『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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非常に遅くなってというよりほぼエタってて申し訳ない。

リアルが落ち着いた(落ちついたとは言ってない)ので数年ぶりに今年の初投稿を行います(__)


事案4

 抱きしめていたネムが起き出してアインズは手を放し食事の準備をさせる。途中パンドラズ・アクターが合流する。

 

 昨日と同じようにネムに朝食をご馳走した後は、お別れの時間だ。今は昨日と同じよう美味しそうに食べているのを見ながらアインズは思案する。

 

(……とりあえず、アウラとだけでも先に引き合わせてみよう)

 

 パンドラズ・アクターの作戦の詳細はまだ知らないが、ナザリックの者たちが余り人間を見下していると、作戦を実行するのが難しいらしい。

 

 それに折角なら、アインズも一部の人間たちとは仲良くしたいので、一石二鳥だ。招待するつもりでもあるし。

 

(でもなー。正直、人間たちと仲良くさせるなんて無理じゃないか?)

 

 今までのNPCたちの対応を見ている限り、人間と仲良くするのは難しいのではないだろうか?

 

 セバスを筆頭にした、一部のNPCは可能かもしれないが……所詮は一部。

 

 

(……うーん。難しいところだな。命令すれば、今回のように抑えてくれるだろうけど、根本的な解決にはならないし……強制的に意識改革はしたくないし……でも、な)

 

 アウラに限っては強制ではなく、ナザリックの者たちが人間と仲良くする事か可能かどうかをモモンガが判断するための指針とするための、ちょっとしたテストの感じなので問題はとくにないはずだ。無理そうであれば、すぐに取りやめればいいだけなのだから。問題はもう一つ。

 

(……俺はこの世界に、鈴木悟としてではなく、モモンガとしてやってきた)

 

 モモンガの場合、鈴木悟がいたリアルの世界を経由することなく、ユグドラシルの世界からこの新天地にやってきた。

 

 そして、アインズの願いは友人たちが戻ってきてただのモモンガに戻ること。可能性は低いかもしれないが願うだけなら損はない。それは良い。

 

 しかし、友人たちがこの世界に来てくれるとして、どうやって……どんな姿でこの世界に来ることになるのだろうか?

 

 ユグドラシル時代のアバター姿……つまりモモンガのような姿で来てくれるのだろうか?

 

 それともリアルの人間の姿……鈴木悟と同じただの無力な人間の状態でこの世界に神隠しに遭う可能性もあるのだろうか?

 

 ……もしも後者の考えが現実になった場合……この世界のパワーバランスを考慮すると即座に保護しなければ取り返しのつかない事態、簡単に殺されてしまう危険性がある。現地の生物はナザリックを基準で考えれば弱い。だが、リアル世界の人間の基準で考えれば修羅の国だ。何もしなければ、すぐに死んでしまう可能性が高い。

 

 しかし残念なことにその危険性は、現在のナザリックで保護しても同じことが起きるかもしれない。

 

 今のNPCたちの意識のまま……人間をゴミ屑と認識して見下している状態で、友人たちと再会することができたとしても危険だとアインズは思っている。

 

 人間の敵であるべしと望まれて創造されたNPCたちもいる。邪悪であれと創造されたものたち。食料としか見ていない者たちもいる。友人たちがそうあれと創造したこと、それが悪かったわけではない。むしろこのような状況を想定して設定を考えろとは酷だろう。それに先ほども言ったように、人間への悪感情はアインズが命令すれば強制的に抑えることも可能なのだ。

 

 しかし、創造主が人間としてナザリックに戻って来る……。どんな反応が起きるかが予測できない。それこそ、アインズの命令を無視し、現実逃避の果てに自らの創造主を手にかけようとする存在が出てくる可能性もゼロとアインズには断言できない。

 

 できるほど、NPCたちと時間をまだ共有していないからだ。

 

(……本当に、分からないことだらけだ)

 

 一つだけ分かっているのは、選択肢はできる限り多いほうが良いということだ。そのためどのような行動をすることになるにせよ、人間と仲良くすることが可能な余地は残せるように行動すべきだろう。問題はどうNPCたちを強制ではなく窘めるべきかだが……。

 

 この世界でナザリックをどう世界中に知らしめ、どのような立ち位置に付くにせよ、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していくのが最善……そう認識させるしかない。

 

 ――余談ではあるが、アインズの危惧している事の大半は解決している。ナザリックにおいて人間に対して穏健のNPCたちは、至高の御方々に無礼を働かない、命令がない限り元々問題ない。そして過激である者たち、筆頭であるデミウルゴスについては、ばれたら危険なことはするだろう。だが、ある事実を知っているため、絶対にばれないように行動するので、一部の人間たちとは仲良くすることも可能といえる。

 

 仮にギルドメンバーが人間の状態で神隠しにあったとせよ、ある事実のおかげで衝撃は和らぐだろう。なので特に問題はないのだ。

 

 そしてもう一人の危険物、アルベドに関しては人間を殺そうとするなどの過激な言動は控える。ある事実を知っているがゆえに。まぁ、アルベドの場合その事実を知っているのがごく少数なことを利用して、ある人物に失礼な真似をさせて、誰が妃になるかのライバル(シャルティア)筆頭に止めをさそうとするかもしれないが、その程度のはずだ。その程度で終わるといいな。

 

 よって人間と仲良くするために必要な最小限度の土台はすでにできているのだ。モモンガが気づいていないだけで。後はいかにその土台を大きくしていくかだ。

 

 もっとも、その事実に気付いた時、アインズの前には、新たな問題が生まれているだろう。ナザリック全体を危うくする、最悪の争いが始っていることに。

 

 アインズがナザリックに引きこもる政策をとったことにより、NPCたちは一部を除いて、別のことに時間が割けるようになったのだから。

 

 特にアルベドの本来の業務は減少し、パンドラズ・アクターがその部分を請け負った形で。

 

 そのせいで、アルベドは政務よりも別のこと(妄想など)に時間を割けるのだ。

 

 何より悲惨なのはカルネ村の一部の住人が大きく巻きまれることになるのだ。

 

 そう、誰がアインズの一番に選ばれるかという

 

 正妻戦争に――

 

 

「ではネム。また近いうちに会おう。その時はさっき話したアウラと友達になってやってくれ」

 

「はい、分かりました! 本当に楽しかったです! ありがとうございました、アウラちゃんと会うのも楽しみにしてますね!」

 

「ああ私も楽しみにしている。そういえば、ネムはどこが一番楽しかったかな?」

 

 どこが一番凄かったかなという愚問は聞かない。それは分かり切っていることだ。ネムが見た中で一番美しかったのは玉座の間、それ以外にあるわけがない。尤も、宝物殿も見ていれば、返答は変わったかもしれないが、見ていない以上、言ってもしょうがない事である。

 

「うーん。みた所全てて楽しくて凄かったですけど……玉座の間は楽しかったよりも……うーん。何て言うんだろう……。やっぱり、お風呂が一番楽しかったです! お湯がたくさんあって気持ち良くって! またアインズ様と一緒に入りたいです!」

 

「なるほど……いや引き留めて悪かった。これで今回はさようならだ。これはお土産だ。村の人たちの分もあるから仲良く分けるんだぞ。またネムが良ければ一緒に風呂に入ろうな? パンドラズ・アクター見送ってやれ」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

「畏まりましたアインズ様!! ではネム嬢行きましょう!

 

「はい! パンドラズ・アクターさんもありがとうございました!」

 

 

 アインズはネムを帰す前に、ネムだけではなくエンリや、村長夫人たちにもお土産を持たせて帰らせることにした。友好を拡大するために。

 

 何がいいか、パンドラズ・アクターと相談しながらゆっくり考えて選んだのは食器と飲み物系のピッチャーだ。これがあれば随分水の準備が楽になるだろうと見越してだ。

 

 

 アインズが所持している無限の水差しをまずは手に取り、同系統のアイテムであるジュースを選択した。そして同じように所有している食器をいくつか見つくろう。

 

 

 彼女達だけ凄い物を貰えて、自分達は何ももらえない。他の村人たちからすればいい気持ちはしないだろう。その結果彼女たちが不快な思いをするのはモモンガ()の本意ではない。 

 

 ちょっとした職権乱用ではあるが、アインズはお土産を料理人たちに用意させていた。少しではあるが宴会を開くことも可能だろう。幸か不幸か、村人の人数が減少したこともあるので、この程度の準備で足りるだろう。

 

(服とかはどうするか……。やっぱり俺が選ぶのは無理だな。今度、彼女たちを招いた時に選んでもらうとしようネムの分は適当にデータクリスタルを埋め込んだから大丈夫だろう)

 

 今から楽しみではある。そうしてネムは大きく手を振りながらナザリックを去っていった。また会う約束をして。

 

 そして暫く時間がたちアインズがパンドラズ・アクターが持って来ていた書籍を読みふけっている時、ドアがノックされた。

 

「誰だ?」

 

「アルベドでございます」

 

「入れ」

 

 許可に従い扉が開かれ守護者統括、アルベドが入室してくる。アルベドが目の前にいるのは話す覚悟ができたこともある。アルベドがあいさつしようとするのを途中で止めさせ、本題を切り出す。

 

「……シャルティアはどうだった?」

 

「はい、アインズ様の御恩情に感謝を示しておりました。アインズ様が心配することは一つもないかと」

 

「……そうか」

 

 アルベドが言うのであればそうなのだろう。なので、別の話をすることとしよう。話すことはきまっている。

 

(……いい加減、カルネ村での一件を話しておくとするか……下手に時間を置きすぎるのも時間の問題だろうしな)

 

 時機を見て話すと言ってから暫くたつが、その間アルベドは一切そのことに触れなかった。感謝を込めて、話すべきだろう。

 

 ある程度ぼかすが。さすがにパンドラズ・アクターに話した内容そのまま話すことは出来ないのだから。

 

「さて、アルベドよ。以前お前に待ってほしいと言ったことに関して話そうと思う」

 

「……私のためにお辛い過去と向き合っていただき感謝申し上げます」 

 

 首を横に振る。アルベドに非は無いというために。今まで忘却の彼方にしていた自分が悪いのだから。

 

「さて、前置きを抜きにして単刀直入に言おう。私が生者であったころ……私が幼い時に亡くした母に似た人を見付けてしまった。瓜二つとまではいかない。だが、私に過去の記憶を強く思い出させる程度には似ている人だ……」

 

 

 一度言葉を切る。アルベドの顔を見ると少しだけ驚きの表情に変化している。生者であったということに驚いたのかもしれない。それとも母がいたことにだろうか。若しくは間接的に自分は人間種であったことがあると言っていることにだろうか。

 

 

「そのことがなければ途中であの村を見捨てていたと思う。お前たちを、仲間たちの子どもたちを危険に晒したくないからな。結果としては問題なかった。だが私の一存でお前たちを危険に晒して本当に申し訳ないと思う」

 

 

「そんな、頭をお挙げください!? アインズ様!」

 

 

 

 言い終わると同時に深く頭を下げる。これは謝罪だ。自分は上位者で支配者であるのに危険に晒そうとした、そしてこれからも危険に晒してしまうことに対しての。頭を下げながら言葉を続ける。

 

 

「アルベド、恐らくだが私は彼女を見捨てる真似はできない。別人だとは分かってる。だが割り切れないのだ。沈静化があっても無理だった。故にだ、これから先もこのナザリックを危険に晒してしまうかもしれない。私は自分の事を、ナザリックの支配者失格だと思ってる。だからお前が私を弾劾するのであれば、潔くこの座をお前に譲ろう。いや、押し付けるのか……こんな支配者でお前たちは満足できるのか? 私はそれが不安なんだ」

 

 頭は上げない。パンドラズ・アクターからは大丈夫だと言われているがそれでも自分自身本当に許されるのか疑問であるし、直視できないのだ。自分の罪に。ナザリックを危険に晒してしまった事に。これから先危険に晒してしまうことに。

 

「これはモモンガになる前の私の残滓に過ぎない衝動だ。だがこの衝動は捨てれない。この衝動を捨てるということは、友人たちとの出会いを、お前たちも間接的に蔑むことになってしまうからだ」

 

 言いたい事は言い切った。後はアルベドの言葉を待つのみである。気分は断頭台に頭を載せているようだ。

 

「……アインズ様、いえモモンガ様のお母様ですか。私にとってその御方も守り抜く必要がありますね。私の愛するアインズ様をお生みくださった方なのですから……」

 

 

 

 また一つ罪を思い出す。アルベドの一言に罪悪感を感じる。愛すると書き換えてしまった事がここにも響くのかと。痛いほどの静粛が戻る。アルベドが何を考えているのかが分からないのが沈静化が起きないほどの恐怖を生み出す。

 

 

「まず失礼を承知しながら申し上げます。我々を御方々の子どもと見ていただけることは感謝いたします。ですが、その事でモモンガ様のご負担になっているのなら私は娘でなくて構いません。そして弾劾する? なぜ弾劾しなければならないのですか!?」

 

 

 

 最初は淡々としていた。しかしいつしか悲鳴になりながらアルベドは叫んだ。生の感情で。その感情の強さに思わず驚いてしまった。

 

 

「我々は慈悲深い支配者であるモモンガ様に感謝しております! どうぞこのまま支配者であり続けてください! そして我々にどうかカルネ村を守るようにとご命令ください!誰もがその命令に従うでしょう! 私は絶対従います!」

 

 モモンガはアルベドを真正面から見ることができずに下がらせてしまった。嬉しいと感じながらどこか釈然としないものを感じながら。

 

☆ ☆ ☆

 

 

「……どこかで見たことがある気がしたが」

 

 アルベドと会話している間、ほんの少しではあるがアインズは違和感を感じていた。なんと表現すればいいか分からないが。誰かに似ている気がした。尤も、誰かは判別できなかったが。

 

(……タブラさんかな?)

 

 それに思い至り、納得した。親は子に似るものだと。

 

 アルベドと別れた後、アインズは現在心理学に関する書籍を読みふけっていた。アインズは一応子どもを預かった立場と言えるため、少々親の立場を学びたかったのだ。今の自分では不安だからである。童貞であるし。

 

「子育てにはコミュニケーションが非常に大切である、か」

 

 アインズがパンドラズ・アクターに頼んで図書館から借りてきた書籍は多岐に亘る。経済学関連の書籍や経営学関連、心理学に関係する者である。現在読んでいる書籍は心理学に関連した子育てに関する本だ。

 

「……コミュニケーションが足りなければ、精神面の成長に悪影響が出る可能性が高い、か」

 

 その記述を見ながら鈴木悟の精神は自身の内面のことを考える。

 

 ……恐らく自分は、精神面に悪影響が出て大人になってしまったのだろう、と。だからこそ、ユグドラシル以外に興味が持てずに、友達ができなかった理由と言える。

 

 食べ物を金持ちの道楽と考え、切り捨てていたのは明らかに、精神面の悪影響がもろに出た結果なのだろう。

 

 ユグドラシルを始めたことは、後悔無いと断言できるし、食事を浮かせたおかげでその分課金は出来たのでまぁいいかと流せる程度だが。

 

 それに一つの結論として、あの地獄で……リアルでまともに成長できた人間は特権階級を除けば、ほぼ存在しないと思える。さらに言えば、モモンガは小学校を卒業できただけ、十分に恵まれていたのだ。全ては亡き母のおかげである。寂しく辛かったが。いや違う風化していたのだ。母の死から目を逸らし続けていたのだと思う。だがら今の自分があるのだ。

 

 さらに本を読みながら、ナザリックの主であるアインズ、モモンガとしてではなく、人間である鈴木悟として考えてしまう。

 

 もしも、母が生きていたら自分はどんな生活を送っていたのかと。

 

 あの日、母が倒れていなければ、母が作ってくれていた好物だったものを嬉しそうに食べていたのだろう。普通に学校に行き、卒業して家計の手助けをしていたのであろう。

 

 それに恐らくではあるが、今の自分にとっての全てである、ユグドラシルをプレイしておらず、母と二人で幸せに暮らしていた可能性の方が高いのだろう。もしかしたらリアルで彼女ができて童貞を卒業していたかもしれない。仮にユグドラシルを始めていても、課金はほとんどしていなかっただろうし、今のアンデッドのロールプレイをしていたとも断言できない。

 

 つまり、大切な仲間たちとも出会えなかった可能性もある。

 

(……ああ。そういえば、ウルベルトさんも同じかもしれないな)

 

 友人の一人であるウルベルトも自身の同じように家族を失っている。彼にはリアル世界への体制に対する恨みが骨身にまであったように感じる。ありていに言えば自分の可能性の一つだ。

 仮に彼の両親が生きていた場合、彼もまた別の人生を歩みユグドラシルで出会えなかった可能性もある。お互いに家族を亡くしたことで出会うことができた。それを思うと複雑である。喜べばいいのか嘆けばいいのか分からないほどに。

 

 話が脱線した。……仮に母が生きていても今と同じようなロールプレイで同じくらい課金をしていたとしよう。

 

 その場合、このゲームの世界が現実になるという、現在進行形で味わっている異常事態に巻き込まれていた場合、自分はきっとNPCやナザリックの全てを犠牲にしてでもリアルへの帰還を――

 

「――有り得ないIFを考える必要はないな」

 

 思考が変な方向に向かっていた。もしも沈静化が発動しなければ、絶対に考えてはならない事をアインズは考えていただろう。

 

「今の私はナザリックの主である、アインズ・ウール・ゴウンだ……一歩引いたとしても、モモンガでしかないはずだ。過去の残滓(鈴木悟)に引きずられすぎる訳にはいかない」

 

 だが完全に切り捨てることもできない。鈴木悟の全てを切り捨てることは同時に、友人たちとの出会い、NPCである子どもたちまでも蔑むことにもなってしまうのだ。

 

 しかし同時に思う。アンデッドになった影響は確実に出ていると。人が死んでいるのを見ても、恐怖を全く感じなかった。

 

 セバスがあの場にいなければ、在りし日を思い出して行動することも無かっただろう。だが、それは人間を救いたかったわけではなかった。 

 

 もしかしたら、何れ完全にアンデッドの精神に飲み込まれ、友人たちが知れば怒るようなこともしでかしかねないのかもしれない。

 

 それに鈴木悟も狂ってはいたのだろう。心理学の本を読んでから切に思う。

 

「さて、ではまずはどう行動しようか?」

 

 危険な思考を振り払うように独り言を呟き、思考をまとめる。現在護衛の者達は外に追い出しているため、主人が狂ったと思われる事もないだろう。

 

 まずはネムと約束したとおりアウラと引き合わせ……ナザリックの者達が外部の者達と友好を構築する事ができるか確認すべきだ。その過程でNPCたちとコミュニケーションをとろう。後はネムとコミュニケーションを取って不思議な感覚のことを理解しなければならないと切に思う。それが分かれば何かの答えが出る気がするのだ。

 

「予定通り、アウラと会うとしよう。マーレはアウラの後だな。シャルティアは……ぺロロンチーノさんの子どもで幼く見えるが、子ども(未成年)と言っていいのか? 分からんな……後に回そう」

 

 それにシャルティアは、ナザリック一の変態であるペロロンチーノのフェチズムがこれでもかと詰め込まれた存在だ。子どもの遊び場に放り込むのは多少躊躇いを覚えた。だからアウラだけで正解なはずだ早速メッセージを飛ばす。

 

『アウラ、聞こえているか?』

 

 少しだけ間を置いた後アウラに元気よく明るい声が返事として帰ってくる。

 

『……はい! 聞こえております、アインズ様! どうなされましたか?』

 

 

 

『すまんが、少し聞きたい事と話したい事がある。今アウラがしている仕事を一旦中止して、執務室に来てくれないか?』

 

 

 

『畏まりました! すぐに参ります!』

 

 

 

 その言葉を最後にメッセージの交信が切れる。後はアウラが来るのを本を詠みながら待つだけだ。それにしても不思議に思う。なぜナザリックに教育関連の書籍が置いてあったのだろうか?

 

 

 

「……多分、やまいこさんが知らない間に置いていたんだろうな。なら経済学とかは教授かな?」

 

 

 外にいるメイドたちにメッセージでアウラが来ることを伝え、在りし日を思い浮かべながら、アインズは目を瞑った。未来のことを考えながら。

 

 

 

 

★ ★ ★

 

 

 

 アインズからメッセージの魔法が届いた時、アウラは部下に命令を出していた時だった。その者達に、主からの命令でこの場を一旦ナザリックに戻ると告げて、足早にナザリックに戻った。アインズに命令された以上少しでも早く、アインズの元に向かうのはNPCの使命である。そしてもう執務室は目の前にある。

 

 

 

「お話は伺っております。アインズ様がお部屋で御待ちでございます。中にはアインズ様以外おられませんので、そのまま御進みください」

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 アインズお付きの護衛の者に返事して、ドアをノックする。それにしても中に護衛の者すらいないとは何があったのだろうか?

 

 

「……入れ」

 

 

 

「アインズ様、お呼びに従い参りました!」

 

 

 

「よく来たな……では初めに聞きたいのだが、作業の効率は順調か?」

 

 

 

 瞬時に自分が預かっている仕事の進捗率を思い出す。なお、無意識の内に声を出していた事にアウラは気付いていなかった。それをモモンガがほっこりとした気分で眺めていたことにも気づかなかった。

 

 

「はい、今のところ順調に進んでいます」

 

 

「なら問題ないな、アウラの働きに感謝する。ご苦労だった」

 

 

 何と優しいことなのだろう。ただ命令に従っただけなのにここまで厚遇してもらえるのは嬉しい事である。

 

「苦労だなんて! 私はアインズ様の御命令に従っただけです」

 

 

 

「そんな事は無いぞ、アウラ。これは私がお前に思っている率直な気持ちだ」

 

 

 今まで執務室に座っていたアインズが立ち上がり、アウラに近づく。アインズ様がアウラを見下ろす形になったと思ったら次の瞬間頭を撫でられていた。

 

 

「あ、アインズ様?」

 

 頭を撫でられる。嬉しい事である。思考がアルベドやシャルティアほどではないが思考がピンク色になる程度に。

 

 

「私はな、アウラ。ぶくぶく茶釜さんに感謝すべきだと思っている」

 

 

 

「感謝、ですか?」

 

 

 

「そう、感謝だ……少し昔話をしよう。聞いてくれるか?」

 

 

 

 即座に頷く。自分は恵まれている。アインズから頭を撫でられ続けられながら、ナザリックにいる者のほとんどが知らないアインズ……モモンガの昔話を聞けるのだから。

 

 

 

「ありがとう。私は昔、誰にも必要とされていなかった時代があった。誰にも見向きもされない、あの時本当に絶望していたよ……たっちさんに救われなかったら間違いなく自殺していたと思う」

 

「……えっ?」

 

 自殺していた? 表情が固まり顔が青白くなる。それが本当だとしたら……恐怖を感じる。もしたっち・みー様がお救いにならなければどうなっていたか……。

 

「たっちさんのおかげで俺は茶釜さんたちにも出会えた……本当に感謝している。お前たちのようなかわいい子どもたちを残してくれて」

 

 ぶくぶく茶釜様の子どもと呼ばれ心が湧きたつ。だから次の言葉で固まる。

 

「だから俺は自分を恥じている、今の俺は本当にナザリックの支配者に相応しいのかと」

 

 堪らず叫んでしまう。この場に相応しくない音量で。顔が青くなっていたことも頭を撫でられ続けていることも忘れて。

 

「相応しいに決まってます! アインズ様は唯一残られた至高の御方なんですから!?」

 

「……ありがとう。だがそうだな、今考えている事がある。ナザリックの者は命令ではなく人間と仲良くすることができると思うか?」

 

 質問の意味が良く分からないが少しだけ考える。きっと重要なことなのだろう。そして結論は出ている。

 

「人間と仲良くするのは命令でなければ多くのNPCは難しいかと……私も命令であれば従えますが、自発的となると難しいかと。プレイアデスのリーダーである彼女は別ですが……」

 

「そうか……実は今考えていることに人間と仲良くすることが有用なのだ……まず一人からだが何れは多くの者と交流を持ちたいと考えている」

 

「なぜ、人間たちと仲良くする必要があるんですか?」

 

 下等生物と仲良くする。何か壮大なことを考えているとは思う。しかし不思議だ。人間と仲良くすることのメリットをアウラは感じない。だからそう聞いてしまう。

 

「ああ、色々あるんだが……そうだな実はな少々恥ずかしい話だが、たっちさんたちに会う前の俺の恩人に似た人を見つけてな……何れその人をこちらに招待しようと思っている。だから命令ではなくお前たちが自発的に人間と仲良くできるか試してみたくてな。実験に付き合ってくれるか? アウラ?」

 

 

 答えは勿論決まってる。恩人という言葉が少し気になるが、命令でないにしても望まれている以上それを為すことが階層守護者の役割だろう。

 

「分かりました! どこまでできるか分からないですが頑張ってみます!」

 

「ありがとうアウラ、徐々にマーレやシャルティアもな……本当にありがとう」

 

 頭を撫でられて気持ちが良かった。この時間が永遠に続けばいいと思いながらアウラは仕事に戻った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 アルベドはモモンガとの会話で少しだけ苛立っていた。いや苛立つというよりも自分達が重しになっていることに気付き自分自身に怒りを感じていた。

 

 気配を真似る余裕はないと今更ながら気づいた。

 

 

(早急にナザリック全体で、カルネ村と交流できる機会を作らないといけないわね。それと同時に業腹ではあるけれど、早めにモモンガ様のお母様の件はナザリック全体に周知しないと……重しになり続けるわね)

 

 少しだけ顔が曇ってしまった。だがモモンガを守るために思考は止めない。私情は一旦、捨てよう。ギリギリまでと考えていたが早めに知らせるしかない。そうして我々が受け入れる姿を見せなければ重しになり続けてしまう。だが、どう伝えるべきか……ここはパンドラズ・アクターに頼るとしよう。彼なら絶妙のタイミングで伝えられるようにするであろうから。私の場合嫉妬心でタイミングを読み間違えかねないから。

 

 




次話は今回よりも早く投下します許してm(__)m

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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