『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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ナザリック観光ツアー プランA

アインズ様によるナザリック名所案内、昼夜食事つき、今なら先着5名様まで豪華特典付き!

ナザリックで夢のような時間を過ごしませんか?


事案2

 円卓(ラウンドテーブル)と呼ばれる部屋で骸骨が少女に対して熱弁を振るっていた。

 

 お互い椅子に腰かけながら、熱弁を振るうのはこの王宮の主、熱弁を振るわれている少女はネム・エモットだ。

 

 なお、王宮の主は最初からあった椅子に腰かけたが、ネムは魔法によって生み出された、元々部屋にあった椅子とは造詣が異なり、足が高く小さな子供でも大人と同じ目線になるように設計された椅子にである。

 

 通常の場合で考えると、小さな子供は一か所に留まるのは苦手だ。特にこのように凄い場所であるならば、駆け出したり、かくれんぼをしたり、冒険をしてみたくなるものだろう。

 

 だが、ネムはそんなことはなかった。何故か?

 

 まず椅子の座り心地が良いのもあるだろう。長時間座っていたが、全く疲れないのだ。むしろこのままずっと座っていたいと思うほどに。

 

 だがそれ以上に聞いている話が面白いことが、お利口にしている最大の要因なのだろう。

 

「――そしてこの武器の最大の特徴は、神器級(ゴッズ)を超越した先にある、ネムに分かるように言えば、私が知る限り、一番価値ある物体であり世界にたった二百個しかない、世界級(ワールド)アイテムに匹敵している点だ。しかもこのスタッフに自動迎撃システムも組み込まれている。もし何者かがこのスタッフを破壊……害そうとした場合、私が手を下さずとも、このスタッフ自身にやられるわけだ。尤も、傷つけさせたりなんかしないがね」

 

 正直言って、ただの村娘であるネムには喋られている事の半分も理解できていない。分かるのは、ネムたちが村人とは住む世界が違うこと。そしてそれを、楽しそうに教えてくれていることだけだ。

 

 だが半分以上理解できていなくとも、聞くことが楽しいというのは間違いない。もっと、この神話を聞きたいと思うほどに……。

 

 

 

 

「それと本当ならだ、世界級(ワールド)は我々が揃ったとしても、作成するのは不可能な事なんだ。もちろん、匹敵する物を作るのもな。だが、我々は作成して見せた。莫大な時間と、多大なる困難を乗り越えて……凄いだろう?」

 

「うわー! そんなに凄い物だったんですね!」

 

「そうだとも! だが余りの労力から、我々の間でも、もう諦めようという意見もあるには合った。しかし私たちは友情の力で、乗り越えて見せたんだよ」

 

 ネムは先程からキラキラという瞳でスタッフを見つめている。

 

 アインズが一頻り、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの作成秘話や能力を自慢し続けてからかなりの時間が経過したようだ。

 

 ネムは先程からスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをキラキラという擬音が付きそうな目で見ているので、十分ナザリックやギルドメンバーの凄さを理解してくれたようだ。

 

 ……そろそろ、次の場所の案内(自慢)に向かうべきだろう。

 

「よし、では次の場所に案内しようじゃないか」

 

「はい!」

 

 ネムは今まで座っていた椅子から勢いよく立ちあがるのを見てから、アインズは魔法を解く。

 

 すると、今までそこにあったはずの椅子は影も形もなく消え去っていた。

 

 なぜアインズは最低でも椅子は四十一人分ある椅子を態々魔法で新しく作ったのか? とても簡単である。ギルドメンバー以外を座らせたくなかったからだ。

 

 だからと言って、招いた存在であるネムを長時間立たせたまま話すもの気が引けるので、ネムにあった高さの椅子を作り出したのだ。

 

 円卓(ラウンドテーブル)から外に出て、暫く廊下を歩いていると、恐らく食堂からなのだろう。食べ物の良い匂いが漂ってきていた。メイドたちの食事の時間なのだろう。

 

(それにしても不思議だ。何でこの体は味覚だけないのか……)

 

 普通に考えれば、味覚がないのは当然だ。アインズはアンデッドで食事は不要なのだから。もっともアンデッドでも骸骨でなければ、シャルティアのように食事が可能な種族もあるが……骸骨であるアインズには関係のない話である。残るのは疑問だけである。

 

(……考えても無駄だな)

 

 とにかくにも今日はナザリックの事をこの少女に自慢し尽くそうと決めた。

 

「……おいしそうなにおい! アインズ様、これは何て言うお料理何ですか!」

 

「むっ……何ていう料理かな……いや、そうだな」

 

 アインズは食べれないからと言って、ネムも食べない必要はない。いや、人間であり成長期である以上栄養は必須だ。

 

 ナザリックに招待したのに、お腹を空かせたまま家に帰すのは、ナザリックの恥だ……そこまでいかなくても、食事にすら事欠くという印象を与えるかもしれない。

 

「……よし! ネムもお腹がすいただろう! 飛び入りで参加しようじゃないか?」

 

「いいんですか! わーい!」

 

「勿論だとも」 

 

 それに、普段メイドたちがどのように過ごしているのかを少しだけでも見てみると決めアインズが先導する形で、二人は廊下を歩きだした。

 

「いや、待てよ」

 

 今までの彼女たちの様子からすれば、自分が行けば萎縮する可能性が非常に高い。であれば、彼女たちの休憩時間を奪うことになるのではないだろうか?

 

 それに……急に止まったためか、首をかしげているネムを見る。

 

 ネムもいきなり、大勢と一緒に食べるのも辛いだろう。メイドたちの食事はビュッフェ形式だという。飛び入りでネムが対応するのも難しいと思う。パンドラズ・アクターが入れば別だが、アインズではフォローは難しい。

 

 食事時間も終わっているかもしれないし……。そう考えたアインズはメッセージの魔法を発動させた。

 

『聞こえるか、ペストーニャ?』

 

「これは、アインズ様? 如何なさいましたか、わん」

 

『応接室に、メイドたちが普段食べている物を……一人前でいいから持って来てくれ』

 

『畏まりましたわん。ですが、それでしたら、より良い物をお持ち致しますが?』

 

 確かに、どうせなら良い物を食べてもらった方が良いのかもしれない。だが、折角ならアインズも普段メイドたちがどんなものを食べているか見てみたいとも思う。ここは……。

 

「ネム、よければ晩御飯もナザリックで食べて行くかね?」

 

「……良いんですか!?」

 

「もちろんだとも」

 

 これで、どうするかは中で決まった。

 

『とりあえずは、メイドたちが食べている分でいい。頼んだぞ』

 

 メイド長、ペストーニャに持ってくる場所と了解の返事を聞きながら、メッセージの魔法を切る。

 

「ネム、折角だから、別の場所で食べよう。静かなところで、ゆっくり食べて貰おうと思う。付いて来てくれ」

 

「……はい!」

 

 

 そして、アインズは手近にある応接室へ入って行き、ネムと談笑しながら、料理が来るのを待っていた。

 

「――それでだな……っと」

 

 どうやら来たようだ。ドアの外からノックがした。入るように促すと、メイドたち三人がそれぞれ食事が乗ったお皿を持って入室してくる。

 

 そして、その後を続くように何らかの料理器具と材料を持った、男性使用人の一人がいた……。この場で何かを作るのだろうか?

 

 アインズ自身興味を持っていた。

 

「お待たせいたしました。お料理の方お持ち致しました」

 

「うむ。ネムの前に持って行ってくれ」

 

「承りました」

 

 メイドたちが頷くと同時に、早速ネムの前に色取り取りのお皿を置く。同時にコップや取り皿。目の前には調理台だ。

 

「アインズ様、本当に頂いてもいいんですか?」

 

「もちろんだとも」

 

「……ありがとうございます!」

 

 その感謝はアインズに告げると同時に、料理を持ってきたメイドたちにも言ったつもりのようだ。

 

 尤も、メイドたちは優しく愛想の良い顔を浮かべているが、少し壁を感じさせるもののように感じた。次のネムに一言で崩れたが。

 

「やっぱり、皆さんもアインズ様の姪っ子さんなんですか?」

 

 ……メイドたちはフリーズしているようだ。似たようなセリフを言われた時の、ユリ・アルファのようだ。なら。アインズが答えるセリフも決まっている。

 

「そうだ。そこにいるメイドたちも、目の前にいる彼も、私にとって大切な宝であり、仲間たちの子どもたちだと思っている」

 

 ……一拍が置かれた後、メイドたちが泣き出した。

 

「そ、そんな風に言って頂けるなんて、お、恐れ多いです」

 

「ふむ……嫌なら、撤回するが」

 

「「「嫌なんかじゃありません! ただ、そんな風に仰っていただいて恐れ多い」」」

 

「お、おう。……あー、お前たちは下がっていいぞ……しっかりと午後の業務に励んでくれ」

 

 とりあえず、泣きまくっていて、とてもじゃないが冷静ではないメイドたちは退出させることにして……。

 

「……驚かせてすまなかったな、ネム。冷めないうちに食べてくれ」

 

「……頂きます!」

 

 いきなりメイドたちが泣き出したため、呆気にとられていたネムも、復帰したようだ。それに、やはりお腹がすいていたのだろう。

 

 少しはしたないかもしれないが、フォークを拙いながらも使用して食べ始めた。

 

「――おいしいっ! おいしすぎます! アインズ様!」

 

 ネムの美味しいという言葉が部屋中に響き渡る。そして、そのまま一気に食べ始めて、咽喉に食べ物を詰まらせたのだろう。

 

 アインズは慌てて、背中を撫でながら飲み物をネムに飲ませる。

 

「飲み物もおいしい! ……ありがとうございます、アインズ様!」

 

「構わんよ。咽喉に詰まらせないように、ゆっくり食べると良い。誰も取ったりしないからな」

 

「はい、気を付けます」

 

 そして、ゆっくりと食事を再開するネム。ネムがゆっくり食べているため、先程から静かな男性使用人に話しかけて、料理を作るのかと質問すると、しっかりと頷いた。

 

「そうか、では始めてくれ」

 

 アインズの言葉に従い、男性使用人はまずバターだろうか? を、フライパンに均等に馴染ませて、大鍋のような物からお玉で卵を掬うと、見事な手さばきでフライパンに卵を載せた。

 

 余りにも見事だったためか、ネムも一時食べるのを止めてアインズと同じように魅入っているようだ。

 

 幾つかの具材が投入されて、ほんの数分で美味しそうな焦げ目一つもない、オムレツが完成して、空いていたお皿に盛り、ケチャップをかけると、ネムの前に出していた。

 

「これも食べていいんですか?」

 

「もちろんだ。食べて、私にも感想を聞かせてくれ」

 

「はい! いただきます!」

 

 そして、スプーンでネムがオムレツを掬うと息を吹きかけながら、一口。

 

「……ふわふわでとろとろで、甘ーい! おいしい!」

 

 そのまま、口元を汚しながら一気にネムは食べ続ける。所々で、飲み物を飲みながら。

 

「アインズ様も一緒に食べれたら良いのに」

 

「……確かに、作っているところを見ていると、私自身食べてみたい気もするが、骸骨だからな」

 

「うーん……アインズ様なら、何か魔法で食べれるようになったりしないんですか?」

 

 ネムの言葉でよくよく魔法を思い出してみる……が、最適な魔法はなさそうだ。あるいは、超位魔法を使えば可能なのだろうが……。

 

 なお、アインズは気づいていないが男性使用人がアインズに熱い視線を向けていたのは確かである。ネムの言葉で何れは自身が今のように調理をする機会が回ってくるかもしれないと考えて、感謝しながら。

 

――実際のところ魔法を探したり、虱潰しにアイテムを探していけば、リスクがほとんどなく、食事をすることが可能な魔法やマジックアイテムはあるはずだ。だが、アインズは食べたいと思えないのだ。食べてはいけないと思っているのだ。そう、鈴木悟の頃からアインズの心を縛る強迫観念によって――

 

「そうだな、あるかもしれないが……さぁ、冷える前に早く食べるといい。私はネムが美味しく食べている姿を見るだけで満足だ」

 

「……はーい!」

 

 飲み物が無くなった時には、男性使用人がいつの間にかに注ぎ足している。

 

 手持ち無沙汰なのは内緒だ。

 

 密かにアインズは男性使用人を見る。見る限り、ネムに対して敵意はないようだ。この調子なら、他の村人たちを招いたとしても、特に問題は起きないだろう。

 

 パンドラズ・アクターがどのように戦略を練っているかは分からないが、これなら問題はなさそうだ。

 

(そういえば、アルベドはシャルティアの下に行っているんだったか……早く話し合わないとな)

 

「――ごちそうさまでした!」

 

 思考に耽っていたが、どうやらネムは食事を終えたようだ。皿の上には何一つなく、それがネムが美味しく食べたことの証だ。

 

「もういいのか? ……オムレツはまだ作れるようだぞ? そうだろう?」

 

「イー!」

 

 奇声を上げながらもしっかりと頷く。

 

「なら、あと少しだけ食べたいです」

 

「そうか……私も興味があるから作るところを、もう一度良く見てみよう」

 

「はい!」

 

 

 

 

★ ★ ★

 

 暫く時間が経過し、ネムの食事が完全に終了した後、アインズは次に見せる場所に向かっていた。

 

 ネムはそれはもう満足してくれたようだ。食事はもちろん、飲み物もかなりの頻度で飲み続け、一人でピッチャー一つ程度は飲み干してしまったのだから。

 

「ここからは階段を降りるから、しっかり私に付いて来るように」

 

「はーい!」

 

 そしてアインズとネムは二人が手を大きく広げても空間にゆとりがある大きな階段を独占して降りる。

 

 次にアインズが案内している場所は、最古図書館(アッシュールバニパル)だ。ここもまた豪勢な造りであり見せたい場所の一つだ。

 

 次に見せる場所の前座とかは思ってはいない。

 

「凄ーい!」

 

「ネム。喜んでくれるのは嬉しいが、ここでは静かにするのがマナーなんだ」

 

 たしかに凄い場所で声を上げたくなる気持ちも分かる。しかし、ここは図書館静かにする場所なのだ。 ……尤もNPCやシモベたちからすれば、アインズの一声で黒でも白と言うだろうが。

 

「……はい。ごめんなさい」

 

「分かればよろしい。そういえば、物語は好きかな?」

 

 ネムに注意を終えて、子どもが読みやすい本が置かれている場所……児童書コーナーに向かいつつ質問してみる。

 

「はい、好きです。ゴブリンさん達の名前もジュゲム・ジューゲムっていう物語から付けてるんですよ」

 

 ジュゲム……アインズは詳しく知らないが、確かにリアルで有った言葉のはずだ。もしかしたら、リアルの世界の残滓……プレイヤーやそれに近しい存在がここから分かるかもしれない。 

 

「ネム、その物語の作者は知っているかな?」

 

 とにかくにも、今は情報が欠けている。少しでも多く、情報を得る必要がある。直接的に情報をを得れないとしても手掛かりにはなる、そんな思いでアインズはネムに質問する。

 

「ごめんなさい。知らないです。お姉ちゃんや、ンフィー君なら知ってるかもしれないです」

 

 ……当然と言えば、当然かもしれない。これは後でカルネ村に行っているパンドラズ・アクターに知らせるべき事柄だろう。

 

「そうか、ありがとう。ところで、この本を読んでみるかね?」

 

「……ごめんなさい。私、文字が読めないんです。物語は村のみんなから教えてもらったんです」

 

 アインズは近場にあった、子ども向けの絵本の一冊を手に取ってみたが、ネムから帰ってきた返答は文字が読めないという、心なしか落ち込んだ返答であった。

 

(……そうか、識字率は低いんだな。当然と言えば、当然か)

 

 今まで得られた情報を総合すれば、魔法やユグドラシル産のアイテム、後は武技を除けばリアルの中世程度と考えるのが妥当だろう。一部の生活レベルは魔法などで向上しているが……。

 

 それでも、小さな村の識字率を上げるほどの効果はなかったようだ。

 

 であれば、ネムにとってここはつまらない場所だろう。だが、何となくこのまま落ち込んだままで終わらせるのは嫌だった。

 

 ……しばらく変な沈黙が続いて、アインズは唐突に思いついた。

 

 ここでネムを使ってある実験を行おうと。 

 

「……よし、ネム。このメガネをかけてごらん?」

 

 アインズはアイテムボックスから、あるアイテムを引き抜いた。本来ならこのアイテムはセバスに預けていたため、アインズは所有していなかっただろうが、パンドラズ・アクターを運用している利点で、情報収集に必要なアイテムを宝物殿から取り出すことにより補充が容易となっていた。

 

 このアイテムもその一つだ。

 

「え? 私、目は悪くないですよ?」

 

「いいから、いいから。騙されたと思ってかけてごらん?」

 

 驚いているネムを騙すように……言い含めてメガネをかけさせると、効果はすぐに表れた。

 

「……えっ!? 私、文字が読めてる?」

 

「ああ。そのメガネには魔法がかけられているのだよ」

 

 そう、ネムに手渡したメガネには文字解読の魔法がかけられているのだ。そして、先程手に取った本を手渡し、

本を開くとネムは驚きの声を上げた。

 

「凄い! 絵も描いてある!」

  

 先程アインズが手に取ったのは著作権が切れている児童向けの絵本だったが、どうやらお気に召してくれたようだ。

 

 ついでにネムに好きな本を読むように言い、アインズは思索に耽る。

 

(……ネムは文字を読めるようになった。なら、その視界にはどんな風に映っているのだろうか?)

 

 元々ネムは文字が読めないと言っていた。では、何故読めているのか。アインズやNPCたちは元々分かる言語に翻訳されている。

 

 だが、元々読める文字がないのであれば……効果が違うのだろうか?

 

 この世界特有の言語と同じように直接、翻訳した結果を映しているのだろうか……。それでも視覚で理解するなら、文字は必要だと思うのだが……。脳にでも直接理解させているのだろうか?

 

 設定厨のタブラ・スマラグディナなら、何らかの答えを見いだせたかもしれないが、アインズでは無理だ。そういう物として理解するしかない。

 

(やはり未知が多すぎる。要検証だな……パンドラズ・アクターにメッセージで物語の件も含めて、伝えておくか)

 

 

 そして、パンドラズ・アクターとの簡易的なやり取りを終える頃には三十分程度、経過したのだろう。

 

 ネムも丁度二冊目を読み終わって、手近にあった本を取り出して、二冊目の本を読みだそうとしているところだった。切りもいい。

 

「ネム、そろそろ次の場所に向かおう。本は……そうだな、あと何冊か選んでくれ。次の場所を見せた後にゆっくり読むと言い」

 

「……はい、分かりました!」

 

 食い入るように本を読んでいたネムが、今度は書棚を食い入るように見て……数冊の本を選び、その本を手に持って近づいてきた。

 

「よし、では行くとしよう」

 

「はい!」

 

 ネムが選んだ本はアインズが受取、アイテムボックスにしまう事で荷物にならないようにする。

 

 また、邪魔にならないように一旦メガネもアインズが仕舞っておく。

 

 

 司書たちを尻目に豪勢な扉から出て、また暫く歩く。

 

 だが、途中少しネムが歩くスピードが落ちていた。

 

 振り返って後ろを見てみると、何故かはわからないが、ネムがモジモジと言う擬音が付きそうに足を動かしていた。もしくはそわそわだろうか?

 

「どうした、ネム?」

 

「な、なんでもないです! 早く、次の場所が見たいです!」

 

「むっ、そうか? では行くとしよう」

 

 そしてアインズは特に気にも留めずまた歩き出した。今度はネムも歩くスピードが落ちていない。今までと同じように、首を頻繁に動かしながら、興味深そうにナザリックを眺めている。もしかしたら疲れたかと思ったが気のせいなのだろうと、アインズは理解したのだ。

 

 ――尤も、アインズが早くあの場所を見せたいという気持ちになっていなければ、多少何か変だと気づいたかもしれないが。まぁ、今まで実際に女性と関わってこなかった以上、表情や仕草で気づけというのも無理な話である――

 

 今、アインズたちが向かっている場所はナザリックで一番荘厳に美しく創られた場所だ。

 

 いや、ナザリックは全てが美しく荘厳であることに偽りはない。全て仲間たちと共に造った思い出の場所なのだ。

 

 だがそれでも、アインズがナザリックで一番大切な場所はどこかと聞かれれば……。

 

 最終的に選択肢は三つに絞られる。

 

 一つ目が円卓(ラウンドテーブル)だろう。ギルドメンバー全員が集まっての作戦会議はあの場所でやっていたし、通常の場合ログインした後一番最初に出る場所なのだから。そう考えれば、仲間たちと一緒に一番長い時間を過ごした場所ともいえる。しかし、それでも残り二つと比べると劣って見えてしまうのはしかたないのだろう。

 

 二つ目がリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用しなければ訪れることすらできない場所、宝物殿だ。アインズ・ウール・ゴウンの栄光の証だ。そして……。

 

 宝物殿最奥部霊廟だ。ここはアインズの友人たちの形が眠る場所だ。

 

 だが、ここは案内する場所には適さない。何より気に入っているとはいえ、部外者にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを一時的とはいえ貸すつもりはない。

 

 それに、あの場所は栄光と共に悲しみも抱えた場所でもある。アインズとて頻繁に見たいわけではない。

 

 ならば残るは一つ。

 

 アインズたちは今、ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)にいる。ここまでくれば、目的地はすぐそこだ。

 

 

 

 ネムは目一杯楽しんでいた。凄いところを案内してもらい、美味しい物を食べさせてもらえた。夜にはもっとおいしい物を食べさせてもらえるらしい。読めないはずの本も読ませてもらえる。

 

 本を読むので一旦集中力が切れて、トイレに行きたいのを自覚したのは内緒だ。

 

 そして今もまた、新しい場所に案内されていた。その場所は半球状の大広間だ。きょろきょろと見回しながら付いて行く。

 

 天井には白色光のクリスタル。壁の方に目を向ければ、たくさんの穴に今にも動き出しそうな彫像。

 

 何よりも目を引いたのは、一番奥の大きな扉だ。そして辿り着く。

 

「――ここだ」

 

 アインズ様がその大きな扉に触れると、まるで魔法でも使ったかのように、自動でゆっくりと開いていく。

 

 ネムはここに来るまでに凄いものをたくさん見てきた。だからこそ、これ以上驚くことも無いと無意識のうちに思っていた。

 

 だがそれは間違いだった。

 

 その空間を見た時、ネムは呆然としてしまい驚きの声さえ上げられなかった。持ち主であるはずの御方が感嘆のため息を漏らしていることを可笑しいとすら思わなかった。

 

 今までネムが目にしてきたものも本当なら一生目にすることもかなわなかっただろう。

 

 だが、この場所は本当に別格だ。

 

 そしてそれ以上に、ここほどに美しい場所もないと思ってしまう。

 

 目の前の人物が力強く歩き出すのを捉えたため、ただ何も考えずに付いて行く。

 

 今までもネムはたくさんの絨毯の上を歩いてきたが、正直それも別格だ。ふわふわしすぎていて、ふとした拍子に転んでしまいそうだ。

 

 そんな失礼なまねはできないのと、少しでも長く全体を目に焼き付けたいため必死にこらえているが。

 

「ここが、ナザリックの玉座の間だ。我々が全身全霊で作り上げた最大の結晶だ」

 

 丁度広間の中央辺りに来たぐらいで、言葉を受けて少しだけ我に返る。だが、まだ口を開けるほどに冷静ではない。

 

 ただ凄いと感情を表に出して叫びたいという気持ちもある。だが、それは良いのだろうか? この場にて大きな声を出しても本当にいいのだろうか。

 

「ネム、君の素直な感想を聞きたいな?」

 

 まるでネムの気持ちを見透かしたような言葉が耳に届く。

 

 そして意味を理解して遠慮なくネムは先程までトイレに行きたいと思っていたことも忘れて、お腹に力を受け大声で叫んでいた。

 

「凄い、凄い、凄い! すごーい! 綺麗です! 美しいです! 大きいです! えっと! それから、それから! アインズ様たちは凄すぎです!」

 

 

★ ★ ★ 第一階層守護者(シャルティア)の憂鬱

 

「はぁ……」

 

 第一階層守護者であり、守護者最強のシャルティアの部屋は、室内の照明は若干落とされている。そしてそれに比例するようにシャルティアの気分も沈んでいた。

 

 いや、それは嘘だ。本来であるならば、シャルティアの部屋は甘ったるい匂いが濃密に充満しており、空気にも色がついていると形容してもいいぐらいだ。

 

 実際今もそこに変化はない。

 

 では何故、シャルティアの気分は沈んでいるのか?

 

 唯一残られた至高の御方に刃を向けてしまったから?

 

 確かにそれも原因の一つではあるのだろう。シャルティアがしてしまった事は許されざることである。だが、その件は一応の決着を見ている。

 

 シャルティアと戦った存在が複数の世界級(ワールド)を持っていた点……シャルティアが慢心抜きで戦ってていた場合の危険性……シャルティアは消滅させられていた可能性が高い事が分かっているため、シャルティアの行動はbestではなかったが、betterではあった点。

 

 さらに至高の御方すら世界級(ワールド)の可能性を除外してしまっていた点。

 

 これらの点からシャルティアの罪は不問に処された。

 

 

 つまりシャルティアは至高の御方に刃を向けたのに事実上罪を許された上に、世界級(ワールド)を発見するのに貢献したとまで言われてしまっているのだ。自身の感情で罰を願うこともできない。

 

 多少、冒険者や情報収集に有用な人材を逃がしてナザリックの存在を露見させようとした点は小言を言われたが、階層守護者に随伴していた裏方のシモベたちが処理をしているため、それ以上の罰則はない。

 

 今は第一階層の自室にて休息を取るようにとお達しである。これが謹慎しろと言う罰則であれば、どれだけよかっただろうかと、そう思ったこともある。

 

 

 だが、今シャルティアが沈んでいるのはその件ではない。

 

 別件なのだ。あるいは、これこそが唯一残られたお方『アインズ・ウール・ゴウン』に敵対してしまった罰なのだろうか?

 

「あら、どうしたのシャルティア。溜息何てついちゃって? 慰めてあげましょうか? さぁ、いらっしゃい?」

 

 今、変なことを言っているのは守護者統括アルベドだ。今日はアルベドの仕事は無くなったため、遊びに来たとのことだ。

 

 このアルベドは本物なのだろうか?

 

 確かに、気配からはアルベドだとは分かる。だとすれば……。

 

(頭のネジが逝かれんしたか)

 

 明らかに普段と違い、この調子なのだ。本来ならシャルティアとアルベドは一触即発……そこまで行かなくとも、どっちが正妃になるかで揉めてケンカしている。

 

 本当はアルベドが来たときはもしかしたら、新たに罰則が下されたのかと少しばかり期待していた。期待外れだったが。

 

 今のアルベドは普段と違い、優しい……と言うよりも気色がわるい。

 

「うふふ。恥ずかしいのかしら? 良い子良い子」

 

「来るなでありんす」

 

 頭を撫でようとしてきたので横からひっぱたいたのは当然である。




次回予告

おっと、ネムちゃんの様子が……!

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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