SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 お気に入り百件突破、本当にありがとうございます!
 ユージーン戦直後からです。互いの正体に気づいた白と黒の話から始まります。どうぞ。


#21 再会

 無事にユージーン将軍を倒し、サラマンダーが飛び去ったことを確認するとその場の雰囲気は幾分か和んだ。

 

「はぁ~、あんたってホント無茶苦茶だわ」

「ん?」

「何で、二刀流なんてものをあんなに簡単に扱えるのよ……。それにレントさんだって!」

「――はは、無茶苦茶とはよく言われます。でも、僕は()()()()で使うのは初めてでしたからね。余り上手くはなかったでしょう?」

「……それ、本気で言ってます?」

 

 すると、置いてけぼりにされていた領主達が事情の説明を求めてきた。

 

「すまんが、状況を説明してくれると助かる。こちらは《白い悪魔》殿がやって来てから振り回され続けていてな」

「……その《白い悪魔》ってのは何だ?」

「僕の異名だよ? キ・リ・ト・君?」

「…………」

「ちょっと話をしよっか?」

「…………うん」

 

 例のキリトと思われるスプリガンに鎌をかけたらやはりそうだったようだ。僕はキリトを、話の聞こえないところまで引き摺っていった。

 

******

 

「へぇ、なるほどね。それで君がこの世界にいるのか」

「……ああ、お前の言う通りだったよ。この世界に、アスナはいる」

「はぁ……。昔からこういう予想だけは当たるんだからなぁ」

「はは、それにしても驚いたよ。お前が《白い悪魔》なんて呼ばれてるなんて」

「……SAOではPKはご法度だったからね。死なないゲームってことで羽目を外してるんだ」

「――大丈夫……なのか?」

「ふふ、そう心配してくれなくても大丈夫だよ。これは僕なりのリハビリみたいなものだし。それにこの世界じゃポリゴンになって人が砕けることはないしね」

「そう……か」

「さて、キリト君。君も()()()()かい?」

「ああ、お前のその格好を見るとそっちもみたいだな」

「うん、ナーブギアでログインしたらこうなった。一回しかログインしてないけどデータの加筆が行われちゃったみたいで。この世界で『白』なのは僕だけなんだ。ある意味面白いからいいけど」

「……俺は外見は影響されなかったみたいで良かったよ」

「だね。リアルと同じ顔でこんな活動してるなんて、いつ晒されるか分からなくて怖いよ」

「ははは、それでも止めないんだろ?」

「もちろん。やっと名前が売れ始めたところなんだから。止めてたまるか」

「ははは」

 

 あの不敵な姿を見て、もしかしてと思った。ユージーンと戦い始めた姿を見て、まさかと思った。二刀流を使い始めて、やっぱりと思った。剣技(ソードスキル)を使って、確信に変わった。

 キリトもALOに来ていたのだ。アスナ(最愛の人)を探すために。

 その確認ができてサクヤ達の元へ戻ると、あちらもどうやら話がついたようだった。

 

「サクヤ……」

「――礼を言うよ、リーファ。君が救援に来てくれたのはとても嬉しい」

「あたしは何もしていないもの。お礼ならキリト君にどうぞ」

「ああ、そうだ。そういえば、君は一体……?」

「ネェ、君、スプリガンとウンディーネの大使って、……本当なの?」

 

 問い質されたキリトは、腰に手を当てて胸を張って言った。

 

「もちろん、大嘘だ。ブラフ、はったり、ネゴシエーション」

「「なッ」」

「――無茶な男だな。あの状況であんな大法螺を吹くとは……」

「手札がショボいときは取りあえずかけ金をレイズする主義なんだ」

 

 よくも言ったものだ。看破されれば――されたようなものだが――、済し崩しに一体多数に持ち込んで蹴散らすつもりだっただろうに。それにどう考えてもキリトはショボい手札ではない。

 などと思っている内に、キリトは二人の領主からのアプローチ――サクヤの豊満な胸部とアリシャの褐色の肌を押しつけられている――を受けていた。それを止めようとしたリーファもキリトに何か特別な思いがあるようだった。

―――ったく、この天然タラシがっ!

 このゲームを始めたのも恋人のためだというのに、行く先々で人を惚れさせる何かがキリトにはある。大きく溜め息を吐けば、それが聞こえたキリトは飛び上がるようにして領主から距離を取った。

 そろそろ出立の時間だ。改めて、二人の領主と別れの挨拶を交わす。

 

「リーファ、キリト君。今日は助けてくれて本当に助かったよ。何かお礼がしたいのだが……」

「いや、そんな」

 

 相変わらずお礼をさせない人間だ、キリトは。それを見かねてリーファが口を挟む。

 

「ねえ、サクヤ、アリシャさん。この同盟って世界樹攻略のためなんでしょ?」

「ああ、まあ、究極的にはな」

「その攻略に私達も同行させて欲しいの。それも可能な限り早く」

 

 そう来たか。確かに世界樹の突破は大軍でないと難しいと考えるだろう――普通は。

 

「――同行は構わない。というかこちらから頼みたいところだよ。しかし、なぜそんなに急いでいる」

「……」

 

 リーファは無言でキリトを見やる。

 

「俺が、この世界に来たのは世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれないある人に会うために」

「妖精王オベイロンのことか?」

「いや、違う……と思う。……リアルで連絡が取れないんだけど、どうしても、会わなきゃいけないんだ」

「でも攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ~。とても、一日や二日じゃぁ」

 

 キリトの顔が翳る。

 

「そうか、そうだよな……。俺も取りあえず樹の根元まで行くのが今の目的だから。後は、何とかするよ」

 

 表情は笑ってはいたが哀しそうで、何より悔しそうだった。

 

「あ、それとこれ」

 

 言いながら、キリトは袋を取り出してアリシャに渡す。

 

「資金の足しにしてくれよ」

 

 受け取ったアリシャが落としそうになり、慌てて中を覗き、更に慌てた。

 

「さ、サクヤちゃん! 見て!」

「なっ、十万ユルドミスリル貨がこんなに!? ――いいのか? 一等地にちょっとした城が建つぞ」

「構わない。俺にはもう必要ないからな」

「これだけあれば、かなり目標金額に近づけると思うヨ~」

「大至急装備を揃えて、準備ができたら連絡させてもらう」

「よろしく頼む」

 

 どこか良い感じの雰囲気になっている。それまで静観していただけだった僕も、行動を起こした。

 アイテムストレージから全財産の三分の一ほどを袋に詰め、同じようにサクヤに渡した。

 

「これも使ってください。領主を殺しかけた謝罪と思っていただければ」

「ああ、ありがとう。ってこんな大金! ……どうやって集めたかは聞かないでおこう」

「ははは、それでもまだ半分以上残っていますから、安心して使いきってください」

 

 その言葉を聞いてアリシャとサクヤは戦慄したようだが、すぐに気を取り直した。

 

「これだけあれば目標金額などすぐだ。かなり早く連絡ができそうだよ」

「ええ、僕もキリト君達とは同じ目的ですから。よろしくお願いしますね」

「ああ。……それにしても、喋り方が普通になったな」

「ああ、あれはロールプレイでしたからね。これからはサクヤさんもレントって呼んでください。PKは続けますが」

「はは、そうさせてもらうよ、レント君。シルフを狙うのを控えてくれればな」

 

 サクヤが片目を瞑る。明言を避けて笑い返せば、ククと喉奥を震わせていた。

 そうしてサクヤ達は蝶の谷を去っていった。

 

******

 

「まったくもう、浮気はダメって言ったです! パパ!」

「うわっ……いきなり」

「領主さん達にくっつかれたときドキドキしてました」

「そ、そりゃ男ならしょうがないんだよ」

 

 リーファがキリトに寄り添って僕を無視した良い雰囲気を作り始めたとき、キリトの胸ポケットから小さな妖精が飛び出した。

 

「ユッ、ユイちゃん!!」

「? ……ニイ?」

 

 かつて知り合い、少しの間だったが兄妹のような関係を築いた少女がそこにはいた。

 肩に乗るほどの大きさが、パアーっと光に包まれたかと思うと、最後に見たときと変わらぬ姿に変わっていた。

 

「また会ったね、ユイちゃん」

「はい! ニイ!」

「高い高いしようか?」

「はい!」

 

 あのときに交わした約束を果たせるときが来たことをこれほど嬉しく思うとは。

 笑いながら二人でじゃれていたら、リーファが怪訝な目をしていることに気がついた。

 

「…………」

「ああ、えっと、ほら、久し振りに会ったからね、ちょっとはしゃいじゃってさ」

「……ぷっ、レントさんってそんな顔もするんですね」

「ああ、レントがそんな顔をするとは思ってもいなかったよ」

 

 キリトまでもが呆れた表情を見せている。

 

「へぇ、いいんだ。キリト君が領主さんに鼻の下伸ばしてたってアスナちゃんに言っちゃっても」

「そ、そんなことより、ほら早くアルンに行かないと! 日が暮れるぞ!」

 

 キリトが下手な誤魔化しで飛び立つが、その言葉も事実ではあるので、リーファと僕は顔を見合わせてから空へと追いかけた。

 

*****

 

「だから僕は言ったんだよ。あんなところに村はないよって」

「し、仕方ないだろ! まさか、モンスターだなんて思わないさ!」

「にしても、ここって最近実装された《ヨツンヘイム》だよね? 最高難度の」

「はい、ここはヨツンヘイムですね。ただ、四箇所ある出口はどこも遠いようです……」

 

 僕らは空を飛んでアルンまで急いでいたのだが、夕方という太陽の力も月の力も弱い、要するに飛ぶのに不適切な時間だったため、たまたま眼下に見えた村で翅休めをすることにしたのだ。

 こんな村地図にもさっき通ったときにもなかったと僕は主張したのだが、若干眠そうな顔つきをしたリーファの方を指で示されると何も言えなかった。

 結論から言えばその村は超巨大モンスターの罠のようなもので、その村にNPCが誰もいないことを不審に思い始めたときに僕らの足場は突如なくなった。地面がのたうち、巨大な蚯蚓のようなモンスターの口の中へと吸い込まれてしまった。

 そして、どこから排出されたのかは考えたくないが、脱出した僕らは広大な地下空間にいた。

 ここが新年にアップデートされたヨツンヘイムだというのはすぐに分かった。邪神級モンスターといわれるモンスターに追いかけられたからだ。

 今は何とか洞窟の中に隠れた状態だ。

 

「それにしてもあんなにデカいモンスターがいるんだな……」

「そりゃあね。それにまだましな方だと思うよ、僕は。即死の可能性もあったわけだし」

「即死!? そんなことがあるのか」

「うん、でも流石に罠ですぅってすっごい主張している奴しかないけどね……」

「今回の村はそれでしょ。マップを見れば明らかなんだから」

「だから、ごめんって」

 

 まあ、過ぎてしまったことは仕方がない。僕はそこでキリトへの嫌味を止め、先のことを堅実に考え始めた。

 

「選択肢はそう多くはないよね。時間が惜しいキリト君達からしたら死に戻りは論外だよね?」

「ああ、ここで死んだらスイルベーンまで戻ることになるからな」

「だとすれば手を拱いているのも駄目か……。早めに解決しないと」

「まあ取りあえずはここらで切り上げて明日、いや今日にでも考えるか」

「それが駄目なんだって」

「どうして?」

「今日の四時には定期メンテナンスがある。そこで最後のセーブ地点に戻っちゃうんだよ。僕の場合はアルンだけど、君らはスイルベーンだろ? だからこそあれが本当の村だったら良かったんだけど……」

「なら、どうする?」

「……方法はない、かな」

「どうしてだ?」

「ヨツンヘイムには東西南北の四箇所から入ってくることができるんだけど、ユイちゃん、ここからその四箇所まで最短で何時までに着ける?」

「……全速で、かつモンスターにも遭遇しないと仮定すれば二時間ですかね」

「なら駄目だ。そこから四時までじゃアルンには間に合わない」

「くそっ、どうしようもないのか!」

「……キリト君。またスイルベーンからやり直そう?」

「――ああ」

 

 そうなのだ。結局はシルフ領に戻る選択になってしまう。サクヤが準備してくれる軍勢と一緒に世界樹まで来ればいいのである。

 

「そもそもヨツンヘイムにたった三人じゃすぐに殺されちゃうって」

「うん。僕もね、一体なら何とかなるけど、二人を守りながらだと無理だなぁ」

「……え? 邪神級モンスターってあのユージーン将軍ですら一対一だと瞬殺されるんですよ?」

「彼と僕じゃ戦闘スタイルが違うからね。意外と避けやすいんだよ、あの攻撃」

「――――貴方b、本当に人間ですか?」

「もちろん」

 

******

 

~side:リーファ~

 何を言っているんだ、こいつ、みたいな目で見られたがそれはおかしい。馬鹿げているのはあちらだ。一体に三パーティ以上は必須と言われているモンスターなのだ、邪神級モンスターは。その三パーティだって歴戦の猛者達である。

―――そう言えばこの人って一人でレイド一つ壊滅させたことあるんだっけ……。

 いつか聞いた《白い悪魔》の噂話を思い出して戦慄する。当時は何を馬鹿なと思っていたが、恐らくあれは事実だったのだろう。

 感嘆というよりもはや呆れに近い声を出そうとしたとき、いきなり地面が揺れた。

 

「何っ!?」

「ユイ!」

「洞窟の外で邪神級モンスター同士が戦っているようです!」

「取りあえず、外へ! 潰されたら堪らない!」

 

 レントさんの声に従ってあたし達は洞窟を出たが、その場の光景に揃って目を剥いた。特撮かと思うほどの迫力で二体のモンスターが戦っていたのだ。

 モンスターとモンスターが戦うなど、テイムされているか、プレイヤーに操られているかのどちらかしか本来はありえないが、二体のモンスターにそんな様子は見られない。

 戦っているのは三つの顔と四本の腕を持つ巨人と、象のような鼻と耳を持ち、胴体が饅頭のように平らで二十本以上のかぎ爪のついた触手の脚を生やしたクラゲのような邪神だった。

 戦況は四腕巨人が押しているようだった。四腕巨人のかぎ爪に引っかかれて象クラゲのHPはどんどん減るが、象クラゲが触手をぶつけても巨人に大したダメージは入らない。象クラゲはHPの減り具合以上に弱っているようだった。

 その光景を見て、あたしは自分の衝動を言葉にした。

 

「――キリト君、あたし助けたい!」

「……どっちを?」

「象クラゲの方! 弱い者いじめなんて許せないよ! あんなに可愛いのに!」

「……リーファちゃんのセンスは疑っておくとして、どうやって助ける?」

 

 以外にも実利主義そうなレントさんが乗ってきた。あたしのセンスは間違っていない……と思う。あのフォルムはどう見ても可愛いだろう。

 

「えぇ、あれを助けるのか?」

「「もちろん!」」

「……何でレントまで乗り気なんだよ」

「だって女の子の頼みだよ? 断るなんて選択肢あるのかい?」

「はぁ、分かったよ」

 

 諦めたように溜息を吐いたキリト君の顔つきが変わる。必死にこの状況を打破するための案を出そうとしている姿は、無茶な提案をして申し訳なくなってくる。

 ふとキリト君が何かに気づいたような表情を見せ、ユイちゃんに問いかけた。

 

「ユイ、この周囲に何かあるか?」

「……はい! 北に約二百メートルの位置に氷結した湖があります!」

「レント!」

「――ああ、そういうこと。じゃあ囮は任せるよ。僕はもしもの場合に割るから」

「ああ、頼んだ」

 

 キリト君とレントさんはツーカーの仲とでも言うのだろうか。あたしが理解できていないのを尻目に役割分担のようなものをしてしまった。

 

「じゃあリーファちゃんは、僕と一緒に」

「あ、は、はい!」

 

 レントさんが駆け出す。慌てて後を追うが、キリト君はついて来ない。

―――はあ、もう分かんないからいいや!

 あたしは理解することを放棄した。




 また変なところで切ってしまってすみません。続きは明後日に。
 はい、主人公に設定追加です。

・大金持ち。
・邪神と一対一で勝てる。

 ……わぁー設定過多だなー。誰だろうこんな設定にしたのー(棒)。
 すみません。私です。
 ちなみに、スプリガン領主襲撃が一レイド潰しですね。以降も何度かしていますが……。

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