特に何もない素晴らしい1日だった。   作:緋月夜

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映姫さま可愛いなぁ……。
後、少しネタ切れ感がしてきました。
焦っております。

それではどうぞ。

あっ、誤字報告ありがとうございました。


休日の閻魔の場合

―――人里 商店街

1日の気温が下がり始め、秋の終わりを予感させるような日が続く。

冬が始まる前に、食料品や衣料、生活雑貨を買い揃えておくため、飛我は人里の商店街を訪れていた。

ちなみに、収入源は紫からのお小遣い+寺子屋での手伝い(授業補佐、もしくは単体で授業)である、1人で生活する分にはそれなりの余裕がある。

先に食料品は買い揃えたので、次は生活雑貨を買いに行く。

「こんにちはー」

「よぅ、らっしゃい飛我くん」

いつもお世話になっている生活用品の専門店に訪れ、必要なものを店主に伝え用意してもらう。

「これで全部かい?」

「そうですね、これくらいあれば充分かな…あ、後砥石ってありますかね?」

「砥石?まぁ、あるにはあるが……」

訝しげな顔をする店主、まぁ、そうだろう。

砥石を使うのは、大体は刃物に対して。

しかし人里の皆は僕が刃物の類を――刀を持っていることを知らない。

当たり前だ、あれは易々と人前で見せていいものじゃない。

…戦いのため道具なんて、人前に持ち出すべきじゃない。

でも、やはりあの刀も“彼”の形見だから、手入れは怠っちゃいけない。

「包丁でも研ぐのかい?」

「まぁ、そんなところです」

訝しげながらも砥石を出してくれる店主。

曖昧な返事をし、表情も笑ってはいるが自分で分かる。

少し寂しそうな、申し訳なさそうな顔をしていると。

「毎度あり、今後ともひいきにな」

ニカッと笑いながら見送ってくれる店主を背にし、礼を言って店の外に出ようとする。

その時偶然靴紐が解けてしまった、そのためかがんで直そうとする。

その時――「ごめんください」

「らっしゃい…って、閻魔様じゃねぇですか」

…ん?閻魔さま?まさか……。

「あ、飛我じゃないですか、久々ですね」

「あ、あぁ…どうもお久しぶりです」

何故か他人行儀になってしまった、というか緊張して口調が堅くなってしまったという方が正しいか。

何故なら目の前には、この幻想郷で天寿を全うした者に対する裁きを下す閻魔が立っているのだから。

彼女の名は四季映姫、地蔵から閻魔まで成り上がったとんでもない努力家だ。

「む…堅いですよ、もう少しラフにして下さって構いませんのに」

と、仕方なさそうに笑う彼女、そんな彼女の笑顔を見れるのは本当に限られた存在であるのだが、彼はそれを知らない。

「な、なんでぃ飛我くん、閻魔様と知り合いなのかい?」

「えぇ…まぁ、かなりお世話になってます」

主に二年前の異変とか。

「そういうおじさんもえ、映姫と知り合いなんですね」

彼女から下の名前で呼ぶことを許されてはいるものの、どうしてもつっかえてしまう。

「あ、あぁ、時々うちの店に顔を出してくれるんだ」

そうなんだ、意外に庶民的……。

「そんなことより、まだお昼時なのにこんな所でどうしたんですか?」

閻魔の職に就いている彼女が、何故こんな昼間にこの店に来たのだろうか。

「それがですね…有給を消化してくれと小町がうるさくて」

なるほど、働きすぎですね

「ですが、あまりにも休みを取らなすぎて休み方を忘れてしまって……」

「なるほど…そんなにも長い間働き詰めだったんですか」

「えぇ…ざっと50年くらいは」

長っ。

「他の裁判官や死神たちにも…頼むから…休んでくれ、と…あれ……?」

そこまで言い、急にふらつき始めこちらへと倒れてくる。

「わわっ、だ、大丈夫ですか!?」

咄嗟に抱きとめ、安否を確認する。

どうやら相当疲れが溜まっている様だった、顔色は悪く、少しやつれていた。

抱き留めた時にそのまま気絶するように寝てしまったので、とりあえず家に連れて帰ることにした。

「お、おい飛我くん…閻魔様は大丈夫なのか?」

心配そうに店主が聞いてくるので、一言僕が面倒を見ます、とだけ言って店を後にした。

店を出た後、とりあえず映姫をおぶって自宅まで歩いた。

道中色々な人の視線を感じ、なんと言うか悲しくなった。

 

 

――15分後 飛我宅

「よい…しょっと」

とりあえず映姫を家まで連れて帰り、普段使っている布団に寝かせる。

「んん…ぅ…」

ぎゅ、と布団を掴み少し顔をしかめる映姫は、何処か眠りを妨げられた小さな子供のように見えた。

その様子を見て、起こさないようにと離れようとしたその時。

 

「ん…ぅ…ひゅー…が…」

「…っ…!」

 

名前を、呼ばれた。

もう、何度も呼ばれてきた自分の名前。

だが、それを寝言の中で呼ばれたのは初めての事だった。

「ひゅーが…そばに……いてください…」

「え…映姫…?」

思わず振り返る、でも、やっぱり彼女の意識は夢の中だった。

夢の中にいても、自分の名前を呼んでくれる。

…こんなにも、自分を必要とされる事が嬉しいなんて。

幸せだと思えるなんて。

そこからは、ほぼ無意識に。

眠る映姫の傍に静かに座り、彼女の髪を撫でていた。

撫でる度に、彼女の表情は柔らかく穏やかなものになっていた。

蓄積した疲労も、この少しの睡眠で、休める時間で少しでも回復出来たら、良いなと思う飛我。

そのまましばらく、飛我は彼女の髪を撫でていた。

 

数時間が経ち、ふと自分の手をなにかが掴んでいる感覚に飛我は目を開ける。

どうやら、撫でている間に自分も寝てしまっていたようだ。

あくびを一つ、そして自分の手を確認してみると、映姫が少し小さめな手で、飛我の右手を両手で包むように握っていた。

「映姫…」

包まれた右手は、外気に触れている左手よりも暖かく感じられた。

彼女の体温が伝わっているからだ、そう考えてしまうと少し恥ずかしいが。

ふと外を見ると、もう日が沈みかけていた。

沈みきる前の綺麗な夕日の光が、部屋の中を満たしていた。

 

「んん…あれ…ここ私の家じゃない…?」

ぼーっと外を見ていると映姫が目を覚ました、どうやら少し寝ぼけているようだ。

「あ、目が覚めた?」

手は握られたまま、そう声をかける。

「飛我…?えーと…私…」

何故こうなったのか、記憶を辿り始める映姫。

「さっき、雑貨屋さんで会ったときに急に倒れちゃったんだよ」

「そうだったんですか……うーん…そんなに疲れてたのでしょうか私」

そして、あることに気がつく。

「あれ…なんで私飛我の手を握ってるんでしょうか…」

映姫の顔が少しづつ赤く染まっていく、無意識とはいえ気が付いてしまえば恥ずかしいものなんだろうか。

「んと…離そうか?」

一応聞いてみると、首を横に振って

「い、いえ……出来ればこのままで……」

と、顔を伏せつつもはっきり言い切った。

断る理由もないのでそのまま手を握っていてもらった。

「…本当なら、私が貴方に好意を示してしまうのは…良くないんですけど」

「…立場的にってことかな…?」

「…私は閻魔ですから…公平でなくては」

自嘲気味に笑う映姫、しかし何処か寂しそうに見える。

立場を軽んじてはいけないと、理解していても…ということなんだろうか。

「…でも、今の映姫は閻魔じゃない、ただの一人の女性だよ」

これはただの慰め、もしかしたら慰めにもならないかもしれない。

それでも。

「飛我……」

「…僕は、皆と同じように映姫とも接したいと思ってる」

都合の良い言葉だと、切り捨てられるかもしれない。

「…それは、閻魔としての私なら、正しくないと判断し説教したでしょう」

でも、と映姫が続ける。

「今の私は、休暇中のただの1人の女です…その言葉、嬉しいですよ」

さっきとは違う、穏やかな笑顔。

今の映姫は本当に嬉しそうな笑顔をしていた。

「…そう言えば、飛我の手って大きいんですね」

握ったままの手を見てそう言う。

「そうかな、比べたことないや」

「飛我は背も高いですからね、多分そのせいです」

普段の彼女からは見られないような、穏やかな表情だった。

「こうして接するのも、初めてだよね」

「そうですね…貴方とこんなに近いなんて久しぶりです」

二年前のあの時ぶりです、と少し目を伏せて言う。

「…あなたも、大分穏やかな表情になりましたね」

「……皆のおかげ、だよ」

皆が支えてくれたから、僕は今ここにいられる。

「…ねぇ、飛我」

ふと、映姫が僕を呼ぶ。

「…どうしたの?」

「…貴方のこと、抱き締めてもいいですか…?」

……これ、どう答えたらいいんだろう。

断る理由はない、無いが…かと言って即答で許可できることではない。

そうこう悩んでる内に、待ちきれなかったのか映姫の方から抱き締めてきた。

「……っ…ぁ」

「……」

思わず固まってしまう、最近抱き締められたり、抱き締めたりすることが多くなってきた。

そして、一つの変化が飛我の体に起きていた。

“感じる”のだ、自分に向けられた好意、すなわち愛情が、自分の体の中に流れてくる感覚を。

「……どうかしたんですか?」

「あっ…い、いや…」

困惑、しかし、すぐにこの感覚にも慣れる。

自分の体の中に流れ込んできた“愛情”が、飛我のまだ塞がりきっていない穴の空いた心に流れ込み、満たしていく暖かな感覚。

「…なんか、心が暖かくて……」

「……ふむ」

なんだろう、これ。

こんな感覚…初めてだ。

「…今は、分からなくてもいいと思います」

「……そっか」

そして、静かに一言。

「その感覚の正体は、貴方にとって…いずれ力になります」

「……え」

「でも今は、分からないままでいなさい…それが貴方の積める善行です」

分からないままが…善行……。

「貴方の内に宿る力は…ここぞという時にこそ使うべきなんですから」

……力。

「…“私達”の想い、大切にしてください」

そう言って、静かに唇を重ねた。

もう、何度目かにもなると流石に慣れが出てきた。

映姫の後頭部に手を添え、触れるだけのようなキスを、深く愛を確かめ合うようなキスへと変える。

「…ん…っ…ふぁ……ひゅう…が…」

頬を紅く染め、潤んだ瞳でこちらの顔を見上げてくる映姫。

何も言わず、そのまま映姫を抱き寄せる。

「…ん…っ……苦しいです…」

思わず腕に力が入っていたようだ、少し力を抜き優しく抱き締め直す。

「そうです…そのくらいでお願いします……」

「ごめん…まだ、上手く加減ができなくて」

なるべく優しく、優しく抱きしめる。

「いいんです…これが飛我からの愛情ですね……」

「……」

こういう時、なんて言えば良いんだろう…。

分からない、かと言って黙ったままって言うのも嫌だな…。

「ねぇ、飛我」

「…ん?」

不意に映姫が口を開き、こんな事を言ってくる。

「明日は、何処か2人で出かけませんか?」

「2人で?うん…構わないけど」

「たまには、私も貴方を独り占めしたいのです…一日くらい、私が独占しても罰は当たりません…私がそう判決をしました」

そう言って少し照れくさそうに笑う映姫。

「なので、今日はこのまま一緒に…良いですよね?」

「…ん、明日のために早めに寝ておこうね」

お互いの顔を見ながら少し笑って、そのまま一緒に布団に入った。

「それでは、おやすみなさい…です」

「……ん」

 

飛我にとっては、デートのお誘いは実は初めてのことだった。

眠りに落ちるわずかな時間、その事に気が付いた彼は、より明日のデートを楽しみに思ったという。

 




伏線仕込みました((唐突
分かりやすいかも知れないけど……((
見つけてください笑

それでは。
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