バレンタインに便乗したかった。ただそれだけの理由で書きました。アリスがバレンタインデーでなんかする話

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はいどうも。だんだんと花粉が強くなってきたする焼き鯖です。

今回はバレンタインデーと言うことで、我が嫁アリスさんの短編を書きました。読んで頂けたら幸いです。

それではどうぞ。


バレンタインデー特別企画「ツキがない日はフォーチュンクッキーを」

「貴女、この後から多分厄日ね」

 

 

 

 里の団子屋さんで、親友の一人である博麗霊夢がさらりとシャレにならない事を言った。

 

 

 

「ちょっと、それどう言うことよ。急に不吉な事言わないでよ」

 

 

 

「珍しいな。霊夢がそんな事をわざわざ言うなんて。何でそう思うんだ?」

 

 

 

 店内に流れる琵琶の音に乗って、私の不満げな質問が周りに溶けた。それに続けて面白がるようにもう一人の親友の霧雨魔理沙が霊夢に尋ねる。

 

 

 

「ただの勘よ……と言いたいところだけど、さっきからずっとしかめっ面じゃない。そんな顔してたら入ってくるものも入って来ないわよ?アリス」

 

 

 

「そ、そうかしら?」

 

 

 

 人形に手鏡を持たせて顔を映すけど、特段変わった所はない。いつも通りの私だ。もしもそうなっていたとしたら多分それは--

 

 

 

「あー、それは確かにな。今日会ってから今までずっとその表情だもん。今日は女の子の日か?」

 

 

 

「魔理沙、貴女はデリカシーって言う言葉を頭の辞書に叩き込んだ方が良いわよ。私が本気で怒らないうちに」

 

 

 

「あだだだだだだ!分かった!私が悪かった!だから頭ぐりぐりは辞めてくれ〜!」

 

 

 

 霊夢の怒りが込められたぐりぐりに魔理沙は悶絶した。いつもなら私が止めにいくが、今回ばかりは擁護出来ないのでスルーしつつお茶を啜った。と、

 

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 

 まだ冷め切ってなかったのか、お茶の熱に私の舌がやられてしまった。

 

 

 

「あら、早速不幸な目に遭ったわね。大丈夫?」

 

 

 

「流石博麗霊夢。勘の鋭さだけは一級品だな」

 

 

 

 人ごとのような霊夢の言葉に魔理沙の茶化す声が重なった。

 

 

 

「……で、いつまでここでお喋りしてるつもり?そろそろ材料買いに行かないと、売り切れるわよ?」

 

 

 

「おいおい、そんな怒らなくたっていいだろ〜?」

 

 

 

 敢えて無視して立ち上がると、それに続けて魔理沙と霊夢も立ち上がった。

 

 

 

「仕方ないでしょ。明日が本番なのに私からそんな事聞かされたら誰だって不機嫌になるわよ」

 

 

 

 自覚してたのね。だったら何で今言ったのかしら?おかげで今の私の機嫌は現在進行形で大暴落中なんだけど。

 

 

 

「そうだったぜ。アリスは明日が勝負だもんなぁ〜。そりゃ不機嫌にもなるわけだ」

 

 

 

 魔理沙、余計な事を言わないでくれない?次言ったら人形達をけしかけるわよ。

 

 

 

「はいはい。さっさとお勘定しちゃってさっさと買いに行きま--」

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

「どうしたんだぜ?アリス」

 

 

 

「早いとこ買わないと売り切れるって言ってたのはどこの人形遣いだった--」

 

 

 

「……ない」

 

 

 

 震える声で呟いた言葉に、魔理沙も霊夢も一瞬怪訝そうな顔をした。

 

 

 

「お財布落としちゃった……」

 

 

 

 この一言に、二人とも時が止まったように凍りついた。

 

 

 

「嘘……私、アリスが用立ててくれると思ってお金持って来てないわよ?……魔理沙は?」

 

 

 

「み、右に同じくだぜ……」

 

 

 

 青ざめた顔を見合わせながら、私達はその場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ただいま……」

 

 

 

 すっかりと沈んだ気分で帰宅すると、

 

 

 

「シャンハーイ!」

 

 

 

「ホウラーイ!」

 

 

 

 私の可愛い相棒、上海と蓬莱が元気な声で迎えてくれた。そして、

 

 

 

「おかえり。買い物どうだった?」

 

 

 

 奥からもう一人、幻想郷ではあまり見かけない服装の男が姿を現した。

 彼は三年前にここにやって来た外来人だ。私が魔法の森を歩いていたら、森に住む妖怪に襲われて必死に逃げているところでばったり鉢合わせしたのが出会いだった。

 妖怪を倒した後は私の家の居候となり、家事全般を全て引き受けてくれている。加えて今は紅魔館でコック長をやっていて、その腕前はあの幽々子を唸らせた程凄い。

 優しくて、かっこよくて、その上料理上手。噂によると、幻想郷中の女の子達が虎視眈々と彼を狙っているらしい。

 何でそれを知ってるかって?それは、その女の子の中に私も入っているから。

 

 

 

「最悪よ。お財布を落としちゃって、お団子屋さんのお金が払えなくなるところだったの。霊夢が紫を呼んでくれたから何とかなったけど、これ以上は持ち合わせがないって言われて結局買えなかったわ」

 

 

 

「あー、やっぱり届けてやれば良かった……」

 

 

 

 そう言って彼は、ポケットからピンク色のお財布を取り出し、私に手渡した。

 

 

 

「嘘!?それどこで見つけたの!?」

 

 

 

「いや、俺も買いたい物があったから人里に出てたんだけど、帰る途中でこれ見つけてさ。急いで届けようって思ったら、射命丸と椛に絡まれたんだよ。なんとか振り払って団子屋についたら、なんでか知らないけど家に戻されてた。このままだと多分間に合わないし、霊夢も魔理沙もいるから大丈夫かなって思って家で待ってたんだ。ごめん!やっぱりどうにかして届けるべきだった!」

 

 

 

 彼はそう締めくくると、申し訳なさそうに両手を合わせた。

 あの紫ババァめ。後で霊夢に頼んでお仕置きしてもらわないと。早めに作っておきたかったのに。

 

 

 

「いいのよ。お財布落としたのは私の責任だし、そんなに急ぐ事じゃないから」

 

 

 

 そんな事はおくびにも出さず、敢えてクールに返すと、彼は少しだけ安心したように表情を和らげた。

 

 

 

「ならいいけど……なんだったら、もう一回買い物行くか?今度は俺も一緒に行くからさ」

 

 

 

「大丈夫よ。明日また買い直せばいいし」

 

 

 

 本音を言えば一緒に行きたかったけど、明日のサプライズのためにぐっとこらえた。

 

 

 

「……ねぇ、明日ってなんの日か知ってる?」

 

 

 

 ふと、気になって彼にそう尋ねてみた。

 

 

 

「明日?えーっと……なんかあったっけ?誰かの誕生日だったっけ?」

 

 

 

 ……そう、覚えてないのね……

 

 

 

「……もういいわよ」

 

 

 

 不機嫌な声で一言そう言い残し、私は自分の部屋に戻って行った。

 最近、彼は私の事を一人の女性として見ていない気がする。出会ってから三年も経つし、毎日顔を合わせているから余計にそう感じるかもしれないけど、やっぱりどこか寂しく思う。

 今は一緒に住んでるからいいけど、幻想郷は綺麗な人や可愛い人が多いから、彼がもしもここを出て行くって時には誰かを好きになっていると思うと……怖くて想像は途中で終わった。

 ならさっさと告白すればいい。霊夢や魔理沙もそう言っているけど……

 

 

 

「無理よ。だって嫌われたくないもん」

 

 

 

 こんなに地味な私を、彼が好きになる筈がない。それこそ咲夜か早苗あたりがお似合いだろう。

 

 

 

「アリス?そろそろ紅魔館に行ってくる。一応ご飯は準備したから適当に食べててくれ。じゃあ、いってきます。」

 

 

 

 扉の前から彼の声が聞こえ、その後に玄関のドアが開く音がしたかと思うと、すぐに閉まる音が聞こえた。

 リビングに行ってみると、テーブルには作りたてのシチューが置いてあった。そのすぐ側には二つに折りたたまれた紙があって、「機嫌悪くさせちゃってごめん」と書かれていた。

 

 

 

「……美味しい」

 

 

 

 彼の作る料理は温かい。食べると心が一杯になって、嫌な気分が全て消えていく感覚がする。そして全て食べきると、幸せでいつの間にか口角が上がっている。きっと、彼は料理を作るときは愛情と一緒に優しさもふんだんに混ぜているのだろう。

 

 

 

「……明日、材料が売ってたらいいなぁ……」

 

 

 

 呟くように願いながら、私はまたシチューを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……よし。後はこれを付ければ……」

 

 

 

 私は出来上がったものに黒いパウダーを軽くまぶして形を整えた。

 

 

 

「……やった!完成!」

 

 

 

 誰もいないキッチンで一人、喜びの声をあげた。本当は昨日霊夢達と作る予定だったけど、(スキマ妖怪)のせいで一人で作る羽目になってしまったのだ。

 霊夢と魔理沙、上手く作れたのかしら……

 

 

 

「……いけない。早く支度しないと」

 

 

 

 時刻は現在午後五時。彼が帰ってくるまで後一時間しかない。

 私は急いで後片付けを済ませると、すぐに夕飯の支度に取り掛かった。今日の献立は、昨日のシチューを使用したマカロニグラタンだ。

 オーブンでグラタンを焼いている間、さっき作ったものを丁寧に飾り付け、包装する。ワインレッドの紙袋に金色のリボンで結べば、地味だったそれが一気に華やかに見えた。我ながらよく出来ている小技だと思う。

 

 

 

「ふふ……後は待つだけね……」

 

 

 

 丁度グラタンも出来上がった。後は彼が来れば完璧ね。

 はぁ……早く帰ってきてくれないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ボーン、ボーン、ボーン……

 

 

 

 壁にかけた時計のベルが鳴った。

 

 

 

「……ん」

 

 

 

 どうやら寝てしまったらしい。材料探しのために早起きしたからその弊害なのかしら?

 伸びをしながら時計を見る。午前零時。あの日はもう過ぎてしまった。料理も冷めてしまった。しかし、彼の姿が見えない。

 

 

 

「……霊夢の勘が大当たりね……」

 

 

 

 あいつはきっと帰って来ない。紅魔館のパーティか、白玉楼に呼ばれたか、それとも守谷神社で酒盛りか……どちらにしろ、私は選ばれなかった。やっぱり、私は女として見られてなかったんだ。

 

 

 

「……さて、冷めちゃったけど、グラタン食べちゃわないと……」

 

 

 

 震える声で、言い聞かせるように呟いた。

 その時、

 

 

 

「はぁ……はぁ……ごめんアリス!なんか色んな奴に思いっきり絡まれて、逃げきるのに時間かかった!大丈夫!?間に合った!?」

 

 

 

 望んじゃいけないのに、願っちゃいけないのに、心のどこかで選んで欲しいと思っていた彼が、息を切らしながらドアから現れた。

 

 

 

「……あのー、アリスさん?もしかして、怒ってます?本当にごめん!紅魔館から帰ろうとしたら咲夜とか射命丸とか、色んな奴らからプレゼント爆撃を食らってたんだよ!だからこれは決してーー」

 

 

 

 体が反射で動いていた。気付いた時には彼の身体に飛びつきながら抱きついていた。

 

 

 

「えっ?あ、アリス?」

 

 

 

「……馬鹿。馬鹿!ずっと待ってたんだから!帰って来ないのかと思ったわよ!」

 

 

 

「アリス……」

 

 

 

 嬉しかった。彼が私の下に帰ってきて来れたのが。三年間、いつもしてきた事だけど、私を選んでくれた気がして嬉しかった。

 いつの間にか、彼の方からも私の体を優しく抱きしめていた。

 

 

 

「大丈夫。俺は今日この日だけは絶対に忘れたりなんかしないよ。だって、今日はバレンタインデーだし、何より--俺が初めてアリスと出会った日じゃないか。ね、だからそんな顔をすんな。俺は笑ってるアリスの顔が好きなんだ」

 

 

 

「うん……うん……!」

 

 

 

 私が泣き止むまで、彼はゆっくりとあやすように私の肩を叩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うっわ!うっま!えっ?これホントに俺のシチューで作ったの!?」

 

 

 

「ふふっ、そうよ。こういうのは再利用が重要だからね」

 

 

 

 作ったグラタンの意外な材料に驚きながらも、彼はスプーンを運ぶ手を休めない。彼が美味しそうに食べる姿を見てると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。

 

 

 

「うーん……こんな利用法があったのか……まだまだアリスには敵わないなぁ……」

 

 

 

「どうして?貴方の腕は幽々子や咲夜から認められてるのに」

 

 

 

「だって……俺がコックになったの、アリスの料理を食べて感動したからなんだよね」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

 顔を赤らめながら言った彼の思いがけない言葉に、私の顔も真っ赤になった。

 

 

 

「だからどうしても超えたいなって思って……まぁ、そんだけの話だけどさ……」

 

 

 

「……可愛いわね」

 

 

 

「五月蝿い。それより、バレンタインのチョコ、あるんでしょ?」

 

 

 

 恥ずかしそうにそっぽを向いた彼の可愛さに、悶絶しながらも箱を手渡した。

 

 

 

「はい。一日遅れのハッピーバレンタイン。今回はトリュフチョコなんだけど、少しラム酒を混ぜて見たの」

 

 

 

「へぇ〜。ラッピングもお洒落だし、こういうのはアリス得意だよね。食べてみていいかな?」

 

 

 

「ええ。いいわよ」

 

 

 

 言うが早いが彼はラッピングを外し、中にあるトリュフチョコを一つ、口の中に放り込んだ。

 

 

 

「……うん。美味しい。チョコの甘さがしっかりしてる。けど……なんか、お酒の味じゃなくって、醤油の味が凄く強い気がするんだよね」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 言われて私も一個口に含むと、確かにお酒の味じゃなくて、お醤油の味が強かった。

 

 

 

「嘘!?私、間違えてお酒とお醤油間違えて入れちゃった!」

 

 

 

「あらら……まぁ、仕方ないよ。これはこれでコクがあって美味しいからさ。」

 

 

 

 慰めるように彼は言った。

 

 

 

「うぅ……やっぱり霊夢の言うとおり、昨日から厄日なんだわ……」

 

 

 

「厄日?」

 

 

 

 怪訝そうにする彼に、私は昨日の霊夢達とのやりとりを簡単に語った。

 

 

 

「ふーん成る程……丁度いいや。アリスにこれをあげるよ」

 

 

 

 そう言って彼は、手提げ袋の中から少し歪な形のクッキーを取り出し、私の前に差し出した。

 

 

 

「これはフォーチュンクッキーって言って、クッキーの中におみくじが入ってるんだ。この中にきっと、アリスの運勢を変えるいい結果がある筈だよ」

 

 

 

「ふーん……まぁ、気休め程度にはなるかしらね。砕けばいいの?」

 

 

 

 彼が頷いたのを確認し、クッキーの一つを割ってみると、中から細長い紙が出てきた。読んでみると、そこには『予期せぬ相手から早めのホワイトデーを貰うでしょう』と書いてある。

 

 

 

「へぇ。中々面白いじゃ--」

 

 

 

 私がそう言いかけた時、いきなり彼の唇が私の唇に重なった。

 時間にして数秒程度の軽いものだったが、彼が唇を離すまでがとても長く感じられた。

 

 

 

「……いきなりでごめん。でも、どうしても今日……いや、昨日のうちに伝えたかったんだ」

 

 

 

 茫然と見続けるだけの私を尻目に、彼は服の内ポケットから小さな箱を取り出した。そのまま箱を開けると、中には綺麗に輝くサファイアをあしらった指輪が入っていた。

 

 

 

「アリス……いや、アリス・マーガトロイドさん。俺は貴方の事が好きです。どうか、僕と結婚して下さいませんか?」

 

 

 

 普段から聞いている彼の低い声が、私の心に深く染み込んで、気がついたらさっきと同じくらいの涙が目から溢れていた。

 

 

 

「……アリス?」

 

 

 

「……まさか、貴方が人里で買いたかった物って、この指輪のことだったの?」

 

 

 

「まぁね。気付かれちゃいけないって思って隠してたんだ。ごめんね」

 

 

 

 申し訳なさそうに彼は笑った。

 

 

 

「馬鹿……本当に大馬鹿よ……私をここまで幸せな気持ちにさせるんだもん……イエスに決まってるじゃない。これから先、ずっと私を幸せにしなさいよ?()()()

 

 

 

「うん。俺の残りの人生で幸せにしてみせる。絶対に離さないからな。アリス」

 

 

 

 そう言って私達はまたキスを始めた。

 初めてのキスはチョコのように甘くて、ちょっとだけ醤油のようにしょっぱかった。

 


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