「ここがたけのこ鎮守府かぁ~。……思ってたより普通だなぁ。」
赤レンガで出来た厳重そうな門の前で、純朴そうな、悪く言えば、田舎から出てきたばかりで垢抜けない中学生ぐらいの女の子はそう呟いた。
彼女の名前は吹雪。吹雪型駆逐艦の一番艦として大本営で建造された艦娘である。
艦娘とは、突如として現れ、人類に牙を剥いた謎の生命体・深海棲艦と闘う存在である。両者ともその足で海を走り、艤装と呼ばれる兵装を用い闘う不思議な存在であり、艦娘は人類の希望として日夜、深海棲艦と闘っているのだ。
「大本営で辞令を貰った時は、なにこの名前!?変なとこじゃないよね!?って思ったけど、この感じなら大丈夫そうだな」
さて、吹雪はこの度、ここ【たけのこ鎮守府】に新たに配属され、今日は初日であった。
「よし!今日から頑張るぞ!……ってぇ、当日は迎えに来てくる人がいるから、門の前で待ってるように言われたけどちょっと来るの早すぎたかなぁ……。」
時刻は8時。吹雪が事前に伝えられていた時間より一時間ほど早かった。
この真面目さこそが、吹雪の良いところでもあるが裏を返せば融通が利かないところでもある。
「まぁ、遅れるより全然いいか!初日から遅刻なんてしたらそれこそ大問題だよね!」
「そうですね。ですが、あまり早いのもどうかと思いますよ?」
「どぉうわぁぁぁぁっ!?」
門を背にして一人、ポジティブに一人言を漏らしていた吹雪は背後からかけられた声に驚き、乙女があげてはならない声をあげてしまった。
振り返ると門を挟んで向こう側に、黒い長髪でヘアバンドをし、眼鏡をかけた吹雪より年上であろう女の子が立っていた。
「すみません。驚かせるつもりは無かったのですが……えっと、あなたが本日配属予定の駆逐艦の吹雪さんで間違いないでしょうか?」
「……あっ、はい!!本日より、このたけのこ鎮守府配属されました吹雪型一番艦、吹雪です!よろしくお願いします!!」
「はい、よろしくお願いします。私はこの鎮守府で主に事務系統を担当しています大淀型軽巡洋艦一番艦の大淀です。こちらこそ、これからよろしくお願いしますね。……さて、少し早いですが提督の元にご案内します。右側にある勝手口を開けますので、こちら側に入って私についてきてください。」
大淀はそう言って、勝手口の鍵を開け吹雪を鎮守府内招き入れた。吹雪も、大淀の言ったことに従い、鍵を閉め、こちらですと、歩き始めた大淀の後ろをついていく。
何はともあれ、無事に合流できた事に安堵した吹雪であった。
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「吹雪さんは、大本営から何かここの鎮守府について聞いていますか?」
「いえ……特になにも聞いていませんけども……」
歩き始めてしばらくすると、大淀がそう問いかけてきた。
「そうですか……」
「えっと……何か……あるんですか?」
ため息混じりにそう呟く大淀に少し、いや多いに不安になった吹雪がそう聞くのも無理はないだろう。
(もしかして……ここって、噂に聞くブラック鎮守府だったりするのかなぁ……?)
吹雪が心配しているブラック鎮守府とは、艦娘を文字通り兵器として扱い、過酷な作戦を取る鎮守府である。
ブラック鎮守府に配属された艦娘はボロボロにされるまで酷使され、最期は物のように沈んでいく。
もしここがそうだとしたら吹雪はのっけからハズレを引かされたとしても過言ではない。
「……そうね、始めに言っておいた方が良いわよね。吹雪さん。」
「は、はいっ!!」
不安を隠しきれない吹雪に、大淀はそう呟くと【たけのこ鎮守府】について説明をし始めた。
「吹雪さんは、艦娘建造についてどれくらい知っているかしら?」
「えっと、基本知識は一通り……」
「そう、わかったわ。じゃあ、艦娘を建造したときごく稀に、問題がある艦娘が建造されるのは知っている?」
「えっ!?えっと……すみません。そこまでは……」
「あぁ、ごめんね。これは本当にごく稀にしか起きない事例だから、知らなくて当然なのよ。」
「はぁ……そうなんですか……。それで、その話が一体……」
大淀の発言にいまいち要領が掴めない吹雪がそう返すと、大淀は顔を曇らせながら、
「……ここ、たけのこ鎮守府は、そうやって建造された問題のある艦娘たちを集めた鎮守府なのよ……」
と、そう言った。
(えぇっ!?問題がある艦娘を集めた鎮守府ってどういうこと!?もしかして私、自分が気づいてないってだけで問題があったってことなの!?)
そんな話を聞かされた吹雪はもう大変である。なぜ、そんな鎮守府に私が配属されたのか、私のどこに問題があったのか。
そんなことを考え、頭の中がグルグルしていた。
「……さん!!吹雪さん!!」
「はっ!?……す、すみません!!考え事をしていて……」
「……私こそすみません。急に変な話をしてしまって……。不安になる気持ちもわかります。ですが、大本営からは吹雪さんには何も問題は無いと事前に伝えられているので大丈夫ですよ。」
大淀のその言葉に吹雪は胸を撫で下ろした。大淀の不安になる気持ちもわかると云う発言を受け取るなら、大淀も問題がある艦娘ではないということだろう。
同時になぜ、自分がここに配属になったのか益々疑問が募るのであったのだが。
「それはともかく、つきました。ここがたけのこ鎮守府の執務棟です。」
大淀にそう言われ顔をあげると、レンガ造りの大きな建物が目に入った。
実は、門をくぐったさっきから見えていたのではあったが近づいてみるとやはり大きな建物であった。
「ここ執務棟には、提督の執務室の他、資料室や応接室、出撃準備室等があります。……あとで案内しますね。今は先に、提督のいる執務室に行きましょう。」
大淀はそう言うと建物のドアをくぐり、玄関を抜け階段を昇り始めた。吹雪もそれについていく。
階段を昇り三階につき、廊下を進んでいくと執務室とかかれた案内板が見えた。
「ここが執務室です。ここで提督や“私たち”が普段は鎮守府運営の業務をしています。」
大淀はドアの前に立つと、執務室について説明を始めた。何故か、私たちというところを強調していたが。
「それで今から提督に会いますが、準備は大丈夫ですか?」
大淀にそう問われ、吹雪は改めて自分の服装を確認。何も乱れがないことを確かめると大淀に向き直った。
「大丈夫です!」
「わかりました。それでは、執務室に入りますね。……お願いだから変なことしてないでね。……提督。大淀です。本日配属予定の艦娘をお連れしました。入りますね?」
大淀がノックをした後、そう言って執務室の扉を開けた。途中、ボソッと何かを言っていた気がするのだが、上手く聞き取れなかった。
(ここから、私の鎮守府生活が始まるんだ!!不安だけど、頑張るぞ!!)
緊張と不安と期待と決意を持って執務室に入った吹雪の目に飛び込んで来たものは――――
「失礼しまー」
「サンマァ~サンマァ~サンマァ~」キンキン
「うわぁぁぁぁぁっ!?何やってんだこの人たち!?」
頭にサンマをくくりつけ、両手に持ったサンマを頭上に掲げ打ち付けてながら、火の周りをグルグル回っている謎の人物たちであった。
ここに、後の世に特型ツッコミ艦と呼ばれる吹雪の激闘(ツッコミ)の日々が始まったのである。合掌。
吹雪のツッコミは、某ツッコミの女王ビュティさんのツッコミ顔を想像していただければ幸いです。