SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 今話には余りストーリー性がありません。ご了承ください。どうぞ。


#28 遊底

 第二回BoBが終わった翌日、いつものように僕は荒野に立っていた。BoBは実に面白かった。色々なプレイヤーの戦術、タイプなどをよく観察し、最後のAGI型の《闇風》とSTR-VIT型の《ゼクシード》の一騎打ちに至っては他の観衆に混ざっていよいよ熱中してしまった。

 だが二人は気の毒だ。今どれだけ盛り上がったとしても、次の大会では僕に倒されてしまうのだから。PS(プレイヤースキル)もかなり高かったが、能力構成(ビルド)の強みが彼らの実力を底上げしている。それならば僕は酷いものだ。そもそもプレイ時間の桁が違う。SAOのステータスを引き継ぐ際には多少の下降調整を受けねばならないのだが――バグで入手した僕のデータも後から同様の調整を入れてもらった――、それでも二年の積み重ねは偉大だ。現実に帰還してからもかなりのアクティブプレイヤーである僕のステータスは、彼らを優に上回っているはずだ。

 その二人とは別に気になったプレイヤーが一人いた。GGOでは珍しい女性で、こちらも珍しいことに狙撃銃をメインウェポンにしていた。名前は《シノン》。BoBのルールにおいて狙撃銃はかなり不利な武器なのだが、それを物ともせずに本戦に出場しその存在感を存分に示していた。優勝・準優勝プレイヤーに次ぐ、旬のプレイヤーだ。

 

 

 

ゾクリ

 

 

 

 殺気だ。あちらもスタンバイしたようだ。僕は思考の海に沈んでいた意識を引き戻し、殺意に集中させる。ここまで純度の高い殺気は《ラフコフ》にも中々いなかった。幹部クラスに匹敵するほどだ。呑気なゲーム世界とはかけ離れている。

 意識から周囲の自然音を可能な限り排除する。風の音も、砂の音も。そうして異物を感じ取る。

 この場所を狙撃できる位置は大体三ヶ所の岩山しかなく、この狙撃手が僕の正面から撃ってきたことはない。よって僕が向いている方向にある岩山は排除していい。残りは二ヵ所。殺気の方向を感じ取るが、その二つの山は近過ぎて区別できない。

 バッと体を一八〇度反対に向ける。ここまでターゲットが動いても、意識――殺気――にブレがないのは純粋に凄い。

―――!

 急いで前転し、砂地に体を伏せる。すると先程まで身体があった場所を、後方――すなわち最初の前方――から轟音を立てて弾丸が通過していった。

―――アンチマテリアルライフル!

 サーバーに数丁しかないと言われている飛び抜けたレア銃。対戦車用の化け物だ。

―――そろそろ、本当の決着をつけるか。

 僕でもここからでは撃てない――目視できない――ので、走る。砂を蹴り風を切って、弾丸が飛んできた岩山を目指す。向こうも驚いているだろう。いつもとは違う流れに。その隙を突く。

 真っすぐ走る僕。こちらの狙いはよく分かるはずだ。そしてあちらは恐らく負けず嫌い。ならばこの勝負、間違いなく乗ってくる。

 直線で走る僕の向かう方向は一目瞭然だ。それなら、そこを狙撃できる場所に移動する。僕が向かっている元々狙撃手がいた岩山の隣の山、そこがベストポイントだ。

 ……と、思うだろう。狙撃手はそこまでは読む。これは何度も戦って得た結論だ。並大抵の敵ではない。今日も、今まで正面からは狙っていなかったのを、敢えてこちらの予測を外し正面を陣取ったのだ。この程度のことは読む。断言できた。

 こちらの武装は確認しているはず。SG550でそのベストポイントを狙えるのは東側にある丘で、そこを狙うスナイパーが移動するべき位置はその四つ南にある岩。そこで伏射姿勢を取るのがベストだ。あちらが移動を始めて僕から視線を外したと思われるタイミングで軌道を変え、その岩の上部に張り出した崖の上に待機する。

 しばらく待てば読み通りスナイパーがやって来た。VRにかなり慣れた身のこなしだ。かなりの重量があるアンチマテリアルライフルを抱えながら、ある程度のスピードを保っている。岩まで走ってきて伏射姿勢を取った。これでチェックメイトだ。

 僕は崖から飛び降りる。スナイパーは音に気づいて慌ててサブウェポンを取り出すが、それを僕は蹴り飛ばす。SG550を額に突きつけると、スナイパーは両手を挙げた。

 

「降参、参ったわ」

 

 女性の声だった。僕は驚く。このGGOでは女性プレイヤーが本当に少ないからだ。狙撃銃をあそこまで綺麗に扱う、かなりの腕前の持ち主、しかも女性。

 

「……もしかして、《シノン》?」

「そうよ、あなたは?」

 

 空色の髪をした少女――リアルでは分からないが――がこちらを見上げ、そして目を瞠る。

 

「って、か、翔さん!?」

「えっ? ……リアルでの知り合い? 学校の人?」

「いや、その、覚えてますか? この間助けてもらった……」

「あっ、詩乃ちゃんか」

「しっ、っはい、そうです」

「ああ、詩乃だから《シノン》ね」

 

 驚いたのはこちらもだ。あの子がGGOにいたとは、しかも上位プレイヤー。リアルと似たような顔というのは、ある意味便利なのかもしれない。

 ふと、先日の出会いの記憶を辿って思い出した。

 

「でもこの間は銃は苦手だ、って……」

「……GGOだと問題ないんです。だから、リハビリ、みたいな感じで」

「なるほどね」

「それより、翔さんこそ、その、SAOサバイバーですよね……?」

「どうして、ってあの時は制服着てたからか。その通り僕はSAOサバイバーだよ」

「その、VRって嫌じゃないんですか……?」

「うーん、僕の周りにそういう人が多いだけかもしれないけど、気にしてる人は少ないかな。若年層は特に。VRへの恐怖よりもVRへの期待の方が大きいし、何より面白いから」

「そう、ですか」

 

 寸前まで勝負に白熱していたのに、気づけば二人で岩に寄りかかり座り込んで喋っていた。

 

「じゃあ、これも一つの縁だ。フレンド登録くらいしておこっか」

「はい」

 

 フレンド登録をする。《Sinon》という名前がフレンドリストに追加された。

 

「《Rento》……これが翔さんの名前なんですね」

「うん、よろしくね、シノンちゃん」

「はい、レントさん」

 

 その日はそれきり、喋りながら街に戻った。

 

******

 

 あの日から対決は起きていない。それも当然だ。対決としては僕の完勝のような部分があったし、フレンド登録されていると現在位置が分かってしまって狙撃が難しいからだ。

 その代わりと言ってはあれだが、二人で行動することが増えた。僕としては彼女のような凄腕の後衛はいるだけでありがたいし、彼女からしても僕ほど有能な前衛も少ないだろう。二人で組めば二十人程度の集団は圧倒できる。ALOとは違って、僕もこの世界だと十人が捌ききれないからとてもありがたい。

 ある日、シノンに聞かれた。

 

「それにしても、何であんなに命中率が良いのよ、レントさんは」

 

 僕は近接戦においてほぼ銃撃を外さない。それは昔からだ。流石に近接戦闘中は心拍は上がってしまうが、SAO上がりを舐めるなというものだ。嘘を言っても仕方ないので、システム的なことではなくコツを教える。

 

「んー、それはあれだね。予測だね」

「予測?」

「そう、相手が動く場所を予測してそこに弾丸を撃っておく。すると、勝手に突っ込んできてくれる」

 

 これは本当だ。相手の目線から次の行動を予測する。SAOの頃からそのくらいはしていた。それに人間のアバターはどのVRワールドでも基本的に茅場が開発したもので、表面のグラフィックを変えているだけなので筋肉が視える。予測など朝飯前だ。

 

「予測、ねぇ」

 

 それはシノン(普通の人間)には難しい技術だろう。だから僕はシノンには別のことを教えることにした。

 

「そう言えばシノンちゃんは初弾を外すと諦める傾向があるでしょ? 僕はそれ、ちょっと早いと思うな」

「そうかしら。でも場所が割れたスナイパーじゃ大して当たらないし、弾代が勿体ないじゃない」

 

 これも事実だが、確実に当てれば良いのである。

 

「予測線を使うんだよ。シノンちゃんの狙撃は脅威だよね。だから次弾からは警戒される。そこで、予測線で攻撃する」

「予測線で攻撃?」

「うん、予測線が飛んできたら避けるよね? そうやって動きを制限してくれるだけでも前衛は助かるんだよ。後、そうだな。予測線が表示されるのって、指をトリガーにかけているときだけだよね?」

「ええ、そりゃそうよ」

「だから、散々予測線で虐めた後に、指を()()。予測線は消えるよね。それから予測線を出さないくらい一気にトリガーを引く。マズルフラッシュが見えた相手はさっきまでの予測線から逃げようとするから、その移動先を狙っておけば当たる」

 

 相手の動きを誘導することはとても重要な技術だ。ゲームに限らず、現実でも。

 

「なるほどね……。確かに予測線が見えてからでもできることはあるのね」

「後はそうだねぇ、突撃とか?」

「突撃? スナイパーなのに?」

「その思い込みがいけないんだよ。シノンちゃんが使っている《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》は強力なんだから、それが突っ込んできたら? 本当に脅威だよ」

 

 あの、体のどこかに当たっただけでもHPを吹き飛ばす威力を近距離で撃たれたとすると、僕としても悪夢だ。

 

「でもあれは反動が強すぎて立ちながらじゃ撃てないわ」

「そこが腕の見せ所だよ。それに、反動で後ろに飛んでいくなら撤退の必要がないじゃないか。狙撃にこだわるのも大事だけど、同じくらいこだわりすぎないのも大事だよ」

「それでも狙撃じゃなきゃ強みが活かせないし、私に近接戦のセンスはないんだから、狙撃以外じゃすぐに蜂の巣よ」

「君に弾が向かわないように護るのが(前衛)の役目でしょ? それに近距離からじゃへカートの弾を避ける余裕は相手にはないよ。あのスピードの弾を避けるのは僕でも難しい。だからそれも強みと言えば強みだ」

 

 まあ()()()のは難しい。避けるのは。

 

「確かにためになる意見だったわ。だけど、あなたと組んでいるときには今言った技術どれも必要ないじゃない。あなたがいれば私が行かなくても前衛は余裕だし、あなたに注意が向けられているから私の次弾以降も当たるし」

「ははは、そうだね、確かに」

 

 僕らはmob狩りではなくPKを主軸にGGOをプレイしている。シノンがヘカートで陣を崩し、動揺したところに僕が切り込む。近接戦で散々に敵を蹴散らしながら、狙撃でも数を減らす。僕らのコンビは敵なしだった。

 特徴的な白い姿の僕のことを《白い殺人鬼(ホワイトキラー)》と呼ぶ者もいた。殺人鬼という呼称は流石に不服でシノンに相談したが、僕の戦いをいつも見ている彼女にはそれも当然だと笑われた。相手の銃弾を全て見切り、真正面から一方的に敵を殺す。その際に僕は笑みを見せているらしい――自覚はなかった――。好んでPKをするのも狂気を感じると言われてしまった。僕のも、言ってしまえばリハビリのようなものなのだが。

 遂に三十人近い集団を撃破したとき、ふと、こんな会話をした。

 

「それにしても私達敵なしね」

「そうだね、他の大陸に行けば別かもしれないけど」

「そう? 別の大陸でも力試しとかしてみる?」

「僕は力試しはBoBで良いかな」

「!? で、出るの? 次のBoB」

 

 シノンは僕がBoBに出場することにとても驚いていた。第二回の開催よりも以前から僕と戦っていたシノンからすれば、前回は出なかったのにという気持ちなのだろう。

 

「うん、そのつもりだよ。出るからには優勝を狙いたいね」

「そ、そう。あなたが一番の優勝までの障害になりそうね。未だに殺せる気がしないわ。後ろから援護してるときでも避けられそうだもの」

「そう簡単に殺されちゃ困るよ。このアバター、コンバートを繰り返しているけどまだノーデスなんだから」

 

 これも事実だ。死ぬというゲームオーバー表現のゲームでは失敗していない。他の、例えばレースゲームなんかではゲームオーバーになったりしているが。

 

「ふん、じゃあ一回目の死亡を私がプレゼントしてあげるわ」

「お手柔らかに」

 

 互いに手の内を秘密にしたいからBoBの二ヶ月ほど前にコンビは解消することとなったのだが、問題はこの後の会話だった。

 

「それにしてもあなたって本当に……強いわよね。どうしたらそんなに強くなれるの?」

「それは、戦闘の面でかな?」

 

 僕が聞き返したのは彼女の目に暗いところを感じたからだ。

 

「それもあるけど、その、SAO(あんな体験)を過ごしたのにVRを続けてたり……」

 

 それを聞いた僕は、シノンの表情と声から何を言いたいのか察した。恐らく、彼女が抱えるトラウマのことだ。SAO(あんなこと)を体験してVRに恐怖を持たなかったのか、どうやってそれを乗り越えたのか。そういう精神的な『強さ』を彼女は求めているのだろう。トラウマの乗り越え方を。

 僕の瞳にも闇が映ったのだろうか。対面していた彼女の眼が揺れる。暗い部分を振り払うように僕は笑顔で返した。

 

「僕は強くなんかないよ。それを言えば、君の方が強いかもね」

「そんなことない! あなたは、私とは違うっ!」

 

 このままでは水かけ論になることを感じたのだろう。その話題はそこで打ち切られ、後には上っ面だけの会話が続いた。

 気まずかったのかもしれない。コンビが解消されたのは、それから一週間もしない内だった。

 

******

 

「へぇ、流石翔。プログラミングまでできるのか」

「こっちに帰ってきてから勉強したからね」

「って、まだ一年も経ってないぞ……」

「一年って結構長いんだよ? この程度ならできるさ」

 

 帰還者学校の、いわゆるコンピューターオタクが集まるような同好会――この学校に部活はないのだ――に僕は顔を出していた。普段は真っすぐ帰宅する僕だが、ここ最近は活動場所のコンピュータ室に入り浸っている。

 その理由は、彼らが取り組んでいるある技術だ。それは視聴覚双方向通信プローブという物で、VRから接続することで現実の風景や音をVR世界にいる人に伝え、その人の声を現実世界に届けるものである。和人はこの同好会の一員で、ユイのためにこの技術を開発している。僕はその手伝いというわけだ。

 僕がプログラミングを勉強し始めたのは、SAOより帰還してからだ。第一層の地下迷宮でのことを聞いて必要な技術だと感じたのだ。もし僕が同じ状況に立ったとき、誰かを助けることができるように。

 

「んー、でもやっぱここら辺のパーツは代用できないかぁ」

「でもそれめっちゃ高いじゃん、俺らじゃ買えねぇよ」

「だよなぁ……」

「じゃあこっちのパーツで代用してみるってのはどうだ?」

「ああ! 確かにそれならいけるかもな」

 

 今は高価な必要パーツを他の物で代用できないか試しているところだ。しかし、これから試そうとする物も失敗に終わる予感が僕にはあった。

―――この間の収入溶かせば半分ぐらいは出せるかな……。

 僕が出せないこともないのだが、金額が金額な分躊躇している。ちなみにこの間の収入と言うのはGGOのオークションのことである。たまたま手に入れたアイテムを自分の分だけ取り除いて、その他の部分をオークションに出したのだ。それはメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)というボス専用と思われていた効果がついた布素材である。非常に高値で売れ、臨時収入になった。

―――第三回BoBが終わってまだ駄目だったら資金提供しよう。

 そう心に決め、僕も試行錯誤に乗り出した。

 

******

 

~side:???~

 『彼』は壁に貼られた八枚の写真を眺めた。そこにはVRMMORPG、GGOの中で盗撮されたと思しき八人の写真があった。内の二枚には写真の人物の顔の上から大きくバツ印が書き込まれている。

 

「あと、六人、ククク、《白の剣士》、お前は、最後、だ」

 

 その六人の中には、空色の髪の狙撃銃を抱えた少女と、全身が白い青年がいた。




 ちなみに題名は色々と弾のセットが終わったという意味でつけました。遊底(スライド)は自動拳銃の上の動く部分です。次はいよいよ原作突入です!

主人公の二つ名
SAO
・白の剣士・奇術師・オレンジキラー・レッドキラー・狂戦士
ALO
・白い悪魔・バグリガン
GGO
・白い殺人鬼 NEW・幻影の射撃手 NEW(前話)

 白って格好良いってのが本作のコンセプトです(後づけ)!
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