『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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事案7

「気を付けてねネム!」

 

 その言葉がネムに届いたかは分からない。あまりにもアルベドという方に、急ぎで連れて行かれたからだ。その速さに少しだけ目を丸くしてしまった。なぜそこまで急ぐのだろうと悩む。分からないが重大な理由があるのだろうと思うことにした。

 

 そして、村長夫妻が村の救世主の家にゆっくりと出かけるのを見送る。

 

 エンリの隣には恋人になったンフィーレアがいた。一度街に帰ると思っていたのだが、冒険者たちだけ帰して、そのまま帰らずにこの村で過ごしてくれているのだ。……恋人として。一緒にネムの見送りにも参加してくれていたのである。

 

「大丈夫だよ、エンリ。ネムちゃんにはちゃんと、言葉は届いたと思うから」

 

 今までは仲の良い友人に過ぎなかったが、ここにきてンフィーレアは急激に大人びてきたようにエンリは思う。自分から見てとても逞しくなったのだ。頬を少し赤らめてしまうぐらいに。

 

 ゲートが消えてネムや村長夫妻が完全に見えなくなってから、エンリはンフィーレアにしなだれかかる。恋人になってから急激に距離は近づいたと思う。羞恥心はあるがそれ以上に自分が生きている、ンフィーレアがちゃんと生きているのを確認したいのだ。少し依存してしまってるかもしれないが……妹がいない間だけは、怖がりな少女になっても許されるだろう。天国の両親も許してくれるはずである。

 

「お二人さんはいつも通りお熱いな?」

 

「茶化さないで下さい、ブレインさん」

 

 そこにいるのはパンドラズ・アクターが連れてきた、一人の人間であった。首に首輪しているから、ちょっとだけ特殊な人かと思ったが話していると普通である。首輪も強くなるスピードが速くなるからしているだけらしい。

 

 悪い人ではないと分かっている。村に馴染むようにに努力してくれているとも思う。最初ゴブリンさんたちが彼のことを警戒していた。何かあったら自分達ではどうしようもないほどの強敵であると教えてくれて。だが私から見ても彼は求道者に見える。ただ刀に命を捧げているような……。そんな人物である。多少村人以外が来るのを警戒する村人もいたがそんなブレインを見ていると誰も何も言わずに、苦笑するようになっていった。

 

「悪い悪い。ただその感情を大事にしろよ。お前はその感情で、あの時立ちあがることができたんだから」

 

「もちろんです」

 

 何かあったのだろうか少しだけ不安げな表情をしてしまう。もう誰も身近な人を失いたくないのだ。多分、今ンフィーレアを失えばエンリは立ちあがることができなくなってしまうだろうから。

 

「大丈夫だよ、エンリ。僕はずっと傍にいるから」

 

 思わずちょっとどころではなく赤面してしまう。近くにいた村人やジュゲムさんたちにもからかわれる始末である。一人ブレインだけが真顔であった……。

 

「……恋か。やっぱり俺には無縁だな。別の何かを探さないとな……仲間か? いや、それもしっくりこないな……まぁいい徐々に見つけて行けばいい。自分が譲ることができない何かを」

 

 何を言っているか聞き取れなかったが、少しだけ寂しげにつぶやいているのが印象に残った。そしてブレインはふと今までのことに興味を無くしたような表情になる。

 

「じゃあ俺は修行に戻る」

 

 そう言うと、ブレインは村外れに移動した。そこには森の賢王が一緒にいる。二人は常に一緒で訓練をしているようだ。特にブレインの訓練風景はすさまじい。少しだけ見学させてもらった村人たちも何をしているかが見えなかったと呟くぐらいに。

 

 自分も一度だけ見学させてもらった。何より凄いのは、ブレインは森の賢王の攻撃を一つも喰らわずすべて受け流しているのだ。まるでこの程度の攻撃では意味がないと言わんばかりに……。そしてそれを見た森の賢王がより素早く攻撃をするが、それさえも防ぎ続ける。まるでそれ以上の攻撃を見た事があるかのように。とにかく彼は凄かった。そんなブレインにも私たちのような春が来ることを心のどこかで願いながら仕事に戻る。

 

「じゃあ、私も仕事に戻るねンフィー」 

 

「分かった、また後でねエンリ」

 

 そうしていつもの日課作業にエンリは戻っていった……ンフィーレアは薬草を作ったり、時々ブレインの訓練にゴブリンさん達と一緒に交ざっている様である。怪我をしないといいなとエンリは思った。

 

★ ★ ★

 

 今日もまた、ネム・エモットはナザリックに招待されている。今回も姉が一緒に来ないのでンフィーレアに取られたようにも感じるが、その分これだけ幻想的な光景をもう一度眺めることができたと思えば感謝である。悪戯心でンフィーレアを脅かしてあげようかなと思ってしまうが。

 また、前回と違うのはアルベドという方が迎えに来て、ほとんど家族と会話する時間が与えられないほど、急ぎであったからだろうか? ギリギリで村長さん達に挨拶ができたぐらいである。お姉ちゃんに手を振っていたけど届いたか心配である。届いたと信じよう。

 

 もう一点、前回と違う点がある。アウラちゃんという人と友達になるためだ。そのため年齢が違うとの理由で、今回も姉は一緒にナザリックを訪れていない。多分ンフィーレアといちゃいちゃしているのだろう。姉の心を盗んでいったンフィーレアに対して後で何かいたずらしようと心に固く誓っていた。大事なことなので2回言ったのである。

 

 次回があれば今度こそ姉と一緒にこの場所を訪れたいなと思いながら。

 

「付いてきなさい」

 

 アルベドは急ぎ足であるが何とか付いて行けるスピードであるところを見ると、ちゃんとネムのことを見てくれているのだろう。だがここはどこなのだろう?

 

 ナザリックという至高の屋敷に招かれたはずであるが、ここは外、森の中である。不思議に思ってしまう。

 

「付いたわ。ちょっと待ってなさい。アウラ! 連れてきたわよ!」

 

 その言葉に触発されたのか大きな声が聞こえてきた。

 

「ちょっと待ってて、開けるから」

 

「私は用事があるから、戻るから後はお願いねアウラ。ネム・エモットあなたは少しここで待ってなさい」

 

「はーい」 

 

 そしてその少しだけ一人になる時間を使って周囲を観察する。森の中である。まごうこと無き森の中である。そんな中目立つものがある。

 

 とてつもなく巨大な樹である。そこから声が聞こえた気もするので、多分この中にアウラがいるのだろう。そして1分ほどたった後だろうか、大きな樹が一部分扉のように開かれる。

 

 出てきたのは自分同い年ぐらいの少女?だった。服装が男性っぽく見えるが女の子と仰られていたから、女の子なのだろう。 

 

 とても美しい少女である。髪の毛は周囲の光を反射し、幻想的な美を引き立てているように感じる。耳は長くとがっていて自分とは違うようである。お話で聞くようなエルフなのかもしれない。特に目の色が片目づつ異なるのは印象に残る。おそらく彼女がアウラなのだろう。

 

 そして、どちらもどう話すか悩んで……アウラも緊張しているようなのでネムから先に声をかけた。

 

「えっと、初めまして! アウラ様?私、ネム・エモットです」

 

「……初めまして、私はアウラ・ベラ・フィオーラよ。特別にアウラで敬称はいらないわ」

 

 嬉しい。一応敬称を使ったが仲良くなれるなら、敬称を付けずにしゃべったほうが良いと思うからだ。友達に様付けは何か違う気がする。

 

「ありがとうアウラちゃん! ここは森の中だけど、ナザリックの外なの?」

 

「いいえ、違うわ。ここはナザリックの第6階層でアインズ様たちが作られた一部よ」

 

 一瞬呆けてしまった。自然を作ることが可能なんて嘘を言っていると以前のネムならそう疑ったかもしれないが、今のネムはアインズ達の凄さを実感している。そのため真実なのだろう。思わず感嘆の言葉が流れ出た。

 

 

「……凄い! 地下にこんな凄い森を作るなんて、やっぱりアインズ様たちってすごいんだね!」

 

「当然よ! いいわ特別にこのナザリックの話をしてあげる。よりナザリックの偉大さがわかる様に話してあげる、入ってきなさい」

 

 そして私を樹の家の中に招き入れてくれてから話が始まった。それはまるでおとぎ話のような神話の話であった。

 

「まずナザリックの成立からね。昔、昔のこの地に至高の41人が現れたの」

 

 ワクワクとネムは自分の目がキラキラしているだろうと自覚している。そして41人。ネムは疑問に思った事を、アウラに尋ねていた。

 

「その41人……アインズ様を除くから40人がアインズ様のお友達の方?」

 

「そうよ! ……それと、ナザリックは元々ここまで大きくなかったの、アインズ様たちの強大な力を以て、その力に相応しいように整えられたのが今のナザリックなの! ここまで分かった?」

 

 こくりと頷く。まるで自分がその話の登場人物になったかのようなアウラの話に吸い込まれていた。その場にいるかのように、目で見ているように、その時の情景が思い浮かぶ。アウラの話し方が上手だからだろうか。

 

「次に至高の方々はこの場所に存在する者たちを創造されたの。それが私たち階層守護者であるNPCのことよ! 階層守護者以外にもたくさんのNPCがいるんだけどね」

 

「なるほど! アウラちゃんも至高の41人の娘なんだね?」

 

 アインズの言うとおりなら、友人の子どもたちなのだろう。間違いない。

 

「えっ? ぶくぶく茶釜様が私の母親? ううん。私は創造されたNPCでシモベだよ」

 

「そうなの? 前アインズ様がカルネ村にユリさんを連れてきて自分の姪のような存在だって言ってたから。姪ってことは創造主?様の娘みたいなものでしょう? ユリさんもアウラちゃんと同じでNPC何でしょ?」

 

「ふっふーんそうなんだ。私、アインズ様から見るとぶくぶく茶釜様の娘なんだ」

 

 顔がにやけないようにしいようとしているが、にやけているアウラを見ているとこっちも嬉しい気持ちになる。不思議だ。

 

「えっと、どこまで話したかな。そうそう至高の御方々は何度も冒険に出られ、膨大な財宝が宝物殿に集められてるの。至高の御方々でさえ入手するのが困難だったアイテムもあるのよ」

 

 もしかしてアインズ様が手に持っているような美しいアイテムだろうか?

 

「それってもしかしてアインズ様が持っている、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンみたいなアイテム?」

 

「あの杖も見たの!? ……そう確かにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンはナザリックにおいても最高峰の一つよ。それ以上のアイテムなんて数えるほどしかない」

 

 やっぱりあの杖は素晴らしい物なのだ。アインズが喜びながら自分に見せて来るわけである。

 

「でも、そんな至高の御方々に対して嫉妬する愚か者たちも出てくるの」

 

 ごくりと息を呑む。アウラの表情が怒りに代わっているからだ。何があったのだろうか?

 

「至高の御方41人に嫉妬した者たちが、同じような強大な力を持った1500人からなる軍勢でこのナザリックを攻めてきたの、集めた宝を奪うために」

 

 それに驚く。人の者を奪おうとするなんて許せない。まるで、自分達の村を襲った、騎士たちのように感じる。ここの財宝と村人の命だと比べ物にならないと思うが、それでも自分たちのことみたいに怒りを感じる。

 

「大切な物を奪おうとするなんて、ヒドイ!」

 

「そうだよね! 激戦だった、でもその1500人をアインズ様たちは打倒して見せたの! 凄いでしょ? どうすこしはアインズ様の偉大さに感銘を受けたかしら」

 

「もちろん! 今までも尊敬していたけどこれからはもっと尊敬する!」

 

★ ★ ★

 

 

 話しているうちにこの娘は純粋であり、本当にアインズ様や他方々を尊敬しているとの気持ちが理解できた。そうなると必然的にアウラの対応も甘くなる。元より、カルネ村の住人とは仲良くするつもりだったが、ここまでナザリックのことを褒められると、おしゃべりが単なる話が長続きする程度には長引く。

 

 そこで別の話題を振ってみた村長夫人はどんな人かと。

 

「うーん……何て言えばいいのかな? 包み込んでくれるような人かな。とっても優しくてネムもお姉ちゃんも街の人みんなが尊敬している人だと思う……あとやっぱり村全体のお母さんって感じかな」

 

 包み込んでくれて尊敬されている……本当の御母堂様もそんな方だったのだろうか……似ているのは間違いないのだろう。でなければ公表はしないはずなのだから。会ってみたい。どんな人か自身の目で確かめたいとアウラは思った。

 

 だが、今はこの娘の相手をするのが私に与えられた役目である。その役目を放棄する訳にはいかない。命令ではなく、至高なる主のお願いなのだから。

 

「以前、ナザリックの9階層に泊ったらしいけど、どうだった? 素晴らしかったでしょう?」

 

「もちろんすごかったよ!! ナザリックに滞在させて頂いた時は、雑貨店や料理、円卓。あと、玉座の間にも案内してもらったんだよ! 本当に凄いところだよね。私って本当に幸福だと思うの! こんな凄いところ訪れる機会を何度も与えてもらってるんだから」

 

「その通りね、アインズ様の偉大さ、寛容さに強く感謝することね! 本当にナザリックは素晴らしいところだわ。住んでいる私たちから見ても素晴らしいところだってわかるもの」

 

 思わず胸を張って同意をしてしまう。何となくではあるが、至高の御方が、この少女を気に入ったのも合点が行った。ここまで明け透けなく裏表なくナザリックを褒められるのは嬉しい。特に自分の主のことを尊敬した態度を見せてくれている点も気に入った。

 

 だがアウラ自身気になっている点もある。村長の奥様がどんな人なのかが、少し気になっているという気持ちである。ずっとその気持ちが頭の中に残っているのだ。アインズが疑似的に親孝行?をするのであれば、私たちは彼女に対して一体どんな態度を取るべきかが分からないからだ。だから聞いてみたのだ。だがそんな情報が吹き飛ぶ情報がネム・エモットから飛んできた。

 

「あと、スパリゾートも楽しかった!! モモンガ様と一緒に入浴させて頂いたけど、あそこが一番楽しかった気がする」

 

 その言葉にアウラに雷が落ちたように驚愕を露にする。恐らくアルベドやシャルティアが望んでいることをこの少女は既に成し遂げているのだ。

 

「えっ!? 一緒にお風呂に入ったの!?」

 

 だが自分自身も嫉妬した心を完全に抑えることは出来ない。至高の御方と一緒にお風呂に入る。多くのNPCが望むことであろう。私自身入ってみたいかと言われれば、多分入って見たくなるだろう。妃になれるかどうかは別にして仲良くなりたいと思っているのだから。アインズ様と。

 

「……もしかして、アウラちゃんも、アインズ様と一緒にお風呂に入りたいの?」

 

 沈黙で返す。入りたいというのは何だか羞恥心が込み上げてくるし、入りたくないと言えば嘘と失礼になるからだ。

 

「アインズ様は優しいからお願いすればきっと一緒に入ってくれるよ! だって私と一緒に入ってくれるぐらいお優しいんだから!! 姪っ子さんのお願いならきっと答えてくれると思うよ!」

 

「そうかもしれない……いや、そうだろうけどさぁ。恥ずかしい……あっそうだ。ならネムも含めて3人で入ろう。そうすれば私も少しは羞恥心が薄れると思うから。どう?」

 

「……私も、もう一度お風呂に入りたいからいいよ!」

 

 羞恥心はあった。だがお優しいあの方に少しでも近づきたいとの気持ちもあったので承諾した。ネム・エモットが一緒に入るのは多少気に入らないが、まぁいい。それに今回のアウラの役割はネムと仲良くなることだからこれでいいはずである。それに二人きりよりも無垢な子がいたほうがこっちもお風呂に入りやすいはずだ。

 

 そして二人はナザリック6階層を経由して村長夫妻がいるであろう9階層に来ていた。途中第七階層を経由しなければならなかったので、ネムが炎熱に耐えられるか不安であったが、アインズからもらったアイテムで装備を整えるほど気に入っているのだ。当然のように服は炎熱耐性が施されており、第七階層をキラキラした目で観察しながら至高の御方がおられる場所まで歩いた。

 

 メイドたちに聞くとこの部屋でアルベドを交えて談笑しているらしい。そこの扉をノックして二人で入室する。

 

★ ★ ★

 

 

 メイドたちやアルベド、アウラたちが泣き止むまで暫くの時間が掛かった。全員が落ち着くまでに30分ぐらいかかっただろうか。アインズが慰めていくことで全員が表情を改めて、何かを決意しているように見えるのは気のせいであろうか?

 

 恐らくではあるが、村長夫人と何かを話したことで何かが変わったのだろう。それが何かは分からないが、家族という部分で泣いた以上、悪い方向ではないのだろう。何よりいい方向であれば良いとアインズは願う。

 

 アウラは楽し気に、そして嬉し気に村長夫人の膝に腰を下ろしている。やはり子どもだから母性……母親に飢えているのかもしれないと感じる。母親代わりになってくれる人はいないものだろうか。村長夫人に頼めたら最高だが……さすがに無理がありすぎるだろう。

 

 仲良くなったネムがそれまた楽しそうに、村長夫妻の間に腰かけていながら、アウラと近くにいる。仲良くなれたかの結果は聞かなくても分かっているが一応聞いてみる。

 

「それで、アウラはネムと仲良くなることができたかな?」

 

「はい! ネムとはいい友達になることができました!」

 

 それなら良かった。これならマーレやシャルティアと引き合わせる価値も出てくるだろう。それに今のメイドたちの感じを見るに極一部の人間を食料にせざるを得ない者たちを除けば、全NPCが仲良くなることは可能であろう。一部の者たちをどうするかが問題であるが……何れパンドラズ・アクターと相談して決めよう。

 

 だがこれでようやく、少しではあるが、仮に友人たちが人間として転移してきたとしても多少は、安心できるようになった。後は村長夫妻やネムを利用して、もっとナザリック全体が人間と馴染むことができるように全力を出そう。

 

 そう考えていると、アウラが少しだけ恥ずかし気にしながら、自分に問いかけてきた。少し恥ずかし気な気がする。

 

「アインズ様、お願いしたい事があるんですが……」

 

「何だ? 言ってみると言い。私ができることなら叶えてあげよう」

 

 そう言った後、少し俯く。そして顔を上げる。また恥ずかし気に俯く。それが何度か繰り返された後、遂に意を決したようにアウラは村長夫人に頭を撫でられながら、言葉を発した。

 

「私も、アインズ様と一緒にお風呂に入りたいです!」

 

 一緒にお風呂に入りたい。その言葉に空気が凍ったような気がする。隣からは驚愕の表情をしているアルベドの素顔が……そして同じように驚愕をしている村長夫妻が……。

 

(……あれ、村長夫人はそこまで驚いていない?)

 

 何故驚いていないのか。その答えは村長夫人の次の言葉で氷解した。

 

「アウラちゃんは、アインズさんと一緒にお風呂に入りたいんだね。アインズさん、親代わりなら一緒に入ってあげるべきかもしれませんよ」

 

「アインズ様! それなら、私も! アルベドもご一緒したいと思います! 私もタブラ・スマラグディナ様の娘です! ご一緒しても問題ないかと!」

 

「……いや、アルベドは大人じゃん。私は子どもだもん。だから一緒に入っても問題ないだろうけど、アルベドは問題でしょ? 大人なんだから? ねっアインズ様!」

 

 アウラの言うとおりである……確かにアウラは子どもだからまだ一緒にお風呂に入ることは許されるかもしれないが、アルベドはどう考えてもアウトであろう。ただアウラもアウトな気がする。だが何故、村長夫人はアウラを応援するのだろうか不思議である。

 

 そしてアルベドの顔が凄いことになっている。まるで顔芸を披露してる様に感じだ。

 

「アインズ様! 私もアウラちゃんとも一緒にお風呂に入りたいです!」

 

「私もネムと一緒にアインズ様とお風呂に入りたいです」

 

 ……なんだがやばい気がするのは気のせいだろうか……村長夫人の顔が一気に変わったような気がするのは、気のせいだと信じたい。気のせいだと言ってほしい。

 

「アウラちゃんは、何でネムも一緒にお風呂に入りたいの?」

 

 頼むネム。お願いだから前回の事件については触れないでくれ。いや、大丈夫なはずだ。そこに触れるとネム自身もおもらししたということで傷を負うことになるはずだから。

 

「えっと、一人だとやっぱり、アインズ様と一緒にお風呂に入るのが恥ずかしいというか……友達も一緒なら恥かしくないかなって」

 

「……そうね。なら仕方ないわね。アインズさん、信じてますからね?」

 

 何故だろう。一緒にお風呂に入るのが既定路線になっているような気がする。だがここから回避して見せよう。でないと最悪ロリコンの二つ名を持つことになりそうだ。

 

 その二つ名はペロロンチーノ限定のはずだ。

 

 

「いえ、アウラが望んでるのも分かりますが、やはり男の私が一緒にお風呂に入るのは問題かと思います、緊急時ならまだしも。それこそ、アウラやネムそれにアルベドを含めて奥様が一緒にお風呂に入られるのがいいと思います。その場合私は村長と一緒にお風呂に入れますし」

 

 途中を、ネムに視線を送りながらどうやら気づいてくれたようです。顔が神妙になっている。また今の言葉からか、横から必死の形相をしたアルベドが援護してくる。

 

「アインズ様の言うとおりでございます! ぜひ一緒に入浴いたしましょう! 僭越ながらこのアルベドが奥様の背中を流させて頂きますっ!」

 

「アルベドさんありがとうございます。ただ私は村に住んでいたので入浴したことが無いんです、できるだけ綺麗にはしていますが、今回は遠慮させて頂きます、やはり子どもたちの願いを叶えることの方が大事だと思うから」

 

 ガーン! という擬音がアルベドから聞こえてきそうだ。アインズもアルベドが敗北したことは痛い。もう逃れるすべはないだろう。アウラが恥ずかしながらもその気で村長夫人が応援している以上、大勢は決した。諦めた。

 

 

「……はぁ。仕方ない。アウラ、ネム、今から一緒に入浴しに行くぞ」

 

「「はい!」」

 

 2人の子どもの声が重なる。一人は純真さゆえに本当に喜びだけを、もう一人は嬉しさと多少の恥ずかしさが混じった声であった。

 

 2人を立つように促し、扉の前に立ちながら泣き崩れているようなアルベドを見る。本当に無念そうである。骸骨と入浴することがそんなに嬉しいか疑問ではあるが、アルベドは愛しているからなのだろうか? それとも別の理由だろうか。

 

 とりあえず、村長夫妻の相手は入浴の間アルベドに任せよう。

 

「では、村長、奥様私たちは一旦入浴してきます。万事アルベドに任せるのでどうかごゆっくりとお過ごしください」

 

 アルベドの何かにすがるような視線は努めて無視しながら。

 

 

 

★ ★ ★

 

 アルベドは打ちひしがれていた。

 

 まずい。まずい。まずい。

 

 このままではアウラが一緒にアインズ様と一緒にお風呂に入ってしまう。何とか止めなければならない。だが一番の味方になってほしい方はアウラの援護をしているように感じる……。恐らくアウラが一番家族に近いと感じているからだろう。一緒にお風呂に入る事で家族になれると思ってるのかも知れない。

 

 それは私自身も同意する。アウラやマーレは子どもであるからこそ、支配者と被支配者の壁を壊しやすいのは。だが認める訳にはいかない。

 

 それでは自分が一番になれない……どうすればいいのかが分からない。

 

 そしてアウラやネムの意見に押されてアインズは一緒にお風呂に入るために、既にこの場を後にしている。何とかしなければならない。

 

「アルベドさん」

 

「……何でしょう奥様」

 

 少しだけ不機嫌な言葉で答えてしまう。それがまずいと分かっているが、どうしてもアウラの味方をされて敵意を持ってしまう。なぜ自分の味方をしてくれないのかと。まぁ最初に失礼な真似をしたからだろうと自分でも思っているが。

 

「あなたは、アインズさんと結婚したいんでしょう? アウラちゃんの一緒にお風呂に入るのは親が子どもに求めているような物でした。あなたがそこまで心配する必要は無いのでは?」

 

「……いいえ、きっとアウラは大きくなれば妃になる事を願うと思います」

 

「大きくなればそうなるかもしれませんが……今は小さい子どもですよ? ネムもご一緒していますし、心配に思うことは無いのでは?」

 

 それはそうかもしれないが。だが私以外でアウラがモモンガ様の裸を先に見るということが納得できないのだ。タブラ・スマラグディナがなぜ私をロリの姿で作らなかったのか……怒りを感じてしまう。

 

「いえ、きっとアインズ様の偉大さに触れれば今すぐ結婚してほしいと言い出すものがいるかもしれません。それに我々はアインズ様の後継者を欲しているのですから」

 

「それは、今すぐ必要なことなんですか? ……私には貴方いえ、あなた達が焦りすぎているような気がして仕方ありません」

 

「わたしが、私が一番になりたいんです!!」

 

 確かに焦っているかもしれない。モモンガがこの地を置いていくことはない。ならばゆっくりと仲良くなる方法が一番だと理性は言っている。しかし本能は自分以外の女と一緒にお風呂に入るなんて許せないと拒絶している。

 

 ちょっと待て……。今何か、いい方法がなかっただろうか?

 

 少し情報を整理しよう。アウラと私は同じようにモモンガから見れば、同じ至高の御方の子どもと認識していることである。ここまでは一緒である。

 

 違うのは私が大人のサキュバスの姿で創造されたのとアウラが子どもの闇妖精(ダークエルフ)として創造された点である……。

 

 ならば私も小さくなれば、アインズ様と一緒にお風呂に入ることができるのではないだろうか?

 

 その事実に気づいた時、体中に電流が走った。

 

「奥様、村長様、急用ができましたので一旦失礼いたします! 上手くいけば! 私も一緒にお風呂に入れるかもしれません! 後はパンドラズ・アクターに任せようと思います。では失礼いたします!?」

 

 そう言い放つと暫くの間メイドたちに任せるとして、即座に立ちあがり部屋を出る。そして白亜の宮殿を全力で走り回る。なお村長夫人が最後に「……精神年齢が幼いのかしら……小さい子どものようにも見える」等と言っていたが当然聞こえなかった。

 

 いない。いない。いない。パンドラズ・アクターはどこにいる。早く見つけなければ手遅れになってしまう。アウラに先を越されることになってしまう。どこだどこにいる。見つけた。

 

「パンドラズ・アクター!! 今すぐ私を幼女の姿にしなさい!!!!」

 

 叫びながら首元を絞めてしまう。少し苦しそうにしているのに気が付き何とか手を放すが、勢いは変わらない。

他にもメイドたちがたくさんいて驚いているが気にしている余裕はない。

 

「あー守護者統括殿? なぜ幼女になりたいので?」

 

「決まってるわ! 小さければアインズ様と一緒にお風呂に入って洗いっこができるからよ!!」

 

「――はっ? いや、今何と?」

 

「だから今アウラとカルネ村の小娘が一緒にお風呂に入ることになってるのよ! 小さいという理由だけで! だから今すぐ私を幼女にしなさい!!」

 

 沈黙が下りる。周りが「もしかしてアインズ様はロリコン」とか何か言っているがアルベドの耳には入らない。

 

「小さくなられるのでしたら、確かアイテムの中で一時的にミニマムの職業を取ったかのように小さくなれる指輪があったかと」

 

「今すぐそれを私に貸しなさい!!……それと村長夫妻の対応を任せたわ!!」

 

 押し問答を続けた結果、最終的にアルベドは勝利して。小さくなれる指輪を入手した。これで私も一緒にお風呂に入る権利をてにいれた。

 

「くふふ、アインズ様、今からアルベドいえロリペドがお傍に参ります!」

 

おまけ

 

 なおこの事によりナザリックでは小さくなるのがブームになったかもしれない。小さければ合法的に洗いっこできると知ったメイドたちによって。




たっち・みー「NPCたちは不安よな、たっち・みー動きます」

次話で一気にロリコンへの階段をモモンガ様は上ってしまうのか!? ご期待ください! 次話投稿日は07月21日19時19分です

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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