SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 スリュムヘイム攻略です! 原作よりも進行が速いだけで大した変化はありませんが、どうぞ。


#41 巨人

 スリュムヘイムの内部で僕らは敵にほとんど遭遇しなかった。中ボスも半分ほどが不在。大した戦闘もせずに一階層のボスへと辿り着いた。

 前回スリュムヘイムに侵入したときはこいつに散々にやられたものだ。そこにいたのは単眼巨人(サイクロプス)。馬鹿高い攻撃力が売りのフロアボスだ。

 既に作戦は決めてある。前回の侵攻時に二発でリーファがやられてしまったことから推定の攻撃値を出してみた。それを伝える。今回集まった八人は皆軽装プレイヤーだ――そもそもいつものメンバーで壁をできるのがエギルしかいないのだが――。恐らくまともに当たれば数発と耐えられない。そこで考えた作戦はこうだ。

 一、僕がボスに張りついてひたすらヘイトを稼ぐ。

 二、皆で殴り殺す。

 単純なようだが、その分ストレートだ。僕がどこまで攻撃を捌ききれるかに懸かっている。シノンが援護してくれ、何かあればキリトと交代する予定だが、僕の負担が計り知れない。今回の招集も僕が行ったことなのでその分は働くつもりだから良いが。

 何はともあれ戦闘開始。ここからは気を抜けない。

 まずサイクロプスは右手のハンマーを両手で叩きつけてくる。これは恐らくダメージ狙いというよりは威嚇。その証拠に床にぶつかったハンマーからの衝撃波がモンスターの咆哮(ハウリング)――こちらをスタンさせるものだ――の役割を果たしている。前回もやられたことなので全員が対策をしていたのでこれは問題ない。

 あれほどの重攻撃をしたとは思えない軽やかさでサイクロプスは先頭の僕に横からハンマーを振るう。ハンマーを視界にすら収めず予測し、スライディングで避ける。その間に七人はそれぞれが得意な距離で位置取りを終えた。風圧などでどうしても起こってしまう削りダメはアスナが回復してくれることになっているが、そもそもこの敵ではヒットすら許されない。一撃一撃のスタン値が高く、ラッシュをかけられればそれで終わりだ。

 スライディングで懐に入った僕は胸を軽く剣で薙ぐ。ギョロっと単眼が僕を睨む。サイクロプスは両腕を素早く内側に巻き込んでこちらを押し潰そうとするが、所詮は人型、()()()範囲である。そんな相手に後れを取るはずもなく、スルっと腕の中を離脱する。ALOでもSAOでも攻撃を避けられ続けるとヘイトが集まるようで、周りで攻撃する七人に一つ目が向くことはない。単眼な上に近視眼のようだ。

 少し距離を取れば奴は真っすぐこちらへ突進してきた。しかしそれは無防備に攻撃組へ背中を向ける行動であり、余りお奨めはできない。なぜならこのサイクロプスのようになるから。

 この間のアップデートで追加されたばかりのソードスキルだが、モーションが大きくなるほどに当然威力は上がる。しかし大振りで時間のかかるモーションを成功させるのは難しく、とどめの一撃として扱われているのが現状だ。

 このサイクロプスは直線で動いていて行動予測がし易い。更に言えば、遠ざかる――本来はノックバックした――相手を追って放つ突進系のソードスキルは総じて威力が高い。つまりは蜂の巣である。

 後ろから大技を何発も入れられたサイクロプスは大袈裟に転んだ。そこに前からラッシュをかける。前のめりに倒れたため、丁度僕の前には大きな単眼が。

―――…………狙えってことかな?

 

******

 

 以前は手も足も出なかったボスを軽く捻り潰し、僕らは第二階層へと向かった。第二階層も敵と遭遇することはほぼなく、迷宮の突破が主な仕事となった。

 そんな道の途中で、気が緩んだのかリーファがふと話しかけてきた。

 

「そういえばさっきもでしたけど、師匠の回避技術ってどうなってるんですか?」

「そういえばそうね。GGOのときも結局は教えてくれなかったし……。どうやって避けてるの?」

 

 サラっと話に乗ってくるシノン。よく見ればリズベットとアスナ――彼女は知っているだろうに――も聞きたそうな顔をしており、気にしていないように見えるシリカも耳がピンとこちらを向いている。

 ハアと溜息を吐いてから僕は口を開いた。

 

「そう難しい話じゃないよ。ただVR適性に物を言わせて避けてるだけだから」

「へえ、VR適性、ねぇ。この間学校で全校が測られたけどそんなに重要なものなのかしら」

「でもこれからは就職にも関係してくるらしいですよ?」

 

 僕の単純な答えにシノンが疑いの目を向けてきたがスルーする。

 

「え、じゃあ師匠のVR適性ってどのくらいなんですか?」

 

―――あっ……。

 VR適性は今ではそこら中で測定を行っているようなものだ。いつかは聞かれてしまうと思っていたが、まさか自分から墓穴を掘るとは。()()()()のキリトとアスナが呆れたような顔をする。

 

「そういうリーファちゃんはどうだったの? 学校で測ったんでしょう?」

 

 動揺した様子を微塵も見せないようにしつつ、僕はリーファに質問を跳ね返す。

 

「それがA+だったんですよ! でもあんなに避けられるようなこともないし……」

 

―――マズっ。

 現在はVRが出来たばかりの頃とは適性の測り方が変わっていて、九段階の判定となっている。それの最高判定がA+なのだ。その上など存在しない……ことになっている。

 

「えっ、私A-だったんですけど……」

 

 こういうときのシリカは天使である。こちらが応えづらいときに話を逸らしてくれる。

 

「私はAだったわよ」

「俺も会社で受けさせられたがAだったなぁ」

 

 リズベットとクラインもそこそこのVR適性値を誇っていた。まあ随意飛行ができるならばA-以上の判定が妥当ではあるが。

 ここでシノンが訝し気な顔で話を引き戻してくる。

 

「私もA+だったけど、だんまりしてる三人は何判定だったのかしらね? 私とリーファよりは上なんでしょ?」

 

 こちらの思考を読むかのように痛いところを突いてくる。思考を読むように教えたのは僕だが。

 キリトが白状するように両手を上げる。

 

「はあ、そこまで言われたんじゃ仕方ないな」

「ちょっと、キリト君!」

「アスナちゃん、僕がしくったよ、ごめんね? ――そう、考えてる通り、僕ら三人のVR適性はS判定だよ」

「えぇっ」

「都市伝説じゃなかったんですね……」

「そんなのありかよ……」

「はぁ、あんた達って本当に規格外よね」

 

 VR適性はFからA+までの九段階が基本だが、十段階目の判定Sが都市伝説のように噂されている。VR発祥の地である日本国内でも未だ数人しか確認されておらず、国民全員を調べ上げたわけではないにしても、あの超大国であるアメリカですら確認できていないと聞く。要するに国家機密である――それほど明確な箝口令は敷かれていないが――。

 S判定にもなると《意志の力》でVRのシステムに干渉できると言われている。心当たりしかないのが辛いところだ。

 黙っていたことへの言い訳を重ねようとしたところで、先頭を歩いていたキリトの雰囲気が変わった。

 

「みんな、警戒。二層のフロアボスだ」

 

******

 

 二層のフロアボスは二頭の巨大な斧を持った牛頭巨人(ミノタウロス)だった。物理耐性が異常に高い金色のミノタウロスと、魔法耐性が異常に高い黒いミノタウロスがコンビを組んでいた。

 攻撃力も高いのだが、何よりうざったいのはそのコンビネーションだ。物理耐性が低い黒ミノのHPが下がったり、集中攻撃を浴びたりすると金ミノが庇いに来るのだ。そして金ミノに物理攻撃はほとんど通らない。メイジが居ない脳筋パの弱点を突かれた形だ。

 僕の魔力は未だ回復しない。アスナは支援に特化したメイジなため攻撃魔法はほとんど使えない。使えたとしても威力が低い。

―――魔法さえ撃てれば終わるのにっ!

 道中の迷宮やトラップ、仕かけは全てAIのユイ――今回はマップデータにアクセスするという禁じ手も使っている――のお陰で最速でクリアできたが、こんなところで時間を使うわけにはいかない。トンキーたちがいつ全滅するのかは誰にも分からないのである。

 僕は黒ミノが何度目かの瞑想――HPの回復行動だ――に入ったとき、高リスク高リターンな作戦を皆に伝えた。

 

「みんな! 僕の合図で金ミノにありったけのソードスキルを叩き込んで!」

「はい!」

「おうよ!」

「分かった」

「シリカちゃん! 合図をしたらピナのバブルを!」

「任せてください!」

 

 詳しい説明を聞かずに承諾してくれる。本当に信頼できる仲間達だ。

 僕は金ミノの斧をタイミングを合わせてパリィする。その巨体がほんの僅かに上に跳ねた。

 

「今っ!」

「ピナ! 《バブルブレス》!」

 

 魔法耐性が低い金ミノは小竜の放つ泡沫により幻惑効果に囚われる。時間にして一秒程度だが、SAO上がりの近接プレイヤー達にはそれだけあれば十分だ。

 全員の武器に光が灯る。ALOでソードスキルにはそれぞれ属性攻撃力がつくようになった。近接プレイヤーにはありがたい魔法攻撃枠である。それを全てぶつける。

 金ミノの斧による迎撃は間に合っていない。シノンの弓のソードスキルの効果でミノタウロスは体を仰け反らせる。五人がソードスキルの硬直に入っても僕とキリトの動きは止まらない。

―――キリト君もできるようになったんだ。

 僕は素直に感嘆の声を上げる――もちろん攻撃の手は止めないが――。今行っているのは《スキル・コネクト》。超高等技術である。それを両手に装備した剣で再現している。かなり四苦八苦しているようだが、僕以外にできる人間が現れたのは初めてである。

 キリトが四発目のソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を終えて硬直(ディレイ)する。先程から一気に減り続けている金ミノのHPバー。僕は六発目のソードスキルで、金ミノに引導を渡した。

 

「ははは、流石はレント……。よくそんなに繋げられるぜ」

「発明者を舐めないでもらいたいね。僕がこの技にどれだけの時間を注ぎ込んだと思っているんだい?」

 

 倒れ込むキリトに手を貸す。そこでようやく部屋の片隅から黒ミノが雄叫びを上げながら立ち上がった。彼は辺りを見渡して相方がいないことに気づくと怯えた――ような気がした。

 

「――おし、黒いの。ちょっとそこで正座」

 

 クラインが刀の背で肩を叩きながら獰猛に笑う。

 物理に弱いモンスターは脳筋パに磨り潰される運命である。南無三。

 

******

 

「ヤバいよ。もう後三割ぐらいしか残ってない……」

 

 二層の七割程度しかない三層――情報源はユイだ――の攻略にかかった時点で、リーファが首から下げているメダリオンは七割以上が黒く染まっていた。

 リーファの報告から、残り時間はあって九十分程度だと僕は考える。ヨツンヘイムの中央付近は僕が羽化させた空飛ぶ移動砲台ばかりだと言っても、二時間はもたないだろう。下手すれば一時間以内に全滅する可能性も十分にある。ボスである《霜の巨人の王スリュム》との戦闘に少なくとも三十分はかかるだろうから、三層には三十分程度しか時間を割けないことになる。

 

「こっちです!」

「そこのレバーを引いて下さい!」

「左に曲がった後、道が狭まります!」

 

 傍から見たら酷い不正だろう。トラップの場所も、ギミックの攻略も、迷宮の踏破も全てマップデータから情報を得ているのだから。

 ユイには後で何か個別でお礼をしようと僕が心に決めた頃、三層のフロアボスへと僕らは辿り着いた。三層での道中での戦闘は驚きの零回。ユイは敵も避けてくれたのだろう。

 

「何ですか、あれ……」

「キモッ」

「うわぁ……」

「うーん、足が多いのは同じなんだけどなぁ……」

「さっさと倒しちゃいましょ」

 

 女性陣の反応は様々だったが、皆一様に嫌悪感を示している。まあ、それもそうだろう。ボスの巨人はサイクロプスやミノタウロスの二倍ほどの体躯を誇り、そして――実に気持ち悪いことに――下半身に百足のように何本も太い足がついていた。

 取りあえずはいつもの布陣で様子を見る。何度か斬り合った感触だと物理耐性は余り高くなさそうだ。攻撃力は馬鹿高いが。

 僕とキリトでヘイトを稼ぐ作戦に出た。物理耐性が高くない敵であればこの戦法が最も安定するのだ。僕とキリトの負担はかなり大きいが。

 

******

 

 約十分の戦闘がそろそろ終わる。いつぞやの五十層のときのように足を全て斬り落とされた巨人は攻撃に成す術もないが、全く可哀想に感じないのは外見のせいだろう。

 ソードスキル(決め技)のラッシュでボスを沈め、四層へと踏み込む。

 四層にはボス部屋くらいしかないというユイの情報通り一本道で下っていったのだが、そこで非常に判断の困る光景に出くわした。

 端的に言えば檻だ。ちょっとした洞が氷柱で封じられている。そして中に閉じ込められているのは美しい女性だった。髪と瞳は美しい金茶で、粉雪のような肌。西洋風の整った顔立ちをしている彼女は、間違いなく美人だった。

 

「――助けて…………くだ、さい……」

 

 氷の枷で手足を繋がれた彼女は弱々しい声で語りかけてきた。クラインがふらりと牢獄に近寄るのを、キリトがバンダナを掴んで引き留める。

 

「罠だ」

 

 キリトの警戒は当然だ。ALOではこんな場合はほとんどのケースで罠だからだ。いかに運営の性根がひん曲がっているかが分かるだろう。

 ユイも、このNPCのHPバーが有効化されているという、更なる不安要素を上げる。HPバーが搭載されているということはお助けキャラ――こんな美女がか?――か護衛対象――サブクエストまで受けている余裕はない――か、敵である。要するに手を触れないのが安牌だ。

 僕とクライン以外の六人が罠という決断を下すも、僕は牢に近づいてその女性に話しかけた。

 

「申し訳ありませんが、貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「おい、レント!」

「――私の名前はフレイヤです」

 

 ユイによればこの女性――フレイヤ――もウルズと同じく言語エンジンが搭載されているとのことだったので、僕は質問を投げかける。キリトが止めに来るが目配せしたクラインが間に入る。

 

「なぜ、このような場所に?」

「……私はスリュムに盗まれた我が一族の家宝を取り返しにこの城へ忍び込んだのですが、三番目の門番に捕まってしまい…………」

 

 僕は脳内にある北欧神話と彼女を一致させていく。これでもしも人違い――この場合は神違いか?――だったり、改変が行われていたりしたら、僕は運営に殴り込む。そう決意してから僕は仲間の説得に取りかかった。

 

「僕はこの人は助けた方が良いと思うよ」

「貴方もそこの侍の肩を持つの?」

「レント、いや、気持ちは分かるが、明らかに罠だろ」

「そういう話はちゃんとモデルになった北欧神話を読んでから、ね? 絶対に彼女は僕らの力になる。保証するよ」

「ほら、レントだってこう言ってるしさ! いいだろ?」

 

―――揺れた。

 キリトの意識が逸れた瞬間に、僕は牢獄の氷柱を切断する。あ、と皆が驚きの表情を見せる中、僕はフレイヤに手を差し出した。

 

「――ありがとうございます。妖精の剣士様」

「その代わり、力になっていただけますか?」

「もちろんです」

 

 目の前にパーティへの参加の可否を問うウィンドウが表示される。迷うことなく〇を押すと、九つ目のHPバーが視界の左隅に現れた。

 

「――……仕方ない、ここまで来たら乗りかかった舟か」

「レント、後で説教ね」

 

 あの二人を黙らせるにはフレイヤの正体を見てもらえばいいだろう。非難の目を軽く躱して僕は先に歩き出した。

 

「ダンジョンの構造から考えると、もうボス部屋だと思う。序盤は今までと同じく僕とキリト君がヘイトを引きつけるけど、防御主体で警戒を怠らずに。反撃のタイミングは指示するから。HPの減りからの行動変化に気をつけて」

 

 僕が口早にありふれた指示を伝える。流石に全員の顔が引き締まった。僕から引き継いだキリトが皆に声をかける。

 

「――さあ、ラストバトルだ! 全開でぶっ飛ばすぞ!」

 

 僕ら七人にユイ、ピナ、更にはフレイヤまでもが声を揃えた。

 

 

「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」「キュー!」




 良いところで終わってしまいましたが、続きはしばらくお待ちください。色々とやることが立て込んでいまして八月中の更新は難しいです。次話をお届けするのは九月になってしまうと思います。申し訳ありません。
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