ある日突然聖杯戦争に   作:満足な愚者

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初めましてKA改め満足な愚者と申します。

色々あって作者匿名投稿をやめようと思います。

今までご不便おかけして申し訳ないです。作者リンクに飛べるようにしますのでこれからもよろしくお願いします。




第二話

ジャンヌダルクという少女の事を思い返すたびに俺はある言葉を直ぐに思い浮かべる。それは「強い」という二文字だ。勿論生前の彼女はただのか弱い少女だった。腕力でも脚力でも俺の方が遥かに強かった。勉学でも確かに彼女は聡明だったが、何分勉学を教えたのが俺であり、それに加え俺が教鞭をとった期間も数えるほどの年数だったため、まだまだ俺の方が知識があった。勿論それは生前の彼女の話であり、死後の彼女、所謂サーヴァントとなった彼女には腕力でも頭脳でも叶わないだろうが、生前の彼女相手であれば喧嘩であろうと知能勝負であろうと負ける気はしない。今ではもう確かめようのないことではあるが、そのことは間違いなかっただろう。

 

確かに容姿の方は常人離れした物があったが、それはあくまでも容姿の話であり、強いと言う言葉は当てはまらない。しかし、生前の彼女を思い出すとき俺は“強い”という二文字を脳内に思い浮かべる。

 

――ジャンヌダルクは強かった。

 

今は昔、「人は皆堕落する」と唱えた作家がいた。彼曰く生きている以上人は皆堕ちるということらしい。祖国のために戦った若者は闇市に堕ち、夫を失った女は新しい恋に堕ちる。堕ちるという事は生きることであり、それこそが日本に残された唯一の道であり、人間を救う手段はただ堕ちることだと彼は説いた。

 

――人である以上、義士も聖女も堕落する。

 

もうすでに皆も知っていることだと思うが、俺も一回堕ちていた。嫌なことから逃げた。酒に逃げた、現実に逃げた。その結果無事に大学を留年することになった。でも俺はそれだけだった。堕ちきる事は出来なかった。どこまでも中途半端だった。

 

しかし、彼女は違った。ジャンヌダルクという少女は違った。例の作家が書いた通り、聖女であったはずの彼女も堕ちた。怒りの炎を身に纏い、憎悪と悪意に真っ黒に染まり、全くの別の存在に生まれ変わった。そう彼女は見事に堕ちきったのだ。

 

かの作家は最後にこう書いている。

 

――人間は堕ちきることは出来ない。堕ちぬくためには“弱すぎる”

 

人間は弱い。知っての通り俺も弱い。だからこそ堕ちきることが出来なかった。堕落はしても堕落しきることは無理だった。しかし、彼女は違った。

 

――――ジャンヌダルクはジャンヌダルク・オルタナティブへと堕ちきった。

 

だからこそ、ジャンヌダルクという少女を思い浮かべる時俺はまず「強い」という二文字を思い浮かべる。

 

――人間では弱すぎて堕ちることが叶わない。この言葉が本当ならば……。

 

堕ちきれないところを堕ちきった彼女はまさしく“英雄”であり、どこまでも“聖女”なのだろう……。

 

そして、俺は彼女の似た人間を一人知っている。自分の信念を曲げず、この腐った世の中で正しく生きようとする人間を一人知っている。彼はまさに義士だろう。「正義の味方になりたい」そう真っ直ぐな視線ではっきりと口に出来る人間が義士でないはずがない。

 

――衛宮士郎。

 

聖女が堕ちきるとオルタナティブという新しい人格が出来た。彼がもし堕ちることがあれば……。

 

――義士が堕ちるとどうなるのだろうか……?

 

衛宮士郎。彼は英雄足りえるか、否か? 

 

一月の寒空の下で出た疑問は雪の様に何時の間にか消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曇天が覆う空は昼間だと言うのに光が差さず、どこか薄暗い印象を与えた。寒空の下足を進める。やはり一月も末の冬真っ盛り、吐いた息は白く、まだ日も高いと言うのにコートに入れた手が悴み始めていた。

 

――くっそ、やっぱり手袋をしてくれば良かった。

 

ポケットの中で指を握ったり伸ばしたりしながら、悪態をつく。昼間だからまだいいだろうと高を括ったのがやはり間違えだったみたいだ。遅すぎる後悔をしながら、黙々と歩く。

 

あの少女と出会いそして昔のことを少しばかり思い出した。死神と手を繋いで暮らしたあの地獄を、あの剣を持った日常を思い出した。それからというもの外を出歩くたびに感じる違和感。戦場と言われても納得する空気の重さ。得体の知れないものがこの街に潜んでいる。それも複数。

 

――少なくてもこの戦争が終わるまでは。

 

白い少女はそう言った。戦争まさしく今の冬木の雰囲気はそれである。まだ火蓋は切られてはいないようだが、一度切られてしまえばどうなるだろうか……。

 

俺は知っている。知識ではなく体験として知っている。

 

サーヴァントと呼ばれる奴らは国をも亡ぼす力をもつ奴らである。街を焼き、城を落とし、全てを焦土に変えてしまえる奴らである。今なら分かる白い少女の隣にいたナニカ、あれは間違いなくサーヴァントかそれに及ぶ力を持つ物だろう。

 

そんな存在が冬木にいる。しかも、複数体。なんともぞっとしない話だ。

 

――しかし、現状どうしようもない、か。

 

少し前ならともかく今の俺はしがないただの一般市民だ。とてもじゃないがサーヴァント級の何かと戦えば速攻でスクラップになるのは目に見えている。剣があれば少しは違うかもしれないとも考えたが、デオンやオルタのことを思い返すと剣があってもただの人間では百人いても彼らに勝てないと思い出して諦める。まぁ、銃刀法やらある時点で入手するのも無理な話だが。

 

――さて、どうするかな……?

 

そんな答えのない問題を考えていると目的地に着いた。冬木市は新都。白い外壁に、緑色のドーム、そしてそのドームの上には十字架。

 

冬木教会。久し振りに訪れたそこは外見からも分かるくらいに寂れた教会だ。

 

扉の鍵はかかってなく、すんなりと開いた。豪華なステンドグラスもなく、飾り気のない教会はどこか寂し気に感じられた。実際昼間だと言うのに生憎のこの曇り空なため日光は少しも差し込まず、薄暗かった。暖房なんて備え付けられていないこの教会の気温は外気温と変わりなく吐いた息は相変わらず白かった。扉が閉まったのを確認すると一歩足を踏み出す。乾いた音が教会内に響く。

 

身廊の最深部、祭壇の前には人がいた。静かに祈りを捧げていた大型の男はゆっくりと振り返り俺を見る。黒い司祭服にシンプルな十字架。右手には開かれた聖書。これだけ見るとただの神父だ。実際に彼はここの神父なのだから間違いない。

 

でも、彼は異常だった。その目を見れば分かる。彼の目は何も映していない。この世に希望を見ようとして、それなのに希望を探していない。俺はこんな目に似た目をした奴を知っている。多く見てきた。伊達に地獄一番街と言われ、明日無き隊と言われた部隊の隊長を務めてきた訳ではない。

 

俺が隊長を務めた隊の殆どの隊員は――罪人、ならず者の寄せ集めであり、この世に絶望と快楽しか見てなかった連中だ。

 

「やぁ、青年。久し振りだね」

 

入って来たのが俺と分かっていたのか、それとも今見て気付いたのかそれは分からないが神父はそう言って気軽に挨拶をしてきた。

 

「お久しぶりです、言峰神父。ご無沙汰しておりました」

 

言峰神父との付き合いはかれこれ結構長い。初めてこの冬木教会を訪れたのはあのフランスに飛ばされた出来事から数日後、ふと新都に教会があったことを思い出してよってみたことに端を発する。今までは教会やら宗教やらに興味がなかったが、あんな体験をすると教会に思い入れも出てくれば、愛着も湧いてくる。

 

初めてここを訪れた時、俺は驚いた。この教会は似ていた。俺があの中世のフランスでよく訪れていた村はずれの寂れた教会によく似ていた。勿論建物が似ている訳でない。あの朽ちかけた教会とこの教会は余りにも違う。大きさも違う作りも違う、素材も違う、色彩も違う。でも、似ていた。雰囲気が本質が、あの教会と似ていた。静寂が支配し、ただ自分だけがこの世にいる感覚。それに似た何かがこの教会にはあった。

 

それ以来、俺は月に一度か二度この教会を訪れるようにしていた。前に来たのは確か十二月の中旬のことだったと思う。なので、この教会に来るのは約一か月半ぶりになる。

 

「ふむ」

 

そこで、神父は言葉を区切ると、ゆっくりと俺を見た。つま先からつむじまでまるで全身を何か観察するように見た後に言葉を続ける。

 

「いつも通り元気そうで何よりだよ」

 

「ええ、元気だけが取り柄みたいなものですので。言峰神父もかわらずにお元気そうで」

 

「ふふふ、私の体もまだまだ頑張っているみたいでね。まぁ、今日はゆっくりしていきたまえ」

 

言峰神父はそう言うとくるりと踵を返して祭壇を向く。そして、目線を聖書に落とした。

 

神父から許可を貰ったので、勝手知ったる他人の家とばかりに、教会の祭壇から二列目の椅子に腰かける。ここが何時もの定位置だった。

 

沈黙が辺りを支配する。言峰神父はいつも通り何も話さない。俺は話すべき言葉を持たない。いつもここに来るとそうだ。言峰神父は何も言わずただ祈りをささげ、俺はただ静寂と沈黙の中、時を過ごす。

 

静かに息を吐く。ここに来たのは勿論、お祈りという訳ではない。前にも話した通り俺は神というものを信仰していない。なので、ここに来るときは大抵ぼーっとしているか、もしくは何かを考える時だ。普段は大抵前者だが、今日は後者だ。

 

ゆっくりと目を閉じて考える。

 

――この街で戦争が起きようとしている。そしてこの街には聖女に似た強さを持つ衛宮士郎という青年がいる。

 

強大な存在が潜む街に、英雄になれるかも知れない素質を持つ青年がいる。なんともまぁ、よく出来た話である。事実は小説より奇なりとは使い古された陳腐な言葉だけれども、本当によくできた話だなとため息を吐きたくなる。

 

もしも。これはもしもの話になるが、衛宮士郎が戦争に参加したとすれば……果たしてその物語はハッピーエンドに終わるのだろうか?

 

結局その答えは出ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ? 今日はもう帰るのか?」

 

美しいものを否が応でも美しくせんと焦るとき美しさはかえってこの度を減ずるように、答えの出ない問題にいやがおでも答えを出そうと焦った時、答えはかえって何も出ない。つまるところ一時間ばかり色々と考えてみたものの答えはさっぱりと出なかった。もともと頭の出来も残念なのだから仕方がないときっぱりと諦め今日のところは引き上げることに決めた。

 

椅子から立ち上がると言峰神父がこちらを振り向きながらそう聞いてきた。

 

「はい。今日のところは帰ろうかと思います。色々とやることも多いので……」

 

「そうか……」

 

「それでは、言峰神父またお会いましょう。多分次は早めに来れると思います」

 

そう言って帰るために足を進める。

 

「ふむ……」

 

コツコツと足音が木霊する。

 

「暫くはここに来るのはよした方がいい」

 

進めていた足が止まった。

 

「ん?」

 

振り返ると相変わらず言峰神父はこちらを見ていた。真っ黒な底なしの闇をした目が俺を射抜く。

 

「いや、何てことない。少しばかりイベントがあってだな。それでこの教会を使うのだよ。なので、少しの間ここを閉鎖するかもしれないだけの話だよ」

 

嘘だ。直ぐにそれは分かった。この教会を訪れた頻度は両手の指じゃあ数えきれないほどあるが、その間一度も他の礼拝者を見たことがなかった。ただの一度きりもだ。そんな教会でイベント? バレバレの嘘にもほどがある。それにイベントならば教会を閉鎖するわけがない。

 

――あぁ、なるほどそういうことか。

 

ここまで考えて漸く分かった。

 

――この神父もあの戦争に一枚噛んでるわけだ。

 

出会った時から分かっていた。彼はまともな人間ではないと。歩き方も筋肉の付き方も一般人とは大きく違う。間違いなく彼は昔戦いにその身を置いていた戦士だ。そんな体つきに加えて全てを見透かしたようでそれでいて濁った泥のような目だ。確かに彼に似た目の人間は多く知っている。しかし、彼ほど深い闇を抱えた人間は知らない。彼がどんな人間なのか、それを知るつもりはない。わざわざパンドラの箱を開けに行く人間がどこにいるというのだろうか。

 

しかし、ここで気になることもある。

 

――何故言峰神父はこんなバレバレの嘘を……。

 

こんな嘘子供でも分かる。ではなぜ、そんなバレバレの嘘を俺に話したのか……あぁ、嫌な予感がする。

 

「そうですか、それは残念ですね。じゃあ、暫く間を空けてまた来ますね」

 

こういう話は早々に終わらすに限る。相手の底が見えないのだ。腹の探り合いで勝てる相手ではない。三十六計逃げるに如かず。なのでこういう時は逃げるのが正解だ。焦りが出ない様にゆっくりと喋り、くるりと踵を返して再び歩き出す。

 

「ときに青年。君に叶えたい望みはあるかね?」

 

その問いかけに足が止まった。

 

――願い。願いねぇ……。

 

「願いですか……。そうですね、それは既に叶いました」

 

――彼女は最後満足して逝ってくれた。

 

その言葉を後に教会を後にした。背後からは神父の笑い声がただ聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

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