「勇太君!サテライトランチャーが来るよ!!」
「発射前に止める!!」
アザレアから送られたデータから脳内でチェストブレイクとハーミッドクラブから放たれるサテライトランチャー発射までの時間を計算する。
月面宙域にはその2機だけでなく、ターンXやエピオン、リボーンズガンダムなどの姿もある。
今回行われているのは歴代ガンダム作品のラスボスたちとの連続バトルで、チームが全滅するまでに数も種類もランダムで出現するモビルスーツをどれだけ撃破できるかの記録で争うことになる。
マイクロウェーブの照射を受けているチェストブレイクに向けて麒麟を発射しようとするが、キュベレイのファンネルによる攻撃がそれを許さない。
「ロボ太、ファンネルの処理を!!」
バーサル騎士ガンダムのトルネードスパークであれば、襲ってくるファンネルを一気に処理できる。
こうした場合での特訓は何度もしてきたから、すぐに対応してくれると期待する勇太だが、ロボ太からの返事はない。
「ロボ太、どうしたの、ロボ太!うわっ!!」
「…!?主殿!」
通信に気づいた様子のロボ太だが、ファンネルのビームがゲーティアの腕の関節パーツに命中したことで、麒麟を手放してしまう。
「やばっ…これ、間に合わない!」
エピオンとリボーンズガンダムの対応に追われるミサにはカバーする余裕がなく、サテライトランチャーの発射時間が来てしまう。
放たれたすさまじいエネルギーの奔流は3機を飲み込んでいく。
(なんということだ…私の、ミスだ…)
「あーあ、負けちゃったぁ…」
「大丈夫だよ、もう再挑戦できないわけじゃないから」
子供たちにシミュレーターの番を渡し、休憩用の机に突っ伏したミサに勇太がサイダーを持ってくる。
隣にいるロボ太もうつむいたように頭を下に向けていた。
懐のスマホが鳴り、そこに表示されるロボ太からのメッセージを見る。
(すまない、主殿。ミサ。私のミスで…)
「まぁ…らしくないミスだから驚いたけど…。終わったことなんだから、仕方ないよ」
励ますようにロボ太の肩に手を置いた後で、勇太は自分の分のサイダーを飲んでいく。
しばらくロボ太からの反応がなく、うつむいた状態から動かないロボ太が頭を上げると同時に、再びメッセージが届いた。
(主殿とミサは今後もガンプラバトルを続けていくのか?今みたいに、毎日でないとしても…その…週に1度か月に1度か…)
「いきなり、どうしたんだ?」
急にぶつけられるロボ太からの質問。
質問には答えられるものの、あまりにも普段のロボ太らしくないものだった。
(ミサはどうなのだ?ガンプラバトルを…)
「そんなのわかるわけないでしょ?来年は受験なんだし。もー、やなこと思い出させないでよー」
脳裏によみがえる、大人たちによる勉強をせかす声。
そして、最近受けた模試の点数とひとまず選んだ志望校への合格率。
それらのショックから目を背けるためにせっかく今日はガンプラバトルで遊び倒すつもりだったというのに。
ふてくされるミサを見たロボ太がわずかに後ずさりをする。
(あ…ああ…すまない。今の私はどうかしている!カドマツにメンテナンスしてもらってくる!)
メッセージを残したロボ太が飛び出すようにゲームセンターを出て行ってしまう。
「ロボ太…」
カドマツの家へのデータはあるため、迷うことはないだろうが、今日のロボ太の様子を見ているとどうも心配になる。
その様子はあまりにもロボットからかけ離れているようにも思えた。
「ああ…ミサ、今のロボ太心配だし…近くまで送っていかない?」
「一人でお願い…私、ちょっとふてくされてる」
「…わかった、戻るときに電話するよ」
「悪いな、勇太。わざわざロボ太を家までよぉ。まさか、こんなに調子が悪いなんてなぁ」
勇太に連れられて帰ってきたロボ太の様子はカドマツには予想外のものだった。
まず勇太が追いかけた時にロボ太はなぜか頭をゴミ捨て場に突っ込ませた状態になっており、まずはそこから彼を引き抜くところから始まった。
次に横断歩道を渡ろうとしたところ、赤信号に気づかずに出ていきそうになったのを勇太が止めた。
時には急に空を見上げて足を止め、送信されるメッセージに文章になっていない数字の羅列のようなわけのわからないものが届いたりと、勇太を混乱させるには十分すぎるものだった。
事情を聴いたカドマツはさすがにこのまま勇太を帰すのは申し訳ないと思ったのか、勇太をロボ太と共に家に入れ、お茶と菓子を用意する。
「嬢ちゃんが待ってるかもしれねーけど、ちょっとはゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます、どうしたんでしょうか?ロボ太がここまで変になるのは、見たことがなくて…」
今のロボ太はスリープモードに入った状態で充電を受けている状態だが、スリープモードを解除した後はどうなるかはわからない。
「あいつの場合は特殊なんだよな。ログ解析をすると、なんというか…人間みたいな感情が芽生えてる…っていうべきか」
「人間みたい…か」
最初は助っ人ということで仲間になったロボ太だが、一緒に戦い、コミュニケーションを重ねてきたことで、ロボットであることを忘れていたのを感じた。
カドマツが出してくれた麦茶をチョコを口にしつつ、充電中のロボ太を見つめながら、これまでの彼とのやり取りを思い出していた。
「ひとまず、こいつに何が起こったのかは調べておく。何かわかったら知らせるから、家に来てくれ」
「はい、お願いします。カドマツさん」
夜になり、晩御飯と風呂を終えたカドマツがパジャマ姿でパソコンを起動する。
スピーカーも起動してロボ太の会話を聞こえるようにし、充電中のロボ太を見てニッと笑う。
「そろそろ落ち着いたか?あいつらはいないんだ。気にせず話していいぜ」
「すまない…。今の私には、主殿とミサに合わせる顔がない…」
「あいつから話は聞いてる。気にしてない様子で、むしろお前のこと心配してたぞ。次に会ったときにお礼を言えば、それで済む話だろ?」
「しかし、トイボットである私が楽しいはずの時間に水を差してしまったんだ…。私は、私は不良品だ…。工業製品は与えられた仕事をこなさなければならない」
本来、工業製品であるロボットはその役目を果たすためだけに作られ、それをこなすだけの能力を与えられ、それをこなしていくのが普通だ。
ワークボットであるインフォも同じだ。
接客や簡単な経理を行うために存在し、彼女はそれを果たしている。
人々と一緒に遊び、楽しませるという役割と能力を持つロボ太がそれを果たせないとなると、ただのガラクタか不良品と言われても仕方ない。
ただ、ロボ太は一つだけ思い違いをしている。
それを取り除くのが第一歩とカドマツは考えた。
「お前の言う通りかもな。確かに、工場のワークボットは決められたことをするために作られ、仕事をする。それはお前の言う工業製品だからな。だが、お前はワークボットじゃない。トイボットだ。トイボットの役割は何だ?」
「持ち主と一緒に…楽しく遊ぶことだ」
「そうだ。なら、楽しければ…なんでもいいのか?」
「そうではない。社会性を伴って、正しく健やかに楽しまなければ…。だからこそ、トイボットには周囲の環境を学び、自らが社会性を獲得するように設計されている」
やろうと思えば、その社会性を最初からプログラムとして組み込むことができたかもしれない。
だが、社会性というのは時代によって変わるものであり、それはプログラムを組むだけではかなわない。
だから、カドマツはロボ太に試作の教育型コンピュータを入れている。
名称はガンダムのそれと同じだが、周囲の環境を教育するという意味合いのものではあるが。
「そう、一緒に遊んで、一緒に学ぶ存在。それこそが俺の目指していたトイボットなんだよ。人の世界で…そういう存在を何というか、知ってるか?」
「む?」
「友達、だ」
その言葉を聞いたロボ太は沈黙した。
今言った言葉のことをすぐに全部理解してくれるとはカドマツは思っていない。
だが、それが彼の悩みをほぐすきっかけになると信じていた。