「うえーーー、暑ーーーいーーーー」
日差しの強い昼の東京の街中を勇太とミサは汗を流しながら歩いている。
秋になり、気温は夏と比較すると落ち着いているとはいえ、それでも全身が汗でびしょ濡れになるかと思うほど暑いことには変わりない。
移動中にスーパーでポカリを購入したものの、もう飲み切ってしまっている。
「早くクーラーが効いた部屋に入りたーい…」
「僕も…」
ロボ太をカドマツの家へ連れ帰った時は夕方だったためまだ我慢できる暑さだったが、今は昼間だ。
強い日差しと弱い風のダブルパンチで頭の中まで焼き尽くされてしまいそうだ。
「うわあ…機外1200度です、隊長ーーー」
「勇太くーん、しっかりしてー」
棒読みでいきなりとある一般兵のセリフを口走る勇太にまずいと感じたミサだが、ミサもミサで暑さでばてつつある。
「暑苦しいなぁ、ここ。うーん……出られないのかな? おーい、出してくださいよ。ねぇ?」
「ああー…カドマツぅ、カドマツ艦長…沢村勇太が…聞こえますかー」
「…悪いな、お前ら。こんな時間に呼び出しちまって」
カドマツの自宅に到着した勇太たちはすっかり暑さでばててしまっていて、そんな二人のためにカドマツは冷たい茶を用意する。
ロボ太には悪いが、彼らに彼のことを話すためにはとにかく熱から回復させなければならない。
二十分近くの時間を費やしてようやく元通りとなった勇太たちにカドマツはパソコンの映像を見せる。
「カドマツさん、これは…?」
「こいつはロボ太のコアだ。トイボットとしてお前らと関わる中で学習された記憶の結晶、みたいなもんだと思ってくれ。同時に、こいつが今のロボ太の異変の原因にもなっている」
「どういうこと?」
「AIっていうのは、物事の結論を出そうとする時、順番に問題と答えをつなげていくんだ。導いた答えでまた次の問題を提起して、次の答えを出していく…の繰り返しだ」
今では当たり前に用いられている人工知能チャットボットがそのいい例と言えるもので、違いがあるのはその問題を出すのがAI自身ではなく人間だということだ。
それに対して、ロボ太は学習の過程でその問題を自ら提起している。
問題の出し主の違いによる長所と短所は表裏一体で、どちらにもプラスもマイナスもある。
ただ、今回の場合は自主提起のマイナスパターンといえる状態と言えるだろう。
「ここで問題になるのはあるところで出した答えが既に通過した問題を提起してしまうことだ。それによって、また全く同じ思考を繰り返すことになる」
「なんだかそれ、一人で考え込んでしまうときと同じ感じですよね」
「ちょっと違うところもあるが、まあそんな感じだと思ってくれて構わない。お前らにも覚えはあるだろう?延々と何かに悩み続けることが」
「オヤツを食べたい!でも太りたくない!でも、オヤツを食べたい!でも太りたくない!みたいな…?」
「ミサ…そこまで単純なものじゃないと思うけどなぁ…」
「でも、結局食べちゃうよ。で、後悔する」
「人間はな、人間は悩むことに飽きたり疲れたりするからな。途中で変化することでその無限ループから離れることができる」
そして、そこでふとしたことでその無限ループになっていたものの答えが出たりするのが人間の面白いところだといえるだろう。
その閃きというものが人間にあって、AIにはないものといえるだろう。
「でも、ロボ太の場合はそれを延々と繰り返すことができてしまう…」
「そうだ。そんなことをしたら、外部から刺激を与えないと二度と帰ってこない」
「その刺激はどうやって…?」
「前にもやったことをするのさ。軌道エレベーターやインフォちゃんの時と同じさ。ま、ウイルス退治じゃねえから、大した問題はないだろ」
「じゃあ、ロボ太を連れてゲームセンターへ…」
「いや、その必要はない。それじゃあ、わざわざお前らにガンプラを持ってこさせた意味がねえからな。ミスターガンプラから特別に借りてきたものがある」
立ち上がったカドマツがリビングにあるソファーのそばにある段ボールを開き、その中にある操縦桿のついた小型の端末2つをテーブルに置く。
端末の中央にはスマホを接続するためのスタンドとガンプラを設置するスペースも用意されていた。
「これは…?」
「現在試作中の新型シミュレーターだ。まだまだ未完成品だがな。ほら、スマホを出してくれ。専用のアプリを入れるぞ」
視界に広がる青白い空間とそれと同系色のブロックでできたフィールド。
そこにアザレアとゲーティアの姿があり、アザレアはキョロキョロと首を動かして周囲の映像を映していく。
「すごい…家でもバトルができるってこと!?」
「完成すれば、だがな。今回の件をミスターガンプラに相談したら、今回の運用データを提供するという条件で貸してくれたのさ。婆さんのゲームセンターを使ってもいいが、そのためにシミュレーターを占拠するわけにもいかないだろ」
このシミュレーターに入るまでに勇太たちがやったことは、インストールされた専用アプリに端末にセットしたガンプラを撮影すること。
そして、専用のヘッドギアを装着した状態で操縦桿のスイッチを押したことだけだ。
その瞬間、勇太たちはシミュレーター内の自分たちのガンプラの中に移動して、この場所に立っている。
「完成すれば、家からでもGBNを楽しむことができる。最も、このシステムではサポートメカは使用できないうえに発進シークエンスは省略されている。それに、お前らが動けるのは自分たちのガンプラのコックピットの中だけだ。まぁ、今回はそれでも十分だけどな」
それに備えて、今回のゲーティアは最初からバルバトスアーマーを装備している状態だ。
ゲームセンターなどの限られた場所から大きく選択肢が広がっていく未来が勇太とミサには見えた。
「でも、これを本当に使えるようになるのはまだまだ先、ですよね?カドマツさん」
「そうだな。こいつはまだまだコストについても使える機能についても、まだまだ問題を抱えている」
ミスターガンプラから機材を借りた際に内緒話ということでこっそりとそれについて教えてもらったが、この小さな端末を1つ用意するのにかかる費用はまだ一般家庭がとても手に出せる価格とは言えないものだ。
おまけに今のシミュレーターと同じだけの機能を仮に搭載することができたとしたら、さらに高額になるのは目に見えている。
それらの問題をクリアしていくこと、これを配備することによるゲームセンターなどの業界とのすり合わせ、これから生まれるであろう新しいガンプラやビルダーズパーツなどに対応データの準備などを考えると、これが完成して一般家庭の手元へ行くのはおそらくは10年先になるかもしれない。
「カドマツさん、ロボ太はどこに?」
「ああ…今座標を送る。そこまで向かってくれ」
カドマツから提供されたマップデータを元に2機は先へと進んでいく。
「インフォちゃんや軌道エレベーターの時とは違って、すごく静かだね」
「僕たちをウイルスとして見ていないのか…いや、これは!?」
突然警告音が響くとともに周囲に出現するモビルスーツ部隊。
ウイルスではないのか、いずれも青白いペイントをされており、リガ・ミリティアのモビルスーツ部隊といえるラインナップだ。
「こいつはロボ太のウイルス迎撃のプログラムだな。だが、お前らを敵視している。仕方ねえ、新しいプログラムはなんとかできるから、倒して進め!」
「ロボ太は正常じゃないんですか!?」
「定期的にデータ収集しているが、俺だって今のロボ太のプログラムすべてを把握しているわけじゃないんだよ」
「自分で作ったのに!?」
「俺が造ったのは、あの日トランクケースに入っていたあの状態までだからな」
その状態のロボ太はいわば生まれたばかりのまっさらな状態であり、そこまでの状態についてはすべてカドマツの頭の中にある。
だが、そこから勇太やミサなどの外部からの刺激を受けたことで今のロボ太のプログラムはその時から大きく変化している。
フォーマットするのであれば、今回の問題はすべて解決するのだが、そのような解決はだれも望んでいない。
「そういえば…ロボ太がしゃべることも想定してなかったですよね…?」
「そうだったね…そう考えると、ロボ太ってすごいねってうわっ!!」
上空から物干し竿で狙撃をしてくるVダッシュガンダム。
GNフィールドを展開して受け止め、お返しと言わんばかりにビームライフルで攻撃する。
コックピットを撃ちぬかれ、青い粒子へと変化していくVダッシュガンダム。
その粒子がフィールドに霧散していく。
(…れ、来な…れ…)
「え…?勇太君、何か言った?」
「いや、何も言ってない…よ!!」
バスターソードメイスの一撃がガンイージを真っ二つにする。
Vガンダムやガンブラスターのビームはナノラミネートアーマーを前にしては敵ではなく、バスターソードメイスを振り回し続ける。
(帰って…、め、だ…)
「この声って…」
撃破していき、粒子になっていく度に聞こえてくる誰かの声。
声と、行く手を阻むプログラム。
(ロボ太…いったいどうしたんだ!?)
ロボ太の中にあると思われる円卓のような空間。
そこには騎士ガンダムとフルアーマー騎士ガンダム、バーサル騎士ガンダムが向き合い、言葉を交わす。
「そもそも、ヒトとは根本的に異なるロボットがともだちという対等な存在になれるのか?」
「ロボットはヒトに従い、役立つために存在する。対等などと考えるだけばかばかしい」
「だが、ヒトが間違ったことをしそうになった時、それに従わないことも人のためではないか?」
「それで主が気分を害したとしたら、役立たずと思われるのではないか?」
「役立たずだと思われたなら、我々は簡単に廃棄されてしまうのではないか?」
「ロボットは簡単に廃棄されてしまう。製造コストはそれなりにかかっているというのに」
「ロボットは同じものをいくらでも作れるのだ。だが、ヒトの代わりは簡単に見つかるものではない」
「それよ、ひとりとして同じでないヒトと大量生産品の我々とは根本的に違うもの」
「そもそも、ヒトとは根本的に異なるロボットがともだちという対等な存在になれるのか?」
「ロボットはヒトに従い、役立つために存在する。対等などと考えるだけばかばかしい」
「はあ、はあ…ここだね…」
「同じ話に、戻ってる…?」
防衛部隊を蹴散らして、ようやく指定座標にやってきた勇太とミサが見る無限ループのようなロボ太同士の議論。
普通の人であれば、どこから休憩やら別の話やらで打ち切るだろうが、それができないのがロボットの物悲しさ。
数式のような明らかな答えの出ないものをAIによって一つの答えに到達しようとすれば、このような破綻が待つ。
「今のロボ太はこれをもう何十万回と繰り返している。外部からの刺激を加えて、変化させないとな」
「刺激って、どうやって…?」
「むっ、主殿、ミサ!?」
二人の反応に気づいた3機のロボ太の視線が一斉に2人に向けられる。
敵対心はないだろうが、好意的に思っていないのも確かだろう。
「なぜここへ…?」
「助けに来たの!ロボ太を!」
「助け…?私に、助けなど必要ない!引き返してくれ!今は重要な議論をしている最中なのだ…」
「その問題は無限ループしていて、解決できないよ!」
「無限ループ…?ハハハ、何を馬鹿なことを」
「カドマツさん?これは…」
「ロボ太は無限ループに陥っていることに気づいていないみたいだ。わかれば、回避できるからな」
ただし、人間とAIで思考のループをどの段階でそうだと判断できるかという認識も問題となるだろう。
人間はそれを疲れなどの肉体からのサイレンによって認識するが、AIはそのような概念はなく、どこまでもそのループの中をさまようことができる。
答えが必ずあるという前提が常にあるのだから。
「議論の邪魔をしないでくれ!」
騎士ガンダムのロボ太が背後の壁に出現した扉へと向かい、その奥へと入ってしまう。
そして、足止めのためにバーサル騎士ガンダムとフルアーマー騎士ガンダムが二人を襲う。
「もー!なんでこうなるのー!」
「仕方ない…邪魔をしないでくれ!」
勇太たちと共に戦い抜いてきただけあって、二機のSDガンダムの動きは良く、そのことをさっそく仲間である二人が味わうことになる。
大振りになるバスターソードメイスから左文字を抜き、それを振るったとしてもバーサル騎士ガンダムは身をかがめる、剣で受け流すといった動きで対応してくる。
更に、バーサル騎士ガンダムが剣に不死鳥のようなエネルギーを発生させ、それをゲーティアに向けて発射する。
長時間燃え続けるその炎はナノラミネートアーマーの弱点となりえる。
「炎の勢いはすごい…けど!!」
両足だけで大きく跳躍したゲーティアは不死鳥の炎を飛び越える。
上空で体をひねらせたゲーティアは両手で左文字を握り、地上でクールタイムに入っているバーサル騎士ガンダムを両断する。
(ヒト…ロボット…ワタシ、ハ…)
粒子となるバーサル騎士ガンダムから受け取る声。
先ほどのプログラムのものと同じ声。
(ロボ太…悩んでるってこと…?)
「ええええい!!」
一方、フルアーマー騎士ガンダムを相手としているミサだが、接近戦に持ち込まれており、大振りとなるアロンダイトではなくビームサーベルで対応している。
フルフォースまでのアザレアであれば、この状況に持ち込まれると撃墜される恐れがあったが、リバイブとなった今は違う。
「ごめん、ロボ太!痛い思いをさせちゃうけど!!」
左手のマニピュレーターで拳を作り、フルアーマー騎士ガンダムに左ストレートをお見舞いする。
いきなりの一撃で吹き飛ぶフルアーマー騎士ガンダムだが、やはりフルアーマーを名乗っているだけあって防御力があり、なおも健在な様子だ。
だが、フルアーマー騎士ガンダムの目がわずかに開く。
格闘戦をしている間に、アザレアのバックパックがどこかへ消えていた。
次の瞬間、頭上から飛んでくるビームがフルアーマー騎士ガンダムの右腕と電磁スピアを撃ちぬく。
倒れるフルアーマー騎士ガンダムのカメラに映るのはこちらへ突っ込んでくるアザレアのバックパックだった。
「いっけえええええ!!」
バックパックから展開されるビームサーベルでフルアーマー騎士ガンダムが切り裂かれ、消滅する。
やがてバックパックはアザレアの元へ戻るとともに、消滅したフルアーマー騎士ガンダムの粒子の影響を受ける。
(ロボット…ココロ…私は…)
「ロボ太…」
「行こう、ミサ。ロボ太をこのままにはしておけないよ」
ロボ太が出ていった扉にはバリアが貼られているが、ならばこじ開ければいいと既に麒麟の準備を終えている。
バリアの出力と麒麟の破壊力を計算したところ、破壊可能という結果は出ている。
「うん、お願い…勇太君」
「了解!」
発射された麒麟の弾丸がバリアに触れると同時に大爆発を引き起こし、バリアごと扉も吹き飛んでいく。
その先にはまっすぐな一本道が見えていた。
「私は…私に芽生えたよこしまな感情を隔離した。隔離して、閉じ込めて、目をそらし続けた。だが、それでもその気持ちは肥大化し、私の中で大きく育ってしまった。私はトイボット、玩具ロボットである。ヒトはいつしか大人になり、玩具から卒業する。そうでなければならない…そうでなければならない…。私はトイボットでなければならない。私は…ロボットでなければならない…。私は…いつか、ヒトリにならなければ…ならない…」
「終点だ…」
勇太がつぶやくと同時に一本道の終わりに差し掛かり、たどりついたのは以前、カドマツがお遊びで作ったステージにあった魔王の城。
そこには宙に浮くロボ太とサタンガンダムの姿があった。
「ロボ太が…悪いものとしてイメージを投影しているんだな」
「私の中に育った邪な気持ちは…自己修復プログラムであっても取り除けない。どうにもならないこの状況を止めるため、思考を無限ループさせ、考えることをやめた。私は…トイボットとして欠陥を抱えてしまった。立場をわきまえない望みを抱いてしまった」
「ロボ太…話してよ。何を思っているのか?」
「そんなことを言ってどうなる…?私は…」
「そんなこと、話さないとわからないよ!僕も、ミサも一緒に聞くから!」
「やめろ…やめてくれ…そんな優しい言葉を、私にかけないでくれ…」
「ロボ太!」
「やめてくれーーーーーー!!!」
ロボ太の叫びと共に隣にいたサタンガンダムの瞳が赤く光る。
同時に、サタンガンダムが上空へ向かい、徐々にその体を巨大化していく。
「何、何!?何が起こってるの?!」
「サタンガンダムが…」
「オオオオオオオ!!!!」
サタンガンダムの外装にひびが入り、そこから長い尻尾と巨大な蝙蝠の様な翼をもつ怪獣というべき化け物が出現する。
その左右の手には血のような暗い赤色の剣と盾が握られており、剣からは黒い赤色のオーラが発生している。
「なんだよ…こんなプログラム、見たことがねえ…!」
「あ、あああ…」
浮かんでいたロボ太が地上へ落ち、転がりながらあおむけになって止まる。
「ロボ太!」
「あ、ああ、あ…なんということだ、なんというものを私は…私は…」
駆け寄る勇太とミサに目もくれず、彼の視線はただ、サタンガンダムが豹変した姿に向けられ、おびえるようにカタカタと震えている。
「消えろ…」
「逃げろ…!」
サタンガンダム、そしてロボ太が口を開く。
同時に、変異したサタンガンダムの剣が大出力のビームの刃となって振り下ろされた。