特に何もない素晴らしい1日だった。   作:緋月夜

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約1ヶ月ぶりの投稿ですね。
随分とお待たせしてしまいました。

紅魔館編、その2。
それではどうぞ。


紅魔館の場合 その2

――人里 飛我宅

「…すっかり冷え込んで…そろそろ冬も本番かなぁ」

自宅の居間で、外を眺めながらそんなことを呟く。

季節は冬に入って間もない、しかし段々と日が短く、更に冷え込んで来ている。

こんな季節になると、意識しなくとも人肌が恋しくなるものである。そんな時、ふと思い出す。

「……フランちゃんと寝た時、すごい暖かかったっけ」

自分で思い出しておきながら、顔を赤く染めてしまうあたり、初心なのだろう。

(……なんで、もう1度そんな事があったらって思ったんだろ)

こう言うのもなんだが、彼女達と抱きしめ合ったり、一緒に眠ったりするというのは、とても甘美な一時なのだ。

病み付きになる、とでも言うべきなんだろうか。

「…流石に、何も無しに紅魔館に行くわけにはいかない…んー」

そんな時、ふと本棚に目が行く。

「…あ、まだ本返してなかった」

返しに行くか――

そんな時、不意に誰かが玄関の戸を叩く音がした。

「あ、はーい、今開けます」

扉の先に立っていたのは、たった今赴こうとしていた紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だった。

「こんにちは、飛我」

と、こちらに笑みを向けながら挨拶をする。

「いらっしゃい、咲夜さん、今日はどうしたの?」

まぁ入ってと彼女を招き入れ、用件を尋ねる。

「実はパチュリー様から伝言を預かっていてね…“もうすぐ返却期限になるから返しに来て”だそうよ」

「やっぱりそろそろだったか、実はさっき僕も返してないのに気付いてね、返しに行こうかなと思ってたところなんだ」

と、お茶を出しながら話す。

いただきます、とお茶を一口含んでから咲夜が続ける。

「ならちょうど良かったわ、私が代わりに返しておくけど…どうする?」

「いや、自分で返しに行くよ、自分で借りたものだしね」

そう答えると、彼女は満足そうに頷いていた。

「んー…飛我、お茶を淹れるの上手になったわね」

ゆっくりお茶を飲み、味わうように目を閉じる。

「咲夜さんが教えてくれたからね、ずっと練習してたし」

「勤勉ね、うちに働きに来る?」

くすくすと笑いながらそんなことを言う咲夜、考えておくよ、と一言返し残ったお茶を飲み干す。

「さて、と、そろそろ紅魔館に行こうかな」

「あら、じゃあ一緒に行きましょうか」

ごちそうさまでした、と咲夜が立ち上がり、家の外へと出た。

なのでこちらも湯呑みを片付け、返す本を持って同じく外へ。

 

 

───道中

咲夜と2人で並んで歩きながら紅魔館へと向かう。

そんな時ふと、先程家で頭に浮かんだ事が思い返される。

(…僕は、一体皆にどんな気持ちを向けているんだろうか)

好意は寄せられてきた、しかし、こちらから好意を返したことは、ほとんどないと言っていいだろう。

「…罪な男よね、飛我」

と、思考の隙間に滑り込むような咲夜の声。

「…そうかもしれない、いや、多分そうなんだ」

どっちつかずで、自分の心の安寧だけ求めて今まで過ごしてきてしまった。

…でも、かと言って誰か1人を選んだりしてしまえば、きっと何かが取り返しのつかない状態になってしまう気がした。

「皆、貴方を好いていて、貴方も皆の事を大切にしているから、今は何の問題もないけれど」

「…うん」

「貴方がいつまでも“愛を受けているだけ”では、いけないと思うわ」

咲夜は、叱るわけではなく、優しい声音でゆっくり語りかけてくる。

「…貴方から、愛を返すことも、また大切なことだと私は思うの」

「…それで、良いのかな」

俯き、瞳の色を曇らせたまま飛我が言う。

「…それは“答えを先延ばし”にしてるだけになったりしないかな」

「それは、やっぱり貴方の行い次第…かしらね」

隣を歩きながら、淡々とそう言う咲夜。

苦悩する飛我を、少し離れた位置で見ている母親の様な対応であったが、咲夜自身もまた、飛我に好意を寄せている1人である。

そんな立場だからこその意見であることを飛我は重々承知し、受け止めていた。

「分け隔てなく接するなら、貴方から行動を起こしても同じことでしょ、違うかしら」

その言葉と同時に、紅魔館へとたどり着いていた。

そして、飛我は見る、咲夜の表情を。

「まずは“紅魔館”から、始めてみない?」

優しく微笑む、花のような笑顔を。

 

 

―――紅魔館 ロビー

咲夜と共に中へと入った飛我は、ひとまずパチュリーの元に向かうことにした。

「大図書館って、この廊下の先の階段を下ればいいんだよね?」

「そうよ、迷わないようにね」

それじゃあ、後でね。と一言残し、彼女は姿を消した。

それを見送り、飛我は大図書館へと足を向けた。

階段を下った先にある扉を開けると、大図書館の二階部分に出た。

辺りを見渡せば、大量の本棚。

本の海と呼んでも差し支えないんじゃないだろうか、と思ってしまうほどの膨大な量。

そんな本の海の中を歩き、この大図書館の主であるパチュリーを探す。

少し歩くと、一つ下のフロアに書斎机の様なものと、そこに座って本を読む女性の姿を捉えた。

彼女こそがパチュリー・ノーレッジだ。

「あら、こんにちは飛我さん」

ふと声をかけられ、声の方を向くとそこには小悪魔が立っていた。

「久しぶり、小悪魔」

「お久しぶりです、今日は本を返却しにいらっしゃったんですね」

と、こちらの手にある本に視線を向けつつ微笑む。

「うん、それとちょっとパチュリーとも話したかったからね」

「あら、私が入ってないなんて妬けてしまいます」

不満げに頬を膨らませる小悪魔の頭をすれ違いざまに軽く撫でて、ごめんねと一言かける。

すると彼女は、こちらに嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

それを見届け、1階に繋がる階段を目指して歩いた。

一階に降り、パチュリーの座っている書斎机の前に立ってみたが、相当集中しているようで、これだけ近づいても気付かない。

そこであえて「能力」を使うことにした。

存在を消し、“完全にその場にいない状態”を作り出す。

だから、パチュリーは“飛我”に気が付かない。

最も、パチュリーが本読み終わったタイミングで能力を解除するつもりでいるのだが。

 

読書を続ける彼女を、間近で見ることはそうないだろう。

上から見た時には気が付かなかったが、彼女は眼鏡を掛けていた。

文章を追う目の動きすら、明確に見て取れる距離に、今飛我はいた。

まじまじと見つめているのもどうかと思ったので、少し周りを見渡してみる。

先ほどと変わらず、いや、先ほど以上の本棚の数が視界に映った。

これだけの本があったら、すべて読破するのにどれほどの年月読書に費やさねばならないのだろうか。

そんな時、パタンと本を閉じる音が聞こえたので振り返ると、本を閉じ、眼鏡を外したパチュリーが居た。

「んー……っ」

伸びが終わったタイミングで、こちらも能力を解除しパチュリーの目の前に現れる。

「…あら、居たの飛我」

大して驚かれなかったことに拍子抜けしてしまったが、とりあえず久しぶりと一言返す。

「なんでそんなに驚いてないの?」

「あなたの能力を、知らない人がいると思って?」

それもそうか、急に現れるような真似ができるのなんてそういないからかな。

「それで、今日は何の御用?」

「あぁ、そうだった」

と、持っていた本をパチュリーに渡し、

「これ、返却期限もうすぐでしょ、だから返しに来たんだ」

「ん…確かに受け取ったわ、それで感想は?」

本を受け取って軽くページをめくり、聞いてくる。

「うん、寝る間を惜しんで読むくらい夢中になってたよ」

「そう、それなら貸して正解だったわね」

そこでパチュリーは、今日初めて微笑んでくれた。

「…それにしても、貴方は紅魔館に来ても、図書館に寄るのはたまによね」

微笑んだ後に、少し寂しそうな目でこちらを見るパチュリー。

確かに、紅魔館に訪れた時に図書館に寄るのは時々だった、と言うのも、本を読みたいと思った時以外に足が向かないのだが。

別にパチュリーに会いたくない訳では無いのである、決して。

「う…ご、ごめん」

「まぁ…別にいいのよ、私は貴方の顔を見れたら、それだけで元気になれるもの」

慰める様にこちらの頭を軽く撫でてくれる、それだけで落ち着いてしまうのだから不思議だ。

「さて、せっかく来てくれたのにこれでおしまい、じゃつまらないわね…咲夜ー?いるー?」

そう声をかけると、どこからとも無く先ほど別れた銀髪の青いメイド服を着た彼女が現れた。

「はい、パチュリー様」

「私と飛我の分の紅茶をお願い、砂糖は別にしておいて」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」

一礼した後、彼女は姿を消した。

そして、パチュリーが自分の紅茶の好みをちゃんと覚えていてくれたことに少し感激していた。

「覚えてくれてたんだ、僕が無糖の方が好きだって」

「…当たり前でしょ、これでも貴方に好意を寄せてるうちの一人なんだから」

と、顔を赤らめながらパチュリーが言う。

「…あ、うん…そういう風に憶えてくれてるのって、僕は好きかな」

恥ずかしくて直視出来ずに、そしてさらに無意識にそんなことを口走ってしまう。

口に出した後にハッとなってパチュリーの方を見やる。

「…あ……ぅ…急にそんな…」

「あ…っ…えっと……ごめん…」

互いの顔は、吸血鬼も驚く程に真っ赤に染まっていた。

パチュリーは手で顔を覆い、こちらは完全に俯いてしまっていた。

そして、2人とも椅子に座って俯き、何も喋れなくなってしまった。

静寂に包まれた2人の間に、ふと現れた咲夜が一言。

「紅茶をお持ちしましたわ、お2人ともとりあえずは紅茶をお飲みになってはいかがですか?」

と、両者の前にそれぞれの好みに合わせた紅茶を置く。

飛我の前には無糖の紅茶を、パチュリーの前には少し甘めの紅茶を。

おずおずとティーカップを取り、口へと運ぶ2人の動きは、偶然にも一致していた。

一口含み、飛我は気がつく。

自分の前に置かれた紅茶は、ほんのわずかだったが、甘かったのだ。

それはまるで、今の自分の心境を映す鏡のようであった。

「…そうか、焦り過ぎたかな、少し」

「……?どういうこと?」

と、首を傾げこちらの一言に対し疑問を投げかけてくるパチュリー。

ティーカップを置き、彼女の目を見据える。

「…僕は、自分の心を満たそうとして、本当の気持ちから目を逸らしてたんだなぁって」

「…つまり?」

「皆から向けられる好意を嬉しく思う反面、自分の皆を大切にしたいって感情の裏に隠れた、皆の事が好きだって気持ちを、無意識に心の奥底にしまい込んでたんだ」

だって―――

「…誰か1人を選ばなくちゃいけないって、そんな固定概念に縛られてたから」

「…ふふ、そう……そうね、それは“ここ”では縛られなくてもいい事よ」

なぜなら貴方は―――

「幻想郷の皆は、貴方を好いていて、貴方も、幻想郷の皆を好いている…それが皆に伝われば、何も心配することはないんじゃないかしら、ねぇ、咲夜?」

そう言ってパチュリーは、側に立って話を聞いていた咲夜に声をかける。

「…私は、いえ、私も飛我の事を好いています、ですが、だからと言って誰か一人を選んだとしたら、それこそ“取り返しのつかないこと”になると思います」

きっぱりと咲夜が言い切り、パチュリーもそれに納得したように頷く。

「だそうよ、飛我?貴方はね、どっちつかずで居るんじゃなく、皆と平等に接してるだけ、それを誰かひとりに限定してみなさい、この幻想郷で戦争が起こるわ」

と、冗談交じりではあったが本当に起こりそうな可能性を示してきた。

「…うん、僕は皆の事が好きなんだ、それを今まで押し込めてたんだね」

そう言って飛我は、もう1度紅茶を口に運ぶ。

口の中には、先ほどよりも強く、それでいて優しい甘みが広がった。

「ゆっくりになるとは思うけど、僕は皆に好意を返していきたい」

「それでいいのよ、きっとね」

そのまま、3人の時間が過ぎていく。

それが、今の彼の望みだったから。

 

 

 

―――紅魔館 1階廊下

パチュリー達との茶会を終え、飛我は1人廊下を歩いていた。

最早、大図書館以外は歩き慣れてしまっていたので、目的の部屋にもすぐに着くことが出来た。

“2人の決まり”であるノックをする、するとすぐに扉が開く。

「あら、いらっしゃい飛我」

「ん、久しぶりって程でもないかな?」

「そうね…1週間ぶりかしらね」

話をしながら、部屋へと招かれる。

「……ねぇ、飛我」

部屋に入った後、後ろを向いたままのレミリアが声をかけてくる。

「今日は、ね、貴方にお願いしたいことがあるの」

「お願いしたいこと?」

その瞬間、レミリアはこちらへと抱きついてきていた。

流石に吸血鬼、身体能力故か目で追えるスピードではなかった。

「ど…どうしたのレミリア?」

今まで色んな事をしてきたが、レミリアに抱きつかれたのは初めてかもしれない。

「…私ね、貴方の……貴方の血が、飲みたい」

顔を上げたレミリアは、明らかに赤く染まっており、目が潤んでいた。

「…僕の血を?」

「そう…貴方の血」

そう言って、こちらの首筋に指を這わせる。

「っ…く、くすぐったいよ…」

「貴方の首筋…やっぱり綺麗ね……今すぐにでも噛み付いてしまいたいわ」

愛おしむ様に、こちらの首筋を撫で囁いてくる。

「…別に、飲んでもいいんだけど…痛くない?」

と、恐る恐る聞いてみた、出来ることなら痛くない方がいい。

「そうねぇ…私は、これでも500年生きている吸血鬼よ?獲物の血を吸う、その時に痛みを与えては暴れられてしまうでしょう?だから、痛みを与えずに吸うことが出来るように私も練習したの」

そう言って更に耳元に近付いて囁いてくる。

「…逆に、気持ちいいかも…しれないわね」

「……っ……そ、そっか、じゃあ、あと一つ、僕まで吸血鬼になったりしない?」

「その点も気にしなくていいわ……あんなものただの迷信よ」

心配していた二つの問題はクリアしていた、なので断る必要もなく

「そっか、なら…いいよ」

と、首筋を差し出した。

「ふふ…じゃあ、失礼して…」

ゆっくり口を近付け、牙を立てるよりも先に舌を這わせてきた。

「ん…はむ……」

「……っ…」

首筋を、レミリアの舌が這う感覚は、やはりくすぐったさの方が強かったが、同時に体に弱い電流が流れているような感覚があった。

「……体の力を抜いてちょうだい、強ばっていると余計に痛くなるかもしれないわよ?」

「あ、う、うん……」

「ふふ…さて、そろそろ頂こうかしら…ね」

ついに、レミリアの牙がこちらの首に当てられる。

「…吸いすぎないでね」

「……善処するわ」

ゆっくりと、牙が食い込み、そして刺さる。

だが、痛みはほんの一瞬で、それ以降は痛みを感じなかった。

「っ……あ…」

「…ちゅ……はむ…」

ゆっくりと、血を吸われていく。

その感覚だけがはっきりと脳に伝わってきて、不思議な感覚だった。

「…吸ってる…よね?」

「…ふむ」

血を吸っているからか、聞き取りづらかったがちゃんと吸い取っているようだ。

それにしても、確かにレミリアの言った通り身体中にゾクゾクするような感覚が広がっていく。

嫌な感じではなく、むしろ気持ちがいいかもしれない。

「…はぁ…っ…く」

体が震えてきた、首筋から伝わってくる快感に体が慣れていないからかもしれない。

絶妙な快感が体に広がって、上手く力が入らなくなってしまう。

「ご…ごめん、1回……牙抜いて」

そう言うと、レミリアは牙を抜いてくれ、それと同時に体が倒れそうになる。

「あらあら…骨抜きね、大丈夫?」

レミリアに支えられ、ベッドに連れていかれる。

「…続きしていいよ、と言うか、して欲しいかもしれない」

「あらあら……ふふふ…すっかり虜ね、飛我」

そういうなり隣に寄り添い、今度は反対側の首筋に牙を立てる。

「はぁ……んむ……」

「…ん…ぅ」

身体中に広がっていく快感が、心にまで浸透してくる。

自分の全てが、レミリアに包まれているような気がしてくる。

そんな事を考えていると、意識が薄れてきた。

血を吸われたことによる貧血と、貧血による急激な睡魔が襲ってきた。

「…っ…あ…」

「……ふふ、ごちそうさま」

血を飲み終えたのか、牙を抜き隣に寄り添ってくる。

「……どれくらい飲んだ?」

「そうねぇ……結構飲んだかもしれないわ」

ふふ、と意地悪そうに笑って優しくキスをしてくる。

「…ゆっくりおやすみなさい、飛我」

寄り添われながら、頭を撫でられて、安心して委ねてしまう。

それと同時に、意識が深くへと沈んでいく。

 

 

年を越すまで、あと少し。

これからも、こんな日常が続いたらいい。

そう思いながら、飛我は眠りについた。




今回の話はぶっちゃけレミリアの吸血シーンを書きたかっただけです。
それとプラスでパチュリーとかとも交流させたいなと。

それでは
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