SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 気がつけばアニメと同じ話数である。SAO編もそうでしたね。さてさて、二十三話です。どうぞ。


#23 突破

「キリト君達はもう来てるかなぁ」

 

 僕は今朝の約束通り、世界樹の根元に来ていた。しかし二人の姿はどこにもない。

 

「……キリト君、一時間くらい前に来てるって言ってたのにな。反対側か?」

 

 世界樹の根元と大雑把に言っても、そもそもが途轍もないサイズの大樹だ。正面の門にいないだけで他のところにいるのかもしれない。

 世界樹の周りを四分の一ほど進んだところで、二人を見つけた。

 

 

 

 

 空中で抱き合った二人を。

 

 

 

 

―――…………。

 思考が一瞬どころでなく停止したが、キリトのアスナに対する想いはそう簡単には覆らないだろうから、リーファが……まあ、キリトの被害者の一人ということなのだろう。

 近くに落ちていた黒い大剣と日本刀のような直剣を拾って、抱き合ったまま降りてきた二人のもとに向かった。

 

「ええっとお……、ど、どうなってるの?」

 

 緑色のおかっぱ頭の少年が、降りてくる二人を待っていた。その少年は展開について行けず、戸惑った表情をしている。

 

「世界樹を攻略するのよ。あたしと、この人と、アンタと、レントさんの四人で」

「こんにちは、リーファちゃん。二人と彼は知り合いみたいだけど、誰なんだい、彼?」

 

 リーファ達は声をかけるまで僕に気づいていなかったようで驚いた表情を見せたが、キリトがすぐに反応を返してきた。

 

「お、レントか。彼はレコン、リーファがシルフ領にいたときに仲の良かった友達だ」

「へぇ、よろしくね、レコン君。お久し振り」

「は、はい。って、お久し振り? どこかで会いましたっけ?」

「ん? 『以後お見知りおきを』って言ったのに覚えてないのかい? それとも、」

「――この喋り方でないと思い出せませんか? 随意飛行はできるようになりましたか?」

「あ、あぁ、あああ!! 《白い悪魔》!!!」

「うん、プレイヤーネームはレント。これからよろしくね」

「は、はいぃ」

「何、アンタ、レントさんと知り合いだったの?」

「いや、リーファ。今のやり取り見たら分かるだろ……」

「え?」

「レコンはレントにPKされたことがあるんじゃないか?」

「うん、昔レコン君を()ったことがあるんだ。あのときはスティック飛行で楽だったんだけど」

「えと、その、まだ随意飛行はできません……」

「ああ、うん、まあ分かってたよ」

「ええ!? 分かってたって……、そんなのありますかぁ?」

 

 顔を見ただけでPKした相手を思い出せることは少ないのだが、レコンはなぜだか記憶に残っていた。

 かつての敵――脅威と言った方が正しいか――と仲間ということを受け入れたレコンは、ようやくもう一つの問題点に気がついた。

 

「って! 世界樹攻略ぅ!?」

「うん、僕達二人の目標だからね、手伝ってもらうよ」

 

 レコンがあわあわと動揺しているのが見えていないのか、無視しているのか、彼を気にせずにキリトはユイを呼ぶ。

 

「ユイ、さっきのガーディアンとの戦闘で何か分かったことはあるか?」

「ステータス的にはそれほどの強さではありませんが、出現数が多すぎます。あれでは攻略不可能な難易度に設定されているとしか……」

「総体では絶対無敵の巨大ボスと同じ、ってことか」

「でもパパとニイのスキル熟練度があれば、瞬間的な突破は可能かもしれません」

「ああ」

 

 ……キリトはやはり突っ込んでしまったようだ。そして無残に散ったらしい。

 攻略に後一歩まで辿り着いた僕には、二人に言わなければならないことがある。

 

「キリト君、よく聞いてほしい」

「どうした、レント?」

「僕はあのガーディアンをこの間突破した」

「「ええ!?」」

「うん、正確には昨日なんだけどね。……確かに、僕らのスキル熟練度を前提に冷静に戦えば、突破は可能だと思う。だけど、」

「だけど……?」

「キーアイテムが足りないんだ」

「え?」

「あそこのガーディアンを抜けた先には十字に切れ目が入っている扉があるんだけど、昨日時点ではそこは開く素振りを見せなかった。アイテムなのかクエストフラグなのかは分からないけど、それによって封じられていることは間違いない。アスナちゃん達を攫っているなら、最悪システムで封じられている可能性すらある」

「くそっ! ……それでも、俺は行く」

「…………まあ、キリト君がそう言うなら、僕も最大限手伝わせてもらうよ」

「ああ、俺はアスナのためにやれることは全部やりたいんだ。たとえそれが無駄な足掻きだろうとっ……!」

 

 キリトの決意は固い。無駄足であっても愛する人のために全力を尽くそうとする姿は、とても彼らしかった。

 そこで、黙って話を聞いていたユイが声を上げた。

 

「パパっ! システムで封じられていても、さっきのカードなら」

「カード……? あれか!」

「はい。コードを転写すれば私でも使えるかもしれません」

「ああ、頼んだぞ、ユイ!」

「はい! ママのためですからね!」

 

 事情を知らない僕が説明を求める。それによると、世界樹の上からアスナのプレイヤーIDを感知したのだとか。ユイが警告モードで叫ぶと、それに応えるようにカードのようなものが空から落ちてきたらしい。

 そのアイテムは確かにGM側のアイテム――世界観と全くマッチしていない近未来的なアイテム――だった。

 

「なるほど……。――ごめん、ちょっと待ってて。一回落ちる」

「え? どうかしたか?」

「うん、ちょっとした野暮用を思い出して。十分もかからないから待っててね」

 

 僕は皆にそう告げ、止めさせる間を作らずにログアウトした。

 

******

 

「はい、菊岡さん。今日で突破できる可能性が出ましたので、お伝えしておきます。そちら側は頼みましたよ。それからデータの方も」

『もちろん、君には迷惑をかけるからね。そのくらいは当然やらせてもらうさ』

「それでは」

 

 通話を切り、アミュスフィアに大型の記録媒体を取りつけた。

 アミュスフィアは記録媒体を接続することで内部のデータを外部に保管することができる。この機能のお陰でゲームのスクリーンショット等をリアルに持ってこれるのだ。思えば、そのような外部出力が不可能な時点でナーヴギアはゲームハードとして異常だったのかもしれない。

 しかし僕が今接続したこれは通常の記録媒体ではない。本来であれば規定範囲のデータしか取り込めないところを、内部データの全てを自由に写し取れるようになるウイルスのような機能を持った特注品だ。

 これは菊岡の指示によるものだ。レクトと正面から矛を交えたくない菊岡は、ALOにSAO未帰還者がいるという推測を持ち込んだ僕自身に調査を依頼してきたのだ。要するにスパイである。

 内部で行われていることのデータさえ確保できれば、確証を持ってレクトと相対することができる。そう説明されたが、僕の中には確かな不信感があった。

 そもそもALOに未帰還者が拉致されているとして、そこで何が起きているかは誰も知らないはずなのだ。それなのに菊岡はデータがあるという前提で僕に依頼した。

 確かに、SAOからプレイヤーを拐かした動機を考えたとき、身代金も要求されておらず、目覚めぬ三百人に共通点がほとんどないことから、非合法な人体実験の実験体にされている可能性は高い。茅場晶彦のように閉じ込めることが目的や愉快犯の可能性もあるが、それにしては三百人というのは帯に短し襷に長しの中途半端な人数だ。それならデータは存在するに違いない。

 菊岡の態度からは、まるでその非合法な実験の結果を手に入れるために敢えて泳がせていたような気配を感じる。しかし仮にそうであったとしても、一切の社会的権力を持たない僕らではレクトに未帰還者を解放させることは困難であり、菊岡及び仮想課の力を借りる他ない。実験データも、いくら胡散臭いとはいえ下手な者よりは国に渡る方が余程マシだろう。

 菊岡への連絡、記憶媒体の接続を終えてもう一度ALOにログインする。想定より時間を食ってしまったが、記録は八分四十九秒。無事に十分以内に戻れたようだ。

 

「三人とも待たせてごめんね。戻ってきたよ」

「ああ、今は作戦を立ててたところだ。基本的に俺とレントが突撃、二人には回復とかの援護をしてもらおうと思っているんだが、何か意見はあるか?」

「特には。あ、そうだキリト君。世界樹突破のコツを教えてあげよう」

「何だ?」

「まず、戦闘は極力しない。時間の無駄だからね。避ける躱すを第一に。それから引きつけて同士討ちを誘発させるのが第二。戦闘をしなきゃいけなくなっても、剣はできるだけ使わない。振る時間が無駄だから。拳とか脚で攻撃と、反動による加速を同時に行っていく。足、じゃなくて翅を止めたら群がられるから禁物。剣の投擲は、よく見て躱す。ここでも翅を止めないこと。移動先を予測して投げてくるほどAIは賢くないから、弓矢は引きつけて急加速で無駄撃ちさせる。分かった?」

「あ、ああ……」

 

 畳みかけた僕にキリトは目を白黒させる。あのガーディアンは無限供給だろうからまともに戦うのは損にしかならない。

 

「うーん、それだとあたし達は援護が難しいかもね」

 

 リーファが頬を掻きながら呟いた。

 

「どうしたんだい、リーファちゃん?」

「あたしとレコンで援護をするわけだけど、そんな超高速で動かれたら回復魔法すら当たるか……」

「――んー。じゃあ、言い方は悪いけど生餌にならない?」

「えっ」

「少しでもガーディアンのヘイトを稼いでくれればそれでいいよ。君らを囮にすればこっちに来る数は減るからね」

 

 瞬間、キリトの雰囲気が変わった。僕の発言を咀嚼して吟味してうろついていた目はまっすぐこちらを見つめる。

 

「駄目だ。それなら援護が間に合うくらいのギリギリのスピードで動けば良いだろう」

 

 反射的に反論しようとした喉が震え、声が出るのが数瞬遅れた。

 

「…………、はぁ、分かったよ。でもキリト君、その分突破は難しくなるよ?」

「それなら、無理矢理にでも突破するだけだ」

「ははは、流石キリト君。変わらないね」

「ああ、もちろん」

 

 当初の予定からは外れてしまうが仕方ないだろう。キリトにもトラウマのようなものがあるのだろう――クリスマスのこととか――。それを無理強いするのは僕の望むところではないし、きっとどんな方法を使っても今のキリトを納得させることはできない。

 

「行くぞ!」

 

 キリトの声と共に、僕ら四人は世界樹に飛び込んだ。

 

******

 

 キリトと共に飛び立ち、世界樹の中をトップスピードで昇っていく。キリトはガーディアンを倒しながら飛ぶ予定だったそうだが、まだポップ数が少ない内にできるだけ高く昇っておきたい。そのためには戦うのは非合理でしかない。

 ステンドグラス風の壁から、次から次へとガーディアンが湧き出てくる。

―――敵の数が、前よりも多い……?

 昨日突撃したときよりも敵の壁が分厚い。攻撃にも連携が感じられるようになっている。

 より昇ると、上方の敵の壁から落ちるように特攻を仕かけてくるガーディアンが現れた。昨日見たどのガーディアンの最高スピードよりも速い速度で。

 

「キリト君、難易度が上がってる!」

「だとしても、行くしかないッ!!」

 

 その通り、ここまで来てしまった以上もう戻る道はない。既にリーファ達との間にはガーディアンが入り込み分断されてしまっている。何よりこの特攻が厄介だ。直線の動きだから落ち着いていれば問題はないのだが、周囲のガーディアンにも気を配らなければいけないのは負担だ。背中を見せれば特攻兵に串刺しにされるだろう。

 

「くそッ!!!」

 

 キリトと背中合わせで戦っているため、気にしなければならないのは向いている方向の敵のみ。しかしリーファ達の援護が届くように速度を落としているため、攻撃を捌かなければならなくなっている。本末転倒だ。

 スーッと体を光が包み込み、目減りしていたHPバーがマックスになる。恐らくキリトのHPが僕よりも減っていたから回復魔法をかけたのだろう。キリトはそもそも圧倒的な攻撃力で押して、やられる前にやれを実践するタイプだ。パリィも使うが、回避は僕ほど得意ではない。僕よりも優れた反応速度を持つから大丈夫かと思ったが、やはり二ヶ月のブランクは大きいようだ。

 そう言っている僕もかなりダメージを受けてしまっている。ALOにはSAOと同じ管理システム、カーディナルが搭載されているはずだ。SAOでは最初に施されたバランス調整で絶妙な調整がされていた。予想の話になるが、もしかすると昨日僕が一人で突破してしまったことで、管理システムがこのクエストの難易度を調整してしまったのかもしれない。数人では突破不可能に近い難易度へ。

 突撃を仕かけては押し返されながら、僅かずつ進んでいく。

 そんな中、一つの光が現れた。

 光は膨らんでいく。

―――まさか……自爆魔法!?

 

チュドォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!

 

 膨大なデスペナルティを課せられるその技は、デメリットに見合う威力を発揮した。敵の壁を、あれだけ厚く重なっていた敵の壁をぶち抜いたのだ。

 

「「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 自爆魔法は闇属性の魔法だ。恐らく使用したのはリーファではなく、レコンだ。彼は特別キリトを手伝いたいと思っていたわけでもなく、ただ成り行きで巻き込まれただけだ。そんな彼が決死の覚悟で突破口を開いてくれた。僕らが全力でそれに応じないわけにはいかない!

 しかし、ガーディアンも負けてはいない。壁になっていなかったガーディアンは全てこちらを防ぐ盾となる。あの白い鎧が擦れる音を立てながら、盾は塊となり、壁となった。

 壁に押し返され体勢が崩れる。その隙に数多のガーディアンに串刺しにされる。

 痛みの代わりに不快感を与えてくるシステムを罵りながら距離を取って空を見上げると、少年が開いた突破口は既に無限リポップに塞がれていた。

 

「くそがッ!!!」

 

 騒いだところで意味はない。叫んでも道は開かれない。切り開くなら剣で、翅で、この身を以て。

 全身に力を込めたとき、

 

 

 

 

ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 雄叫びが聞こえた。竜の声が聞こえた。膨大な魔法の詠唱が聞こえた。

 

「シルフと、ケットシー!?」

「すまない、遅くなった!」

「ごめんネ~! 装備を整えるのに時間がかかっちゃってサ~」

 

 二人の領主がこちらを見て微笑む。

 

騎竜(ドラグーン)隊、ファイアブレスっ()ぇぇぇぇ!!!!」

「シルフ隊、フェンリルストームっ放て!!!」

 

 ガーディアン達が爆炎に呑まれる。

 

「総員、突撃!!!」

「あの二人に続けぇぇ!!」

 

 シルフと、騎竜に乗ったケットシーが戦線に加わる。

 二種族が合わせて決めた大技により、再び壁に穴が開く。

 

「お兄ちゃんッ!!!!」

 

 リーファが持っていた長剣をキリトに投げ渡す。

 

「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 キリトは自分の大剣とその長剣を合わせ、ひたすらに前へ、上へと突き進む。

 

「っおおおらあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 僕もそれに続く。腹から空気を絞り出しながら、火事場の馬鹿力を引き出す。キリトに降りかかる敵を払うように、キリトが進めるようにと後方から援護する。

 

 抜けたっ!!

 

 敵の壁をキリトは突破した。僕もそれに続いて突破する。足元で穴が塞がるのが見えた。

 

「ユイッ!!」

「はい、パパ!」

 

 絶対不可侵の扉へと到達したキリトは、信頼する妖精の名を呼ぶ。

 ユイはしばらくペタペタと扉を触った後、顔を上げて言った。

 

「やはりこの扉はシステム管理者権限でロックされています! パパ、あのカードを!」

「ああ!」

 

 ユイがカードに込められていたコードを転写する。その作業の間、僕は未だにポップを続けるガーディアンを抑え込んでいた。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 重厚な音を立てながら扉が四つに分かれ開いていく。

 

「転送されます! パパ、ニイ、手をっ!」

 

 ユイの手を掴むと、SAOで何度も味わった転移する前の浮遊感を感じた。

 僕らは襲いかかってくるガーディアンを間近に見ながら、転送された。




 ここまで来たらアニメと同じにしてやる!
 ……後二話で終わるかなぁ。
 菊岡さんはまた暗躍していますね。それではまた明後日!
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