SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 きな臭い臭いがしますね、硝煙だけに。
 ……これが言いたかっただけです。若干短め(六千字弱)ですが、どうぞ。


#27 硝煙

 硝煙の香りがする。曠野に僕は立つ。砂塵渦巻くその果てには一体何があるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――何を馬鹿なことを考えているんだか。

 GGOの荒野フィールドに立っていると碌なことを思いつかない。GGOを始めてからそこそこ経ち、僕の実力は上位プレイヤーの仲間入りを果たしている。例の巫山戯た仕様は修正される素振りもなく、一部ではチートではないかと疑われている始末だ。

 そんな僕がなぜこんなところで突っ立っているかと言えば、既に日課のようになった、ある対決のためである。三日おきに起こる、遭遇戦のような全くの別物。時間は大体がこの頃。翌日のことを考えると落ち(ログアウトし)なければいけない時間帯。そのタイミングで僕は荒野にポツンと立ち、あるものを待ち受ける。

 

 

 

ゾワッ!!!

 

 

 

 猛烈な殺気を当てられ背筋に悪寒が走る。これだ。これを待っていたのだ。しかし、まだ足は動かさない。彼――彼女かもしれない――も学習をし、今ではあの殺気を陽動に使ってくるのだ。

 

スサッ

 

ブゥゥゥゥン!!!

 

 砂を踏みにじる音を立てながら大きくサイドステップを踏み、八時の方向から飛んできた弾丸を避ける。弾丸はとんでもない風切り音を立てて耳元を通り過ぎていった。

 これで例の、初日に出会った――顔は合わせていないが――スナイパーとの正面対決が終わる。僕は今日も勝てたことに安堵して笑みを零し、街へと帰った。

 SBCグロッケンはここ最近お祭り騒ぎだが、それも仕方がない。何せ第2回のBoBが開催されるのだから。僕は参加せず偵察に留める気なのでそこまで熱を入れていないが。

 ここ最近非常に混み合っている総督府前を通り、裏路地に入る。初日からずっと変えていなかった装備を、今日やっと更新するのだ。

 ずっと変えていなかったと言っても、少しづつ準備してはいた。今日その全てが揃うというだけである。

 知り合いの鍛冶屋――GGOではガンスミスと呼ぶ――に頼んであった最終調整が終わったそうで、一通り装備を確認してみようというのが今日の目的である。

 寂れた裏通りの、古ぼけた扉を開く。備えつけられている鈴が鳴るが、中から人が出てくる気配はない。仕方がないので――いつものことだが――勝手知ったる人の家、ずんずん入っていく。

 

「レントです。例の物受け取りに来ました」

「――ん? ああ、レントか! よし、こっちに来い!」

 

 カウンターの奥のスタッフスペースに行って声を上げると、すぐに階段の下の方から声があった。この大きさの声で聞こえるならドアの鈴も聞こえていると思うのだが。

 

「頼まれてたのはこれだ! 我ながら良い出来だぞ!」

 

 無駄に声が大きいこの男、腕はかなり信頼できる。頼んでいた物を受け取り、地下二階のスペースを使わせてくれと頼む。快く了承されたので地下二階へと進む。正直に言えば、ああいうタイプの人間は嫌いではないが苦手だ。

 空いたスペース――射撃場のようになっている――に入ると、僕は装備を全解除して新しく準備した戦闘服に着替える。その戦闘服は、簡単に言えば軍服だ。戦闘服には向いていないデザインなのだが、そこは憧れというもの。それにこれはゲーム、実は大して動き易さに違いはない。詰襟の細身の軍服はアメリカ海兵隊のドレスブルーが一番近いだろうか、ボタンが二列だったり、ポケットや装飾が多少省かれていたりする程度の違いだ。いや、一番の違いはカラーリングだろう。僕の戦闘服は真白だった。そう、『白』だ。またしても『白』だ。

―――何だかんだ気に入っちゃったんだよねぇ。

 白状しよう。僕は『白』が好きだ。好きになった。

 しかしGGOでは白は我慢していた。それもそのはず、明るい色には隠密ボーナスに常にマイナスがつくのだ。回避と潜伏が主な防御手段の現状でそれは避けたかった。

 しかしある素材を手に入れて遂に欲望が溢れ出した。その素材は布防具で非常に高い性能を誇るのだが、デメリットで隠密ボーナスが低下する。しかしそのデメリットは色による低下とは重複しないのだ。悟った。『白』にするしかない、と。

 なんて言ってみるが、結局は着てみたかっただけである。着心地を確認したら次の装備の確認に移ろう。

 次は自動拳銃だ。今までは店売りのFNファイブセブンを使用していたが、レア銃に切り替えることにした。それは《SIG SAUER P229》が二丁だ。そう、二丁拳銃。軍服に続いてロマンである。ベルトにホルスターをつけ、左右の腰にP229を仕舞う。この二丁は何度か使ってその癖に慣れ、それから預かってもらっていただけだから試し撃ちも要らない。レアもののこの拳銃を二丁手に入れられたのは本当に幸運だった――PKによる略奪で一丁、もう片方はトレード品だ――。

 その次の装備は調整してもらっていた光剣だ。固有名は《ヨウインK5》。光剣とは、正式名称をフォトンソードと言って光学銃に一応分類される代物だ。ただ有名なSF映画のあれにしか見えないため、フォトンソードと呼ばれることはほとんどない。光学銃ながら、零距離ではほぼ機能しない《対光弾防護フィールド》には仕様上上から殴れる。しかし銃弾を掻い潜って零距離まで近づける人間がいないため使われないのだが。やってもらった調整というのは、本来ボタンを押すだけで一気に光の刃が出てくるところをスライド式のスイッチに変え、スライドしている分だけ刃が出てくるようにしてもらったことだ。これは未だに実戦で使ったことがないが、意外と使えるだろう。ベルトの背中側に横向きに差して収納した。

 それから肩章で白いマントを挟み込む。マントでベルトに差した光剣はすっかり隠れた。裏地が黒いそれは、鏡で見てみたがかなり似合っていた。実はこれにはある機能があるのだがそれはまだ秘密だ。

 白い軍帽を被れば、所々アクセントが入っているが全身が真っ白になる。髪と瞳は既に白くしてあり、オーダーで光剣の柄と二丁のハンドガンも白く塗装してある。

 忘れていたがライフルも装備しなければ。新調したライフル――これもレア銃だ――は《SIG SG550》だ。これも白く塗装してある。軽く構えて、壁際の試し撃ち用の的を狙い撃つ。トリガーを軽くする調整をしてもらったのだが、やはり良い腕をしている、完璧な仕上がりだ。

 仕上げに二丁のハンドガンそれぞれの後ろにコンバットナイフを一本ずつ仕込む。GGOの生産スキル《金属加工》で作成できる刃物はこのサイズが限界だった――大きさよりも重量の点で――。

 軍靴にも鉄板を仕込んであるので――使うことはないだろうが、これもロマンだ――全身が武器のようになっている。

 鏡でフル装備を眺めた僕は装備を逆順に外していった。そして普段着になる。街中をあの格好で歩くのはかなり奇異だ。

 ジーンズに白地の半袖Tシャツ、上から薄い灰色のパーカーを羽織る。特徴的な髪と瞳がフードで隠れて一気に影が薄くなった。都会によくいる人間だ。GGOでは若干目立つ気もするが。

 靴は軍靴のままでベルトにもナイフが差さっているから、街中でも一応武装はしている。安全圏なので意味はないが。

 

「ありがとう、調整は完璧だったよ、今度は整備を頼むと思うからよろしく」

「おう! 気に入ったみたいで何よりだ! いつでも来な!」

 

 そのままカランと鈴の音をさせて店を出る。

―――鉄板入りの軍靴は少し慣れが必要かな。

 足音を立てないで歩くのが意外と難しかったことを頭に入れて、ログアウトした。

 

******

 

「ふぅ、GGOでも装備は完成したって感じかな」

 

 頭からアミュスフィアを取り外しつつ、呟いた。

 時計を見る。スナイパーとの戦いもかなり遅い時間だったが、そこから装備の確認もしたため非常に遅い――むしろ早いか――時間だった。午前四時。家を七時頃に出る予定だから二時間だけ眠ろう。僕はそう思い瞼を下ろした。

 そして午前六時ピッタリに目を開ける。迷宮区に籠らなくなって一年近く経つのに、相変わらずの体内時計だ。少し肌寒い部屋の空気に触れて一気に意識を覚醒させる。

 簡単な朝食を摂って身支度を済ませる。それから家を出た。

 僕はこの春から一人暮らしを始めた。古惚けたアパートの一室を借りている。場所は秋葉原と御茶ノ水の中間位だ。通っている帰還者学校は西東京市にあるので登校には一時間ほどかかってしまうが、他のことには便利な場所なので満足している。

 僕が一人暮らしを始めた理由の一つは帰還者学校だ。西東京市にあるそこに行くには、さいたま市の外れにあって駅からもそこそこ距離がある叔母の家では少し面倒だったのだ。乗り換えを何度かしなければならないとはいえ、駅の近くである今のアパートの方が楽だ。

 理由はもう一つあって、こちらの方が大きいかもしれない。それは養母である叔母の家族構成にある。叔母には夫と、既に社会人になって久しい、エリート街道を真っすぐ走る息子がいる。夫は海外に単身赴任、息子は東北の方に転勤していたため居候の僕と二人暮らしだったのだが、この春に二人とも帰ってきたのだ。一気に四人暮らしである。簡単に言えば、その空気感に耐えられなかったのだ。

 SAOから帰って養子縁組をしたと言っても、所詮は甥っ子と従弟である。居候は居心地が悪かった。家族の時間に水を差したくなかったと言えば聞こえが良いだろうか。何にせよ、僕は社会になれるためにも一人暮らしを始めた。

 御茶ノ水駅から飯田橋まで行き、地下鉄で高田馬場に向かう。西武新宿線に乗り換えて、本来の最寄り駅の二つほど前で降りた。そこからは徒歩で学校に向かう。朝のウォーキングは思考をまとめるのにかなり有効的だ。

 そして学校に近づくに連れ増えていく同じ制服を着た一団に混ざり、校門を抜ける。

 下駄箱で下足を脱ぎ、階段を上って教室へと向かう。同じ年齢の生徒は基本的に一つのクラスだ。生徒数が少なく、また生徒の学年の幅があることもあって、クラスは多くてもクラスメイトは少なかったりする。

 鞄を机の横に引っかけ、珍しいものになってしまった紙の書籍のページを繰る。しばらくすると教室にも活気が出てくる。

 

「よっ翔、おはよ」

「おはよう、和人君。いつもより遅くない?」

「あー、電車一本変えてみたんだよなぁ」

「なるほど」

 

 同い年だから和人とも同じクラスだ。出席番号順の席なため、実は席も前後だったりする。

 授業はいつも通り。黒板に画面を投影して授業を進めたり専用の端末で課題が出されたりと、近未来的と言われていた光景がそこにはある。

 この学校には部活が存在しないので、放課後に学校に残る生徒はほぼいない。皆がバラバラに家へと帰っていく。

 僕も朝と同じ道を辿ってアパートへと帰る。

 アパートに着き鞄を下ろしてから、冷蔵庫に卵がなかったことを思い出した。時計を確認すれば十八時前だ。今日は十八時まで近所のスーパーで卵が安かったはず。制服も着替えずに僕は再び家を出た。

 養父母から高校生の一人暮らしにしては十分すぎる額の仕送りをもらっているが、節約できるところは節約したい。GGOからの通貨還元システムでそこそこの額を稼いでいたりもするから、本当に金に困ってはいないのだが。

 何とか十八時前に卵を確保することに成功した。他にも色々と食材を補充する。

 今度は鞄ではなく、ビニール袋を提げて家へと向かう。辺りは既に暗くなり始めていた。

 フッと人気のない路地裏に制服のようなものが入っていくのが見えた。好奇心と不審感でそこを覗くと、どこかの高校の制服を着た四人組がいた。いや、三人と一人、だろうか。

 

「おら、早く二万寄越せよ」

「そ、そんなに持ってない……」

「あ? ()()()()の頼みが聞こえないの?」

「ないんだったら銀行で下ろしてきなよ、ほらぁ」

「そ、そんなこと……」

「あ? い~の~詩乃ちゃん、これ見える~?」

 

 明らかに虐めだろう。ケバケバした三人組の女子高生が、大人しそうな女子高生を囲んで金をせびっている。それを大人しそうな子が拒否しようとしたら、三人組のリーダー格の女子が右手でジェスチャーをした。握り拳から親指と人差し指を伸ばした、いわゆる指鉄砲の形だ。それを見て大人しそうな少女の顔から血の気が引いていく。慌てて割って入った。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あぁん? 誰だテメ」

「通りすがりの人間ですよ?」

「じゃ、かんけー無いだろ。こっちは()()()()とお話ししているだけなんだからよ」

「そのお友達が苦しそうにしていたので声をかけたんですが」

「けっ、偽善者ぶってんじゃねぇよ。テメェにはこいつなんかどうでもいいことだろ」

「ええ、ですから警察に通報しました。警告に来ただけですよ?」

「なっ、サ、サツ!?」

「う、嘘ついてんじゃねぇよ、つ、通報なんかしてねぇ癖に」

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥン、ウウゥゥゥゥゥン

 

 

 タイミングよくパトカーのサイレンが聞こえた。当然通報なんてしていないからたまたまだ。

 

「なっ、本当かよ!? 行くぞ!」

 

 上手いこと勘違いして、三人組は走り去っていった。それを見送っていると、大人しそうな少女が声をかけてきた。一瞬既視感を得るが、少女はいつかの女剣士とは違った。

 

「あ、あの、助けていただき、ありがとうございました」

「ああ、そんなに硬くならなくていいよ。大丈夫? 歩ける?」

「は、はい」

 

 そうは言っているが足元はふらついている。

 

「じゃあ、あそこの店でちょっと休もうか」

 

 その女子高生を連れて近くにあった落ち着いた喫茶店に入った。

―――これってナンパに入るのかな……。

 別にそんな気はまるでなかったのだが、人が見ればナンパにしか見えないだろう。しかしここまで来てしまったのだ。乗りかかった舟、最後まで突き進んでやる。

 

「僕は大蓮翔って言うんだ。気軽に翔って呼んでくれていいよ」

「翔、さん……。私は朝田詩乃って言います」

「詩乃ちゃん、ね。あいつらとはどんな関係なの?」

「その、友達、だったんですけど……。今ではあんな関係です」

「そう……。初対面の僕がどうこう口出しできる関係じゃないのはよく分かったよ。でも今回はたまたま僕がいたから良かったけど、これからも続くようなら警察に相談してみたら?」

「そうですよね……」

「後、最後のは何だったか聞いても?」

「あっ、その、私銃が苦手で……」

「……ごめん、言いにくいことだったら言わなくていいから」

 

 あの反応、恐らくトラウマの類だろう。人のトラウマを脅しの材料にするとは、いよいよ救いようがない。……そんなことを聞き出してしまった僕も、かなりデリカシーが欠けているのだろうが。

 そこから少し言葉を交わして、僕らは店を出た。その頃には詩乃の顔色も随分と回復したようだった。

 

「気をつけてね」

「……今日はお世話になりました」

「それじゃ、また会うことがあれば」

「はい」

 

 詩乃と別れしばらく歩けば、借りている部屋に着く。旧式の電子錠を開け、買ってきたものを手早く仕舞う。温まるとマズいものを買っていなくて助かった。

 簡単な食事と水分を摂る。ゆったりとした服装に着替え、適温を維持するため空調を入れる。そこまで整えてからアミュスフィアを被り、ベッドに横になる。

 

「リンク・スタート」

 

 さあ、偵察の時間だ。




 白い軍服っていいですよね!?
 現実でも仮想でもヒロイン(仮)と接触する主人公マジ主人公。
 GGO編の題名は銃関連で行こうかなと。途中で放棄するかもですが。

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