SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 弾丸が段々と加速していくイメージです。依頼を受けた白黒ですが、一体どうなるのでしょうか。どうぞ。


#30 銃身

 来ない。義母との電話を切ってGGOに再びログインした僕は、二人より一足先に総督府に来ていた。エントリーは開始日に済ませていたため、本当に待つ以外にすることがない。それなのに、あの二人はエントリー締め切り十分前になっても姿を見せなかった。既に中に入ってしまったのか。しかし何度確認しても、やはりどこにもいなかった。つまり彼らは未だに総督府に着いていない、BoBにエントリーできていないのである。

 

「間に合わないと計画がパーだよ。キリト君」

 

 今回の作戦、と言うほどでもないが計画はこうだ。死銃がトッププレイヤーを狙うのならば、BoBという公式戦は絶好の場だ。獲物がゴロゴロいる上、観衆の面前である。だから死銃はそこを狙うだろう。

 そこで、BoBに参加して死銃との接触を図る。僕は元より参加予定だったが、キリトもその補助で参加するのだ。もし参加できなければ、結局BoB――犯行が行われると思われる場所――には僕一人で向かうことになってしまう。キリトが参画した意味とは。

 締め切り五分前、二人が駆けこんできた。ここで声をかけるようなことで時間を取りはしない。総督府の外に出て、恐らくキリト達が乗ってきたであろうバギーの返却手続きをした。

 中に戻ってエントリー手続き用の端末に向かうと、二人は軽く脱力していた。

 

「遅かったね、二人とも。バギーは返しておいたから心配しないでね」

「そんな心配なんかしてる暇なかったよ……」

「ええ……、間に合わないかと思ったわ。絶対に参加しなくちゃいけないのに……」

「シノンちゃんも登録してなかったんだ。それは驚きだね」

「私としたことがすっかり忘れてたわ。それで、二人は予選はどこのブロック?」

「僕はGだよ」

「F」

「私もF。キリト、番号は?」

「37番」

「私は12番、良かったわね」

「良かったって?」

「キリト君……。遊びじゃないんだから下調べ位しよう、って何回言ったら分かるんだい? ――BoBの予選ブロックは決勝まで進めば勝敗に関係なく本戦に出場できるんだ。要するに上位二位通過ってことだね。12番と37番は決勝まで当たらないから、二人で潰し合わなくていいってこと」

「なるほど」

「でも、どうせ出られるからって手を抜いたら許さないから」

「もちろん、お手柔らかに頼むよ」

 

 キリトが不敵な笑みを浮かべる。シノンとの間には早くも火花が散っているように見えた。

 そんな二人と共に待機場所に向かう。地下に続くエレベーターを降りると、既に大勢の人が集まっていた。中には銃を撃って騒いでいる者もいる。

 

「じゃあ、準備しましょうか」

「うん、そうだね。あと三十分だし」

「準備?」

「キリト君だって戦闘服(コンバットスーツ)に装備替えしないと」

「あ、ああ」

 

 シノンについて行きそうになったキリトの襟首を掴み、女性用とは反対の位置にある男性用更衣室に入る。周りに人がいなくなると、キリトは早速あの件について話してきた。

 

「なあ、レント。あの中に死銃がいると思うか?」

「あの中って、待機場所にいた人達? だとしたらいないと思うよ」

「どうしてだ?」

「まずこんな早くからメインアームズを見せびらかしているなんて、対策してくれって言ってるようなものだし。それから身体の使い方って言うのかな、上位プレイヤーはいなかったよ」

「身体の使い方?」

「うん。VRに慣れていない……と言うかVRでの身体の使い方を知らないって感じかな。あれじゃ強くはないね。シノンちゃんはその点はかなり上手いから、見比べればキリト君も分かると思うよ」

「いや、あそこにいた連中が弱いってのはよく分かった。だけど、それだけじゃ死銃がいないとは言いきれないだろ?」

「そんなこともないよ。だって、BoBに参加して上位プレイヤーをターゲットにするつもりなら、本戦に出る実力は最低限必要だからね。対戦相手を全員殺すのは非効率の極みだし、それで何かバレて明日の本戦に出れなければ本末転倒だし」

「そういうもんか」

 

 キリトは納得したようだった。

 

「あっ」

「ん? どうかしたか、レント」

 

 いきなり声を上げた僕に、全身真っ黒に着替えたキリトが不思議がる。

 

「今気づいたんだけどさ。これって、周りから見たら僕が女の子を更衣室に連れ込んだってことだよね」

 

 あらぬ誤解をされないだろうか。

 

「なら、バラバラに出ればいいだろ」

 

 そんなに簡単な話なのかは分からないが、着替え終わったキリトは外に出ていった。僕もすぐにそちらに向かう。幸いなことに僕を変な目で見てくる人はほとんどいなかった――数人は僕とキリトを見比べていた――。丁度更衣室から出てきたシノンと共にボックス席に座る。シノンは座るや否や話しかけてきた。

 

「レントさん、何で着替えてないの?」

 

 そう、僕はあの普段着(パーカー)のままだった。

 

「いや、あの軍服は目立つからさ。最初の試合まではこれで行くよ」

「へぇ、その服のまま出ないようにね」

 

 ……それはそれで面白いかもしれない。

 

「軍服?」

 

 キリトが目を爛々と光らせてこちらを見てきた。

 

「ええ、キリト。レントさんは真っ白の軍服とかいうふざけた服装が戦闘服なのよ」

 

「あれは性能とデザインの兼ね合いの結果だって。むしろ戦闘が硬直しなくて便利なくらいだよ」

 

 シノンが訝し気な表情で見てくるので、僕は話題を変えた。

 

「さて、キリト君にBoBの説明をしなきゃいけないんだよね。シノンちゃんも手伝ってよ」

「いいわよ。……でも、コンバートした直後に大会に参加するのに何も調べてこないって、ちょっと舐め過ぎじゃない?」

「キリト君はそういう人なんだって。いつも下調べをしない、その場その場で行動するから」

「それで何とかなっちゃってるのがいけないのよ。今日だって私と会わなかったらどうなってたか分からないわよ」

「僕が初期位置に迎えに行くからそれまで動かないでね、とは言ったんだけどね」

「その案内人の言うことすら聞けないなんて、自分で調べたわけでもないのに」

「挙句の果てには迷ってあんな通りまで行っちゃうしね」

「「酷い人だ」」

 

 シノンと声を合わせれば、日常ではメンタルの弱いキリトはKOされていた。

 

「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁ」

「分かればよろしい」

「ふふ、僕らもちょっと、少し、ほんの僅かだけど、言い過ぎちゃったからね。次からは、もう次はないと思うけど、もう断ろうかなって思ってるけど、よろしくね」

「レントさん、貴方が何気に一番酷いわよ」

 

 そんなことはない。僕は本心をちょっとだけ舌に乗せただけだ。話題を戻す。

 

「えと、それでBoBなんだけど。あのカウントダウンが零になったら、今この場にいるエントリー者は全員バトルフィールドに転送されるんだ」

 

 僕は部屋のあちらこちらにある画面を指す。

 

「対戦相手と二人だけで飛ばされるフィールドは一㎞四方の正方形(スクエア)。地形のタイプや天候、時間はランダムに設定されるわ」

 

 僕の後を継いだシノン。交互に必要事項を畳みかける。

 

「対戦者は最低五百m離れた距離に転送される。決着がつけば勝者はこの待機エリアにまた戻ってくるけど、敗者は一階のロビーに転送される」

「負けても武装のランダムドロップはなし。Fブロックは六十四人トーナメントだから、五回勝てば決勝進出。そして明日の本戦出場も決まる。そこまでは上がってきなさいよ」

 

 最後にちょっとした挑発のエッセンスを。

 

「そうだよ、ここまで教えたんだ。最後にもう一つ教えてあげたいじゃないか」

「何を?」

 

 キリトは素直に尋ねる。シノンと軽くアイコンタクトをして、言葉を重ねた。

 

「「敗北を告げる弾丸の音を」」

 

 二人でキリトに指鉄砲を向ければ、キリトは面白そうに口角を上げた。

 

「なるほど、大体分かった。ありがとう」

 

 挑発を終え、雰囲気を和らげる。

 

「と言っても、基本的なことだからね。現実世界で少し調べればすぐ分かったはずなんだけどな」

「ごめんって。二人とも手厳しいな。……だけど、シノンの方は大丈夫なのか?」

「大丈夫、って?」

「決勝まで来れるのかってこと」

 

 仕返しのつもりでかキリトが放った軽口は、しかし軽口では終わらなかった。

 

「っ、予選落ちなんかしたら引退する。今度こそ、」

 

 普通に話していたのに、シノンの雰囲気がガラッと変わる。

 

 

 

「今度こそ、強い奴らを全員殺してやる」

 

 

 

 その口は残忍な猛獣のように歪んでいた。対決をしていた日々の殺気が漏れ出している。あのラフコフに並ぶ殺意だ。

 僕とキリトが思わず臆して話が切れたところで、タイミングよく銀髪の青年が近づいてきた。

 

「やあ。遅かったね、シノン。遅刻するんじゃないかと思って心配したよ」

 

 彼を見て、シノンはそれまでの雰囲気を霧散させた。

 

「こんにちは、シュピーゲル。ちょっと予想外の用事でうっかりしちゃって」

 

 彼は滑らかにボックス席に座った。僕とシノンは少し体をずらして四人で座れるようにする。

 

「あら、でもシュピーゲル。そう言えば貴方は出場しないんじゃなかった?」

「迷惑かもと思ったんだけど、シノンを応援しに来たんだ。ここなら試合も大画面で中継されるしさ」

「そう」

 

 そこでシュピーゲルはこちらに目を向けた。彼のことはシノンから聞いたことがあるので、素直に会釈を交わす。現実世界での友達らしく、そろそろ会えるのではないかと思っている。視線に嫌なものを感じたが、それと知らずにPKしたことでもあったのだろうか。

 向こうも僕のことは聞いていたのだろうが、シュピーゲルはキリトのことを何も知らない。話がそちらに向くのは当然だった。

 

「そこの人は?」

「ああ、そこの人が今回の用事の原因。ここまで案内したのよ」

「どうも、『そこの人』です」

 

 いつもよりしおらしく振る舞うキリトの魂胆は僕とシノンには筒抜けだ。

 

「え、えと、どうも。シノンの、お友達さん、ですか?」

「騙されないで、そいつそんな見た目だけど男だから」

「ははあ、キリトと言います。男です」

「え、お、男ぉ!? じゃ、じゃあ、」

 

 そう言いつつ、シュピーゲルはシノンとキリトの間で目線を行ったり来たりさせている。

 

「いやぁ、シノンにはお世話になりました。色々と」

「ちょっと! 変な言い方しないで! それに今気づいたけど、貴方にシノンって呼んでいいなんて一言も言ってないから!」

「もう、つれないなぁ。武装選びにもつき合ってくれたのに」

「あれはっ、レントさんに頼まれたからで!」

 

 そろそろ可哀想になってきた。さっき散々虐めた仕返しなのだろう。シノンに助け船を出そうかと思ったとき、周囲が光に包まれた。

 何色ものレーザーや、スポットライトが派手に空間を染め上げている。アナウンスが入った。

 

『大変お待たせしました。ただ今より、第三回BoB予選トーナメントを開始いたします。エントリーされた方はカウントダウン終了時に、第一回戦のバトルフィールドに自動転送されます。幸運をお祈りいたします』

 

 お祭り騒ぎのように銃声がそこかしこで発生する。実際お祭りのようなものだが。

 シノンは立ち上がると、キリト、僕の順番に指差して、宣戦布告した。

 

「決勝まで上がってくるのよ! そこでその頭ぶち飛ばしてやるんだから!」

「レントさんも、いつまでもノーデスでいられるとは思わないことね。今度こそ、ぶち抜いてやる」

 

 僕らも立ち上がってそれに返す。

 

「お招きとあらば参上しないわけにはいかないね。そう思うだろ? キリト君」

「ああ、そうだな。迎えに行って差し上げます、お嬢様?」

「ははは、僕も新しい技を見せるときかな。驚き過ぎて僕以外の人にやられないようにね」

「こっ、こんのぉ!」

 

 適度に煽っておいて、僕らはシノンと別れた。シュピーゲルが凄い目で見てきたので、少し反省している。

 体を、SAOで何度も味わった浮遊感が襲う。光に包み込まれた瞬間、どこかに転送された。

 

******

 

 僕ら選手はまず、暗い空間に転送される。そこに表示されているホロウィンドウには、対戦相手と対戦フィールドのことが書いてある。とは言っても、知らない名前だったから気にすることはないだろう。

 僕は六十秒の待機時間で装備を調えた。いつもの軍服に着替え、ベルトの腰には動かないように固定されている光剣。両サイドには二丁の拳銃。その少し後ろ側に二本のナイフ。手にはライフルがある。手を抜く気はない。一切、全く。

 そして僕はまた、BoBとは直接関係ないことを考えていた。シノンのことである。僕らに見せたあの表情。強い奴らは殺すという台詞。あの凄まじいまでの殺気。……彼女が死銃の可能性も、ある。

―――いやいやいや、それはない。

 シノンについて、朝田詩乃について思考を巡らす中で、その最悪の可能性は即座に否定された。

 それは感情論でも何でもない、簡単なことだった。彼女にはアリバイがあったのだ。記憶を遡ると、うす塩たらこが殺されたとき、僕は詩乃と現実世界で話していた。

 なぜそんなことを覚えているのかと聞かれたらこう答えるしかない。毎週恒例の卵の特売日だったから、と。馬鹿みたいな話だが、それでシノンが無実だと証明できるなら良かった。

―――ん? 良かった?

 僕はなぜそう思ったのだろう。知り合いだから? それとも……。

 そこまで思考が辿り着いたときに、僕はフィールドに飛ばされた。

 頭を切り替え、目の前のフィールドに集中する。

 予選第一試合のフィールドは実に面白いものだった。地形に何の起伏もないのだ。一㎞四方が真っ平らなフラットタイプ。

 しかし他のパラメータが酷かった。時間帯は深夜、天候は嵐。強く打ちつける風と雨粒で視界は遮られ、音も聞こえない。足元はコンクリートで固められているからまだ良かったが、体がびしょ濡れになり集中力は下がる。銃火器は雨の中では性能が大幅に落ちるため、悪天候では光学銃がベストと言われている。だが、僕が光学銃など持っているはずもない。

 相手は五百mは離れた位置にいる。平らといえども、この嵐では十m先もまともに見えない。この天候では地形に変化があると戦闘自体が起きない可能性もあるため平らなのだろう。

 しばらく、歩き続ける。ライフルは仕舞った。十m程度まで来ないと敵に気づけないなら、マントの下で雨に濡らさないでいられる拳銃の方が良いだろう。

 三十分と少しが経った。相手も同じように僕を探して歩き回っているのだろう。余りにも見つからず、僕に焦りが生まれる。

―――落ち着け、こういう時が一番接敵しているんだよ。展開的に!

 そう気を引き締めても、王道の漫画のようなことは起きなかった。更に三十分が過ぎる。そろそろ運営が痺れを切らしたのか、天候が若干回復する。

 

「いた」

 

 気配を感じた。VRで存在しないはずのもの第一位に堂々ランクインする気配だ。おおよそで狙いをつける。マントの下から、《SAUER P229》を発砲した。

 

 

ザッ!!!!!

 

 

 常にざあざあと音を立てていた雨音が途切れる。そういうギミックだったのか、雨と風は止み、空を覆っていた雲も流れて天気は快晴になった。

 相手はいきなりの環境変化に追いつけず、僕が適当に放った銃弾を腹に受けた。

 

「こんのぉ!!!!」

 

 相手も意地だろう。抱えていたショットガンを僕に向ける。しかし、僕は既に二丁の拳銃を両手に揃えていた。

 二発ずつ、計四発の弾丸がアバターの急所ポイントにめり込み、あの世界とは違う赤いエフェクトとなってアバターは消滅した。

 

「四発も要らなかったな。僕も焦ってたみたいだ」

 

 勝利したことを表すホロウィンドウが僕の目の前に表示され、僕の体は光に包まれた。飛ばされた先は待機エリアではなく、例の暗い空間。

 

「流石に時間かけ過ぎたかな。もう皆終わり始めてるでしょ」

 

 追いかけなければ。

 二回戦のフィールドは密林。相手の得物は軽機関銃だったが、木々の上から弾丸を降らせることで完封した。

 三回戦は空中遺跡。見晴らしが良かったため、SG550で相手の武器を確認する前に狙い撃ちした。

 二戦合わせて十五分も時間を使っていないが、相手が先に終わっていたようで四回戦に進む。

 四回戦の相手はライフル使いで、遮蔽物の全くない真っすぐな道で戦った。たかが五百m、僕はSG550で一撃死を狙える。フィールドが余りにも有利過ぎた。当然、肉眼では豆粒のように見える距離で相手を撃ち殺した。

 次は準決勝。まだ待機エリアには戻れなかった。相手もそこそこ勝ち抜いてきた強者のはずだが、余裕で撃ち殺す。二回戦以降ではSG550しか使っていない。使用した弾薬も合計してマガジン一つ分にも満たなかった。

 そこでようやく待機エリアに戻ることができた。軍服のままだったので周囲は一瞬ざわめいたが、すぐに意識は液晶画面へと戻っていった。その画面ではキリトとシノンが決勝で戦っているところだった。




 最後の予選部分はバッサリカットでした。文字数のせいですが、別に思いつかなかったとかそういうわけじゃありません。ただ主人公のPSがチート過ぎて勝負にならないんです。書いてても読んでても詰まらないと思います。だって、遠くから撃てば終わりなんだもん! 何を書けって言うのさ!
 さて、次はシノンとキリトです。待機エリアに戻ってこなかったためキリトの状況を知らない主人公はどう思うのか。こうご期待。

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