SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 前回のあとがきに引き続いて、SAOの映画面白かったですよね。迫力が凄かったです。どうすれば戦闘シーンって輝くんでしょうか。第三話です。どうぞ。


#3 協力

 攻略組とは、トッププレイヤーで構成された、SAO完全制覇に向けて攻略を続ける集団である。

 現在は七千人ほどのプレイヤーがアインクラッドに生存しているが、攻略組は約百五十人しかいない。その中でもボス戦における戦力と数えられているのはその半分程度だ。そもそも攻略に耐え得る実力者――初見の敵、ギミックへの対応力も問われる――というのはそう多くはおらず、加えて戦闘力が十分でも精神力が伴わなければ死亡率の高いボス戦には参加できないためだ。

 決して非攻略組を非難するわけではないが、もう少し人員がいれば攻略が早くなるのに、というのはどこかの《攻略の鬼》のセリフだ。今よりも攻略スピードが上がってしまえば、攻略組でさえ推奨レベルに追いつけなくなり逆に脱落者が増える恐れもあるが――現在でも大分ギリギリである――。

 攻略組は少ないながらも一枚岩ではなく、いくつかの集団に分裂している。最強ギルドであり五十人程度で構成される《血盟騎士団(Knights of the Blood)》、通称《KoB》。約七十人で《KoB》よりも構成員が多いがレアアイテム収集に力を注いでいる《聖龍連合》。残りは少人数ギルドとギルドにも満たないパーティだ。

 攻略組への合流を果たした僕は、攻略組に所属するプレイヤーの情報をできるだけ掻き集めていた。《鼠》と呼ばれる情報屋《アルゴ》に協力を仰ぎ、戦闘スタイルから最近の購買履歴まで様々な情報を揃えたのだ。

 さながらストーカーのようだが、目的はストーキングではない。僕の目的は()()だ。集めた情報から各人に必要なもの、必要になりそうなものを先んじて推測し、無償で配布するつもりだ。

 同時にSAOにおけるゲーム内通貨の《コル》も配布する。自分ではほとんど使わないため貯まる一方であり、配布用アイテムの調達に使ってなお余った分は直接配るしかない。

 攻略組プレイヤーは実力に比例してプライドも高く、同じ立場の僕からでは受け取ってもらえない可能性があるが、アルゴを通して各ギルド・パーティのリーダーに差出人を知らせずにまとめて渡す予定だ。

 配布用のアイテムを鼻歌混じりに用意していると、アルゴが心底不思議そうな顔で声を発した。

 

「レン坊はどうしてそんなことをするんダ?」

 

 レン坊とは僕のことだ。幼女で通りそうな小柄な外見に反し、アルゴは事あるごとに年上のように振舞う。僕のアバターは険のなさから幼く見えるとはいえ、明らかにアルゴよりは年長そうなアバターであるのに、だ。実年齢で言えば年齢制限の関係から僕より年下のプレイヤーはほぼいないためアルゴも年上なのだろうが、もしそれが分かっての発言だとすればかなりの見識眼である。

 

「そんなこと、とは?」

 

 彼女が言いたいことは分かっているが、ある種のお約束のように一度はぐらかす。

 

「ハァ~、分かっててそういう態度はオネーサン感心しないんだナ。――他の攻略組に、オレっちを通してまでする胡散臭い()()のことダヨ」

 

 特に隠し立てする理由も必要もない。正直な答えを口にした。

 

「僕のSAOでの目的は一人でも多くのプレイヤーを生きてクリアさせることであり、その対象には攻略組だって入ります。それに彼らの強化は一刻も早いクリアに繋がるんですから、自分に要らないものなら配って歩きたくもなります」

「……ふ~ン。気に入られるための朝貢だったらもう手伝わないところだったヨ。マ、気に入っタ。これからも色々と手伝ってあげちゃおうじゃないカ。さしあたっては、今回の輸送費半額だヨ」

「無料にはしてくれないんですね」

「ポリシーに反するからそれは無理だナ。にゃハハハハ」

 

 上機嫌にアルゴは笑った。攻略が第四十三層まで進んだ頃の話だ。

 

******

 

~第四十四層~

 アインクラッドの各層にはそれぞれ別のコンセプトが存在する。クエストの種類や登場するモンスターに、ボス。もちろんフィールドの造形にも共通する層の特色だ。

 第四十四層のそれは()()といったところだろうか。フィールドは枯れ木や枯草しかない赤茶けた荒野であり、登場モンスターは一貫して鎌を武器として扱うモンスターばかり。悪魔やスケルトンなど、形は違えど地獄に所属するようなモンスターばかりだ。

 NPCの情報によればボスは死神で、十一、二十二、三十三層と同じように特殊な武器を装備しているそうだ。ゾロ目の層のボスは特殊武器持ちなのが通例なのだとか。

 十一層では鉄鎖、二十二層ではモーニングスター、三十三層では三節棍だったそうで、四十四層は大鎌というのが大方の予想だ――大鎌は一応通常武器にも存在するが――。

 四十四という数字にかけて『死』をモチーフにするとは、茅場晶彦は中々ユーモアに溢れた人間だったようだ。

 層の最奥である迷宮区は各層ごとに様々な構造だが、基本的には十階建てだ。現在は最後の第十階に僕が到達したところである。

 僕の攻略スピードはソロにもかかわらず他のグループよりも頭一つ抜けている。二週間に一度ほど下層に降りてアイテム補給などはしているが、それ以外は基本的に寝る間も惜しんで攻略に励んでいるからだろう。拠点に帰ればその分往復の時間が余計にかかるから、ダンジョン籠りの習性も攻略に大きなアドバンテージを与えている。

 ちなみに下層に降りたときは最近騒がしくなってきたオレンジプレイヤー――好んで犯罪行為を繰り返しオレンジになった連中のことで、既にPK(殺人)被害も出ている――を掃討したりもしている。

 一人でも多く救うためにはそういった犯罪者の撲滅も求められると僕は考えている。犯罪者は徒党を組んで――犯罪者(オレンジ)ギルドと呼ばれている――被害を拡大させる。先日もそういった集団を一つ潰してきたのだが、彼らを根絶するには至っていない。彼らとの戦いの中で僕が《オレンジキラー》と呼ばれるのはもう少し後の話だ。

 迷宮区の雑魚敵を斬り払いながら角を抜けると、宝箱部屋を発見した。普通の攻略組なら攻略を最優先としているため、何が起こるか分からないトラップの可能性のある宝箱は無視する。レアアイテム大好きの《聖龍連合》でさえも、トラップ解除の可能なシーフ構成のプレイヤーがいない限り開けることはしない。

 だが僕――もちろんシーフ構成ではない――は迷いなく宝箱を開けた。途端にけたたましくアラーム音が鳴り、入ってきた背後の扉がガタンと音を立てて閉まった。トラップだ。

 この類のトラップは何種類かあり、モンスターのポップ数に上限があるか無限か、ドアが完全に閉じるか特定の操作をすれば開くか、といった点で区別される。中には結晶系アイテムが使えないような空間になるものもあるらしい。これは《転移結晶》による緊急脱出が使えないためとても危険性の高いトラップだ。ストレージ容量と使用タイミングの問題から僕はそもそも結晶自体持っていないため関係ないが。

 今回のトラップはドアの形状から見て中のプレイヤーかモンスターが全滅しない限り開かないタイプで、モンスターも無限湧きと思われる湧き具合だ。このピリピリした雰囲気は結晶無効化空間なのかもしれない――結晶を使用しない限り正確には分からないが――。三拍子揃った最悪のタイプのトラップだ。並みのパーティなら攻略組でも全滅まっしぐらである。

 しかし僕は慌てない。冷静に観察し、モンスターが幸いこの層のモンスター――悪い場合は三層上のモンスターの場合もある――で、湧き間隔にも猶予があることを見極める。

―――これならまだ余裕はあるね。

 無限湧きの場合は、一刻も早くトラップの起動キーである宝箱を壊すのが一般的な対処法だ。そうすることでモンスターのポップが止まる。

 しかし別の対処法があることは意外と知られていない。トラップの起動キーの宝箱であっても、ミミックでもない限りアイテム――大抵はレアアイテム――は入っている。それを取得することでも無限湧きは停止するのだ。

 既に三十体以上が出現したモンスター達を五秒に六体のペースで倒していく――適当なダメージを与えてから、ソードスキルで一掃するのだ――。六秒に五体が湧きスピードであるから、モンスターは徐々にその数を減らしていく。右へ左へ剣を振り抜き、跳ねしゃがみ、殴り蹴る。

 四方八方から迫りくるモンスターを捌き続けてしばらく、ようやくモンスターの一掃ができたところで多少のダメージは許容しつつ宝箱からアイテムを取り出す。無限湧きを止めて最後に残った数体も仕留めれば、トラップ部屋には僕一人が残った。

 一回のトラップでレアアイテム――《聖龍連合》援助用だ――と多量のコルと経験値を手に入れることができるので、生存さえできるならばトラップは効率の良い狩場である。この強引なレベル上げのお陰で、この層のモンスターはクリティカルヒットならば一撃で倒せるようになっている。それがまたトラップからの生存可能性を高めるという好循環だ。

 また、大量のモンスターを一人で相手することは、空間把握上達への近道である。トラップに突貫するようになってからの成長度は目を瞠るほどで、最近は背後の空間把握も熟せるようになってきた。トラップは良い練習場でもあるのだ。

 加えて、実はこの種類のトラップの小部屋は良い安全圏にもなる。小部屋のドアは手動で開けることになるのだが、小部屋内にはトラップ以外では敵がポップしない――これも余り知られていない――ため、トラップクリア後はモンスターから自分を隔離できる空間として利用できる。

―――今日はこのくらいで少し休もうかな。

 僕は小部屋の壁に背を預け、剣を抱えて眠りに就いた。

 

******

 

 流石にボス攻略会議には参加せねばならず、僕は主街区の街に赴いていた。層のコンセプトに合わせてか、主街区のNPCの顔も暗く見える。流石は茅場だ、手が込んでいる。

 会議では簡単な作戦とボスの情報を伝えられた。会議と命名されてはいるが、ボス戦の基本方針自体はギルド内で策定されていて、大きな反対意見がなければそれがそのまま実行される。ボス戦はどうしたって集団戦だ。まとまりのあるグループが音頭を取るのが一番都合が良い。ちなみにボスは骸骨ではなく悪魔型の死神らしい。名前は《ザ・デスリーダー》だそうだ。

―――死の責任者か。いかにもな名前だ。

 ボス戦での役割は《黒の剣士》と二人でパーティを組んでのダメージディーラーとのこと。遠慮なく削り殺すとしよう。

 流れるように辿り着いたボス部屋の前で、アスナが細剣を突き上げた。

 

「それでは、今より第四十四層ボス攻略を始めます! 情報が揃っていると言っても油断が許される敵ではありません! 全員で次に進みましょう!」

「「「おう!!」」」

 

 かけ声と共にボス部屋に飛び込む! すぐに部屋の中央で待ち構えている死神が見えてきた。

 

******

 

~side:キリト~

 今回のボス戦で俺はあの期待の白い新人君とパーティを組んでいる。他の攻略組は集団で固まっているため、扱いが面倒なソロは固めておこうということだろう。丁度装備も似通っているし。ソロでは回復アイテムの持ち込める量に限りがあるせいで回避型になりやすいが、ここまで被るものかと少し疑問に思う。実力はあるようだし文句はないのだが。

 アスナの声に応じてボス部屋に飛び込んだ俺達だが、ボスを目にしたレントが一瞬痙攣するように足を止めた。様子を確認するために顔を覗き込めば、嫌に真剣な顔で話しかけてきた。

 

「キリトさん。その……LA(ラストアタックボーナス)が欲しいんですが、手伝っていただけませんか?」

「え?」

 

 想定外の言葉に一瞬思考が止まった。

―――今言うことか?

 確かに俺達はダメージディーラーでLAを取りやすい立ち位置にはいるが、開戦直後からLAを狙う意欲は褒めるべきか、注意するべきか……。

 

「……別に、構わないが。しっかりやってくれよ」

「ええ、もちろん!」

 

 眩しく笑う顔に毒気が抜かれた。レイドの最前陣がボスと接触したのを見て、慌てて気を引き締め直す。レントもそれきりきちんとボスを見据え、タイミングを計り出した。

 ボスの攻撃をタンクが受けたタイミングでスイッチ。ボスの巨体にソードスキルを叩き込む! 隣のレントに目を遣れば、きちんと遅れずについて来ていた。飛んできた鎌には上手く剣を這わせて逸らす! それから突進系ソードスキル《ソニックリープ》で攻撃しつつ離脱!

 同じ流れを何度か繰り返し、連携に穴がないのを確認したら攻撃をより複雑に! レントはそれにも遅れることなく合わせてくるばかりか、敵の攻撃に対してのフォローまで入れてきた! 思わず口角が上がる。腕は確かに良い。そこから数回タンクとのスイッチを繰り返せば、手軽にHPバーもラスト一本になった。

 

「攻撃の手が多いだけはありますね。ソロとはダメージの入り方が段違いです」

「そりゃそうだろう、伊達に四十層も攻略していないさ。――さ、LA取りに行くんだろ?」

 

 他のプレイヤーが与えるダメージを見計りながら最後の一撃になるように調整する! LA泥棒と呼ばれたのはこういうことができるからなのだが――、

 

「今だ! やれ!!」

 

******

 

~side:レント~

 キリトの協力もあって、僕は無事に死神に最期の一撃を与えることに成功した。ボス部屋には大きく『Congratulations』と書かれたウィンドウが浮かんだ。

 四十層台のボスは比較的弱い部類に入るらしく、五十層への前菜とまで言われているだけあってか、レイドメンバーにも酷く疲れ果てている人はいないようだ。

 

「なあレント、LAなんだったんだ?」

 

 背伸びをしていれば、キリトに尋ねられた。今回の恩人に聞かれれば答えないわけにはいかない。

 

「――心くすぐられるものですよ」

 

 僕は片手剣を装備解除(オミット)し、LAを()()()て見せる。

 

 

 僕の手にはボスが手にしていた大鎌を小型化したものが収まっていた。

 

 

 

「おお! これ、ユニークウェポンじゃないか!? しかも大鎌か! あ、でも武器カテゴリ的に使うのは厳しいか」

「いえ、カテゴリの部分は?になっているんですが、説明文によると最も熟練度が高い武器スキルが適用されるそうです」

 

 正直に言って、かなり格好良い。木の枝をそのまま使ったような少し湾曲した木の柄は掴み易く、その先についている刃は黒地に白い波紋が美しい。身の丈ほどある全長も厨二心にぐっと来る。

 その大鎌を見た周りも感嘆の声を漏らしていた。実際に中学二年生の僕だけの話でなく、ゲーマーなんてのは大なり小なり厨二病を患っているものだ。この大鎌に惹かれないわけがない。まあ武器として扱いづらいのは事実なので、使用者はほぼいないが。

 プロパティを確認してみて一つ気がかりなのは、説明文とフレーバーテキストの後に意味の分からない文字列が続いている部分だ。暗号の類かもしれない。アルゴ辺りならこういうことにも詳しいだろうか。

 とりあえずはキリトに礼を言わねば。次の層に攻略組が向かい始める中、キリトに話しかけた。

 

「キリトさん、手伝っていただきありがとうございます。何かお返しをしたいのですが……」

「あー……、ま、俺がLA取りたいときに手伝ってくれればそれでいいよ」

「そのくらいならいつでも」

 

 キリトには例の援助も受け取ってもらえていない――同じ立場のソロプレイヤーからは何も貰わないさ、だとか。どうやらバレてしまっているようだ――ので、これに託けて何か贈りたかったのだが、無理に押しつけても仕方ないだろう。

 最初の邂逅ではギクシャクしかけたが、僕の攻略組としての活動は無事に続いていた。




 難しいぃ。戦闘シーンとか書けないよぉ。ウワァァァァン!!

――お見苦しいものをお見せしました。

主人公の二つ名
・オレンジキラー NEW

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