(宇宙空間に展開されたソーラーパネルは地上とは比べ物にならない効率で発電し、宇宙エレベーターによって地球へ供給されます。このようにして、天候にも左右されることなく、膨大な電力を石油などを使用せずに生み出すことが可能となるのです。宇宙時代の発電システム、SSPG。スペース・ソーラー・パワー・ジェネレーター。一日も早い実用化が望まれます)
ハワイのとあるホテルで、バスローブ姿の男、ナジールがテレビで流れる軌道エレベーターの番組を見ている。
確かに、このようなものが生まれれば、エネルギーに大きな革命を起こすことになる。
それによってもたらされる未来に期待する人も大勢いるだろう。
「…それを、望まない人も、いマスよ」
だが、現実ではそのような未来ではなく、より混とんとした未来が待つのが関の山。
軌道エレベーターの導入によって経済的な打撃を受けた中東勢力による太陽光発電紛争が起こったように。
「みなさん、こんにちは!私は今、太平洋に浮かぶメガフロートの上に立っています!そう!宇宙エレベーターにまた来ているのです!」
かつて、世界選手権などでMCを務めたハルの元気のいい声と笑顔がドローンによって撮影される。
世界規模のビックイベントであるSSPGの着工記念セレモニーという大仕事はハルにとっては躍進となる大きなチャンスだ。
「そして、このSSPG着工記念セレモニーの中で開催されるSSPG着工記念ガンプラバトル大会、その様子も皆様にお届けしたいと思います!そのため、当然この方にも来ていただいています!」
「どうも!みなさーん!ごきげんよう!ただいま、ご紹介にあずかりましたミスターガンプラです!いやぁ、初めて来たけど、すごいところだね。このメガフロートって」
「ふふーん、私は2回目なんです。わからないことがあれば、聞いてください」
「なんで沈まないの?これ」
「へ?」
「これだけ大きいんだから、ふつう沈むんじゃない?」
「え、ええっと…」
いきなり専門的なこと、だが素朴な疑問に困惑するハル。
専門家を招いていれば、すぐに質問に答えてくれるが、あいにく今回はその人を呼んでいない。
「それより、ミスター。今回のガンプラバトル大会はいかがでしょうか?」
「ああ、そうだねぇ…。今回は招待制とはいえ、世界各地の強豪チームが多数参戦している。特に…世界選手権で決勝を戦ったチームも参戦しているというのは大きいね。見どころの多いバトルを数多く見れると思うと、楽しみで仕方ないよ!」
「なるほどぉ…さあ、どんなバトルを見せてくれるか楽しみですね!それでは、まずは予選の開始をお待ちください!」
「ねぇ、なんで沈まないの?これ…!」
「くぅーーーー!また来れたーーー!ハワイ!メガフロート!!宇宙エレベーター!!」
「あんまり騒ぐなよ、興奮してんのは分かるけどよ」
昨日から現地入りしていたミサは再びここで世界規模のガンプラバトル大会に参加できることに歓喜の声を上げている。
彼女の手にはその招待状が握られていた。
「今回は絶対優勝!頑張ろうね、ロボ太!」
ミサがロボ太と気合を入れている一方で、勇太は近くのベンチに腰掛けた状態でウィルとサクラと話をする。
一番の話題はバイラスのことだ。
「まさか、こんなにあっさりと見つかって、逮捕されるなんて思わなかったよ。本当はこの手で捕まえてやりたかったけど」
「結局、あのウイルスの事件もバイラスが?」
「ああ。ただ、妙な話をしていると言っていたな。これは依頼されたって。最も、警察が押収した資料やパソコンからはそんな記録はなかったらしいけど」
バイラスのウイルスによってタイムズユニバースでも被害を受けており、被害者として情報を得たいということで、現地警察に無理を言って情報を引き出していた。
彼が行っていた依頼主にナジールという名前があった。
だが、メールか電話によりやり取りで終始していて、顔まではわからないという。
普段のバイラスであれば、そのような依頼主から依頼を受けることはなかったが、逃亡中で切羽詰まった状況なうえに多額の報酬が受け取れている状態であったため、問題としていなかったようだ。
「ナジールについて、僕も調べたよ。最も、そんな名前の人間は星の数だけ存在する。探すだけ無駄だろうけど」
「ということは、まだ事件は終わっていないと…」
「僕はそうにらんでる。どういう目的かは何もわからないけど…また似た事件が起こるかもしれない。君たちも用心してくれ」
ウィルは懐からUSBメモリを出すと、それを勇太のポケットにねじ込み、空っぽになったコーヒーカップをゴミ箱に入れる。
「これは…?」
「念には念をだ。バイラスが会社に残していたウイルスプログラムをもとに、奴が作りそうなウイルスのパターンを割り出したうえでうちで作った対策プログラムだ。念のため、君たちにも渡しておくよ」
バイラスは逮捕済みではあるが、またここで妙な事件が起こらないとは限らない。
少なくともウイルスのキャリアとなって、加害者になるような事態だけは避ける必要があった。
「わかった、ありがとう。ウィリアム」
「ああ…かなうなら、決勝で会おう。それから、もう1つ…これについては、もう君も見たことがあるだろうけれど」
ウィルがスマホの映像で見せたのはアメリカで行われたとある大会の決勝戦での試合の映像だ。
決勝戦で戦っているのはケンプファーとアレックスで、真夜中のサイド6リボーコロニー都市部での戦闘となっている。
弾薬が尽きつつあったケンプファーがビームサーベルを手に突撃する中で、アレックスが腕部のガトリング砲を展開、敵機に無数の銃弾を浴びせる。
薄い装甲のケンプファーがこれによってハチの巣となり、あおむけに転倒するかと思われた。
だが、ケンプファーが血のような赤いオーラに包まれていき、弾丸をオーラがはじいていく。
ガトリングが切れたアレックスはビームサーベルを手にし、両者が鍔迫り合いを演じる。
オーラに包まれたケンプファーの上昇した出力はアレックスを上回り、そのまま力任せにその機体を両断して勝利を収めた。
「マスフレーム…」
「そうだ。アメリカで君と戦っていた時よりもさらに完成度が高くなっているといっていい。疑似的な覚醒をしているだけならまだしも…もっとひどいことになる」
「ひどいこと…?」
「ここからだ」
本来なら、ここでシミュレーターが停止するはずなのだが、シミュレーターが停止することなく、オーラに包まれたケンプファーのカメラが赤く染まる。
そして、手にしているビームサーベルで周囲の建造物やフィールドを切り裂いていく。
切り裂かれた箇所にはバグが発生し、赤黒く染まっていた。
更には弾切れになって、放棄されているはずのジャイアントバズを手にすると、そこから赤黒い弾丸を次々と上空や建物に向けて発射し、普通のバズーカを上回る爆発を引き起こしてフィールドそのものを破壊していく。
主催者が強制的に外部からシミュレーターを停止させたことにより、これ以上の暴走は止まったものの、シミュレーターから出てきたファイターは意識を失っていたという。
「フィールドを形成していたプログラムには甚大なダメージが発生して、大会も中止になった。おまけに、プログラムに修復に長い時間がかかったという話だ。更に…意識を失ったファイターは現在も入院中、調べによると彼は公式、非公式問わず、様々な大会でこのマスフレームを使用していたらしい。大きい代償になったが…。マスフレームによる覚醒はファイターの脳内に作用し、酩酊・多幸感・幻覚などをもたらす…簡単に言うと、麻薬を摂取した時のような精神になる」
勇太やウィルたちのような覚醒との最大の違いがそれで、マスフレームによる覚醒が麻薬の摂取と同じ効果もあるとするなら、それに依存したファイターの末路がどのようなものになるか、想像するのは難しくない。
「おまけに、厄介なのはガンプラのフレームがマスフレームなのか否かをいまだに判別できないことだ。マスフレームによる覚醒が確認されたときになって、ようやくマスフレーム搭載のガンプラだということがわかる」
「それが…もしかしたら、この大会でも…」
「そうだ。ありえない話じゃない。勇太、もしマスフレームを使うような相手がいたら気をつけろ。背後には確実にガンプラマフィアがいるからな」
「ガンプラマフィア、か…」
「いつみても、忌々しい建物デスね。このエレベーターは」
軌道エレベーターがよく見えるということで評判のホテルの一室で、窓からそれを眺めるナジールはテーブルに置かれているワインを口にする。
テーブルには開けたばかりのワインボトルと写真立てが置かれており、写真には工事の視察をしているスーツ姿の自分の写真が写っていた。
ワインを飲み終えたナジールは足元に置かれているアタッシュケースを机に置き、中身を見る。
十数機のガンプラと、それにまつわる強化パーツ。
「巨人の死とともに存在を抹消されし者たち…ですが、まだ私たちは死んでいナイ。いや…死なせはしナイ」