SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 日付は変わって運命の日です。どうぞ。


#32 装填

「どうですか? 僕の推測はありえなくはないでしょう?」

『ありえないどころか、今出ている中ではかなり有力な説だよ。死銃が複数犯の可能性、か。考えてもみなかった。これでまた一歩死銃に近づけたね』

「それで遺体の方は……」

『もうかなり経ってしまったからね。既に火葬されてしまっているよ』

「やはりそうですか……。また何か分かればお伝えします」

『君も調査ってだけじゃなく、BoBを楽しんでくればいいさ』

「はい」

 

 僕は昨夜思いついた犯行方法を菊岡に伝えた。流石に夜も遅かったので連絡をするのを翌日に回したのだ。今夜はBoBの本戦がある。午前中には別の予定が入っているので、僕はそちらに向かった。

 

******

 

 予定の一つだった病院から帰ってくると、直葉から電話がかかってきた。

 

『もしもし、師匠!』

「どうかしたかい?」

『――……ハッ! えと、……お兄ちゃんと一緒にBoBに出てるん……ですか?』

「うん。隠したがってたみたいだけどね。MMOトゥデイにBoBの記事が載ってたからそこで見たのかい?」

『はい。それからアスナさんにも確認を取ったんです。それで経緯とか聞けないかなぁ、って』

「ごめんね。BoBが終わったらいくらでも話してあげるから、それまで待っててほしい」

『はい。その代わり、GGOの話とか、今までにコンバートしたゲームの話とか聞かせてください!』

「うん、その位ならいつでも。女の子の頼みは余り断るものじゃないからね。それにBoBが終わったらALOに戻るつもりだったから丁度良いな」

『楽しみにしてますから! BoB頑張ってください!』

 

 殺人犯と思われる人物と接触しに向かうなんて心配させるからと、和人は明日奈にも目的は言っていない。バレるとは思っていたが、僕に連絡を寄越すとは驚いた。信頼されているようで何よりというところだ。

 最寄駅から歩きながら電話していたら、ある公園の前を通ったとき僕は思いがけない人物と出会った。

 

******

 

~side:詩乃~

 

「どうすれば、殺せるかしら……」

 

 私は、私と友人しかいない児童公園のブランコの近くで、石ころを蹴飛ばしながらそんなことを呟いた。物騒な呟きだが、もちろん現実世界のことではない。GGO(ゲーム)の話だ。今、最も殺したくて脳裏に浮かび上がってくる顔はレントさんのものだ。

 キリトもむかつく気障野郎だったが、レントさんの忠告のお陰で実害――セクハラとか痴漢とか――を受けなかったから大目に見ている。あの頭をぶち抜きたいことに変わりはないが。それでもレントさんの方が殺したい。彼は本当に『強い』。その彼を殺せば、きっと私も『強く』なれるだろう。

 そんなことを考えながらBoBの作戦――対レントさん用だ――をぶつぶつ唱えていると、友人――新川恭二が微妙な顔をしてこちらを見ていた。

 

「……新川君、どうかした?」

「……いや、朝田さんがそんなに一人の人について話しているの聞いたことなかったから」

「そう……」

 

 確かに、言われてみればそうだ。あの遠藤達――虐めてくる奴らだ――さえも、思考のスペースを割くのが勿体ないとできるだけ考えないようにしていた。そもそも私はいつも自分に精一杯で、人のことを考える余裕なんてなかった。それがレントさんだけはいつも意識の片隅にいるのだ。

 しかしそれも当然と言えば当然だ。彼には何度も自分の弾丸を避けられているのだから。微笑を絶やさずに。色々なことを教えてもくれたが、何よりも乗り越えるべき壁という認識が大きい。

 

「そんなに殺したいんだったら手段は一杯あるよ。フィールドで待ち伏せて狩ったりとか、狙撃なら僕が囮をやるし。正面戦闘が良ければ腕の良いマシンガンナーの二、三人はすぐに集められるから。ビームスタナーを使ってMPKとかでも良いけど」

「ううん……。ありがたいけど、そうじゃないの。やっぱり自分の手でこう、あの人を打ちのめしたいのよ」

 

 私は度なしメガネのブリッジを押し上げて、右手の人差し指で時計に向けて狙いをつけた。

 

「BoBまであと三時間半! 絶対に私の手で倒してやる!」

 

 そう叫んだところで、考えていた人の声が近くから聞こえた。

 

「詩乃ちゃん、元気で良いことだね。本戦ではこの手で倒してあげるから安心してほしいな」

 

 気づけば、レントさんがブランコのすぐ傍に立っていた。恭二も気づいていなかったようで、傍から見ても驚いた様子だ。

 

「れ、レントさん……。コホン、絶対に倒してやるんだから!」

 

 今度は狙いをレントさんに向けて宣言した。

 

「朝田さん、その、大丈夫、なの?」

「えっ?」

「右手……」

 

 恭二に恐る恐る言われ、右手を確認してみる。その手は握り拳から親指と人差し指が飛び出した、いわゆる指鉄砲の形を取っていた。慌てて手を開いて閉じて、深呼吸を繰り返す。確かに、普段なら『銃』を意識させる行動を取るだけでも駄目なのに、どうして今は大丈夫だったのだろう。

 

「大丈夫なら良かった。本戦は体調を整えて、かかっておいで」

 

 過呼吸になったりもしていない私を見てレントさんは安心したように息を吐き、そう言い残して去っていった。

 

「言われなくても!」

 

 彼が家とは反対の方向に向かっているのが気になったが、私はその背中に声を投げるだけで終えた。

 

******

 

~side:レント~

 病院に着いたら昨日と同じ部屋へと向かう。ノックをして入ると、本――紙媒体だ――を読んでいる安岐がベッドの横に座っていた。二つあるベッドの片方は既に埋まっている。

 

「こんにちは。和人君は早いですね、いつ来たんですか?」

「おっす。桐ヶ谷君はそうねぇ……大体半時間前くらいかしら」

「ニアミスですか。今日は早くからご迷惑をおかけします。見ているだけなんて退屈でしょう?」

「ええ。でも大丈夫よ? 夜勤明けで暇だったし、疲れたらベッドに入れさせてもらうから」

 

 そう言うと安岐は胸を強調するように身じろぎしたが、僕は無視した。

 

「それなら和人君の方にお願いします」

「えぇ、どうして? やっぱり恥ずかしい?」

「いえ、接触してログインが解除されたら大変ですから」

「……」

 

 和人は恐らくたじろいだのだろう。動じない僕を見て詰まらなさそうに安岐は口を尖らせた。

 安岐がフッと微笑むと、彼女の纏う雰囲気が変わったように感じた。それに、アミュスフィアの準備をしていた手を止める。

 

「少年、君はこの美人ナースに何か相談したいことがあるかい? 今なら無料カウンセリング中だ」

「いえ、特には。いきなりどうかしたんですか?」

「……いや、構わないなら良いんだ。別に大したことじゃないから」

 

 若干心配気な表情を覗かせた安岐だが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 安岐がカウンセリングの話を持ち出したのはなぜだろうか。……予想は、つく。和人だ。昨日の時点であの顔色だったのだ、心配したんだろう。それにしても何の罪を彼は抱えているのだろうか。僕が支えられるものなら手伝ってあげたいのだが。

 

「それじゃ、和人君のこと、帰ってきたら聞かせてもらいます。行ってきます」

「――はいな、行ってらっしゃい。気張ってね」

 

 最後に少し眉を上げさせることに成功した。そのまま僕は意識をVRへと落としていった。

 目を開くと《SBCグロッケン》の総督府前だった。前回のログアウト時と寸分違わぬ位置。例のパーカーで総督府に向けて歩くと、ザッと総督府の前の人垣が二つに割れた。

―――新しい服買わないとなぁ。

 PKer(プレイヤーキラー)というプレイスタイルの関係もありできるだけ目立たないように顔を隠す服装を選んでいたのだが、既に特定されてしまっていては意味がない。少し憂鬱に思いながら僕は人の間を歩いた。

 総督府の中に入ると、入口のところで睨み合っている二人に出会った。いや、位置的に出会わないことの方が不可能だったのだが。

 

「あら、レントさん。随分早いのね」

「……レント、今日は頑張ろうな」

「うん、二人とも。でも二人ともさっきリアルで会ったからね。なんて挨拶するのが正しいんだろ」

「ふふ、確かに」

 

 シノンとキリトの二人は、まあ大方互いに宣戦布告でもしていたのだろう。

 今回は余裕を持って本戦のエントリーを三人とも終え、僕らは地下一階の酒場スペースに向かった。そこのボックス席を一つ占領すると、それぞれが飲みたいものを注文する。テーブルから飲み物が音を立てて生えてくる光景は、どこか微笑ましいところがある。

 

「そういえばさ、本戦って三十人の参加者がランダムで一つのマップに転送されてそこでバトルロイヤルを行うってこと、だよな?」

「ええ、大体合ってるけど、本戦のルールなんて運営からメールが来たでしょ? それに書いてあるわよ」

「まさかキリト君読んでないの……?」

 

 流石のキリトといえどもそのくらいは読んでいると思ったのだが。

 

「いや。よ、読んださ。ただ、俺の認識が合ってるのか確かめたくて……」

「いや、もういいよ。今日も解説するから」

「良い……のか?」

「ええ、仕方ないわよ。ルールを知らなくて敗退でもされたら情けないから」

 

 キリトが眼を輝かせるが、僕らが教えるのを断ったらどうする気だったのか。

 

「はぁ……。基本的にはキリト君が言った通り。同一マップでの三十人での遭遇戦。開始位置はランダムだけど。どのプレイヤーとも最低一km離れているところに出現する」

「いっ、一kmって。じゃあ、マップは相当広いのか」

「あなた本当にメール読んだ? そんなこと一段落目に書いてあるじゃない。ったく、本戦のマップは直径十kmの円形で、山あり森あり砂漠ありの複合ステージ。時間帯も午後から始まるようになってるから、装備による有利不利はなし」

 

 キリトに説明していく中、恐らく僕もシノンも機嫌は悪くなるだろう。仕方ないからそれは誰かに銃弾をぶち込むことで解消することにしよう。

 

「それ、本当に遭遇できるのか?」

「銃で撃ち合うんだからその位の広さは必要なの。スナイパーライフルなら射程は一km超えるし、ここにいるレントさん(化け物)はアサルトライフルで一km先に当てるからね」

「化け物って酷くないかい? 後、キリト君。それでも遭遇できないのは困るから、参加者全員に《サテライト・スキャン端末》ってのが自動で配られるんだ」

「サテライト、衛星か何かか?」

「そう、十五分に一回監視衛星が上空を通過するっていう設定。そのとき、参加者の端末に全プレイヤーの位置情報が送信されるのよ」

「つまり一ヶ所に留まっていられるのは十五分が上限、ってことか……」

「そういうことになるね。ただ、移動すると見せかけて……ってのもあるから」

「なるほど。でもこのルールじゃスナイパーって不利じゃないか? じっと待つのが仕事みたいなもんだろ?」

「一発撃って、一人殺して、一km動く。これには十五分もあれば十分過ぎるわよ」

「まあ、シノンちゃん以外はそれができないからBoBに出られないんだけどね」

「ええ。……それで、説明は大体これで終わりだけど?」

 

 キリトには大体のルールを説明した。正直、これでへぇとか言っている奴には負けたくない。ここでキリトが顔つきを変えた。

 

「それで、シノン。もう一ついいか?」

「何?」

「この中で、知らない名前ってあるか?」

 

 そう言ってシノンに見せたのは、BoBの本戦出場者一覧だった。僕は既に目を通してあり、キリトが何をしたいのかも分かるので口を出す。

 

「ああそれなら、僕が聞いたことのない名前は《銃士(じゅうし)X》かな、と《Sterben(ステルベン)》に《Pale Rider(ペイルライダー)》の三人。シノンちゃんは?」

「私も同じ。ってこれってステルベンって読むのね」

「そう、か……」

 

 キリトが考えていることは分かる。《死銃》の目的が名前を高めること――名乗っていることから恐らくそうだろう――だとすれば、既に有名な人が暴露するよりも、無名なプレイヤーが大物を食った方が映えるというものである。だから、無名の知らない名前を探したのだ。

―――それにしても、こういう名前好きなのかな、みんな。

 疑おうと思えば、全員が疑わしい名前をしている。銃士Xは、銃と士を入れ替えれば、しじゅうという発音になるし、Xは犯人のようなものを想像させる。ステルベンはドイツ語で《死》という意味だし、ペイルライダーは死を連れた騎士の名前だ。

 

「ねえ、貴方は何をしてるの? さっきから様子がおかしいし、昨日だって……」

 

 シノンが声をかけるのは、僕ではなくキリトだ。キリトの顔は非常に厳しいものになっている。それに気づいて、僕は少し驚いた。

 シノンの質問に答えられずにキリトは言葉を詰まらせる。

 

「――――」

「いい加減怒るわよ。さっきから説明もなしに。何なの、イラつかせて本戦でミスをさせようって気なの?」

「いや、その、そうじゃないんだ」

「じゃあ何なのよ」

 

 語尾を濁すキリトにシノンの語調が強くなる。キリトは僕のことを気にしているようだった。

 

「僕に聞かれたくないんだったら、先に行っているよ」

 

 飲み物の最後の一滴を飲み干して、僕は席を立った。キリトが止める素振りを見せるが僕は構わない。

―――僕に聴かれたくない話……か。

 何だかんだ言って少しショックに思っている自分がいる。キリトに頼ってもらえなかった、と。安岐のカウンセリングの内容もそれについてなんだろうか。

 ロビーで行われているトトカルチョの倍率を見に行ったりだとか、そんなことをして時間を潰して、残り時間が三十分になるまで待った。それからエレベーターを使って昨日と同じ待機ドームへと移動した。

 待機ドームは、昨日とは違いガラガラだった。それもそのはず、今日出場するのはたったの三十人なのだから。準備室で軍服に着替えて、そこからは座って待機していた。

 意識を集中させる。それには膝を抱えるのが一番だ。こうして膝を抱えていると、いつかの迷宮区を思い出す。あのときの声を。それを思い出すことで、僕の精神は落ち着いていく。

―――今度エリヴァさんにお礼を言っておこう。

 あの声は僕を引きずり上げてくれただけではなく、今も支えてくれている。新たな支えが見つかるまでは寄りかからせてもらおう。

 そう思っていると、大きくMMOトゥデイを流している液晶から元気な声が聞こえた。

 

『それじゃあ、カウントダウン行っくよー!!』

 

10(テン)

 

 外の歓声が響いてきた気がした。

 

9(ナイン)

 

 過去に思いを馳せるのは終わりだ。

 

8(エイト)

 

 今考えるべきは優勝(未来)のこと。

 

7(セブン)

 

 それから、《死銃》のこと。

 

6(シックス)

 

 結局、キリトは気分を持ち直しただろうか。

 

5(ファイブ)

 

 気になるが、彼のことだ。大丈夫だろう。

 

4(フォー)

 

 愛銃を撫でる。

 

3(スリー)

 

 安全装置(セーフティ)を外す。

 

2(ツー)

 

 初弾を籠める。

 

1(ワン)

 

 瞳を開く。

 

『BoB、開幕ッゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』

 

「さあ、始めようか」




 登場時から名前を呼んでもらえてsterben良かったね! 多言語を解するって設定が初めて活きた気がする。
 次回から本戦開幕です! お楽しみに。
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