「これで…とどめ!」
バルバトスゲーティアのバスターソードメイスの一撃によって真っ二つとなったラフレシアが大爆発を起こし、フロンティアサイド宙域に消えていく。
この瞬間、綾渡商店街ガンプラチームの本選進出が決定し、それを告げるアナウンスが響き渡った。
「うーん…」
予選を終え、フードコートでハンバーガーを口にするミサだが、なぜか不満そうな様子に勇太もカドマツも首をかしげる。
「嬢ちゃん、どうしたんだよ。本選出場が決まったんだぞ?もっとこう、うれしくしねーのか?いつもみたいによ」
「それはそうだけど…なんだか、こう…不完全燃焼というか、なんというか…」
「おいおい、そんなこと言うの、俺らの中だけにしてくれよ、やっかみを受ける」
確かに夏の世界選手権と比較すると、今回の大会は世界中からファイターが集まることには変わりないとはいえ、規模としては小さいだろう。
だが、ここに集まっているのは世界中から、この大会に出場するにふさわしいと運営が認めたチームばかりだ。
ハイレベルな戦いが繰り広げられるのは明白だが、ここまでの間、勇太もミサも若干のトラブルが発生したとはいえ、その中で順当に強くなっていった。
あまり自覚はないのかもしれないが、強さを鼻にかけるよりはいいだろう。
「明日からは本選だ。ゆっくり休んどけよ」
「はーい。あ、ハンバーガーおかわりしていい?」
「いいけどよ…あんま調子乗って食うんじゃねえぞ、太るぞ?」
「むー、か弱い女の子にそんなこと言わないでよ、カドマツゥ」
「カドマツさん、勇太です」
「おお、待ってたぞ」
夜10時を回ったところで、ホテルの自室に入る勇太とカドマツが出迎える。
ここに集まっているのは勇太とカドマツ以外にはロボ太とウィル、ミスターガンプラの5人。
ミサは現在、自室のベッドで枕を抱きしめて就寝中だ。
「よし…これで、全員集合だな。あとは…」
「もう1人も、そろそろ準備完了といったところか」
テレビの電源を入れたカドマツはノートパソコンをつなげ、テレビ会議用のアプリを開く。
すると、テレビには明日夢の姿が表示される。
「久しぶり、爺ちゃん」
「おお、勇太。あのミサちゃんとは仲良くしとるかの?」
「ええ、まぁ…」
「カドマツさんも、…おっと、今はミスターガンプラじゃったのぉ、2人とも、孫が世話になっとるのぉ」
「いや…むしろ、助けられてばかりですよ、俺は」
「中年と老人の世間話はあとでもいいだろ?それより、今回は例のことについてだ」
「おいおい、中年って…俺もミスターガンプラもまだまだ若いぞ」
ウィルの中にある中年というのがどういう定義かは知らないが、カドマツもミスターガンプラも若くないとは自覚しているものの、まだまだ老いていないと考えている。
ウィルも勇太も、もしカドマツ達と同じ年齢になって、そんなことを言われる立場になったらどうなるか。
その中年になるまでの時間は本当に短い。
「まあまあ、ウィルの言う通り、本題に入りましょう。若者には明日、大事な一日が待っていますから」
「だな…前にも話しているが、俺たちはこれから始める、新しいガンプラのステージの創設者メンバーっといったところだな」
カドマツが行っている新しいガンプラのステージについては、勇太は何度も話を聞いている。
そして、そのための道具は既に見たことがある。
だが、それはあくまでもその世界で遊ぶための入り口に過ぎず、カドマツ達が目指すのはその先にある。
「おそらく、ガンプラマフィアやバイラスのような悪い大人たちにとっても、この世界は都合のいいものになるかもしれない。俺達にはそんな奴らから未来を守る役目もある」
「当然さ、もう…あんな奴らにガンプラバトルは汚させない」
この創設メンバーにはそれぞれやるべき役目が存在する。
ロボ太にはこの世界で活躍することになる自分と同じAIを守護する騎士、カドマツはAIやその世界の開発、明日夢は現実世界でガンプラマフィアなどのガンプラを利用する犯罪者たちの監視と捕縛、ウィルにはタイムズユニバースCEOとしての経営と出資、ミスターガンプラには解説などでこの世界を発展させるための盛り上げ役を行うことになる。
「勇太、お前のやるべきことはこの世界におけるファイターやビルダーたちの先頭に立つこと。お前があいつらに夢と未来を見せるのさ」
「僕が…」
「悔しいけど、その役目は君にしかできないさ。僕たちがいるんだから、失敗は許さないよ」
「ウィリアム…」
「力だけじゃない。ガンプラやガンダムの世界を本気で愛している君にだから、任せられる。といっても、まずは開発をしていかないと、だけどね」
勇太がその役目を始めるのはその世界が生まれてからのこと。
そして、タイムズユニバースという大きなバックアップだけでも、ここに集まっている創設メンバーだけであっても、これから作りたい世界を完成させることはできない。
「既に俺たちが始める新しいガンプラの構想はバンダイをはじめとした多くのガンプラに関係する企業や団体にも伝えている。完成させるぞ、俺たちとガンダムを愛する人たちの理想の世界を」
ある程度話し合いを終え、勇太はミサと一緒に過ごす自室に入る。
最初は勇太とミサが相部屋だということには驚いた勇太で、それに対して平気な様子を見せるユウイチの様子にも疑問を抱いた。
枕を抱きしめたまま、勇太の名前をかすかに呼びながら嬉しそうな顔で眠るミサに笑みを浮かべた勇太は頬をやさしくなでる。
「ガンダムを愛する人たちの理想の世界、か…」
その世界ができるときには、勇太たちは大人になっていて、きっと社会人として仕事をしていることだろう。
ロクトやウルチのように、社会人チームを組んでガンプラバトルをする人もいるが、それでも今のようにガンプラバトルをするのは難しくなるだろう。
だが、そんな世界を次にガンプラバトルをする世代に渡すことが自分たちの役目だと思えた。
「ったく…こんな未来にかかわることになるなんてなぁ」
自室で、近くの店で買って帰ってきたビールとつまみを口にする。
ハワイにおけるビールの王道といえるコナビールと新鮮な魚介類を細かく切り、海藻や塩、醤油などであえたポキという料理、そしてガーリックシュリンプだ。
明日のこともあるため、控えめに飲むことにしていて、残りを大会後の楽しみにしている。
脳裏に浮かぶのはハイムロボティクスのガンプラチームに在籍中(現在も在籍中だが、現在ではほぼ綾渡商店街ガンプラチームに比率が大きく傾いている)の頃の記憶だ。
カドマツがハイムロボティクスのガンプラチームに入ったのは先輩だった社員が海外赴任することになった際、その後釜として先輩に頼まれてはいったため、それまではガンダムについてあまり興味はなかった。
だが、初めてエンジニアとしてファイターやビルダーのメンバーたちと関わり、一緒に大会に出て勝利した時の喜びから、すっかりガンダムの世界にのめりこんでしまった。
ハイムロボティクスは確かにタウンカップではよく優勝するものの、ジャパンカップについてはカドマツが在籍していたころについてはあまり出場したことがなく、よくて2回戦で脱落。
その途中のリージョンカップで何度も何度もモチヅキとやりあい、ジャパンカップ出場を阻まれた時はひどく落ち込んだことを覚えている。
そんな日々が続くと思われた中で、勇太たちと出会ったことで一気に変化していった。
「おもしれえもんだな、人生ってのは…」
「ああーーー!うめえなぁ、やっぱビールは。おい、ミヤコ!つまみだつまみ!たっぷり持ってきてくれー!」
彩渡商店街の小料理屋で、ミヤコが笑顔で提供する枝豆や唐揚げをつまみに、キンキンに冷えたビールを飲んでいくマチオの隣で、ユウイチは苦笑しながらハイボールを口にする。
「なんだか、久しぶりよね。私たち3人だけなのは」
「このところ、勇太君たちと一緒に食べるばかりだったからね」
「はい、ユウイチさん。揚げ出し豆腐。サービスよ」
「ありがとう」
「そういえば、奥さん…そろそろよね。出張から帰ってくるの」
「ああ。帰ってきたら、しばらくここで落ち着くって言ってたよ。勇太君の顔を見たいって楽しみにしてる」
勇太と彼女とは何度も話はしているものの、あくまでもそれは電話やテレビ通話でのみで、まだじかに会って話をしたことはない。
彼女もいつか、勇太が自分のことを義母と呼んでくれる日が来ることを心待ちにしている。
「で、勇太とミサがくっつくとなったら、店は勇太がすることになるのか?」
「それ、いいかもしわれないわね。実際に、アルバイトもしてるんでしょう?」
「うん。けど…勇太君には勇太君の人生もある。それは、後を継いでほしいなって思うこともあるけど、彼には彼の進む道を応援したいって思うよ。その道の中に、あの店や商店街のことも入っているとうれしいな」
「…ハイボール、おかわりいる?」
「ああ。もちろん」
「うわああああ!!クソッ!また間違えた!」
机の上の答案用紙に大きく×をつけたツキミは頭を抱え、机に突っ伏す。
背後の扉が開くと、パジャマ姿のミソラが入ってきて、手に持っているお茶の入ったペットボトルを机に置く。
「お疲れ様、まだ勉強するの?」
「当たり前だ、まだロクトさんの出した課題をクリアできてないし、もう少しで、この問題を完璧に解けるかもしれないんだぞ。それができたら寝るって」
「そんなことを言って、結局徹夜してウトウトしながら仕事に出てロクトさんに怒られたでしょ?」
「うう…」
アルバイトとして鹿児島ロケットに入社し、沖縄にある支社の社員寮で生活するツキミとミソラは、宇宙飛行士になるためにまずはロクトから定期的に出される宿題を仕事の傍らで行っている。
宇宙関係を専門に学べる沖縄宇宙飛行士訓練学校でそれなりに学んできたツキミ達だが、やはり現場で実際に宇宙飛行士をしているロクトと比べると天と地ほどの差があるのをいやというほど認識した。
この宿題においても、会社でロケットの設計や組み立てにかかわっているときでもだ。
「勉強もいいけど、しっかり寝ないとだめだよ」
「…分かった。ここまでにする」
勉強道具をしまう中、ミソラはスマホでとある記事を出し、それをツキミに見せる。
「ああ…そういえば、やると言ってたよな、ガンプラバトル大会。あいつらも出てるんだよな」
「うん、2人も…頑張ってる」
「ああーーーー!ちくしょーー!なんで納得しねーんだよ、上のやつらーーーー!!」
「姐さん、あんまり騒がないでほしいッスよ。周りの目が…」
「うるせーー!あいつらのせいだろーがー!」
都内のとある居酒屋で悪酔いしたモチヅキが不満を爆発させつつ、レモンサワーを飲み、その姿に痛々しさを感じながらウルチは枝豆を口にする。
カドマツの作ったロボ太、そして世界選手権で手伝ったあのガンダムに触発されたモチヅキは新たな技術の着想を得て、その開発を今日上層部に提案した。
だが、予算や開発成功の可能性から渋られ、仮に通ったとしても予算はそれほどもらえない可能性が高いことがモチヅキにとって不満だった。
「こういう開発に力を入れねーと、ハイムロボティクスに勝てねーだろーがー!!」
「勝てねーの、ハイムロボティクスじゃなくて、あの人じゃねーんスか?」
「うるせーーー!!どっちも同じだろが!!」
「はいはい、ま、頑張って」
「他人事のように言うんじゃねーよ!!」
「他人事ッス」
「もうすぐ…もうすぐデスよ、皆…」
ハワイのホテルの一室で、ナジールはスマホに表示されている写真を見つめる。
作業服とヘルメット姿の数多くの男たちが笑顔を見せている集合写真。
その中には、ブカブカなヘルメットで片目が隠れた状態の幼い少年の姿もあり、その姿をナジールは指でなぞる。
「私は許すことができナイ。ここは…私たちの未来を殺すものなのだから…」
この軌道エレベーターを作ることによる明るい未来ばかりが、テレビでもネットでも話題になる。
その影で踏みつけになる人間が必ず存在することなど忘れて。
そのようなことを黙ってみている方がもしかしたら賢いかもしれない。
だが、自分はそれができるほど大人ではない。
子供だと笑われても、これを曲げるつもりはなかった。