なお、そのエピソードはweb版から元ネタ設定を輸入して、多少改変しております。ご了承ください。
アインズの混乱した思考は、鎮静化により強制的に冷静な思考状態に戻された……もっとも、普段の自分に戻ったところで、こんな状況経験した事が無いため、誤差の範囲かもしれないが。
(さて、この状況をどうするか)
村人たちは何かを叫びながら土下座を続ける。これからどうすれば良いかを考えながら、アインズは声をかける。最低でも、村人たちから情報を収集できる程度には、自分を受け入れてもらう必要がある。
「立ち上がってください皆さん」
アインズの言葉に全員が即座に立ち上がるのは、アインズを恐れているからだろう……それは諦めた。情報を収集するためにも誤解を解く必要はあるが。
「私は本当に貴方達を、殺そうとは思ってはいません。確かに一般のアンデッドは死を撒き散らす者かもしれませんが私は別です。もし本当に殺すつもりなら貴方達は既に死んでいるはずです。部下が貴方達を殺そうとするのも止めません」
これでも、自分が普通のアンデッドではないと納得しないか? ……少し観察してみたところ、どうやら村人たちは混乱しながらも少しずつ信じはじめたように見える。
不安の色はまだ消えていないが。そんな中一人の村人が意を決したように一歩前に進み出る。村人の中心的人物にみえるのだから、おそらく村長だろう。彼が代表して質問をしてくる。
「では、なぜ助けて頂けたのでしょうか?」
村人が自分に対して疑問をぶつけた事に、アルベドは怒りを表すが手で止める。疑問を投げかける事すら、怒りを表すのは問題じゃないかと考えて……改善の必要があると心のメモ帳に記入しながら。
「先程も述べましたが、見過ごせなかったのと……そうですね理由を挙げるなら二つです」
「何で……しょうか?」
村長の不安が透けて見える。やはり自分が彼らを殺すつもりだと考えているのだろうか? いい加減、自分が彼らを殺そうとしていないことぐらいは納得してもらいたいが。
「私はこの辺りのアンデッドではないので、この辺の常識を知らないのです。長い間ナザリックという場所に引きこもっていたので……そのため情報が欲しいのです。私にとっての常識が貴方達にとって非常識な場合もある。丁度、今のようにね。なので貴方達の常識を助けた報酬として教えて頂きたい」
村人たちの顔色から少し緊張が薄れ、理解の色が浮かぶ。人間は無報酬で助けられるのを恐れる。無料よりも怖いと言う物はないからだ。例えば、ユグドラシル。基本料無料と謳われているゲームに一体どれ程の金額をつぎ込んだだろう? 後悔は一つもないが。
「それと……これは個人的な事ですが、純粋に人助けをしたいと思ったからです」
村人が驚愕の色を浮かべる。アンデッドが生命を憎むと言うのが常識なのだから……その存在が純粋に人を助けたいと言った事は驚愕を浮かべるしかないだろう。少し自分の常識に当てはめて考える。たっち・みーが『悪』に括り、ウルべルトが『正義』に括っている状況を想定するのが妥当だろうか? ありえない光景に一瞬沈静化が発動する。
(……うん。何か、納得できた。自分にとっての常識外の行動を取られたら怖い)
アンデッドは人の命を奪う存在。確実に裏があると疑われて当然なのだ。
自分だって先程の、たっち・みーとウルベルトの主義主張の入れ替わりが現実になったら、間違いなく気絶したはずだ。だってありえない光景だから。もっともアンデッドになった今では気絶もできないだろうが。
だからこそ打算を述べて安心させて、正直な気持ちを述べる事で信頼を勝ち取るべきだ。顔が割れていなければ、別の方法もあったが、もう遅い。さすがに全員の記憶を魔法で書き換えるのは無理だろうし。何れ、実験を行うべきかもしれないが、今じゃない。
「……昔。本当に昔、私もある人に助けられた事があるんです。その人の事が頭に浮かんでしまってね……いてもたってもいられなかったんです。私は彼に憧れているのです」
感情を抑えきれずに笑ってしまう。そうだ。あれが、あったからこそ自分は救われたのだ。
村人たちからすると骸骨が笑うのは少し怖いのだろうが、機嫌が良くなったのは分かるのだろう。安堵の表情が浮かぶ。
これはアインズが気付かなかったことであるが、アインズの顔は何かを成し遂げる事が、願いをかなえる事ができたようなニンゲンのものに村人達は見えた。一瞬の事だったので村人達も錯覚かと感じたが、なぜか一瞬の出来事を忘れる事ができなかった。
「それでは、常識の話をする前に、向こうで助けた少女二人を連れてくるので少し待っていてください」
そこまで話をして歩き出す。何も命令はしていないが、アルベド達も追従する。はっきり言ってナザリックの主として失格と思われている可能性もある。成果を上げるしかない。
(……しかし、先程逃がした騎士たちはどうするか? それとネムにも少し話を聞かないとな……なぜ常識外の判断をしたのか…魔法を使って記憶を覗いてみるか? いや、折角気分が良いんだ。止めておこう。それに、「困っている人がいたら助けるのが当然」か、たっちさん。私はあなたに近づけたでしょうか?)
考えながら最初に救った少女たちへ歩いていく。――アインズの背中は……輝いていた……アインズの一瞬の笑顔をみたアルベドは黙って付いていく。彼女の頭の中ではアインズの一瞬の笑顔が繰り返し再生されていた。それほどまでに魅了されていたのだ。それ程美しい物だったのだ――
★ ★ ★
エンリは一体何が起きているのか理解できなかった。
先程の方は生命を憎むアンデッドなのになぜ私達を助けてくれたのか。
なぜネムは、助けてくれたと信じられたのか。自らの疑問に従いエンリは妹に問いたいが、近くにアインズが召喚した狼が存在する。疑うようなことを聞いても大丈夫か少し不安になる。もしかしたら、アインズに知られるかもしれないのだから。とはいえ、聞かない訳にもいかないので意を決して質問する。
「ネム、なんでアインズ様が私たちを助けに来てくれたと分かったの?」
ネムは少し首を傾げながら答えようとする……そんなに疑問なのだろうか? 一応、アンデッドが生命を憎む存在と言うのは常識なはずだ。知らなかったとしても恐れると思うのだが?
「……私も聞きたいな。ネム」
どきりとしてしまう……恐る恐る振り返るとそこには、助けてくれた方がいた。タイミングがいいのは気のせいだろうか? やはり何かの魔法で聞いてから移動したのだろうか? 疑問が募る。いや疑っている訳ではないのだが……単純に間が悪いのだろう。
「アインズ様!」
ネムが元気よく立ち上がりお礼を言っている。アインズがネムを止めている。先程の質問振りでは、自分が感じていた物とほぼ同じ疑問を感じていたようだが……言い方は悪いが、アンデッドと同じ思考なのは何か変じゃないだろうか?
やはり、自分が可笑しいのだろうか?
「あぁ、君が私に感謝してくれているのはよく理解できる。だからこそ聞きたいのだ……先程村人達から聞いたがこの辺の常識ではアンデッドは死を撒き散らす存在らしいな? なのになぜネムは私が助けに来たと理解できたのだ? はっきり言ってこの見た目だ。今更だが、怖がられるのが当然だと私も思うが?」
ネムが首を傾げる……ネムは怖いもの知らずなのかもしれない。こんな場面でなければ素直に感心できたかもしれないが、ふとした拍子にアインズ達を怒らせそうで不安だ。
特に、素顔が見えない鎧の人を。というより、先程武器を振りかざした時、アインズが止めていなければきっと自分達は死んでいた。そこまで思ってはたと気づく。
(……あれ、もしかしてネムの行動って正しいの?)
鎧の人――胸に膨らみがあるから女性だろう――はアインズに従っている。でも、彼女は私たちが嫌いに見えた。だったら、アインズと仲良くしていれば、彼女に殺される事はないんじゃないだろうか? ……そうこう考えていると、最善の手段を取っていると思われるネムが理由を話していた。
「? だってアインズ様私たちを殺そうとした
……確かによく思い出すとそうだ。そう言っていた。ネムがお礼を言った時には助けに来たと明言していた。気づけなかった自分が恥ずかしい。
(……私の方が年上なのに)
妹の方が冷静だった。姉として助けると誓ったのに状況の判断も出来ていない。自分は何をしているんだろう。少し自虐してしまう。
「確かにそのとおりだ。しかし、だからこそ気になる。先ほども言ったがアンデッドは死を撒き散らすのが常識なのだろう? 怖くなかったのか?」
「えっと……最初門から出てきた時と、そこの騎士さんが、出てきた時は怖かったです」
「なるほど」
助けてくれた骸骨が相槌を打ちながら続きを待つ。まるで人間のように。もし最初から体や顔を隠されていたら、人間と勘違いしていただろう。
それとも、生前は人間だったのだろうか? それにしては、アンデッドが人間に恐れられているのを知らない様子が不思議だが。
「その……助けに来てくれたって思うと何も怖くなかったんです。アインズ様は優しい方と理解できたんです……
ネムが泣き出す。その時の恐怖を思い出したのだろう。アインズが召喚した狼? がネムを心配そうに見上げているようにも見えた。
……ネムの言うとおりだ。悪魔はあいつらだ。私達から、平穏を奪っていった。気づけば私の目からも、涙が溢れていた。理不尽を強いた世界に対して。
「……すまない、つらい事を聞いたな」
アインズがネムの頭を撫でる。そしてネムが少し泣きやむと……泣いた跡を拭いてネムを優しく立たせている。何故だろう、鎧の人の視線が強くなった気がした。怖い。
「さて、そろそろ村人たちの方向に向かうか。君たちの両親が生き延びているかの確認もしなくてはな」
それに現状を思い出す。自分達は人間に襲われたのだ。今目の前にいる人たちは、助けてくれた人たちなのだ。必死に繰り返して恐怖を振り払う。
「では、行こうか」
全員が歩き出して村に向かう。エンリはアインズに謝罪する。今までの失礼な態度を。これ以上失礼な態度を取らないために。
「助けて頂いたのに、失礼ばかりして申し訳ありません!」
「気にするな、君は常識に従っただけだ」
確かに常識に従った結果だ……しかし常識とは良い事なのだろうか? 騎士に襲われる結果になったのは、常識に従っていたからではないだろうか? 草原には今のエンリの心を表すかのようにヒュウヒュウと風が吹いていた。
(両親が生き延びていますように)
アインズが来るまで生きていれば、助かっている可能性はある。もっとも自分でもありえないと考えてしまったが……
★ ★ ★
(それにしても、子どもとは偉大だな……常識に囚われず、私が助けに来たのを理解するのだから。もしかして、やまいこさんが学校の先生をしていたのも、子どもの純粋さが好きだったからかもしれないな)
アインズはリアルで学校の教師をしていた仲間の事を思い出す。何故か分からないがこの村を訪れてから、仲間を思い出すことが多くなった。ついで、仲間の軍師の行動を思い出しながら、今後どうするべきかを考える。
(さっきの騎士は見逃していいだろう。常識から考えればアンデッドが人を助けたとは思えないだろう。彼らが「アンデッドが人を助けたんだ!」と言ってもバカにされるだけだろう。その分村の人達とも話を合わせないとな……)
打ち合せを考えながら村人達と合流する。
「では村長、話を伺っていいだろうか? 他の村人たちは、他にする事があるだろう?」
「おお、ありがとうございます!」
「一つだけ皆さんに頼みがあります。この村を助けたのはアンデッドではなく――」
片手を上げて構わないと返事をしながら、嫉妬する者たちのマスクを取出して顔に付ける。なぜ自分はこれを装備してしまったのか迷いながら。まぁたくさんあるんだ、これを選んでも仕方がない。
「仮面を付けた
村長たちはその言葉にアンデッドに助けられたと言えば、他の人達から差別される可能性を理解したのだろう。彼らは自らの意志ではないが、世の中の常識から外れたのだから。
「……分かりました。決して誰にも言いません。しかし騎士達は」
「あなたたちの言葉通りなら、アンデッドは死を撒き散らす者なのでしょう? あなた達が助けた人は仮面をしていたと言えば、恐怖で錯乱したんだろうと、バカにされますよ。丁度恐怖の
「……分かりました。ただこれだけは言わせてください。我々を助けてくれた方に数々のご無礼をして申し訳ありませんでした。村を助けて頂き感謝いたします!」「「本当にありがとうございます!」」
村長が頭を下げる。それに続くように遅れて村人全員が頭を下げながら感謝を言ってくる。
アインズは少し瞠目した。この世界に来る前にこれほど純粋な感謝をされた事はない。それもこの人数にだ。少し気恥ずかしいが、それ以上に胸が熱くなり嬉しい思いが駆けあがる。
そしてその余韻を楽しむように、先程まではしていないことを実行する。自分が助けた人がどんな人達か知りたいのだ。村人たち全員を眺める。最初に目についたのはやはりネムだった。何となく自分でもそうなるのではないかと予想はついていた。続いてエンリ。先程とは打って変わり、彼女も心底自分に感謝してくれている。
それだけではない。ほかの村人たちも同じだ。この場にいる村人全員が同じようだ。自分に感謝をしてくれている彼らの顔を記憶に残そうとしている時に……村長に隠れてよく見えなかった人物を見つける。その瞬間アンデッドの体に電流が走り、瞬時に沈静化が起こり続ける。
沈静化が何度も起こり、起きなくなってからは思考が停止して、ただただ、呆然と立ち尽くす。一点を眺め続けながら。
アインズは可笑しな状況に巻き込まれて、未知の世界にいるのは自分だけではない可能性を信じていた。そう、自分以外にもアインズ・ウール・ゴウンのメンバーもいるのではないかと、予測はしていた。仲間たちが同じように巻き込まれていて、もう二度と会えないはずの仲間たちに会える可能性に希望すら抱いていた。
だからこそ、『アインズ・ウール・ゴウン』の名を自分が背負い、世界中に自分の名前が轟けば再会の可能性も高まると思い改名を実行したのだ。
何度も言うが、仮想世界が現実になった以上、どんな不思議なことだって起きてもおかしくない。アインズだって、そう考えてできる限り慎重に行動したつもりだ――すぐに失敗したが――
だが、この出来事は予測すらしていなかった。
自分の視界の前には、少し暗そうで静かな雰囲気を漂わせている女性がいる。
リアルでは生き抜くのに必死で、少しずつ記憶に浮かぶ顔は摩耗した。だとしても絶対に彼女の存在は忘れない。
(…………かあ、さん?)
そう、自分を生んで、育ててくれた母だ。アインズ……いや、鈴木悟の前には、亡くなったはずの母がいた。仲間と再会するため、ナザリックのために『アインズ・ウール・ゴウン』の名を背負うと誓ったはずだ。なのに強制的に鈴木悟に戻されていた。母を見たせいで。
(…………いや、違う。似ているだけの、別人だ)
そうだ。母がいる訳がない。母は自分が子供の頃に亡くなっているのだ。いるはずがない。そもそも、自分は別世界に来ているのだ。いていいはずがない。
それによく見れば、母と顔立ちが異なる事も理解できる。それでも間違えてしまう程度には面影がある。二度と見ることが叶わないはずの母が目の前にいるのだ。
別人だと分かっていても、仮面越しで彼女の姿をずっと眺めてしまう。目を離せない。離したくない。
そしていつの間にか、周りが不審に思い出す程度には眺め続けたのだろう。
「如何なされましたか、アインズ様?」
アルベドが兜越しに自分を眺めていた。正気に戻される。自分はここに情報を収集するためにいるのだ。思考を停止して固まっている訳には行かないのだ。
村人たちも少し困惑しているようにも見える。これ以上、黙っているのは不味いだろう。
(……冷静になれ、アインズ。ぷにっと萌えさんの言葉を思い出せ)
冷静な論理思考こそ必要。視野を広く考えに囚われず、回転させるべき。要約すればこうだったはずだ。後はもう一度実践するだけだ。それにアルベドが完全に味方かも確定していない現状で、これ以上弱みを見せるべきではないのだ。
「いや、何でもない」
できる限り威厳を出したつもりで、会話を続けさせないようにする。アルベドとこれ以上話すのは危険だ。自分が襤褸を出す可能性が非常に高い。時間を置くべきだ。
それに、村人たちとの話を進めるべきだ。いつまでも彼女達に頭を下げさせているわけにはいかないだから。
「頭を上げてください。私は自分のためにあなた方を助けただけです……感謝されるようなことじゃない」
「……それは承知しています。ですが我々は死しかない未来をあなた様に覆していただいたのです。ありがとうございます。アインズ・ウール・ゴウン様のおかげで多くの村人が生き延びる事ができました!」
「「アインズ・ウール・ゴウン様、ありがとうございます!」」「アインズ様、ありがとうございます!」
先程の少女達も一緒に唱和している。仲間達に置いて行かれて生まれていた心の澱みに、光が差し込んだように。ようやく気付いた……村人達を助ける事で、自分は救われていたのだ。
何よりも、母に似た人を救えた。それで十分であるし……一番嬉しいかもしれない。やはりあの時行動したのは正しかった。そして、仲間への感謝を。
(たっちさん……また、あなたに助けられました)
あの時、あの場所にいたのがセバスで無ければ、きっとこの村を見捨てていた。今のように幸せな気持ちに包まれることもなかっただろう。
「……受け取りましょう。あなた達の感謝を……頭を上げてください。……そうですね村長。常識の話をする前にまずは村人の生き残りを探しましょう。アルベド、我々も手伝うぞ」
「アインズ様!?」
少し驚愕したようにアルベドが叫ぶ。止めようとしたのかもしれないが、その言葉は出来る事はなかった。なぜなら、アルベドには涙を流せないアインズが泣いているように見えたからだ。
「みなさん急ぎましょう。今なら救える人がいるかもしれない」
「「「ありがとうございます」」」
「では、生きている人を助けに行くぞアルベド……」
全員が行動を開始した……ある者は友人を救うために。ある者はだれかを救い、自分がより救われるために。ある者は疑問を頭に過ぎらせながら、命令に従うために。
★ ★ ★ 本日の守護者統括
アルベドはアインズに従い続けていた。そんな中、アルベドでさえ。いや、NPCの誰もが見たことない笑顔をアインズは見せた……アルベドはその笑顔にただただ見惚れた。
(美しかったわ……ただ、私に対して見せて頂けた訳ではない事だけが口惜しいわ)
それを思うと、アインズの美しすぎる笑顔を向けられた人間達に嫉妬する。しかし、それだけでもない。
(アインズ様があんな笑顔もなされる事を教えてくれた事だけは、感謝してあげるわ……せいぜい、アインズ様のお役にたちなさい……それがあなた達のできる事なのですから)
だからこそ、苛立たしくなる気持ちを抑えて、人間を助けているのだから……それにおそらくだが、モモンガは人間が嫌いじゃない。むしろ、好きなのかもしれない。この村でアインズが人間に見せた優しさを見れば理解できる。
だが、確証がない。アインズは我々より頭が良いのだ。本当に情報を得るために演技をしているだけなのかもしれないのだ。
仮に、アインズが人間を好きというのであれば……私も愛そう。愛する人が愛するなら。むろん例外はあるが。筆頭はモモンガを除いた至高の40人だ。どのような理由であれ、あいつらはモモンガや自分たちを捨てたのだから。
とはいえ、たっち・みーがモモンガを救ったのであれば、多少標的を選ぶ必要もあるかもしれないが……モモンガとあいつらの詳しい関係を探ってみるべきかもしれない。
そして、もう一つの例外がアインズに擦り寄る泥棒猫だ。筆頭はシャルティアだ。そして、アインズに救われたあの小娘だ。
(あの小娘、アインズ様がいくらお優しいからって、ベタベタベタベタ)
アインズに抱き着いて、涙を拭いてもらう。自分だってしてもらったことなんてない。はっきり言えば羨ましすぎる。だが、自分の勝ちだ。アルベドは胸をおさわりされているのだ。それもモモンガが望んで、だ。緊急事態でなければ、玉座の間で破瓜していたのだ。
その事を思い出すと下着が濡れてくる。鎧から漏れ出さないか心配でもあるし、今すぐにでも慰めてほしい。それが駄目なら、あの笑顔で愛していると耳元で囁いてほしい。このまま、想像だけで逝けそうだ。
…………大きく深呼吸して発情した思考を頭の隅に追いやる。
今のモモンガは少し浮かれているようにも見える。それ自体は嬉しい。だから、自分が冷静でいて情報を多く得る。危険を見逃さないようにすべきだ。
仮面をしてからのモモンガは何かが可笑しい。
村人を眺めている時、アインズは驚愕したかのように止まっていた。さらに、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが手から滑り落ちて、手で何かを捕まえるように伸びようとしていた。ただ事ではない。
何よりアインズに声をかけたが、最初の2回は声が届いていないようだった。顔を覗き込んで話しかけた3度目にして、ようやく反応が返ってきたのだ。
そして、今は人間を助けている。おそらく、アインズだけが感じた何かがあったのだろう。
アルベドはそれが何かを考えながら、アインズの手伝いに従事し続けた。
なお。アルベドは気づいていないが、多くの村人はアルベドを恐れていた。あれだけの殺気をまき散らしたのだから当然である。――この事が、アインズの妻の座を競う上でアルベドの足を引っ張ることになる事を、アルベドはまだ知らなかった――
読んで頂き、ありがとうございます!
まず、今作品はwebの設定から村長夫人が悟様のお母様に似ている点を拝借しました。そして、webよりも似ている点を改変させていただきました。
少しでもクオリティーを上げるため頑張りますので、お待ちください!
感想お待ちしております。
クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?
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クリスマス
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クリスマスイブ