうか…機械である私にもわかります。絶望がここだけではなく、世界各地に広がっている…」
インフォが持つタブレット端末にはSNSが表示されており、そこには今回のステージに関してのコメントやバトル動画が数多く寄せられている。
いずれも敗れたことを証明するもので、コメントも絶望一色。
更なる絶望を誘ったのがプロファイターによるバトル動画だ。
そのファイターは世界選手権にも出場した経験があり、愛機であるノイエ・ジールで戦いを挑んだ。
最初こそは互角に戦っていたが、次第に性能差で押されていき、最終的には主砲砲身ユニットによる最大火力のツインバスターライフルに匹敵する出力のビームで撃ちぬかれる形で敗れた。
その残骸もまた、フィールドに残っており、プロでさえ勝てないという事実を容赦なく突きつけた。
「まさか、世界選手権クラスのファイターでも勝てないなんて…」
昼休み、学校の屋上でミサと一緒に昼食をとりながらスマホでそのバトルの映像を見る勇太は改めて、今子供たちを絶望に陥らせているディープスクランブルの強大さを感じていた。
認めたくはないが、今の自分たちのチームが束になってもあれには勝てない。
「スピードもあって、火力もあるうえにIフィールドまで…接近戦に持ち込めば少しはやりようはあると思うけど…」
強化装備が施されたことで大型化したなら、どうしても動きが雑になり、近接戦闘においても不利になる。
ゲーティアの武器であれば、接近することでどうにかディープスクランブルを攻撃することはできるだろう。
しかし、圧倒的な火力と弾幕をどうかいくぐるか。
ナノラミネートアーマーであっても、今のディープスクランブルの火力に耐えきれる保証はない。
「ああ、だめだ。煮詰まってしまう…。昼ごはん食べてしまわないと」
一度スマホをポケットにしまった勇太は弁当に入っているウインナーを口にする。
「ど、どう…?勇太君。おいしい?」
「ん…おいしい。おいしいよ」
「そっか、よかったぁ」
おいしそうに弁当のおかずを食べていく勇太の姿にミサは安心したように表情が緩む。
ミヤコに頼み込んで弁当の作り方を教えてもらい、何度か失敗を重ねながらようやくできたものだ。
作っている中でミヤコからからかわれたことを思い出す。
「それで、勇太君、私たちもレイドで戦う?ウィル達も誘ってみる?」
「ウィリアムは難しそうだ…あとのみんなにも、声をかけてみるけど、タイミングが悪そうだよ」
ツキミとミソラは鹿児島ロケットのバイトの研修期間中で、彼らの面倒を見ているロクトも新型ロケット開発で忙しい。
ウィルはCEOとしての仕事がある以上は抜け出せず、サクラは大学の集中講義を受けている真っ最中。
タケルについては連絡が取れず、ホウスケも海外へ武者修行の旅に出たとのことで連絡が取れなくなっている。
勇太たちの活躍を見たことで火が付き、学校を休学してまで旅立つという覚悟には頭が下がる。
ホウスケの親御さん曰く、当分は帰ってこないらしい。
連絡先を交換すればよかったと後悔してしまう。
「勇太君、ミスターガンプラはどうなの?」
「あの人もダメだよ。今、宇宙で仕事中」
あの事件以降、修理が行われている軌道エレベーターの宣伝ということでミスターガンプラは動画配信サイトやSNSを利用して宇宙におけるガンプラバトルの可能性というテーマで配信を行っている。
宇宙に出ることで人間の今まで使われていなかった脳が活性化し、それがガンプラバトルにも新しい可能性を与えるとのことだ。
そんな仕事の真っただ中だから、助っ人に行きたくてもいけないだろう。
「じゃあ、私たちだけでどうにかするしかないんだね…」
「早くしないと…でないと、もっと大変なことになるよ」
あれから1週間、あのディープスクランブルを倒す作戦を練る中で絶望に染まる子供たちの姿を何度も見た。
最近では大人たちにも絶望が波及し、その一方でイラトの懐が温まっていく。
このままで人々に夢を与えるはずのガンプラが絶望の象徴に変貌してしまう。
「となると、完成させないと。アザレアの新しい装備を…」
「さあ、そこだよ!!やってしまいなぁ!!」
「うわあああ!!また、負けたぁ…くそぉ!!」
モニターに映るディープスクランブルがブルデュエルに急速接近し、右手に握るビームライフルを放つ。
シミュレーターの明かりが消え、ミューディーに似たノーマルスーツ姿の女性ファイターが悔しがりながらコンソールを叩く。
倒れた仲間の姿にヴェルデバスターが全身の火器を遠慮なしに解き放つ。
ビームとミサイルの雨あられが襲う中でも、ディープスクランブルは搭載されているIフィールドでビームをしのいでいき、主砲や本体に当たりそうなミサイルだけをビームライフルで破壊していく。
その中でストライクノワールがビームブレイドを引き抜いて接近する。
「へっ…肉薄すりゃあ、あとは…」
このチームで接近戦に最も強い彼ならやってくれる。
そう信じるヴェルデバスターを四方八方から赤と白のカラーリングのファングが襲い掛かる。
先ほどの一斉射撃によって、バッテリー切れとなったヴェルデバスターにはそれを受け止める力も避ける力も残っておらず、ただビームと本体によって穴だらけにされる形で散る。
道を切り開くために倒れた仲間たちのためにも、あのディープスクランブルにとどめを刺すべく切りかかるストライクノワール。
だが、AIがそのような思いをくみ取ることはなく、左腕の動きを阻害するシールドとビーム砲を強制排除し、左腕のビーム砲からビームトンファーを展開してフラガラッハを受け止める。
二刀流となっているフラガラッハ2本をまとめて受け止めるだけの出力が今のディープスクランブルには存在し、動きを止められたことでこのチームの勝利を打ち砕く。
ヴェルデバスターを蹂躙したファングが戻ってきて、バックパックをビームで攻撃し、スラスターに小規模な爆発が起こると同時に推力を失ったストライクノワールが地上へと転落していく。
月面故か、それは地球の重力と比較するとゆっくりであり、力なく落ちていく愛機に銀髪のファイターは唇をかみしめる。
「こんな敵が…ステージに登場するというのか…」
落ちていくストライクノワールに照準を合わせたディープスクランブルの主砲から大出力のビームが放たれる。
胴体と頭部が消し飛ぶほどの火力のビームが無人のエアーズ市に突き刺さり、そこを中心にクレーターが出来上がる。
そして、その周辺にはストライクノワールの手足が転がっていた。
「嘘だよな、あれ、チームPPだよな?県大会にも出てた」
「負けたのか、そりゃあ…プロでも負けてる奴らがいるしなぁ」
もはや、敗者たちが気持ちを落ち着かせるためだけに存在しているとさえ思われるシミュレーター前のベンチに、戦いに敗れた3人が真っ白になってうずくまる。
ここ以外の、あのアドオンを手にしたゲームセンターのシミュレーター付近にもこういう場所があるのかもしれない。
そして、その光景に喜びを見いたしているのは一人だけ。
会計日記帳に嬉しそうに今日の儲けとあのステージの挑戦者の人数を記載しているイラトのみ。
「どうだいどうだい?ゲームをなかなかクリアできない、痛さと怖さを十分教わっただろう?さあ、まだまだチャンスはあるよ。小銭がある限りねえ!」
ここにいる面々誰もが、このディープスクランブルとの戦いに何度も挑んでは敗れている。
小遣いを使い果たすか、その前に心が折れた戦士たちはここで戦いと現実の無常さを思い知り、そして店を後にする。
だが、どんなに無常を知りながらもレイドがあることで一抹の可能性にかけ、そしてクリアという未知の光景を見たいという好奇心が再び再起させる。
それを何度も何度も叩き潰され、無意味だと知りながらも挑むしかない悲しい性がイラトの売り上げに貢献する。
「さあ、次はだれが挑むかね?誰がこのブラックホールに小銭を…」
「私たちだよ!!」
バンと扉が開き、大声で守銭奴に宣戦布告するミサに全員の視線が向かう。
ミサと勇太、ロボ太が入ってきて、3人はシミュレーターに乗り込む。
レイドバトルで、ランダムマッチを設定したうえで小銭を入れ、ガンプラをセットする。
イサリビの格納庫のような空間に移動し、勇太はグシオンリベイクフルシティに似た装備のゲーティアに乗り込む。
バルバトスアーマー、フラウロスアーマーに続く、ゲーティアの新しいアーマーであるグシオンリベイクアーマーは防御力と攻撃力を重視したもので、バスターソードメイスの扱いに最もたけているといえるもので、備え付けられているそれを軽々と手に取る。
いつもならバルバトスアーマーで出撃し、状況によって換装するつもりでいたが、今回はそれほど様子を見る必要はなく、あの主砲を受ける可能性を考えると、この装備の方がいい。
一方のアザレアとバーサル騎士ガンダムはアザレアと似た色彩のメガライダーに乗り込んでいる。
アザレアが前の座席に乗り込む形で、その後ろにバーサル騎士ガンダムが頭だけを出している状態で装着されている格好だ。
「ロボ太、どう?そっちからでも操縦できるようになってる?」
「問題ない。最も、手足が自由に動かせないというのには違和感があるが…だが、このような形のサポートメカもあるとは…」
「ルール上、サポートメカを自動操縦することができないからね。さあ…行こうか。沢村勇太、グシオンリベイクゲーティア…」
「井川美沙、アザレアリバイブ!」
「ロボ太、バーサル騎士ガンダム!」
「彩渡商店街ガンプラチーム!!」
「出るよ」
カタパルトが起動し、勇太たちが飛び出し、その後でゲーティアからの操作でグリモワールも飛び出す。
先に倒れたファイターたちのガンプラの残骸があふれるエアーズ市にレイドによってマッチングされた5人のファイターも現れる。
「おお、あの世界選手権にも出た彩渡商店街ガンプラチームと組めるなんてな、ついてるぜ!」
「油断してはだめよ、相手が相手なんだから」
「わかってるって、ありえない強さだってことくらい」
アレックスの女性ファイターにたしなめられるザクⅡ改のファイターも、これまで何度かディープスクランブルと戦い、負けてきたことからその強さは嫌というほど知っている。
負けては何度もシミュレーターで練習し、同時にガンプラも改良を重ねてきた。
今度こそ、今度こそと甘い毒に踊らされていることはわかっている。
だが、それでも勝利という希望が見えるのであれば、そんな毒は飲みつくしてやる。
他にも、デルタプラスとその背中に乗っているジェスタ・キャノン、ガンダムファラクト、グエル専用ディランザの姿もある。
彼らの戦うべき相手であるディープスクランブルはさっそくあいさつ代わりと言わんばかりにビームライフルとビームキャノンで攻撃を仕掛けつつ、機体下部に搭載されているファングを射出する。
激しいビームの弾幕を前に、全機が散開していく。
「なめるなよ、このディランザはある程度のビームには耐えられるんだよ!!」
エアーズ市の道路に着地し、ホバー移動を開始するディランザを2機のファングが襲うが、命中することなど歯牙に駆けずに突き進む。
水星の魔女第1話で確かにスレッタのエアリアルのGUNDビットにハチの巣にされる形で敗北したグエルのディランザだが、今見せているホバー移動による機動力にシンプルな兵装、そして高い耐久性の存在から、決して弱い機体などではない。
そして、今のディランザにはゴーストガンダムに採用された耐ビームコーティング付きリアクティブアーマーが全身に施されている。
色彩そのものはグエル専用ディランザと同じものになってはいるが、さらに堅牢になった守りについてはファングからのビームを受けても、何ともなく、サーベルを展開して突っ込んできてもリアクティブアーマーとしての機能が発動し、ファングを道連れに爆散し、本体を守る。
「Iフィールドで機体が守られているなら、こいつを使うだけだ!!」
ビーム主体のディランザの通常装備ではIフィールドで弾かれて終わるだけのため、新たに装備したドムトルーパーのギガランチャーで死角となりえる下部から攻撃を仕掛ける。
実体弾による攻撃で機体下部に設置されているファング射出機をシュトゥルムブースターともども破壊することには成功した。
当然、それが破壊されることは想定されている設計になっているのか、補助のスラスターが展開されると同時に真下にいるディランザを現状においての最優先排除対象と認識するディープスクランブル。
まだ残っているファングがギガランチャーとさらには背中に装備されている、ケンプファーアメイジングから流用した武装コンテナを襲う。
コンテナとギガランチャーには装甲と同様の措置を施すことなどできず、やむなく損傷したギガランチャーを手放し、使用不能になった予備のギガランチャーの入ったコンテナをディープスクランブルに向けて射出する。
当然、彼とて単独で攻撃しようとしたわけではなく、彼の突撃を援護するためにデルタプラスやアザレア、ジェスタキャノンが前方から攻撃を仕掛けて注意を向けていた。
だが、今回のディープスクランブルに搭載されているAIはかなり賢い分類に入っていた。
ディランザへの対応をファングで行い、正面からの攻撃に対してはミサイルやビームライフルで対抗していた。
そして、ビームコーティング付きリアクティブアーマーへの対抗策としてファングをぶつける手段をためらいなく取り、それによってファングとアーマーが相殺していく。
「くそ…まだ落ちるわけにはいかねえ!こいつを撃ち尽くすまでは!!」
幸い、今回は頼もしい味方として彩渡商店街ガンプラチームもいる。
彼らがいるなら、何か奇跡が起こるかもしれない。
かつて軌道エレベーターでの事件で奇跡の生還を果たした時のように。
無駄に避けても、機動力の高いファングには無意味だと考え、ギガランチャーを撃つことだけに集中する。
やがてファングはそのギガランチャーをビームで破壊すると、むき出しになった本体をビームの十字砲火が襲う。
水星の魔女のディランザと同じやられ方になるが、それでも傷の一つでもつけられたこと、それがほんの少しでもレイドしている彼らの助けになることを願いながら退場した。
機体名:グリモワール
勇太が制作したゲーティアのサポートメカ。
小型化したプトレマイオスというべき形状をしており、搭載されている3つのコンテナにはそれぞれバルバトスアーマー、グシオンリベイクアーマー、フラウロスアーマーの装備が搭載されている。
前線においては状況に応じてアーマーを放出し、ゲーティアに装備させることが役目となっており、戦闘そのものは想定していない。
GNフィールドを展開できるよう粒子貯蔵タンクは搭載されているが、非武装のため、狙われた場合は勇太が遠隔操作するか、ゲーティアや仲間に助けてもらう必要がある。