SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 何とか決着です。八千台になっちまったぜ……。どうぞ。


#64 大会-終局

 とうとうここまで来た。

 古今東西デュエルトーナメント、決勝戦。カードは僕VSユウキ。

 準決勝が終わってから十分の休憩を挟んでの戦いだ。

 控室。先程までは八人が詰めていたそこは半分の四人になり、そして二人だけが残った。その空間に音はない。僕もユウキも静かに集中を高めるだけだ。この相手に油断も余裕もない。

 己の愛剣を抜き、それを眺める。ALOにおいてリアルであれば必要な手入れというシステムは存在しないが、あの作業は剣との対話でもある気がするので行いたいところではある。

 《ソウル・ソード》の白い剣身に僕の顔が映る。そして初めて自分の顔が喜びに歪んでいることが分かった。改めて眺めれば、ユウキも同じ表情を浮かべている。

―――ああ、楽しみだ。

 楽しみで、楽しみで仕方がない。僕はユウキと以前別のMMO世界において戦ったことはある。しかしあのときは剣ではなかった。格闘ゲームだったのだ。

 このALOで巡り合えたこと、それは運命だろう。僕もユウキも剣を操る能力が最も長けている。拳を振るうよりも、剣を振るう方が。ハンドルを握るよりも、柄を握る方が。そしてパターンを推測するよりも、思考の読み合いの方が。僕らの性根には合っている。

 試合が始まる旨の連絡があった。僕とユウキの間には依然として会話はかい。それでも同時に立ち上がり、自然と並んで競技場へと出た。

 初期位置へと立つ僕ら。会場にアナウンスが響く。

 

『それでは長く続いた本大会も遂にラストバトルです! 決勝戦のカードはぁぁぁぁ! 突如として現れ、剣の天才として名を轟かせた絶対無敵の剣士! 彼の《黒の剣士》を破りこの場に立つ、《絶剣》のユウキ! 対するは、SAO上がりとして驚異的な強さを誇る! 数々のプレイヤーを屠ってきた最強の悪魔! 《白の剣士》レント! 前代未聞の好カードだぁあ!! 今、ここで! 絶対無敵、最強、どちらかの伝説が崩れ去る! 勝敗の行方は誰にも分からない!!』

 

 煽る煽る。盛大に盛った選手紹介だ。だがそれこそがこの場には相応しい。会場の熱気は際限なく上がっていく。防音を通過してきた音が耳に痛い。観客席ではもう隣と会話もできないだろう。

 審判がこちらを眺めてしばらく時間を取る。僕は一瞬不思議に思うが、審判は選手同士の会話を待っているのかと理解した。

 

「「最早言葉は不要。ただ剣で語るのみ」」

 

 おや。

 審判を促すための発言がユウキと被ってしまった。ユウキが目をぱちくりとさせる。が、僕と目が合った瞬間好戦的な表情へと変わる。

 僕も二度呼吸し、ギアを入れる。

 僕らの空気が変わったことを感じた審判がその手を挙げる。

 そして、振り下ろした。

 

カキィィィィィィン

 

 ユウキの細身の片手剣と、僕の中量級片手剣がぶつかる。

 僕もユウキも背中の翅は存在しない。既に隠した。飛ぶ気など元よりない。

 僕とユウキの斬り合い。それはベスト八戦から準決勝までを含めて、最も地味な戦いだった。

 互いに足を地に下ろし、そしてその場を譲らない。完全に足を止めた剣技。

 ソードスキルや、伝説級のエクストラスキルなどのシステムアシストが一切入らない剣技。

 言ってしまえば、それは誰にでもできるような斬り合いでしかなかった。

 アスナとキリトのようにSAOから親しんできたからこそできる、ソードスキルを高度に戦闘に組み込みスキルコネクトという超高等技術さえも含めた剣舞ではない。

 リーファのような翅を使った超機動もなく、ディランのような超絶技巧も存在しない。

 ユージーンやディランのように伝説級武器の能力を利用したバトルメイキングはありえない。

 キリトとユウキのような激しく動きながらの攻防入り乱れた戦いも、僕とディランのような一気呵成に攻め立てる勢いも、そこには影も形もなかった。

 足を止め、翅を捨て、華やかな剣技は使わず、鮮やかな戦法は封じる。ただ互いを正面に据えて斬り合うのみ。

 決勝戦における戦いとは思えないのだろう、会場の音は一切消失した。

 でも、構わない。

 僕とユウキの戦い。他者に理解されなかろうが、何一つとして構うものか。

 ユウキに、僕を超えるVR適性を持つ彼女に、僕はある技術を教えた。それは筋肉を、骨格を視る技術。僕にできることが僕以上の彼女にできないはずがない。彼女はすぐにそれをものにした。

 だが僕もユウキも普段はその技術を用いない。用いれば読み合いが陳腐なものへと変わってしまうから。

 ああ。それで戦う普段がいかに悔しいか。使ってしまえば圧倒できる。圧倒()()()()()()。その苦しみを僕らは分け合っていた。

 たとえディランがどれだけ僕の動きを想定しようとも、その想定した僕に対処するディランの動きは丸見えなのだ。彼には悪いが、それでは読み合いで彼が勝つことは難しい。無論分かっていても避けられない攻撃であれば構わないのだろうが、実際にそのような攻撃を放てることなど非常に珍しく、それまでに戦いは終わる。

 視れば、視てしまえば、ユージーンに体を貫かせることはなかっただろう。ディランに最後の一撃を加えさせる余裕を与えなかっただろう。しかしそれは読み合いという戦闘の楽しみを奪うことに他ならない。

 自分が全力で戦えば、戦闘は楽しくなくなってしまうのだ。

 だがユウキだけは違う。ユウキだけは、僕の動きに完璧に対応できる。同じことができるのだから。同じように読み合う。条件が等しければ、読み合いの妙が生まれる。

 僕とユウキは同じ気持ちだった。ただただ、全力をもって斬り合いたかった。その気持ちが翅を使って体勢を崩し選択肢を削ることを、動きの決まり切ったソードスキルを放つことを許さなかった。

 足を止めたのだ。人間が、僅かな体捌きと足の位置の変更だけで避けられる攻撃など高が知れている。僕とユウキの戦いであるならば尚更。ゆえに僕らのHPはじわじわと、確実に、遅くないスピードで減っていく。

 派手な戦いを期待していた観客には悪いが、互いのHPを散らすことを考えなくても良い、確実に無事が保証されている今を楽しんでいたかった。

 

******

 

~side:シノン~

 その戦いは、はっきり言って異常だった。

 最初の激突のときに感じた違和は翅の有無。レントが翅をしまっていたのだ。地上戦で決着をつけるつもりなのだと思った。

 でもすぐにそれは違う、いや正しいのだがそれだけではないと分かった。

 レントもユウキも移動を捨てていたのだ。

 足を止めて、ただ通常攻撃を繰り返す二人。その異常な光景に、あれだけ騒がしかった会場は静まり返った。

 だが、それが詰まらないものでないことは明白であった。

 多少近接戦が分かる者は、多少近接戦に自信を持っていた者は、特にこのトーナメントで勝ち上がるような者は、皆あの戦いから目を離せなかった。人間の本能である瞬きすら抑えて、その攻防を一切見逃さまいとしている。

 一部の馬鹿は騒いでいるが、大部分は決勝戦が異常なまでの読み合いであることが分かっていた。

―――なんで! なんで!?

―――なんで! 私は! こんなにも悔しいの!?

 私はそれを見て、まるで心に風穴が開いたような空しさを感じた。悔しさを感じた。哀しさを感じた。

 どうして。

 どうして。

 キリトとアスナの戦い。見事なまでのソードスキルの応酬、スキルコネクトを織り交ぜた近接戦だった。でもあれは遠距離戦主体の私に必要な技術ではなかった。

 リーファとディランの戦い。圧倒的な速さと巧さだった。だが私にあの速さは求められていない。あの巧さは求められていなかった。

 ユージーンとレントの戦い。ブラフを入れた肉弾戦。しかし私はそれを避けるべき立場だった。

 キリトとユウキの戦い。接近戦では決して敵わないと、頂点には絶対になれないと悟った。けれどそれは戦闘のたったの一部分の話だと割り切れた。

 ディランとレントの戦い。相手を追撃するあの勢いは恐ろしいと思った。どちらの移動にも対応できないと感じた。だったとしても、それが私に降りかかることはない。なぜならレント(最強の前衛)が私にはいるのだから。

 そう、思っていた。そう、強がっていた。

 GGOから、あの無力を感じたときから、ずっとレントとの圧倒的な差を埋めるために努力を続けていた。その結果私でもベスト十六にまで入った。そう、自惚れていたのだ。自分には近接戦の才能もあるのだ、と。近接戦の読み合いとて熟せる、と。

 その心は、想いは、粉々に、完膚なきまでに破壊された。あの二人にそんな気はないのだろう。だけれども私はそれだけの衝撃を受けたのだ。

 

「レン、ト。レン……ト――」

 

 観客席の私は、決してレントから目を離さないようにしながら、涙を流した。

 

******

 

~side:キリト~

 圧巻だった。

 異次元、そう形容したかった。

 二人の読み合い……ああ、読み合いが行われていることは分かる。一定以上の実力を持つ者ならば、誰もがそれは分かる。それほど明白だった。明確に二人は読み合っていた。

 だが、だが……。

 

「全く、分からない――」

 

 何をもってそう判断したのか、何を読んだのか、そしてどう予想したのか、それらが一切分からなかった。

 ディランのリーファに対する読みは分かった。リーファは自らの速さを利用しきれていないところがある。たとえ画面越しでもディランの読みは理解ができた。 

 しかしこの読み合いは分からない。まるで二人には自分に見えない何か別の条件が見えているのではないか、そうとでも考えないと説明がつかなかった。

 これでも接近戦に、剣の戦いに自信はある。それでも二人の戦いは稀に意味を解せるだけだった。

 一瞬だけ彼らの動きが何を読んだ行動だったのかが分かる。だがその次の動作は分からない。そんなことが何回も続いた。

 俺が行動の意味を理解したときには、既に二個も三個も次の攻防が終わっている。

 二人の剣戟に速さはない。もちろん緩急ないまぜで、最高速は翅で飛ぶスピードに迫るほどだ。だがそれはやはり翅での動きに比べれば遅い。ソードスキルのシステムアシストもない。だから二人の剣戟に目に止まらない速さはない。全てが視認できる。

 しかしその全ての行動が読み合いの結果だとするならば、余りにも二人は(はや)かった。果てしなく高度な読み合いを、最高峰の通常攻撃全てにおいて行っているのだ。その思考の疾さは常軌を逸していた。

 互いの剣を弾き、いなし、躱す。その途上で皮膚が何箇所も裂ける。超接近戦で互いに一切距離を取らないので攻撃は自然とコンパクトなものになる。しかしそのコンパクトさの中にも大胆さが垣間見える。

 二人の攻防は段々とその深度を深くしていった。

 

******

 

~side:レント~

 頭が、痛い。極度の集中で脳が悲鳴を上げ始めている。

 視界は常にゆったりと流れる。ユウキを視て、ユウキの動きを想定、自らの動きを完全に把握、ユウキがどう読むかを読む。裏の裏の裏の……どこまで読めばこの読み合いは終わるのだろうか。

 一秒、いやコンマ一秒時が進めば、視えるお陰で動きが分かる。それで大量にあった選択肢が減少する。しかしその先の選択肢は、やはり無限に思えるほど広がっている。

 やっていることはディランと同じだ。考えられるパターンを全て想定し、相手の動きに合わせてそのパターンを削除していく。だがディランよりも細かい動きを視られるため、より細かくパターンが分かれるだけだ。

 既に自分の動きを把握することなど意識にも上らない。無意識で行わなければ読み合いに間に合わない。

 ああ! だが! この喜びを噛み締める脳の動きだけは制限ができない! このリソースもユウキの動きの解析に回さなければならないというのに、止まらない。喜びが、歓びが、悦びが脳の中で跳ね回っている!

 喜悦を感じ続ける。一合ごとに、一瞬ごとに、刹那の度に歓喜が沸き起こってくる。

 脳が焼き切れそうなほどに演算を繰り返す。筋肉の僅かな動きから数百を超えるパターンが想定されるも、次の動きでその内の八割は否定される。だがまた新たに数千の予測が生まれる。一切止まることなく、脳が動き続ける。

 その終わりは、突然であった。

 喜びに歪んでいたユウキの口が痛みを堪えるものへと豹変する。そして動きが停まり、軽く蹲る。

 限界だ。脳はスパコンではない。あれだけの演算を行えば遠からず限界を迎えることは分かっていた。ユウキの方がそれが早かっただけなのだ。

 この好機を逃さない。僕は飛びかかり、視えたもので自らの失策を悟る。

 縮こまらせた身体をバネのように使ったユウキが僕の喉元に迫る! 輝くユウキの片手剣。

―――ああ、そういうこと、か!

 ユウキの放とうとしているソードスキルを受けるわけにはいかないが、この体勢から間合いの外に逃れることはできない。つまりユウキのソードスキルの出に剣を合わせてファンブルさせなければならない。そしてそのためには生半可な攻撃でなく、同じくソードスキルが必要だ。

 この状況から放つことができ、ユウキに対処できるソードスキルは《ジャッジメント・エンター》のみだ。つまりユウキはそれを誘っているのだ。

 このOSSの最初の三発の突き。あれは牽制用だ。そのためダメージよりも衝撃を与える設計になっている――相手に当たる瞬間に引き戻す動作が入るのだ――。準決勝のときのディランのように動きを止めていれば別だが、今のユウキのように動く対象には三発全てが決まる。しかし宙に浮くような形で迫るユウキにそれだけの衝撃を与えれば、まず間違いなくノックバックが発生する。そうすれば後の四連撃は空を切る、つまり絶対的な隙を晒すことになる。

 この一瞬の攻防は確実にユウキに持っていかれた。だが巻き返す方法はある。

 僕がOSSを発動させると、ユウキはそれを見て口角を吊り上げた。

 ジャッジメント・エンターの最初の突き。しかしシステムアシストが続いて命ずる引き戻す動きを僕は全霊をもって弾き、そのまま突き刺す! ユウキは驚愕の表情を見せる。彼女は先程のときにこのOSSを完全に見切っていたのだ。つまりこれは想定外だ。

 ソードスキルから外れた動きのためシステムアシストは終わり硬直に入る。その間に体を貫かれているユウキの振るう剣が何度か身を切ったが、そのような体勢での攻撃にダメージが乗るはずがない。

 僕の硬直が終わり互いに身を捻って距離を取れば、OSSの一撃と数発の通常攻撃で同程度HPは削れていた。

 互いに息を整える。既に視る技術は止めた。これ以上の演算は頭痛では済まされないかもしれない。そんな危険は犯せず、また読み合いの決着はついたからだ。

 

「……僕の勝ち、かな?」

「……ボクの負け、だね」

 

 これは単なる経験の差だ。いずれこの差も埋まる。そうすれば結果は変わるだろうか。だが今回の勝負の結果は出た。

 

「でも、試合には勝つ!」

「なら、試合にも勝つ!」

 

 再び僕らは激突する。勝負に勝って試合に負けるなど情けないにも程がある。

 互いの背には既に翅が生えていた。地に足がつくことが少なくなる。フィールドを動き回り、空を飛び、壁走りもする。限られたスペースを全て使い、少しでも相手への優位を取ろうとする。

 ソードスキルも頻繁に使う。上手く組み込まねば隙を晒すだけの技。だが上手く使えば間違いのない技。スキルコネクトも最早常識であるかのように用いる。

 剣を拳で弾き、肘と膝で刃を受け止める。しゃがんで足を薙ぎ、バク宙で退避する。

 ユウキの突き出した剣を掻い潜り、懐で反転し、オーバーヘッドキックの要領で顔面に蹴りを放つ。意表を突かれたユウキだが、僕の脚を左手で受け止め、力をそのまま受け流す。僕は立ち上がりつつ、反動で剣を振るう。

 遠心力も乗ったその剣をユウキは何とか弾く。だが剣を塞いだ。その隙に僕は自ら剣を離して自由を確保してユウキの胴体を殴る。

 《体術》を取ると肉弾戦にスタン効果が追加される。何度か蓄積させたそれが一瞬だけ働く。僕は放った剣を空中で掴み直し《ジャッジメント・エンター》を放つ!

 三発の突きが全て当たり、ユウキの身体がやや後ろに仰け反る。そこに三発の斬撃を叩き込もうとした。しかし、スタンから立ち直ったユウキもまたOSSを放った!

 ほぼ同時に放たれた僕の三撃とユウキの十撃。その差でいかにユウキのOSSが優秀か分かる。僕の三撃はユウキに阻まれ正常な一撃分程しかダメージを与えられず、ユウキの攻撃は三撃ほどクリーンにもらってしまった。

 そして互いの最後の一撃。僕の柄による殴打、ユウキの全力の突き。その二つは、しかし同時にシステムウィンドウによって弾かれて硬質な音を立てた。

 

「えっ――」

「何――」

 

 弾かれた衝撃で尻餅をつく。

 集中が解けると一気に音が流れ込んできた。

 

『――と! ここで決着ぅぅぅぅ!!!! 一体、どっちになったんだぁぁ!!? これは、ビデオ判定が行われるそうですッッッ!!!!』

 

 余りの騒音にキーンと耳が鳴る。唖然とする僕とユウキの下へ皆が集まってきた。

 いつものメンバー、スリーピング・ナイツ、領主達、名も知れぬプレイヤー達。その全員にもみくちゃにされる。状況が掴めていない僕とユウキは並んで立たされた。

 

『ええーー。それでは、ビデオ判定の結果をお伝えします』

 

 アナウンスが入り皆が下がる。僕とユウキだけが前に残された。

 

『判定の結果……引き分け!』

 

―――は?

「――へ?」

「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」」

 

 会場が静まり返る。そこへ僕にとってとても馴染み深い人がやって来た。

 

「え~。皆さんがご不満に思うことはよくよく分かりますとも。しかしながらこれは厳然たる判定です。ビデオではお二人の剣は速過ぎて捉えられず、ログを確認しました……確認しましたが、コンマ以下六桁まで同じ秒数でHPが尽きておりました。それ以下となりますと、誤差とも取れます。この世界の管理システムも今のデュエルは引き分けと判断致しました。そのための判定です。お二人に拍手をお願いします」

 

 胡散臭いその声に渋々ながら拍手が巻き起こる。さしもの《狸》もこの結果には苦笑を零すのみだ。

 僕らの前へと《狸》が歩いてくる。

 

「いや~。とても良いデュエルでした。ですが、決着がつかなかったこと、本当に申し訳なく思います。そしてもう一つ申し訳ないことに、優勝賞品は一人分しかないのです」

 

 あの《狸》が非常にすまなそうな顔をしている。これは本当に珍しいことだ。だが運営としては、確かにこの結果は誇れるものではないだろう。

 しかしユウキは笑って言った。

 

「う~ん。でも、ボクはレントと()れただけで満足だからなぁ。というか、そもそも景品覚えてないし」

 

 それに僕も笑い返す。

 

「確かに。タロウさん、景品って何でしたっけ?」

「景品ですが、二つですね。一つは伝説級武器、《光剣クラウ・ソラス》。もう一つは運営への直接要望権です」

 

 おや、懐かしい名前を聞いたものだ。《光剣クラウ・ソラス》。かつて一瞬だけ握った――放り渡すためにだが――剣だ。

 タロウが差し出した光剣を見て、ユウキは唸った。

 

「うう。ねえ、レント。光剣はあげるから要望権くれない?」

 

 確かに光剣はユウキに合った形ではない。僕が使う《ソウル・ソード》とほぼほぼ変わらない大きさのそれは、ユウキの普段の剣よりも一回り大きい。取り回しに苦労するだろう。

 僕は了承の意味を込めて頷く。ちなみに要望権とはそのまま、運営に要望を直接伝える権利のことだ。しかしこのとき注意してほしいのは要望を()()()権利であること。確かに面と向かって頼まれた方が通り易いことはあるが、実際に希望が通るかは限らない。そういうものなのだ。

 

「それでは光剣はレントさんが。要望権はユウキさんが獲得、ということでよろしいですか?」

「はい」

「うん」

 

 タロウの確認に二人で首肯する。そしてタロウはユウキへと要望を尋ねた。

 

「ボクの要望は……、SAOに存在したユニークスキル。それを誰でも獲得できるスキルとして実装してほしいな!」

 

 この要望が通ったかどうかは、また別の話――。




※タロウさんは新生ALO運営の代表取締役です。

 決着を濁したとか言わないで……。ぶっちゃけ当人達は主人公の勝ちだと思っています。
 主人公が《光剣クラウ・ソラス》獲得です。
 ユニークスキル追加は……いつか回収するかもしれませんし、書かないかもしれません。このリダンダンシー編はモチベが続いている間だけの息抜きですし。
 それでは次回。
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