SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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#67 霊刀-壊門

 《行先案内機》を用いた僕らの攻略は順調に進んでいた。

 分岐点の度にキリトが《行先案内機》を使う。稀に次の分岐点で戻るように指示されることがあるが、その近辺で何度か確認すれば正しい方向を把握することができる。そして僕達――VR空間から表層以上の情報を抜き取れる者――は段々と空気が重くなっていることを感じていた。確実にゴールは近づいている。

 何度目かのmobとの遭遇。この階層は迷路に重点を置いているためかそもそもの遭遇自体がかなり少なくなっていた。そして出現したとしても一度に七体以上が襲ってくることはなく、やはり僕らの敵ではなかった。

 危うげもなく敵を倒しきる。皆がやや飽き始めている気がしたとき、僕は先程問おうと思っていたことを思い出した。

 

「あ、そういえばリズさん。さっきの《雷鎚ミョルニル》の攻撃力凄い高かったですよね。何でですか?」

 

 すっかり尋ね忘れていた。今はかなり楽勝な迷路だから良いが、この先は悠長に話している時間などないかもしれない。聞ける内に聞かねば。

 

「うーん。それが私にも分かんないのよねぇ。最初にスキル使って殴ってもあんなに減らなかったのに……。大体五発かなって思ってたらなんか三発目が爆発して」

 

 リズベットは肩を竦めて首を振る。正しく何が起こっているのか分からないという顔だ。あれは本人としても予想外の事態だったようだ。更に言えば火力が出たのは相手がスケルトンだからではなく、三発目が急激に威力上昇した、と。

 

「……ラグナロクをモデルにしているのか? あれはミョルニルに耐えるヨルムンガンドの強大さを表すもの。でも、むしろ世界蛇を三撃で倒したと見れば――」

「あの~、レント? ちょっと、説明してくれない?」

 

 ぶつぶつとした独り言の解説をリズが頼んでくる。

 

「ミョルニルは北欧神話に登場する雷神トールの武器ですが、トールは基本的にミョルニルの一撃必殺で敵を殺します。そのミョルニルでも三発の攻撃が必要だったのがヨルムンガンドです。ですが、逆に言えば三発ミョルニルを当てて生き残れたものはいないんです。そこをモデルにして、流石に即死効果ではないでしょうが、三撃目にボーナスが乗るのではないか、と」

 

 ヨルムンガンドは有名な怪物だ。リズベットもこの説明で一応の納得はしたようだ。

 

「ま、由来は関係ないわね。結局は三発殴れば強い! それさえ分かってりゃ良いでしょ」

 

 使い易くなったとリズベットは笑う。少しずっこけかけたが、確かに使うだけなら何も問題はない。それに三発で強攻撃というのは一つのリズムとなって分かり易いだろう。ただのエンハンスと麻痺付与だけでない強みとなる。

 

「じゃあさ、レントのは何なの?」

 

 ユウキが今度は僕に尋ねてくる。

 口で言うだけでは伝わりづらそうなので、僕は実演しながら《光剣クラウ・ソラス》の性能の解説を始める。

 僕の手の中でスルスルと光剣は小さくなっていく。そして短剣ほどの長さで、厚みも幅もない刺剣のような刃を持った、ボールペンほどの太さで拳に収まる長さの柄に鍔のない剣となった。

 

「エクストラスキル《フォトンクォンタム》。見ての通り、剣の形状データを変更可能というだけのスキルだよ」

 

 次に巨大化させる。刃はALO開始当初のキリトの剣のような長さに太さ、いわゆる一咫ほどの厚みを持った物になる。柄は両手で持たねばならないほどの太さと某狩りゲームの大剣並みの長さだ。鍔はそれらに合わせたサイズの物ができる。刃の造りは変わらなくとも、その印象は大きく変わりもうランスと言った方が近いかもしれない。

 

「この範囲内でなら刃の長さ、太さ、厚さ、柄の長さ、太さ、鍔の有無とそのサイズ、それから剣の重さをそれぞれ別パラメータで調節できる。一番軽くすれば短剣くらいで、一番重いと僕でも片手で持つのに苦労するくらいだね」

 

 この能力の異常な点は、やはりそれぞれを別パラメータで扱えるところだろう。つまり最大サイズにしながらも最軽量状態というのが可能なのだ。

 そしてどのパラメータも、上限下限は片手剣の範囲を逸脱している。僕が持つのに苦労する重さ、それは大斧並みかそれ以上になる。

―――密度的に一体どんな金属を用いているんだか……。

 

「へ、へぇ。でも、それがどうしたらあんなダメージになるのよ」

 

 なんか微妙な顔をしているリズベット。たしかに今の説明だけでは解りづらかったかもしれない。だから僕は実演してみせることにした。新たに出現した敵を的にして。

 

「まずは遠心力を利用するためにある程度の長さは確保しつつ振り易さを考慮した形にして、重さは最軽量に」

 

 言葉の通りに光剣を調整し、スケルトンとの距離を測る。

 

「まあ分かるでしょうけど、残る手順は思いっきり振って当たる瞬間に重くするだけ」

 

 助走も含めて全力で剣を振る。遠心力で剣が抜けそうになるが、それを耐え抜いてスケルトンに剣が当たる瞬間に重さを最重に。

 ALOでの威力計算は剣の性能、プレイヤーのステータス、()()()()()()()()()()が基本となる。軽い状態のマックススピードのまま重い物をぶつけるという最も簡単な破壊力の出し方、それを実践しただけなのだ。

 思った通り光剣が当たったスケルトンは木端微塵となる。何度か試して最適な配分を学んだのだ、威力は最初よりも上がっている。

 更に光剣の形の調節も入れている。刀の幅と厚みの数値を入れ替える。すると柄の先が九十度回転したようになる――手元の柄も回せば通常の剣と同様に使える――。こうすることで普通に斬りつけると剣の腹で叩いたこと――打撃攻撃――になり、剣としての使い易さを保ったままで打撃武器へと変わる。

 それらの性質を説明するとシノンがぼそりと呟いた。

 

「……何よ、それ。チートじゃない」

 

 ……それはかなり心外な一言だった。思わず言い返す。

 

「いや、そもそもこれは僕の《脳内タブ操作》があるからできる技だよ。本来は剣のシステムウィンドウからのパラメータ調整用だから、戦闘中に変更できるとは想定していなかったんじゃないかな?」

「そう、でも結局チート級であることは変わらないじゃない。貴方と組み合わさることでって条件がつくだけで」

 

―――っ。

 今日はいつもよりも更に氷に似た冷たさがある。声が凛としていると言えば聞こえは良いが、端的に言えば当たりが強いだけだ。

 反論を加えようとしたが、僕の言葉はキリトの先制攻撃の前に姿を見せないままに散った。

 

「良し! あったぞ、ゴール! 痴話喧嘩もそこまでだ」

 

 敢えて後半には触れない。必死になったら負けだ。こういった冷やかしはスルーするに限る。

 キリトは自分の発言が流されたことなど気にしない様子で先導していた面々に自分の先を示す。

 そこにあったのは重そうな鉄扉。そしてその手前にいる二体の鎧武者。鎧武者は雑魚のスケルトンとは違って全身甲冑で面頬までつけているため、中に何が入っているかの判別はつかない。それぞれ反対の手に鉾を構え、腰には刀を佩いている。

 

『そこで止まれ、不作法者共』

 

 二人の鎧武者は鉄扉の左右に控えており、揃って獲物の鉾を下段に構えた。

 

「しゃ、喋った……!」

 

 クラインが動揺を示すが、この霊城はその仕組みから言ってかなり長く使い続けるつもりで作られているので、この程度のギミックは備えられていて当然だろう。

 社交性に富んでいる――現実の環境ではどうしても発揮できないが――ユウキが一歩前に出て鎧武者に話しかける。剣は鞘へと仕舞い一見すると無抵抗なようだが、実際はいつでも剣を抜ける体勢でいるあたりユウキも手慣れてきている。

 

「それは勝手にこのお城に入ったこと? だったらごめんなさい。まさか貴方達みたいな人がいるとは思わなくて」

『ああ、嘆かわしい』

『ああ、情けない』

 

 鉾の構えを崩さずに鎧武者は代わる代わる語り出した。

 

『望まぬ間に城に攻め入る、それを行うのは強者であろう』

『知らぬ間に城に潜み込む、それを行うのは間者であろう』

「えーと、つまり、ボク達が忍び込んだから怒ってるの?」

 

 相手が望まないときに攻めるのは戦の基本。そう鎧武者は考えているのだろう。だからこそ気に入らないのはそこではないのか。しかし、鎧武者は否定する。

 

『それは誤りだ、乙女。我らは哀しんでいるのだ』

『それは間違いだ、小娘。我らは嘆いているのだ』

『城が万全であれば貴様達は大軍で攻め寄せたであろう。ならば気づけた』

『兵が精強であれば貴様達は少数で破り難かったであろう。ならば察せた』

『精鋭たる貴様達を無礼者と為させたのは』

『勇猛たる貴様達を卑怯者と為させたのは』

 

『他ならぬ我らが不徳の為すところなれば!』

『不肖我らがこの身をもって汚名を雪ごうぞ!』

 

 そう言うと二人の鎧武者は鉾を揚げ鉄扉の前で交差させる。金属の刃が擦れて高い音が鳴った。

 

「……」

 

 ユウキはどうすれば良いか分からず、やや怯んでいる。鎧武者は最初こそユウキに反応してみせたが――プリセットされた言葉でないため驚くことに言語エンジンも搭載されているのだろう――、それ以後はほとんど自己完結――二人だが――していた。そこに他者の意見を必要とはしていない。鎧武者は対話しているようで、逆に一切の会話を拒否していた。

 クラインがユウキの肩に手を置いて前へ出た。

 

「――俺の名はクライン。まずお前ぇらのことを考えてなかった、そのことは謝らせてくれ。その上で()()()()()、お前達の覚悟、受け止めてやるよ!!」

 

 スッと刀を抜き、正眼で構える。その目は真剣そのもの、正に武士のようであった。

 

「俺はキリト」

「アスナ」

「レント」

「シノン」

「リズベット」

「ユウキ」

 

 各々が名乗り武器を構える。七対二は卑怯かもしれない、しかし全力でさからないことの方がこの場では許されざることだった。

 僕らの声に応えて鎧武者も音を発する。

 

『我らが名を失くし、どれほどの時が経ったか』

『我らが自らを忘れ、どれほどの時が流れたか』

『故に、我らは武技で語る! 我が存在を!』

『故に、我らは武具で描く! 我が覚悟を!』

 

 鎧武者が交差させていた鉾を地に叩きつけ、土の床と金属の刃が火花を上げる。それが開戦の合図だった。

 鎧武者は左右に別れる。大きな鉄扉の前の空間は前後左右十分な広さがあって剣戟も余裕で行える。それこそ二組でも三組でも。

 僕らもそれに倣って二手――いや、三手に別れる。キリト、アスナ、リズベットの三人と、僕、ユウキ、クラインの三人に。そしてシノンは両集団から一定の距離を保って援護の態勢を取る。

 僕らの組は右手へと飛ぶ。左側のことは一旦頭から追い出して、対峙する敵のことだけを考える。何かあれば両方を視界に入れるシノンがこちらに伝えてくるだろう。

 大見得を切ったクラインが先陣を切る。その左を僕が、右をユウキが固めて鎧武者へと走る。

 鎧武者は左手のみで鉾を大きく回す。それを躱してクラインが左斜め下へと踏み込む。低い体勢からの斬り上げは、しかし鎧武者が右手で抜いた刀によって防がれる。

 動きを止められたクラインの更に左から、僕が鎧武者の側面へと斬り掛かる。鎧武者はそれをサイドステップで躱し、同時に左手の鉾で薙ぐことでユウキの接近を防ぐ。

 鎧武者が動いたことでスペースを確保できたクラインは、前転して鎧武者の足元へと滑り込む。鎧武者は鉾を足元へ返そうとするが、ユウキの踏み込む動作に牽制を受け、右手の刀も僕の斬りかかりに対応して鍔迫り合いとなる。両手が塞がった鎧武者は辛うじて蹴りによってクラインを遠ざけようとするも、クラインは刀を動かさずに自由を確保し鎧武者に足払いをかける!

 蹴りで片足重心となったタイミングでの足払い。それにタイミングを合わせて、僕とユウキもそれぞれの剣を刀と鉾に打ちつける。この三点攻撃を受け鎧武者は後ろへと倒れる。

 しかしこの鎧武者も只者ではない。倒れると判断した瞬間に自ら身を倒して速度を確保、そのまま受け身を取って後転して立ち上がる。その隙を突こうにも、左手の鉾による一見乱雑に見える払いが巧妙にこちらを近づかせない。

 鎧武者が再び距離を詰めてくる。その前にユウキが立ち塞がり、刀と鉾による時間差攻撃を掻い潜って胴を斬る。それでも怯まない鎧武者に、僕の膝を使って跳び上がったクラインが斬り下ろしを見舞う。手元でユウキが身を回転させて斬りつけるのを無視して鎧武者は刀をクラインの刀に合わせる。鉾で宙を薙ぎクラインを狙うが、クラインは逆に鉾の広い刃に足をつけて二段跳びをする。そして鎧武者の背後に飛び降り、振り向きざまに勢いを乗せて水平に斬る。鎧武者は視線も向けずに、背後に回した鉾の柄でそれを受け止めた。

―――火力が足りないッ!

 クラインの攻撃は片手で止められ、ユウキの通常攻撃は軽さの余り見逃されてすらいる――距離が詰まり過ぎてOSSの発動モーションも行えない――。

 僕もスペルによる攻撃を行うが、魔法属性に対する耐性は高そうだ。つまりはソードスキルによる爆発的火力も抑えられてしまう。

 光剣によって斬りかかる、と同時にユウキが後方へと飛びスイッチする。間断ないクラインの攻めも鉾で全て防がれてしまい、手詰まりなのか一旦クラインも距離を取る。

 鎧武者の意識が全て僕に集中する。鎧武者は僕だけを見据えて、鉾と刀による同時攻撃で僕に襲いかかる。しかしそれが僕に到達する前に鎧武者の頭が後ろへ流れ腕が止まる。その兜にはシノンの矢が突き刺さっていた。

 無論、その隙を逃すはずがない。鎧武者の膝に足を置き、鉾の上を走るようにして跳び上がる。空中で体勢を整えて、OSSを、放つ!

 僕の跳躍に遅れて追ってきた刀と鉾、それらを三発の突きで弾き、弱点部位である頭部に残りの斬撃を叩き込む!

 そして僕のOSSとほぼ同時にクラインのソードスキルとユウキのOSSが放たれる。前、後、上、三方からの閃光の連続に鎧武者はその膝をついた。

 両手から得物を取り落とし、首を差し出すような形で鎧武者は動きを止めた。

 

「はっ、はぁ」

「これで終わりかぁ?」

「だと、良いですが」

 

 数瞬遅れて、左手からも一息つく声が聞こえた。そちらを見やれば同様に鎧武者が跪いていた。

 動かなくなった二つの甲冑から同じ言葉が響いてくる。

 

『『我らが命果てようと、主君までは行かせまい』』

 

『『我らが命を糧にして、さあ、今こそ霊城よ目を覚ませ!』』

 

 そして二つの甲冑は塵となって消滅した。

 鎧武者達の台詞を警戒し、僕らは円陣を組んで周囲を見張る。すると迷路の方に大きく動きがあった。

 僕らがいる鉄扉の前の空間を除いて迷路の床が落ち、壁から巨大な針が大量に飛び出てきて壁を埋め尽くす。それは見ればすぐに分かる。迷路の中で彷徨う者を問答無用で足元の奈落へと叩き込む仕掛けであった。

 

「これは……、あの二人が倒されると発動するギミック、ってこと?」

「ああ、多分そうだろうな。迷路は何グループも同時に攻略できるが、こっから先は一チームだけってことだ」

 

 アスナとキリトが呟く。キリトの胸ポケットからユイが出てきて解説を加えた。

 

「はい、その通りです、パパ。さっきの鎧武者は一つの言語エンジンを分け合って使っていたのですが、撃破された後、その言語エンジンはこの霊城内の別のNPCに引き継がれました。そして鎧武者が倒れると同時に霊城も外から侵入不可、正確に言うとアルブヘイム内でない場所に転移しました!」

「そりゃ随分と大掛かりだな……」

 

 誰かが鎧武者を倒した瞬間――恐らく霊城を攻略するか、撤退するまで――、他者は攻略が不可能になる。霊城に侵入していたとしても、壁に取りつけなくした上で床を抜くというコンボで奈落へ落とし――恐らく落下ダメージで確殺なのだろう――排除する。

 

「そうね。まぁでも誰が迷路にいたかなんて分からないんだから先に進みましょ」

 

 リズベットがきっぱりと言う。鉄扉に最初に向かったのはユウキだ。この二人はムードメーカーなところがある。

 

「じゃあ、開けるね」

 

 鉄扉をユウキが開く。システムで規定されているので、どれだけ重く見えても――開くものなら――開ける意思を見せれば勝手に開いてくれる。

 鉄扉の向こうには上へと伸びる石段が続いていた。




 二話で一階層……。長くなるなぁ(棒)。無駄に壮大なダンジョンに設定したのは間違いだったかッ……!
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