詳しい話はあとがきで()
密度の濃い1年というものは、本当に早く過ぎていくものである。
彼自身も恐らく、そう思いながら年明けを迎えようとしている。
―――人里 飛我宅
「ふぅ…年明けまで、あと少しって言ったところかな」
壁にかけてある少し古い時計の針を目で追い、そんなことを呟く飛我。
本来なら、既に就寝していてもおかしくない時間であるはずだが、今夜は少し特別な事情があった。
(…年明け前に顔を出せ、なんて…すっかり行くのを忘れてたなんて言えなかったなぁ……)
事の発端は数日前の人里の商店街にて起きていた。
まず、今回の事を説明する前提に彼自身がこの幻想郷という場所でどういった存在なのかを説明する必要がある。
飛我という人物は、幻想郷において欠けてはならないと誰もが口を揃えて言うほどであり、また、幻想郷中の彼と関わった女性は皆、彼に好意を寄せている、という状態が起きている。
そしてそれは、幻想郷の博麗大結界を管理する巫女――博麗霊夢も、例外ではない。
そんな彼女の元へ、彼は足を運ぶことを忘れてしまっていた。
その結果、人里の真ん中で彼女に軽く説教をされ、さらに彼女は感情が高ぶったのか泣き始めてしまった。
そんな彼女を慰めつつ、年明け前に博麗神社へと足を向けることを約束したのであった。
――数分後
「とりあえず…遅れないように今から向かおう」
準備を終えた飛我は、肌を刺すような冷気に包まれた夜空へ飛び出した。
博麗神社まで大して時間はかからないはずなので、星空を眺めながらゆっくりと飛行する。
(……あっという間、けど色々なことがあった1年だったなぁ…)
この1年、彼は幻想郷中の馴染みの深い人達から、多くの好意を―愛情を受け取っていた。
それはまるで、何かを満たすためのような、まるで最初からそうすることが決まっていたかのような、そんな出来事の連続だった。
(……皆、あんなに僕のことを愛してくれていたんだな…僕のために、そこまで)
自分は、今はとても弱い存在だと、きっと皆は知っている。
でも、そんな飛我が本当は、誰よりも慈悲深く、強い人間であるということも、彼女たちを含め幻想郷中の人達は知っていた。
(さて、急ごう…あの子が待ってる)
これ以上待たせることのないように飛行する速度を少し上げ、博麗神社へと急いだ。
―博麗神社
今日は年末、新たな年へ変わる前の最後の日。
もうじき年が明け、ここへは毎年変わらぬ顔ぶれの参拝客―もとい人妖達がやってくるだろう。
どうせ初酒だなんだと境内に陣取って酒盛りを始めるに違いない…
やれやれ、とため息混じりに首を振り、体を冷やさないように炬燵に入る。
壁掛けの時計を見ながら、年明けと共に彼を待っていた。
「全く……年明けまでに顔を出す、なんて言っておいて」
いつもより少しいい茶葉を使ったお茶を飲みながら、独り言をこぼす。
「…ぜんっぜん、来やしないじゃないの、アイツ」
以前、泣きながら約束を交わした相手の少年を思い浮かべる。
「…他の奴らとは会ってるらしいのに、不公平だわ」
神破 飛我――例の「羅刹鬼異変」を解決するにあたって、最も活躍した少年である。
あの時の彼と今の彼の人格は別のものであるらしく、当時剣術において、幻想郷最強クラスだったのだが。
「…人格が消滅して、戦闘力が低下するなんて…何かしらの原因があれば取り戻せたりするのかしら」
自問自答をし、しかし答えが出ないことは承知しているので、直ぐに考えるのをやめた。
力を取り戻す以前に、彼の心に空いた穴を埋めてやらねばならない。
それが幻想郷を救った少年に対する、こちらからの礼になる。
「……ま、私もアイツのこと嫌いじゃないし、悪い気はしないけど」
恩を返すという建前がなくとも、幻想郷の住民達は彼に対して大きな好意を寄せている。
きっと、自然とこういう形になっていただろう。
ふと壁の時計に目をやると、年明けまで30分を切っていた。
「…というか、本当遅いわね…何してんのかしら」
半ば苛立ち、寒さを忘れてこたつを出る
縁側へ続く障子を開け、空を見上げると、こちらに向かってくる光が見えた。
「…やっと来た、全くもう」
言うまでもなく飛我である、彼の霊力を間違えるはずがない。
彼はこちらに気がついたようで手を振っていた。
これだけで、許してしまおうという気持ちになるのだから、彼は不思議だ。
手を振り返すと、こちらの目の前に降り立ち
「ごめん、遅くなった」
と申し訳なさそうな顔をして謝ってくる。
「仕方ないわ、許してあげる……寒いし、早く中に入りなさい?」
彼の袖を引いて社の中へと戻り、即炬燵に入る霊夢であった。
―博麗神社
久しぶりに、この社の中に入った気がする。
いつも彼女に会うのは人里だったからか、新鮮な気持ちに包まれていた。
「ごめんね、結局年明け前ギリギリになってしまって」
「…別に、いいわ。これで来なかったらあんたの家に押しかけてたけれどね」
仕方なさそうに微笑み、許してくれたようだ。
元々渡すつもりでいたけれど、これならスムーズに手土産を渡せそうだ。
「ありがとう、それでね、今日はこれを持参してきたんだ」
人里で入手した、高級品の緑茶と同じく高級品の日本酒を取り出す。
「……え、何これ……初めて見たんだけど」
顔が驚愕の色で染まったままの霊夢に、追加で封筒を渡す。
「少し早いけど、僕からのお年玉だよ」
「えっ、えぇ?な、なにか企んでるの…?」
恐る恐る、といった感じで手土産を受け取った霊夢は、少し不安そうに飛我を見つめる。
「いやいや、疚しいことは考えてないよ…待たせちゃったから、そのお詫びみたいな物さ」
苦笑しつつ、何も企んでいないことを伝えると、そういうことならと納得してくれた。
「そう言えば、今日魔理沙は居ないんだね」
いつも神社に入り浸る金髪の魔女の名前を出すと
「んー、最近見ないのよね…最後に会ったのも結構前なのよ、生きてるのかしらあいつ」
と、どこか心配そうな声音で外を眺める霊夢。
年明けの時にきっと来るものだろうと思って、彼女への手土産も持ってきていたのだが…渡せるかわからなくなってしまった。
そんな心配をしていると、微かに霊力を探知することが出来た。
「ん…誰か来るね、魔理沙かもしれないな」
「え、あぁ……霊力探知?便利ねぇ」
確認するため、炬燵を出て外を見てみる。
すると、見覚えのある服装が見えた。
見慣れた三角帽を抑えながらこちらへと近付いてくる。
「おぉーい!!久しぶりだなぁ飛我ー!!!」
上空から手を振りこちらを呼ぶ魔理沙を、手を振り返して迎える。
間もなくして地面に降り立ち、こちらへ小走りで近付いてきた。
「よっ、元気にしてたか?」
「うん、魔理沙も相変わらずで安心したよ」
こちらもまた久々に会うが、相変わらずのようで一安心しつつ、社の中に招き入れた。
「ひぇー寒いなぁ…っと、よぉ霊夢、久しぶり!」
「えぇ、久しぶり…また魔法の研究でもしてたの?」
「そうなんだよ〜、パチュリーから面白そうな魔導書を借りてな〜」
中へ入るなり霊夢の隣を陣取り、近況を話す魔理沙を眺めながら再度炬燵に入る。
「とりあえず生きてて良かったわ、心配させた罪よ、お茶淹れてきなさい魔理沙」
と、先程飛我が渡した高級品の緑茶を取り出す霊夢。
「ちぇ〜、まあいいけどよ…って、霊夢お前…それどうしたんだ?」
「飛我からのお年玉よ、せっかく持ってきてくれたんだし、一緒に飲みたいなと思ったのよ」
「な、なんだ…お前の事だから脅したりして強奪してきたんじゃないかと思っちまった…分かったよ、ちょっと待ってろよな」
寒い寒いと呟きながら台所へと魔理沙は消えていった。
こうして眺めていると、余程この二人の仲は親密なのだなぁと分かりやすいことに気が付いた。
「仲、良いよね……相変わらず」
微笑みながら聞いてみると
「そうね、それでいて2人してあんたが好きなんだもの…面白いわよね」
「あ、はは…そうなんだ…え、2人して?」
何やらさらっと凄いことを聞いてしまった。
「気がついてなかったのね、魔理沙もあんたのこと大好きみたいよ?元々があんな性格だから、そう見えないと思うけど、あんたには凄く懐いてるんだから」
そうだったのか…と、改めて彼女の言動を思い返してみる。
確かに、時々会うと必ずと言っていいほど抱き着いてきたり、食事に誘われたりしていた。
彼女の性格が一緒にいて気持ちがいいので、特に深く考えずに一緒に行動したりしていた。
……気が付かなかった、思い返せば分かりやすいアピールだった。
「…霊夢も、好きなんだね、僕のこと」
「…あのねぇ、じゃなきゃ会えなかったことに対して怒ったり泣いたりしないわよ」
ごもっともである。
「おーい、入れてきたぞ〜」
急須と湯呑みをもった魔理沙が戻ってくる、転ばないようにと声をかけつつ、もうひとつの手土産を渡す。
「そうそう、魔理沙にも渡そうと思ってたものがあってね…はいこれ」「何だこれ…本か?」
受け取ってページを捲り、こちらに疑問をなげかけてくる。
「そう、パチュリーに譲ってもらった魔導書だよ」
「え、おお!?こ、これ私が読みたかった奴じゃないか!?どうやって見つけたんだ?」
「どうやっても何も、パチュリーに聞いたんだよ、魔理沙がこの本を欲しがっていたってね」
見つけたのは偶然であったが、パチュリーが快く譲ってくれたことが幸いした。
「凄く嬉しいぜ…ありがとう飛我ー!」
「わぁっ、ちょ、危ないよ魔理沙」
感極まって抱き着いてくる魔理沙を受け止める、そして一つ気がついた。
「…魔理沙、少し痩せたでしょ、ちゃんと食事摂ってる?」
「え、いやぁ……研究が忙しくてあんまり…」
と、気まずそうに頬をかく魔理沙。
「…そんなことだろうと思ったわ、あんたの悪い癖よ魔理沙」
ため息混じりに霊夢が呟く。
「はは…ごめん、気を付けるぜ…」
「後で多分咲夜さん来るだろうし、食事を提供して貰えるようにお願いしておくよ」
新しい魔導書も研究するのだろうから、念の為である。
「…ありがとう、飛我」
よほど心配だったのだろう、霊夢が安堵した様な顔でお礼を言ってきた。
「まぁ、僕も心配だしね…魔理沙に何かあったら辛いからさ」
と、ふわふわとした柔らかい魔理沙の髪を優しく撫でてみる。
「う……ん…気を付ける…ぜ」
顔を赤く染めながら、少し強く抱き着いてくる魔理沙
「…ずるいわ、私も撫でなさいよ飛我」
「わかったわかった…おいで霊夢」
霊夢を呼ぶと嬉しそうに反対側から抱きついてきた。
2人の頭をゆっくり撫でつつ、壁の時計を見ると、年明け間近であることに気がついた。
「二人とも、もうすぐ年明けだよ」
「そうね…来年も平和に過ごしたいものね」
「あぁ、来年もこういう風にまったり過ごしたいな」
その通りだと思った、来年もいい年になりますように…そんな思いを込めつつ、その瞬間を迎える。
――あけましておめでとう、今年もよろしく。
そして、幻想郷が波乱の年を迎える事を、今はまだ誰も知らない。
大きな異変が、今動き出す。
えー、長らくお待たせ致しました。
筆者のリアル生活が大きく動きまくっていて中々執筆する時間が作れず、このようにお待たせしてしまう結果となりました。
またボチボチ書きたいと思っていますので、何卒ご了承ください。
それではまた、次の話で。