SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 昨日の更新ができず、すみませんでした。本当に申し訳ありません。段々と日常から時間がなくなっていく今日この頃。こんなことがこれからもあるかもしれませんが、ご容赦ください。
 そろそろ白黒合流です。どうぞ。


#34 銃口

 左手首に着けたタイマーが鳴った。時間を確認する。八時四十五分になるところだった、つまり三回目のサテライトスキャンの時間だ。

 端末を取り出し、電波を待つ。四十五分ピッタリにマップに沢山の点が表示された。その全ての名前を確認しながら数を数える。その総数は二十七。今度は表示されていないのは僕とステルベンとペイルライダーだ。キリトの名前は南側の橋の付近に見つけた。シノンもその場にいた。北半分の点は全てが暗くなっている。要するに、生き残りは僕を除いて全員が南側にいるのだ。取りあえずは中央にある廃都市を目指そうと思う。

―――やっちゃったな……。

 時間を忘れて楽しみ過ぎた。ペイルライダーとステルベンも犠牲者になってしまったのかもしれない。隠れているだけだったり、僕みたいにアイテムを使っているのかもしれないが。

―――殺しなんて、ま、ありえないでしょ。

 自分で考察し、キリトにも忠告を促し、菊岡にも可能性の話をしたが、僕自身は本音では殺しなんてありえないと思っている。住所を普通は知ることができないし、家を知ったとしても普通は施錠していて侵入は難しいのだから、僕の考えたトリックにも穴はある。

 それにそもそも、連続殺人をするような人間はほとんどいない。たかがゲームのステ振りの話では、殺したとしても元凶のゼクシードだけだろう。うす塩たらこはAGI振りを推奨していたわけでもないのに、STRに多少余裕があるビルドだから殺された? そんな簡単に人を殺して良いはずがない。そこまで現代日本人の罪の意識は軽くなっていないだろう。

 そんな事を考えながら、僕は都市廃墟へと走る。これも長いVR経験で手に入れた身のこなしだ。普通の人が走るよりは、同じステータスでもスピードがかなり変わる。穴を飛び越え、時には回り込み、自分のアバターを完全に掌握する。

 約十分で都市廃墟へと着いた。取りあえずは数分後のスキャンを見てから次の目標を定めようと思う。

 

「それにしても、さっきまでペイルライダーはダインを追っていたはず。そのダインは追われていた場所の付近で死んでいたからペイルライダーにやられたと見るべき。もし死銃がペイルライダーを殺したならば、近くで動けないダインを狙わないのはおかしい。だったら目的外だったとみていいだろう。……まだ生きてて対象かもしれないのは、銃士Xとギャレット、それからシノンと僕だけか。さっきのスキャンじゃ二人は都市廃墟(ここ)にいた。まだいれば、僕と合わせて死銃を誘き寄せる餌としては最高かな」

 

 スキャンの時間だ。状況確認の独り言を止め、集中する。九時のスキャンだ。光点の数は二十七。ペイルライダーとステルベンは依然その姿を現さない。僕の脳裏に、殺されたのではないかという思いが浮かぶが、すぐにそれを払い落とす。明るく光る光点の数は十二だ。その中で都市廃墟にいるのは七人。南半分のエリアに五人がいた。キリトとシノンも都市へと来ていた。彼らの端末には僕の点は表示されていないので、いきなり遭遇して驚かせてみるのも面白いかもしれない。

 取りあえず、近くにいる一人を殲滅しに行こう。

 

******

 

~side:シノン~

 

「大丈夫か? シノン」

 

 ふと、女顔の剣士に顔を覗き込まれていた。

 先程の不可解な場面を見た後、キリトから死銃の話を聞いた。そして半信半疑――ペイルライダーの場面を目の前で見たが、そう簡単に信じられる話ではない――ながらも、危険な存在なら先手必勝、先に排除しておいた方が良いと思ってキリトと共闘関係を結んだ。

 サテライトスキャンに映らなかった死銃は、キリトと同じように河に潜っていると思われたので、河を辿って私達は都市廃墟までやって来た。しかし死銃と遭遇することはなく都市廃墟に入る。今は、あと数分で来るサテライトスキャンを待っていた。

―――一々距離が近いのよ!

 顔を覗き込む動作もそうだが、会話するときも無駄に近い。同性みたいなアバターのせいで警戒心が薄くなってしまっている。こんな距離、レントさんにも入られたことないのに。

 時計の針が九時を指した。端末を起動させる。ウィィンという起動音の後に、ホロ画面がバッと広がる。

 

「キリト、あなたは北からチェックして!」

 

 都市廃墟に表示される点を一つ一つタッチしていく。探しているのは新顔三人。ペイルライダーは殺されて――キリトによると――しまったので、ステルベンと銃士Xを探している。両方ともいたときは銃士Xを優先するとも決めてある。

 

「「いた!」」

 

 北と南からチェックしていた私達の指は同時に止まった。都市の中心にあるスタジアム、そこに銃士Xはいた。念のためにクロスチェックをするが、ステルベンの姿は見つからなかった。

 

「恐らく、狙っているのはこいつだ」

 

 キリトが動き続ける光点に触る。《リココ》という名前が表示された。確かに、位置取りを見ればリココを狙っているのだろう。

 

「リココが死銃の射程に入る前に止めないと」

「ああ、援護を頼む」

 

 スタジアムの近くまで行き、視力強化スキル――スナイパー必須スキルと言われている――で解像度を上げる。

 

「いた、まだリココを狙ってるみたいね」

 

 チラリと銃口が映った。それを伝えると、軽くうなずいてからキリトは言った。

 

「うん、それじゃあ俺が突入するから、シノンはそこのビルから狙撃体勢に入ってくれ」

「え、私も一緒に……」

「これはシノンの能力を最大限活かすためだ。俺がピンチの時はシノンが援護してくれるだろ? そう信じられるから俺は迷いなく突っ込めるんだ。コンビってそういうもんだろ?」

「…………」

 

 その言葉に頷くと、キリトは軽く微笑んだ。

 

「じゃあ、俺は君と別れてから三十秒で戦闘を始める。足りるかい?」

「うん、十分」

「頼んだよ、相棒」

 

 私の肩を軽く叩くと、キリトは音をほとんど立てずに走っていった。

 その背中が小さくなるにつれ、私にある感情が生まれた。これは緊張? いや、多分心細いんだ。人を殺せるような能力を持った人がこのGGO(優しい世界)にいて、自分一人だけがここに取り残されている現状が。

 頭を振って《氷の狙撃手》には似つかわしくない考えを振り落とし、目標のビルへと向かった。しかし心の大半がいつもとは違う思考に占められていたからだろう。私は自分が倒れるまで、撃たれたことに気がつかなかった。倒れてからもしばらくは自分が撃たれたことが理解できなかった。それを理解できたのは、僅かに動く首を動かして左腕に刺さった銀色の針のようなものを見たときだった。

―――電磁スタン弾ッ!?

 その針の周囲にはプラズマのようなものが走っており、それはペイルライダーに打ち込まれたのと同様の動きを封じる弾だった。

―――でも、どうして!?

 私はスタン弾が南側から、キリトが向かっていったスタジアムの反対側から撃たれたことを認めたくなかった。他のプレイヤーはこの短時間で南側には回り込めないはずだ。それは先程確認した。

 その疑問はすぐに解決されることとなる。弾が飛来した方向に目を向けると、そこの風景が揺らいだ。そしてその世界の隙間から一つの人影が現れた。

―――メタマテリアル光歪曲迷彩!?

 そんな馬鹿な。あれは高レベルネームド(ボスモンスター)にしか搭載されていない、光を体表面で流すという究極の迷彩なのに……。今回からmobが追加されたなんてアナウンスはなかった!

 ばさり、と翻るダークグレーのぼろマントが私の思考を遮った。私はそこにいるはずのない、いてはならない《ぼろマント》――《死銃》を見てやっと気づいた。

―――《銃士X》は《死銃》じゃなかった……?

―――キリトッ!!

 反射的にスタジアムの方を見ようとするが、麻痺で首が上手く動かなかった。

 するりと滑るように死銃は近づいてくる。そして私のすぐ前で立ち止まると、シューシューとした囁きが流れ出した。

 

「……キリト。お前が、本物か、偽物か、これではっきりする。あのとき、猛り狂ったお前の姿を、憶えているぞ。この女を、仲間を殺されて、同じように狂えば、本物だ。さあ、見せてみろ。お前の怒りを、狂気の剣を、もう一度」

 

 その言葉に私の脳が震えた。

―――殺す……? ゲームシステム外の力なんかを使う奴が私を?

 かーっと怒りが私の胸の中に溢れた。その怒りに突き動かされるまま、私は右腕を腰のサブウェポンへと動かした。電磁スタン弾が当たったのが左腕だからだろうか。全力で動かそうとすれば、右腕は僅かに動く。

 近接戦を苦手とする私でも、この距離では外しようがない。短機関銃MP7のマガジンを一本打ち尽くせば、この幽霊みたいな敵でも倒せることだろう。

 じりじりとじれったいほどゆっくりと動く右腕に集中しながら、私は死銃を観察した。

 死銃の後方には水色の中継カメラが浮かんでいた。そこには無様に倒れる私が映っているのだろう。そこに見せつけるが如く、死銃は左腕でペイルライダーのときと同じように十字を切った。そのゆったりとした動きはこちらを見下しているようにも見える。しかしMP7にはもう手が届いた。反撃はあと少しだ。

 そう粋がっていた私の思考は、死銃が懐から取り出した拳銃を見て固まった。何の変哲もないただの黒い銃、そう言い聞かせて必死に右腕を動かそうとするが、その動きも拳銃のグリップを見た時に止まった。手から最後の望みだった短機関銃が滑り落ちる。その音も私の耳には届いていなかった。

―――何で……どうして、ここにあの銃が。

 その銃のグリップにはある刻印がされていた。円の中に星、黒星(ヘイシン)、それが示すのは()()()

 死銃は一度コッキングし、左手で半身のウェーバー・スタンスを取った。その眼は不規則に赤く揺らいでいる。その中にあの男が見えた。あのとき、五年前に銀行強盗として押し入り、私に撃ち殺されたあの男が。

―――いたんだ、ずっと、この世界に……。

 私に復讐するために。

 死銃の指がトリガーにかかる。ここで動かなければ。たとえあの銃から飛び出した弾丸に現実の命も奪われるとしても、ここで恐怖を乗り越えなければ――。しかし、あの恐怖には打ち勝つことなどできないという巨大な諦念が、私の身体を動かすことを拒絶する。

 死銃の指が握り込まれる瞬間、私は目を閉じた。

 

 

 

 

ザシュッ!!

 

 

 

 

 しかし聞こえてきたのは銃声ではなかった。私の意識もまだある。そっと瞼を上げる。死銃の肩には小振りのナイフが刺さっていた。死銃の身体が揺れる。誰かが死銃を攻撃したのだ。この隙を突いて逃げなければ、しかし麻痺はまだ解けない。

 タンッ、と。私の低い視界の前に白い軍靴が現れた。視線を上げる。そこにあったのは、私の知る限りで最も『強い』と思う人。その顔を見た瞬間、私の体にあった緊張は解け、安堵の気持ちが沸き上がる。

 白い軍服に包まれた人――レントさんは死銃へ暢気にも話しかけた。

 

「その髑髏マスク、赤い目。……知り合いを思い出しますね」

「《白の剣士》、お前は、憶えて、いるんだな」

「――……そのぶつ切りの喋り方、やはり貴方でしたか」

 

 私は彼がまるで警戒していないのを見て、事情を知らないのだと悟る。このままではレントさんが撃たれてしまうかもしれない。

―――それは、嫌。

 

「レントさんっ! そいつは、《死銃》っ!」

 

 先程まで動く気配もなかった唇が動いた。その言葉を聞いたレントさんは驚愕、いや恐怖の表情を浮かべた。

 

「……それは、最悪ですね」

「くくく、キリトから、聞いて、いなかったのか」

 

 

 

カラン

 

 

 

 私の前に立つレントさんと死銃の間にグレネードが転がった。

―――何っ!?

 死銃はすぐさま近くのビルへと逃げ込む。グレネードとはそれほどの威力があるのだ。私も覚悟を決めた。しかし予想に反して、グレネードは爆炎ではなく白い煙を吐き出した。よく使用されるプラズマグレネードではなく、スモークグレネードだったのだ。

―――逃げなきゃ。

 そう思うのだが体が動かない。しかしレントさんに左腕を掴まれ優しく引き上げられた。彼はヘカートも拾い、私を抱えて走り出した。その横顔は非常に真剣で、かけようとした声が喉で詰まってしまった。

 

「レントッ!!!」

「遅い!! キリト君はあいつの弾を防いで!」

 

 美少女とも思える男が脇に走り寄ってきた。恐らく先程のグレネードはこいつが投げたのだろう。キリトにレントさんは防御を頼む。その必要はあるのだろうかと思ったとき、ビュンと私の顔の横を大型弾が通り過ぎていった。煙の向こうからにしては狙いが良すぎる。追ってきているのだ。

―――もう、いいよ。

 キリトとレントさんは二人とも高ステータスだろうが、STR的にも私を抱えているレントさんの速度は高くない。それに合わせているキリトも。死銃のビルドは分からないが、いずれは追いつかれるだろう。

 カン、また弾が飛んできたが、今度はキリトの光剣に斬られる。だがその顔に余裕はない。この距離で狙いの確かな狙撃銃に撃たれているのだ。それもそうだろう。

 このままではただのジリ貧だ。どうするつもりなのだ。

 その答えは角を曲がった先にあった。半ば壊れたネオン。そこには《Rent-a-Buggy&Horse》。SBCグロッケンにもあった貸しバギーだ。ズラッと並んだ二人乗り用バギーの大半は壊れていたが、二台だけ動きそうなものがあった。乗り物はそれだけではなく、看板の通り機械馬もズラッと並んでいた。こちらも二頭動きそうである。レントさんがどちらにするか悩んだことが分かったので、私は知っている情報を囁いた。

 

「馬は、駄目よ……。扱いが、難し過ぎる」

 

 馬はバギーよりも難しいらしい。リアルでの乗馬経験者でも乗れなかったのだとか。リリースからそう長く経っていないGGOで馬に乗る練習をしているような人はいないだろうから、完全なオブジェクトである。

 

「キリト、は……」

 

 一緒に走ってきたキリトならばバギーを動かせる。だから彼と一緒に行ってと言おうとしたが、舌が動かなかった。そもそもバギーは二人乗りだ。私が乗ったらもう一人が乗れなくなってしまう。どうするのかと問おうとしたが、レントさんとキリトは速かった。

 レントさんが私を後部座席に乗せてバギーを勢いよくターンさせた。キリトは機械馬の方に一人で跨った。

 

「あなた……運転、できるの?」

「それより、シノンちゃん! あの残った馬、破壊して!」

 

 私は痺れの取れた腕でスタン弾を抜きながら、瞬きした。それから、レントさんの言っている意味を理解した。彼は残った馬で、あのぼろマントが追ってくると思っているのだ。いくらなんでもそれはないだろうと思いながら頷く。

 

「わ……分かった、やってみる」

 

 震えの残る両手で、脇に置かれていたヘカートを構える。距離はほんの二十m。キリトとは違って弾を防がれることもない。撃てば当たるだろう。ヘカートの弾ならたとえ金属馬といえどもひとたまりもない――元々、そういった用途の銃だ――。

 トリガーに指をかけると薄緑の着弾予測円が表示され、馬の横腹に収まる。そのまま指に力を――

 

 

 

がちっ

 

 

 

 

「な、何で……。どう、して……」

 

 安全装置がかかっているわけではない。何度やっても、何度指に力を入れても、指が進まないのだ。トリガーと私の指の間には埋めがたい隙間があった。

 

「う、撃てない……」

 

 そのとき、赤い弾道予測線が飛んできた。ほぼ同時にマズルフラッシュが通りの向こうに見える。

 

「くそっ!!」

 

 私に向かって飛んできた弾丸を、レントは自分のライフルで叩き落した。

―――銃身に傷、ついてないかな……。

 何を呑気な。我ながらそう思ってしまう思考が真っ先に浮かんだ。意識が現実から離れていくようだった。

 それを引き戻すかのように、けたたましいエンジン音がした。同時に体が後方に引っ張られる感覚。バギーは猛スピードで走り出した。横をキリトが操る金属馬が走る。

―――逃げきれる、かも。

 私は少しだけ、本当に少しだけ心に余裕が戻ってきた気がした。




 さて、先に言っておきましょう。SG550は戦線離脱です。銃身が傷ついちゃったしね、ドンマイ。できれば装備を全部登場させたいですよね。使い潰したいです。後は、
・二丁拳銃
・ナイフが一本
・鉄板入り軍靴
・光剣
ですね。
 それでは、また明後日に投稿できていますように。

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