ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla6,新たな決意の四次試験①

 50時間を待ち部屋で過ごしたのち、残り時間が少ない中私たちはトリックタワーを無事に攻略することが出来た。私の失態によりゴンさん以外が途中私に話しかけてくることは無かったが、特に役にも立たずコバンザメのようにくっ付いていってる私を黙認してくれてるだけ十分クラピカたちは優しいと思う。まあ成り行きと言ってしまえばそれまでだが。

 

 

 

 最後の分かれ道と表記された部屋で5人で行けるが長く困難な道、3人でしか行けないが短く簡単な道を迫られた時はゴンさんが答えを導き出すまで私は沈黙し静観を選んだ。

 キルアが「ま、おまけがついて来てるから手錠に繋ぐ1人は決まったんじゃない? 3人といっても2人残していけば扉は開くみたいだし……。つまり、あと1人残していくやつ選べばいいわけだ。文句があるなら戦うしかないけど」と言って「おまけ」である私を見てきた時も私は黙ったままだった。もしここで私があらかじめ知っていた知識で「長く困難な道から壁を壊して短く簡単な道へ出る」というゴンさんと同じ答えを提示しても、発案者が私という時点でいらぬ反発が生まれては意味が無い。そのため沈黙をつらぬいたのだが、気のせいでなければ黙っていたことが「譲る気は無い」という風に受け取られて余計に印象を悪くしていたかもしれない。……せめて「たしかに自分はおまけでついてこさせてもらった身だからここは引く」とか謙虚な事を言えば印象が違っていたかもしれない。口は禍の元だが、何も喋らなすぎるのも問題か。……コミュ障改善のための道は長いな。

 

 で、静観しているうちにゴンさんが「やっぱりせっかくここまで来たんだから6人で通過したい」と言い出して壁を壊す案を出してくれた。……険悪な雰囲気の中、自分の意見を通してそのための発想を生み出す彼はやはりすごい。

 どうやらゴンさんは私が最初に「知識の道」から壁を壊して脱出したところを見てその案を思いついたらしいのだが、そもそも私があの行動に出たのは彼の発想がもとになっている。それが今回ゴンさんが着想に至るきっかけになっているのだからおかしなものだ。

 

 とりあえずこのまま何も成果を出せず最後まで彼らのケツにくっついて終わるのもアレなので、壁を破壊する時は自ら進み出た。しかし壁を壊す直前にレオリオが「そういや最初にお前も壁壊してたな。まだそれに使った爆弾残ってんのか?」と聞いてきた事で、普通の人間は硬い石壁を一撃で壊せないという事実を失念していた私は振りぬいた拳を止めることも出来ず「しまった」と後悔した。……壁を拳で開通した私を見る目は痛かったな……。特にクラピカがグレイトスタンプ70頭を喰らったブハラ試験官に対するのと同じ目で見てきたもんだから居たたまれない。「馬鹿な! では最初の分厚い壁も自らの体で砕いたというのか!?」って言ってから私に向けた目は人間を見る目じゃなかったよな……。

 とりあえずどうしたらそんな風に強くなれるの? と聞いてきたゴンさんには「君もすぐにこれくらい出来るようになるよ……」とだけ言っておいた。答えになってないけど嘘は言ってない。

 

 

 

 こうして壁をすぐに破壊できたことで、少々の余裕をもって私たちは三次試験を通過することが出来た。しかしながらゴールに到着して試験終了までの残りの数十分……私は結局ゴンさんたちに話しかけることが出来ないまま終わってしまった。

 というかゴールについたら気まずくてお礼を言った後そそくさ離れて壁際の隅っこで縮こまってた私マジコミュニケーション能力どうにかしろよ。これじゃゴレイヌさんに出会えても恋人ましてやお嫁さんなんて夢の夢じゃないか……! 普通に誰かと友好を結ぶというのがこれほどに難しいとは思いもしなかった。

 それに今思ったけど……よしんば結婚までこぎつけたとして、結婚式に呼べる参列者が全滅してる件。私はゴレイヌさんと結ばれるなら結婚式とかやらなくてもいいけど、もしゴレイヌさんが家族や知り合いを呼びたいもしくは「君の花嫁姿が見たいんだ」という理由で結婚式をやろうと言ったら? まず断るという選択肢は無い。ゴレイヌさんがやりたいと言ったら何としてでもやるのだ。でも結婚式の招待状を書いている時に「私呼べる友達とか家族いないからゴレイヌさんの知り合いに送る招待状書くの手伝うわ☆」とか言うの? 私。参列者が新婦の方だけがら空きという悪夢の結婚式を開くの? …………寒気がした。

 

 

 こ、こんな恐怖は初めてだ……! 今までクソガキ共にどんな嫌がらせをされようと怒りこそすれ恐怖など抱かなかったこの私が、今では全身の血が抜けるような寒気と恐怖に身を震わせている!! そんな結婚式になったら、私はなんと言われてもいいけどゴレイヌさんが「友達の一人も居ないお嫁さんとか人間性に問題のある人なんじゃ?」とか思われて恥をかいてしまう! そんなことあってなるものか!!

 

 

(せ、せめて……! せめて友人とまではいかなくても、義理でもいいから結婚式に来てくれる相手を作ろう!)

 

 

 と、とりあえず次の試験は孤島でのサバイバルだったはず。そこでさっさと自分の得点集めて主人公組の誰かを発見し、サポートに回り好感度の回復を図ろう。あれだな、とりあえず食料とか集めてあげたりしたらいいかな。物で釣ろうという発想がまず貧困なコミュ力が露呈するようで辛いけど、でも悪手では無い……はず!

 とにかくどんなに媚びへつらおうと、彼らとの友好度をあげよう。胸を張って結婚式に呼べるまともな人間性と言ったら主人公組なら間違いないだろう!! むしろ申し分ない!!

 

 

 

 

 

 私はそう決意を新たにすると、きりきりと痛む胃を抑えつつ四次試験会場であるゼビル島に行く船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 ちなみに四次試験は狩る者と狩られる者。

 私のターゲットは301番だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島に到着しタワー攻略順に受験者が島の森に姿を消していく中、私の意識は顔面鋲だらけの男に向けられていた。

 

 男の名はギタラクル。しかしその本名は暗殺一家ゾルディックの名を冠するキルアの兄イルミ=ゾルディックである。漫画内ではたしかスナイパーらしき人間が彼を狙っていたはずだが、まあそこはクジだ。いくらでも変動はあるだろう。

 

 

 私の前世の記憶は曖昧である。

 というか、人の記憶など時間の経過だけでもいくらでも薄まるのだ。特にHUNTER×HUNTERという漫画は話が進むごとに情報量が増え中身が濃くなるため、その内容を逐一覚えていろという方が無理な話だろう。

 その中でハンター試験の内容を覚えていただけでも幸いだ。そのおかげで面倒ではあるが、ここまで残った受験者のプレートナンバーは彼らがクジを引いてプレートを隠す前に把握できたのだから。

 

 

 しかしだからといって、馬鹿正直にターゲットのプレートを狙う必要は無いのだ。特に念能力者相手に戦って体力を消耗させるなど馬鹿らしい。鋲男に意識を向けていたのはただの確認に過ぎなかった。

 実は一次試験の時は腹の立つピエロをこの試験中にでも叩き潰せないかと思っていたが、今やそんな労力も惜しい。そんなことにかまかけるより、今の私にはもっと重要な目的があるのだ。

 

 

 

 そう、私にはこの四次試験で結婚式の参列者をゲットするという目標が出来たのだ!

 

 

 

 これは単純に闘うこと以上に私にとって難易度の高い試練である。プレートなんて適当に見つけた受験者3人から狩ればいい。

 幸い過去の忌々しい経験から引きこもりの割にはサバイバルは得意だし、接近さえすれば相手が何処に隠れていようが円を使って発見できる。だからこの試験は私にとって合格自体は非常に容易なものだ。

 だからさっさと得点を集めてゴンさん、キルア、クラピカ、レオリオの誰かのもとへおもむき偶然を装って協力して好感度を上げる事に腐心しなければ! ピエロだの鋲男だのどうでもいいわ!!

 

 幸いこの試験の期間は一週間。時間はトリックタワーの時以上にあるし、うまくしたら一人一人接することが出来る。仲良しの輪が出来ていなければ私だってきっと会話することが出来る!! そこに全てを賭けるしかない!! ……なんだ、そう考えたら俄然やる気が出てきた。そうだよ、一対一ならきっと私だって緊張せずに話せるさ。怖がることなど無い。

 

 私は徐々に湧いてきた闘志にぐっと拳を握ると、一番最後にゼビル島に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 …………挑戦の一週間の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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