特に何もない素晴らしい1日だった。   作:緋月夜

8 / 14
本編の話から脱線しますが、飛我くんの過去編となります。
番外編終了後、日常編に戻ります。

さて、簡単な内容を説明しますと、舞台は主に二年前の幻想郷、殆ど異変は解決し平穏な日常を取り戻した幻想郷に、ふらふらと現れる飛我くん、しかし何やら様子がおかしいようで?
そんな飛我くんが、幻想郷の平穏を脅かす異変へと巻き込まれていく、とそんなストーリーになっています。

それでは、どうぞ


過去編
番外編 八雲亭にて、飛我の過去。~異変の始まり~


――幻想郷 某所 八雲亭

まだまだ残暑が残る夏の後半、僕は八雲一家が住まう八雲亭を訪れていた。

紫姉さんが、たまには顔を出してくれないと寂しい、と言うので出向いたというわけである。

「ねぇ、飛我?」

「どうしたの?紫姉さん」

急に声をかけてくる紫姉さんは、珍しく口元に扇子を当てていなかった。

「貴方、お墓参りはしたの?」

「あぁ…そうか、もうそんな季節だったか…」

「今のうちに行ってきちゃいなさい、ね?」

「ん…分かった」

そう言って僕は、外へ出た。

 

 

―――八雲亭 裏庭

ここには、小さな墓石が一つだけ置いてある。

その下に遺骨や遺体は無い、つまり形だけのお墓というものだ。

何故こんなものが八雲亭の裏庭にあるのか、そして何故僕がこのお墓をお参りしているのか。

「…もう2年か、君が死んでから」

確かに、そこには遺されたものは無かった。

何故なら、死んだのは“僕のもう一つの人格”だからだ。

ただ、彼は何も害悪だった為に殺された訳では無い。

寧ろ、僕やこの幻想郷の命の恩人と言っても過言ではないだろう。

彼は、元々僕を守る為に生まれた人格だった。

今の僕は“戦闘”を苦手としているのに対し、今は亡き彼は、戦闘こそ秀でていたが、人付き合いはてんでダメだった。

そんな彼は刀を使うことに関して、右に出るものはいなかった。

彼が得意にしていた技、「不動」そして「御霊還」。

絶対の受け、そして絶対に防ぐことの出来ない一太刀。

二年前僕が幻想郷に初めて来た時は、全面的に彼が表、僕が裏だった。

「ねぇ、飛我」

と、後ろから紫姉さんの声がする。

「貴方、あの時の技はもう使えないの?」

それは「不動」と「御霊還」のこと指していた。

「…多分、僕が求めれば使えるとは思う」

その二つの技は、彼が形見に、と僕の中に遺してくれていた。

お前が望めば、その二つはお前の力になるから、と。

「でも、平和な幻想郷で使う機会は無いんじゃないかな」

加減しなければ、この技は人を殺しかねない。

「不動に関しては、相手の動きを完全に止める技だから危険性は低いけど…」

「問題は御霊還しの方ね、正直あれは私でも防げないわ」

何せ、整い過ぎて境界を見出せないもの、と苦笑する。

誰かを傷付ける為に力を使おうとするなら、彼が怒ってしまう。

“あくまで、お前の事を守るための力だからな”と。

……もちろん、分かっている。

「穏やかな日常が壊れる時が来るなら、僕は望んで力を得るよ」

背中越しに紫姉さんに伝える。

「貴方が戦う未来なんて、私は望まないけどね」

と近付き、隣に立つ紫姉さん。

僕の意識は、少し遠い昔に引き込まれて行った。

 

 

―――二年前 幻想郷 某所

紅霧異変に始まり数々の異変が幻想郷で起き、それらが解決して平穏な日常を過ごしていた。

そんな幻想郷の住民達に、新たな異変が迫っていた。

「……」

人里でもなく、森林とも言えない道をひとり、歩く影があった。

その者は後に飛我と名乗り、この幻想郷では欠かすことの出来ない人間となる。

ただ当時の彼は、攻撃的な面が主だったので近付くもの全てを傷付けんとする様な殺気を纏っていた。

腰に刀を下げ、黒っぽいパーカーとクリーム色のズボンを着用し、目付きは鋭く、彼の左手は常に刀に添えられていた。

そんな彼の向かいから歩いてくる女性が1人。

彼女は、額に真紅の角を生やした鬼であった。

彼女の名は、星熊勇儀。

鬼の四天王の1人、腕力に関しては右に出る者はいないと言われるほどの怪力の持ち主。

(…随分とまぁ、濃い殺気を身に纏って……)

ふと彼女の口の端が歪んでいく、飛我の身に纏う殺気が彼女の闘争意欲を駆り立てたようだ。

「おい、そこの人間」

と、彼女が声をかける。

「…そういうアンタは、人じゃないな?鬼か。」

「お前さん、外から来た人間だろ」

「…それで?」

そんな会話を交わしつつ、飛我は腰を少し落とし相手の力量を見定め始める。

「お前さんが随分濃い殺気を纏っているんでね、ちょいとばかし相手をしてほしくなったって訳さ」

「……一つだけ言わせてもらう」

落としていた腰を上げ、一言。

「お前では俺には勝てない」

「…ほう…?言うね、人間風情が」

「…試してみるか?」

と、煽る飛我。

「そこまで喧嘩売られちゃあねェッ!」

と、いきなり大きく右拳で真正面から殴打を放つ勇儀。

「……はぁ…やれやれだ」

と、構えもせず棒立ちのままの飛我。

(…なんだ、コイツ…!?)

何もしない、そんな事が……と思考を巡らせた瞬間―――

 

 

 

―――不動

 

 

軽く、本当に軽く飛我は左手で、ゴミを払うように勇儀の右手を払う。

本来なら、飛我はそのまま殴打を受けて吹き飛ばされるはずであった。

しかし彼の使った技は、相手の技を防ぐだけでなく、相手の動きまで完全に止めることが出来てしまう。

「……!!」

殴打の姿勢のまま、動けなくなってしまう勇儀の顔は驚愕の色で染まっていた。

「……だから言ったろ、お前じゃ俺には勝てないと」

「…ぐ…っ…ま、まだ負けた訳じゃないよ!」

と、強引に右に体をひねり、そのまま左足で回し蹴りを見舞ってくる。

「……甘い」

バックステップでこれを避けた飛我は、着地後刀の柄に手をかけ――

 

 

 

―――御霊還

 

 

 

斬ることはなく、刀だけを振るう。

しかしその一撃は確かに勇儀に影響を及ぼしていた。

「……ッ…!?」

確かに、身体の表面上は斬られなかった。

それどころか掠りもしていない。

だかしかし飛我の放った「御霊還」は、確かに勇儀自身を斬っていた。

“勇儀の身体の内”を駆け抜けた斬撃。

「…く…そ……まさか…このアタシが…」

意識を刈り取る一撃、それが御霊還。

「…暫く寝てろ、鬼」

その言葉を最後に、勇儀の意識は深い底へと引きずり込まれて行った。

 

 

 

―――現在

「あの時の貴方、本当に今とは別人だったわよね」

ふと、紫姉さんがそう声をかけてくる。

「濃い殺気を放って…誰も寄せ付けない様にしてたわね」

「…そうかもしれない、でも彼とは約束してたんだ」

誰も殺さない、って。

「それでも、傷付けてしまう事はあった」

「争いだから仕方ない…で、納得する訳ではなかったものね」

「力を使えば傷付く人がいる…これは仕方ない事のはずなんだけどね」そこまで言って、僕は顔を背けた。

「それを彼は良しとしなかった…僕を守り、誰も傷つけない様に行動するのが最善だって考えだったから」

俯いたまま、想起する。

「フラフラと歩いていた貴方が、二年前のここに来た時…殺気丸出しで、如何にも刃物って感じの雰囲気だったわよね」

紫姉さんが、懐かしそうに…しかし少し悲しそうに笑ってそう言った。

 

 

 

―――二年前 八雲亭付近 森林

勇儀を撃退した後に、フラフラと歩いていた彼が入り込んだのは、偶然にも八雲亭がある区域であった。

八雲亭の主人、この幻想郷において最強の妖怪である八雲紫は、彼が纏う濃厚な殺気を感じ取り、そんな彼を排除すべき対象と判断し出現した。

「…止まりなさい、そこの人間」

と、彼の背後からスキマを開き高圧的に声をかける。

彼は振り返ることなく呟く。

「…またか…何なんだ一体……」

と、いかにも面倒くさそうに首だけ振り返る。

「寧ろ、何なんだと聞きたいのはこっちよ…そんな殺気を垂れ流しにして」

「…なに?」

キョトンとした顔で聞き返す飛我。

「…まさか、自覚なかったの?」

「……」

顔を背ける飛我。

「はぁ…とりあえず家に来なさい…貴方に敵対する意思はないから」

と、仕方なさそうに紫が言う。

「…分かった」

そう答えた瞬間に食らったスキマ落としを、彼は生涯忘れなかったという。

 

 

 

――八雲亭

「……」

カクカクと震える飛我を見て、何故だか申し訳ない気持ちになってしまった紫は、とりあえずお茶でも飲んで落ち着いてもらおうとした。

「はぁ…藍ー?らぁーん?」

と、自分の式神を呼ぶ。

「なんですか紫様…って、何ですかその人間は」

震えてますよ、とビックリしている様子の藍に紫は、

「…まぁ、諸々話すからお茶を持ってきてくれないかしら」

と、扇子を口元に当て言う。

「はぁ…分かりました、お待ちください」

と、奥へ引っ込んでいった。

「そんなに怖かったの?」

と、意地悪そうに笑う紫は、やはり扇子を口元に当てたままだった。「不意打ちとか…苦手なんだ…あと浮遊感が無理」

そう答えながらもガタガタと震えが止まらない。

「…ふふ」

さっきまで彼の放っていた濃厚な殺気はどこへやら、今の彼はただの人間の子供だった。

「怖がらせてすまなかったわね、悪気はなかったのよ」

と、優しく慰めるように飛我の頭を撫でる紫。

「…っ…!…なにを…っ」

と、身構えようとはするものの、上手く体に力が入らなかったのか、それとも頭を撫でられることで落ち着きはじめたのか、彼は少し顔を赤くしそっぽを向き大人しくなった。

「お待たせしましたー…って、今度は何してるんですか?」

と、お茶の入った急須と湯呑みの乗ったお盆を持って藍が戻ってきた。

「何って…撫でてるだけよ?」

と、紫は微笑みながら撫で続ける。

「藍もとりあえず座りなさい?お茶でも飲んでゆっくり話でもしましょう」

そんなことを言っている間に、藍がお茶を淹れ終え全員の前に置く。

「さぁ、どうぞ、熱いから気を付けて」

と、気遣う藍に軽く会釈した飛我はそのままお茶を一口飲んで、目を閉じた。

「……美味い」

ふぅ、と息を吐き完全に彼から殺気が消えたのを確認した紫は、話をはじめた。

「実はね、さっき貴方に声をかけたのは…最近、ここ幻想郷で起きている謎の事件が関係してるの」

「…事件…?というか、ここは幻想郷という地域なのか?日本にそんな地名はなかったと思ったが……」

首を横に捻りながら困惑したように呟く飛我。

「無理もないわ、ここは日本地図には載っていないもの」

「それにここは結界で隔離されている、普通、結界の外にいる人間がこの世界に来れる方が希なのだ」

と、紫と藍が交互に言う。

「結界…か、知らない内に越えてしまっていたようだ」

「一番の疑問なのはそこなのよね…貴方、どうやって幻想郷に来たの?」

と、不思議そうに紫が聞く。

「どうやってと言われてもな……」

と、考え込み記憶を辿る飛我に怪訝そうに藍が

「まさか妖怪ではないだろうな?」

と訊ねる。

「俺は…いや、この身体の主は人間だ、それは間違いない」

「その身体の主は貴方ではないの?」

と、口元に扇子を当て目を細める紫

「…俺は、この身体の主を護るために生まれたもう一つの人格…というのが正しいんだろうか」

と、自分でもあまり理解していない様子の飛我。

「…それに、ここに来たのだって本当に気が付いたらだった」

彼自身、無意識の内にこの場所へと来てしまった様でそう答えるしかないようだ。

「…嘘は言ってないみたいね、信じましょうその話」

扇子を閉じてさらに一言

「貴方の名前、聞いてなかったわね」

「…この身体の主の名を借りれば、飛我」

と、一言答える飛我。

「飛我ね、私は紫、八雲紫」

そして、ようこそ幻想郷へ――と、閉じた扇子を彼へと向ける。

 

――そんな時、1人の白狼天狗が八雲亭へと駆け込んできた。

「紫様はいらっしゃいますか!?至急お伝えしたいことが!」

と、何やら慌てた様子で障子が開かれる。

「…そんな血相変えて…何事?」

と、聞き返す紫の前に跪き告げる白狼天狗

「妖怪の山を巡回中の白狼天狗数名が、何者かによって殺害されました、どうやら幻想郷で起きている怪事件の犯人の仕業のようです」

「…では、やはり“腕”が?」

「はい、全員の遺体を確認した所、全員“右腕”を斬り落とされていました」

そこまで聞いた紫から重苦しいオーラが立ち上る。

「……そう、報告ありがとう、貴方も気を付けなさい。」

「はっ!失礼します。」

と、足早に白狼天狗は立ち去った。

「…紫、今のは?」

と、恐る恐る飛我が声をかける。

「…貴方に声をかけたのは、今の事件についての容疑をかけていたからよ、貴方と話をして…容疑は晴れたけど」

そして――

「……これはもはや事件では無い、“異変”よ」

 




……何話続くのか自分でも検討がつかないw
飛我くんの裏人格(過去編では主人格)の呼び名決めた方がいいんですかね…

それでは、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。