ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla52,愛してるのサインはダイレクト

 一週間の時を経て、ようやく来たるレイザー戦。

 

 

 私たちの十五人の仲間の内訳は、私、ゴレイヌさん、ゴンさん、キルアさん、ヒソカ、クルーガー先輩、ツェズゲラ、ツェズゲラの仲間のケスー、バリー、ロドリオット、その他数合わせの五名。

 港町ソウフラビに同行(アカンパニー)で到着した私たちは、灯台へと向かった。

 

「この一週間、あらゆるシミュレーションをし練習を重ねた。ゲンスルー組の事も考えると、絶対負けるわけにはいかないな」

 

 ツェズゲラは流石ベテランハンターの風格というか、この中でも年長の方なだけあって貫禄がある。彼の言葉で全員の気が引き締まった。ちなみにクルーガー先輩は御年と容姿を隠されているので、今のところはベテランとか年長にはカウントしないでおく。

 

 

 

 

 そして私はさりげなくゴレイヌさんの斜め後ろの至近距離ポジションを確保しつつ、これからの事を考えていた。

 

 私が知る知識通りに事が進むなら、レイザーたちとの戦いは途中からレイザーとその念獣……本来のレイザーと十四人の悪魔との戦いへと移行する。種目はドッジボールだ。

 当然、私はそこに参加する気でいる。ゴレイヌさんと狭いフィールドでスポーツの清い爽やかな汗を流しつつドッジボールなんて最高でしょ! ゴレイヌさんの活躍も至近距離で見られるし、きっとスポーツを通して二人の絆も深まるはず! そのために……レイザーを引っ張り出すためには、偽十四人の悪魔を数人打倒する必要があるのだ。当然数合わせの雑魚にその役目が務まるはずもなく、ツェズゲラ組のバリー、ケスー、ロドリオットには頑張ってもらわねばならない。

 彼らをドッジボールまで温存しておくことが出来ないのは残念だが、そのおかげでゴレイヌさんのダブルゴリラの能力が見れるわけだし! うん、問題無いわ!

 

 そのため、私は時が来るまでじっと待つことにした。

 

「あ、あの! ゴレイヌさん喉乾きませんか? 冷たいレモンティーがあるので、よければ、その、どうぞ……!」

 

 当然ゴレイヌさんにさりげない良妻アピールをしながらな!

 ちなみにふわっふわのタオルもたくさん持ってきた! スポーツだから汗かくし! あとで野球部のマネージャーのごとく彼に渡すのだ!

 

「あ、ああ。ありがとう。もらおうか」

「はい! どうぞ! 小腹がすいたら軽食も用意してあるので、是非! ゴレイヌさんの好きな具で用意してありますからね!」

「俺にも貰えるか?」

「あ、はい。どうぞー」

(((((((((((((温度差)))))))))))))

 

 たった今ボクシングの試合を終えたバリーが水分を求めてきたので、ゴレイヌさんの次に紙コップに注いだ冷たく冷やしたレモンティー(注いだ後レモンのはちみつ漬けを浮かべるという我ながらなかなかの気遣いっぷりである)を渡してやる。おう、ご苦労だったな。

 それにしても一瞬、レイザー方面含めた周りからの視線を感じたような……気のせいか。

 

 

 

 

 

 そして話は進み、ついにターニングポイントだ。

 

 何勝かした後、レイザーの指示に反発したデブがタブーを破り、この場所……グリードアイランドが現実にあるということをばらしかけたため、レイザーによって殺された。でもってそいつの種目だった相撲分の勝敗が、キルアさんの機転によって数合わせの雑魚の一人の白星としてカウントされる。これで現在四勝だ。

 そこでついにレイザーが動き、八人ずつで勝負するドッジボールが提案される。もし他の仲間が負けようと、この種目でレイザーが勝てば向こうの八勝……レイザー一人で帳尻を合わせる計算だ。向こうのメンバーは当然、レイザーと奴の念獣七匹。

 

 途中ゴンさんが仲間を殺したレイザーに怒り、その流れで殺された男が犯罪者であり……このグリードアイランドが現実にある場所だということが判明した。でもってゴンさんが「現実ならここにジンもいるのか」という質問をレイザーに投げかけ、奴にゴンがジンの息子だと知れると……瞬間あふれ出すレイザーの凄まじいオーラ。

 

 

 

「お前が来たら手加減するな……と言われてるぜ。お前の親父にな」

 

 

 

 他の者が慄く中、圧倒されながらも嬉しそうに笑ったゴンさんの笑顔が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 で、そんなレイザーのオーラを見せつけられたら数合わせの雑魚共は怖気づくわけで。八人メンバーが必要なところ、戦力になるのは私を含めて七人。雑魚共が「俺はごめんだ!」とぬかしたため、あと一人が足りない。

 

 

 

 だけどここで輝くのがゴレイヌさんの能力なわけですよ!!

 

 

 

「俺が二人分になる。そっちもやってることだ。文句ないだろ?」

 

 そう言ってゴリラの念獣を一匹出現させるゴレイヌさん。ゴレイヌさん、能力の初お披露目である!

 

 きゃああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!! ゴレイヌさんゴレイヌさんゴレイヌさん!! 痺れるクールなセリフにさりげなく凄い能力を出すところがもう最高すぎて……! ああ、素敵……! これが、これがゴレイヌさんの……!

 

「ゴレイヌさんかっこひい……」

「ちょっとあんた、よだれよだれ!」

 

 おっと、見惚れ過ぎてよだれが出ていたらしいこれは恥かしい! クルーガー先輩に指摘していただいたおかげでゴレイヌさんに見られる前にぬぐうことができた。セーフ!

 

 

 

 ………………うん? でも何か違和感が……。

 

 

 

 あれ、ゴリラが黒いの一匹だけ? あれ、白いのがいない!? あ! そうだよ私が居るから足りない人数が一人だけじゃん!? ちょ、何で気づかなかったし私! え、馬鹿なの? 馬鹿だった! え、え、どうしよう。そうなるとあれ、ってことはゴレイヌさんと入れ替わる方の白い賢人(ホワイトゴレイヌ)が不在って事で……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、私はゴレイヌさんに投げられたボールとの間に入って即外野へ行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイザーとのドッジボール戦。それぞれ外野にゴレイヌの念獣である黒いゴリラと、レイザーサイドはno1の念獣を置いて始まった。

 

 最初にボールを持ったのはゴレイヌであり、彼は見事に最初の念獣一匹を仕留める。続いて二匹目も仕留めたのはゴレイヌだ。

 その美しくも力強いフォームに何処からか黄色い歓声があがったが、慣れているのかそれについては誰も動揺を見せない。対するレイザーも一瞬声の出所に視線を向けたものの、すぐに試合に集中した。もともとにこやかな表情がデフォルトのレイザーの顔が何とな~く微妙そうに歪んだのはきっと気のせいだろう。対するゴレイヌ達はそう思うことにした。

 

 

 そして、ゴレイヌが三球目のボールを投げた時だった。

 

 

 片手でそれを受け止めたレイザー。そしてそのままレイザーがボールを投げ、ゴレイヌの眼前に迫る。その凄まじい速さと、込められた膨大なオーラ……ゴレイヌの背が粟立った。

 

 そのボールが投げられてからの瞬きするほどのわずかな間は、ゴレイヌに少し前の事を想起させた。それすなわち、エミリアとヒソカと合流した時……エミリアが投げたヒソカという弾丸から受けたプレッシャーである。

 あの時は、その弾丸たるヒソカが自ら回避行動をとったことと、互いに堅で防御していたからこそ大事には至らなかった。他の意味では大事というか酷いトラウマが出来たが、己の鼻が折れただけなら小事と言っていいだろうとゴレイヌは考える。……それほどの、威力だったのだ。

 

 ゴレイヌは眼前に迫ったヒソカを見た瞬間、確かに己の"死"をイメージした。

 

 状況はあの時と酷似している。眼前に迫る"死"の象徴、あの時はどちらも具現化していなかったが、現在もまた具現化していない……自身との位置を入れ替える事が出来る白い賢人(ホワイトゴレイヌ)。刹那の間、なぜメンバー補充のために具現化したのが黒い賢人(ブラックゴレイヌ)だったのかとゴレイヌを後悔の念が襲う。白い賢人(ホワイトゴレイヌ)と違い、黒い賢人(ブラックゴレイヌ)は他者との位置を入れ替える能力だ。今使ったところで、ゴレイヌがこの凶球から逃れることは出来ない。

 

(強……! 速……、避……無理! 受け止める無事で!? 出来る!?)

 

 

 

 

 否

 

 死

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴレイヌは死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴレイヌさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 しかしレイザーの凶球がゴレイヌに届く事は無く、その間に割って入った自身の名を呼んだ者の顔面に吸い込まれた。その瞬間、とてもボールと人の肉とがぶつかったとは思えないほどの音が響き自身の上を人一人の影が通過する。

 

「! エミリア!」

 

 死のイメージから解き放たれたゴレイヌは、その影がここ一週間「ゴレイヌさんゴレイヌさん」とひな鳥のように後をついて回ってきた女性であると瞬時に理解した。それほどここ一週間で、耳に馴染んでしまった声なのだ。

 

 

 

 

 最初は控えめに、次第にこちらの邪魔にならない程度ながら頻繁に……ゴレイヌの名を呼び、瞳に宿る好意を隠すことなく一心に向けていた相手。

 エミリア=フローレンは、出会ってから一週間……自分の持ちうる限りの力でもってゴレイヌに尽くしてきた。

 

 最初はゴレイヌも戸惑った。何しろ彼女とは初対面で、そんな相手に多大な好意を向けられる覚えはないからだ。

 

 しかし最初の出会いの後、あまりにも申し訳なさそうに謝る姿が哀れで……好意を向けてきつつも、どこか「嫌われないだろうか」という感情を多分に含んでいる緊張した面持ちはゴレイヌに同情心を抱かせた。そのため最初はさりげなく距離を置いていたのが、次第に距離は近くなり……恋愛感情を抱くのは無理だと思いながらも、心からゴレイヌを慕っているであろう様子に微笑ましさを覚えた。それに慎重に距離をはかりつつも、ゴレイヌがどうしたら喜ぶのか必死に考えている様は健気だった。

 

 料理や洗濯などのお礼を言うと、彼女は本当に嬉しそうに笑う。

 ゴレイヌはだんだんと彼女に対し女性というよりも、例えるなら従姉妹あたりの年の離れた子供が慕って来るのを見ているような……そんな気持ちを抱くようになった。

 

 

 

 

 

 

 そして彼女を不憫に思ってか、エミリアの知り合いらしいゴン、キルア、ヒソカがそれぞれ別に彼女についてゴレイヌに話しかけてきた。

 

 

 

「エミリアさん、ゴレイヌさんのことが本当に好きなんだ。ここ一年くらいで、すごく女の子っぽくなったんだよ? 俺、女の人って好きな人のためにこんなに変われるんだなってビックリした。……奥さんがいるならしょうがないけど、出来るだけ優しくしてあげてほしい。エミリアさんのためには、それは逆に残酷かもしれないけど……。でも、お願い。ちょっとだけでいいんだ。レイザーとの戦いが終わったら俺が説得するから」

 

 と真摯にお願いしてきたのはゴン。

 

 

「アイツ本当に馬鹿だけどさ、あんたを想う気持ちは本物だぜ。ま、知らない相手にそんな感情一方的に向けられてもあんた困るだろうけど。でも嫁うんぬんは嘘だろ? ちょっとでいいからさ……あいつにチャンスくれてやってよ。あいつ馬鹿だし腕っぷしはともかく他はスゲー下手くそってか不器用なのに、あんたのために料理とか家事とかも全部出来るようになったんだぜ。美味かったろ? あいつの料理。みんな、全部、あんたのためだけだ。……重いけどな」

 

 とぶっきらぼうながら頼んできたのはキルア。

 

 

「彼女乱暴だけど、可愛い所もあるんだよ♥ そんな子にあれだけ一途に想われるのは羨ましいね♦ …………そういうわけで、どうだい? 僕もちょっと訳ありで君とエミリアには一緒になってもらえると嬉しいんだよね♠」

 

 と、ことあるごとに刷り込むように何度もエミリアを勧めてきたヒソカ。

 

 

 

 最後の人物からは何やら私情が多分に感じられたが、前者二人は心の底から自分たちの友達を心配して言っているようだった。それでエミリアという女性の人柄もおのずと分かるというものだ。…………色々と問題も多そうだが。

 

 

 とにかく、ゴレイヌの中でエミリアに対する印象は「関わりたくない相手」から「恋愛対象には出来ないが、多少好ましい類の人間」へと回復していた。この件が終わったら、妻が居るという嘘をついたことは謝ってから正式にお断りしようと思う程度には、エミリアの恋心をゴレイヌなりに受け止められるようになったのだ。

 少なくとも嘘という不誠実な手段で断る相手としてはふさわしく無いと、そう思ったのである。

 

 

 

 そのエミリアが、たった今ゴレイヌが死をも覚悟した一撃をゴレイヌのためだけにその身に受けた。

 

 

 

 高く宙を舞い、錐揉みしながら床へと落ちていったエミリア。ズダンっと、およそ人が倒れた時にしてはいけない類の凄まじい音が会場を揺らす。

 ゴレイヌは半ば彼女の頭部が無くなっていることを覚悟しつつ、すぐにエミリアへと駆け寄った。しかし幸いなことに、彼女の頭と胴体は繋がっている。そして顔は片面が酷く腫れていたが、無事に原型を保っていた。首も変な方向に曲がっていたりはしない。

 その頑丈さに一瞬戦慄しつつも、ゴレイヌは出来るだけ慎重にエミリアを動かし落ちた時の奇妙な体勢から整える。そして意識の有無を確認するため彼女の名を呼んだ。

 

 

「エミリア、おいエミリア! 聞こえるか!?」

「ちょ、今すごい音したけど! その子無事!? 生きてる!?」

「エミリアさん!」

「おいエミリアおま、馬鹿! 動けたならゴレイヌを押して自分ごと避ければよかっただろ!? なに真正面から盾になってんだ馬鹿!」

「あれを受けて生きているのを凄いと言えばいいのか、なんというか……」

「審判、ちょっとタイムで♠」

 

 ゴレイヌに次いで他のメンバーもエミリアの容態を窺う。そんな中、どんな時も公平に審判を行うレイザーの念獣が声を上げた。

 

『エミリア選手アウト! 外野へ移動ですが……意識はありますか?』

「馬鹿野郎! あれだけの攻撃を受けて意識があるわけ……」

「ゴレイヌ……さん?」

「!?」

 

 審判に怒鳴ったゴレイヌであったが、か細く聞こえた声にばっと首を回して下を見る。するとエミリアがかすかに意識を取り戻していた。

 

「怪我は……無いですか……」

「あ、ああ! 君が助けてくれたからな。それより大丈夫……ではないだろうが、何処か変に痛めたところは無いか? 首は無事か?」

「心配……して、くれたんですか……?」

 

 ゴレイヌの無事を確認したエミリアはほっとしたように息を吐き出すと、次いで自分の心配をしてくれたゴレイヌに心底幸せそうな表情を浮かべる。顔半分は酷い有様なので、一見不気味だが。

 しかし体を張って助けてくれた相手だ。ゴレイヌは一瞬だけ怯みつつも、彼の態度は真摯だった。

 

「あたりまえだ!」

「そっか……ふふっ、嬉しい……」

 

 顔半分は腫れ、鼻血も出ている。乙女というにはあまりにもな惨状であったが、エミリアは満足そうだった。そして絞り出すように、万感の想いをたった一言に込める。

 

 

 

 

 

「愛してます、ゴレイヌさん」

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、エミリアはがくっと気を失った。

 

 

 

「エミリアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、この空気どうすればいいと思う?」

「俺に聞くな」

 

 

 エミリアが気を失った一方……。ボールを持ったまま、レイザーはひどく感情が読みにくい笑顔のポーカーフェイスのまま、一番冷静そうなツェズゲラに問いかけていた

 

 

 

 

 

 

 

 

【レイザーと十四人の悪魔ドッジボール戦:エミリア=フローレン気絶及び外野へ】

 

 




ゴレイヌは みょう な くうき に のまれて いる !!



やっとこさ告白。長かった……。
サブタイは主にノリ成分。ブレーキランプ踏んだり花火振り回してハート描いたりなんてサインなど無かった。

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