ちょっと分かりづらい点もありますが、そこはご愛敬で((
それでは、どうぞ
――二年前 八雲亭
「……異変?」
紫が言い放った“異変”という言葉には、何処か重みと憎悪が込められていた。
「…最も、これを起こした者は幻想郷の住人ではないけれど」
「……なぜそう言い切れる?」
根拠はあるのだろう、それを問い質すために飛我が聞き返す。
すると今度は代わりに藍が口を開く。
「幻想郷の住人が異変を起こしたとして、“殺し”は絶対にやらない」
そういう取り決めだからな、と続ける。
「……あくまで、“遊び”のようなものなのか、本来この幻想郷での“異変”って言うのは」
「ご名答、その通りよ」
そして少し温くなったお茶を一口啜り、さらに一言。
「……これは、幻想郷の総力をあげて解決しなければならないわね……」
「話を聞く限り、その犯人とやらはその辺に居るようだな」
と、飛我もお茶を啜って言う。
「…これが、紫達幻想郷の問題だとしても、協力しない訳にはいかないな」
「……何故?」
そこで飛我は立ち上がって出口の方へ、そして振り返り一言。
「殺しは、俺にとって一番許し難い行為だからだ」
――八雲亭 玄関
「…本当にいいの?協力を頼んでも」
飛我の背中にそう訪ねる。
「あぁ、話を聞いてしまったからにはな」
「そう…」
そこから言葉はなく、そのまま飛我の背中を見送る。
彼は外部の、ましてや人間であるのに。
…もしかしたら、彼が死ぬ可能性もある。
それをさせない為にも、紫は動かねばならなかった。
「藍、準備なさい、これから妖怪の山に行くわ」
――――――
…さて、とりあえず出てきたはいいが、土地勘は全くない。
“事件の犯人”を探そうにも、先に迷ってしまいそうだ。
「…まずは、人のいる場所に行って情報収集するしかないか」
とりあえずの方針を決め、歩き出す。
(……“霊気”の多い場所は…ここからそう遠くないところにあるな、恐らくはそこが人里)
普通の人間にも“霊気”というものは存在する、それは人間に宿る“霊力”を根源とするものであるからだ。
それを辿れば人のいる場所を見つけるのも難しくはない。
「…よし、いくか」
心配するな、飛我。
…お前の本当の居場所は、必ず見つける。
――人里 門前
とりあえず霊気を辿ってたどり着いたのは、幻想郷において唯一の人間の集まる場所。
ここなら、何か手がかりが掴めるかもしれない
そう思って門へと近付く、すると門番から声をかけられる。
「止まれ、お前は何者だ、まさか妖怪ではあるまいな?」
「…すまん、出来れば荒事は避けたい、これで認めてくれないか」
そう前置きし、飛我は“霊気”を立ち上らせる。
「…!その青白いオーラは……失礼した、許可しよう」
「感謝する…やはり“あの事件”が原因か」
人里へと入る前に、門番に問いかける。
「…外来人だと言うのに、知っていたのか」
「…まぁ、知りたくて知ったのではないがな…しかし、殺しを許す訳にはいかんだろう」
門番と向き合い、続ける。
「俺は、俺なりにこの“異変”の解決に努める」
「……命は大事にするんだな」
それきり、言葉を交わすことなく飛我は人里へと入った。
門を通り過ぎた飛我とすれ違うように、刀を下げ、手には買い物かごを持った白髪の少女が人里を出た。
「……」
ふと振り返り、その背中を見送る。
そして判断する、人里に踵を返し少女を追おうとする。
そんな飛我を通り過ぎるように、また1人少女が人里を抜ける。
黒い長髪、そしてやはり刀を下げている。
「……っ…!?」
“霊気”を読み取ろうとして、気が付く。
飛我は暫くその場に立ち尽くす、動けなかったと言うべきだった。
この推測が正しいなら、もし正しかったなら。
「……まさか、こんな早くに」
――人里付近 森林
人里での買い物を終えた妖夢は、博麗神社に寄るために歩を進めていた。
「神社に行くのは久しぶりだったかなぁ…霊夢はまただらーっとしてるのかな」
歩きながらそんなことを呟く、その後に黒い影が迫る。
「あのー…さっきから私をつけてますけど何か御用ですか?」
妖夢は後ろを振り返り、迫る影を問い質す。
「…なぜ、分かったの?」
ゆっくりと姿を現す影。
黒の長髪を風になびかせ、深い紅の瞳が妖夢を見据える。
「…そもそも、尾けるために着いてきていた訳ではないでしょう」
「ふふ…そうね…私は、貴女に用が、あったの」
言葉を紡ぐ彼女は、何処かその言葉を使い慣れていないような、そんな不自然さがあった。
「私が、貴女に求めるのは…“死合い”」
「“試合”ですか…?」
何故だ、何故此処で、何故私に?
「貴女の…その剣術を、見込んでのこと」
「……良いでしょう、求められるなら、お相手いたします」
2人の少女が、向かい合う。
「…まだ、名乗っていませんでしたね、私は魂魄妖夢と申します」
「私は…トキノ…“死合い”を」
互いに抜刀、正眼に構える。
「ゆるりと…いらっしゃいな……」
「行きますっ!」
地を踏みしめ、瞬時に肉薄し楼観剣を袈裟懸けに振り下ろす。
刀と刀がぶつかり合い、火花が散る。
「…未熟……」
「……ッ…!!」
弾かれる、そして向けられるトキノの刀。
「貴女…見込み違い…だったようね」
その体から、普通の人間なら有り得ない“黄色”のオーラが立ち上る。
「…!?あ、貴女はッ!?」
「…私は、羅刹鬼、羅刹鬼のトキノ」
そこまで言い、凄まじい速度で刀を薙ぐ。
「くッ……!!」
咄嗟に逆手で引き抜いた白楼剣でトキノの刀を受ける。
しかし重い、受けながらも押し込まれていく。
「…私を惹き付けたのは…貴女では、ないのね」
「…何をッ……くっ…!?」
そのまま刀ごと吹き飛ばされる、羅刹“鬼”という名はやはり伊達ではない。
木に叩きつけられ、体の中から何かが砕ける様な音が響く。
「ぐッ…ああああああァッ!!」
両手共に刀を握っていられず、離してしまう。
「こ…これは…“試合い”じゃない……!?」
「言った…はずよ、これは、“死合い”」
ゆっくりと歩き、こちらへと近付くトキノ。
「私を…殺すんですか…ッ…」
「貴女を…私の糧に……」
ゆっくりと刀を上段に構える。
彼女の視線は、妖夢の足に向けられていた。
「まずは…足から……」
「くっ…ここまでですか……」
そのまま足を切り払うために斜めに振り下ろし―――
「……そこまでだ」
しかし、防がれる。
飛我の右手に握られた刀によって。
「……あぁ、そうか……貴方が」
「トキノ…とか言ったな、お前」
トキノの刀と妖夢の足との間に刀を差し込み、受け止めていた。
「……お前、この少女を殺すつもりだったんだな」
「あいな…“死合い”だもの…この女は、それを受け入れた」
なるほどな……ならばこいつが…ッ!
「…ならばその“死合い”…このまま俺が受けよう」
「…ゆるりと、おいで…坊や」
互いに一度納刀し、離れる。
そして向き合い、瞬間2人は抜刀し鍔迫り合いをしていた。
驚異的なのは、一拍遅れて聞こえてきた“剣戟音”。
「…!?」
その様子を見ていた満身創痍の妖夢の顔は、驚愕に染まっていた。
(速い…今、“鍔迫り合いと剣戟の音が一致していなかった”)
音を置き去りにする速さの世界で、2人は“死合い”を始めようとしている。
「…坊や…名前を教えて」
「……この身体の主の名を借りれば、飛我」
「…そう、飛我というのね……私は、トキノ」
鍔迫り合いをしながら、名を交わし合う。
それは“余所者”同士が、互いの存在を“幻想”の中に確立する為の行為。二人の間には“殺し”は愚か“異変”すら存在しない。
“死合い”という名の、作業。
激しい剣戟が、森に響き渡る。
力任せではなく、流れる水の様に刀を合わせる二人。
「…あぁ…いい剣…」
「……何故…お前は」
互いを弾くように離れる、そして気付く。
「お前の剣には…いや、“それ”を感じているのは俺でなく…飛我か」
「…あなた、誰を隠してるの……?」
互いに刀を下ろし、近付く。
「……俺は、飛我を守るために生まれた……それだけだ」
「そう…貴方は…いい子ね」
納刀したトキノが近付き、飛我の頭を撫でる
「…人を捨てた私が言うのも……おかしな話だけれど」
「……」
そのまま撫でられ続ける飛我。
「…剣を合わせれば、分かる…貴方は優しいのね」
「そういう…トキノは…」
何故そんなにも――
「…それ以上は、言ったらお仕置き……」
口に当てられた人差し指に止められる。
「決着は…ここで付けるべきでは…ないわ」
その身を翻し、離れていくトキノ。
「…トキノ……!」
「またね…飛我」
そう言い残し、去っていく。
その姿を見送り、長いため息をつき振り返る。
「さて……妖夢、だったか」
「え、あ、はい」
急に名前を呼ばれ驚きつつも返事をする。
「フッ…ボロボロだな」
「なっ…笑わなくてもいいじゃないですかぁ……」
涙目のまま、こちらを見てくる。
「悪い、さて、手当てだな……」
「あっ……すみません……」
とりあえず近くの枝を拾い、着ていたシャツを裂いて包帯がわりとし、折れた右腕に処置を施していく。
「…肋骨も何本か折れている、ちゃんとした医者に見せなければな」
「で、でも……」
「無理をするな…道を教えてくれ」
問答無用とばかりに、妖夢をおぶり歩き出す。
「……痛くはないか?」
「は、はい…平気です」
細心の注意を払い、妖夢の指示通り歩き出す。
「……飛我さんって、強いんですね」
歩きながらそんなことを言う妖夢に一言
「…飛我でいい、俺が強くなったのは…この身体の主を守るためだけだ……それ以外の強さなんていらない」
それだけ返す、その言葉にはきっと彼にしか理解し得ない重みがあった。
「そう言えば、お医者さんのいるところなんですけど、実はこの先にある竹林の中なんです」
「竹林の中に医者が…ヤブ医者じゃないだろうな」
まさか、そんな訳はないか。
しばらく歩くと、妖夢の言っていたように竹林が見えてきた。
「ここです、ここが“迷いの竹林”です」
「じゃあ、ここに医者が居るんだな?」
背中の妖夢が頷くのを見て、そのまま竹林へと入っていく。
「えっと…そのままだと迷って出られなくなりますよ?」
「平気だ、任せておけ、必ず医者にたどり着いてみせる」
そう言いながら、飛我は“霊気”を辿り始める。
すると、抑えてはいるものの強大な霊力を有した存在が二人いるのが分かった。
直感的にそこへ向かう、そして背中の妖夢に
「見つけたぞ、ルートも確認した、今日中に着ける」
と伝え、歩き始める。
「飛我さんって…何者なんですか……?」
――二十分後 永遠亭門前
「恐らくはここだろう、着いたぞ」
「本当に着いたんですね……普通なら案内役の妹紅さんに頼まないとここまでたどり着けませんよ……」
時刻は昼を過ぎたあたりだろうか、とりあえず門を叩く。
「すまない、怪我人がいるんだが、診てもらえないか」
すると直ぐに門が開き、中から1人の女性が出てきた。
「はーいどちらさま……って、妖夢!?」
「あ、あはは…久しぶり優曇華」
頭の上に兎の耳がついている、優曇華と呼ばれた少女はおぶっていた妖夢を見るなり慌てて近寄ってくる。
「あらら……手酷くやられたわね、一体誰に?」
「それについては俺から話そう、とりあえず妖夢を診てやってくれ」
そう言うと、優曇華が中へと案内してくれた。
少し歩き、ある部屋の前で止まって優曇華が
「師匠、患者さんです」
と、中に声をかける、すると中から
「分かったわ、入っていいわよ」
と返ってきた。
障子を開け中へと入る、
「あら、妖夢……随分とボロボロね」
「右腕と、肋骨が何本か折れているように思う、診てやってくれ」
「あら……貴方は、まあいいわ、そこに寝かせてちょうだい」
中にいたのは、赤と青を貴重とし、上と下で青と赤の位置が違う服を着て、赤い十字のついた帽子をかぶった女性だった。
「……ふむ、確かに肋骨も折れてるわね、妖夢、暫く永遠亭で安静にしてなさい、幽々子には私から連絡しておくわ」
「あ…お手数おかけします……」
中にいた女性が診察を続けながら
「それで、貴方は何者?」
目線は妖夢に、しかし彼女からは、何処か殺気に似たものを向けられている。
「…流石に警戒されても仕方ないか、だが俺は、この“異変”の解決のために動いている人間でしかない」
「…外来人の割に、怯えた様子がない…面白いわね貴方」
すると、診察を終えたのかこちらへと目を向け
「私は永琳、貴方名前は?」
と聞いてくる、何度となく聞かれ、同じように答えてきた。
だから名乗る、同じように。
「この身体の主の名前を借りれば…飛我」
「…飛我、ね」
目を細め、こちらの瞳を覗き込んでくる。
「…それで、飛我は何故ボロボロの妖夢と一緒に居たのかしら?」
やはり、そこは聞いてくるだろう。
「…少し、長くなる、初めから話すぞ」
――妖怪の山 総本部
今、妖怪の山には、幻想郷でもトップクラスの実力を持つ、神や妖怪が集まっていた。
「…それで、未だに情報を掴みきれていないのですね?」
そう口を開いたのは、この幻想郷の閻魔、四季映姫だった。
「共通点は“腕”を切り取り、持っていくということ」
「…“腕”、か」
次に口を開いたのは、紫に着いてきた藍、そして妖怪の山の神、八坂神奈子。
「…紅魔館では、何か掴んでいないの?」
と、紫が口を開く。
「…そうね、確実に“これ”と言える様な情報は無いわ」
「……紅魔館には、まだ被害はないし」
それに対し、紅魔館の主、レミリア・スカーレットと紅魔館の頭脳であるパチュリー・ノーレッジが答える。
「……進歩なし、しかし被害は広がる……」
打つ手なしか、とこの場に重苦しい空気が立ち込める。
「…あの、ちょっといいですか?」
と、手を上げたのは地霊殿の主、古明地さとりだった。
「…あまりこの場で、隠し事をするのは良くないと思いますよ――紫さん」
「……何?」
さとりの発言により、会議の場にいた全員の視線が紫へと向けられる。
「…隠すつもりはなかったのだけど、まぁ、そこまで言われたならお話しましょうか」
そして話を始める、飛我について。
――永遠亭
「…それで、貴方が探りに出たのね?」
「あぁ、そうだ」
数十分だったが、とりあえずこの“異変”に関わる原因についてまでは話した。
「…それで、妖夢がボロボロになっていたのは?」
「そのことだが、恐らく最重要なことを話す」
そう前置きしてから、口を開く。
「妖夢は、この“異変”の犯人との“死合い”で、殺されかけた」
「……!」
永琳の顔が驚愕に歪むのがわかった。
「…間一髪、間に合って止められたから良かったが」
「その犯人の正体は…何か言っていなかった?」
身を乗り出し、問い詰めようとする永琳を手で制しながら続ける。
「落ち着け…ちゃんと話すさ、女は“羅刹鬼のトキノ”と名乗っていた」
「“羅刹鬼”……」
そこまで話し、飛我は立ち上がる。
「…今のところは、これで全部だ、じゃあ失礼する……妖夢をよろしく頼む」
「え、えぇ…分かったわ」
そして、障子に手をかけた所で振り返り
「…紫達、この幻想郷のトップ達はこの問題に対して頭を抱えているだろう、この情報を早めに知らせてくれないか?」
と、永琳に頼むと彼女は
「…えぇ、聞いたわね優曇華、いち早く…妖怪の山へ」
「わ、分かりました!」
と、優曇華に指示し、優曇華は慌てて飛び出していった。
「…それじゃあな、俺はもう少し探ってくる」
そう言い残し、飛我も去っていった。
「飛我…あの子は一体……」
――妖怪の山
「…まさか、紫……外部の、素性の知れない人間に協力させていると……つまりそういうことを言ったんですか……!?」
映姫が、肩を震わせながら言葉を投げかける。
「……そうね、つまりは、そういうことよ」
「何故ですかッ!これは、幻想郷の問題でしょう!?」
怒りに耐えかねたのか、握り締めた両手を机に叩きつけ、紫を怒鳴りつける。
「よりによって…まさか外来人に委ねるだなんて…ッ…!」
怒りに肩を震わせながら、座り顔を伏せる。
「…そうね、紫、どういうつもりなの?」
映姫に代わってレミリアが疑問を投げかける。
「…この場で、何をふざけた事をと思うかもしれなけど、言わば私の“勘”よ」
「……!!」
紫の言葉に、場の空気が固まる。
「……その勘が外れたら、どうするのだ」
ここまで何も言わなかった、大天狗の夜風が口を開く。
「……外れないわ、彼は必ず手がかりとなる情報を掴んでくる」
そうはっきりと言った時、会議場の戸を叩く者が現れた。
「す、すみません!至急紫さんのお耳に入れたいお話があるんですけど!」
その声の主は、言わずもがな優曇華院である。
「…構わないわ、入って」
その声と同時に戸を開けて、優曇華が紫の側により、耳打ちにて飛我より託された“異変の情報”について、伝える。
「……ッ…なるほど、分かったわ、わざわざありがとう」
「い、いえ、失礼します!」
と、慌てて出ていった。
「…紫、一体どうしたんですか?」
半ば睨む様に、映姫が紫を見据える。
「先ほど言った通りよ、彼が、飛我が情報を掴んできた」
そして、場の全員に届いた情報を事細かに話す。
「なっ…やはり……幻想郷外の存在が……!」
再度、場の空気が重く、更に緊張が走る。
「…確かに伝えたわ、それと、彼は強い、彼を頼ることも選択肢の一つに加えてもいいんじゃないかしらね」
そして立ち上がり、一言。
「…私が話せるのはこれで全部、藍、戻るわよ」
「あ、はい紫さま」
途端に、スキマを生み出し消える。
紫が消えた後、会議の場に居たものから緊張が抜けていき、ため息を漏らす。
「…ひとまず今日の会議はこれで、また何かあれば、私か、紫に」
では、解散――。
本来の異変解決に動くはずの霊夢たちは、日常編に出してから…もしくは、過去編で先に出します。
何か、話重くなったかもしれん……。
それではまた。