SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 ギリギリ……。各月一話は確実に更新したいのに、時間が取れないっ!


#44 再会

「絶剣……?」

 

 京都から帰ってきた僕はALOの外部掲示板を覗いていた。

 たったの一週間程度離れていただけだが、流石は日本最大のVRMMORPGである。情報の更新度が半端ではない。そのギャップを埋めるために掲示板を遡っているわけだが、そこである書き込みを見つけたのだ。

 それは一種の挑戦状だった。昨年追加されたOSS(オリジナルソードスキル)で作成した自らの技を賭けてのデュエル募集。そのOSS、なんと十一連撃。

 SAOにはなかったこのOSSというシステムは、多くのALOプレイヤーに夢を抱かせた。自分で好きなソードスキルを作成して登録ができる、その言葉はまるで甘露だった。だが蓋を開けてみればこの登録作業が鬼畜だったのだ。

 登録条件はいくつかある。まず人の可動領域だとかに配慮された技の構成であること。これはむしろ外れる方が難しい条件だ。

 次に、未だに登録されていない動きであること。これも簡単なものだ。これによって作成できるものが連撃系にほとんど確定してしまうが――単発の動きはほぼ全パターンが既に登録されている――、その程度だ。

 そして最後にして最も鬼畜な条件が、ソードスキルとして十分な速度及び精度を備えていること。これだ。なんだその程度かと思った人は考えてほしい。そもそもが通常の動きではできないようなスピードと威力を叩き出すのがソードスキルだ。その登録のためにシステムアシストなしで同じ動きができなくてはならない。これはある種の矛盾ではないだろうか。

 登録されたOSSには属性や威力ブーストがかかるが、それを含めてもメリットが多いとは口が裂けても言えない。メリットを挙げるとするならば、万全の状態での動きをいつでも再現できる、自分の技に名前をつけられる、威力ブースト、属性ダメージ、その程度しかないのだ。それに比して、登録のためには身体が動きを記憶するほどの反復練習が必須。これは釣り合ってるとは言えないだろう。

 そんなわけでOSSは、凄腕のプレイヤー達が己の必殺技として一つ作成する自らの誇りと技術の結晶、そういう位置づけになったわけだ。

 当然、僕もキリトもアスナもOSSを作成した。しかしその連撃数は五連撃程度だ。知られている中での連撃数はユージーンの八連撃が最高だったのだ。

 そんな中で十一連撃というものがいかに凄いかは分かったと思う。OSSは一代、一人に限りコピーして贈呈することができる。十一連撃を継承できれば大きな力になることだろう。そう考えた輩が連日そのデュエルに挑んでいるそうだ。

 しかし未だ勝者はいない。いや、勝者どころか惜しいところまで行ったプレイヤーもいないという。かの《黒の剣士》ですら敗れたという情報まである。

 いつしか、誰も勝てない()対無敵の()士ということで《絶剣》と呼ばれるようになったらしい。

 

「面白いじゃん、明日辺り遊びに行こうかな」

 

******

 

 そんなわけでやって来ましたアインクラッド二十四層。ここの北部にある小島でその辻デュエル――辻斬りにかけてこう呼ばれているが、通行人を狙ってはいないのでこの呼称はおかしいと思う――は行われているそうだ。

 島に着くと丁度デュエルが始まるところだった。と、どこか見覚えのある集団が近づいてきた。

 

「あっ! レントじゃない! あんたも《絶剣》と()りに来たの?」

 

 特徴的なピンクの髪だ。その後ろからちょこちょこと小竜を連れた少女が寄ってきた。リズとシリカである。彼女達が来た方に目をやれば、黒ずくめの男とその横でこちらに手を振る自称弟子がいた。

 

()って、誰かやったの?」

「アスナよ! ほら、もう始まるわよ!」

 

 僕としたことが誰がデュエルをしている――始める――のかすら見ていなかった。確かに小島の中心に円形に広がってる土の部分の中心で、二人の少女が向かい合っていた。当然、片方はアスナだ。

―――あれが、《絶剣》……。

 

「へぇ、随分と可愛らしい子だね」

「――あんた、その台詞シノンの前で言ったら死ぬわよ?」

 

 勝手に殺されるところだったが、僕が言ったことは事実だ。

 アスナはSAOでもトップと言われるほどの美人――当時なら美少女か――だったが、絶剣もそれに勝るとも劣らない闊達な印象を与える美少女だ。仮想世界のアバターなので実際は分からないが、あれだけの美形アバターが出るならばVR歴は非常に長いのだろう。

 黒と紫で固められた闇妖精(インプ)の少女。長いストレートヘアに額の赤いバンダナがよく映えている。その手に持つのは細身の軽量型片手剣だ。

 二人の間でくるくると回っていた数字が零になった。

 駆け出すアスナ。その突進の勢いを乗せたまま連続で刺突を放つ。その一閃一閃が正確さとスピードを持って絶剣に襲いかかる。それらを全て見切り躱した絶剣は、アスナの細剣を弾くと一気にアスナの懐に潜り込み剣を振るう。勢いに圧倒されたアスナは大きく後方へ距離を取る。

―――強い。

 その一言に尽きる。隣ではシリカ達が息を呑んでいるが、この一合の打ち合いだけでも絶剣の方が上手だと感じさせた。間の取り方、戦闘中の読み、そういったものが並の剣士のそれではない。更に彼女はVR適性の異常な高さも僕に感じさせていた。僕とキリトとアスナはS判定という都市伝説のような結果を出しているが、彼女のそれはその僕らよりも高いのではないだろうか。

 一口にVR適性Sと言っても、僕らはそれぞれに秀でているところが違う。キリトはVRからの信号を脳で受け取り、脳からの信号をVRに送るという作業のスピードが高い。いわゆる()()()()である。対してアスナはVRのアバターを動かすのに最適な信号を送ることができる。いくら再現度の高いVR世界といえども、現実世界との誤差はある。それゆえ現実世界と同じようにアバターを動かすと動きに無駄が生じるのだ――ほぼ感知できないようなものだが――。それを減らすことで結果的にアバターの動きが洗練され速くなる。いわゆる()()()()、それにアスナは長けている。僕の場合は、プレイヤーに本来与えられていないVR世界の裏側までも読み取る、()()()()。簡単に言えば感覚が鋭くなり、本来見えない構造が見え、第六感が働く。

 あの絶剣はと言うと、今の一合から少なくともキリトと同等以上の反応速度を持っていると推測でき、――構造が見える僕だから分かることだが――その動きはアスナよりも洗練されていた。

 剣士としてもその技量の高さは計り知れず、VR適性も他の追随を許さない。だからこその、()()

 そんなことを考えていると、アスナの雰囲気が変わった。同時に二人の少女が互いの距離を一気に縮める。

―――速い!

 アスナと絶剣、二人の剣が何度も交差する。鋼と鋼がかち合い不協和音を鳴らすも、それすらも二人の剣舞の伴奏となる。

 互いにHPを少しずつ減らした後の鍔迫り合いで、アスナが仕かけた。

 絶剣のボディにめり込むアスナの拳。スキルの効果か、絶剣が怯む。その隙を見逃さずにアスナの細剣からソードスキルの光が漏れた。

 煌めく四連撃。発生する土埃。しかし僕には見えていた。直撃する寸前に絶剣が間に剣を滑り込ませ、ほぼノーダメージで済ませたことを。

 

「凄い……」

「えっ?」

「アスナちゃんの《カドラプル・ペイン》を捌いたよ」

 

 独り言を聞いたリーファには適当に解説を入れつつ、視線は離さない。ソードスキルの硬直を絶剣が狙わないはずがないからだ。ここに来るべきは、大技。

―――見せろ、十一連撃を!

 土埃が晴れると、絶剣はその剣に紫色の光を湛えていた。僕の知らない構え。

―――来たか!

 瞬く間にアスナの左肩から右腰にかけて現れる五つの傷。アスナのHPゲージがイエローまで急激に落ちる。しかしソードスキルは終わらない。対抗するようにアスナも構えを取る。

 今度は右肩から左腰にかけて、先程のと合わせてX字になるように増える傷跡。それを意に介さず、アスナの五連撃が閃く。

―――いや、まだだ!

 最後の一撃が硬直で動けないアスナに降り注ぐ。その剣先はX字の中央を正確に穿つだろう。

 しかし、その一撃がアスナに入ることはなかった。絶剣が剣を止めたのだ。まあ、勝負はついていたのだから構わないのだろう。

 そこで僕にメッセージが入った。フレンドメールではなく誰にでも送ることができるダイレクトメッセージでだ。

 僕がその文面を眺めていると、どうやらアスナ達に動きがあったようだ。

 

「ちょっと、師匠! どうしましょう!? アスナさんが連れてかれちゃいました!」

「別に悪い()じゃなさそうだったし構わないんじゃない?」

「あんたねぇ、随分と雑じゃない」

「アスナちゃんに何かあれば僕じゃなくてキリト君が動くでしょ。それに僕は用事が出来ちゃったからね。これで失礼するよ」

「用事、ですか?」

「うん、他のゲームで会った人がレクチャーしてほしいってさ」

 

******

 

~side:アスナ~

 絶剣――ユウキと言ったか――に連れられ上層の酒場までやって来てしまった。

 そのまま手を引かれて酒場の隅のテーブル席に案内される。そこには既に五人――女性が二人、男性が三人――が席に着いており、ユウキと目線で笑い合ったようだった。

 彼らは《スリーピング・ナイツ》というギルドらしく、一人ずつ紹介された。この時点で私は少し混乱していたが、そんな私にある人物が追い打ちをかけた。

 

「――皆さんが、《スリーピング・ナイツ》ですか、って、アスナちゃん? それにそっちは《絶剣》?」

 

 特徴的な白ずくめ。色の規制が緩和した今でも彼以外には存在しない白い目と白い髪を持つ青年。そう、レント君だ。

 

「えっと、どちら様?」

 

 ユウキが尋ねる。それにしても、なぜレント君は彼らのことを知っているのかと私は疑問を抱く。

 

「あっ! もしかしてレントさんっすか!」

 

 赤い髪の――たしか――ジュンが椅子から立ち上がりレントに声をかけた。

 

「あ、合ってたか。……ってことは《絶剣》てユウキ?」

「そうだけど……、レントってあのレント!?」

 

 どうやらレント君と《スリーピング・ナイツ》は面識があるらしい。

 

「あっ、レントさん。アバター変わってるんで紹介しますね。えっと、こい――」

「いいよ、分かるから。火妖精がジュン君、水妖精がシウネーさん。土妖精がテッチさんで、鍛冶妖精がタルケンさん、影妖精がノリさんでしょ?」

「えっ、何で分かるんすか!?」

「雰囲気と言葉遣い、個々の性格から考える種族選択、立ち居振る舞いとかからだね」

 

 それ以上はレント君は口にせず、目線でジュンに詳しい説明を求めたようだった。それに応えてジュンが口を開く。

 

「実は、俺達であることをしようとしたんすけど、中々上手くいかなくて。それで慣れてる人にレクチャーしてもらおうと」

「ユウキがデュエルで頼れる人を探すと言っていたのですが、念のためというか痺れを切らしたというか、レントさんにレクチャーしてもらおうと思って、連絡させてもらいました」

 

 シウネーが継いで理由を述べる。私とレント君が呼ばれた理由は分かった。レント君は数々のVRゲームを渡り歩いたそうだから、そこのどこかで彼らと出会ったのだろう。

 私は先程敢えて曖昧に表現された部分を尋ねる。

 

「そこまでは分かったわ。それで、その『あること』ってどんなことなの?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 

 ユウキがウズウズといった様子で口を開く。

 

「ボク達はね、ここにいるメンバーだけでこの層のボスを攻略したいんだ!」

「「――はぁ!?」」

 

 私とレント君の声がぴったり重なった。

 

******

 

~side:レント~

 本来ボス攻略というのはレイド――SAOなら六人パーティ八組の四十八人、ALOなら七人パーティ七組の四十九人――で行うものであり、間違ってもたったの一パーティで行うものではない。お前が言うなという声が轟いてきそうだが、それが歴とした事実だ。だが、

―――だからこそ、面白い。

 ALO(この世界)には安全マージンも、確実な攻略も必要ない。ゲームであり、遊びなのだ。

 僕の頬がゆっくりと緩んでいく。

 

「えっとその、流石に六人ってのは、無理じゃないかな……?」

 

 アスナが言いづらそうに口を開く。

 

「うん、全然ダメだった。二十五層と二十六層のボスもボク達的には良いとこまで行けてたと思うんだけど、でっかいギルドに先を越されちゃってさ」

「なんでそんな無茶を?」

 

 ユウキの答えに目を開き、アスナはなおも問いかける。

 

「実は、私達はとあるネットコミュニティで知り合って色々なゲームを旅してきたのですが、それもこの春で終わりなんです。それぞれが忙しくなってしまいますからね」

「そこでボクらは決めたんだ! 解散の前に、絶対に思い出に残ることをするってね!」

「それでボス攻略を?」

「はい、ただの自己満足なんですけど、ボス攻略して黒鉄宮の石碑に私達全員の名前を刻みたいんです!」

 

 今度はシウネーが答える。ALOの黒鉄宮の石碑には各層を攻略したプレイヤーの名前が刻まれるようになっており、ALOプレイヤーの多くは名が刻まれることに憧れている。あそこに名前を刻めれば、記憶に残るだけでなく記録に残るのだ。思い出としては最高である。ただ、それには一つの問題がある。石碑に刻まれるのは一層あたり七人までなのだ。一パーティ攻略なら七人全員の名が刻まれるが、二パーティ以上で攻略するとパーティリーダーの名前しか刻まれない。

 丁度シウネーがその問題に触れた。

 そして僕だから気づいた。ユウキの肩が少し震えたことに。

 思わず口を開いていた。

 

「それじゃあ、スリーピング・ナイツの六人とアスナちゃんで七人ピッタリだね。僕はサポートに回るとするよ」

「えっ、でも、レント君はみんなと親しいんでしょう? 私で良いの?」

「うん、ここに来るのはタッチの差でアスナちゃんが早かったからね。一パーティクリアの栄光におつき合いできるのはアスナちゃんということで」

 

 アスナ自体はボス攻略に乗り気でなかったはずだが、上手くペースに乗せられたようで参加する方向になっていた。

 シウネーがチラリとこちらを見て、ぺこりと目線で会釈した。

―――何でだろうなぁ。

 僕はユウキに嫌われたような真似をした覚えがない。何がユウキにあの反応をさせたのだろうか。

 そんな思索に追われていると気づけばかなり時間が経っていた。ふと、あることを思い出す。

 

「あ、アスナちゃん、もうそろそろ十八時半だよ? 大丈夫?」

「えっ、……あっ!」

 

 ごめん、もう行かなきゃ、とアスナはスリーピング・ナイツと明日の約束をしてすぐにログアウトしていった。彼女の家はディナーの時間が明確に決まっている。破れば次はマズいかもとアスナがこの間零していたのだ。

―――はぁ、面倒だなぁ。

 彼女の家のことを思い出して、食事に誘われていることを思い出してしまった。少し気分が下がる。

 余計な考えを頭から弾き出し、アスナを見送った笑顔のままスリーピング・ナイツの方を向く。

 

「さて、言い訳を聞こっか」

「その、ユウキが伝えたくないと……」

 

 流石シウネー、ヒーラーなだけあってタイミングが分かっている。何の言い訳なのかも聞かずに答えてきた。次にテッチ。

 

「いやぁ、レントさんには言おうって言ったんですがね……」

「えと、ごめん! 結果的に呼んだから許して!」

 

 ジュンも混ざる。タルケンとノリもすかさず謝罪を述べる。

 

「すみませんでした。私も伝えようとは思ったのですが……」

「あー、ほら、ユウキが伝えたくないって言うからさ!」

「うん、大体分かったよ。さて……ユウキ? 怒るから言ってごらん?」

「嘘吐くより惨いよ!」

 

 全員分の言い訳を聞いて僕はユウキへと水を向ける。まあ、我ながら子供っぽいとは思うが、すぐに呼んでくれなかったのが意外とショックだっただけである。

 

「うぅ、ただ、c――」

「あ! ごめん。明日そっちに行くからそのときで!」

 

 リアルで電話が鳴ってしまったので、ユウキの言い訳を聞くのは明日になってしまった。いつかもこんなことがあった気がするが、まったく間の悪い。

 

******

 

 ちなみに電話は今度の結城邸での食事のことだった。僕の表情が死んだのは言うまでもない。




 十一月中に一本投稿したい。いや、投稿する。頑張れ、自分。
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