SAO~if《白の剣士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 いつもと違う13時。いつもと変わらなかった13時。SAOにおいて記念すべき時間がやって来ました。内容はいつもと変わらないゲーム話ですが、どうぞ。


#74 星錬-工房

 カチャン。エギルがカップをソーサラーに置く音がログハウスに響いた。

 

「さて、今日は俺の招集に応えてくれてありがとう」

 

 畏まったその始め方に、キリトが肩を竦める。

 

「おいおい、これからボス攻略でも始まるのか?」

「ふふっ、確かに。《トールバーナ》にでもいるみたいだ」

 

 あの日の攻略会議に参加した僕とキリト、エギルはそれを思い出して笑う。僕の隣に座るシノンが口を開いた。

 

「SAOの話?」

「うん。第一層で、初めて行われた攻略会議が開かれたのが《トールバーナ》だったんだ。それを開催したディアベルの第一声が、正しく今のみたいだったんだよね」

「へぇ」

 

 当時の攻略に参加していなかったクラインとシリカが納得顔で頷く。

 

 

「で、本題は何? どうして私が呼ばれたのよ」

 

 

 ソファに我が物顔で座る()()が冷たく話を促した。彼女もあの攻略会議には参加していたはずだが、どうにも乗ってもらえない。

 

「ああ、悪かった。今日皆に集まってもらったのは、伝説級武器を獲得する手がかりを得たからだ」

 

―――伝説級武器、ね。

 その言葉にやや前のめりになる。アップデートで大量に追加されたとはいえ、その価値はまだまだ高い。むしろ一定量が確保されたせいで多くの者が獲得を真剣に目指すようになり、その市場価値は高まりつつある。当然、それに繋がる情報も貴重だった。

 

「うちの店で入った情報だ。――その名も《洞穴工房》」

 

 ゴクリ。唾を呑み込み、エギルの次の言葉を待つ。

 

「そこに控えるボスを倒すと、伝説級武器を一つ()()()()ことができるらしい」

「武器を、造らせる?」

 

 武器なのだから新しく造ることは当然可能であろうが、そこは腐っても伝説級だ。そう簡単に造れるようなものではない。

 

「ああ。ボスはドワーフらしいんだが、実際にそいつに造らせたっていう伝説級武器を俺も実際に見させてもらった。確かにその武器詳細には『《洞穴工房》にてドヴァリンが造る』って由来が書かれていた。お前達のはどうだ?」

 

 促され、僕とキリト、クラインは自身の伝説級武器のポップアップウィンドウを開いた。

 

「……いや、特に製造者の情報はないな」

「同じく。東西統一デュエルトーナメントの賞品、とはあるけどね」

「俺もだ。カグツチが霊魂を込めたとは書かれてるけんど、本体の刀自体がどこの何某に鍛えられたってのはねぇな」

 

 なるほど、その武器の信憑性が上がったことは事実だ。だがそれだけではまだ探索には出られない。

 

「その《洞穴工房》の場所は分かってるんですか?」

「詳しい場所まではどうにもな。だが、大まかな当たりは付けられている」

 

 エギルはホロウィンドウでALO全体のマップを表示した。そして大陸の中央にぐるりと円を描く環状山脈の上に九等分する線を表示する。その中の一区画を浅黒い指で示した。

 

「この範囲の山脈内のどこか。それが《洞穴工房》の在り処だ」

 

 クラインが頬をひくつかせる。

 

「おいおい、そりゃカグツチのときより大事じゃねぇか。具体的な座標も分かんねぇんじゃ……」

「いいや、そうでもない。洞窟の入り口自体は既に発見されているんだ」

 

 全員の疑問の視線がエギルに集中する。入り口が分かっているなら、なぜこのような回りくどい示し方をしたのか。そんな視線を受け、エギルは大きく溜め息を吐いた。

 

「そこが《洞穴工房》の面倒なところなんだ。ボスの連中は穴を掘って山脈の中を移動している。一度撃破されたら次の区画に移るが、撃破されなかった場合は新しい穴を掘って山脈内の別の位置にボス部屋が移動するんだ。だから一回ボスに挑戦したらエリアマップは使い物にならなくなる。何せ洞穴が崩壊するような無茶苦茶な掘り方をしやがるからな」

「つまり、入り口は固定だけどそこから続く洞窟ダンジョンを攻略しなきゃいけないってことですか?」

 

 シリカの確認に、エギルは大きく頷いた。

 

「ああ。だが情報ではmobは出現しない半安全圏のようになっていて、最奥のボス部屋を見つけるだけの迷路だそうだ」

 

 迷路、その言葉に僕とシノンとクラインの目線はキリトに集中した。

 

「……確かに、《聖剣エクスキャリバー》と《行先案内機》の組み合わせは強力だ。だけど、強力過ぎる」

 

 キリトは僕らの無言の問いかけに首を横に振った。

 

「今回はカグツチのときと違って時間制限も無いんだろ? 大人しくマッピングを楽しもうぜ」

「それもそうだなぁ。あれは何つーか、ダンジョン攻略してる感じじゃなかったもんな」

「甘いこと言うのね。ユイのチートじゃないゲーム内で認められたコンボなんだから使えば良いのに」

 

 僕が霊城カグツチ攻略で大活躍だった《行先案内機》の説明をシリカとミトにする裏で、キリト達の結論は出たようだった。

 それを見ながらエギルは少し気不味そうに頭をかいた。

 

「あー、そう言ってくれるのはありがたいんだが……」

「どうしたんだ?」

「マッピング、ほぼほぼ終わってるんだよな」

 

 たっぷり数秒の沈黙の後、僕は耳を手で押さえた。

 

「「何でだよ!!!」」

 

 ダンジョン攻略にやる気を見せていたキリトとクラインの渾身のツッコミが入る。僕を見て察したシノンとシリカは大丈夫だったが、出遅れたミトは眉間に皺を寄せた。

 ツッコミを受けたエギルですら耳に当てていた手を外して返す。

 

「何でと言われても……。そのデータを買ったんだから、そりゃそうだろ」

「はぁ?」

 

 シノンが脚を組み替える。彼女は《光弓シェキナー》を手に入れるまでは、《弓》の伝説級武器が転がっていないか頻繁に情報交換掲示板やらを覗いていた。今の伝説級武器とその情報の相場を十分に理解している。その彼女から見て、ここまでの情報に加えてダンジョンのマップデータという王手をかける情報の価値は思わず疑問が口から出るほどに高いものだった。

 

「エギル、貴方いくら、いえ、何を払ったの? そんな情報、相当な額を積まないと割に合わないわ」

 

 エギルはあくどい顔で笑った。

 

「代金は後払いでな。その代金の支払いをお前達に手伝ってほしいわけだ」

「えー。俺ぁ人の借金肩代わりするのは嫌だぞ」

 

 クラインの言葉にエギルは指をこれ見よがしに振った。

 

「俺がいつ代金が現金だなんて言った?」

「勿体ぶらないで。さっさと言いなさいよ」

「……俺が代金に求められたのは、ボスを撃破して伝説級武器を獲得することだ」

「え! 伝説級武器あげちゃうんですか!?」

「いいや。伝説級武器は俺が貰うことになっている。より正確に言えば、()()()()()()()が今回の代金なんだ」

 

 全員が首を傾げた。

 

「《洞穴工房》のボスは過去に八度倒されている。そして九度倒すと、《洞穴工房》がプレイヤーに使用可能な工房として開放されるんだ。今回の取り引き相手は、その開放された工房を手に入れたがっている」

「……なるほど。つまり自力ではボスが倒せないし、他の者にボスを倒されては工房を独り占めされる可能性が残る。だから信頼できるものにボスの打倒を依頼し、武器は渡す代わりに工房を譲らせる手に出た、と。納得がいきました」

 

 僕の言葉にエギルは太い指を鳴らした。

 

「その通り。というわけで、皆に力を貸してほしい」

 

 頭を下げるエギルに、一人を覗いて軽く頷きを返した。そして残った一人――ミトが口を開く。

 

「で。まだ私を呼んだ理由を聞いていないんだけど」

「ああ、それは今回の攻略をミトに手伝ってもらいたくてだな」

「なんで? 他はともかく、レントとキリトがいたら大体のボスは倒せるでしょ。アスナもいないし……数合わせ?」

 

 ミトはただただ不機嫌そうだった。彼女の主戦場はGGOだが、日本のVRプレイヤーとしてALOもプレイしてはいた。しかし今までの僕らとの関わりは少ない。シリカなんてミトと会ったのは今日で三回目くらいではないだろうか。そんな面子に囲まれてしまえば、数合わせのように思われても致し方ない。

 エギルの回答を遮って僕がミトに答えた。

 

「数合わせと言われるのも仕方ないかもしれない。実際、一パーティ分の人数が集まらなかったんだから。その空いた枠にミトを推薦したのは僕だよ。だけど、ただの数合わせじゃない。折角ALOのデータもあるんだから、こっちでも仲良くやりたくてさ」

「……ふぅん、そう。まあ、そこまで言うなら」

 

 少しは機嫌を直してもらえたみたいだ。未だ釈然としないような顔はしているが、それでも腰をまたソファに落ち着けてくれた。

 僕も姿勢を戻せば、隣に座るキリトがそっと耳打ちしてきた。

 

「お前、刺されないか?」

「君には言われたくないなぁ」

 

 シノンの視線は、僕よりも茶化したキリトの方に冷たく向けられていた。

 

「んん、気を取り直して、だ」

 

 エギルは咳払いをしつつ、この場に集まった全員に同じデータを送信した。

 

「これがボスの情報だ、確認してくれ」

 

 それを見た全員が、きっと同じ表情をしていた。

―――うわ、ダんルっ。

 

******

 

 そんなこんなで日程を合わせた僕らは、工匠妖精の領地から程近い位置の洞窟の入り口に集合した。入り口の前で六人がエギルと、その隣にいたやや小太りのプレイヤーを見つめた。

 

「こちら、今回俺と取り引きをしてくれた《シーロック》さんだ」

「皆さん、どうもご協力ありがとうございます。本当なら多数での攻略が望ましいのですが、ボス部屋の規定で一パーティが限界なのです。九度目、最も困難な最後のボス戦も皆さんならきっと成し遂げてくださると信じています」

 

 いやに下手から、こちらを驕らせるような口ぶりでシーロックは話す。手を揉むその瞳はまるで金に眩んでいるようだった。

 

「よし、じゃあみんな、行くぞ!」

 

 珍しいエギルの掛け声に合わせて気炎を上げ、順にダンジョンへと足を踏み入れた。

 安全圏からダンジョンに入ると、すぐに入り口の外とは空間が隔離される。安全圏に入り口のあるダンジョンならではの特殊な状況だ。

 

「ねぇ、エギル」

 

 シノンがふと口を開く。前情報通り暗い洞窟内に僕ら以外の気配はなかった。

 

「分かってる」

「分かってるならどうして取り引きなんかしたのよ」

 

 ミトも続いてエギルを責めるような声を上げた。この二人には少し似ている部分があるのかもしれない。

 クラインですら何か言いたげな顔を隠さない中、キリトとシリカは不思議そうにしていた。彼らにも分かるよう、僕も後を追った。

 

「あのシーロック、間違いなく裏がありますよ。面倒なことに巻き込まれること間違いなし……。エギルさんがそんな見え見えの地雷を踏みに行く質とは思えませんが?」

 

 エギルは禿頭を掻いた。そして渋い顔で事情を話し始めた。

 

「巻き込んで悪かった。だが、これには事情があってだな。俺だってあんなのと取り引きはしたくなかったが、うちの常連があいつに取り引きを持ちかけられてたんだよ」

 

 その言葉で大よそが察された。シーロックが見るからに怪しかろうと、それだけで取り引きを横から止めさせることはできない。常連を危険な目から助けるためにはエギルが先んじて取り引きをしてしまうのが最善策だったのだろう。

 

「それ、先に言うべきじゃない?」

「……奴は怪しいが、ここの伝説級武器の話自体は本当の可能性が高い。俺の思い過ごしで過ぎれば良いと思ったんだが、お前達の見立てでも駄目か」

 

 エギルは悄然と肩を落とす。そこにクラインが肩を組んだ。

 

「ま、気にすんなって。どんな悪意だろうと、正面から打ち破ってやりゃいいのよ。な、黒白!」

「はは、まあその通りだな」

「そうですね。ただ黒白ってまとめて呼ぶの止めてください」

「ケチぃ」

 

 肩を小突いてくるクラインを雑に振り払えば場の空気が和んだ。マップデータに従って歩くだけの時間が長い今回、場の空気を維持することは地味に重要なことである。

 ダンジョンとなっている洞窟はずっと均一な広さの空洞が続いており、上下左右に捩じ曲がって起伏も多いものの人工物である感を禁じ得なかった。等間隔に松明のように光る石が壁に埋まっており、あたかも迷宮区上層のような雰囲気を醸し出していた。

 マップデータは一か所を除いて埋められており、その埋まっていない一か所がボス部屋に続く場所であると考えられた。このダンジョンは迷路が主であるという情報は事実のようで、洞窟内には様々なところに脇道が生えていたが、提供されたマップに従って進めばほぼ一直線で僕らは進んでいた。

 下らない日常話をしていれば、約十五分の移動時間を経てマップデータの端へと僕らは辿り着いた。

 

「さて、早速聞いていない事態が出たわね」

 

 マップの端は道が続いているのではなく、洞窟を埋める扉が鎮座していた。

 

「えっと、行き止まり、ってことですか? ――きゃっ」

 

 シリカは首を傾げながらその石扉に触れる。途端、彼女の手の先からワインレッドの光が扉全体に走り、まるで生物のように扉全体が脈動した。

 

「な、なんですか、これ……」

 

 思わず扉から飛びのいたシリカが扉を見上げて告げる。ワインレッドの光は扉に入った溝を浮かび上がらせ、文字の形を取っていた。

 

「『九の星の力を降ろし、鍛え練り究極の一を求めよ』だぁ?」

 

 クラインがそれを読み上げる。それきりシンと沈黙が広がった。

 

「……どうするのよ、これ」

「何か手がかりを探すしかないんじゃない?」

「「……はぁ」」

 

 元々余り気乗りでなかった二人は露骨に肩を落とした。マップデータによって迷路をショートカットできるはずだったのが、ダンジョン内のどこにあるかも分からない手がかり探しに変更になったらそういう態度にもなるだろう。

 僕は横で顎に手を当てて考え込むキリトに声をかけた。

 

「キリト君、どう、何か思いつくことある?」

「……九の星、ってのは、多分惑星のことだろ?」

「水金地火木土天海……あと冥を合わせて確かに九だね」

「ま、だからといって何があるってわけじゃないんだが」

 

 キリトもこれだけではお手上げのようで、手を降参するように広げると無遠慮に扉を調べに向かった。

―――流石に、この場に何かはあるはず。

 迷路というダンジョンの仕組みからして、本来は全ての道を攻略するようなものではない。敵もいないわけであるし、僕らのようにマップデータを持っていなくとも運で一発でここに辿り着く者もいるはずだ。そこに、迷路に身を投じなければならなくなる仕掛けを準備するとは考えづらい。きっとこの扉はこの場だけで解決できるはずだ。

 

「あ、レントさん! こっち、ちょっと来てください」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるように、洞窟の横壁を見ていたシリカが僕を呼んだ。

 

「これなんですけど、取り外せるようになっています!」

 

 彼女が指差したのは光源として用いられている光る石だった。確かに、ここまでの道中の壁に埋め込まれていたものとは異なり、態々指をかける場所まで準備されているこの石は取り外すことを前提とされているようだった。

 ひとまずシリカに示されたそれを取り外すと――僕の方がシリカより身長があるから取りやすいのだ――、光で視認性は最悪だがその石に♂のようなマークが刻まれていることが分かった。これは雄を意味する記号で有名だが、同時に占星術においては()()を意味する記号だ。

―――『九の星の力を降ろし』ね。

 

「「みんな!」」

 

 僕とシノンの声が重なる。僕は視線で、反対側の壁際のシノンに説明を譲った。

 

「この壁に嵌まっている石だけど、取り外せるものが中にはあるみたい。それがその文章の『九つの星を降ろし』に対応しているんだと思う。扉にはちょうどこの石を嵌められそうな窪みもあるし、そこにこの石をセットすることがキーなんじゃないかしら」

 

 彼女が見つけた石は水星のマークが刻まれたものだった。シノンの言葉を僕も取り外した石を示して補足すれば、他の五人も取り外せる石へと手を伸ばした。

 扉に近い壁から合計九つの石が取り外される。そして扉にはお誂え向きの九か所の窪み。窪みの底には見えにくいが石にあった惑星記号が刻まれている。僕らはそこに対応する石を嵌め込んだ。

 すると赤い光が氾濫し、扉に走る光がまるで亀裂のように見えた瞬間、扉は弾け飛んだ。思わずガードした両腕を下ろせば、目の前には奥へと続く、今度は明らかに整備された石造りの通路が現れていた。

 

「――よし、じゃあ進むぞ!」

 

 ボス部屋が近いことを察し、エギルに続いて全員が武器を掲げた。




 今回は山も谷も作れず、ブランクの長さを感じております。情けない。
 ミトは擦っていく強い意志。SAOPの映画との整合性を取るため、第一話のアスナとのシーンを修正しました。
 VR、実現しませんでしたねぇ……。
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